ぼちぼちと2

     生活や人生設計に間接的にかかわる防災や地球科学のおはなし

     ・・・でも毒にも薬にもならないお話が中心です。通勤途上の暇つぶしにご利用ください。

     『唯一生き残るのは変化できる者である』 チャールズ・ダーウィン

3次元安定解析

3次元安定解析が最近使われるようになった意外な理由(?)

2000年前後に、これからの地すべり解析は3次元安定解析だ!と思い、色々やり始めました。プログラム開発は、1998年頃、阪神・淡路大震災後の激務から激暇に急変したときに開発しました。暇だったのです。

CADに地形等高線、滑り面等高線、地下水位等高線があれば計算できるという、簡易なプログラムです。滑り面の一部をポリゴンで囲んだら、その中は別の滑り面強度を設定できるというふうにしました。

CADを用いた地すべり3次元安定解析プログラム

周縁部摩擦効果を考慮した地すべりの3次元安定解析

縁部摩擦強度を未知数とした3次元安定解析手法の研究

複数滑り面強度を基本としたのは、同一スベリメン強度で3次元解析しても、あまり意味がないことに気がついたからです。3次元解析は、複数の滑り面強度を使う際に意味がある解析になります。

五大開発さんのソフトも、v2.0で複数強度対応になったようです。実際にどう動くのかは、使っていないのでわかりませんが。

究極の3次元斜面安定解析システム SSA-3D version2


とはいえ、3次元安定解析には「計画安全率」がありません。このため、対策工の設計が困難です。というか、計画安全率では不可能です。

3次元解析でやると対策工事費が安くなる、というのは大嘘です。そんな事はありえません。3次元解析では「計画安全率がないので必要抑止力が計算できない」からです。工事費が安くなると言っている人は、2次元解析の計画安全率(1.20)を使っています。これは大きな間違いです。

3次元安定解析を対策工設計に使うには、閾値をFs=1.00として、確率解析を行わなければなりません。閾値1.00には争いはありません(裁判の言い方)。通常の安定解析を確率解析にするには、土質強度を正規乱数でバラけさせて、閾値1.00を下回る頻度を計算すればよいだけなので、実は簡単にできます。(以前のブログでその方法は説明しました)

確率評価をするようになれば、場合によっては工事費が安くなることもあるかもしれません。確率評価の過程で、その解析に必要な強度の実測(平均値とばらつき)など様々なものが必要になるので、技術的発展があると思います。

懸念事項は、0.2%でも崩壊確率が残った時、0%にしろという完璧主義者がでてくる恐れです。それは発注側にも、受益者側にもあります。計画安全率では「現在の技術力では・・・」=不可抗力という逃げ道がありましたが、確率解析では話が簡単なので変動確率0%としたときの逃げ道がありません。

まあ、それはそれとして・・・

3次元安定解析の方向に向かうきっかけは、たぶん地すべりCIMですね。

CIM導入ガイドライン(案) 第9編地すべり編 令和元年5月

地すべり解析の本筋から3次元解析が必要になったわけではなく、CIMで地すべりを3次元表示するようになるから、3次元解析しないとバランスが取れない・・・という意外な理由で使われるようになるのだろうと思います(半分妄想、半分は大手コンサルの偉いさんから聞いた)。

3次元重力移動体の地質モデルを3次元CIMで表示しながら、安定解析は2次元ではおかしいですからね。3次元の地すべり土塊を見てしまうと、このバランス計算が2次元でできるわけ無いじゃん!ということを、どんな新米技術者でもわかってしまいます。ということは、一生に1回か2回しか地すべりを担当しない自治体の担当者だってわかるということです。

(谷埋め盛り土の滑動崩落時の安定度評価は、まさ3次元でなければ解ける道理がない問題ですが、「誰でもできる方法でないといけない」という意味不明の理由で2次元断面法で計算することになっています。どの都市でも安全宣言ばかりが出るので、これはまずいということで砂質土は過剰間隙水圧比=1にして2次元安定計算をすることになったのだそうです。計算するまでもなく、その条件だと安全率≒0になるのですべて滑動崩落します。高いサンプリングと、高い土質試験して、高いコンサルに仕事出して、そんな答えでいいんでしょうか?土質試験はただの防災区域指定のための「体裁」に成り下がっています)

3次元安定解析に対する認識が20年前から変わっていない件

「斜面防災技術」vol.45.No.2に平成30年度の地すべり防止工事士試験問題と解答が出ていました。正答・誤答の理由は書いていないので、微妙な問題が結構出ているなとは思いましたが、ひとつ引っかかるものがありました。
oukyuu38

滑動中の地すべりに対する応急対策に関する次の記述のうち、もっとも適当でないものはどれか?

そして正答(間違っているもの)が

「応急対策の計画設計のため,緊急に三次元安定解析を実施した。」

となっています。滑動中の地すべりの応急対策に3次元安定解析を用いるのは「最も適当でない」というのが正解になっています。

「現状の業界の技術レベルでは」という枕詞が入っていれば、まだ合点も行きますが、たぶんこれは全くの間違いです。安定解析自体が緊急時には不要という意図なら、わざわざ3次元とは言わないでしょうし。

2次元安定解析で良いのか、3次元安定解析が良いのかは、緊急度(=時間がない!急いでやらなきゃならない!)の問題ではありません。3次元で解かなければならない問題なのか、2次元でも十分近似できるのか?ということが判断基準でなければなりません。

時間の有無は、そこに何の関与もしません。

問題を作られた方は、かなり古い頭の人のようです。おそらく理由は次のようなものでしょう。

1.そもそも緊急対応に安定解析など不要。経験と勘とモニタリングが重要。(これは応急対応であって応急対策ではないが)

2.3次元安定解析をするには地すべりの形を3次元的に捉えなければならないのでたくさんのボーリング調査が必要

3.3次元安定解析をするには、たくさんの土質試験結果も必要

4.緊急対応だと時間的にそれらを行う時間がないので、すぐに計算できる2次元解析が適切(出題者の意図に、そもそも安定解析など不要というニュアンスも感じるが、、、だが押え盛土の土量を決めないといけないので力学計算が不要とは思えない)

2次元で解析しようと、3次元で解析しようと、解析対象は同じで、かつ地すべり土塊は3次元構造です。2次元解析だと解析誤差が少ない、という人がたまにいますが、解析対象は地すべりなのか、図面なのか、よーく考えてみましょう。

場合によっては、2次元単一強度解析は、危険な解析結果を生じるリスクがあります。これまでにそういう現場をいくつか見てきました。再度災害が起きました。原則3次元解析、場合によっては2次元解析でも可、というのが正しいのです。相手は3次元物体ですから。

