岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

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このブログは、岡本法律事務所(岡山市)の所長岡本哲(おかもとてつ) 岡山弁護士会の個人的見解などを
日々書き綴るものです。ロータリアンでもあるのでロータリークラブ関連の話題もあります。

  法律関連の話題が中心になりますが、趣味に関するかるい話題もまじえていきたいと思います。

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 勝訴での判例集搭載判例あり、無罪獲得複数あり、税務異議認容例あり、となっています。


 2015年で50周年をむかえました。

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 所長 弁護士 岡本哲

 
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金築誠志裁判長名判決 最高裁平成24年

刑事訴訟法判例百選第10版 100事件

覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成23年(あ)第757号

平成24年2月13日

【判示事項】       1 刑訴法382条にいう事実誤認の意義

             2 刑訴法382条にいう事実誤認の判示方法

             3 覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めず無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

【判決要旨】       1 刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう。

             2 控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。

             3 覚せい剤を密輸入した事件について覚せい剤を輸入する認識がなかった旨の弁解が排斥できないなどとして,被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,その弁解が客観的事実関係に一応沿うもので第1審判決のような評価も可能であることなどに照らすと,第1審判決が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず(判文参照),刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,同法411条1号により破棄を免れない。

             (補足意見がある。)

【参照条文】       刑事訴訟法382

             刑事訴訟法397-1

             刑事訴訟法411

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集66巻4号482頁

             裁判所時報1549号83頁

             判例タイムズ1368号69頁

             判例時報2145号9頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1444号104頁

             ジュリスト1453号187頁

             別冊ジュリスト232号228頁

             判例時報2181号199頁

             法学教室390号付録42頁

             法曹時報67巻2号292頁

             法律時報85巻1号124頁

             法律時報86巻6号103頁

             法律のひろば65巻5号45頁

             刑事法ジャーナル36号82頁

             法政法科大学院紀要9巻1号27頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件控訴を棄却する。

 

       理   由

 

第1 上告趣意に対する判断

  弁護人浦崎寛泰,同南川学の上告趣意のうち,憲法39条違反をいう点は,検察官の上訴は同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものでないから,前提を欠き,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

第2 職権判断

  所論に鑑み職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。

 1 本件公訴事実の要旨及び本件審理の概要

   本件公訴事実の要旨は,「被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,平成21年11月1日,マレーシア所在のクアラルンプール国際空港において,成田国際空港行きの航空機に搭乗する際,覚せい剤998.79gをビニール袋3袋に小分けした上,缶3個にそれぞれ収納し,これらをボストンバッグ(以下「本件バッグ」という。)に隠して,機内預託手荷物として預けて航空機に積み込ませ,同日,成田国際空港において,本件バッグを航空機から機外に搬出させて,覚せい剤取締法違反である覚せい剤の輸入行為を行い,さらに,空港内の税関の旅具検査場において,税関職員による検査を受けた際,覚せい剤を携帯している事実を申告しないで税関検査場を通過して輸入しようとしたが,職員に覚せい剤を発見されたため,関税法違反である覚せい剤の輸入行為は,その目的を遂げなかった。」というものである。本件については,裁判員の参加する合議体が審理し,第1審は,被告人には缶の中に覚せい剤を含む違法薬物(以下単に「違法薬物」という。)が隠されていることの認識が認められず,犯罪の証明がないとして無罪を言い渡したが,控訴審は,第1審判決に事実誤認があるとしてこれを破棄し,有罪を言い渡した。

 2 本件の事実関係

   原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は以下のとおりである。

  (1) 被告人は,平成21年11月1日,クアラルンプール国際空港(マレーシア)から成田国際空港行きの航空機に搭乗し,本件バッグを機内預託手荷物として預け,航空機に積み込ませた。被告人は,成田国際空港に到着した後,本件バッグを受領し,これを携帯して成田税関支署の職員による税関検査を受けた。

  (2) 被告人は,携帯品・別送品申告書の「他人から預かった物」を申告する欄に「いいえ」と記載し,税関職員から覚せい剤などの持込禁止物件の写真を示されてそれらを持っているかどうかを尋ねられた際もこれを否定した。

  (3) 税関職員は,被告人の所持品のうち,まず免税袋を検査し,チョコレート2缶とたばこのカートンが入っていることを確認したが,特に不審な点は発見されず,引き続き,本件バッグの検査を行い,チョコレート3缶(以下「本件チョコレート缶」という。)や黒色ビニールの包みが入っていることを確認した。税関職員は,先に検査した免税袋に入っていたチョコレート缶と比べると,本件チョコレート缶は,同程度の大きさであるのに明らかに重いと感じ,免税袋に入っていたチョコレート缶と本件チョコレート缶を持ち比べ,重さの違いからチョコレート以外の何かが入っているのではないかと考えたため,被告人に本件チョコレート缶についてエックス線検査を行うことの了解を求めた(なお,本件チョコレート缶は,いずれも横27cm,縦20cm,高さ4cmの同種の平らな缶であり,各缶の蓋と本体の缶の周囲が粘着セロハンテープで留められていた。各缶の裏面には380gのチョコレートが入っている旨が表示されているが,約334gから約350gの覚せい剤がチョコレートのトレーの下に隠匿されていたため,缶の重量を合わせると約1056gから約1071gであった。)。

    被告人は,直ちに検査を承諾し,本件チョコレート缶に対するエックス線検査が行われた。なお,エックス線検査は,検査室の外にあるエックス線検査装置で行われ,被告人は検査室で待っていたため,エックス線検査には立ち会っていない。

  (4) 税関職員は,エックス線検査を行い,本件チョコレート缶の底の部分にいずれも黒い影が映し出されたことを確認し,検査室に戻り,被告人に対し,エックス線検査の結果については伝えずに被告人がこれらのチョコレート缶を自分で購入したのかどうかを尋ねたところ,被告人は,「ああそれは,きのう向こうで人からもらったものだよ。」と返答した。

    税関職員は,被告人に対し,当初は預り物やもらい物がないと申告したのではないかと尋ねたが,被告人から返答はなく,「それではどのような人にもらったのか,日本人ですか。」と質問したところ,被告人は,「イラン人らしき人です。」と答えた。これらの問答の後,税関職員は,被告人に荷物に関する確認票を作成させた上で,被告人にどれが預かってきたものであるのかを尋ね,被告人は,本件チョコレート缶,黒色ビニールの包み,菓子数点を申告した。

    税関職員は,被告人に黒色ビニールの包みを開けるよう求めたが,被告人が企業秘密の書類だからと答えてこれを拒否したため,本件チョコレート缶について,「エックス線検査をした結果,底の部分に影がありますので確認させていただきたい。」とエックス線検査の結果を説明した上で,缶を開けることの承諾を求めた。被告人が承諾したので,税関職員が被告人の面前で缶を開けたところ,本件チョコレート缶3缶全部から白色結晶が発見された。

  (5) 税関職員は,被告人に対し,「これはなんだと思うか。」と白色結晶について質問したところ,被告人は,「薬かな,麻薬って粉だよね,何だろうね,見た目から覚せい剤じゃねえの。」と答えた。税関職員は,再び黒色ビニールの包みについて被告人に開披を求め,その同意を得てこれを開けると,中には名義人の異なる5通の外国の旅券が入っており,そのうち3通は偽造旅券であった。

    その後,税関職員は,白色結晶の検査をして覚せい剤であることを確認し,被告人を逮捕した。

  (6) 被告人は,逮捕された直後は,本件チョコレート缶について,マレーシアで知らない外国人から日本に持って行くように頼まれたと述べていたが,その後は,日本国内にいるナスールという人物から,30万円の報酬を約束され,航空運賃等を負担してもらった上で偽造旅券を日本に密輸することを依頼され,マレーシアでジミーという人物から旅券を受け取った際にナスールへの土産として本件チョコレート缶を持って行くよう頼まれたと述べるようになり,次いで,日本で旧知のカラミ・ダボットから被告人が送金を受けていることについて説明を求められた後に,ナスールから頼まれたのではなく,カラミ・ダボットに頼まれ,ジミーから偽造旅券を受け取り,ダボットに渡した上でナスールに渡すことが予定されていた旨述べた。なお,本件当時,カラミ・ダボットは,本件とは別の覚せい剤輸入事件の共犯者として大阪地方裁判所に起訴され,第1審で無罪判決を受けた後,検察官控訴により大阪高等裁判所で審理を受けている状況にあった。被告人は,こうした訴訟経緯をカラミ・ダボットから聞かされていた。

 3 審理の経過及び第1,2審判決

  (1) 本件においては,本件チョコレート缶を本邦に持ち込む時点において,その缶の中に覚せい剤が入っていることを被告人が認識していたか否か(以下「被告人の覚せい剤の認識」という。)が争われた。

    検察官は,上記の検挙の経過等を立証し,本件犯行の態様や被告人の税関検査での言動,被告人の弁解状況などを被告人の覚せい剤の認識を推認させる間接事実である旨指摘し,これらを総合すれば,被告人の覚せい剤の認識が認められる旨主張した。

    これに対し,被告人は,マレーシアに渡航したのは偽造旅券の輸入を依頼されたためであり,マレーシアでチョコレート缶を受け取った際,一旦は,その中に違法薬物が隠されているのではないかという一抹の不安を感じたが,その後,外見上異常がないことを確認して不安が払拭されたため,税関検査を受けるまで本件チョコレート缶の中に違法薬物が入っているとは思っていなかった旨の弁解をした。

  (2) 第1審判決は,被告人の覚せい剤の認識を裏付けるために検察官が主張した間接事実を6点に分類し,それが被告人の違法薬物の認識を裏付けるかについて,個別に検討している。

    すなわち,第1審判決は,①被告人が本件チョコレート缶を自分で本件バッグに入れて手荷物として日本に持ち込んだという間接事実については,本件チョコレート缶の内容を外側から確認できず,外見的には開封等された様子がなかったことなどを指摘し,この間接事実から,直ちに本件チョコレート缶に違法薬物が隠されている事実が分かっていたはずであるとまではいえないとし,②被告人が30万円の報酬を約束され,航空運賃等を負担してもらった上で,関係者に渡すために本件チョコレート缶を持ち帰っているという間接事実については,被告人が偽造旅券の密輸を依頼されていたと述べ,税関検査時に偽造旅券を所持していたことなどを指摘し,この間接事実から委託物が違法薬物であると当然に分かったはずであるとまではいえないとし,③本件チョコレート缶が不自然に重いという間接事実については,被告人が本件チョコレート缶を他の缶と持ち比べる機会はなく,本件チョコレート缶の重量感からチョコレート以外の物が隠されていると気付くはずであるとはいえないとしている。

    さらに,④被告人の税関検査時の言動に関しては,(ア)被告人が税関検査の際に預り物はないと嘘をついたこと,(イ)被告人が本件チョコレート缶のエックス線検査結果を知らされる前に,税関職員に対し他人から本件チョコレート缶をもらったと述べたこと,(ウ)本件覚せい剤が発見された際等に被告人に狼狽していた様子がうかがわれなかったこと,(エ)発見された白色結晶について税関職員が被告人に質問したところ,被告人が「見た目から覚せい剤じゃねえの。」と発言していることが間接事実として主張されたが,第1審判決は,(ア)については,被告人が厳密な税関検査を受けることを煩わしく思って嘘をつくことはあり得るし,偽造旅券を所持していたことから嘘をついたとも考えられるとし,(イ)については,被告人は本件チョコレート缶を受け取った際に一旦はその中に違法薬物が隠されているのではないかという一抹の不安を感じ,その後,外見上異常がないことを確認して不安が払拭されたというのであり,エックス線検査を行っている状況に置かれた被告人が再度不安を抱いて預り物であると正直に申告しようと考えたというのも十分に理解でき,このような言動により,被告人が違法薬物の存在を知っていたとまで断言することはできないとし,(ウ)については,動揺していることが表情等にどのように表れるかは人によって大きく異なり,この間接事実から直ちに被告人が最初から違法薬物の存在を知っていたとまではいえないとし,(エ)については,被告人がそれ以前の調査の過程で覚せい剤のカラー写真を見せられていたことを指摘し,この間接事実から,被告人が本件覚せい剤の存在を最初から知っていたとはいえないとしている。

