2 判例違反

   本件GPS捜査に重大な違法はないとした原判決は,最高裁判所の判例に反する。

  (1)最判平成15年2月14日

   ア 事案の概要

     最判平成15年2月14日・刑集57巻2号121頁(以下「平成15年判決」という。)は,覚せい剤の自己使用,所持及び窃盗各1件の事案であるが,被告人から採取された尿についての鑑定書,被告人方から押収された覚せい剤等について,違法収集証拠であるとしてその証拠能力が争われた事案である。

     上記被告事件の公判において,本件逮捕状による逮捕手続の違法性が争われ,被告人側から,逮捕時に本件現場において逮捕状が呈示されなかった旨の主張がされたのに対し,前記3名の警察官は,証人として,本件逮捕状を本件現場で被告人に示すとともに被疑事実の要旨を読み聞かせた旨の証言をした。原審は,上記証言を信用せず,警察官は本件逮捕状を本件現場に携行していなかったし,逮捕時に本件逮捕状が呈示されなかったと認定している(この原判決の認定に,採証法則違反の違法は認められない。)。

   イ 判決要旨

     平成15年判決は,以下のとおり判示し,証拠排除法則の適用を認めた。

     「本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていないという手続的な違法があるが,それにとどまらず,警察官は,その手続的な違法を糊塗するため,前記のとおり,逮捕状へ虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言をしているのであって,本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。」

  (2)原審の判断が平成15年判決に相反すること

   ア 平成15年判決の規範

     平成15年判決は,①「本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていないという手続的な違法がある」ことに加えて,②本件全体に対する警察官の態度を総合的に考慮すれば,警察官らが,「逮捕状へ虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言」を行い,「手続的な違法を糊塗」しようとする等,令状主義を潜脱する意図があったと評価できることから,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ない,と判示した。

     すなわち,①手続的違法が存在し,かつ,②本件全体の捜査機関の態度から,令状主義の精神を潜脱する意図があったと評価できる場合には,その違法の程度は,「令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得」ず,ひいては,証拠排除が認められるべきものである。

     以下,本件事案における本件GPS捜査につき,平成15年判決の規範に照らして,その違法の重大性を検討し,その上で原判決と平成15年判決との相反を論じる。

   イ 手続的違法の重大性

    (ア)憲法違反

      前記1(4)で述べたとおり,本件GPS捜査は,強制処分法定主義に反し,憲法31条,35条に違反するとともに,ひいては,憲法13条に違反する。

      そのため,本件GPS捜査は,憲法上定められている極めて重要な人権を侵害する行為であって,そのことのみをもってしても,違法の重大性という評価は免れない。

    (イ)いかなる令状も取得していなかったこと

      前記1(2)で述べたとおり,本件GPS捜査は,法律上認められていない強制処分であって,いかなる令状を取得したとしても行い得ない捜査であった。

      これに対して,捜査機関は,本件GPS捜査に関して,検証許可状を含む令状一切を請求することなく,また,請求する準備もなく同捜査を行ったのであるから(K②84頁),その違法性は,強制処分法定主義違反という重大性を超えた極めて重大なものと言わざるを得ない。

    (ウ)令状発付の実体的要件の欠如

      原判決は,「本件GPS捜査の実施には令状が必要であったと解してみても,その発付の実体的要件は満たしていたと考え得る」と判示し,「警察官らにおいて令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとまでは認め難い」と判断している(原判決9頁~10頁)。しかし,本件捜査状況においては,本件GPS捜査は令状発付の実体的要件を欠いており,この点をもっても,違法の程度は重大である。

     (Ⅰ)目的物の不特定

       Kら捜査官は,偶発的に犯行容疑車両を発見した場合,当該車両の所有者,ナンバーおよび駐車されている場所等,当該車両を具体的に特定する事項につき,決済官より個別の事前承認を得ることなく,Kの独断でGPS端末を当該車両に設置した(K②40~42頁)。この場合,対象車両と他の車両を区別する指標は,「Pらが盗んだ可能性が高いレガシィ,プリウス」というKの主観でしかない(K②41頁)。

       このように対象車両の具体的特定がまったくなされずに実施された本件GPS捜査に対し,令状が発付されることはあり得ない。

       さらにKは,平成25年4月17日,同年6月11日,同年7月16日,同年9月26日,それぞれ明確な終期を定めず,本件GPS捜査を行った(一審検甲100,K②34頁)。実際,同捜査の実施期間は最長で合計約3月間に及んでいる(K②30頁)。

       このように実質的に無期限のもとで実施され,現実にも約3月間に及んだ本件GPS捜査は,合理的に必要かつ相当な時期的制限の下で行われたとは言えず,この点においても令状主義の要請する目的物特定の要件を満たさない(憲法35条1項)。

     (Ⅱ)必要性の不存在

       上述のとおりGPS利用捜査の場合,蓄積する情報の性質・量と,その情報コストの低さに鑑みれば,捜査機関による不当な目的外利用の危険性が極めて大きい。したがって,令状発付の必要性については,判例が要求する,強制処分としての捜索・差押えをしなければ捜査の目的を達し得ないかどうかということを,犯罪の態様,軽重,差押物の証拠としての価値,重要性,差押物が隠滅毀損されるおそれの有無,差押えによって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情により検討すべきとの基準(最決昭和44年3月18日・刑集23巻3号153頁)では足りず,通信傍受法が課する要件,すなわち,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」と同様の高度な必要性を要すると解する(同法3条1項但書)。そして,以下の状況に鑑みると,本件GPS捜査に高度な必要性はなかった。

       Kら捜査官は,遅くとも平成25年6月10日頃までには,本件各犯行の実行犯が,被告人ら4名であることを把握し(一審弁1,K①13~14頁,②14頁),被告人らの犯行時の行動パターンも把握していた(一審弁1,K①17頁)。したがって,少なくとも同日頃以後に行われた本件GPS捜査は,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」には該当せず,必要性がない。

       さらにKら捜査官は,平成25年11月29日,GPS端末を,被告人らの逮捕目的でF女使用車両に取り付けていたが(K②36,39頁),F女は,実質的にも形式的にも本件犯行に関わっていなかった(K②36頁)。また捜査官は,被告人がF女使用車両を使用していたことも確認しておらず,被告人使用車両に準じるとして扱い得るような事実的前提もなかった(K②37頁)。したがって,F女使用車両の位置情報を取得しなければ,本件捜査の目的を達し得ないような状況はなく,この点においても,本件GPS捜査に必要性は認められない(なお,処分を受ける者が第三者である場合,必要性の判断をより慎重に行うべきことは言うまでもない。)。

       以上より,仮に捜査機関が,本件GPS捜査実施のため検証許可状等の令状の発付を請求したとしても,目的物の不特定及び必要性の不存在を理由に,同捜査に対して,令状が発付された余地はない。

    (エ)他の最高裁判例の事案との比較

      また,捜査の違法性を判断した最高裁判例の事案においては,当初,任意処分や所持品検査であったものが,相手方の対応等流動する情勢の中で,相手方の明確な承諾を得なかったことや警察官の行為が行き過ぎにわたったことから,許容される限度を逸脱した,というものであって,そのような事案では,違法行為と適法行為とはある程度の連続性を保っていたのに対し(最判昭和53年9月7日・刑集32巻6号1672頁,最判昭和61年4月25日・刑集40巻3号215頁,最決昭和63年9月16日・刑集42巻7号1051頁,最決平成6年9月16日・刑集48巻6号420頁等),本件においては,当初から本件GPS捜査を行う予定でありながら令状を取得していないのであって,上記のような意味での連続性はない。加えて,逮捕状の呈示等を行った違法が問われ,その後被告人から採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定された平成15年判決ですら,必要な令状(逮捕状)の発付を受けていたのであるから,同事案との比較においても,本件GPS捜査の手続的違法の程度は看過しがたいものである。

    (オ)小括

      本件GPS捜査は,憲法31条,35条に由来する強制処分法定主義に違反するのみならず,いかなる令状を取得しようともしておらず,また,そもそも令状発付の実体的要件も満たしていなかったため,同捜査の法規からの逸脱の程度は極めて大きく,手続的違法は重大である。

   ウ 本件全体の捜査機関の態度

    (ア) Aに対する使用目的の隠匿

      Aは,「B規約」(以下「A規約」という。)において(一審弁3・添付資料20),GPS端末設置車両の所有者,使用者,管理者の同意が得られていないことが明らかな場合は契約の申込を承諾しないものと定め(3条2項),設置車両の所有者,使用者,管理者の同意が得られていないことが判明した場合を無催告解除事由の一つとして定めている(5条3項2号)。

      さらにAは,A規約において,契約者が個人の場合,Bの利用範囲を,契約者本人および同人の同居家族に限定して,サービス対象者等と定め,サービス対象者等以外にBが利用されていることが判明した場合を無催告解除事由の一つとして定めている(5条3項1号)。

      氏名不詳の捜査官は,GPS端末を,捜査対象者の同意を得ずして設置する捜査に使用すること,捜査機関が使用することをそれぞれ秘して,Aに対し契約の申込みを行い,本件GPS端末の交付を受けた。Aは,GPS端末が取付対象者の同意を得ずに使用される予定であること,申込者自身やその同居家族ではなく,捜査機関により使用される予定であることを知悉していれば,使用を許諾しなかったことは明白である。そうすると,同捜査官の行動は,AからGPS端末を詐取したとして,詐欺罪の構成要件に該当する(刑法246条1項,一審弁3・添付資料20,K②70頁)。

      いかなる捜査も,犯罪を構成する行偽を伴うことがあってはならない。本件通達においても,GPS端末の使用要件として,「犯罪を構成するような行為を伴うことなく,次に掲げる物のいずれかに取付けること」を挙げている(一審検甲99)。

      本件GPS捜査は,詐取したGPS端末を利用することを本来的な前提としており,刑罰法規に反するのみならず,本件通達にも反する点で社会通念上到底許容し得ない違法がある。

    (イ)本件GPS捜査における不可避的捜索行為

     (Ⅰ)建造物への侵入

       Kら捜査官は,対象車両にGPS端末の取付け及び取外しに際して,管理権者の同意・承諾を得ることなく,無令状で,少なくとも私有地であるスーパーなどの商業施設,コインパーキング,3カ所のラブホテルの駐車場に侵入した(一審弁6,K②47~48頁)。かかる侵入行為は建造物侵入の構成要件に該当し(刑法130条,O30頁),さらには,憲法33条が定める「侵入」にも該当する。

       Kら捜査官による上記建造物侵入の詳細は,証拠上,直ちに明らかでない。しかし,

     ① GPS端末16台が19台の対象車両に取付けられたこと

     ② 取付期間は最長で約3月間に及ぶこと

     ③ 取付期間中,概ね3日から4日置きに端末の交換あるいはバッテリーの交換が行われており(K②31頁),交換作業は相当多数回,行われていたこと

     ④ 検察官により,GPS端末の取付け,取外し,交換およびバッテリーの交換が,概ね公道上で行われたとの立証は何らされていないこと

      を考慮すると,Kら捜査官による建造物侵入は,相当頻繁に敢行されたと推認される。加えて,上述のとおり,Kら捜査官による建造物侵入は,GPS端末を「犯罪を構成するような行為を伴うことなく」取り付けることを定めた本件通達にも反する。

      そうすると,Kら捜査官による上記建造物侵入は,その客観的態様からして社会通念上到底許容し得ない違法がある。

      特に,一般に,性的行為が行われる場所として認識されているラブホテルの駐車場は,同所に駐車している事実自体,高度に私的な事実であって,プライバシーの合理的期待の高い場所である(実際,本件で捜査官が立ち入ったラブホテルも,カーテン様のもので公道上から内部が見えにくい構造になっている。)。したがって,ラブホテルの駐車場への侵入は一段と違法性の高い行為というべきである。実際,捜査官のLは,本件GPS捜査期間中,複数回,ラブホテルに赴いており(一審弁3添付資料9の2013年9月16日午前3時44分19秒の位置情報履歴),違法性の高い侵入行為が繰り返されていた。

      また,Kは,「利用客であれば出入りが自由である場所」を選んで立入り,「囲繞地」(同人によれば,「完全にフェンスで囲まれて,門扉があって,門扉を開けなければ入れない」場所(K②48頁))であれば立ち入らないようにしていた(K②6),こうした態様での立入りは犯罪を構成しないと判断したと,あたかも故意を否認するかのような証言をしている(K②47頁)。

      他方でKら捜査官は,本件被害品の捜索差押えのためにG駐車場に立ち入る際は,令状を取得している。同駐車場は,「利用客であれば出入りが自由である場所」であり(K②46頁),かつ,「門扉を開けなければ入れない」場所ではなかったため(一審弁42),Kの上記証言によれば,無令状で立ち入ったとしても犯罪を構成しないはずである。それなのに,Kは管理権者の承諾を得たうえで,厳密に手続を周到するために令状執行までしている(K②47頁)。

      このように,建造物侵入罪の構成要件の理解につき,Kの証言と実際の行動は矛盾する。

      Kが本件捜査当時,20年以上の経験を有する捜査官であることも踏まえれば(K①1頁),Kは,ラブホテルの駐車場等私有地に対する無令状立入りが犯罪を構成することは十分に理解したうえで,秘密裡に本件GPS捜査を敢行するため(K②6頁),令状を取得することも,管理権者の承諾を得ることも容易であったのに,あえて建造物侵入に及んだと言うべきである。

     (Ⅱ)対象車両への捜索

       また,本件では,平成25年5月以降,被告人が使用する自動車を含む合計19台の車両にGPS端末が取り付けられた(K①14頁,K②26頁)。その車両への取付方法は,以下のとおりである。