2次元解析でもボーリングも土質試験も無しで応急対策を計画します。3次元解析も当然ことながら、ボーリングも土質試験もなしで検討できます。

地すべり土塊のすべり面摩擦は、主たるすべり面を形成する底部と、周縁部の強度が大きく異なります(後者は面積が小さくても抵抗力が大きい)。地すべり発生の原因(側部や末端部の切土)の場合、応急対策は抵抗力の分布をしっかり捉えないと二次災害を発生させる場合があります。その場合は、緊急であっても3次元解析が必要です。

周縁部強度は、いわゆる普通の強度なので、ある程度推定でも大外れしない値を設定できます。また、地すべりの3次元形状がボーリングがないと想定できない技術屋は地すべり業務に携わってはいけません。危険すぎます。

問題が解析時間だけであれば、いまは問題になりません。どちらでも直ぐにできます。

実際には、2次元解析で事足りるものが多いと思いますが、それは本質的な話ではありません。どちらの解析が適切かを見極め、必要な解析方法を緊急時であっても用いなければなりません。

病院の救急で運ばれてきた患者に「とりあえず気付け薬(アドレナリン)を打っておけ!」的なことはやりません。まず、患者にとって何が必要を見極めるのが「技術」です。そこに時間がない、手間がかかる・・・は関係ありませんし、3次元安定解析が時間がかかるというのは、化石のような考え方です。
私はこの資格を30年位前にとりましたが、問題そのものはかなり高度になってきています。次のような地形の専門的な話などありませんでした。

tikei39
いまや、地形の専門用語はタモリでも知っているわけですから、ある程度知っておくのが必要かもしれませんが、これを知っているからと言って地すべりにはほとんど役に立ちません。地すべり学は分類学の部分もあると思いますが、本質的には地すべり対策技術は力学です。安定解析手法をキチンと知っておかねば地すべり技術者とは言えません。

3次元安定解析より2次元安定計算のほうが「精度が高い」と思える心理の原因は何か?

祝日なので、辛辣に・・・

20年以上進歩しない地すべり技術者のこの考えは、心理学的な何かが影響していると思っています。いわゆるバイアスです。

2次元計算の方を、3次元解析よりも精度が高いと考える理由は

1.2次元断面上でボーリング調査が行われており、すべり面は、それで確定された位置を通過するためその位置では「誤差がない」

2.3次元解析では、通常の主断面位置だけの調査をしていれば、ボーリング調査のないところでのすべり面の推定に対して「誤差が大きい」

3.三段論法的に、「故に2次元計算のほうが、すべり面の誤差が少なく精度が高い。3次元解析の精度を上げるためには、たくさんのボーリングにより推定誤差を小さくする必要がある」

いまだにこんな滑稽な議論が行われています。

抜け落ちているのは、「あなたは何を解析しようとしているのですか?地すべりの中の2次元スライスなのですか?3次元形状を持つ物体としての地すべり土塊なのですか?」という根本的なところです。

2次元スライスの計算では、スライスにかからない地形改変は反映できません。側部を切土したときの大きな抵抗力欠損が起きないので、「側部切土は計算結果に影響を与えないので土塊は不安定化しない」と誤った結論が導かれます。

さらに、2次元計算の多くでは均一すべり面強度で計算しているので、頭部の抵抗力(滑動力ではない!)を排土する頭部排土工を推奨したり、大きな抵抗力を持っている別土塊に乗り上げた末端部の排土をしてしまうリスクも生じます。

「設計基準から逸脱しないことが最上の解析なのだ」という思い込みによってこれは起きます。この心理状態の原因は、1990年以降に起きた、「当局の介入の強化(高名な砂防技術者の言葉)」、すなわち会計検査に対する過剰反応によるものだとおもいます。

滑り始めた土塊を、地形改変することなく安定化させるためには、現況安全率設定(誤り)+逆解析(誤り)+計画安全率(誤り)=実務上大丈夫な結果、という合成の誤謬の逆バージョンで助かりますが、地形改変をする場合には「無慈悲な結果」が待っています。

実務ではその程度ですが、研究なら、人生の大半の時間を無駄に送ることになります。

そういうことがないようにとの願いで2006年にシンポジウムを開いて、結論を出したつもりでしたが、10年以上たっても、ほとんど何も改善されていません。

「実測値のみを用いた斜面安定解析の可能性」
http://japan.landslide-soc.org/branch/kansai/2006kansai_sympo.pdf

「きっちり好き」の人は多いですし、悪いことではありませんが、全体の道理を無視して部分の誤差だけが気になるのは、(不治の)病です。木を見て森を見ずだということがわからないほど愚かでないと思いますが、思考が停止しています。

ちなみに、谷埋め盛土の地震時安定計算を始めるにあたって、側部抵抗を考慮する必要があり、2次元解析と側部抵抗を考慮した3次元解析の違いを事務官の方々に説明したときの絵がこれです(これで「よくわかる!」と理解していただきました)。地すべりの専門家で、2次元解析が側部のない無限幅の解析だということを知っている人はどれだけいるでしょうか。あの2次元計算への異常なこだわりを見ると、全然いないんじゃないかとすら思えてしまいます。そんなはずはないでしょうけど。
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2次元安定計算と3次元安定解析を天秤にかける地すべり技術は100億年たっても進歩しない

当社が地すべりの3次元安定解析に取り組んでいたのは、20年位前になります。

1995年の阪神・淡路大震災で爆発的に仕事が増え、その3年後に仕事が消えて暇になったときに取り組みました。(見事なまでの裏返しでした)

当時はパソコンが普通に普及していたので、図面から人間が座標を読み取る必要がなくなっていました。3次元安定解析のボトルネックは、そこだけでした。

当時から、3次元安定解析をするには「たくさんの調査が必要で高価になる」という人がいらっしゃいましたが、メタメッセージは「私はその解析ができないので、解析自体を否定しておこう」という狭い了見のものだということはわかっていました。

なぜなら、3次元安定解析の必要性は昭和50年の土木研究所資料で渡先生が言われていたからです。当時は、すべり面強度は一律として処理されていましたので、片側の側壁抵抗だけであれば、幅/深さ比が大きい場合には無視できるように書かれていますが、現在は地質の異なる側壁抵抗(一般に底面より相当大きい)は、面積が小さくてもとても無視できるものではありません。
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さらに、末端部で移動により別の地質に乗り上げたところの抵抗も大きいです。