    また,⑤被告人が覚せい剤輸入事件で裁判中の者であるカラミ・ダボットらから高額の報酬を約束され,渡航費用を負担してもらうなどして依頼を受けていたことや,⑥被告人の言い分が不自然であることも間接事実として主張された。第1審判決は,⑤の点については,違法薬物との関わりが疑われている人物から高額の報酬を約束されるなどして渡航し,日本国内の第三者に渡すように依頼されて本件チョコレート缶を受け取ったことは,被告人が本件チョコレート缶の中に違法薬物が入っているかもしれないと考えていたことをうかがわせる事実といえると判示しつつ,⑥の点の検討に移り,本件チョコレート缶の中に違法薬物が入っているとは考えていなかったと述べる被告人の弁解について,本件チョコレート缶は外見上異常がなかったこと,被告人は,偽造旅券等の入った黒色ビニールの包みを税関職員等の目に付きにくい本件バッグの底の方に入れていたにもかかわらず,本件チョコレート缶は目に付きやすい本件バッグの最上部に横並びで収納していたこと,被告人は,税関検査の際に上記の黒色ビニールの包みを開けるよう求められた際には,「企業秘密だから。」などと述べて拒絶したにもかかわらず,本件チョコレート缶のエックス線検査や開披検査を求められるや,直ちにこれを承諾したことなどを指摘し,被告人の弁解が信用できないとはいえない旨判示して,被告人に無罪を言い渡している。

  (3) これに対し,検察官が控訴し,事実誤認を主張した。原判決は,被告人が本件チョコレート缶を本邦に持ち込んだ経緯について供述を何度も変遷させており,覚せい剤輸入事件で裁判中のカラミ・ダボットから委託されて渡航した事実を隠そうとしていたことなどを指摘して,被告人の供述は信用し難いと判示し,さらに,検察官の主張した各間接事実のうち,①②④⑤⑥などは,被告人に覚せい剤の認識があったと認定する一つの証拠となり得ると判断し,間接事実の評価等に関し第1審判決が指摘した疑問や説示についても是認できないとした上で,これらを総合すれば,被告人の覚せい剤の認識を認めるのが相当であるとし,第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとしてこれを破棄し,覚せい剤取締法違反及び関税法違反の各事実について被告人を有罪と認め,被告人を懲役10年及び罰金600万円に処するとともに覚せい剤3袋を没収した。

 4 当裁判所の判断

  (1) 刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており,控訴審は,第1審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものである。第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって,刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。したがって,控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては,より強く妥当する。

  (2) 上記のとおり,第1審判決は,検察官主張の間接事実①ないし④は被告人に違法薬物の認識があったと推認するに足りず,また,間接事実⑤はその認識をうかがわせるものではあるが,違法薬物の認識を否定する被告人の弁解にはそれを裏付ける事情が存在し,その信用性を否定することができないとして,被告人を無罪としたものである。

    第1審判決は,これらの間接事実を個別に検討するのみで,間接事実を総合することによって被告人の違法薬物の認識が認められるかどうかについて明示していないが,各間接事実が被告人の違法薬物の認識を証明する力が弱いことを示していることに照らすと,これらを総合してもなお違法薬物の認識があったと推認するに足りないと判断したものと解される。

    したがって,本件においては,上記のような判断を示して被告人を無罪とした第1審判決に論理則,経験則等に照らして不合理な点があることを具体的に示さなければ,事実誤認があるということはできない。

    このような観点から,以下原判決についてみていくこととする。

  (3) まず,被告人の弁解に関する原判断についてみると,原判決は,偽造旅券の密輸を頼まれただけで違法薬物の認識はなかった旨の被告人の弁解の信用性について検討し,①本件チョコレート缶の所持に至る経緯について,被告人がその供述を二転三転させていること,②被告人は,現行犯逮捕された際,偽造旅券について言及することもなく,動揺することもなく素直に逮捕に応じていること,③被告人は,覚せい剤の密輸に関与していないという弁解を裏付けるために,カラミ・ダボットに事情を聞いてほしい旨の申出をしてしかるべきであるのにそうした申出をした形跡がなく,かえって,カラミ・ダボットのことを隠し通そうとしたことなどを指摘して,被告人の弁解は信用し難いとしている。また,第1審判決が指摘する疑問等の検討を行う中で,④被告人は,容易に粘着セロハンテープを剥がして開封し,内容物を確認できたにもかかわらず,内容物に不安を感じたというのに開封して内容物を調べていないのは不自然,不合理であるとして,缶の外見を確認しただけで不安が払拭された旨の被告人の弁解は信用することができないとも判示している。

    原判決の上記の判示について検討する。

    上記①について,被告人は,逮捕直後には見ず知らずの外国人から本件チョコレート缶を預かった旨弁解していたが,その次にはナスールから偽造旅券の持込みを頼まれてマレーシアに渡航し,ジミーから本件チョコレート缶を土産として預かった旨供述し,最終的には,カラミ・ダボットから送金を受けている事実を指摘された後にカラミ・ダボットに上記内容の依頼を受けた旨の供述を行ったことを公判廷で認めている。原判決が指摘するとおり,被告人の供述には変遷があり,このことは一般に被告人の供述の信用性を大きく減殺する事情であるといえる。しかしながら,被告人の最終的弁解は,カラミ・ダボットから偽造旅券の運び屋となることを頼まれて,マレーシアに渡航し,そこでジミーなる男から偽造旅券を受け取る際に,本件チョコレート缶を預かった,預かった偽造旅券はカラミ・ダボット経由でナスールに渡すものだと聞いていたというものであるところ,この最終的弁解を排斥し得るか否かは,上記のような変遷状況のほか,本件における他の具体的な諸事情をも加味した上で,総合的に判定されるべきものと考えられる。

    上記②について,原判決が指摘する被告人の逮捕時の言動等は,逮捕の際に積極的に弁解せず,抵抗や驚きも示さなかったというものであるが,この言動は,被告人に違法薬物の認識がなかったとしても,必ずしも説明のつかない事実であるとはいえない。

    上記③については,カラミ・ダボットは本件とは別の覚せい剤輸入事件の共犯者として起訴され,第1審で無罪判決を受けたものの,検察官から控訴されていたものであって,そのような人物から依頼されてマレーシアに渡航して結果的に覚せい剤を持ち込んでいるという本件の経過は,被告人が故意に覚せい剤の輸入に関わったと疑わせる事情であり,被告人がこのような事情を意図的に隠していたことをもって,被告人が故意に覚せい剤の輸入に関与したことを裏付ける方向の事情とみた原判断も,理解できないわけではない。しかし,被告人は,カラミ・ダボットが覚せい剤輸入事件で裁判中であることを知っていたというのであるから,取調官にカラミ・ダボットからの依頼であることを明らかにすることが自己の利益にならないと考えてもおかしくない状況にあり,被告人がカラミ・ダボットからの依頼であることを積極的に明らかにしなかったことは,被告人に違法薬物の認識がなかったとしても,相応の説明ができる事実といえる。なお,この点に関し,被告人は,当時カラミ・ダボットにだまされたとは思っておらず,以前から親しい付き合いのある同人の名前を出すと,同人が覚せい剤輸入事件で不利になると考えたなどと述べている。被告人は,本件チョコレート缶についてはカラミ・ダボットから運搬を依頼されたわけではなく,現地でジミーから受け取っただけであると供述していることなどを踏まえると,被告人のこの説明もカラミ・ダボットからの依頼であることを積極的に述べなかったことの説明として,必ずしも不合理なものとはいい難い。

    上記④について,原判決は,被告人が本件チョコレート缶に違法薬物が隠されているのではないかという不安を感じたのに,内容物を確認することもなく,外見から見て安心し,不安が払拭されたというのは不自然不合理であると指摘している。しかし,被告人は本件チョコレート缶を他人への土産として預かったもので,チョコレート缶を自由に開封できる立場ではなかったというのであり,また,被告人は,本件チョコレート缶を受領する際に,違法薬物が混入されているのではないかという一抹の不安を覚えたにすぎず,本件チョコレート缶は税関職員が見ても外見上異常がなかったのであって,本件チョコレート缶について開封した形跡がなかったことから不安が払拭されたとする点が,およそ不自然不合理であるということはできない。

    このように,原判決は,被告人の弁解を排斥できないとした第1審判決について,被告人の弁解が信用できないと判示することによりその不合理性を明らかにしようとしたものとみられるが,その指摘する内容は,被告人の弁解を排斥するのに十分なものとはいい難い。被告人の上記弁解は,被告人が税関検査時に実際に偽造旅券を所持していたことや,その際,偽造旅券は隠そうとしたのに,覚せい剤の入った本件チョコレート缶の検査には直ちに応じているなどの客観的事実関係に一応沿うものであり,その旨を指摘して上記弁解は排斥できないとした第1審判決のような評価も可能である。

  (4) 次に,検察官の主張する間接事実に関する原判断についてみると,原判決は,第1審判決が間接事実の評価に関して示した疑問等について検討し,第1審判決の判示は是認できず,間接事実を総合すれば被告人の覚せい剤の認識が認められる旨判示している。

    原判決の上記の判示について検討する。

    原判決は,A被告人が,チョコレートのトレーの下に覚せい剤を隠して一見発見できないように隠匿した本件チョコレート缶を手荷物として持ち込んだことを,被告人の覚せい剤の認識を認定する証拠となり得るとし,この事実を違法薬物の認識を裏付けるものと評価しなかった第1審判決の判示は是認できないとする。手荷物の持ち主は通常は手荷物の中身を知っているはずであると考えられるから,上記のような持込みの態様は被告人の覚せい剤の認識を裏付けるものといい得るが,本件チョコレート缶への覚せい剤の隠匿に被告人が関与したことを示す直接証拠はなく,被告人はチョコレート缶を土産として預かったと弁解しているから,他の証拠関係のいかんによっては,この間接事実は,被告人に違法薬物の認識がなかったとしても説明できる事実といえ,その旨の第1審判決の判断に不合理な点があるとはいえない。

    また,原判決は,B携帯品・別送品申告書に預り物はない旨申告したことや,本件チョコレート缶から発見された白色結晶について問われ「薬かな,麻薬って粉だよね,何だろうね,見た目から覚せい剤じゃねえの。」と答えたことなどの税関検査における被告人の態度を覚せい剤の認識を認める証拠になり得るとし,この事実を違法薬物の認識を裏付けるものと評価しなかった第1審判決の判示は是認できないとする。一般に預り物があるのにその旨を申告しなかった事実は,預り物を隠したいという気持ちがあったことを推測させる事実であるといえるが,被告人は当時本件チョコレート缶だけではなく偽造旅券も預かっていたのであるから,この申告状況は偽造旅券を隠すためのものとも考えられ,その旨の第1審判決の判断が不合理なものとはいえない。また,白色結晶が発見された段階で,その白色結晶が覚せい剤であることを認めるかのような言動をすることは,被告人に覚せい剤の認識があったことを示す方向の事情といい得るものではあるが,被告人はその直前に検査の過程で覚せい剤の写真を見せられていたことも踏まえると,この言動は被告人に覚せい剤の認識がなかったとしても説明できる事実といえ,その旨の第1審判決の判断も不合理なものとはいえない。