       Kら捜査官は,被告人の使用車両であるポルシェにGPS端末を設置する際,車体の下に完全に潜り込み,車体の中央あたり,具体的にはマフラーと車体の間の狭い部分にGPS端末を取付けた(被告人供述)。

       また,捜査官は,Q使用の原動機付自転車(ヤマハアクシス)に対して,プラスドライバーを使用してアンダーカウルを外し,アンダーカウルとフレームの間,すなわち車両内部にGPS端末を取付けた(Q26~32頁)。Q使用の原動付自転車への取付けについて,実際に取り付けた捜査官は,O警察官に対して事前に報告,相談することをしていなかった(O26頁)。

       加えて,どの車両への取付けに際しても,GPS端末に磁石を取り付け,自動車の場合には目視不可能な車両の底辺に付着させていた(K②9頁)。

       また,捜査官は,対象車両が修理工場に保管されている場合に,同車両からGPS端末を取り外す際には,修理工等に対して,保管されている車両を見せてほしい旨告げたうえで,取り外すことがあったが,その際,修理工を含め,誰に対してもGPS端末の取外しという目的を伝えていなかった(同18頁)。

       このように,捜査官は,対象車両の構造に照らして,被告人らやその他の第三者が気付かないような箇所,また,衝撃で端末が外れないような箇所を選別したうえで,GPS端末を取り付けていた。その取付箇所は何らかの方法により対象車両と接地面の間に体を入り込ませるか,車両事態を破損または分解しなければ確認できないような箇所であった。このような取付方法は,所有者の所持品の構造,中身を点検している点で,憲法33条でいう「捜索」に該当するものである。特に,Q使用の原動機付自転車については,部品を取り外したうえで所持品の内部を点検しているのであるから,捜索に該当することは明らかである。

       しかし,捜査官は,それらの捜索行為を無令状で執行しており,その点でも本件GPS捜査の悪質性が指摘できる。

    (ウ)令状主義軽視の態度

      捜査機関は,本件GPS捜査と並行して,平成25年5月以降,昼夜を問わず,行動確認捜査と称し,被告人らを執拗に追尾監視していた。

      同捜査をする中で,捜査機関は,平成25年10月2日から翌3日にかけて,被告人の居宅であったHハイツの共用部分に,同ハイツの所有者及び管理者の承諾なく,無断で立ち入り,ハンディカメラで同ハイツの共用部分を撮影した(原審弁1添付資料7,8,9,10,11)。この捜査は,原則として,居住者,所有者又は管理者のみが立ち入りを許されている場所に侵入する行為であって,捜索に当たるものの,捜査機関は,何らの令状を取得することなく,同捜査を行っていた。

      また,一審決定が認定したとおり,捜査機関は,Q方の集合住宅の共同玄関内郵便受けの投函口の隙間から,Qや同住宅の管理者の承諾を得ることなく,無断で,その内部の郵便物を撮影していた(一審決定4頁)。これは,検証又は捜索に当たる行為であるが,前記同様,捜査機関は,何らの令状を取得することなく,同捜査を行っていた。

      このように,本件GPS捜査と並行して行われていた本件における捜査の中でも,強制処分に当たる捜査を無令状執行しており,そのような捜査態様に本件捜査機関の司法審査軽視の姿勢が見て取れる。

    (エ)警察比例原則違反

      警察権の発動に際しては,目的達成のためにいくつかの手段が考えられる場合においても,目的達成の障害の程度と比例する限度においてのみ,これを行使することが妥当とされる(警察比例の原則,警職法1条2項)。

      Kら捜査官は,本件とは関わりのないF女使用車両も含めた19台の車両に対し,最長3月間,本件GPS捜査を実施した。平成25年11月29日には,「早期身柄の確保(逮捕)を行うため」に,GPS端末を新たに5台借入れている(一審検甲100)。

      Kら捜査官は,同日時点で,すでに被告人および共犯者らの潜伏先を把握していたのであるから,単に被告人らの「身柄の確保」をするために本件GPS捜査を継続する必要性はなかった。

      Kは,19台の車両に対し本件GPS捜査を実施した点につき,対象車両を厳選したと証言している(K②35頁)。しかし,Kは,現実に被告人が使用した事実すら確認することもせず,単に被告人が使用する蓋然性が高いとの判断だけで,F女使用車両にGPS端末を取付けている(K②37頁)。このようにKら捜査官には,捜査対象を極力限定しようとする態度は看取されない。

      さらに,GPS端末を利用した捜査は,平成14年から行われており(M証言),平成18年6月30日には,警察庁から本件通達が発せられていた(一審検甲99)。また,捜査機関がGPS端末を利用する場合には,警察内部で作成された捜査第三課長宛の「移動追跡装置用公借書」という文書を用いて借り入れされていた(一審検甲100)。このように,本件GPS捜査のようなGPS端末を利用した捜査は,判明している限りでも10年以上の長きにわたって組織的に行われているものであり,かかる状況は今後も続くことが想定される(K②37~38頁,67頁)。加えて,捜査機関は,本件GPS捜査に関して,検証許可状を取得できる程度の捜査でなければ,GPS端末を利用してはならないとの認識がありながらも,実際には任意処分との前提で令状を取得していないことからして(K②84頁),組織体として令状主義を潜脱する意図があったものとうかがえる。

      かかる組織性も踏まえれば,本件GPS捜査の手法は地引き網的な捜査と評価せざるを得ず,上記警察比例の原則に対する尊重の姿勢は微塵も認められない。

    (オ)証言態度

      また,捜査官の公判廷における証言態度にも,本件GPS捜査を断行した捜査機関の悪質性が如実に表れている。

      すなわち,Kは,R事件の被害車両であるスバルレガシィへのGPS端末の取付時期について,平成25年8月7日午前1時過ぎであると証言している(K②59頁)。しかし,同車両へ取り付けたGPS端末の位置情報履歴によれば,Kは,同月6日午後10時33分35秒に,同車両が駐車していたI駐車場の位置情報を取得していたことが分かり(一審弁3添付資料7・12頁(履歴番号688),一審弁36),遅くとも同時刻までには,GPS端末を同車両へ取り付けていたことが分かる。これに対して,Kは,その時点ではまだGPS端末は捜査機関が保管していた,同駐車場の位置情報を取得したのも,その付近で同車両を探しながらGPS端末で検索をしていたためである,位置情報は取得したが誤差があるため同車両は発見できなかった等と不合理な弁解に終始している(K②59頁~61頁)。

      また,KやOは,証人尋問において,本件以外にGPS利用捜査を行ったことがあるか否かにつき,証言を拒否する態度を示していた(K②66頁~67頁,O17頁)。

      加えて,Kら捜査官は,本件GPS捜査を秘密裡に実施するため,たびたび建造物侵入に及んだが,かかる侵入につき,「犯罪を構成しないと判断した。」とのKの証言は,G駐車場への令状執行と対比すると,同人ら捜査官が繰り返した建造物侵入を糊塗するための方便でしかなく,まったく信用できない。このような建造物侵入を隠蔽しようとするKの態度は,他の証言からも看取される。Kは,平成25年7月下旬頃,被告人使用車両であるポルシェからGPS端末を取り外した,同車は修理工場に入っていたので,管理者に警察ですという声を掛けたうえで,同端末を取り外したと証言している(K②18頁)。しかし,この点につき,被告人は,平成25年7月下旬頃,ポルシェを大東市所在のJという修理工場へ出したが,同工場の管理者から,捜査機関による立入りを受けた事実はなかった旨聞いたと供述している(被告人供述)。上記工場の管理者は,捜査機関による立入りがあれば明確に記憶しているはずであるから,被告人の上記供述は十分に信用できる。そうすると,「管理者に警察ですという声を掛けた」との上記K証言は信用できず,Kら捜査官は,平成25年7月下旬頃,上記工場の管理権者の承諾なくその敷地内へ侵入し,秘密裡にGPS端末を取り外したことになる。この点においても,Kは,同人ら捜査官の犯行を隠蔽するため,あえて虚偽供述に及んでいる。

      このような捜査官の公判廷における証言態度は,捜査機関による本件GPS捜査の悪質性,隠匿性を物語るものであり,その悪性は看過しがたいものがある。

    (カ)小括

      このように,本件における捜査機関は,本件GPS捜査を行うにあたって,Aに対してその使用目的を隠匿してGPS端末を借り受け,その取付け,取外しに際しても無令状による捜索行為を繰り返す等し,また,公判廷における証言態度にも司法軽視の姿勢が表れている。

   エ 平成15年判決との相反性

    (ア)手続的違法の存在

      本件GPS捜査は,前記イ,(ア)記載のとおり,憲法に違反し,かつ,強制処分法定主義にも違反することから,重大な手続違法が認められることは明らかである。

    (イ)本件全体における捜査機関の態度

      本件における捜査機関は,捜査段階,公判段階を通しての態度に鑑みれば,令状主義の精神を潜脱する意図があったと評価できる。

      平成15年判決は,逮捕状は取得したが,当初から提示する意図が無く,違法状態が生じ,それを隠すために虚偽の報告書,証言を行った事案であるのに対して,本件では,本件GPS捜査に関して,そもそも令状請求すらしておらず,司法審査を経ようという意識がない上に,本件通達という内規も遵守する意図がない。さらには,その他の無令状執行に関しては,令状が必要であるとの認識が明確にあるにもかかわらず,あえて違法行為に及んでおり,故意行為で悪質である,という相違がある。

      すなわち,平成15年判決は令状主義の枠内での問題であるが,本件GPS捜査はそもそも令状主義の適用を回避しており,潜脱の度合いは大きい(+警察官らは故意があった。)。

    (ウ)まとめ

      前記(ア)(イ)より,本件GPS捜査は,令状主義の精神を没却する重大な違法が存在する。

      それにもかかわらず,原判決は,本件GPS捜査に重大な違法が存在しないと判示しており,これは,平成15年判決が示した規範に反することは明らかである。

  (3)小括

    以上のとおり,原判決は,最高裁判所の判例と相反する判断をしたから,破棄を免れない(刑訴法405条2号,410条1項本文)。

第3 著反正義事由による職権破棄

 1 判決に影響を及ぼすべき法令の違反

  (1)強制処分法定主義に関する解釈の誤り

    上述のとおり,本件GPS捜査は本件当時捜査の手段として法律上認められていなかった強制処分であり,同捜査により得られた証拠能力は否定されるべきであるから,これを肯定した原判決は破棄されるべきである。

   ア 憲法上の要請

     GPS利用捜査は,憲法13条に由来するプライバシーに対する重大な制約となる行為であることは詳述した。よって,これを行うとしても,憲法35条が定める令状主義の規則に服するとともに,憲法31条が定める適正な手続が保障されなければならない。

   イ 「必要な処分」としては行い得ないこと

     GPS利用捜査が検証としての性質を有することは一審決定の述べるとおりであるが,同捜査により取得される位置情報の対象には,犯罪と無関係な位置情報が混入する可能性は否定できない。また,位置情報の取得中,取得すべき位置情報であるか否かを判断するためには,選別的な取得行為を実施することは不可欠である。さらに,対象車両に対してGPS端末及びバッテリーを着脱するに際して,対象車両に物理的に侵入する行為も不可避である。対象車両が公道上に位置しない場合は,私有地への侵入行為を伴う場合もある。

     GPS利用捜査を実施するための前段階の付随的な処分に過ぎないこれらの行為を,刑訴法129条所定の「必要な処分」に含めることは,刑訴法の解釈として成立しない。この点で,GPS利用捜査を刑訴法上の検証として行うことはできない。

   ウ 告知及び不服申立規定を欠くこと

     GPS利用捜査にあっては,その性質上令状の事前呈示の要件(刑訴法222条1項,110条)を満たすことができないのはやむを得ない。しかし,適正手続の保障の見地から,少なくとも位置情報取得後合理的な期間内に処分対象者に対し,処分の内容について告知をすることを要する。また,位置情報の取得は,情報の押収という側面も有するから,違法な位置情報の取得が行われたときは,処分対象者に対し原状回復のための不服申立ての途が保障されていなければならない。ところが,検証については,郵便物等の押収に関する処分対象者への事後通知(刑訴法100条3項)のような規定はなく,また「押収に関する裁判又は処分」として準抗告の対象とすること(刑訴法429条1項,430条1項,2項)も認められていない。このように事後の告知及び不服申立ての各規定を欠く点で,GPS利用捜査を刑訴法上の検証として行うことは,許されない。

   エ 強制処分法定主義違反

     上記イ及びウの2点において,GPS利用捜査を刑訴法上の検証として行うことはできない。また他に本件当時,GPS利用捜査を捜査の手段として許容する法律上の根拠が存在したとも認められない。

     したがって,GPS利用捜査は,本件当時捜査の手段として法律上認められていなかったものでありから,本件GPS捜査は,強制処分法定主義に反し違法との評価を免れない。

     原判決は,上述のとおり,本件GPS捜査を強制処分と解する余地を認めておきながら,刑訴法上の検証その他の強制処分に該当すると明示せずに,同捜査が強制処分法定主義に反しないと判断したが,刑訴法197条1項但書の解釈を誤った謬見というべきである。

   オ 判決に影響を及ぼすこと

     そして,本件GPS捜査の違法は,法律上許容されない強制処分を大規模かつ継続的に実施したという点において,令状主義の精神を没却するような重大な違法に当たるから,本件GPS捜査により得られた全ての証拠の証拠能力は否定されねばならない(最判昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁)。