推力集中帯と考えられがちの頭部急崖部分も、地質が異なれば抵抗力になります。滑り台に乗っている人の後ろ髪を引いて滑らさないようにしているのが頭部抵抗ということもあります。(主たるすべり面が、層理面などの場合に、頭部は別の地質に接しますのでそうなります)

参考資料 周縁部摩擦効果を考慮した地すべ りの3次元安定解析(2001)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jls1964/38/3/38_3_255/_pdf
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末端部と頭部の抵抗に関しては、2次元計算でも十分考慮できるのですが、それをされる人すら現状ではほとんどいません。

逆算に慣れた人たちのために、もう少しグレードを落とした3次元安定解析についても提案しました。これを使えば、順算ではないにしても、地形改変時に、どこを地形改変するとバランスが悪くなるのかが定性的(ある程度定量的に)わかるようになります。技術士先生なら最低限これくらいはしないとね・・・という意味でしたが、全然です。。。

周縁部強度を未知数とした3次元安定解析手法の研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jls2003/41/6/41_6_624/_article/references/-char/ja/

側部の抵抗力に関しては、以前お話したことのある偉い先生(土質)が「たったの30%くらいしか影響しない!(ので無視して良い)」と言われましたが、30%が無視できるというセンスに驚かされました。2次元計算で良いという結論ありきだったのでしょうね。

無視できないほど大きな力の要因を無視した計算をいくらしても意味がありません。2次元計算で良いと言っている間は、地すべり技術は100億年たっても進歩しません。

パソコンの発達した今、3次元解析ありきで、場合によっては2次元でも近似できる(表層崩壊がそうです)というのが常識です。

3次元解析では、すべり面形状を正確に知るためにたくさんのボーリング調査が必要ではないか!2次元計算なら主断面だけですむので経済的だ!という議論も耳にタコができるくらい聞きます。この議論の不毛さがわからない人は、技術者をやめたほうが良いです。

実務でたとえば抑止杭の設計をしたことのある人は、主断面で2次元計算(現況安全率設定の逆算+計画安全率を使った対策規模決定プロセス)のあとに、横断的な杭の長さを設計しなければならないことを知っています。

横断形状を知るためのボーリング調査がなくても、その地すべりがどういう性状のものか、、、例えば層理面などの地質構造に規制されたものか、全部崩積土で移動時の抵抗のないスムーズな形状(円弧状など)になるものかを考えて横断図を作成し、杭の長さを決定します。条件として施工時にチェックボーリングを入れることにしていますが、大外れすることはありません。それは、地すべり技術者は少ない情報から、地すべりの3次元形状を推定できる能力を持っていることを示しています。それができなければ、地すべり調査に携わるべきではありません。

2次元計算では、様々な周縁部強度をもつ地すべりの力学的バランスを計算することは不可能です。ですから、特別な場合(莫大な予算が出る地すべり)以外では2次元計算が良いと言っている限り、1ミリも技術は進歩しません。真実に近づける道理がないからです。

これを書いていて思い出しましたが、大地震時の盛土地すべり(滑動崩落)に関して、エライ方から「あなたの言っているように過剰間隙水圧が底面にかかって摩擦力が失われたら、2次元解析だと抵抗力がゼロになって計算が成り立たないではないか!だから間違いだ!」と言われたことがあります。さんざん、2次元解析だとそうなるので2次元解析で特など無意味ですよと言ったのにも関わらずです。2次元解析で斜面問題が解けるのが当たり前、という思い込みは、けっこう潜在意識にまで届いているのかもしれませんね。。。殆どの斜面問題は3次元でないと解けないが、稀に2次元で近似できる場合もある・・・というのが正しいのですが。

当てずっぽうの3次元安定解析のほうが、厳密な2次元解析より1億倍以上良い

地すべり学会の中で久々に地すべりの3次元安定解析がありました。周縁部摩擦力を考慮したもので、当社も15年以上前に取り組んだものでした。地すべり学会関西支部のシンポジウムでは、平成18年(2006年)のシンポジウムで結論の出た話でしたが、何度も輪島の漆塗りのように発表するのは悪いことではないと思います。なんといっても使われていませんので。

古いシンポジウムは、パスワードが外してありますので、全文読むことができます。

「実測値のみを用いた斜面安定解析の可能性」平成18年6月2日
話題提供(3)(4)(5)は、極限平衡法を使って、順算で地すべりの安全率を計算したものです。きちんと3次元形状を使い、接触面の摩擦力を使えば、安全率はそれなりのものが計算できます。3次元極限平衡法では十分順解析可能、という結論でした。一方、厳密式派・数値解析派は、2次元解析での厳密を追求していましたので、実測値のみでは解析不能という結論でした。

3次元土塊の動きを2次元で解析するのは原理的に不可能です。近似すらできません。2次元で考慮されていない強度があるのだから当たり前です。地形改変を伴うときに3次元解析をするか、3次元を考慮した補正をしないとすれば、阿呆です。

今年の学会で、私がタイムスリップを感じたのは、質疑応答でした。

「3次元安定解析をするにはたくさんのボーリング調査等が必要になるので、よほどの場合しか使えない」

という議論が行われていたからです。20年前にはたしかにこんな議論がありました。

まず、2次元安定解析は地すべりにおいては周縁部の摩擦力を考慮しませんから、順算には全く使えません。ゼロ点、落第です。3次元的に異なる強度分布を持つ地すべりにおいて、2次元解析は、壊れたものを治す場合の逆算法+計画安全率のケースでのみ使える便法に過ぎません。

2次元解析だと、測線がひとつしか無いので、ボーリング調査を断面上に入れたら、「正確に」モデル化ができる、というクラシックな主張がありますが、これもゼロ点です。

3次元の地すべり土塊を解析するのに、2次元で代用できるか?ということを最初に考える必要があります。周縁部には、摩擦強度のやたらに強い物質がありますが、2次元解析では完全に無視されます。したがって、地形改変がある場合には、2次元解析はやたらに弱い解析法になります。

技術者は、ボーリング調査がたくさんなくても、かなり正確に地すべりの3次元形状を推定することができます。できなければ技術者とはいえません。そうすると、地形改変時に、強度の強いところをカットした場合などの影響を、かなり正確に把握できます。

2次元解析では全然できません。逆算+計画安全率+2次元解析で求めるものは、税金投入に依怙贔屓が生じないようにするための横並びの「工事費」です。

3次元形状のものを3次元解析するのは、簡単です。1本のボーリング調査もないところで3次元安定解析し、地形改変の影響を考慮することができます。安定側・不安定側に何%程度変化するかくらいお茶の子さいさいでわかります。それによって適切な対策を考えることができます。