    さらに,原判決は,C被告人のマレーシアへの渡航費用について,覚せい剤輸入事件で裁判中のカラミ・ダボットから被告人の口座に振り込まれた資金が使用されていることを被告人の覚せい剤の認識を裏付ける方向の事実と評価している。高額の報酬を約束され,経費も負担してもらって,海外から荷物を日本に運搬することを依頼されたという事実は,違法な物の運搬であることを前提に依頼が行われたことを推認させる方向の事実といえ,その依頼が覚せい剤輸入事件で裁判中の者からの依頼である場合には,覚せい剤に関係する依頼であることを推認させる方向の事情であるともいえる。しかし,本件においては,被告人が偽造旅券の密輸を依頼されたもので覚せい剤の密輸を依頼されていないと供述し,実際に偽造旅券が発見されるなどその弁解に一定の裏付けがあるから,カラミ・ダボットから報酬を約束されるなどして依頼を受けたという事実は,偽造旅券の密輸を依頼されていた旨の被告人の弁解とも両立し得るものである。なお,検察官は,第1,2審において,被告人は,検挙された際に,自分が企図していたのは偽造旅券の密輸であって,缶の中身は知らなかったという弁解をするために偽造旅券を所持していた旨主張していたものであるところ,その可能性は排除されないとしても,被告人は,発覚直後の段階では偽造旅券の運び屋であったなどという弁解を行っておらず,覚せい剤が発見された際弁解するために偽造旅券を所持していたものとも断じ難い。

    そのほかにも,原判決は,D逮捕後にカラミ・ダボットから依頼されていたことを隠そうとして弁解を変遷させた経過や,E被告人が違法薬物が隠されているかもしれないと思ったのに本件チョコレート缶を開封しなかったことなどを,被告人の覚せい剤の認識を裏付ける方向の事実として指摘し,その旨の評価をしなかった第1審判決の判示が不合理である旨判示するが,これらの事実が被告人に違法薬物の認識がなかったとしても説明できる事実であることは既に述べたとおりであり,その旨の第1審判決の判示が不合理であるとはいえない。

    このように,間接事実の評価に関する原判断は,第1審判決の説示が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえないのであって,第1審判決のような見方も否定できないというべきである。

  (5) 以上に説示したとおり,原判決は,間接事実が被告人の違法薬物の認識を推認するに足りず,被告人の弁解が排斥できないとして被告人を無罪とした第1審判決について,論理則,経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない。そうすると,第1審判決に事実誤認があるとした原判断には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

    そして,上記の検討によれば,被告人を無罪とした第1審判決に論理則,経験則等に照らして不合理な点があるとはいえず,第1審判決の事実誤認を主張する検察官の控訴も理由がないことに帰するから,この際,当審において自判するのが相当である。

    よって,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,同法413条ただし書,414条,396条により検察官の控訴を棄却することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官白木勇の補足意見がある。

 裁判官白木勇の補足意見は,次のとおりである。

 1 これまで,刑事控訴審の審査の実務は,控訴審が事後審であることを意識しながらも,記録に基づき,事実認定について,あるいは量刑についても,まず自らの心証を形成し,それと第1審判決の認定,量刑を比較し,そこに差異があれば自らの心証に従って第1審判決の認定,量刑を変更する場合が多かったように思われる。これは本来の事後審査とはかなり異なったものであるが,控訴審に対して第1審判決の見直しを求める当事者の意向にも合致するところがあって,定着してきたといえよう。

   この手法は,控訴審が自ら形成した心証を重視するものであり,いきおいピン・ポイントの事実認定,量刑審査を優先する方向になりやすい。もっとも,このような手法を採りつつ,自らの心証とは異なる第1審判決の認定,量刑であっても,ある程度の差異は許容範囲内のものとして是認する柔軟な運用もなかったわけではないが,それが大勢であったとはいい難いように思われる。原審は,その判文に鑑みると,上記のような手法に従って本件の審査を行ったようにも解される。

 2 しかし,裁判員制度の施行後は,そのような判断手法は改める必要がある。例えば,裁判員の加わった裁判体が行う量刑について,許容範囲の幅を認めない判断を求めることはそもそも無理を強いることになるであろう。事実認定についても同様であり,裁判員の様々な視点や感覚を反映させた判断となることが予定されている。そこで,裁判員裁判においては,ある程度の幅を持った認定,量刑が許容されるべきことになるのであり,そのことの了解なしには裁判員制度は成り立たないのではなかろうか。裁判員制度の下では,控訴審は,裁判員の加わった第1審の判断をできる限り尊重すべきであるといわれるのは,このような理由からでもあると思われる。

   本判決が,控訴審の事後審性を重視し,控訴審の事実誤認の審査については,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであるとしているところは誠にそのとおりであるが,私は,第1審の判断が,論理則,経験則等に照らして不合理なものでない限り,許容範囲内のものと考える姿勢を持つことが重要であることを指摘しておきたい。

 検察官稲川龍也,同慶徳榮喜 公判出席

(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)

 

ユニオンショップ協定の効力 三井倉庫港湾事件 最高裁平成元年

労働判例百選第8版 86事件

              解雇無効確認等請求事件

 

【事件番号】       最高裁判所第1小法廷判決/昭和60年(オ)第386号

【判決日付】       平成元年12月14日

【判示事項】       ユニオン・ショップ協定の効力

【判決要旨】       ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である。

【参照条文】       憲法28

             民法90

             労働組合法2章

             労働組合法3章

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集43巻12号2051頁

             最高裁判所裁判集民事158号559頁

             裁判所時報1017号8頁

             判例タイムズ717号79頁

             金融・商事判例839号32頁

             判例時報1336号40頁

             労働判例552号6頁

             労働経済判例速報1381号3頁

【評釈論文】       ジュリスト953号98頁

             ジュリスト臨時増刊957号218頁

             ジュリスト966号104頁

             摂南法学6号147頁

             日本労働法学会誌76号116頁

             判例評論383号230頁

             法学教室349号81頁

             法曹時報43巻2号247頁

             法律のひろば43巻5号75頁

             民商法雑誌103巻2号81頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人竹林節治、同畑守人、同中川克己、同福島正の上告理由第一点について

 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない(最高裁昭和四三年(オ)第四九九号同五〇年四月二五日第二小法廷判決・民集二九巻四号四五六頁参照)。

 本件についてこれをみるに、原審が適法に確定したところによると、(1) 上告会社は、参加人組合との間に「上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手は、双方が協議して認めた者を除き、すべて参加人組合の組合員でなければならない。上告会社は、上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、参加人組合に加入しない者及び参加人組合を除名された者を解雇する。」との本件ユニオン・ショップ協定を締結していた、(2) 被上告人らは上告会社に勤務する海上コンテナトレーラー運転手であったが、昭和五八年二月二一日午前八時半ころ、参加人組合に対して脱退届を提出して同組合を脱退し、即刻訴外全日本運輸一般労働組合神戸支部に加入し、その旨を同日午前九時一〇分ころ上告会社に通告した、(3) 参加人組合は、同日、上告会社に対し本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇を要求し、上告会社は、同日午後六時ころ本件ユニオン・ショップ協定に基づき被上告人らを解雇した、というのであり、参加人組合を脱退して訴外組合に加入した被上告人らについては、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生ずるものでないことは、前記説示に照らし、明らかというべきである。そうすると、上告会社が、本件ユニオン・ショップ協定に基づき、被上告人らに対してした本件各解雇は、右協定による上告会社の解雇義務が生じていないときにされたものであり、本件において他にその合理性を裏付ける特段の事由を認めることはできないから、結局、本件各解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。以上と同旨の見解に立って、本件各解雇が解雇権の濫用であって無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 同第二点について

 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官  四ツ谷巖

            裁判官  角田禮次郎

            裁判官  大内恒夫

            裁判官  佐藤哲郎

            裁判官  大堀誠一

富永裁判長不当判決 配当所得にあたるとしたさいたま地裁平成19年

岡村ほか3版 36頁       所得税更正処分等取消請求事件

 

【事件番号】       さいたま地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第3号

【判決日付】       平成19年5月16日

【判示事項】       ニューヨーク州法に基づいて設立されたLLCが日本の租税法上の法人にあたるとしたうえで、本件事案において同LLCから原告への分配金が所得税法上の配当所得にあたるとした事例

【判決要旨】       (1) 我が国の租税法上、法人の所得は法人課税の対象となり、その出資者等である個人の課税所得の範囲には含まれない(所得税法7条(課税所得の範囲)、法人税法5条(内国法人の課税所得の範囲)、9条(外国法人の課税所得の範囲)等参照)。

             (2) 納税義務は、各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されていることから、租税法がそれらを課税要件規定の中に取り込むにあたって、私法上におけるものと同じ概念を用いている場合には、別の意義に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけるものと同じ意義に解するのが、法的安定に資する。そうすると、租税法上の法人は、民法、会社法といった私法上の概念を借用し、これと同義に解するのが相当である。

             (3) 我が国の租税法上、「法人」に該当するかどうかは、私法上、法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると関するのが相当である。

             (4) 外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては、基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当である。

             (5)~(8) 省略

             (9) 所得税法上、配当所得とは、法人から受ける利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)等に係る所得等をいう(平成18年法律第10号による改正前の同法24条1項(配当所得)。そして、会社からの分配は、会社の正式な決算手続きに基づき利益が分配されたものでなくても、実質的にみてそれが出資者である地位に基づいて受ける利益の分配と見られる限りにおいて、配当所得となるものと解される(最高裁判所昭和43年11月13日大法廷判決・民集22巻12号2449頁参照)。

             (10)・(11) 省略

             (12) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法65条4項(過少申告加算税)が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい、納税者の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りは、このような場合に当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成18年11月16日第一小法廷判決・裁判所時報1424号1頁参照)。

             (13) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料257号順号10712

             LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は,原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 被告が原告の平成10年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額6247万4176円,納付すべき税額151万9700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成14年12月18日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 2 被告が原告の平成11年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額6670万0339円,納付すべき税額175万6800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 3 被告が原告の平成12年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額7071万6993円,納付すべき税額311万3300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成17年4月13日付け減額更正により一部減額された後のもの)を取り消す。

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

   原告は,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)ニューヨーク州法に基づき組成されたA・LLC(以下「本件LLC」という。)の行った不動産賃貸業に係る収支及び本件LLC名義の預金利息収入を原告の不動産所得及び雑所得として,平成10年分ないし平成12年分の所得税の各確定申告をした。これに対し,被告は,本件LLCが行う不動産賃貸業による生じた損益は法人としての本件LLCに帰属するもので,原告の課税所得の範囲に含まれないとしてこれを是正し,また,本件LLCが平成10年ないし平成12年に原告に対して送金した分配金(以下「本件分配金」という。)は原告の配当所得に該当する等として,原告に対し,上記各年分の所得税に係る更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

   本件は,原告が,本件LLCは我が国の租税法上の法人に該当せず,また,本件分配金の一部は出資金の払戻しであり配当所得には当たらないから,本件各更正処分等は違法である等と主張して,その取消しを求めた事案である。

