2021年7月3日午前に起きた熱海市伊豆山から発生した土石流災害は、昼間であったこととスマホ時代だったことから、土石流が市街地を襲うという衝撃的な映像がネット上に流れました。2011年の東日本大震災のときに、津波映像が沢山撮影されたのと同じですね。

熱海市の土石流は、残土処分場の盛り土が崩壊したのが原因ではないか、と7月4日現在ではネット上で言われています。映像を見る限り、その可能性が高いと思います。「崩壊誘起土石流」ですね。一番多いタイプです。
ぱいぷ53
2021年7月3日の崩壊の源頭部、崩壊面から大量に湧出するパイプ流(?だと思うけど、破断した暗渠管の可能性もあります。以前箱根の現場でそういうのを見たことがあります)

ぱいぷ54
平成30年西日本豪雨での神戸市篠原台の崩壊(ここは古いほぼ放棄された造成地)

すずらんだい58
平成30年西日本豪雨での神戸市鈴蘭台高校裏の崩壊の瞬間、間欠的に水が吹き出して崩壊(撮影者と交渉して動画の使用権を取得)

らうす59
2017年北海道羅臼での崩壊、何度も間欠的に水を吹き出して崩壊(何度も何度も水が噴き出して崩壊した。自然の真の目的は地中水の排水であって、崩壊はその副次的現象かもしれない)

崩れた盛り土は、産廃処分場と書かれていましたが、近くのメガソーラー現場への工事用道路のようでもあります。そのうちはっきりするでしょう。
 
とはいえ、人工物であろうと自然物であろうと、土が崩壊する理由は同じです。

本質的な問題は、地すべり等防止法に記されている「土地の一部が地下水等に起因してすべる現象」から派生した解析方法、すなわち「水圧として静水圧しか考えない」にあると、私は考えています。そこで技術者の思考が止まっています。もっと現象を見て、実測して、自ら計算して確かめなきゃ。

地すべり等防止法(定義)
第二条 この法律において「地すべり」とは、土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴つて移動する現象をいう。

この文言は法律の文言で、ぼやっと書いてあるので全く問題ないのですが、そこから派生した公共事業の斜面対策業務において解析方法で考慮されるのは静水圧のみです。崩壊時にいくら水柱が立とうが、土が高い位置の木に付着していようが、なにがあろうが静水圧=地下水位のみです。決してそこから発展させません。

しかし、今回の熱海市の崩壊にしても、平成30年の西日本豪雨にしても、崩壊直後の映像や、崩壊の瞬間の映像が撮れています。そしてそれらは、下記の1996年の論文に書かれている通り、地中のパイプ流がその排水能力を上回ったときには斜面の不安定化の要因となる、ということを見事に証明しています。

パイプ流が斜面安定に与える影響、内田太郎他(1996)
うちだ57

だから、現在の静水圧のみを考慮した斜面解析方法は間違いです。そのことは多くの技術者、研究者がすでに知っていますが、それが一般化しない理由があります。

(1)ソイルパイプの水圧の計算方法で確立されたものがない

 →たぶんこれは正しくありません。それをするニーズがなかっただけです。それをやっても公共事業では使えないし、斜面対策など公共事業以外には殆どないのだから、ニーズがないということです。民間企業は、手間が増えてももらえるお金が変わらないのなら、やりません。

 →私は民間斜面の斜面対策を依頼されるので、自然現象として当然起きることを前提として対策を計画します。だから計算方法も作りました。難しくありません。高さに比例して水圧が高くなるモデルです。公共事業ではそういう方法でお金を出してくれる人がいないからニーズがない、というだけのことです。
 
かじょうかんげきすいあつ55

今回の盛土の標高はおよそ364mで、この斜面はまだまだ高くなり岩戸山の734mまで続きます。山頂付近から浸透した地下水が、土の中の管であるソイルパイプに集まり下流に流下して排水しようとするわけです。雨の供給量が多すぎたり、そのソイルパイプが途中で閉塞したりすれば、土中に非常に高い圧力が発生します。崩壊は、その高い水圧で起きると考えられます。

この水圧に耐えられる構造物はそうありません。対応方法としては、その水圧を抜いてあげることです。それが地下の暗渠感であったり、他の地下水排除施設だったりします。山が高ければ高いほど、水圧は高くなるので、十分な能力を持った排水施設が必要なのは、たぶんわかっていただけると思います。
ひこう73
地理院地図で作成

(2)ソイルパイプの水圧を考慮するとほとんどの斜面が「崩壊リスクあり」になってしまう

 →税金を使う公共事業である限り、政策的妥協は避けられません。よく「崩れない斜面などない」と言う人は多いですし、それは正しいです。でもそれを政策的に認めてしまうと、際限なく公共事業費が膨れ上がります。現実的ではありません。

 →唯一解決する方法は、特別の場所を除いて、斜面対策から公共事業が撤退することだろうと思います。もちろん補助金制度的なものは残さないと実現性がないですけど。そうすれば、崩壊リスクを限りなくゼロに近づける方法で民間人が自ら対策できるようになります。そのほうが技術の進歩が圧倒的に速くなります。ならないと思いますが。。。

(3)通常の斜面崩壊と、「線状降水帯」などの斜面崩壊は別物のように扱われている

 →雨が降ってそこらで起きる小さな崩壊と、今回の熱海のような崩壊、2011年の十津川で起きた深層崩壊、2003年の水俣市宝川内の崩壊など、、、基本的に同じなんですが、違うものとして扱われています。対策するすべがないものは存在しないものとするか、不可抗力とするか、、、ということです。

私はこれからは、民間の「本気で斜面対策をしようと思っている人」を商売相手として考えているので、ソイルパイプの水圧を考えた方法を使い続け、更に発展させていきます。

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崩壊した盛土の場所は、宅地造成工事規制区域だったようです。1966年の指定ですからかなり前からの指定です。当然造成に対しては、宅造法の規定が適用されたはずです。それでも排水設備が「足らない」のですから、現在作業が行われている今度の道路土工指針(盛土工指針)の改訂では、前回の会提示に見送られた(圧力がかかった?)暗渠工の大規模化を実現してほしいものです。
たくぞう68

静岡県GIS
https://www.gis.pref.shizuoka.jp/?z=16&ll=35.122094%2C139.073701&t=roadmap&mp=109&op=6&vlf=-1