   カ 小括

     したがって,本件GPS捜査により得られた証拠の証拠能力を肯定した原判決は,刑訴法197条1項但書に違反し,その違法は判決に影響を及ぼし,原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。

  (2)違法収集証拠排除法則に関するあてはめの誤り

   ア 違法収集証拠排除法則が刑訴法上要求されていること

     前記昭和53年判例は,刑訴法上,証拠物の押収等の手続に,「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定される」として,いわゆる違法収集証拠排除法則を確立させた。

     したがって,同法則の適用も刑訴法上の解釈として求められているところである。

   イ 結論においての原判決の誤り

     前記第2,2,(2)で述べたとおり,本件GPS捜査には極めて重大な違法があるところ,原判決は,「本件GPS捜査に重大な違法があったとみることはできない。」と結論付けている。そのため,違法の程度に関して,重大な誤りがあると指摘できる。

   ウ 捜査の必要性は存しないこと

     また,原判決は,本件GPS捜査の必要性に関して,「被告人ら犯人グループは,一連の窃盗事件について相当程度の嫌疑が存した上,夜間に車で高速度で広域移動をし,ごく短時間のうちに犯行を遂げるということを繰り返しており,また,摘発等への警戒を強めている様子もあって,このような被告人らに対し所要の行動確認等を行っていく上では,尾行や張り込みだけではなく,それと併せて,GPSを用いた関係車両の位置探索を実施する必要性が認められる」と判示し,本件GPS捜査の必要性を判断している。

     しかし,捜査機関は,平成25年2月の時点で被告人の立ち回り先の1つとしてP会事務所を把握し,遅くとも同年4月ころまでには被告人の共犯者を全て把握していた。また,同年6月20日,S事件の現場に犯人が遺留したマスクに付着したDNAが,被告人のDNAと一致したと言う鑑定結果が出ていた。さらに,遅くとも同年8月6日午後10時33分ころまでに,R事件の被害車両であるスバルレガシィがI駐車場に駐車されていることを把握していた(一審弁3添付資料7・12頁(履歴番号688),一審弁36)。その上,同月7日,被告人らが刊行したT事件,U事件,V事件を現認し,同日午後0時45分には上記スバルレガシィがG駐車場に駐車された事実も把握していた(一審弁3添付資料7・15頁(履歴番号869),一審弁40,一審弁42)。そのような中,捜査機関は,遅くとも平成25年4月18日から同年12月4日ころまでの間,複数台の固定ビデオカメラやハンディデジタルビデオカメラを用いて,昼夜問わず,400時間以上の長時間にわたり,私的空間を含む複数の場所から執拗に尾行,張り込みを行い,被告人らの行動確認捜査と称する捜査を継続していた。

     このように,捜査機関は,被告人の立ち回り先や被告人の共犯者全員を把握していたのであるから,上記のような行動確認捜査に加えて,重大な違法性のある本件GPS捜査を実施すべき必要性はおよそ存在していなかった。原判決のいう「所要の行動確認等」がどのような内容を言うものか定かではないが,少なくとも,共犯者の把握や組織性の解明といった目的で捜査をすべき必要性は存在しない状況にあった。

     したがって,本件GPS捜査を実施する必要性は存せず,その必要性の存在を理由として本件GPS捜査に重大な違法がないと断ずる原判決は誤りという他ない。

   エ 関連性の程度を問わないこと

     本件GPS捜査は,収集された証拠との関連性の程度を問わない程の重大な違法を帯びる捜査であるところ,原判決は本件GPS捜査に重大な違法がないと判断し,排除されるべき証拠検討は一切していない。その点においても,違法収集証拠排除法則の適用に関して原判決には看過しがたい誤りがあると指摘できる。

   オ 排除の相当性

    (ア)総論

      違法の重大性とは別に前記最高裁昭和53年9月7日第1小法廷判決が証拠排除の要件として掲げた「これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認めるとき」とは,例外的に「違法の重大性」はあっても排除するのは相当でない場合が考えられるという趣旨の判示と解されており,このような場合とは,たとえば,証拠排除という形での抑止を必要とするほどの事実的前提がない場合(たまさかの違法捜査)をいう。

      しかし,本件において本件GPS捜査を,「たまさかの違法捜査」と評価すべき事情は一切存在しない。したがって,極めて重大な違法性を帯びる本件GPS捜査により取得された証拠及びその証拠と関連する第二次的証拠は排除されなければならない。

      また,本件GPS捜査については,以下のとおり,将来の違法捜査を抑止すべき要請が極めて強く,それにより直接収集された証拠はもちろんのこと,第二次的証拠もおしなべて排除されなければならない。

    (イ)萎縮性

      前記第2,1,(1),イ,(ウ)で述べたとおり,GPS利用捜査は,他の基本権に対する萎縮効果が極めて大きい。すなわち,GPS利用捜査により侵害されるプライバシーは,位置情報にとどまらず,個人の趣味嗜好,思想信条にまで及ぶため(一審弁12・5頁),そのような捜査が対象者の認識なく,秘密裡に行われることにより,一般市民の行動の自由は大きく委縮されることとなる。

    (ウ)本件通達の形骸化

      本件通達においては,GPS端末を捜査で利用する場合には事前に主管課長から承認を得なければならないとされている(一審検甲99)。しかし,本件GPS捜査において,KはOから,GPS端末の利用に関して,犯行容疑車両への取付けという概括的な承諾しか得ておらず(O24頁),対象車両を特定して承諾を得ていたわけではなかった(K②41頁)。

      また,本件通達によれば,主管課長がGPS端末の利用の必要性につき見直しを行うこととされている(一審検甲99)。その運用に関して,Oは,捜査三課課長と週2回,本件GPS捜査の必要性を話し合っていたと証言している(O31頁)。しかし,その内容は,具体的にGPS端末の必要性を議論するものではなくOから捜査三課課長へ一方的かつ事務的に報告するものにすぎなかった(O32頁)。したがって,そこでGPS端末の利用の要否や私有地内への立入りの違法性等について実質的に議論されたことはなかった(O34頁)。

      加えて,本件通達においては,GPS端末の取付けの対象車両として「被疑者の使用車両」が挙げられていたものの(一審検甲99),本件GPS捜査においては,被疑者が使用する蓋然性さえあれば,上記「被疑者の使用車両」に該当すると解釈し(K②37頁,O22頁),F女の使用車両(トヨタ プリウス)にGPS端末を取り付けていた(K①45頁,K②29頁,36頁)。

      このように,本件GPS捜査では,本件通達を適正に運用することなく,いわば形骸化させており,その形骸化は組織的なものであった(K②38頁)。

    (エ)利用可能性

      一般に,警察組織において,GPS情報の利用は広く進められており,例えば,110番通報の際のGPS情報提供,警察車両へのGPS端末の取付け,被災者のGPS情報の取得というように幅広く利活用が進められている(M証言)。したがって,GPS端末の利用の有効性は警察組織も十分に理解しており,具体的な支障がない限りは,GPS利用捜査が続けられるものと推測される。

      実際,本件GPS捜査を実施したKは,GPS端末が有用であり(K②55頁),それがなければ,車両の追跡は絶対に無理であったとし(K②81頁),今後も利用する可能性があることを示唆している(K②67頁)。

      加えて,前述したとおり,GPS端末を利用した捜査は,平成14年から行われており(M証言),平成18年6月30日には,本件通達が警察庁から発せられていた(一審検甲99)。また,捜査機関がGPS端末を利用する場合には,警察内部で作成された「移動追跡装置用公借書」という定型書式の文書が用いられていた(一審検甲100)。このように,本件GPS捜査のようなGPS利用捜査は,判明している限りでも10年以上の長きにわたって組織的に行われているものであり,その状況は今後も続くことが想定される(K②37頁~38頁,67頁)。

      したがって,証拠排除の効果まで生じなければ,その有用性から,警察組織において,今後もGPS利用捜査が進められる可能性は高く,それ故,その捜査を抑止すべき要請は極めて高い。

       Kも,「GPSがなければ追跡は無理ですか」,という質問に対し,「無理です。もう,絶対無理になります。」と回答している(K②81頁)。

       したがって,本件GPS捜査は,任意捜査である尾行と同視できず,強制処分に該当することは明らかである。

     b その他,異なる観点ではあるが,記録性の有無という相違も存在する。すなわち,東京高判平成5年4月14日は,単に目で見るということと,写真に記録するということは質的に異なるという点を指摘しているが,この点も尾行,張り込みとGPS利用捜査の相違として指摘することができる(M証言)。

   オ 判断対象について①-本件GPS捜査における具体的結果や具体的利用方法との関係

    (ア)原判決

      原判決は,「警察官らが,相当期間(時間)にわたり機械的に各車両の位置情報を間断なく取得してこれを蓄積し,それにより過去の位置(移動)情報を網羅的に把握したという事実も認められない」ことから「プライバシー侵害は必ずしも大きくない」と指摘し(原判決8頁),強制処分該当性の消極的事情として認定している。

      しかし,上記原判決は,強制処分該当性判断の方法自体を誤ったものであると言わざるを得ない。

    (イ)強制処分該当性の判断枠組

      強制処分該当性は,本件GPS捜査の位置情報取得「行為」の一般的性質から類型的に判断されるものであり,個別事案における具体的な結果(実際に被った法益侵害の程度)やその他「行為」後の事情は,強制処分性評価に直接的に影響を与えるものではない(7)。(7 酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣,2015年)28~33頁参照。)

      「強制処分」に該当すれば事前に令状審査を行う必要があることからも,「行為」後の具体的事情が強制処分性に無関係であることは明らかである。

      この点に関連し,通信傍受に関する前記最決11年12月16日は,現実にどの程度の通話を傍受したかを考慮することなく,抽象的に「通信の秘密」や「プライバシーを侵害する」旨を認定した上で強制処分性を肯定しており,エックス線検査に関する前記最決平成21年9月8日も「内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能」と当該事案における結果を離れてX線検査という行為が有する技術的特性を判示している。

      このように,上記趣旨は,最高裁判例の立場からも確認することができる。

    (ウ)本件GPS捜査

      本件では,Aとの間の「E契約」に基づく,位置情報取得行為が有する一般的性質によって類型的に処分の性質が決せられる。

      「公道の位置情報が取得されたか,それとも,私有地の位置情報が取得されたか」という結果や,「精度が高い位置情報が取得されたか,それとも,低い精度の位置情報が取得されたか」という結果が強制処分性と無関係であることが導かれるほか,「取得され,固定化された位置情報を,その後,捜査機関が実際にどのように記録,保存,利用したか,あるいは,しなかったか」ということも強制処分性とは無関係であることも導かれる。

      この点,捜査機関が一旦位置情報を取得すれば,当該位置情報は固定化され,システム上,データ保存することができる状況になり(一審弁2,一審弁4),携帯電話に表示された位置情報を記録,保存することも可能である。このように情報の事後的利用についてシステム上の制約はなく,法的な規制もない。

      したがって,位置情報取得行為は,そもそも,このような保存可能,利用可能にする行為を含むものとして評価されるのであり,実際に,捜査機関が当該情報をどのように利用するか,あるいは,利用しないかは,「位置情報取得行為」の性質決定に影響を与えるものではない。

      この点については,証人Mも,写真撮影に関する東京高判平成5年4月14日を引用しながら,本件事案における利用方法(メモを廃棄していたこと)は,捜査の法的性質とは関係ないものであると指摘している(M証言)。

   カ 判断対象について②-検索回数や期間との関係

    (ア)原判決の判示

      原判決は,強制処分該当性に関して,位置情報取得回数や取得期間を問題としている(原判決8頁)。

      しかし,このような原判決の判示も,強制処分該当性判断の方法自体を誤ったものである。

    (イ)回数や期間を問わないこと

      強制処分に該当するか否かは,基本的に侵害されることになる法益の質によって決せられる。また,前記のとおり,強制処分該当性の判断は類型的に判断されるべきものである。

      したがって,対象期間や取得回数などの程度は,処分の性質自体には影響を与えるものでなく,「重大な違法性」の程度の問題である。

      電話傍受に関する前記最決平成11年12月16日も,電話傍受の期間や,傍受時間,回数を考慮することなく,強制処分性を肯定している。

      GPS利用捜査においては,通常,長期・継続的な位置情報取得が予定されており,本件GPS利用捜査も例外ではないが,前記のとおり,GPS位置情報取得により「位置情報プライバシー」という「重要な権利・利益」の侵害を伴うものであるため,そのGPS端末設置期間や位置情報取得回数如何に関わらず強制処分に該当する。

      実務上も,回数や期間によって処分の性質を異にすると解釈すると,運用が困難となり,捜査機関によるGPS利用捜査を規制することができなくなると思われる。

   キ 結論

     以上のとおり,本件GPS捜査によって侵害される位置情報(GPS位置情報)に関するプライバシーは「重要な権利・利益」であるから,強制処分に該当する。

  (2)本件GPS捜査は強制処分法定主義に違反すること

   ア 原判決の判示

     原判決は,弁護人の強制処分法定主義違反の主張に対し,「このようなGPS捜査が,対象車両使用者のプライバシーを大きく侵害するものとして強制処分に当たり,無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしても,少なくとも,本件GPS捜査に重大な違法があるとは解されず,弁護人が主張するように,これが強制処分法定主義に違反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できない。」と判示した(原判決9頁)。

   イ 本項の主張の趣旨

     GPS利用捜査は,本件当時,捜査の手段として刑訴法に定められていない強制処分であるから,本件GPS捜査は,刑訴法197条1項但書に規定する強制処分法定主義に反し,違法である。