 2 法令の定め等

 (1)法人に関する規定

    法人に関する所得税法及び法人税法の規定には,次の内容のものがある。

   ア 所得税法

    (定義)

    2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

     1~5 省略

     6 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。

     7 外国法人 内国法人以外の法人をいう。

     8~48 省略

    2 省略

   イ 法人税法

   (定義)

    2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

     1,2 省略

     3 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。

     4 外国法人 内国法人以外の法人をいう。

     5~48 省略

 (2)配当所得に関する規定

    所得税法には,以下の内容の定めがある。

   (配当所得)

   24条 配当所得とは,法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし,資本剰余金の額の減少に伴うもの等によるものを除く。),利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。),基金利息並びに投資信託及び特定目的信託の収益の分配に係る所得(以下「配当等」という。)をいう。

   2 配当所得の金額は,その年中の配当等の収入金額とする。ただし,株式その他配当所得を生ずべき元本を取得するために要した負債の利子でその年中に支払うものがある場合は,当該収入金額から,その支払う負債の利子の額のうちその年においてその元本を有していた期間に対応する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額の合計額を控除した金額とする。

 (3)過少申告加算税に関する規定

    国税通則法(以下「通則法」という。)には,以下の内容の定めがある。

   (過少申告加算税)

   65条 期限内申告書が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があつたときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき35条2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

   2,3 省略

   4 1項又は2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して,これらの項の規定を適用する。

   5 省略

 3 基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)

 (1)本件LLCに係る経緯

   ア 原告は,平成2年7月,ニューヨーク州在住のB(以下「B」という。)との間で,パートナーシップ契約を締結し,Aの名で共同にて不動産賃貸業等を営むことを約した(以下「本件パートナーシップ」という。乙15の5枚目ないし18枚目)。

   イ 原告は,平成3年6月から9月にかけて,当時の太陽神戸三井(現三井住友)銀行東松山支店から5400万円を借り入れるなどし,本件パートナーシップに出資するために米国へ42万7694米国ドル(以下「ドル」という。)を送金した(乙16の3枚目,11枚目ないし13枚目)。

     そして,原告が米国へ送金した上記金額のうち,その半額は本件パートナーシップへの原告の出資金とし,残りの半額は原告からBへの貸付金とした上で,本件パートナーシップへのBの出資金とした(乙17の2枚目)。これにより,本件パートナーシップの持分は,原告,Bともに各2分の1(各21万3847ドル)となった。

   ウ 原告及びBは,本件パートナーシップとして,平成3年9月ころ,不動産購入のための資金とするため,105万8000ドルを借り入れ,平成3年9月16日付けで,ニューヨーク州ニューヨーク市ab-c所在の物件(以下「本件賃貸ビル」という。)を土地42万2152ドル,建物98万5023ドルの合計140万7175ドルで購入した(乙16の2枚目,3枚目,乙17の14枚目)。

     そして,原告及びBは,本件パートナーシップとして,共同で本件賃貸ビルによる不動産賃貸業を開始した。

   エ 平成6年(1994年)10月24日,ニューヨーク州において,リミテッド・ライアビリティー・カンパニー法(Limited Liability Company Law。以下「NYLLC法」という。乙1の1,1の2)が施行された。

     米国におけるリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(Limited Liability Company。以下「LLC」という。)とは,その構成員に有限責任の保護を提供し,構成員が積極的に経営に参加する権利を有する事業形態であり,パートナーシップや株式会社と同様に,各種の事業を実施するために組成される。

   オ 平成9年(1997年)1月1日,米国において,いわゆるチェック・ザ・ボックス規則が施行された。

     チェック・ザ・ボックス規則とは,事業体自身に納税主体となるか否かを選択させる制度である。同規則により,LLCは,法人としての課税を受けるか,パートナーシップとしての課税を受けるかを選択できるようになった。パートナーシップとしての課税を選択した場合,LLCの所得又は損失は,実際にそれが構成員に分配された否かにかかわらず,原則としてLLCの構成員各人の持分割合に応じて,その所得又は損失となる(以下,このような課税方式を「パス・スルー」という。)。

   カ 原告は,平成10年2月2日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の一部として,20万ドルの返済を受けた(乙11の1枚目)。

     原告及びBは,同年3月6日,本件パートナーシップに対する出資金として各2万5000ドルを拠出した(乙11の1枚目)。

   キ 原告は,平成10年4月16日,Bとの間で,本件パートナーシップをパートナーシップからLLCへ組織変更するため,オペレーティング契約(Operating Agreement of A LLC。以下「本件オペレーティング契約」という。乙2の1,2の2)及び転換協定(Agreement of Conversion,乙3の1,3の2)を締結した(乙15の2枚目,3枚目)。

     Bは,平成10年4月17日,本件LLCの構成員として,上記組織変更に係る証書(Certificate of Conversion of A to A LLC)をニューヨーク州政府に提出し,もって原告及びBの本件パートナーシップに係る資産及び負債は本件LLCに引き継がれた(NYLLC法1006条,1007条参照。乙4の1,4の2)。

     なお,原告及びBの本件LLCに対する持分比率(以下LLCに対する構成員の持分を「構成員持分」という。)は,本件LLCへの組織変更の前後を通じて,各50%のままで変更はなかった(乙2の1の5枚目,15の3枚目)。

     本件LLCは,チェック・ザ・ボックス規則に基づき,法人としてではなく,パートナーシップとして課税されることを選択した(乙12の1ないし14の2)。

   ク 本件LLCは,平成10年4月25日,ノムラ・アセット・キャピタル・コーポレーション(以下「ノムラ・アセット」という。)から,本件賃貸ビルを担保として,240万ドルの借入れを行った(以下「本件借入金」という。乙7の1,7の2)。上記貸付の際,ノムラ・アセットは,本件賃貸ビルの市場価値を370万ドルと評価した(乙17の2枚目)。

   ケ 本件LLCは,平成10年4月27日,ノムラ・アセットからの本件借入金240万ドルのうち一部を平成3年の本件賃貸ビル購入時に行った借入れの返済に充てる(未払いの元利合計96万4052.19ドル。乙7の1の1枚目,7の2の1枚目,17の14枚目)一方,原告及びBに対し,それぞれ25万ドル及び85万ドルの分配(distribution)をした(乙17の2枚目)。本件借入金の残額は,本件LLCに内部留保された。

   コ 原告は,平成10年5月25日,Bから,同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の残額として,2万8000ドルの返済を受けた(乙11の2枚目)。また,原告は,同年8月28日,Bから,上記貸付金にかかる最終的な精算金額として477ドルを受け取った(乙10の1の5枚目,11の3枚目)。

   サ 本件LLCは,平成11年12月20日,原告に対し,12万5000ドルの分配をし,同月22日,Bに対し,同額の分配をした。

     また,本件LLCは,原告及びBに対し,平成12年7月5日,各5万ドルの分配をし(乙19の3枚目),同年12月22日,各4万5000ドルの分配をした(乙19の4枚目)。

 (2)原告の本件各年分の確定申告

    原告は,本件各年分の所得税について別紙の「確定申告」欄記載のとおり,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた損益及び本件LLC名義の預金から生じる利息収入を原告の不動産所得及び雑所得として平成10年から同12年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税の各申告を各法定申告期限までに行った。

 (3)本件各更正処分等

    被告は,平成14年3月14日付けで,原告に対し,平成10年分,平成11年分及び平成12年分(本件各係争年分)の所得税に関し,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた損益及び本件LLC名義の預金から生じる利息収入については,原告ではなく,本件LLCに帰属するとしてこれを是正し,また,本件LLCが原告に対し送金した本件分配金については,原告の配当所得に該当する等として,別紙の「更正処分等」欄記載のとおり,本件各更正処分を行い,さらに,本件各加算税賦課決定処分を行った(本件各更正処分等)。

 (4)不服申立て等

    原告は,本格各更正処分等を不服として,平成14年4月25日,被告に対し,異議申立てをした。被告は,平成14年12月18日付けで,平成11年分の申立てを棄却し,平成10年分及び平成12年分の申立てについては,別紙の異議決定欄記載のとおり,決定した。

    原告は,上記各決定を不服として,平成15年1月10日,国税不服審判所長に審査請求をしたが,同所長は,平成16年11月11日付けで,原告の請求をいずれも棄却した(甲4)。

    そこで,原告は,平成17年1月19日,本件訴えを提起した。

    その後,被告は,平成17年4月13日付けで,平成12年分の更正処分のうち,納付すべき税額を52万8000円減額する更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)を行った。

 4 被告が主張する原告の所得税額

   被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額の計算の根拠は次のとおりであり,本件各更正処分における各納付すべき税額(ただし,いずれも平成14年12月18日付け異議決定ないし本件減額更正処分により一部取り消された後のもの)を上回るから,本件各更正処分は,いずれも適用である。

 (1)平成10年分

   ア 総所得金額                9298万8487円

     上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

   (ア)不動産所得の金額             493万3028円

      上記金額は,原告が平成10年分の所得税の確定申告書(以下「平成10年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(680万4203円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(187万1175円)を控除した金額である。

   (イ)利子所得の金額               38万0245円

      上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

   (ウ)配当所得の金額             3507万8344円

      上記金額は,原告の平成10年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成10年分の本件LLCからの分配金(3260万円)を加算し,そこから本件LLCからの分配金を生ずべき元本を取得するために要した負債利子の額(16万1656円)を控除した金額である。

   (エ)給与所得の金額             5259万6870円

   (オ)雑所得の金額                      0円

      原告が平成10年分確定申告書で雑所得として申告した額(5万2858円)から,本件LLCに係る利息収入として申告された額(85万2825円)を控除すると,損失が生じる(△79万9967円)。そして,雑所得の計算上生じた損失については,所得税法69条(損益通算)の適用はないため,原告の雑所得の金額は0円となる。

   イ 所得控除の合計額              157万7669円

   ウ 課税総所得金額                  9141万円

     上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)である。

   エ 算出税額                 3967万5000円

     上記金額は,前記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項に規定する税率を適用して算出した金額である。

   オ 配当控除                   13万2000円

     なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

   カ 特別減税額                   5万7000円

     上記金額は,平成10年分所得税の特別減税のための臨時措置法4条に基づく。

   キ 源泉徴収税額               1857万7626円

   ク 申告納税額                2090万8300円

     上記金額は,前記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額(ただし,通則法118条1項の規定により,100円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)。

   ケ 予定納税額                 413万1600円

   コ 納付すべき税額              1677万6700円

     上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

 (2)平成11年分

   ア 総所得金額                7854万5363円

     上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

   (ア)不動産所得の金額             492万2478円

      上記金額は,原告が平成11年分の所得税の確定申告書(以下「平成11年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(496万5362円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(4万2884円)を控除した金額である。

   (イ)利子所得の金額               16万8394円

      上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

   (ウ)配当所得の金額                 1544万円

      上記金額は,原告が平成11年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成11年分の本件LLCからの分配金(1280万円)を加算した金額である。

   (エ)給与所得の金額             5589万4415円

   (オ)雑所得の金額               212万0076円

      上記金額は,原告が平成11年分確定申告書で雑所得として申告した額(303万2168円)から,本件LLCに係る利息収入として申告された額(91万2092円)を控除した額である。

   イ 所得控除の合計額              169万3247円

   ウ 課税総所得金額              7685万2000円

     上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額である。

   エ 算出税額                 2594万5240円

     上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(以下「負担軽減措置法」という。)4条に規定する税率を適用して算出した金額である。