2次元解析ではまったくできません。最上級の式とされるSpencer法を使ったとしてもゼロ点です。

地すべりでは、2次元解析は順算では全くの無力です。地形改変を伴わない「壊れたものを治す」場合にのみ使える方法論です。周縁部摩擦力のがある地すべりにおいて、2次元解析を100万年研究しても、有益な答えは何も出ません。

表層崩壊は、強度の大きく異る周縁部摩擦がないので2次元解析で近似できます。

まだこんなレベルなので、地すべり対策の世界が、科学的になることは当分なさそうです。公共事業で競争がないことが技術の停滞の原因なのでしょうね。。。。

普通に計算することから始めよう

斜面防災技術Vol.41、No.1号は、体裁がかわり、紙面も充実して届きました。

antei3d1ぱらぱらとめくっていると、岩田さんという方が書かれた技術資料が目に留まりました(著作物なので読めない程度にスキャンしました)。3次元安定解析をされているのですが、滑り面強度を、場所によって5つに区分して計算されています。

高野秀夫氏も著書の中で書かれていますが、地すべりは、滑り面の摩擦問題なので、それをちゃんとやれば難しいわけではない。難しくしているのは、理屈屋のせいだ(意訳です)。と言われています。(※1)

こうした、実際の形、実際の強度、実際の間隙水圧などを、愚直に組み込んで計算すればよいだけです。やれ計算式がどうのこうの、構成式がどうのこうの、、、そのまえにやることがあるはずです。

「実測値と順計算」。これを追求しない限り、斜面問題は進歩しません。逆算は災害復旧などには便利なので、行政のインハウスエンジニアに任せ、コンサルは順算以外を使わない、くらいの覚悟が必要です。今後も、産業として生き残っていきたければ、、、ですが。

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※1 「凄いけど簡単」というコピーのコマーシャルが以前ありました。技術は本来そうあるべきなのですが、現実はそうとばかりも言えないようです。

先日、同業者のかたと話をしていたところ、「見栄え」「手間をかけている風情」というのはビジネス上とても重要だと言われていました。簡単に終えてしまったり、見栄えが悪かったりすると、客がお金を気持ちよく払えない のだそうです。

わからなくもありません。

そういえば、以前地下水源調査で、1m深地温を測られている調査屋さんがおられました。水源は深いところIなるので、1m深地温で検知できるものではありませんでした。「それを測って水源がわかるのですか?」と聞いたら、「いえ、わかりません。いろいろ調査しているということを見せることが大事なのです」と答えられました。

こうなると、詐欺と紙一重になります。(すでに立派な詐欺かも)

安定計算の最近の動向

(社)斜面防災対策技術協会最新号(Vol.38,No.2)のp15-22に、濱崎英作さんが「最近の数値シミュレーションと斜面防災技術(その3)」と題して書かれています。3名の連名となっていますが、濱崎さんの顔写真がありますので、濱崎さんが書かれたのでしょう。

基礎的な2次元極限平衡法から、2次元数値解析法、さらには3次元解析法など丁寧に書かれています。

そういうことに加えて、次のように書かれています。

hamasaki「このほかに3次元で滑り計算を行うべき重大な理由がもう一つあります。それは地すべりの安定度は、側方形状効果や側方摩擦効果によって大きく変化することが分かってきたからです。」

滑り台の絵を使ってそれをわかりやすく説明されています。

一端話をここで区切ります。ここまでは「素晴らしい」という話です。
------------ひとくぎり----------------

私自身は、安定計算や数値解析も仕事ですからやりますが、実のところあまり興味のない分野です。それは、この分野が「インテルの手のひらで転がされている」と感じられるからです。

地質屋が露頭を前にして、その露頭から得られる情報はどの程度あるのだろう?というのは永遠の命題です。たいへん優れた地質屋さんでも、100のうち5が読み取れたら凄いものだ!と言います。それくらい人間は自然に対して無知であることを自覚しているわけです。

これまで数多くの○○屋さん(恐くて書けません)とお会いしました。誤解をたいへん恐れていますが、敢えて言うと、、、私の印象は、、、よくありません。

・・・(あまりにも怖いので相当文言を削除しました)

さらに「これこそが正しい!」が電子頭脳の都合でかわるのです。パソコンの進化とともに最高の技術(State of the arts)がころころ変わるのです。これは「インテルの手のひらで転がされている」と表現してもよいのではないかと思っています。

再び敢えて言いますが、これは地質屋には受け入れ難い奇妙さです。自然は情が無いだけでなく、パソコンの処理能力を慮ったりはしませんから。

おそらく一面の特殊な部分しか見ていないのだと思います。地質が点と点を結んで仮説を立てる作業なのに対し、それは点から直接結論を導いているように感じられます。その点と結論の間を繋ぐものが均質実験モデルとインテル!なので奇妙で仕方が無いのです。

「想定」は、自然現象のある部分だけを切りだして条件付けをして設定するものです。その設定に基づいて行うのが「設計」です。設計には想定する時に使ったある一部の現象が支配的であるという仮説が用いられます。

「設計上は正しかったけれど、想定していない現象で壊れた」という言葉をよく聞きますが、地質屋はそれを「見立て違い」と表現して最も悪いことと考えます。そして別分野の人たちと衝突します。そういうことを思い出すだけでモヤモヤして体調が悪くなってきます。

地震地すべり発生危険度評価手法

0554_0001土木技術資料最新号53-12(2011)pp42-45に、”既存地すべり地形の地震時地すべり発生危険度評価手法”(丸山ほか)、というものが載っていました。

地形要因のみに注目して解析されています。「縁辺侵食率」という概念は秀逸だと思います。これは地すべりの外周長Lと、侵食されて谷形状となっている長さlの比率で表されます。すなわち、E=l/L×100(%)、E:縁辺侵食率(%)、l:侵食地形長(m)、L:地すべり縁辺長(m)です。

地すべりの縁辺部が侵食されると地すべりが発生しやすくなる、という仮説が建てられているのだろうと想像します。地すべり縁辺部は、面積は小さいですが単位面積当たりの抵抗力が大きいので、総抵抗力としては相当大きな影響力をもちます。この抵抗部が侵食されて失われれば、大きな地震動がかかったときに抵抗しきれず滑動するということになります。

これは、谷埋め盛土の側方抵抗モデルの仮説と同じです。また、周縁部強度を考慮した3次元安定解析の考え方とも整合します。過去には、計算が大変だったので「2次元で大丈夫バイアス」が作用し、地すべりはまっすぐは移動しないので、側方抵抗は片側にしか作用しないとか、いろいろ2次元OKの結論に導かれていました。