   ウ 強制処分法定主義の意義

     刑訴法197条1項但書は,「強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。」と定める。これを強制処分法定主義という。

    (ア)学説の理解

      学説上,強制処分法定主義の意義については,以下のように理解されている(8)。(8 井上正仁『強制捜査と任意捜査 新版』(有斐閣,2014年)28頁,酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣,2015年)23頁等)

      強制処分法定主義は,憲法31条との関連のもと,人の重要な権利・利益を本人の意思に反して制約することを内容とする強制処分は,国民の代表による明示的な選択を体現する法律-中でも,刑事手続に関する基本法典である刑訴法-に根拠規定がない限り,行うことは許されない趣旨と理解される。

      そして,現行刑訴法制定当時予想された処分であるか否かに関係なく,強制処分としての性格を有するものである以上,刑訴法197条1項但書の適用を受ける。

      強制処分法定主義は,そもそも刑事手続において当の処分を用いることを一般的に許すか否かの判断をどのような形式で行うかを定めるものであるのに対し,令状主義は,許すとした場合の条件と個々具体的な処分についての許否の手続を規律するものであり,両者は独自の意義を持つ別個の存在である。

    (イ)最高裁判例の流れ

      貴庁は,強制処分法定主義についての理解を直接示したことはない。もっとも,以下の最高裁判例の流れに徴すれば,強制処分法定主義につき,貴庁も,上記学説と同旨の理解を採るものと推察される。

     (Ⅰ)最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁

       本判例は,任意捜査において許容される有形力の行使の限度等について判示したが,本判例の調査官解説は,刑訴法197条1項但書にいう「強制の処分」については,「刑訴法における逮捕,押収などの強制処分及び受忍義務を課する場合よりも範囲が広く,上記のように,特定の状況における写真撮影など法律上類型化されていない捜査方法をも含んでいる。」と説明している(香城敏麿・最高裁判所判例解説刑事篇昭和51年度8事件71頁)。

       この説明から,本判例が,「強制の処分」を解釈するに際し,学説と同様の理解を前提にしていることが推察される。

     (Ⅱ)最決平成11年12月16日刑集53巻9号1327頁

       検証許可状により電話傍受を行うことの適否について判示した本判例は,弁護人の強制処分法定主義違反の主張に対して,強制処分法定主義違反の有無,すなわち,本件当時電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かに焦点を当てて,かなり詳しい検討を行っている。

       本判例では,電話傍受が刑訴法に規定のない新しい強制処分であると位置づけた上で,専ら令状主義の観点からその許容性を判断するとの論証はされていない。

       この点から,本判例が,強制処分法定主義の意義につき,学説と同様の理解を前提としていることが推察される。

     (Ⅲ)最決平成21年9月28日刑集63巻7号868頁

       本判例は,梱包内容のエックス線検査の法的性質について,「検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。」と判示した。

       本判例の調査官解説は,「もっとも,覚せい剤譲受け事犯に関する宅配便荷物に対するエックス線検査において,電話傍受のような一定期間継続する処分(一種のモニタリング)まで許可し得るかは別論であろう。」,本決定は「従来の検証対象ごとの検証許可状とは異なる新たな形態の検証許可状(一種のモニタリングを許すもの)を念頭に置いた判示と見ることはできないと解される。」と説明する(増田啓祐・最高裁判所判例解説刑事篇平成21年度18事件396~397頁)。

       上記説明は,本判例が,解釈によって新たな形態の検証許可状を作出したものではないことを確認しているが,これは強制処分法定主義につき,学説と同様の理解を前提としたものと評価すべきである。

    (ウ)判例の評価

      判例は既に昭和51年から,刑訴法197条1項の解釈に際して,学説と同様の理解を採る態度を示し,その後,刑訴法制定当時予想されていなかった処分-電話傍受,エックス線検査-の性質を決する際にも,こうした理解を前提にした判断を示してきた。

      かかる判例の流れに徴するとき,貴庁も強制処分法定主義の意義について,学説と同様の理解を前提としているとみるのが相当である。

    (エ)小括

      刑訴法197条1項但書の文言もあわせれば,強制処分法定主義の意義については,上記イで示した学説と同様の理解を採るべきであり,かかる理解は,貴庁も共有していると推察される。

   エ 本件GPS捜査は強制処分法定主義に反する

     次に,前記理解を前提に,本件GPS捜査が強制処分法定主義に反することを主張する。

     詳述したとおり,GPS利用捜査は,その実施態様に関わらず強制処分と解すべきであるから,本件GPS捜査は,強制処分である。原判決も,本件GPS捜査の法的性質につき,強制処分と解する余地があることを認めている。

     したがって,本件GPS捜査は,強制処分法定主義の規律を受ける。そして,GPS利用捜査は,以下述べるとおり,検証その他刑訴法上法定されている強制処分に該当しないから,本件GPS捜査は,刑訴法197条1項但書が定める強制処分法定主義に違反し,令状の有無を問わず適法に実施することはできない。

    (ア)検証説は採用できない

      一審決定は,弁護人の強制処分法定主義違反の主張に対して,本件GPS捜査は検証に該当すると判断した(一審決定10頁,以下「検証説」という。)。また,GPS利用捜査の適法性が争われている裁判例においても,検証説がたびたび採用されている(上記名古屋地判平成27年12月24日,上記水戸地決平成28年1月22日)。

      弁護人は,第一審以来,検証説の不当性を指摘してきたが,以下,改めて,同説は採用し得ないことを主張する。

     (Ⅰ)判断枠組み

       本件GPS捜査を刑訴法上の「検証」と解釈し得るかは,検証としての性質を有することにくわえ,刑訴法の関連規定の解釈をも総合して,法律上それが許されるか否かを考察することを要する(9)。(9 通信傍受につき同旨,池田修・飯田喜信・最高裁判所判例解説刑事篇平成11年度12事件229頁)

       一審決定は,「本件GPS捜査は,携帯電話機等の画面上に表示されたGPS端末の位置情報を,捜査官が五官の作用によって観察するものであるから,検証としての性質を有するというべきである。」と説示した(一審決定10頁)。

       弁護人も,本件GPS捜査が検証としての性質を有することは争わない。しかし,刑訴法の関連規定の解釈をも総合すれば,本件GPS捜査を刑訴法上の「検証」と解釈することはできない。

     (Ⅱ)解釈による新たな強制処分の作出である

       GPS利用捜査の問題は,情報の蓄積にある。くわえて,蓄積する情報の性質・量とその情報コストの低さとに鑑みた場合,捜査機関による不当な目的外利用のおそれが極めて大きい。この問題点に鑑みた場合,GPS利用捜査に対しては,監視期限を付さなければ捜査活動を適正化できず,刑訴法上の強制処分規定では実施できないことになる。この場合,たとえば監視期限付きの令状を用いることは,解釈によって新たな強制処分を作り出すに等しく,刑訴法上,許容されない(10)。(10 稻谷龍彦「情報技術の革新と刑事手続」井上=川出編『刑事訴訟法の争点』(有斐閣,2013年)41頁。なお,緑大輔「監視型捜査における情報取得時の法的規律」法律時報87巻5号65頁も,「(GPS利用捜査による)情報取得行為の「上限」を終局的に判断するのに適した機関は,現在の統治機構においては,国会であろう。個別事案の解決を超えて,一般的なルールとしての権利・利益の制約の上限を設定するには,裁判所はふさわしい機関とは言い難い。」と論じ,令状主義による監視型捜査の制御には問題があるとする。)

     (Ⅲ)通信・会話傍受との類似性

       GPS利用捜査を刑訴法上の「検証」と解することの限界,不当性については,通信・会話傍受との性質上の類似からも裏付けられる。周知のとおり判例は,限定された範囲・条件の下で電話での通話を傍受することは,現行法上の「検証」として許されるとした(上記最決平成11年12月16日)。しかし同判例の多数意見に対しては,元原利文裁判官により,対象以外の通信・会話傍受の不可避性,対象者への事後告知の必要性を理由に,電話傍受を検証と解し得ないとの反対意見が付されている。

       学説上も,該当性判断のために必要な範囲に限るとはいえ,検証令状だけで,無関係のものを含む通信・会話のすべてにつき,傍受を行うことを正当化することはできないこと,検証の場合には,差押えの場合に要求されるような事後的な告知は必要とされておらず,処分がなされたという事実についてすら不知のままに置かれてしまうこと,違法に傍受が行われた場合には,それを取り消して原状回復を図る機会があることが肝要であるのに,「検証」の枠内にとどまる限り,そのような機会は与えられないこと等を理由にして,通信・会話の傍受を検証と解することの限界が指摘されていた(11)。(11 井上正仁『捜査手段としての通信・会話の傍受』(有斐閣,1997年)91~107頁)

       かかる議論の中,検証許可状による電話傍受については,従来の強制処分と異なり,継続的,密行的に通信の秘密を制約する処分であることから,このような捜査方法が認められる犯罪を限定するなど厳格な要件を設けることや,関係者の権利保護に関する手続を整備するなど従来の強制処分とは異なる取扱いが必要であり,そのため,設けるべき規定も多数にのぼるため,電気通信の傍受を行う強制の処分ができる旨の根拠を刑訴法に定めた上,その具体的な要件,手続等については,別の法律に定めることとされたものである。この規定を受けて別にその要件等を定めた法律が通信傍受法である(12)。(12 三浦守ほか「組織的犯罪対策関連三法の解説(七)」法曹時報52巻11号34~35頁)

       GPS利用捜査は,通信・会話傍受同様,継続性および密行性を本来的性質とする。さらに,上記元原反対意見および上記学説が述べる通信・会話傍受の各性質,すなわち,①対象以外の通信・会話傍受の不可避性,②傍受された内容を除去することは不可能であること,③令状の事前呈示の欠如,④将来発生する犯罪の解明・摘発をも目的とすること,⑤対象者が傍受の事実および記録内容を知悉し得ないことについては,すべてGPS利用捜査についても妥当する。それどころか,GPS利用捜査の場合,蓄積する情報の性質・量と,その情報コストの低さとに鑑みれば,捜査機関による不当な目的外利用の危険性は,通信・傍受のそれよりも大きいとさえ言える。

       実際,通信傍受法に基づき,警察が平成26年に傍受した件数は,全国で26件に過ぎないのに対し(一審弁15),平成25年に捜査官が大阪府警察本部刑事部捜査第三課から公借したGPS端末は,少なくとも73台にのぼる(一審検甲100)。対象年の相違を措くとしても,大阪府警察本部捜査第三課だけで,全国で実施された通信傍受の約3倍ものGPS利用捜査が1年間に実施されていることになる。

       そして,本件GPS捜査においても,最長計3ヶ月間,第三者使用の車両を含む合計19台の車両に対し,少なくとも16台のGPS端末が取付けられ,不可避的に各公訴事実と関連性のない位置情報が大量に取得・保存されている(一審弁3)。こうしたGPS利用捜査の実施状況は,捜査機関による不当な目的外利用の危険性を示している。

       そうすると,GPS利用捜査については,単に検証としての性質を有することを理由にして刑訴法上の「検証」と解することはできず,通信傍受法同様,あるいはそれ以上の厳格な要件を課した立法が具備されない限り適法に行い得ない。

     (Ⅳ)小括

       以上のとおり,検証説には重大な問題点があり,刑訴法の関連規定の解釈をも総合した場合,本件GPS捜査を刑訴法上の「検証」と解釈することはできない。

    (イ)その他の強制処分

      GPS利用捜査を現行刑訴法上,検証以外の強制処分とみる余地がないことについては贅言を要しない。

    (ウ)なお,GPS利用捜査の法的性質が,その実施態様を問わず強制処分である以上,特別の根拠規定によりその要件・手続が法定・明示されていない場合には,そのような捜査手段を行使することは許されず,もし実行すれば強制処分法定主義に違反し直ちに違法である(13)。(13 酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣,2015年)32頁)いかに必要性・緊急性等があろうとも,個別事案の具体的状況により強制処分法定主義を弛緩させることは許されないのは当然であり,ここでの法的判断は,飽くまでも類型的該当性判断であることを念のため確認しておく。

      以上より,本件GPS捜査は強制処分法定主義に反し,令状の有無を問わず適法に実施し得ない。

   オ 原判決の誤り

    (ア)原判決の判示内容

      原判決は,本件GPS捜査につき,「これが強制処分法定主義に違反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できない。」と判示した。

    (イ)原判決の誤り

      強制処分法定主義の意義につき,上記ウの理解を前提とする限り,本件GPS捜査が強制処分法定主義に違反しないというためには,

      ① 本件GPS捜査は,任意処分である。

      ② 本件GPS捜査は,強制処分であるが,刑訴法上法定されている。

      のいずれかの理由に拠るほかない。

      しかるに原判決は,これらの理由のいずれも明示することなく,強制処分法定主義違反の主張を排斥した。GPS利用捜査の法的性質が,実施態様により左右されるという見解の不当性は詳述したが,かかる見解を前提にしてみても,本件GPS捜査の強制処分性を否定し切れない以上,上記②の理由を明示しなければ,強制処分法定主義違反の主張を排斥できないはずである。

      かかる判示は,プライバシーという現代社会における最も重要な人権を侵害する捜査手法を,法律による明文規定なしに許容するものであり,強制処分法定主義の意義を没却するとともに,ひいては,憲法31条を空文化させる謬見との誹りを免れない。

      なお,捜査機関の活動を事後的に評価する適否判断の第一段階は,処分の性質決定である。法的判断である性質決定に中間的領域はない。本件GPS捜査の性質決定につき,明快な態度を示さない原判決は,この意味においても致命的欠陥を有している。

