なお、原判決は、岡山療養所においては本件保護変更決定後Dに対しその医療費一部自己負担金九〇〇円のうち四〇〇円の限度で日用品費及び嗜好品費の必要を理由として療養費軽費の措置をとつたこと、同人の昭和三〇年七月から昭和三三年五月までの三年間における日用品費の支出額は、右軽費の措置や臨時の収入があつたために平均月額一、〇四〇円四八銭に及んでいたこと、また、同人は本件保護変更決定に対する不服申立の事由として、重症に陥つているため嗜好品的栄養の補食費として月額四〇〇円を日用品費の追加分として認めてほしい旨のみを主張し、日用品費自体については格別不足を訴えていなかつたことを認定し、これら認定事実を判断の資料に加えていることは判文上明らかである。所論は、この点の違法をも攻撃しているが、軽費の措置に関する原判示は、傍論の域を出ず、右不服申立の事由も単なる事情にすぎないものであつて、原判決の判断を左右し得るものではない。原判決の結論は相当であつて、所論憲法及び法令の違反はなく、論旨は採用できない。

 四 以上述べてきたように、本件生活扶助基準や本件保護変更決定を直ちに違憲又は違法とし、これを無効又は違法と断ずることはできず、結局、上告は排斥を免れない。法律論としては、右のように解するほかはないし、生活保護法による扶助の制度がきわめて多数の要保護者や被保護者を対象とする以上、一定の「生活扶助基準」を設定し、これによつて扶助をしていくほかはなく、この「生活扶助基準」の改訂に当つては、その調査研究のために相当の日時を要することも否めないのであるが、憲法二五条の精神を徹底する趣旨からいえば、政府当局としては、常時右の調査研究を怠ることなく、もつと適切かつ迅速に、生活の実態に即するようになお一段の配慮を加えるべきであるし、また、生活扶助基準の制度が必要避けることのできない制度であるとしても、具体的な事情に即応して、生活の実態との間に乖離をきたさないために、一層適切妥当な措置を迅速に講じ得るような裁量の余地を認めるものであることが望ましい。生活保護の制度は、単に恩恵的な制度でなく、権利として、これを保障したものであることはさきに述べたとおりであるが、権利であるということから、却つて、この制度の現実の運用に当る者の暖い思いやりが失われるに至るようなことがあつては、制度の本来の趣旨・目的が達せられないこととなるであろう。本件においては、結局、原告の敗訴を免れないが、いちおう、勝訴した国側も、その措置が妥当であつたとして支持されたわけではなく、ただ、その措置が違憲・違法とまではいえないと判断されたにすぎない点に深く思いを致し、この事件を契機として、生活保護制度のより適切な運用について、政府当局並びに関係者のすべてが、真剣に反省し、国民の強い要請に応え得るような対策を考慮するよう希望してやまない。

 裁判官松田二郎、同岩田誠の本件訴訟承継の点に関する反対意見は、次のとおりである。

 生活保護法の規定に基づき要保護者又は被保護者が国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益でなく、保護受給権ともいうべき権利であること、およびその権利が譲渡、相続し得ない一身専属権であることは、多数意見のいうとおりである。しかし、右保護受給権が一身専属的であるということは、本件訴訟において承継を否定する根拠となるものではない。