   オ 配当控除                   13万2000円

     なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

   カ 定率減税額                      25万円

     上記金額は,負担軽減措置法6条の規定により算定した金額である。

   キ 源泉徴収税額               1858万6930円

   ク 申告納税額                 697万6300円

     上記金額は,前記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額である。

   ケ 予定納税額                  83万6800円

   コ 納付すべき税額               613万9500円

     上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

 (3)平成12年分

   ア 総所得金額                7537万5943円

     上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各金額の合計額である。

   (ア)不動産所得の金額             340万8106円

      上記金額は,原告が平成12年分の所得税の確定申告書(以下「平成12年分確定申告書という。)で不動産所得として申告した金額(918万2003円)から,本件LLCの行う不動産賃貸業により生じた所得金額(577万3897円)を控除した金額である。

   (イ)利子所得の金額               11万2847円

      上記金額は,シティバンク・ニューヨーク支店の原告名義の預金に係る利息収入の金額である。

   (ウ)配当所得の金額                 1296万円

      上記金額は,原告が平成12年分確定申告書で配当所得として申告した金額(264万円)に,平成12年分の本件LLCからの分配金(1032万円)を加算した金額である。

   (エ)給与所得の金額             5889万4990円

   (オ)雑所得の金額                      0円

      原告が平成12年分確定申告書で雑所得として計算した額(△135万7537円)は損失であり,本件LLCに係る利息収入として申告された額(50万2496円)を控除しても損失であることに変わりはない(△186万0033円)。そして,雑所得の計算上生じた損失については,所得税法69条(損益通算)の適用はないため,原告の雑所得の金額は0円となる。

   イ 所得控除の合計額              161万9578円

   ウ 課税総所得金額              7375万6000円

     上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記アの総所得金額からイの所得控除の合計額を控除した金額である。

   エ 算出税額                 2479万9720円

     上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項及び負担軽減措置法4条に規定する税率を適用して算出した金額である。

   オ 配当控除                   13万2000円

     なお,所得税法92条1項の配当控除に係る規定は,外国法人から受ける配当所得については適用されないので,本件LLCからの分配金については適用されない。

   カ 定率減税額                      25万円

     上記金額は,負担軽減措置法6条の規定により算定した金額である。

   キ 源泉徴収税額               1865万3763円

   ク 申告納税額                 576万3900円

     上記金額は,上記エの算出税額からオないしキの金額の合計額を控除した金額である。

   ケ 予定納税額                 145万4800円

   コ 納付すべき税額               430万9100円

     上記金額は,前記クの申告納税額からケの予定納税額を控除した金額である。

 5 被告が主張する原告の過少申告加算税額

   被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の各過少申告加算税の額は,通則法65条の規定に基づき,本件各更正処分により新たに納付すべき税額(ただし,平成10年分については,異議決定により一部取り消された後の金額であり,平成12年分については,本件減額更正処分により減額された後の税額である。)を基礎として算出した次の(1)ないし(3)のとおりであり,いずれも本件各加算税賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であるから,本件各加算税賦課決定処分は,いずれも適法である。

 (1)平成10年分の所得税に係る過少申告加算税の額 151万9000円

    上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成10年分更正処分により新たに納付すべき税額1519万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を控除した金額。以下同じ。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

 (2)平成11年分の所得税に係る過少申告加算税の額  38万9000円

    上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成11年分更正処分により新たに納付すべき税額389万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

 (3)平成12年分の所得税に係る過少申告加算税の額   7万4000円

    上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,平成12年分更正処分により新たに納付すべき税額74万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。

 6 主な争点

 (1)本件LLCは,我が国租税法上の「法人」に該当するか(争点1)。

 (2)本件分配金は,原告の「配当所得」に該当するか(争点2)。

 (3)本件分配金が配当所得に該当するもの等として原告の所得税の計算の基礎とされていなかったことについて,「正当な理由があると認められる」場合に該当するか(争点3)。

 7 主な争点に関する当事者の主張

 (1)争点1(本件LLCは,我が国租税法上の「法人」に該当するか)について

   (原告の主張)

   ア LLCは,パートナーシップ形態で事業を行うのでは,事業の構成員が無限責任を負うことになるから,構成員をその負担から解放して小規模組織の事業活動の活性化を図るために認められた事業形態であり,そもそも組合的な色彩の強い事業形態である。

   (ア)NYLLC法は,その定義規定において,LLCを非法人組織(unincorporated organization)と位置付け,LLCが法人ではないことを明確にしている(同法102条m項)。

   (イ)我が国においては,株式会社はもとより持分会社であってもその内部関係に関する法規定には強行規定と解釈されるものが多く,構成員間の契約の自由がさほど認められていないのに対し,NYLLC法の規定は原則として任意規定であり,LLCの内部事項は,構成員間の契約の自由に広く委ねられている。

      例えば,NYLLC法は,出資金に関する責任について,構成員が負う,拠出を行う義務及び同法に違反して支払われた分配金等を返却する義務は,構成員間の契約ないし構成員全員の承諾があれば,免除ないし減額できる旨規定している(502条b項)。また,同法は,LLCの損益や分配金等について,当然に構成員間の出資比率により配分されるものではなく,これを構成員間の自由な契約に委ねる旨規定している(503条,504条)。さらに,同法は,構成員持分の譲渡について,構成員間の契約が何よりも優先するとしているほか,譲受人が構成員となる権利についても,構成員間の自由な契約に委ねるものとする旨規定している(603条,604条)。加えて,同法は,構成員が構成員間の契約に従って退会する旨規定し,法定の退会事由を設けていない(606条)。

      以上のとおり,NYLLC法の規定は,同法に基づき組成されるLLCが,出資金に関する責任,構成員間の分配,構成員の持分の譲渡,構成員の退会等について,構成員間の内部自治を原則とする組合的組織であることを明確にしている。

   (ウ)そして,NYLLC法の規定を受けて,原告及びBは,本件オペレーティング契約(乙2の1,2の2)において,本件LLCを構成員である原告及びBの合意に沿って運営する旨定めており,このことからも,本件LLCが契約自由の原則の妥当する組合的な実質を有する組織であるといえる。

   イ 米国の税法上,LLCは,その持分が公に取引されている場合を除き,法人課税又はパートナーシップ課税のいずれかを任意に選択することができるところ(チェック・ザ・ボックス規則),本件LLCは,米国国内において,当初よりパートナーシップとして課税されることを選択して納税している。

   ウ そして,本件LLCを我が国における法制度上の組織と比較すると,(a)有限責任制,(b)構成員による内部自治原則,(c)構成員(パス・スルー)課税のいずれも採用している点で,本件LLCは,日本版LLCとされる合同会社ではなく,むしろ我が国における有限責任事業組合に相当するものである。

   エ 以上のとおり,NYLLC法に基づき組成された本件LLCは,広く定款自治が認められ,その運営が構成員間のオペレーティング契約に委ねられた組合的な性格を有するものであるし,法人概念についても,他の法概念と同様,各法律間でできる限り同一に解釈されるべきことや,租税法上の法人概念は実態に即して判断すべきであることからすれば,NYLLC法を設立準拠法とする本件LLCは,その実質に鑑みれば,我が国における有限責任事業組合に相当するものであり,我が国租税法上の法人に該当するとはいえない。

     したがって,本件LLCを外国法人と認め,本件LLCの事業から生じる損益が本件LLCに帰属することを前提としてされた本件各更正処分等は違法である。

    (被告の主張)

   ア 所得税法及び法人税法において,法人について明確な定義付けをした規定はない。租税法上定義を置いていない用語については,別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として,それを私法上におけるのと同じ意義に解すべきところ,我が国の私法上,法人とは「自然人以外のもので,法律上,権利義務の主体たりうるもの」,すなわち,権利を有し,義務を負う能力を法律上有しているものをいうと解される。

     国際私法上,外国の法律によって設立された事業体について,その設立準拠法の下で与えられた法人格は,我が国においても承認されると解されるところ,外国の法律によって設立され,当該設立準拠法の下で法人格を与えられた事業体は,我が国の私法上(租税法上)の外国法人に該当すると解される。

     したがって,外国の法律によって設立された事業体が我が国の租税法上の法人となるか否かについては,かかる事業体に当該設立準拠法の下で権利義務の主体となることができる法律上の資格(法人格)が与えられているか否かが判断の基準となる。

   イ 本件LLCは,NYLLC法を準拠法として設立されているところ,同法に基づき設立されたLLCについては,以下の内容の規定がある。

   (ア)本法に基づいて設立されたLLCは,独立した法的主体(separate legal entity)とし,その法的主体としての存在は当該LLCの基本定款が破棄されるまで継続するものとする(同法203条d項)。

   (イ)基本定款に特段の定めがない限り,かつ,本法に制限がある場合にはそのような制限とこの州の他の法律に従うことを条件として,LLCは,以下のことを行うことができる(同法202条)。

     a その名において,訴訟手続等の当事者となること(同条a項)。

     b 所在地のいかんを問わず,不動産や動産又はこれらに係る権利を取得するなど,不動産や動産についての取引をすること(同条b項)。

     c その財産の全部又は一部を売却するなど,その財産の全部又は一部を処分すること(同条c項)。

     d 株式などの証券に係る取引をすること(同条d項)。

     e 保証契約等の締結,負債の負担,資金の借入れ,手形・債券の発行,営業特許や利益を抵当に入れること(同条e項)。

     f いかなる合法的な目的のためにも資金を貸し出し,LLCが保有する資金を投資し,投資した資金の支払の担保として不動産や動産を占有し,保有すること(同条f項)。

     g いかなる州,外国又はその他の管轄区域においても,その事業を実施し,その業務を運営し,事務所を維持し,本法によって付与される権限を行使すること(同条g項)。

     h いかなる団体,会社,パートナーシップ,リミテッド・パートナーシップ,LLC,合弁事業等その他の主体等の発起人,株主,パートナー,構成員等になること(同条o項)。

   ウ ところで,英米法上において法人格を有する団体の要件には,(a)訴訟当事者になること,(b)その名において財産を取得し処分すること,(c)その名において契約を締結することや,(d)法人印(corporate seal)を使用することなどが挙げられる。

     これを本件LLCについてみると,本件LLCは,本件賃貸ビルを所有し,自らの名において,不動産管理会社であるBPCマネジメント・コーポレーションに本件賃貸ビルの管理を委託する契約を結び(乙5の1,5の2),その収益や資産を管理し,また,ノムラ・アセットからの融資を受ける際に,自らの名において抵当権を設定し(乙6の1,6の2),抵当証券を発行する(乙7の1,7の2)など,構成員とは異なる権利義務の主体として活動しており,権利義務の主体となり得る法律上の資格を有していることが明らかであり,英米法上の法人格の要件である上記の要件(a)から(c)を具備していると認められる。そして,本件LLCは,当該LLCの名称をA・LLCと定め,同名を使用していることからして,上記(d)の要件も具備していると考えられる。

   エ 以上のとおり,本件LLCには,NYLLC法に基づき付与された権利義務の主体となり得る広範な法律上の資格が与えられており,また,本件LLCは,英米法上の法人格を有する団体の要件も具備することから,我が国の租税法上の「法人」に該当し,これを前提としてされた本件各更正処分等は適法である。

 (2)争点2(本件分配金は,原告の「配当所得」に該当するか)について

    (原告の主張)