    (ウ)「新たな強制処分」説の不当性

      原判決は,本件GPS捜査に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるか否かを検討し,これを消極に解した上で,一足飛びに強制処分法定主義違反の主張を排斥している。およそ令状さえ取得すれば,立法を具備しなくとも,GPS利用捜査を実施し得るかに読める。

      こうした説示から,原判決が,強制処分法定主義の意義,とりわけ強制処分法定主義と令状主義との関係につき,上記ウの理解と根本的に異なる立場を採っている疑いがある。

      この点,刑訴法197条1項但書にいう「強制の処分」については,夙に「新たな強制処分」説が提唱されていた(14)。(14 田宮裕『捜査の構造』(有斐閣,1971年)258~259頁)

      この説は,刑訴法197条1項但書にいう「強制の処分」を,現に刑訴法上に規定のある逮捕,勾留,捜索,差押え,検証などの伝統的な強制処分と解する。これに対して,通信・会話の傍受や写真撮影などの比較的最近問題となってきたような新たなタイプのものは,刑訴法制定時に立法者がおよそ想定していなかったものであるから,その但書の規定は適用されない。ただ,それらの新たなタイプの強制処分も,憲法の令状主義の支配は受けるから,その解釈として導かれる要件を充たす必要はあるが,それを実質的に充たしている限り,刑訴法に明示の根拠規定がなくても許される,というものである。

      「新たな強制処分」説からは,GPS利用捜査は,刑訴法制定当時に想定されていなかった「新たな強制処分」であるとして,刑訴法上に明定されていなくとも,令状主義の精神が生きる形で裁判所が規律すれば許容されることになる。

      原判決は,GPS利用捜査を「新たな強制処分」と明言していないから,「新たな強制処分」説に依拠したとはいえない。しかし,その説示から,原判決が,少なくとも「新たな強制処分」説同様に,GPS利用捜査の許否は専ら令状主義の精神が没却されるような重大な違法の有無を問えば足り,刑訴法197条1項但書の適用はないと理解していることが読み取れる。この点で,原判決と「新たな強制処分」説の親和性を認めることができる。

      しかし,「新たな強制処分」説は採用できない。現行刑訴法制定当時予想された処分であるか否かに関係なく,本件GPS捜査が強制処分性を有する以上,刑訴法197条1項但書の適用を受けると解するべきである。

      同説のように,刑訴法197条1項但書にいう「強制の処分」とは,刑訴法に規定があるものばかりとすると,すべて許されるということにほかならない。これでは,その但書の規定は,ほとんど実質的な意味のないものとなってしまう。

      また,「新たな強制処分」説は判例による法形成を狙ったものといえるが,裁判所の判断は,あくまで個々の事件の解決を旨とするものであり,そのような専ら個別の事案の特殊な文脈のもとで,新たな強制処分を許容するかどうかというような-基本的な価値選択を伴い,波及性も大きい-問題について判断することが適切かは疑問である。

      しかも,判例による問題解決は,個別的・断片的なものであるので,当の強制処分の要件や手続に関する法の内容が不明確なままにとどまったり,極めて複雑なものとなったりするおそれがある。捜査機関の対応や令状実務の上でも,非常に混乱を来すことが懸念される(15)。(15 井上正仁『強制捜査と任意捜査 新版』(有斐閣,2014年)26~29頁)

      そして既に上記最決昭和51年3月16日の調査官解説においても,法文の文言と調和しないことを理由に「新たな強制処分」説は妥当ではないとの理解が示されていたこと(上記香城判例解説71頁),管見の限り,同判例以降も,「新たな強制処分」説に依拠したと思われる最高裁判例も存しないことに鑑みれば,判例が「新たな強制処分」説を採用しているとみることもできない。

      学説・判例上も「新たな強制処分」説は採用されておらず,同説と同様に,刑訴法に明定されていない強制処分の実施を許容したかにも読める原判決は,単に粗雑な法解釈であるのみならず,理論上も全く相当ではない。

    (エ)主張立証責任は検察官にあること

      なお,本件GPS捜査の強制処分性を否定し切れない以上,少なくとも同捜査は,強制処分法定主義違反の推定を受けるというべきである。

      したがって,飽くまでも検察官が,本件GPS捜査の合法性を主張立証して,かかる違法の推定を覆す責任を負うのであり,被告人に同捜査の違法性についての主張立証責任がある訳ではない。

      原判決は,検察官から,検証説その他,本件GPS捜査が刑訴法上明定された強制処分であるとの積極的主張立証がないにも関わらず,強制処分法定主義違反の主張を排除した点においても重大な問題がある。

    (オ)小括

      このように,原判決は,何らの理由も示さずに強制処分法定主義違反の主張を排斥した。憲法31条に由来する強制処分法定主義の意義を軽視し,あえて法文の文言と調和しない解釈をしたとの誹りを免れない。

      よって,原判決には,少なくとも刑訴法197条1項但書の解釈を誤った違法がある。

  (3)原判決は憲法31条,35条及び13条に反する

   ア 本項の主張の趣旨

     本件GPS捜査が強制処分法定主義に反しないとした原判決は,憲法31条,35条に反し,ひいては憲法13条に反する。

   イ 憲法上の権利の侵害

     本件GPS捜査は,以下の憲法上の権利を侵害する。

    (ア)適正手続の保障(憲法31条)を侵害する

      既にみたとおり,立法の根拠付けを欠いた本件GPS捜査は,刑訴法197条1項但書が定める強制処分法定主義に反し,違法である。

      また,強制処分法定主義は,適正手続原則を定めた憲法31条を根拠とする。したがって,罪刑法定主義が刑法の類推適用を禁じるのと同様,憲法31条を根拠とする強制処分法定主義は,厳格な解釈を要求する。本件GPS捜査のように,本来の意味で強制処分といえるものについては,強制処分法定主義を堅持し,立法による明確な根拠付けを必須とする。

      したがって,立法の根拠付けを欠いた本件GPS捜査は,憲法31条に定められた適正手続の保障を侵害する。

    (イ)個人のプライバシー(憲法35条,13条)を侵害する

      詳述したとおり,GPS利用捜査によって侵害制約される法益は,位置情報という個人のプライバシーであり,同捜査は,憲法35条の保障する領域への「侵入」と「捜索」「押収」に該当するとともに,憲法13条に由来する人格的利益として,みだりに位置情報を第三者に取得されないという自由・期待を制約する。

    (ウ)小括

      以上より,GPS利用捜査を憲法上規制する根拠として,憲法31条,35条,13条が考えられるが,これらは実質的に相互に排斥し合うものではなく,各規定に基づく規制が重畳的に及ぶと解する。

   ウ 現行刑訴法上の各種令状では適正手続要件を満たさない

    (ア)憲法35条,31条への適合

      もっとも,弁護人は,GPS利用捜査の実施が憲法上,一切許されないと主張する意図はない。個人のプライバシーの保護についても,捜査権の行使等の要請に基づく内在的制約があり,一定の場合に,憲法35条,31条に適合した法律上の手続要件(以下「適正手続要件」という。)を経て,GPS利用捜査を実施することは許され得ると考える。

      しかし,プライバシーの侵害の深刻性,捜査機関による不当な目的外利用の危険性に鑑みれば,GPS利用捜査が憲法上許容されるためには,厳格な適正手続要件を満たすことが必須である。

      そして,以下述べるとおり,現行の刑訴法上の各種令状は,検証許可状も含め,これによりGPS利用捜査を実施することについては,憲法に適合したものとはいえない。

    (イ)適正手続要件

      GPS利用捜査という捜査手法が,前述のとおり,捜査機関による不当な目的外利用のおそれが高く,本質的・内在的にプライバシー侵害の危険性が高いものであることを考慮すると,同捜査が適正手続要件を満たすといえるためには,①対象犯罪は何か,②位置情報の取得はどのような場合に許容されるか,③位置情報の取得期間をどの程度限定するか,④令状をいつ,誰に呈示すべきか,⑤取得対象である位置情報を誰が,どのような方法で判断するのか,⑥位置情報を実際に取得するのは誰か,⑦対象車輌等へのGPS端末及びバッテリーの着脱行為をいかに規律するのか,⑧対象車両等へのGPS端末及びバッテリーの着脱を目的に私有地へ立ち入る行為をいかに規律するのか,⑨将来の犯罪に関する位置情報も取得できるのか,⑩位置情報の記録化及びその保管方法はどうあるべきか,⑪位置情報取得後,被対象者に位置情報取得の事実を告知すべきか,⑫違法・不当に位置情報が取得された場合の不服申立ての機会付与はどうあるべきか,などの諸点について,国民的議論を尽くし,国会による議決を経てはじめて認められるべきである。

      現行の刑訴法上の各種令状では,検証許可状も含め,これらの適正手続要件を満たすことはできない。

      とりわけ,現行の刑訴法上の各種令状では,対象以外の位置情報取得の不可避性及び被処分者に対する事後的告知の不存在の課題を克服できず,これによりGPS利用捜査を実施することは,憲法31条及び35条の要請に到底応えることができない。以下,この2点に絞って主張する。

    (ウ)対象以外の位置情報取得の不可避性

      GPS利用捜査は,一定期間位置情報を取得し,被処分者の行動を把握する点に特色がある。したがって,令状に取得すべき位置情報として,例えば「覚せい剤取引に関する位置情報」というような限定を加えたとしても,それと無関係な位置情報を取得する可能性は,排除できない。

      具体的実施状況に即しても,GPS利用捜査はGPS端末を使用する以上,同端末およびバッテリーの対象車両等への着脱行為が前提となる。この作業のために,対象車両の位置情報を取得することは避けられない。そして,かかる位置情報取得時に,対象車両が公道上に位置する保障はない。

      このことからも,GPS利用捜査は必然的に,対象以外の位置情報を取得せざるを得ず,高度なプライバシー侵害を伴う危険を孕んでいることが明らかである。

      したがって,GPS利用捜査は,事件の性質・内容,関与者の範囲,位置情報の期間の長短やその時間帯など,特定性の判定に重要な意味を持つ要因に応じた条件を定めない限り,無関係な位置情報を含むすべての位置情報の地引き網的な取得を許容することに帰するというほかなく,憲法35条1項が要請する特定性の要件を満たさない。

    (エ)事後の手続保障の不存在

      憲法学上一般に,告知と聴聞を受ける権利は憲法31条の適正手続保障の中核を占めるものと解されており(16)(16 芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第六版』(岩波書店,2015年)244頁),このことは,最高裁判例によっても確認されている(最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁)。この憲法上の権利は,GPS利用捜査との関係でも当然に保障されなければならない。

      GPS利用捜査の性質上,被処分者に対して事前の告知はできない。しかし,対象者に対する事後の通知と不服申立ての機会付与は,告知と聴聞を受ける権利を中核とする憲法31条の不可欠な要請である。かかる機会が付与されなければ,一方で被処分者は位置情報が取得された事実すら無自覚なままに置かれることになり,他方で捜査機関は,秘密裡に個人の位置情報を保管・蓄積することになる。

      検証については,郵便物等の押収に関する処分対象者への事後通知(刑訴法100条3項)のような規定はなく,また「押収に関する裁判又は処分」として準抗告の対象とすること(刑訴法429条1項,430条1項,2項)も認められていない。このように事後の告知及び不服申立ての各規定を欠く点で,GPS利用捜査を刑訴法上の検証として行うことは,許されない。

      よって,GPS利用捜査を検証として実施することはできず,現行刑訴法の各種令状で同捜査を許容することは,憲法31条に反し許されない。

   エ 最高裁判例も同様の理解を示している

     貴庁は,電話傍受が「通信の秘密を侵害し,ひいては,個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と述べた上で,次のようにその合憲性について説示している(最決平成11年12月16日刑集53巻9号1327頁)。

     「電話傍受は,……一定の要件の下では,捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであ[る]。……重大な犯罪に係る被疑事件について,被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり,かつ,当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに,電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において,電話傍受により侵害される利益の内容,程度を慎重に考慮した上で,なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには,法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である」。

     この憲法解釈は,被疑事件の重大性,高度の嫌疑,傍受の高度の必要性・補充性,法益侵害の内容・程度等の要素を摘示して「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるとき」に限り憲法上許容できる旨を述べているとみられ,明らかに通常の強制処分(捜索・差押え・検証)より一層厳格な限定が加えられている。

     これは,憲法解釈の最終権限を有する最高裁判所が,傍受によって侵害される憲法上の基本権の質と程度を極めて深刻・重大であると位置付けているからである。したがって仮に既存の「法律の定める手続」の解釈・適用に基づく場合には,このような限定的実体要件を充たさない処分は許されず,実行すれば適用違憲となる。

     貴庁による憲法解釈は,GPS利用捜査の違憲性を判断する上でも参酌されるべきである。

   オ 強制処分法定主義に反しないとした原判決は違憲である

     原判決は,本件GPS捜査が強制処分法定主義に反しないと断じた。換言すれば,原判決は,本件GPS捜査を,現行刑訴法の下でも,立法の根拠付けなく実施可能と解していることになる。

     裁判所に立法府の明定した要件・手続に該当しない強制処分を許容する権限がないのは当然であり,かかる判断は違法であるのみならず,憲法31条に反し,直ちに違憲である。

     現行刑訴法の下においても,本件GPS捜査が合憲と論証するためには,同捜査が個人のプライバシーという憲法上の基本権を侵害する性質を有することに鑑み,上記最決平成11年が示したのと同様に,憲法35条,31条に適合した法律上の手続が具備されているか否かを検討する必要があるのに,一審決定もこれを是認した原判決も,かかる検討を一切していない。