また、地すべり地形の標高偏差という概念も使われ、その影響力も捨てがたいということになっています。わかりにくい概念ですが、地すべり地内のDEMデータの標準偏差が大きいということは、傾斜が急であるか、または面積が広いことを示しているのだそうです。標高の標準偏差大=最大-最小標高が大、ということなので急勾配でも広範囲でもよいことになります。なぜこの概念を導入されているのかはよくわかりません。勾配と面積をそれぞれ別々に取り扱ってもよいように思います(GIS的に標準偏差の方が簡単なのかもしれません)。

面積が広いということは、幅が広いということに繋がり、結果的に側方(周縁部)抵抗力の比率が小さくなることになります。

地すべり発生確率の算出式をみると、標高偏差(地形形状効果)が0.060、縁辺侵食率(地形の老化・弱体化指標)が0.035と、約2倍の比率になっています。これは、地形効果の方が相対的に安定条件に効くということを示唆するものです。(ただ、この2つの項目はいずれも側方抵抗力に関係するので互いに独立しているかどうかやや疑問です)

解析には、いろいろな項目を考えて、結果的に2項目が残ったとされています。検討された項目は以下の通りです。◎は選定された要因、×は棄却された要因。

(1)内部地形要因-縁辺侵食率 ◎
(2)内部地形要因-30mメッシュで求めた地すべり地形の標高偏差 ◎
(3)地質構造要因-断層や褶曲までの距離 ×
(4)境界地形要因-稜線までの距離 ×
(5)境界地形要因-河川までの距離 ×
(6)外力要因-震源断層までの距離 ×

正答率は、解析データセット内で地震地すべり発生箇所で75%(22/29)、非発生箇所で75%(708/944)となっています。微妙な正答率です。それをデータセット外のデータに適用すると、滑動77%(17/22)、非滑動73%(16/22)です。

あるひとつの地すべり地において、それが滑動するかどうかは、あてずっぽで50%です。できれば正答率は80〜90%以上となっていると素晴らしいのですが、自然現象が相手なのでなかなかそうは問屋がおろさないのでしょう。末端部閉塞形状など影響力の大きな項目もとり入れにくいですし。

崩壊のビデオを見ていても、末端の側部あたりで小さな崩壊が繰り返されたのちに、本体が滑ってきます。縁辺侵食率が大きくなると滑り易い、というのはその映像の説明にもなります。地震時に特化しなくても平常時でも成り立つ話のように読みました。

安定解析と地すべり対策工


先日、ある大学で表題の講義をしました。

安定解析と地すべり対策工のppt抜粋
http://www.ohta-geo.co.jp/tech_rep/20111107T_acjp.pdf

toku02講義なので、頭の中で日頃思っているような辛辣なことは言いませんが、ここにならその一部を書いてもよいだろうと思いましたので、ご紹介します。

まず安定計算についてですが、、、

(1)2次元法で立派な安定計算ができるなどという妄想ははやく捨てましょう

(2)安定計算では順算でも逆算でも、同じc'、φ'という記号を使いますが、まったく意味が違うので記号を変えましょう。たとえばc(逆)、φ(逆)というふうに。

(3)2次元法で、計算手法云々を議論するのはやめましょう。計算手法を研究対象にする人を除いては。いまは、スイッチ一つでどの計算方法でもできます。個人的には研究の価値がある分野とは思えません。

toku01(4)安定計算で演繹的計算ができるかもしれないという希望は捨てましょう。現実的には、周縁部摩擦強度を考慮した極限平衡法による3次元安定解析手法以外に、「事前の演繹的評価」する方法はありません。

(5)さすがにもういい加減「計画安全率」から卒業しましょう。これを使い続ける限り進歩はありません。計画安全率は、出生の秘密を知れば、2次元フェレニウス法とセットで使う以外には使用厳禁です。(もっともこれはFsp=1.2の地すべり対策の場合で、造成地などのFsp=1.5にいたっては根拠は何もありません。行政手続き上決められた数値です。懲役何年と同じような種類の数値です)

などが、私の本音です。決して人に言ってはいけません。どうしても言うのであれば、さも自分の意見のように言ってください。

明日は対策工の勘違いについて。

地すべりの安定条件は「滑らないところ」で決まっている

以前にも何度か書いていますが、数日来の安定問題に関する話から、地すべりの安定問題は「滑り易いところ」ではなく「滑りにくいところ」が支配しているということを感じられた(洗脳された?)と思います。

ちょうど、プレート沈み込み帯でのアスペリティ(固着域)と同じです。滑り易いところばかりなら、安全率は2次元解析と同じようにFs=0.65<<1.00みたいな話になり、「すでにそこに存在するはずのない土塊」ということです。滑りにくいところがあるからこそ、それが斜面から土塊が侵食・運搬されることを妨げているのです。

地すべり形状比のひとつである幅/深さ比は、側部強度と底部強度の違いが反映されますので、土塊の地質・土質によってある程度法則性があるはずです。

滑り面粘土の強度研究は、相当ハイレベルのところまで行きついていると思いますので、これからは地すべりのアスペリティに研究の軸を移していただけるとありがたいです。それで斜面の安定問題はほぼ解決するはずです。

それが終わると斜面問題は次のステップに進めます。次のステップは、斜面残存条件です。なぜ滑るか?ではなくて、なぜ斜面にまだ残っているのか?ということの追及です。地震地すべりを見てよくわかったのは、崩壊のほとんどがクサビ滑りになっているということでした。

クサビ滑りは片側の側壁にもたれかかっていますので、そこがアスペリティになって斜面下方に落ちにくい条件になります。だから「残っていた」わけです。クサビ度がどの程度だと残って、どの程度だと残らないか、、、。予測に使えそうです。

第二次スクリーニングの安定解析

3dmorido01「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説」(平成20年2月)には、3次元解析の欠点をたくさん書きならべて、2次元解析の優位性が強調されています。谷埋め盛土問題が、2次元解析を厳密にやれば解決するのであれば、それでも良いのですが、原理的に永遠に解決できないことが自明なので、どこかで壁にぶち当たることになります。

「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説」(平成20年2月)
http://www.mlit.go.jp/crd/web/topic/pdf/guideline_ver.3.pdf

3dmorido02滑動崩落は、盛土の3次元形状と密接な関係がありますので、2次元解析では永久に答えが出ません。左図に示すように、滑動盛土の抵抗部は、2次元解析で表示できるところには無いからです。