   ア 仮に,本件LLCが我が国租税法上の法人に該当するとしても,本件LLCが平成10年に原告に対し分配した25万ドルのうち,21万3847ドルは原告の本件LLCに対する出資金の払戻しであり,配当所得となるのは3万6153ドルに過ぎない。

     現地でマネージング・パートナーとして経営に携わっていたBは,日本に在住し本件LLCの実際の経営に携わっていない原告の出資に伴うリスクを可能な限り早期に解消しようと考えていた。そこで,原告とBは,平成10年にノムラ・アセットから240万ドルの借り入れが可能となったことを契機に,本件LLCに原告に対する出資金の払戻しをさせた。

   イ NYLLC法は,出資金の払戻しについては,明文の規定を置いていない。しかしながら,(a)同法が出資金の拠出については構成員間で締結するオペレーティング契約の自由に広く委ねていること(501条,502条),(b)同法には,分配金の制限(508条)や構成員の債権者の権利に関する規定(607条)以外に債権者保護のための定めは特になく,最低資本金制度も存在しないのであって,構成員が出資金を払い戻すこと自体は同法に抵触するものではないこと,さらに,(c)同法704条c項は,LLC解散時における資産の分配について,構成員に対し,今までに返還されていない範囲で,出資金の返還として分配する旨規定するなど,LLCの解散の前に出資金の払戻しがされることを前提とした規定を置いていることからすると,LLCにおいては,オペレーティング契約に従って,又は構成員全員の承諾によって,適宜出資金の払戻しを行うことは可能であると考えられる。

     そして,本件オペレーテング契約12条では,出資金について,構成員らは適宜現金又は動産で構成された構成員が適切であると考えた出資金の拠出を行うものと定めている。ここで「出資金の拠出」は,出資金の払戻しを含む概念だと解されるから,本件LLCにおいては,構成員である原告及びBが適切であると考えた金額で,適宜出資金の拠出や払戻しを行い得るというべきである。

     なお,原告が出資金の払戻しとして送金を受けた21万3847ドルについて,原告は,必要に応じて再度それを出資金として本件LLCに拠出することになるが,今まで再度の拠出がされていないのは,未だ本件LLCにおいて出資の追加を必要とする事由が生じていないためにすぎない。

   ウ したがって,仮に本件LLCが我が国の租税法上の外国法人に該当するとしても,本件分配金のうち21万3847ドルは出資金の払戻しで,原告の配当所得には該当しない。

    (被告の主張)

   ア 所得税法は,配当所得について,法人から受ける利益の配当,剰余金の分配等に係る所得をいうと規定している。そして,同法においては,株主(出資者を含む。)に対しその株主である地位に基づいて供与した経済的な利益であれば配当所得とされるものと解される(最高裁昭和43年11月13日判決,所得税基本通達24-1参照)。

     また,配当は,必ずしも,商法の規定に従って適法になされたものにかぎらず,商法が規則の対象とし,商法の見地からは不適法とされる配当(たとえば蛸配当,株主平等原則に反する配当等)のようなものも,所得税法上の利益配当のうちに含まれるものと解すべきである(最高裁昭和35年10月7日判決参照)。

     以上のとおり,法人からの分配金が配当所得に該当するか否かは,それが出資者の地位に基づいて供与した経済的な利益と認められるか否かにより判断されるのであって,出資金の返還が行われたような蛸配当であっても配当所得に該当すると解される。

   イ 本件分配金は,NYLLC法508条a項ただし書の規定より,本件借入金の担保とされる本件賃貸ビルの市場価額(370万ドル)が非遡求型の借入れである本件借入金の金額(240万ドル)を超える部分(130万ドル)が,本件LLCにおいて分配可能となることを根拠に,構成員に対して分配されたものと考えられる。また,本件賃貸ビルは,平成3年に140万7175ドルで取得したものであるところ,本件借入金の借入れにあたって,当該ビルの市場価額は370万ドルと評価されたのであるから,当該ビルには,含み益が約230万ドル生じており,本件分配金は,その利益を観念した上で分配されたものとみることもできる。

   ウ そうすると,本件分配金は,出資者である原告に対して,出資者たる地位に基づいて供与された経済的利益といえ,所得税法上の「配当所得」に該当するというべきである。

   エ 所得税法36条1項は,「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額とする」旨規定している。これは一般に権利確定主義を規定したものとされており,所得税法は,原則として,収入という形態において実現した利得のみを課税の対象としている。配当所得における実現の問題とは,かかる配当が,収入実現の処分性などのテストを通して,客観的に認識しうる経済的価値の流入として捉え得るか否かという問題として理解すべきである。

     これを本件について検討するに,NYLLC法において,分配は,LLCがその構成員の1名又は複数名に対してその者の構成員としての資格に基づいて行う財産の移転を意味しているところ(NYLLC法102条i項),原告は,本件分配金を換金可能なシティバンク新宿南口支店ないし同ニューヨーク店の自己名義の口座で運用していることが認められる。

     したがって,本件分配金は,原告の配当所得として実現したものと解するのが相当である。

 (3)争点3(通則法65条4項の正当な理由)について

    (原告の主張)

   ア 通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,過少申告を行うにつき,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷となる場合をいうものと解するのが相当である。

   イ 原告とBは,本件パートナーシップを本件LLCへと組織変更したものの,それはアメリカの法制度が変わったことにより,本件賃貸ビルに係る不動産賃貸業の出資者である原告及びBが無限責任を負わず,有限責任を享受できるに至っただけで,事業の実態面はもとより,課税関係上も,従前と何ら変更された点はなかった。

     また,税務当局は,平成10年ころから,LLCを我が国租税法上の外国法人と考えていたと思われるが,納税者が適法な税務申告を行い得るよう,通達等をもって周知するなどの措置を取らなかったことから,税務当局内部においても,LLCが我が国租税法上の外国法人に当たることの認識は周知されていなかった。実際,原告が平成10年ないし同12年分(本件各係争年分)につき本件LLCをパートナーシップとして各確定申告をした際も,税務署の職員等から,その点に関する指導等を受けたことはなかった。そして,税務当局が,LLCを法人として取り扱う旨の行政上の見解を示したのは平成13年である。

   ウ そうすると,パートナーシップとしての事業の実態に変更がない上,税務当局からLLCを法人として取り扱う旨の指導がなく,行政上の見解も示されていない本件各係争年分の時点では,原告が従前の申告方法を変えることは期待できず,原告が,本件分配金を外国法人からの配当所得として申告しなかったとしても,その責めに帰することができない客観的な事情があり,かつ,過少申告加算税を原告に賦課することは酷というべきである。

会社法上の訴えと訴訟承継 最高裁大法廷昭和45年

民事訴訟法判例百選 第5版 A35

会社解散、社員総会決議取消等請求事件

最高裁判所大法廷判決/昭和42年(オ)第1466号

昭和45年7月15日

【判示事項】       有限会社社員の提起した会社解散の訴、社員総会決議取消の訴および同無効確認の訴と相続により持分を取得した相続人の訴訟承継の成否

【判決要旨】       有限会社社員の提起した会社解散の訴、社員総会決議取消の訴および同無効確認の訴の係属中該社員が死亡した場合には、相続により持分を取得した相続人が該訴訟手続を承継する。

【参照条文】       民事訴訟法208

             有限会社法71の2

             有限会社法41

             商法247

             商法252

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集24巻7号804頁

             最高裁判所裁判集民事100号45頁

             裁判所時報550号6頁

             判例タイムズ251号152頁

             金融・商事判例224号6頁

             判例時報597号70頁

             商事法務531号24頁

【評釈論文】       金融・商事判例243号2頁

             ジュリスト臨時増刊482号89頁

             ジュリスト増刊(商法の判例第2版)111頁

             ジュリスト増刊(商法の判例第3版)130頁

             別冊ジュリスト36号152頁

             別冊ジュリスト63号172頁

             別冊ジュリスト76号98頁

             別冊ジュリスト80号176頁

             別冊ジュリスト115号382頁

             別冊ジュリスト116号202頁

             法学研究(慶応大)44巻12号77頁

             法曹時報23巻1号176頁

             民商法雑誌64巻4号57頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 本件を京都地方裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人山村治郎吉、同柳原熊次郎の上告理由について。

 記録によれば、本件訴訟は、被上告会社の出資持分六四〇口を有する社員であつた上告人の先代Aが、被上告会社に対しその資本の一〇分の一以上に当たる出資持分を有する社員としての資格に基づいて、同会社の解散を請求し、かつ、被上告会社の社員たる資格に基づいて、昭和三三年八月四日開催の臨時社員総会における原判決別紙目録記載第一ないし第一八の各決議の取消と、予備的にそのうちの第三ないし第一五の各決議の無効の確認を求める訴として提起されたものであるが、本件訴訟が第一審に係属中、昭和三六年一二月九日、右Aは死亡し、その相続人である上告人B、訴外C、同D、同Eおよび同Fが同三七年一月三〇日遺産分割に関する協議を行ない、Aの遺産中被上告会社に対する出資持分六四〇口全部を上告人に取得させる旨定めた。そこで、上告人は、前記亡Aが被上告会社の社員として有した同会社に対する会社解散請求権、社員総会決議取消請求権、同無効確認請求権を相続により承継取得した旨主張し、本件訴訟におけるAの原告たる地位を承継したものとして本訴を追行するものであるところ、第一審は、有限会社における社員の会社解散請求権、社員総会決議の取消および無効確認請求権は、会社の利益を擁護するために社員に与えられたいわゆる共益権であり、財産的内容をもつ権利ではなく、社員の一身に専属する権利であることを理由に、このような権利に基づく訴訟において、その係属中に訴訟を提起した社員が死亡したときは、その相続人において訴訟を承継することができず、訴訟は当然終了するものと解するを相当とするとして、亡Aの提起した本訴は同人の死亡により終了したものである旨判断した。右第一審判決に対して上告人より控訴したが、原審も、右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに、本訴は右Aの死亡により終了した旨判断し、上告人の控訴を棄却したものである。

 よつて按ずるに、有限会社における社員の持分は、株式会社における株式と同様、社員が社員たる資格において会社に対して有する法律上の地位(いわゆる社員権)を意味し、社員は、かかる社員たる地位に基づいて、会社に対し利益配当請求権(有限会社法四四条)、残余財産分配請求権(同法七三条)などのいわゆる自益権と本件におけるような会社解散請求権(同法七一条ノ二)、社員総会決議取消請求権(同法四一条、商法二四七条)、同無効確認請求権(有限会社法四一条、商法二五二条)などのいわゆる共益権とを有するのであるが、会社の営利法人たる性質にかんがみれば、これらの権利は、自益権たると共益権たるとを問わず、いずれも直接間接社員自身の経済的利益のために与えられ、その利益のために行使しうべきものと解さなければならない。このことは、社員が直接会社から財産的利益を受けることを内容とする自益権については疑いがないが、社員が会社の経営に関与し、不当な経営を防止しまたはこれにつき救済を求めることを内容とする共益権についても、異なるところはない。けだし、共益権も、帰するところ、自益権の価値の実現を保障するために認められたものにほかならないのであつて、その権利の性質上権利行使の結果が直接会社および社員の利益に影響を及ぼすためその行使につき一定の制約が存することは看過しがたいにしても、本来それが社員自身の利益のために与えられたものであることは否定することができないからである。そして、このような共益権の性質に照らせば、それは自益権と密接不可分の関係において全体として社員の法律上の地位としての持分に包含され、したがつて、持分の移転が認められる以上(有限会社法一九条)、共益権もまたこれによつて移転するものと解するのが相当であり、共益権をもつて社員の一身専属的な権利であるとし、譲渡または相続の対象となりえないと解するいわれはないのである。