     とりわけ上述したように,対象以外の位置情報取得の不可避性及び事後的告知と不服申立ての不存在は,GPS利用捜査を合憲的に実施するために解決すべき必須の課題であるのに,一審決定もこれを是認した原判決も,この点に関する最低限の正当化論証すら行わない。

     なお,本件GPS捜査に強制処分法定主義違反の推定が及ぶ以上,かかる違法の推定は,直ちに違憲の問題を惹起する。被告人に本件GPS捜査の違憲性を主張立証する責任がないことは言うまでもない。

     弁護人は第一審以来,本件GPS捜査が強制処分法定主義に違反する旨主張し,安易に検証説を採用すれば違憲の問題を惹起することを主張してきた。したがって,一審決定及びこれを是認した原判決も,上述した憲法上の問題については,当然に意識し得たはずである。

     弁護人は,憲法解釈の最終権限を有する貴庁に対し,立法の根拠付けを欠いた本件GPS捜査の合憲性及び同捜査を強制処分法定主義に反しないと判断した原判決の合憲性につき,明快な判断を求める。

  (4)小括

    以上のとおり,原判決には憲法31条,35条,13条の違反があるから,原判決は破棄を免れない(刑訴法405条1号,410条1項本文)。

第4 さいごに

第1 はじめに

 1 新たな捜査手法とプライバシーの危機

   科学技術の発展に伴い,現金を持たなくても電子マネーで買い物をすることができ,ICカードで電車に乗ることができるようになった。電話で通話をしなくてもメールで他人と連絡をとることができ,携帯電話に内蔵されているGPS(全地球測位システム)が,現在位置を把握し,目的地までナビゲートしてくれる。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を利用して,世界中に情報を発信することもできる。

   こうした生活ないし行動の記録は,個人に関する情報として集積され,趣味・嗜好・関心や行動・生活様式,経歴,交友関係といったプライバシーが企業によって分析され,マーケティングに利用されている。現在,こうしたプライバシー情報の収集や利用に対する法的な規制はなく,自己に関するいかなる情報が,誰によって収集・分析され,どのような目的で利用されているのか,当事者でさえ自覚していないことが多い。

   犯罪捜査のあり方も大きく変化している。

   一歩外に出れば,いたるところに監視カメラ(防犯カメラ)が設置され,その数は増え続けている。監視カメラの設置場所は公共空間だけでなく,タクシーのような密室的空間にも及ぶ。監視カメラの性能は,デジタル化,処理能力・通信能力の高度化により飛躍的に向上し,個人が識別できる精度で長時間連続して撮影・録画することができる。また,全国の主要道路に設置されている自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)は,設置箇所を通過したすべての自動車の車両番号のみを記録する建前であるが,現在設置されている最新の装置は,運転席と助手席に乗車している者の画像を記録する機能も有している(一審検甲87)。

   監視カメラ等によって撮影された膨大な集積画像情報は,顔認識システム(監視カメラで撮影された被写体から人の顔の部分を抽出し,目,耳,鼻等の位置関係や特徴を瞬時に数値化した「顔認証データ」と,あらかじめデータベースに登録された特定の人物の顔認証データとを自動的に照合するもの)と結合することにより,特定の個人の識別が可能となる。捜査機関は,どの角度の映像からでも特定の個人の識別が可能になる3次元顔画像識別システムを活用している(1)。(1 警察庁「足利事件における警察捜査の問題点等について(概要)」14頁 https://www.npa.go.jp/sousa/kikaku/houkokushogaiyou.pdf)

   特定の個人の移動履歴は,携帯電話の基地局情報やGPS位置情報を利用することによって,長期間にわたって継続的に追跡・掌握することが可能になった。

   捜査機関は,従来から検証許可状の発付を受けて電気通信事業者から個人の携帯電話のGPS位置情報を取得していたが,平成27年6月,総務省が「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を改定したことにより,対象者に事前の通知をせずに携帯電話のGPS位置情報を取得できるようになった。これを受けて,平成28年夏に発売される携帯電話の新機種の一部に,捜査機関が対象者に通知することなくGPS位置情報を取得することができる機能が盛り込まれるとの報道がされている(添付資料1「携帯電話のGPS情報,本人通知なしで捜査利用 一部新機種」(朝日新聞平成28年5月16日記事)。

   また,平成28年5月19日に参議院法務委員会で可決された通信傍受法の改正案は,対象犯罪に詐欺や窃盗,傷害など9種類を新たに追加し,傍受の際の通信事業者など第三者の立会を不要として,通話内容を暗号化して伝送することによって警察の施設で傍受できる内容となっている。

   科学技術・情報技術の発展に伴って新しい捜査手法が生まれ,捜査権限が拡大するなかで,個人のプライバシーは重大な危機にさらされている。

 2 GPS利用捜査の強制処分該当性をめぐる混乱

  (1)本件GPS捜査の概要

    本件で捜査機関は,被告人らが使用する車両や犯行容疑車両に,令状を取得することなくGPS端末を取り付け,その位置情報を取得する捜査を行った。

    本件GPS捜査の概要は以下のとおりである。

    大阪府警の警察官は,平成17年11月16日から平成19年3月30日にかけて,Aとの間で,少なくとも16回,「B」という名称で提供されているGPS端末の位置情報等を提供するサービスの利用契約を締結し,16台のGPS端末の貸与を受けた。Aとの契約内容は,最大20台までのGPS端末の位置情報をアプリケーションソフトの地図上に一括表示することができ,任意に指定した時刻に毎日自動で位置情報を取得してその軌跡を地図上で確認することができ,取得した位置情報の履歴データをダウンロードしてCSV形式のファイルとして保存することができるものだった。ダウンロードしたCSV形式のファイルには,契約番号,検索日時,住所,緯度,経度,精度等の情報が含まれており,エクセル等の表計算ソフトを使って自由に加工,集計,分析することができる。

    本件の担当捜査官は,平成25年5月23日から同年12月4日にかけて,被告人,共犯者3名及び被告人の当時の交際相手の使用する各車両および犯行容疑車両合計19台に前記GPS端末を取り付けた。GPS端末は黒いケースに入れられ,数個の磁石とともにパテでおおわれていた。対象車両のうち自動車については,下部中央付近の部品の間に磁石によって取り付けられ,バイクについては,部品のねじを外さなければ取り付けられない部分にGPS端末が取り付けられていた。

    捜査官らは,各車両へのGPS端末の取付けや取外し,バッテリーの交換のため,令状によることなく,かつ,管理権者の同意・承諾を得ることなく,各車両が停車しているコインパーキングや商業施設,ラブホテルの駐車場等に立ち入ることがあった。バッテリーまたはGPS端末自体の交換は,3日ないし4日に1回の頻度で行っていた(K②31頁)。

    捜査官らは,被告人らの使用車両等に,短期のもので数日間,長期のもので約3ヶ月にわたってGPS端末を取り付け,位置情報を継続的に取得した。位置情報の取得は,被告人らの行動確認捜査を実施する目的だけでなく,GPS端末の動作確認や,紛失したり取り外されたりしていないかを確認するため,捜査の実施とは無関係に毎日行われていた。1台のGPS端末につき,多い時で1ヵ月に772回の位置情報を取得していた。

    GPS端末により得られる位置情報の精度は,周囲に障害物のない最良の条件下であれば5~10メートル,ビルの谷間等測位に必要な人口衛生の電波を受信しにくい状況であれば20~50メートルの誤差の範囲であり,人口衛星の電波がまったく受信できない状況でも携帯電話の基地局の位置情報を利用することによって数百メートルの誤差の範囲で位置情報を取得することができる。対象車両が高速道路等を高速で移動している場合でも,正確な位置情報を取得することができる。

  (2)一審決定の要旨

    一審は,本件GPS捜査による位置情報の取得に係る証拠決定において,GPS利用捜査によって得られる対象車両の位置情報は,「人が乗車して自動車が移動する以上,それに乗車する人の位置情報と同視できる性質のもの」であるとし,本件GPS捜査は,尾行や張り込みといった手法と異なり,「プライバシー保護の合理的期待が高い空間に対象が所在する場合においても,その位置情報を取得することができることに特質があ」り,「対象車両使用者のプライバシー等を大きく侵害することから,強制処分に当たる」として,無令状で行われた本件GPS捜査は違法であると判断した(一審決定8~10頁)。

    また一審決定は,警察官らの令状主義軽視の姿勢等を指摘し,本件GPS捜査には令状主義を没却するような重大な違法があるとして,これにより得られた証拠およびこれと密接に関連する証拠を排除した(一審決定10~17頁)。

  (3)下級審裁判例

    GPS利用捜査の強制処分該当性については,下級審の判断が分かれている。

    本件の一審決定に先立ち,共犯者であるLの裁判の証拠決定(以下,「1月決定」という。)では,「捜査官らは,自動車で外出した被告人らを尾行するための補助手段として上記位置情報を使用していたにすぎず,その位置情報を一時的に捜査メモに残すことはあっても,これを記録として蓄積していたわけではない」こと等を根拠として,「本件GPS捜査は,通常の張り込みや尾行等の方法と比して特にプライバシー侵害の程度が大きいものではなく,強制処分には当たらない」と判断されていた(大阪地決平成27年1月27日)。

    しかし本件の一審決定後,名古屋地方裁判所は,「任意捜査として許容される尾行等とは質的に異なるものであり,対象車両の使用者である被告人のプライバシー等に対する大きな侵害を伴うものであった」とし,「位置検索により得られた位置情報が捜査機関において蓄積記録されていなかったからといって,プライバシー等に対する侵害が小さなものであるなどとはいえない」と指摘したうえで,GPS利用捜査は強制処分であると判断した(名古屋地判平成27年12月24日)。

    また,水戸地方裁判所も,「人の所在場所に関する情報は,それ自体,当該個人のプライバシーに関わるものであ」るとしたうえで,「GPS機器を使って捜査員が位置検索をする際は,捜査対象者が前記私的な場所等にいる場合であっても,容易にその所在場所を把握され得るという意味で,性質上,常に大きなプライバシー侵害の危険が内在しているというべきであ」り,「本件GPS捜査は,潜在的に,単なる尾行の補助的手段として想定される以上に捜査対象者のプライバシーを大きく侵害する危険を有しているものといえるのであって,本件GPS捜査の具体的実施状況を踏まえても,強制処分に当たるというべきである」と判断した(水戸地決平成28年1月22日)。

    他方,広島地方裁判所福山支部は,「GPS発信器によって得られる情報は,その取り付けられた車両の位置情報,すなわち公道は一般に利用可能な駐車場を示す情報であるから,そのような情報を得ることが,被告人のプライバシーや移動の自由への制約になるとはいい難い」「GPS発信器によって車両内での乗員の会話内容が分かるわけでもない」等として,「これが令状を必要とする強制捜査であったということはできない」と判断している(広島地福山支判平成28年2月16日)。

  (4)原判決の要旨

    下級審の判断が分かれるなか,原判決は「一審証拠決定がその結論において言うように,このようなGPS捜査が,対象車両使用者のプライバシーを大きく侵害するものとして強制処分に当たり,無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしても,少なくとも,本件GPS捜査に重大な違法があるとは解されず,弁護人が主張するように,これが強制処分法定主義に違反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できない」と判示し,GPS利用捜査の強制処分該当性について明示的に判断をしなかった。

  (5)国会における議論状況

    一審決定後の,平成27年6月9日,衆議院法務委員会で議員からGPS利用捜査を実施するには特別の立法が必要ではないかと問われた法務副大臣は,「任意捜査として認められるという裁判例もある」「6月5日の裁判例(注;一審決定のこと)が出たからといって,すぐに刑訴法の改正に当たらなければならないのかということについては,いささか,さらにその要否を含めて慎重な検討が必要なのではないか」と答弁した(添付資料2「第189回国会衆議院法務委員会議録第21号」)。

    また,同月16日の衆議院法務委員会では,法務大臣が,1月決定と一審決定の結果を踏まえ,「いずれの考え方によるべきかということにつきましては,やはり個別の具体的事例によることであるというふうに考えておりまして,一概に即断することができない」「いずれの裁判例によりましても,任意捜査として許容されるのか,あるいは検証として令状を要することとなるのかはともかく,捜査手法でございまして,現行の刑事訴訟法のもとで許容されるということについては,そのようなものであるというふうにかんがえております」と答弁している(添付資料3「第189回国会衆議院法務委員会議録第24号」)。

 3 最高裁判所に求められる判断

   GPS利用捜査の強制処分性について下級審の判断が分かれ,立法府における議論が進展しないなか,捜査のあり方と個人のプライバシーは,急速にバランスを失いつつある。

   1964年,アメリカのジャーナリスト,ヴァンス・パッカードは,著書「裸の社会」において,個人のプライバシーを破壊しようとする強い力が野放しになっている危険性を指摘し,プライバシーは急速に「蒸発しつつある」と主張した。

   パッカードが懸念した危険性は,それから半世紀を経過した今,増幅している。

   個人のプライバシーを破壊しようとする強い力に歯止めをかけられるのは,憲法の砦としての最高裁判所だけである。憲法31条の精神にのっとった適正な判断が求められている。

第2 上告申立ての理由

 1 憲法違反

   本件GPS捜査を「強制処分法定主義に違反し令状の有無を問わずに適法に実施し得ないものと解することも到底できない。」と判示した原判決は,強制処分法定主義違反があり,憲法31条,35条に反するとともに,ひいては,憲法13条に反する。