こういう自明の事柄であっても、ああだこうだと言って、2次元法で解決を試みる人が後を絶ちません。技術問題を通りこして技術者倫理問題(欲しい答えをあらかじめ決めている)のような気がします。

第二次スクリーニングでは、側部抵抗力、底部抵抗力、過剰間隙水圧を考慮して、すくなくとも極限平衡法による3次元安定解析くらいはやってほしいと思います。それをやらないと、安定性評価も、対策工の量(≒工事費)もなんにも決まらないはずなのです(「安全」という答えが最初から決められている場合に限っては必要ない)。

安定解析法よりもっと大きな壁になるのが間隙水圧の取り扱いです。「ガイドラインの解説」(p.74)において、地震時の過剰間隙水圧の取り扱いについては以下のように記述されています。

”全応力法で解析する場合には、地震時に土中に発生する間隙水圧を考慮しないで土の透水性に見合った排水条件による静的試験から求めた強度定数を用いる。有効応力法で解析する場合には地震時に土中に発生する間隙水圧は、間隙水圧の測定を伴う繰り返し三軸試験などから求めることができる。”

滑動崩落するような谷埋め盛土の最下部がどのような状態になっているのかということが想像できていない方が書かれたのだろうと思います。不撹乱でサンプリングができるような土なら、滑動崩落はしません。できないことを教科書通りに書いてもあまり意味が無いと思います。こんな硬直思考だから、大地震のたびに「新発見」があって研究者は新たな研究費をゲットできる代わりに住民は泣き寝入りに追い込まれているのです。

また、「滑動させたくないバイアス」がかかっている場合、滑り面位置は粘性土なので過剰間隙水圧はかからないので安全!とされることがあるようです。これは、滑動崩落現象が理解できない人の犯す全くの間違いです。素人相手には、過剰間隙水圧発生を「液状化」と表現することはありますが、滑動崩落の過剰間隙水圧上昇は液状化に必要な砂質土である必要はありません。

底部すべり面位置は、サンプリングができないので、原位置試験しかありません、その中から、簡易でc・φともに計測できるものとなると、昨日書いた方法(簡易貫入試験と土層強度検査棒のコラボ)が、いまのことろ一番現実的だろうと思います。ただ、地中洗掘でスカスカになったところですから、ひょっとしたら土層強度検査棒でもトルクがかからないかもしれません。

過剰間隙水圧は、事例から導くしかありません。事例による逆解析法です。側方抵抗モデルでは静水圧換算で3〜4mということになっています。実際には、過剰間隙水圧比で評価するのが妥当だと思いますが、いろいろな圧力でそこに落ち着きました。過剰間隙水圧比換算では0.5〜0.7くらいです。

1968年の十勝沖地震(実際には三陸沖北部地震、十勝沖のアスペリティは壊れていない)で、国鉄東北本線に設置された間隙水圧計が、過剰間隙水圧比0.5程度を計測した事例があります。東北本線は盛土がたくさん破壊されましたので、過剰間隙水圧比0.5〜0.7というのはイイ線ではないかと思います。

滑動崩落の安定計算は、3次元法以外では不可能です(原理的にはあらゆる斜面問題がそうなのですが)。2次元断面に乗ってこない要素が安定条件を支配しているのですからしょうがありません。側方抵抗モデルは、簡易的3次元法という位置づけになります。

でも実際にはわからないことが多いので、民間事業であれば、「底面は浮いた状態(過剰間隙水圧比1.0)」と考えて、底部の摩擦をゼロにしてしまうのが良いと思います。それ以上の過剰間隙水圧の影響はあり得ません。「著しく抵抗が小さい」は、実務上はゼロで良いのです。(滑り面の摩擦がゼロだと2次元安定計算ができないから、この方法論は間違いだ!という人もいますが。。。2次元だと安全率ゼロとなるだけです)

崩壊が起きるのは、Fs(2D)=0.65くらい

「感覚や言い伝えに頼っちゃダメ」と昨日書いたばかりですが、今日の話は感覚的な話です。

antei002土層強度検査棒のWEBを見ていて、雪害地で根返り倒木などがある箇所の地盤強度を用いて降雨時の安全率を算定するとFs=0.65になった!という絵になっています。安定計算の教科書では、滑動力が抵抗力に勝ると土塊の滑動が起きるわけですから、Fsが1.00を少し下回れば滑動するはずです。ですから0.65というのは、「そこまで斜面がもっているはずないじゃん。異常な値ジャン」という数値です。

ところが、地すべりで滑り面の残留強度を計測して2次元安定計算すると、だいたい1.00を大きく下回ります。0.65は、1.00とかけ離れた異常な数値ですが、「ちゃんとした計測値を用いて計算した場合に限って」は、けっこう意味のある数値じゃなかろか、というのが私の「感覚」です。

1.00との差分の0.35は何かというと、周縁部の強い抵抗力の分担分です。浅い滑りの場合だと根系の影響も多少はあるかもしれません(過大評価は禁物ですが)。地すべりでは、主たる滑り面とは別の地質・土質起源の「強い強度」の滑り面が、そして土砂の崩壊では、不飽和でサクション(負の間隙水圧=擬似的な粘着力)が働いている「強い」部分です。

したがって、周縁部強度を適切に反映させた3次元安定解析をすれば、2次元の0.65は、3次元の1.00になるという「感覚」です。たぶん、当らずとも遠からずでしょう。

ところが。。。。

正統派土質力学では、未固結・正規圧密状態の土砂は、砂質土ならc=0、粘性土ならφ=0です。実際には、土はcもφも持っていますが、「そうするものだ」という強い圧力で土質力学の掟に従っています。

地すべり工学では、残留強度を精度よく計測できるようになった後でも、その値を用いて2次元安定解析するとFs=0.65ってなことになるものだから、せっかく計測値があるのにもかかわらず、つじつまを合わすために「逆算法」で等価c、φを出してお茶を濁してしまっています。

実測値のみを用いて斜面の安全率が計算できるかどうか?ということは、斜面工学の理屈が正しいかどうかを検証するための第一歩なのですが、だ〜れもやってこなかった課題です。実際にやると思い通りの結果にならないわけですから、「今の理屈は破綻している!」と誰かが叫ばねばなりません。

日本地すべり学会関西支部では、2006年春に「実測値のみを用いた斜面安定解析の可能性」というシンポジウムを開きました。そこでは、どんな高尚な解析でも2次元では実測値を使って適切な安全率を計算することは不可能であること、計算法に神経質な人に数学的な批判を受け続けている土研式3次元法(Hovland法ではない!)でも、周縁部強度に土質試験結果と滑り面の中での接触面領域を地質図学的に精度良く設定すれば、イイ線いく安全率を算出できることを明らかにしています。