 以上説示したところによれば、本件における会社解散請求権、社員総会決議取消請求権、同無効確認請求権のごときも、持分の譲渡または相続により譲受人または相続人に移転するものと認められる。その理は、本件におけるように、社員が社員たる資格に基づいて会社解散の訴、社員総会決議の取消または無効確認の訴を提起したのち持分の譲渡または相続が行なわれた場合においても、異なるところはない。

 ところで、社員が右のような訴を提起したのちその持分を譲渡した場合には、譲受人は会社解散請求権、社員総会決議取消請求権および同無効確認請求権のごときは取得するけれども、譲渡人の訴訟上における原告たる地位までも承継するものとはいえない。これに反して、相続の場合においては、相続人は被相続人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、持分の取得により社員たる地位にともなう前記のごとき諸権利はもとより、被相続人の提起した訴訟の原告たる地位をも承継し、その訴訟手続を受け継ぐこととなるのである。もし、原告たる被相続人の死亡により同人の提起した訴訟が当然に終了するものとするならば、本件の社員総会決議取消の訴におけるように提訴期間の定め(有限会社法四一条、商法二四八条一項)がある場合において、被相続人の死亡当時すでにその提訴期間を経過しているときは、相続人は新たに訴を提起することができず、原告たる被相続人の死亡なる偶然の事情により、社員がすでに着手していた社員総会決議のかしの是正の途が閉ざされるという不合理な結果となるのを免れないのである。

 してみれば、本件訴訟については、原告たるAの死亡により、同人の有した被上告会社の持分の全部を相続により取得した上告人において原告たる地位をも当然に承継したものというべきであり、右Aの死亡により本件訴訟が終了したものとすることはできない。それゆえ、これと異なる見解のもとに、右Aの死亡により本件訴訟が終了したものであるとした原審ならびに第一審の見解は、有限会社法ならびに民訴法の解釈を誤るものであり、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、原判決は破棄を免れず、第一審判決を取り消し、さらに本案について審理させるため、本件を第一審に差し戻すのが相当である。

 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条により、裁判官松田二郎、同岩田誠の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

 裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりである。

 多数意見は、有限会社の社員の有する会社解散請求権、社員総会決議取消請求権、同無効確認請求権のごとき共益権が、いずれも譲渡性および相続性を有するものであると解し、これに反する見解を採る原判決を破棄すべきものと主張する。しかし、私はそのような多数意見に賛成できないのである。

 (一) 多数意見はいう、「会社の営利法人たる性質にかんがみれば、……自益権たると共益権たるとを問わず、いずれも直接間接社員自身の経済的利益のために与えられ、その利益のために行使しうべきものと解さなければならない」と。そして、共益権について、特に次のように説明する。曰く、「共益権も、帰するところ、自益権の価値の実現を保障するために認められたものにほかならないのであつて、その権利の性質上権利行使の結果が直接会社および社員の利益に影響を及ぼすためその行使につき一定の制約が存することは看過しがたいにしても、本来それが社員自身の利益のために与えられたものであることは否定することができない」と。私も、また、営利法人たる有限会社において、その社員の有する共益権が「権利」たる以上、それは社員の利益のために与えられたものであり、社員が自己の利益のためにこれを行使できるのは、当然であると考える。そして、そのことは単に会社の社員の有する権利のみに限らず、苟も「権利」である以上、公権たると私権たるとを問わず、権利一般について認められるところであるといい得よう。しかし、そのことは、権利が権利者の利益のためにのみ与えられたものであるとのことを意味するものでなく、また、権利者が自己の利益のためにのみこれを行使しうべきものであるとのことを意味するものでもない。そして、有限会社は営利法人であるけれども、会社自体が独立の団体として社員とは異なる別個の社会的存在であるからには、社員がその有する共益権を自己の利益のため行使しうるにしても、その行使は有限会社なる団体自体の利益ならびに社会的存在としての当該会社に対する社会の利益によつて制約を蒙ることを看過してはならないのである。

 しかるに、多数意見は、有限会社の社員の有する共益権が「社員自身の経済的利益のために与えられたもの」であり、「その利益のために行使しうべきもの」との前提に立ち、忽ちこれを根拠として、次の結論へと急ぐのである。「このような共益権の性質に照らせば、それは自益権と密接不可分の関係において全体として社員の法律上の地位としての持分に包含され、したがつて、持分の移転が認められる以上(有限会社法一九条)、共益権もまたこれによつて移転するものと解するのが相当であり、共益権をもつて社員の一身専属的な権利であるとし、譲渡または相続の対象となりえないと解するいわれはないのである」と。要するに、これが多数意見の理論的根拠といえよう。

 (二) 思うに、共益権、自益権という社団内部における社員の権利の二大別はドイツ法上の学説に渕源する以上、叙上の問題を取扱うにあたつては、勢い、われわれはドイツ法に遡らざるを得ないし、若干これに触れざるを得ないのである。そして、わが国においては、社団の内部における社員の権利の分類としては、殆んど共益権、自益権の名称のみが用いられているが、ドイツ法上ではきわめて多くの名称が存在する。すなわち、共益権と自益権との二分類の外、たとえば、社員の有する権利の分類として支配権と財産権、共同管理権と財産権、管理権と債権、機関権と価値権、人身権的内容の権利と財産権的内容の権利とするがごときがこれである。しかし、その名称にニエアンスの差があるにかかわらず、議決権は前者のグループの代表であり、利益配当請求権は後者のグループの典型的のものなのである。そして、これらの相対立する名称よりしても、社団において社員の有する権利中に、財産権的のものと然らざるものとの性質の相異る二つのグループの存在することが窺われるのである。

 今、本件を見るに、問題の中心は、有限会社の社員の有する共益権の性質に関するのであるから、まず、この点を考察することとする。ただ、寡聞な私は、わが国において特に有限会社の社員の権利につき論じたものを知らないのである。しかし、ドイツ法上においては、有限会社についての文献が少なくない。そして、有限会社の社員の有する共益権のうち、その代表ともいうべき議決権について次の主張をみる。すなわち、これを以て社員の有する権利(Mitgliedsrecht)であり、会社支配権(gesellschaftliches Herrschaftsrecht)であるとし、その譲渡性を否定するとともに、社員はそれを濫用すべからずとし、殊に故意に会社の明白な損害になるようこれを行使し、または利己的の自己の意思を会社に対して押しつけることはなすべからずとするのである(Baumbach-Hueck,GmbH-Gesetz,(1970)§47,Anm.3Au.B)。この見解は、前記の社員の権利の分類につき、支配権と財産権の対立を認めるものと解される。そして、議決権がそのような性質を有するからには、本件で問題となつている会社解散請求権、社員総会決議取消請求権ならびに同無効確認請求権も共益権に属する以上、これらに議決権と同様の性質、ことにその非譲渡性を認めるべきこととなろう。そして、有限会社の共益権についてこのように解することは、ドイツ法の学説上、株式会社における総会決議取消権について、その譲渡性が否定され、ことにこの権利が譲渡し得る財産権でないと説明されていることに照応する。わが国の判例が、株式会社について株主の有する会社設立無効請求権――それは共益権である――について、「その訴提起後原告たる株主がその資格を失つたときは、無効を主張する権利も亦これを失うに至るものとす」(大審院昭和八年一〇月二六日判決、民集一二巻二三号二六二六頁)としたのも、株主の有する共益権が譲渡性を有しないことを示すものである。

 そして、右のように有限会社の社員の有する共益権について譲渡性が否定されたならば、その「持分譲渡」といつても、共益権の譲渡は行われず、したがつて、譲渡の対象になるものは専ら自益権のみに関することとなろう。換言すれば、持分譲渡とは、財産権たる自益権の譲渡を意味することとなろう。

 このように考え来るとき、多数意見の見解、すなわち、「それ(共益権を指す)は自益権と密接不可分の関係において全体として社員の法律上の地位としての持分に包含される」との見解は、維持し難いものとなるのである〔因みに、多数意見は、「有限会社における社員の持分は、株式会社における株式と同様、社員が社員たる資格において会社に対して有する法律上の地位(いわゆる社員権)を意味する」という以上、私も株式について――卑見についての詳論を省くが――若干論及する必要を覚える。そして、叙上に述べたところに照せば、株式会社において株主の有する共益権も譲渡性を欠き、株式譲渡というとき、その対象となるのは自益権のみとなるのである。したがつて、株式のうちには共益権は含まれることなく、株式とは株主の有する権利のうち自益権のみに関することとなろう。そして、商法自体がこのことを暗示しているのである。たとえば、数種の株式とは、優先株や後配株のごとき利益若しくは利息の配当や残余財産の分配などの財産権的内容において差異のある株式を指すのであつて(商法二二二条)、「議決権ある株式」と「議決権なき株式」とは、数種の株式の関係に立つものとされていないのである。このことは、株式が利益配当請求権などの自益権に関することを示すものなのである。議決権なき株式(商法二四二条)も、株式が議決権と必然的関係のないことを示すものといえよう。法制史的にみるとき、最初の株式会社と考えられている一七世紀初頭のオランダの東印度会社においては、株主はただ配当を請求する権利と出資の返還を請求する権利のみを有するに止まり、議決権を有していなかつたのである。それ故、株式は純然たる財産権的性質のものとされていた。なお、比較法的に見るに、フランス法上、株式は債権的に解されている〕。

 しかるに、多数意見は、自益権と共益権とが不可分的の関係にあるものとし、持分移転に当り、共益権も移転するものとし、すなわち、共益権の譲渡性と相続性を肯定するのである。そして、私権を財産権と非財産権に大別するものとすれば、多数意見は、有限会社の社員の有する共益権につき明言こそしてはいないが、その譲渡性と相続性とを肯定する以上、これを財産権と解するものといい得よう。

 しかし、有限会社の社員の有する会社解散請求権、社員総会決議取消請求権ならびに社員総会決議無効確認請求権が譲渡性および相続性を有する財産権に属するものとするときは、次のような不合理を生じよう。

 (1) 多数意見は、右のごとき共益権が相続の対象たり得るとする以上、これらの権利が相続に関し、一身専属的の権利でないとするものである。問題となるのは、これらの共益権が債権者代位権に関して、行使専属権であるか否かである。多数意見の理論に従えば、おそらく行使専属権でないことになるものと思われる。しかし、これは、われわれの法的感覚に著しく反するものといえよう。何となれば、有限会社の社員の有する会社解散請求権や決議取消請求権は、社員その者の意思によつて行使されるべきものであり、これらの権利につき、債権者による代位行使を認めることは、全くわれわれの想像を越えるものであるからである。そして、もし、多数意見がこれらの共益権につき、債権者代位権の行使を否定されるならば、何故に共益権の譲渡性と相続性を承認しながら、債権者代位権のみを否定するのか、その理由を明らかにすべきであろう。

 (2) 多数意見によるときは、有限会社の社員の質権者は社員の有する叙上の共益権を行使し得る場合を生じよう。けだし、質権者は、質権設定者の承諾があるときは、質権の目的物を使用し得るからである(民法三五〇条、二九八条二項)。したがつて、有限会社の社員の持分に対する質権者が社員の有する会社解散請求権を行使し、また、社員総会決議取消請求権を行使し得る場合を生ずることとなろう。しかし、かかることもわれわれの法的感覚に著しく反するものである。しかし、もし、多数意見が質権者によるかかる権利の行使を認めないならば、その理由を明らかにすべきであろう。けだし、多数意見の立場によるときは、質権者によるかかる権利の行使は可能となるものと思われるからである。