  (1)GPS利用捜査は強制処分であること

   ア はじめに-原判決の判示と本項の主張趣旨

    (ア)原判決の判示

      一審決定は,本件GPS捜査は,「プライバシー保護の合理的期待が高い空間に所在する対象車両の位置情報を取得することが当然にあり得るべき」等と指摘し,「対象車両使用者のプライバシー等を大きく侵害することから,強制処分に当たるものと認められる」と判示した(一審決定9~10頁)。

      これに対し,原判決は,本件GPS捜査の処分の性質に関して縷々事情を述べつつも,明示的な判断を回避し,「強制処分に当たり,無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしても」と,強制処分性に関して消極的な判示を行っている(原判決8~9頁)。

    (イ)主張趣旨

      前記アのとおり,原判決は,巧妙にも処分の性質に関する判断を回避したため,この点について原判決の誤りを指摘し得ない。

      もっとも,本件GPS捜査が強制処分に該当することが,強制処分法定主義違反や令状主義違反の基本的前提であり,後述の上告理由等の必須の前提となる。

      また,原判決は,結論を記載しないまでも,前記判示部分の消極的表現や,前提となる事情の評価からすると,本件GPS捜査によるプライバシー侵害が軽視され,一審決定から大きく後退していることは明らかである。

      このような原判決には,位置情報に関するプライバシーに対する評価の誤りや,強制処分性判断に関する重大な誤りが含まれているため,そのような誤りを正す必要がある。

      加えて,前記のとおり,GPS利用捜査の強制処分性については,前記第1,2,(3)で述べた通り,①大阪地裁平成27年1月決定:否定,②一審決定:肯定,③名古屋地裁判決:肯定,④水戸地裁決定:肯定,⑤広島地裁福山支部判決:否定,と下級審において判断が分かれている(但し,①及び⑤については,GPS利用捜査に関する評価の前提となる事実が十分に認定されていないことに留意する必要がある。)。

      そして,本件GPS捜査に関する処分の性質は,捜査実務にも大きな影響を与えることになる。

      したがって,本件GPS捜査の法的性質は,本件事件の処理に留まらない重大な法的争点であり,この点に関する解釈の統一が望まれる。

      弁護人は第一審において本件GPS捜査の強制処分性について詳述したところであるが,以上の理由より,本項においては,原判決等における判示も踏まえながら,改めて,本件GPS捜査の強制処分性について言及する。

   イ 位置情報に関するプライバシーの重要性と高度な侵害

    (ア)原判決の判示と問題性

      原判決は,GPS利用捜査について,「実施方法等いかんによっては,対象者のプライバシー侵害につながる契機を含むもの」(原判決8頁)等と位置情報取得行為自体をプライバシー侵害と捉えていない。

      また,原判決は,位置情報の蓄積や網羅的な把握が存在しなかったことから,「プライバシー侵害の程度は必ずしも大きいものではなかった」と判示している(原判決8頁)。

      このように,原判決は,位置情報に関するプライバシーという法的利益やその重要性,及び,GPS利用捜査による高度な侵害を看過しているものと言わざるを得ない。

    (イ)位置情報に関するプライバシーの性質

      プライバシー権は,広くは,一般人の感受性を基準にして取得・開示・公表されたくない個人に関する情報を,みだりに第三者に取得・開示・公表されない権利(東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号2317頁参照)を意味しており,憲法13条を根拠とする重要な権利である(最判平成7年12月15日刑集49巻10号842頁,最判平成20年3月6日民集62巻3号665頁等)。

      憲法13条を根拠とするプライバシーの中でも,誰が・いつ・どこに所在するかという,「位置情報に関するプライバシー」は,特に要保護性が高い(一審弁11~一審弁13)。

      なぜなら,位置情報取得によって,生活の本拠である自宅や職場等の基本的な個人情報が容易に明らかになる他,ある場所・建物・施設(宗教施設,警察署,裁判所,病院,ホテル,性風俗店が集中する歓楽街等)に所在することは,特定の人間関係,紛争状況,思想・政治信条,宗教・信仰,病状,性的嗜好等を推認させ(一審弁12・5頁,M証言),センシティブ情報を含む幅広い個人情報が露見することに繋がるか,あるいは,誤った偏見を招くからである。さらに,複数回の位置情報が長期にわたり取得されれば対象者の行動状況が明らかにされることになり(一審弁12・5頁),相当詳細なプロファイルが可能となる(2)。(2 稲谷龍彦「情報技術の革新と刑事手続」井上=川出編『刑事訴訟法の争点』(有斐閣,2013)40~41頁参照)

      ある時点において,特定の場所に所在するという位置情報は,場合によっては,他の弁解を許さない程強い説得力を有するのであり,特定の言動内容という情報よりも重要性が低いとは言えない。

    (ウ)他の基本権に対する萎縮効果

      位置情報に関するプライバシー侵害は,憲法22条によって保障されている居住・移転の自由の実質的制限や,憲法20条によって保障される信教の自由,憲法21条によって保障される表現の自由・集会の自由等の複数の基本権の実質的侵害を伴うものと評価でき,被侵害利益は極めて重大である。

      すなわち,捜査機関によって長期間にわたり位置情報を取得され,移動状況を常時監視され,記録化されるということが秘密裡に行われるのであれば,自身の行動状況やそれに伴い不可避的に反映される特定の人間関係,思想・政治信条,宗教・信仰,性的嗜好等を知られたくないと考える者は,行動自体を控えざるを得なくなる。

      その結果として,事実上,憲法22条によって保障されている居住・移転の自由や,憲法20条によって保障される信教の自由,憲法21条によって保障される表現の自由・集会の自由等が制約されることになるのであり,これらの自由に対する実質的な侵害であると評価できる。

      この点に関しては,GPS装置による捜査を連邦憲法修正第4条が禁止する「不合理な捜索」に当たると判断した合衆国連邦最高裁判決であるジョーンズ判決(3)(3 United States v.Jones,565U.S._(2012),132S.Ct.945(2012).)において,ソトメイヤー判事も補足意見で,「GPSによる監視」は,親族,政治性,職業性,宗教観,性的嗜好等の人間関係について豊富な情報を反映」と警鐘を鳴らしている点が重要である(M証言)。政府はこれらの記録を保存し,将来編集して利用することによって,表現の自由や集会の自由に対する萎縮効果を与えることもできるのであり,このような特徴を看過することはできない。

      また,大阪地判平成6年4月27日判タ861号160頁は,「公共の場所とはいっても,例えば病院や政治団体や宗教団体など人の属性・生活・活動に係わる特殊な意味合いを持つ場所の状況をことさら監視したり,相当多数のテレビカメラによって人の生活領域の相当広い範囲を継続的かつ子細に監視するなどのことがあれば,監視対象者の行動形態,趣味・嗜好,精神や肉体の病気,交友関係,思想・信条等を把握できないとも限らず,監視対象者のプライバシーを侵害するおそれがあるばかりか,これと表裏の問題として,かかる監視の対象にされているかもしれないという不安を与えること自体によってその行動等を萎縮させ,思想の自由・表現の自由その他憲法の保障する諸権利の享受を事実上困難にする懸念の生ずることも否定できない」として派生する萎縮効果について指摘している。

      このような意味で,逐一位置情報を把握されて監視されない自由は,他の基本権行使の前提をなす重要な権利であるといえる。

    (エ)本件GPS捜査の特質と侵害(侵害の重大性)

      本件GPS捜査による位置情報取得(侵害行為)の技術的特徴に着目すると,①GPS電波あるいは携帯電話の電波が届く限り,位置情報を取得され,②高速移動中も位置情報を取得され,③最良条件下では誤差は数メートルであり,④多数回にわたる位置情報検索を,長期間にわたって実施でき,⑤位置情報取得結果を,データとして半永久的に保存できることがわかる(一審弁2~一審弁4)。

      その結果,捜査対象者が,人気のない夜中に周囲に注意を払い行動しても,如何に車両で高速移動しても,如何に遠方に移動しても,公道上から確認できない私有施設内に移動しても,車庫の中に車両を移動しても,捜査機関による精度の高い位置情報取得行為から逃れることはできない。加えて,このような位置情報取得が複数回かつ長期にわたって継続され,かつ,その結果としての行動状況が半永久的に記録されることになる。これらは,本来的には不可能な情報取得をGPSという科学技術を用いて可能にしているのであり,位置情報に関するプライバシーに対する高度な侵害を伴うものである。

      なお,実際本件でも,平成25年8月7日,夜中に高速で移動している車両もGPS位置情報によって捉えられている(GPS位置情報:一審弁3・資料7【契約番号④○○○○-○○○○】12~15頁,GPS位置情報によって継続的に追跡できていたことにつきK②58頁)。

      また,平成25年9月25日10時13分,外部からの視線が遮断され,公道上から確認できないラブホテル内駐車場内の位置情報も取得された(ホテルCにつき,一審弁3・資料9【契約番号⑥○○○○-○○○○】の履歴番号533,一審弁6,一審弁41,K②49~50頁)。

      その他,同年9月16日3時44分には,ホテルD(大阪府大阪市(中略))の住所地内の位置情報も取得されている(一審弁3・資料9【契約番号⑥○○○○-○○○○】の履歴番号487,一審弁6。但し,Kは,同ホテルについては,青空駐車場となっている第2駐車場に駐車されていたと証言。K②49~50頁)。

      弁護人らが行った「B」の精度実験においても,高速道路での移動にもかかわらず位置情報を把握でき,拘置所駐車場に所在すると特定できる位置情報,公道上から確認できない立体駐車場の位置情報,病院駐車場に所在すると特定できる位置情報,そして,公道上からは目視できない宗教施設内の駐車場に所在すると特定できる位置情報をそれぞれ取得できている(一審弁45・7~9頁,同14~16頁,同21~27頁,同31~34頁,同42~44頁,同50頁,N証言)。

      エックス線検査の強制処分性を認めた前記最決平成21年9月28日の調査官解説においては,「肉眼による見分では見えないものを発見できる点ではそれ以上に内容物を明らかにすることもできる」として,「プライバシー侵害の程度は,直接目視の場合よりも低いとはいえず,むしろ高い場合すらある」と指摘されているが(同最決調査官解説389頁),まさにGPS位置情報取得においても同様のことが言える。

      よって,本件GPS捜査におけるGPS位置情報取得による被侵害利益は極めて重大であるといえる。

    (オ)位置情報プライバシーには公私二分論が妥当しないこと

     a 原判決は明示的には指摘しないものの,原判決が位置情報に関するプライバシー侵害を看過ないし軽視するのは,多くの位置情報が公道上のものであることに起因している可能性がある。

       しかし,「位置情報に関するプライバシー」の重要性は,「公私」の空間区分によって切り分けられるものでない。

       容ぼう等に対する視覚的なプライバシーが対象であれば,公道上に存在すれば一定程度権利利益を放棄している,あるいは,プライバシーに対する期待が低いと見ることができる一方で,建物内に存在する場合には,壁等による物理的な障壁によって視覚的な遮断を期待するから,プライバシーへの期待が高まっているといえる。したがって,このような場合には,「公私」の空間区分や「外」と「内」の空間区分は一定の意味を有すると考えられる。

       しかしながら,上記論理は,位置情報に関するプライバシーに妥当するものではない。

       第一に,位置情報に関するプライバシーでは,特定の地域,建物,施設のうち,具体的にどの場所やどの部屋にいるかということは問題ではなく,当該特定の地域,建物,施設に所在している,または,赴いているということが問題である。

       例えば,宗教施設の本堂(特定施設内の建物内)に所在する場合と宗教施設の駐車場(特定施設内だが建物外)に所在する場合とで位置情報に関するプライバシーの要保護性に変わりはないし,宗教施設に向かうために駐車場入口に繋がる道路(特定施設手前の公道上)に所在しているからと言って,位置情報に関するプライバシーの期待が低いとも言えず,これらを質的に区別できるわけではない。

       また,性的少数者が集う場所や地域のごとく,公道を含む当該地域内に所在することが極めてセンシティブな位置情報である場合もある。

       その他の例を挙げれば,位置情報のプライバシーにおいては,私的空間である自宅内に所在しているということよりも,むしろ,公共施設である病院,警察署,裁判所等の施設内に所在し,あるいは,赴いている事実の秘匿性が高い場合が多い。

       第二に,「外」に出向く場合,基本的には,「匿名の存在として」,外貌を晒すことにはなるが,「身分が特定された自身がどこに所在するか」という位置情報に関するプライバシーを放棄しているとも,位置情報のプライバシーへの期待が低いともいえない。

       位置情報のプライバシーを放棄するということは,例えば,誰でも自分の携帯電話の位置情報にアクセスしてもよいということを意味するが,通常,そのことに同意する者は存在しないと思われる。

       そもそも,位置情報は,自身の自宅から特定の場所に出向いた時に問題になるのであって,「外」に出向いた時に,位置情報のプライバシーが放棄されると解釈したり,プライバシーの期待が低くなると解釈することは,位置情報プライバシーの存在を否定するに等しい。

       以上のとおり,「公私」の区分や「外」と「内」の区分は,位置情報のプライバシーの重要性やその侵害程度と関連していない。

     b 仮に,「公私」空間によって位置情報に関するプライバシー制約の程度か異なるという立場によるとしても,GPS位置情報の取得は,対象車両の所在がわからない場合に行われるものであるため,「私的」空間内のGPS位置情報を取得する可能性がある処分は(本件において,実際,公道から目視できないラブホテル駐車場の位置情報が取得されたことは一審決定が認定しているとおりである。),強制処分とならざるを得ない。

       後記オのとおり,処分の性質は,実際に得られた結果に関わらず一般的・類型的に決せられるものであるためである(前記最決平成11年12月16日,前記最決平成21年9月28日)。

