1700年ほど前の古墳の調査に関わりました。私は基本的にこういった歴史的なものや寺社仏閣に関するものにはほとんど興味がない(今を生きるのに精いっぱいなので)のですが、古墳の上の土に関しては興味が持てました。

前方後円墳などの墳墓は、造ったときにはその表面は葺石(ふきいし)で覆われているのだそうです。ところが、いま古墳を見にいっても、このような葺石は見られません。上に土が載っているからです。
ふきいし4

これまでの一般的な地質屋の解釈では、どこかから来た土砂が覆った、ということになり、しばしば水害で運ばれたと解釈しますが、円墳には土砂の供給元がないので、なんかいな?という感じでした。よく災害の話をするのに、「遺跡って発掘するでしょ。それはね、運ばれてきた土砂で覆われているからだよ」と災害のイメージを説明していましたが、風成層のことは頭にありませんでした。

でも、古墳の葺石は、完璧なキーベッド(鍵層)です。時代も構造もはっきりしていて、侵食もほとんどされません。そして一番高い位置にあるので土砂の供給源がありません。土は「飛んでくる」しかないのです。風成層の存在を説明するのに最上級の証拠ですね。

風成層については、『日本の土』(山野井徹著)を読んで衝撃を受け、『土 地球最後のナゾ〜100億人を養う土壌を求めて〜 』(藤井一至著)で、ハッキリわかりました。風成層が全てを覆いつくすんですね。

群馬大の早川先生(火山の先生)は、風成層の研究をされていて、堆積速度を出されています。ローム層は風成層です。火山灰ではありません(火山灰が混じる場合ももちろんあるでしょうけど)。

日本に広く分布するローム層の特徴とその成因 (早川1995)
堆積速度:0.1〜1mm/y(10〜100cm/ky)
たいせきそくど3

私が調査した古墳も土で覆われていましたが、土層強度検査棒限界貫入深度試験を行うと、70〜80cmで石に当たりました。広い範囲で当たるので、おそらく葺石でしょう。

800mm/1700年=0.47mm/yなので、早川先生の研究から出ている堆積速度と矛盾しません。風成層で間違いなさそうです。年間0.5mm程度の堆積速度は、ホコリが溜まる程度のイメージなので、いわゆる一般常識でも受け入れられます。それが2000年近く経つと、1mの土になるわけですね。凄いもんだ!
ふうせいそう7

最終氷期以降の1万年なら、5mの風成層が溜まる勘定になります。それほどの風成層がないのは、途中で崩れるからでしょう。c=10kN/m2、φ=30゜程度のごく普通の風成層起源の表層土砂層は、数100年に1度ある記録的豪雨時に発生する過剰間隙水圧によって、φ起源の抵抗力を失いますから、粘着力cから崩壊せずに耐えられる深度が計算できます。斜面の傾斜角が30度くらいなら、1.5mより厚い表層土砂層は崩壊してしまいます。崖崩れの統計値とも矛盾がありません。

ほうかいしん5

風成層はレスとも呼ばれています。2013年10月11日の台風26号による雨で伊豆大島で土石流災害が起きましたが、そのあと「レス」の用語をよく聞くようになりました。地質では、レスのことを、氷河の削りカスが風で飛ばされてできた風成層などと習ったような記憶があります。でも、氷河が関わらなくても、風成層です。関東ローム層などもレスなわけですね。黒ボクは、風成層+人間(古代人)活動(野焼き)の痕跡です。

当然のこととして風成層をつくる塵は、古墳の上にだけ降るわけではなく、日本中、世界中に降ります。日本中の表層土砂は風成層と言っても過言ではありません。紹介した本にもそのように書かれていました。昨年の今頃、土木学会の委員会で山野井さんに話題提供を頼んだのですが、丁度コロナが始まったところだったので、延期中です。

山の土が同じような風成層だとしたら、当然強度も似通ったものになります。

実際、土層強度検査棒ベーン強度試験でc・φを計測してみると、結構似た値が出てきます。基盤岩が違っても、表層土砂層の強度はあまり変わらないんだなぁと思っていましたが、実はそうではなく、同じ風成層を計測していたからのようでした。コロンブスの卵ですね。

地質の世界でも土質の世界でも、地域が異なると土質材料が異なるから強度も異なる、というのは無批判に受け入れられていますが、表層土砂層はそうではないことが多いようです。

実は現代の人工地盤、盛土も、大地震時の滑動崩落の再現をしてみると、材料が違っても最適土質パラメータに大きな違いはありませんでした。盛土材その物の強度は多少異なるのでしょうけど、境界部の強度に大した違いはないようでした。そのおかげで、全国の変動予測ができるようになりました。

ちょっと視点を変えてみる、ということはとても重要ですね。