でも、いまだに「実測値のみを用いた斜面安定解析」よりも、「逆算法を使って数学的に厳密な式を用いる安定解析」が圧倒的に使われ続けています。本質的な面において、『地すべり調査と解析』谷口敏雄・藤原明敏著(昭和45年刊)から一歩も前進していない、というか敢えてその居心地の良さに安住しているからです。

陸上堆積物の地すべりと基盤の凸凹

先日見に行った地すべり地で、ずっと前(20年くらい前)に感じたことを思い出し、その答えも見つかったような気がしたのでメモしておきます。

20年くらい前、兵庫県北部の村岡層群(第三系)分布地には、第四紀火山岩が被覆していて、その火山岩類が地すべりを起こしています。兵庫県では有名な地すべり密集地帯です。

dekoboko新しい火山岩類は陸上噴出物なので、その当時の地形面を埋めて堆積しています。すなわち海底堆積物である村岡層群は、その当時にはすでに陸化し、侵食によって地表には凸凹(谷や尾根)ができていたということです。火山噴出物は、その量が少ない時には谷に沿って流れますが、多い場合には谷も尾根も埋めて平坦面を作り上げます。

第三紀層は不透水層で、第四紀火山岩類は良透水性地盤です。このため地下水は、第三紀層の上面を走ります。そして、第三紀層の凹地形(地下の谷地形)に沿って流れます。このため、第三紀層(基盤岩)の谷部の上の土塊が地すべりを起こし、地表に凹地形をつくることが期待されます。

ところが、調べてみるとその逆になっていました。基盤岩の凹地形の直上は、地表地形の凸地形となり、基盤岩の凸地形の直上は地表地形の凹地形になっているという確度が高く、他地域での再現性もそこそこの規則性があることがわかりました。

なぜ?

当時はわかりませんでした。現在は深い土塊よりも浅い土塊の方が、基盤岩傾斜角が同じであれば側方抵抗が小さいので滑り易いという解釈ができます。ただ、地下水は基盤岩の凸地形には少なそうです。漫画的に絵を描くからそう思うだけなのかもしれません。実際にはこんな単純な形状(縦横比もめちゃくちゃだし)ではないので地下水はちゃんと存在しているのかもしれませんし、パイプ流として水圧を作用させてくれているのかもしれません。ここはまだ未知(無知)の領域です。

とはいえ、簡単に考えると「ああなるほど!」となります。コンクリート厚の薄いところから先に剥がれて行くという一般常識と、地すべり土塊が薄いところから先に滑って行くということは、実は似たような話です。

2次元 vs 3次元(1)空気抵抗を無視した大砲発射

斜面を滑り落ちる土塊を相手にしてきて30年近く経ちました。土木は終始一貫2次元の世界の住人でした。3次元現象が2次元で近似できるかどうかという検証がなされた形跡はあまりありません。しかし、デファクトスタンダードになっています。デファクトスタンダードで仕事をする人たちが、ISOなどという国際標準(デジュリスタンダード)に乗っかるというのも奇妙な話ですが、それは横においておきましょう。

私は地質畑の出身で、それも層序=地質図描きをやっていました。地質図を描くというのは、露頭を見て、その3次元的な位置を把握して、地面の中を頭の中で透視する作業です。頭の中は常に3次元なのです。

地すべり土塊の重力移動現象をイメージする際には、自分が土塊の操縦士になって、いかにうまく滑り落ちようとするかを考えます。そうすると、いくらツルツルの面があったところで、地形的な障害物(ボトルネック地形など)や、滑動方向に側壁が存在するクサビ滑り形状のため、容易に下に移動できません。ゴーカートを運転していて、やたらに壁にぶち当たって止まるというイメージです。

2次元のイメージにはそういう障害物はありません。計算通り正確に滑り落ちられます。ちょうど高校物理で習う「空気抵抗を無視した大砲の軌道計算」のようです。そのような大砲技術で戦争したら連戦連敗でしょう。

滑り計算には逆算法という便利なものがあります。初速と仰角を与えて着弾点を計算するのではなく、着弾点から初速と仰角を逆算する大砲技術に例えることができます。それは空気抵抗の要因を含んだ「等価初速・等価仰角」といえます。戦争中に、その値を何に使うのかは不明です。

逆算法のc、φも同じです。等価c、等価φなのです。土質試験で得られるc、φとは根本的に違うものです。2次元法では演繹計算はできません。できたという論文は十中八九嘘が書かれています。空気抵抗を無視して大砲を打つのと同じだからです。

土質試験で得られたc、φが計算で役立つのは、3次元でかつ自然条件を忠実に再現した場合だけです。そこまでやっても実際には不十分だと思いますが、許容できる範囲内に入るかどうか、という点では試行の価値があります。

宅地谷埋め盛土の地震時変動予測と対策

というような内容の発表を、8月末の第50回日本地すべり学会研究発表会で行いました。(地すべり学会って地盤工学会より歴史が古いんですね)

taisaku02PPTの最後の2枚を紹介します。

地下水がなければ、盛土であっても地震時の地すべりは起きません。しかし、谷を埋めているのですから地下水が入らないようにすることも、完全に排除することも極めて困難です。

普段盛土内に地下水があっても、どうということはないのですから、地震時に地下水があってもどうということないようにすればよいのでしょう。過剰間隙水圧が悪いだけですから。これは、盛土を宙に浮かせる悪いやつなのですが、閉ざされたところでしか水圧を発生させられない内弁慶なやつでもあります。

外気とのバイパスをつくってやると過剰間隙水圧は発生できません。それでもパーフェクトに過剰間隙水圧を消散させるのは、これまた難しいので、「肝心のところだけ」にしましょう。そして、その場所が実際施工できるところである必要もあります。

建ぺい率50%は、とても窮屈な土地利用になります。既存宅地で、施工できる場所は、隣との境界部沿いくらいなものです。そこでなんとか収まるようなアイデアでなければなりません。スライド21番のような方法なら、安くて施工できる方法でしょう。

taisaku03でも、このアイデアの最大の障害は「石頭」です。

凝り固まった常識との決別ができれば対策ができるようになりますが、「権威大事」に傾くと公共事業レベルのお金がかかる「地すべり対策工」になります。また、皆さんの合意、を求めても「地すべり対策工」になってしまいます(実際某学会の出しているものはそうなっています)。