    (カ)厳格な規制の必要性

      強制処分に該当する程度に被侵害利益が重要か否かという問題は,結局のところ,強制処分法定主義・令状主義の規律を適用することが妥当な捜査か否かという問題である。

      この点に関し,GPS利用捜査は,捜査対象者に覚知されずに実施され,同捜査の結果として取得された位置情報も裁判上顕出されないため,適法性チェックが全く機能しない。そして,その捜査手法の経済性・有用性も相俟って,捜査機関による濫用のおそれは著しく高い(M証言)(4)。(4 稲谷龍彦「情報技術の革新と刑事手続」井上=川出編『刑事訴訟法の争点』(有斐閣,2013年)40~41頁参照)

      そのため,まさに令状主義の趣旨が強く妥当する捜査であり,少なくとも司法による統制は必要不可欠であると言える。

   ウ 電話通信事業者が提供する位置情報に関する規律との関係

    (ア)原判決

      原判決は,「令状主義の精神を没却する重大な違法性」の判断において,検証許可状が要求されている携帯電話機の位置情報の取得は,「GPS捜査とは,理論的な性質,実務的な状況をやや異にするところがある」と判示して(原判決11頁),一審決定を批判している。

      上記原判決は,強制処分該当性判断に関するものではない。もっとも,原判決が,処分の性質に関して,「強制処分」に当たると「解する余地がないわけでもない」等と消極的な判示をしていることも踏まえれば,①携帯電話機の位置情報の取得が強制処分であっても,GPS利用捜査が同様であるとは評価できない,あるいは,②携帯電話機の位置情報は携帯電話事業者から取得する必要がある関係上,令状が要求されているだけであって,本来的には強制処分ではない等という考え方も窺われる。

      しかし,総務省による「電気通信事業者における個人情報保護に関するガイドライン(平成16年総務省告示第695号。最終改正平成27年6月24日総務省告示第216号)」(以下,単に「総務省ガイドライン」という。)が,電気通信事業者からの位置情報取得に令状を要求している根拠は,位置情報に関するプライバシー,とりわけ,精度の高いGPSの位置情報に関するプライバシーは要保護性が高く,利用者(移動端末所持者)の同意なく取得することが強制処分に該当するという点にあり,これは車両に対してGPS端末を取り付けた上で,GPS位置情報を取得する場合にも同様に妥当する。

      したがって,上記①及び②の考え方は,総務省ガイドラインに示された見解と相容れないものである。

    (イ)総務省ガイドラインにおける位置情報の取扱い

      総務省ガイドラインによる位置情報の取扱いは以下のとおりである(一審弁11・総務省ガイドラインの解説44頁~46頁,一審弁12・前記「人命救助等におけるGPS位置情報の取扱いに関する取り纏め」2~5頁,一審弁13・前記「位置情報プライバシーレポート」26~28頁)。

      すなわち,「基地局の位置情報」は,「個々の通信に関係する場合は通信の構成要素であるから電気通信事業法第4条第1項の通信の秘密として保護されると解され」,「位置登録情報」は,「通信の秘密ではなく,プライバシーとして保護されるべき事項と考えられる。位置情報を通信の秘密に該当しないと解する場合であっても,ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に,通信とも密接に関係する事項であるから,通信の秘密に準じて強く保護することが適当である」ことから「外部提供できる場合も通信の秘密に準じること」とされている(一審弁11・44頁)。

      次に,GPS位置情報については,「通信の秘密ではなく,プライバシーの問題として扱うべき情報であるが」,「基地局に係る位置情報と比べ,より詳細に所在地を示す情報であるところ,その場所に所在することそれ自体によって,個人の趣味嗜好,さらには思想信条まで容易に推測できる場合がある。また,一定期間追跡すれば,個人の行動状況まで詳細に把握することも可能となる。」ことから,「基地局に係る位置情報と比べ,高いプライバシー性を有する」とされている(一審弁11・46頁,一審弁12・5頁)。

      このようにして,基地局に係る位置情報を第三者に提供するためには,利用者の同意や違法性阻却事由がある場合を除き,裁判所の発付する令状が必要とされている(一審弁11・第26条1項)。

      また,犯罪捜査のために捜査機関からの要請により,電気通信事業者が特定の位置情報の取得を求められた場合には(5)(5 GPS位置情報は,通信を成立させる前提として必要となる情報ではないため電気通信事業者は自動取得していない。したがって,電気通信事業者が必要に応じて,位置情報を「取得」することになる。),令状による限り,GPS情報を取得することができる(平成27年6月24日総務省告示16号告示による改正後の第26条3項)。

      以上のとおり,総務省ガイドライン(一審弁11)は,端末所持者の位置情報に関するプライバシー,とりわけ,GPS位置情報に関するプライバシーは要保護性が高いことから,裁判所の令状発付等の厳格な要件を課しているものであり,このような権利利益が,「重要な権利・利益」に該当することは疑いの余地がない。

      加えて,総務省ガイドライン解説(一審弁11)は,「移動体端末を物体に設置して,その物体の所在地の情報を把握するような場合であっても,物体を通してその所持者の権利が不当に侵害されるおそれがあることから,上記に準じた必要な措置を講じることが適当である」と指摘しており(一審弁11・45頁),車両にGPS端末を設置し,位置情報を取得する場合にも,携帯電話端末の位置情報を取得する場合と同様に考えることができる。

      むしろ,GPS利用捜査における位置情報取得は,捜査対象者がGPS端末の設置や位置情報取得を認識しないまま行われるものであるから,位置情報付与の可能性を自覚している携帯電話端末利用者からの位置情報取得よりも,プライバシー侵害の程度が深刻であると評価でき,より厳格な保護が必要である。

    (ウ)国会答弁等

      政府も位置情報という重要なプライバシーが被侵害利益になっていることから,総務省ガイドライン上令状が必要とされているという見解を国会答弁において明らかにしており,GPS位置情報の取得は強制処分に該当することを当然の前提としている。

      すなわち,平成23年12月25日付第179回国会法務委員会第2号において,松崎公昭総務副大臣(当時)は,総務省ガイドライン23条3項について,「これは,位置情報がプライバシーの保護から非常に重要なものである,そしてまた,その利用に当たっては端末の所有者が認識できるようにする必要があると考えられるためであります。」と答弁している(一審弁14)。

      また,平岡秀夫法務大臣(当時)は,総務省ガイドライン23条3項のGPS位置情報取得による捜査手法について「刑事訴訟法上,新たな強制処分として明確に規定される必要があるのではないか」という質問に対し,「位置情報を五官の作用により認識するものということであって,その性質は現行法上,刑事訴訟法第218条の検証に当たるということなので,裁判官の発する検証許可状により行うことができるというふうに私も説明をうけております。・・・通信傍受についても,その法律ができる前には裁判官の令状があれば実施できるんだというような考え方もあったというふうに聞いております。ただ,やはり事の重要性にかんがみれば,別途の法律をしっかりと手当する,その過程の中で国民的な議論をするという過程を経て成立したのが通信傍受法だというふうに思います。まさにそれと似たような話として,こういう位置情報を自分が知らないときに取得するという事態に至るときには,もっとしっかりと国民的な議論が行われてしかるべきではないかというふうに私は思います。」と答弁している(一審弁14)。

    (エ)携帯電話会社からの位置情報取得とGPS利用捜査を区別する見解について

      守秘義務のある携帯電話会社から位置情報を取得する場合と,捜査機関がGPSを用いて独自に位置情報を取得する場合とでは別レヴェルであるという見解がある。

      しかし,基本的に位置情報取得によって権利制約を受けるのは,端末利用者であって,電気通信事業者の守秘義務も,利用者のプライバシーに配慮したものである。

      前記(イ)のとおり,総務省ガイドライン解説でも,電気通信事業者の守秘義務ではなく,保護の必要性が高い位置情報に関するプライバシーに鑑み,令状を取得すべきことが記載されている(一審弁11)。

      また,エックス線に関する前記最決平成21年9月28日も,荷送人や荷受人の荷物内容物に対するプライバシーに着目して強制処分性を肯定しているのであり,処分者のみに着目した上記見解は最高裁の立場と相容れない(M証言)。

      以上のとおり,強制処分該当性は,端末利用者の被侵害利益であるプライバシーに着目して決せられるのであり,携帯電話会社を通じた位置情報取得と捜査機関が設置したGPS端末による位置情報の取得に何ら違いはない。

      そもそも,本件GPS捜査においては,Aとの契約により,GPS端末の提供を受け,また,Aが提供するアプリケーションソフトを利用することによって初めて位置情報を取得できるのであって,捜査機関が「独自」にGPS位置情報を取得しているものではない。

      加えて,Aの規約において,契約者は,B端末設置車両の所有者,使用者,管理者の同意を得なければならないものとされているにもかかわらず(一審弁3・3~4頁,同資料20,一審弁4・3頁),捜査機関は,「必要な同意も得る意思がない」ことを秘して契約し,位置情報提供サービスを利用しているのであって(K②33~34頁,同68~71頁,O27~28頁),「携帯電話事業者を介していない」ことが,強制処分該当性を否定する理由や,令状取得を試みなくてもよい理由にならないことは明らかである。

   エ 尾行等との関係

    (ア)原判決

      原判決は,本件GPS利用捜査により「取得可能な情報は,尾行・張り込みなどによる場合と異なり,対象車両の所在位置に限られ,そこでの車両使用者らの行動の状況などが明らかになるものではなく」と権利利益の制約が尾行や張り込みよりも小さいかのように指摘し,強制処分該当性の消極的事情として示している。

      しかし,上記原判決の判示は,位置情報プライバシーの性質や,GPS利用捜査による侵害行為の本質を捉え損なったものである。

    (イ)「行動状況」との関係について

      位置情報プライバシーは,特定人が特定の場所に所在することが把握されることによって侵害されるものであり,前記のとおり,そのこと自体によって深刻な不利益をもたらし得るものである。

      上記プライバシー侵害の程度は,具体的行動状況が明らかにならないことで緩和されるというものではない。

      例えば,ラブホテルに所在していれば性交渉をしているであろうし(実際はしていなかったとしても,そのように誤解されることになり,弁解の余地は殆ど存在しない),特定の宗教施設に所在すれば当該特定の宗教活動を行っているであろうから(そうでなくとも,そのように誤解されることになる),プライバシー侵害の程度が軽いとは評価できない。

    (ウ)位置情報取得に関する尾行との質的差異

     a 尾行等と本件GPS捜査は,「同じ位置情報を得られる場合もある」という点で共通するのみで,判断対象である「行為」の性質が全く異なっている。

       尾行や張り込みは,一定の継続的な行為を表現したものであるが,一定時点において捜査対象者に対して行っている行為は,基本的に,「肉眼で確認できる者を目視する」(場合によっては会話が聞こえる場合もあるかもしれないが)というものである。

       このような尾行・張り込みにおける目視行為の結果,位置情報を取得できる場合があるからと言って,GPSという科学技術によって,あらゆる位置情報を直接的に取得する行為と同視できないのは当然である。

       例えば,鞄の中身を任意にのぞき見ることができる場合がある。しかし,鞄をエックス線という科学技術で透かして観察することは強制処分に該当する(前記最決平成21年9月28日)。

       また,捜査対象者の電話の会話も近接していれば事実上聞き取ることができる場合がある。しかし,電話傍受によって会話内容を聴取する行為は強制処分である(前記最決平成11年12月16日)。

       これらの例からも明らかなとおり,任意捜査においても,対象者の行為状況次第では,強制処分を行った場合と同じ情報を取得できる場合があり,同じ「結果」を実現できる場合がある。しかし,「同じ情報を取得できる場合がある」ことは,行為(処分)の性質を同視する根拠にならないのである。

       GPS利用捜査,エックス線検査,及び通信傍受等の例においては,本来的には取得不可能な情報(位置情報,鞄の内容物,会話内容)も,科学技術の力によって意に反して取得されるのであり,如何に秘匿性の高い情報(位置情報,鞄の内容物,会話内容)であったとしても,技術的条件が整う限り,捜査機関による情報取得行為から逃れることはできない(6)。(6 この点に関して,尾行とGPS捜査の差異はコストにのみ存するという見解が存在する。確かに,全ての道路に捜査員を配置すれば,GPS捜査同様,対象者は捜査機関による位置情報取得から逃れられないことになる。しかし,そのような非現実的な机上の仮定によって,尾行とGPS捜査を同視することはできない。いずれにせよ,GPS捜査は,現実的に取得不可能な位置情報をも強制的に取得することになり,対象者の通常の期待に反することには変わりがない。)

       本件GPS捜査について具体的に説明すれば,前記のとおり,GPS電波あるいは携帯電話電波が届く位置にある限り,B端末の位置情報検索が可能である(一審弁2,一審弁4)。その結果,人気のない夜中に周囲に注意を払い行動しても,如何に車両で高速移動しても(一審弁3・資料7【契約番号④○○○○-○○○○】12~15頁,K②58頁),如何に遠方に移動しても,公道上から確認できない私有施設内に移動しても(ホテルC:一審弁3・資料9【契約番号⑥○○○○-○○○○】の履歴番号533,一審弁6,一審弁41,K②49~50頁。ホテルD:一審弁3・資料9【契約番号⑥○○○○-○○○○】の履歴番号487,一審弁6),車庫の中に車両を移動しても,捜査機関による位置情報取得行為から逃れることはできない。これらは,尾行や張り込みにおける目視では不可能な情報取得であり,それをGPSという技術を用いて可能にしているのである。

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