 本件において津山市社会福祉事務所長のした保護変更決定前、Dは、生活扶助として毎月六〇〇円の支給を受ける権利と医療扶助として無償にて現物給付を受ける権利を有していたところ、右所長の変更決定によつて生活扶助月額六〇〇円の支給は廃され、また新たに医療扶助については自己負担金として毎月九〇〇円の支払を課せられるに至つたのである。従つて、若し本件裁決が取り消されることがあれば、保護受給権が右に述べたごとく権利である以上、国は本来義務として負担すべき医療扶助の給付をしないため、同人をして支払うことを要しない自己負担金を支払わしめるに至つたのであるから、右変更決定以降同人が自己負担金として国に支払つた限度において、国はこれによつて法律上の原因なくして不当に利得したこととなる。すなわち、国は同人に対して、右の限度においてその利得を返還することを要することとなるのである。これを、Dの側よりいえば、同人は本件裁決の取消を条件とする不当利得返還請求権を国に対して有し得ることとなる。従つて、この条件付権利は、不当利得返還請求を内容とするものである以上、同人の有する保護受給権とは別個のものであつて、すなわちその性質はこれと異り一身専属的のものではなく、相続性を有するものというべきである。このように考えてくると、Dの死亡によりこの条件付権利は、A、Bの二人の相続人によつて相続されたものというべきであるから、Dは既に死亡し、また本件訴訟は不当利得返還請求を訴訟物とするものではないが、A、Bの両名は「本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益」(行政事件訴訟法九条参照)を有するものと解するのを相当とする。けだし、もしこれを否定するときは、右両名は将来国に対して不当利得返還請求をなし得べき途を全く鎖されてしまうからである。

 要するに、私たちは叙上の理由により、本件訴訟の承継を認めるものであり、承継を否定する多数意見に反対するものである。(多数意見が本件訴訟は上告人Dの死亡によつて終了したものと認めた以上、多数意見即ち当裁判所の判断としては、本件訴訟は既に終了したものとされたのである。このことは当裁判所としては、本案の上告理由にまで立入つて判断しないことを表明したものに外ならない。そしておよそ評議の対象となつている論点について評決がなされるまでは、それに関与した各裁判官はその信ずるところに従つてその意見を述べ得、また意見を述べなければならないけれども、一旦評決がなされたときは、すべての裁判官はこの評決の結果に服すべきことは当然である。従つて、上告人の死亡による本件訴訟終了の点につき、反対意見を有した私たちも、本件訴訟が既に終了したものと認めざるを得ない以上、その訴訟が未だ終了していないことを前提として本案の上告理由にまで立入つて意見を述べるということはなすべきことでないのである。そしてたとえ上告理由について意見を述べたとしても、本件訴訟が既に終了したとされた以上、その意見なるものは、法律的には意味を有し得ないものである。私たちが敢て本件の上告理由について意見を述べないのは、このために外ならない。)

 裁判官草鹿浅之介は、裁判官松田二郎、同岩田誠の右反対意見に同調する。

    最高裁判所大法廷

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  奥野健一

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  石田和外

           裁判官  柏原語六

           裁判官  田中二郎

           裁判官  松田二郎

           裁判官  岩田 誠

           裁判官  下村三郎

 裁判長裁判官横田喜三郎、裁判官五鬼上堅磐は、退官のため署名押印することができない。

           裁判官  入江俊郎

 

(別紙)

  訴訟代理人第一目録

   弁護士

     荒川晶彦

     新井 章

     相磯まつ江

     海野普吉

     上田誠吉

     尾山 宏

     川口 巌

     鎌形寛之

     小池義夫

     近藤忠孝

     芹沢孝雄

     高橋信良

     田邨正義

     根本孔衛

     渡辺良夫

 

  訴訟代理人第二目録(A及び同Bの選任に係るもの。)

