Facebookに、サンダルの底がチビて滑りやすくなった件を書いたら、思いの外反応が良かったので、ここに掲載します。技術屋さんでも意外に知らない人が多い「摩擦」の話です。

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ソールがスリックタイヤ状態になったサンダル。濡れたところを歩くと、急速排水できないため過剰間隙水圧が上昇して滑動崩落を引き起こしそうになるので、アマゾンで新しいサンダルを注文しました。

ソールの溝は、引っ掛かりではなくて、急速排水設備です。これによって固体と固体の摩擦が得られます。スリックタイヤ状態だと、固体と液体の摩擦なので、ほとんどフリクションレスになります。谷埋め盛り土の滑動崩落はこの原理です。だから対策は急速排水設備(過剰間隙水圧消散工)ということになります。

ツルツルソールは、乾いているところと接触すれば、接触面積が広くなりますからむしろ摩擦力が大きくなります。レーシングカーが好天のときには溝のないスリックタイヤにしていたのはそのためです(現在はスリックタイヤはルール上使えなくなっていると思いますが)。雨が降ってくると、接地面積が少なくなっても急速排水するための溝があれば、固体接触が確保できるので、溝つきレインタイヤを使います。
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この原理は、レーシングカーだけでなく、靴の底の溝でも使われています。タイヤももちろんです。この溝形状が摩擦力を効果的に得るために重要です。この原理を十分咀嚼して理解できれば、斜面崩壊や地すべり対策で、力とお金に物を言わせた抑止工を選択するのが少し恥ずかしくなります。

(斜面崩壊予防対策や地すべり滑動予防対策では、(過剰)間隙水圧消散工が主工法で、抑止工が補助工法となるのが正しい考え方ですが、間隙水圧がどのように作用するのかわかりにくかったので、計算書がすっきりでき、会計検査に通りやすい抑止工が1990年以降重宝されていました。バブル崩壊以降の日本経済の「失われた10年・20年・30年」と重なるのがなんとも感慨深いです)

私は森林土木で技術士を取得したときに、森林部門技術士会のアンケートに「左手の小指で地すべりを止められるような技術者になる」と書いた記憶があります。利き手でない左手の、さらに一番力の弱い小指でも、最重要点をおさえれば地すべりだって止められる、と考えていたからです。これが固体接触を確保する話であり、過剰間隙水圧を消散する工法の話です。

ミドリ安全のハイグリップという靴は、濡れたところでも滑らないのが売りですが、靴底の固体と床の固体の間に水が入らないようにするという工夫で「滑りにくい」ことを実現しています。
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固体接触が強い摩擦力を発揮しますが、砂の粒子の角同志が接触する点接触と、ベターっと接触する面接触の摩擦の違いは重要です。排水補強パイプの土と鋼管の摩擦力は、実験によって得られていますが、それは最も摩擦力が小さい「点接触」の摩擦換算式です。時間が経過すると、それが面接触に替っていきますので、強い摩擦に変化します。

東海道新幹線で、昭和40年頃から施工されていますが、盛り土のほぼ全区間に鋼製排水補強パイプが施工されています。そしてほとんど(というか私は1件も知らない)崩壊が起きていないことは、この工法がとても効果が高いことを示している何よりの証拠です。

また、水圧消散については、単純に「地下水位が下がるから滑らない」という話ではありません。高速道路の法面に排水補強パイプを打ったところに水位計を設置して観測された報告がありますが、豪雨時には地表面まで地下水位が上昇しています。それでも崩れないのです。地表面まで上昇した「静水圧」では崩れないのです。びっくりしましたか? 土質の教科書に書かれている話は正しくないのです。