そしてその対策工が家を守らなかったのは、仙台市太白区緑ヶ丘三丁目で証明済みです。でも、実績と権威はそちらに分があります。「現在学術的にコンセンサスを得られている方法」という大義名分にはなかなか勝てません。

予想される石頭は次のようなものです。

(1)安定計算は2次元断面法で行うものだ
 これは激烈です。オーサライズされた安定計算法だから正しい!らしいのです。過剰間隙水圧でフリクションレスとなると、この安定計算方法では抵抗力=ゼロになります。だから「計算が成り立たないのでおかしい!」と言われます。実際には2次元でものを考えているからおかしいだけなのですが。。。

(2)滑り面は強度を持つものだ
 これもまた激烈です。微少な強度を精密に計測するのが土質工学だという信仰があります。強度が小さくて、そこに間隙水圧まで作用するのだから実務上は強度ゼロでいいじゃないか!という地質屋の大雑把さは受け入れられません。2次元断面法信仰とも強く関連しています。教祖様は計画安全率様です。

(3)滑り方向に直交して杭は打つものだ
 待ち受け型対策工は、待ち受けなので、待ち受けているところより上側の土塊には何も安定上の改善をしていません。だから滑りたがります。土塊の剛性が高ければ、これで大丈夫です。多くの地すべり対策工が機能しているのは、土塊の剛性が高いおかげです。でも盛土はとても弱っちいのです。先頭が止められていても後ろから押していってアコーディオンのように変形します。変形すればその上に載っている家は壊れます。

(4)地下水は必ず排除すべきものだ
 これは志としてはよいのですが、たいへんです。地下水は、コレステロールと似ています。全部が悪いのではなく、悪玉が悪いのです。悪玉は過剰間隙水圧です。これが発生しないようにすればよいのです。ある程度の湿気は土にも必要ですから、善玉の地下水もある、くらいに楽に考えればよいと思います。

地すべりの控訴審判決文(4) 専門家の異なる意見

siraya04「地すべり問題」には、意思決定済防災という側面と、リスク評価という側面があります。

「意思決定済防災」では、危険なことがあらかじめ分かっており、対策をすることが前提になっています。だからこそ、安定計算は逆解析によるもので良く(現況安全率設定ができるということはリスク評価が終わった状態)、対策量を決めるため(計画安全率という経験則の導入と、他の箇所との横並び品質=公平な税金配分)の手法となるわけです。

経験則とは、2次元簡便法の安定計算(逆解析)&計画安全率です。

「リスク評価」は、危険か危険でないかを評価するところから始まります。ダムなどは湛水といういままでこの地が経験していない人工的な外力をかけるわけですから、リスク評価から行うことになるのでしょう。したがって安定度評価も演繹的手法となります。演繹的手法であれば、実測値を用いて理論的に行わなければなりません。

siraya002_1といっても、程度の問題があります。自然はどこまで行っても人間が正確にモデル化することなどできません。しかし、可能な限り自然に忠実にモデルを再現することが必要です。少なくとも、3次元問題を2次元問題として解けばうまくはいきません。地形・地質・地下水は少なくとも3次元モデルにする必要があるでしょう。土質強度は、それぞれの地層に対応した土質試験結果(応力状態を考慮したもの)にすればよいです。

さて、判決文ですが、専門家にとって重要でしかも恐ろしいことが書かれています。「他の専門家が違う意見を持っていたわけだから、あなたの言うことが唯一正しいとは言えない」ということです。

「地雷」と表現しているのもこういった別の意見を言うことにより自らに降りかかってくる様々な弊害のことなのですが、武田先生曰く「専門家は依頼者の期待する答えでなくても、正しく言わなければならない職業だ」ということですので、ほんのちょっとだけ踏み込んでみました。

今日のは、毒や薬になるすれすれでしょうか。

地すべりの控訴審判決文(2) すべり面の連続性

siraya002「深い地すべりはない」と建設前に判定された理由が語られているところです。

(1)粘土層が連続的にあったわけではない(ボーリング調査)

(2)粘土層は波打っていた(横坑による目視調査)

(3)横坑調査の粘土層で滑り面を想定して(おそらく粘土層の土質試験結果を用いて)安定計算を行ったら、安全率が1未満になった。これはすでに動いているはずの値であるが、実際には動いていない。したがって「この連続した滑り面は存在しない」。

。。。。。地雷を踏みそうなのでコメントはやめましょう。

話変わって、土質試験が詳細にできるようになってきたが、地すべりの安定解析で実測された土質試験結果が使われていないようだ。実測値のみを用いて安定解析が可能かどうかということをシンポジウムで議論しようじゃないか、という話が数年前にありました。

地すべりが滑動して大変位を生じた場合、粘土層の強度は残留強度という著しく小さな値にまで下がります。逆にいえばそのような小さい強度になるからこそ、岩盤が滑ったりする「信じ難いことが起きる」わけです。

2次元解析に、その残留強度を入れて安定計算すると、ほぼ例外なく安全率が1未満になります。私の経験では0.6前後になります。「これでは現状の土塊が存在していることが説明できないので、この土質強度は正しくない。ゆえに逆解析でやりましょう」というのがいままでの地すべり解析の方法でした。

siraya002_2シンポジウムでは、いくつかの発表者から発表が行われました。5人ほどの発表者だったと思いますが、3人は実測値のみで安定計算が成立する、という答えを出しました。共通していたのは、(A)3次元極限平衡法の解析であること、(2)底面部の著しく弱い残留強度と側面の相対的に強度が高い場所の強度を区別して使っていたこと、の2点です。

要するに、順算(演繹)的に計算する場合には、3次元現象を2次元モデルに当てはめるのは妥当ではなく、3次元モデルで評価する必要があり、しかも強度は平均的な強度ではなく物性が異なればそれに対応した強度を使う必要がある、というごくごく当たり前の結論に落ち着いたのでした。

そのとき私が発表したものを下記にリンクしておきます。現在でもまだ一般的に用いられている2次元極限平衡法では、簡便法はいい加減だの、ヤンブ法は厳密だのとやかましいですが、2次元モデルで計算している限り目くそ鼻くそ、否 五十歩百歩ということです。「逆算法+計画安全率」の経験則の中でだけ利用できる方法なのですから。

土質試験結果の安定解析への適用 (社)日本地すべり学会関西支部シンポジウム「実測値のみを用いた斜面安定解析の可能性」2006.6.2
http://www.ohta-geo.co.jp/image_com/20060602_ohta.pdf

今日も、ちゃんと毒にも薬にもならないようになっていたでしょうか。

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