   弁護士

     青木正芳

     青木幸男

     青柳盛雄

     秋山泰雄

     秋山昭一

     安藤 章

     安藤寿朗

     安藤 巌

     安達十郎

     荒川晶彦

     荒井金雄

     阿形旨通

     阿左美信義

     新井 章

     相磯まつ江

     亦塚宋一

     莇 立明

     石川元也

     石田 享

     石田市郎

     石野隆碁

     石島 泰

     伊藤末治郎

     伊藤和夫

     井上文男

     井藤養志雄

     井伊誠一

     今井敬弥

     今泉三郎

     岩本義夫

     岩崎 功

     市来八郎

     一井淳治

     稲葉誠一

     海野普吉

     上田誠吉

     植木敬夫

     宇賀神直

     浦部信児

     榎本信行

     岡田啓資

     岡田義雄

     岡崎一夫

     大貫正一

     大川修造

     大矢和徳

     大錦義昭

     太田幸作

     小野寺照東

     小野山裕治

     小沢 茂

     尾山 宏

     尾崎 陞

     川口 巌

     川崎 剛

     鎌形寛之

     上条貞夫

     角尾隆信

     鍛治利秀

     金綱正己

     神山美智子

     風早八十二

     雁谷勝雄

     笠原郁子

     片山善夫

     嘉松喜佐夫

     亀田得治

     金野 繁

     金野和子

     金城 睦

     木村五郎

     木原鉄之助

     木梨芳繁

     菊地一二

     君野駿平

     黒田寿男

     黒岩利夫

     久保田昭夫

     草島万三

     小池義夫

     小池貞夫

     小池通雄

     小林保夫

     小林 劼

     小林為太郎

     小林芝興

     小島成一

     小牧英夫

     小谷野三郎

     近藤忠孝

     後藤昌次郎

     古波倉正偉

     児玉憲夫

     河野 密

     佐藤文彦

     佐藤一平

     佐藤 哲

     佐々木秀典

     佐々木恭三

     佐伯静治

     坂本福子

     坂本泰良

     坂本恭一

     振根一郎

     阪本貞一

     斎藤純一

     斎藤忠昭

     斉藤義雄

     酒井武義

     柴田五郎

     柴田茲行

     渋田幹雄

     島田正雄

     塩田親雄

     四位直毅

     重松 蕃

     庄再進一郎

     鈴木紀男

     鈴木 保

     鈴木栄二郎

     鈴木俊男

     菅原 瞳

     菅原昌人

     杉之原舜一

     杉山 彬

     須藤敬二

     芹沢孝雄

     関原 勇

     瀬上卓男

     高橋信良

     高橋 融

     高橋清一

     高橋万五郎

     高村文敏

     高井昭美

     田邨正義

     田原俊雄

     田万清臣

     田中唯文

     竹沢哲夫

     竹田 勲

     竹内信一

     武子暠文

     立木豊地

     鶴見祐策

     士田嘉平

     辻本幸臣

     寺村恒郎

     妻田熊雄

     手取屋三千夫

     手塚八郎

     豊田秀男

     豊田 誠

     棄城守一

     束垣内清

     舎川昭三

     栂野泰二

     鳥生忠佑

     酉井善一

     外山佳昌

     中村洋二郎

     中村 巌

     中村高一

     中島達敬

     仲田 晋

     仲重信吉

     内藤 功

     生井重男

     梨木作次郎

     西村 昭

     西沢仁志

     根本孔衛

     野間友一

     野尻昌次

     野口 一

     能勢克男

     畑山 実

     畑  和

     塙  悟

     土生照子

     浜口武人

     坂東克彦

     原田香留夫

     平田辰雄

     平田 亮

     平田武義

     平井篤郎

     彦坂敏尚

     樋口幸子

     東中光雄

     福田 徹

     福田政雄

     福島 等

     古川太三郎

     古川 毅

     古屋貞雄

     藤本 正

     藤原修身

     二葉宏夫

     堀江達雄

     細迫兼光

     松本善明

     松本健男

     松本洋一

     松井繁明

     松井 誠

     松浦基之

     松崎勝一

     松山 正

     松永和重

     増井俊雄

     増本一彦

     真部 勉

     牧野内武人

     三好泰祐

     三木一徳

     三浦 久

     宮崎定邦

     宮沢洋夫

     村野信夫

     村田 茂

     村井正義

     森川金寿

     毛利与一

     山本 博

     山本忠義

     山花貞夫

     山根 晃

     山川洋一郎

     山中日露史

     山内忠吉

     山田一夫

     山崎季治

     山口伊左衛門

     安田 叡

     安田純治

     矢田部理

     雪入益見

     吉成重善

     吉田孝美

     横山茂樹

     渡辺良夫

     渡辺正雄

     鷺野忠雄

     和田敏夫