 (3) 有限会社につき、法は「各社員ハ出資一口ニ付一個ノ議決権ヲ有ス」(有限会社法三九条本文)とするが、「定款ヲ以テ議決権ノ数ニ付別段ノ定ヲ為スコトヲ妨ゲズ」(同条但書)としている。したがつて、定款をもつて社員の有する持分の数に関係なく、各社員の議決権の数を定め、たとえば頭数による決議方法を定め得る。そして、このように、社員の議決権の数が社員の有する持分数に比例しないことを定め得るのは、議決権の数が必ずしも社員の財産的出資の多少に関しないものであつて、議決権がいわば社員としての身分に関するところがあることを示すのである。

 問題となるのは、定款により右のごとき頭数による決議方法、すなわち持分数に関係なく各社員がそれぞれ一個の議決権を有する旨規定している場合、社員の一人がその有する持分の一部を社員でない者に譲渡したとき、譲渡人たる社員は、その持分の一部譲渡にもかかわらず、依然として一個の議決権を有し、譲受人も亦一個の議決権を有することとなろう。この場合におけるかかる現象に直面して、譲受人の議決権は譲渡人の議決権を譲受けたものと解するのは、きわめて困難であろう。けだし、譲受人が譲渡人の議決権を譲受けたのならば、譲渡人は議決権をもはや有し得ないはずだからである。ここにおいて、右の場合、持分の一部譲受人は、持分――それは自益権関係のみに関する――を譲受けることによつて有限会社の構成員たる身分を取得し、これに基づいて議決権を原始的に取得すると解するのがきわめて妥当であると覚える(財産権の主体が団体の構成員たる身分に基づいて議決権を有するに至ることは、社債権者が社債権者集会の構成員として議決権を有する(商法三二一条一項)ことにもあらわれている)。したがつて、多数意見によるときは、きわめて技巧的な説明を試みるならば格別、しからざる限り、この場合の説明に窮するに至るであろう。

 (4) 次に、会社解散について考える。社員が会社解散につき重大な利害関係を有することは、いうまでもないのである。しかし、社員がこれにつき重大な利害関係を有するということは、決して、社員のみが利害関係を有するとのことを意味しない。会社解散は、社会的に存在する企業の消滅を惹起するものであり、これによつて、それまでにその企業の果してきた社会における活動は全部止み、本店はもちろん、支店や工場も閉鎖され、従業員は職を失うことになる。大企業、ことに世界的企業たる会社について解散の行われる場合を考えるならば、その影響の及ぶところがきわめて大なることを知り得よう。私は、この点に関し「企業自体」の主張者と称されているラテナウが、ドイツの中央銀行たるドイツ銀行などについて論じたことを興味深く覚える。すなわち、彼は、ドイツ銀行などが清算決議をすることは、私法上有効であるにしても、果してこれを是認し得るやの問題を論じているからである(Rathenau.Vom Aktienwesen,S.39ff.)。わが国において、銀行の解散決議は、主務大臣の認可を受けるのでなければその効力を生じない(銀行法二五条)が、かくのごとく特別法により認可を必要とするものでなくても、会社解散ということは、社会的に影響するところが大なのである。そして、商法および有限会社法上、会社の解散命令につき、「公益ヲ維持スル為会社ノ存立ヲ許スベカラザルモノト認ムルトキ」との要件が存在することは(商法五八条、有限会社法四条)、解散自体が「公益」に関すること、換言すれば、単に社員の私的利益のためのものでないことを示すのである。

 思うに、「企業自体」の観点より考察するとき、会社ことに株式会社や有限会社は、社会的存在として独自の利益を有する。それは社員の利益とは別個のものに属するのである。しかし、もし団体をもつて個体の単なる集合に過ぎないとの個体主義的見解に立つならば、営利団体たる株式会社や有限会社につき存する利益は、すべてこれを社員の個人的利益に還元して考えることとなろう。そして、そこにはもはや団体それ自体に独自の存在と利益を承認し得ないこととなろう。かかる見地に立つとき、社員の権利は共益権たると自益権たるとを問わず、専ら社員の利益にのみ奉仕する権利と解されよう。多数意見は、このような思想に立つものではないかとさえ解される。私は、この点に関し当裁判所の判例が商法四九四条にいう「不正の請託」の意義について述べたことを思うものである。判例はいう。「株主は個人的利益のため株式を有しているにしても、株式会社自体は株主とは異なる別個の存在として独自の利益を有するものであるから、株式会社の利益を擁護し、それが侵害されないためには、株主総会において株主による討議が公正に行なわれ、決議が公正に成立すべきことが要請されるのである」と(当裁判所昭和四二年(あ)第三〇〇三号同四四年一〇月一六日第一小法廷判決、刑集二三巻一〇号一三六一頁)。本件もまた、すべからくかかる見地に立つて判断すべきものであると考える。今や、「企業自体」ということが強調されるべき時であるにかかわらず、多数意見が社員の有する共益権につき、何等疑うことなくその譲渡性を肯定することに対して、私は、多大の疑を懐かざるを得ないのである。

 (三) 私は、叙上において主として有限会社の社員の有する共益権が譲渡性を有しないことを述べた。そして、私の立場よりすれば、これらの共益権の相続性もまた否定されるべきものである。

 もつとも、権利の譲渡性と相続性とは別個の問題であり、したがつて、譲渡性があつても相続性のない権利や、譲渡性がなくても相続性のある権利があり得る。しかし、概言することを許されるならば、譲渡性のない権利は、これについて別段の事情(たとえば譲渡禁止の特約のある債権は、譲渡性はなくても、相続性は認められるごとし)のない限り、その相続性も有しないのを原則としよう。したがつて、有限会社の社員の有する共益権につき叙上のごとく譲渡性が認められない以上、その相続性もまた認められないものといえよう。私は、このように解するものである。しかるに、既に述べたように、多数意見は、共益権につき譲渡性と相続性の双方を肯定するのであつて、私とは正反対の見解を探るのである。しからば、一体、何故に多数意見はそのような見解を採るに至つたのであろうか。私の臆測にしてもし誤がないとしたならば、多数意見がこのような見解を採るに至つた主たる原因は、ドイツ法におけると異り、わが国においては共益権の本質、ことにその非移転性について――いわゆる社員権否認論を除けば――論ぜられることが少なく、きわめて簡単に社員の有するすべての権利について、譲渡性が肯定されていることに因るのであり、加えて、ドイツ法上、株主の総会決議取消権についてその相続性が認められていることをもその根拠としたものと思われる。しかし、既に述べたとおり、ドイツ法上、株主の有する総会決議取消権の譲渡性は否定されているのである。

 しからば、何故にドイツの学説が決議取消権の譲渡性を否定しながら、その相続性を肯定しているのであろうか。この点こそ明らかにされるべきである。しかし、寡聞な私は、ドイツ法上、その理論的根拠についてこれを明らかにしたものを見ないのである。私の臆測によるならば、総会決議取消については訴提起期間の制限があるので、これを免れるための、いわば一種の便宜論にあらずやとさえ思われるのである。

 多数意見は、この点に関していう。「もし原告たる被相続人の死亡により同人の提起した訴訟が当然に終了するものとするならば、本件の社員総会決議取消の訴におけるように提訴期間の定め(有限会社法四一条、商法二四八条一項)がある場合において、被相続人の死亡当時すでにその提訴期間を経過しているときは、相続人は新たに訴を提起することができず、原告たる被相続人の死亡なる偶然の事情により、社員がすでに着手していた社員総会決議のかしの是正の途が閉ざされるという不合理な結果となるのを免れないのである」と。しかし、既に述べたように、共益権の行使につき社員個人の意思を重んずべきものとし、社員の債権者もこれを代位行使することができず、また、社員の質権者もまたこれを行使し得ないものと解するならば――すなわち、一身専属権であるならば――相続に際してもこの権利は被相続人にのみ帰属し、相続より除外されるものと解するのが妥当であると思われる。けだし、決議取消請求権の行使の有無は訴を提起した社員それ自身の意思によつて決せられるべきものであるからである。私は、この点に関し、不法行為による慰藉料請求権が相続の対象となり得るかに関し、当裁判所の大法廷の多数意見がこれを肯定したことを想起する(当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号同四二年一一月一日大法廷判決、民集二一巻九号二二四九頁)。しかし、これは、慰藉料請求権の一身専属権的性質を看過したものといえよう。私は、この多数意見に反対したのであつた(この大法廷の多数意見にかかわらず、下級審においてこれに反する多くの判例を見るという異例の現象は、看過し得ないところであろう)。

 思うに、資本主義経済の下においては、とかく権利を財産権化する傾向を見る。かつて人格的のものであつた商号が財産権化したごときは、これである。しかし、そこには自ら限度があるべきであろう。そして、私の見地よりすれば社員の共益権の相続性を肯定する多数意見は、慰藉料請求権の場合における多数意見と同様、一身専属的権利をば不当にも財産的権利と解する誤に陥つたものと思われる。私の解するところによれば、営利法人の社員が議決権等の共益権を「自由」に行使し得るというのは、それを財産権として自由に処分し得ることを意味するのではなく、社員その者が他よりの拘束なく自己の自由なる個人の意思によつて行使すべきことを意味するのである。多数意見は、この「自由」の意味を正解しないものといえよう。もつとも、多数意見は、共益権を財産権視し、その譲渡性と相続性を肯定した点において、一見、いかにも理論明快にして徹底しているもののごとくであるが、しかし、そのため明らかにされるべき多くの重要な問題を不問に附し、これをきわめて簡単に片付けてしまつた感すらあるのである。多数意見に従えば、将来、社員の債権者が社員に代位して会社解散請求の訴を提起し、また、社員の質権者が決議取消の訴を提起することを誘発すべく、しかもこれを否定すべき理論的根拠を有しないのである。

 なお、私の解するところによれば、社員の会社解散請求権や社員総会決議取消請求権などの共益権は一身専属的権利であるため、これに基づいて提起した原告の訴は、その者の死亡によつて終了することとなるが、会社解散請求の訴のごときは、訴提起の期間がないので、原告の相続人は被相続人の死亡にもかかわらず改めてこの訴を提起するに妨げない。また、社員総会決議取消請求の訴など訴提起の期間の定めのあるものについては、法自体が数個の訴が同時に繋属することを予定しているものといえよう(有限会社法四一条、商法二四七条二項、一〇五条三項四項参照)。したがつて、数個の訴が提起されているときは、たまたま、その中の原告一人が死亡したとしても、訴訟そのものに影響はないのである。

 なお、附言するに、裁判実務上、民事訴訟用印紙に関し、会社設立無効、決議取消、決議無効確認の訴が、「財産権上ノ請求ニ非サル訴訟」(民事訴訟用印紙法三条一項)として取扱われていることを一言したい。これは、これらの訴の本質が財産権上の請求でないことを直視したものと思われ、意味深く覚えるからである。

 叙上の見地に立つて、私は、原審の判断を正当とし、本件上告は棄却されるべきものと考える。

 裁判官岩田誠は、裁判官松田二郎の反対意見に同調する。

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  石田和外

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  田中二郎

           裁判官  松田二郎

           裁判官  岩田 誠

           裁判官  下村三郎

           裁判官  色川幸太郎

           裁判官  大隅健一郎

           裁判官  松本正雄

           裁判官  飯村義美

           裁判官  村上朝一

           裁判官  関根小郷

 

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