岡本法律事務所のブログ

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過失の共同正犯の否定例 最高裁平成28年 中山 新版口述刑法総論 補訂3版299頁

業務上過失致死傷被告事件 刑法判例百選Ⅰ 第8版 79事件

最高裁判所第3小法廷決定/平成26年(あ)第747号

平成28年7月12日 高橋総論4版482頁
上級国民だから無罪だとネットにかかれていた例です。

 

【判示事項】 花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,警察署副署長に同署地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯は成立しないとされた事例

 

【判決要旨】 花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,警備計画策定の第一次的責任者ないし現地警備本部の指揮官という立場にあった警察署地域官と,同署副署長ないし署警備本部の警備副本部長として同署署長を補佐する立場にあった被告人とでは,分担する役割や事故発生の防止のために要求され得る行為が基本的に異なっていたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできず,被告人に同署地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯は成立しない。

 

【参照条文】 刑法60

       刑法(平13法138号改正前)211前段

       刑事訴訟法254-2

       刑事訴訟法337

       刑事訴訟法(平16法156号改正前)250

 

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集70巻6号411頁

       裁判所時報1656号201頁

       判例タイムズ1448号72頁

       判例時報2372号126頁

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 弘前大学人文社会科学部人文社会科学論叢3号99頁

       ジュリスト1521号118頁

       専修法学論集130号465頁

       捜査研究65巻10号41頁

       法学新報124巻3~4号247頁

       法学セミナー61巻12号123頁

       法曹時報70巻9号221頁

前田『刑事法判例の最前線』2019年・91頁

 

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

 

        理   由

 

  第1 上告趣意に対する判断

  検察官の職務を行う指定弁護士安原浩,同中川勘太,同長谷部信一の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

  第2 職権判断

  1 本件は,平成13年7月21日兵庫県明石市の大蔵海岸公園と最寄り駅とを結ぶ通称朝霧歩道橋(以下「本件歩道橋」という。)上で発生した雑踏事故(以下「本件事故」という。)に関するものである。被告人は,当時兵庫県明石警察署副署長であった者であり,平成22年4月20日に起訴されたが,本件事故については,最終の死傷結果が生じた平成13年7月28日から公訴時効が進行し,公訴時効停止事由がない限り,同日から5年の経過によって公訴時効が完成していることになる。

  もっとも,本件事故については,当時明石警察署地域官であったB(以下「B地域官」という。)が平成14年12月26日に業務上過失致死傷罪で起訴され,平成22年6月18日に同人に対する有罪判決が確定している。

  このため,検察官の職務を行う指定弁護士は,被告人とB地域官は刑訴法254条2項にいう「共犯」に該当し,被告人に対する関係でも公訴時効が停止していると主張した。

  以上のような経緯に鑑み,被告人に対して刑訴法254条2項に基づき公訴時効の停止が認められるか否かにつき,職権で判断する。

  2 第1審判決及び原判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

  (1) 平成13年7月21日午後7時45分頃から午後8時30分頃までの間,大蔵海岸公園において,第32回明石市民夏まつり(以下「本件夏まつり」という。)の行事である花火大会等が実施されたが,その際,最寄りの西日本旅客鉄道株式会社朝霧駅と同公園とを結ぶ本件歩道橋に多数の参集者が集中して過密な滞留状態となった上,花火大会終了後朝霧駅から同公園へ向かう参集者と同公園から朝霧駅へ向かう参集者が押し合ったことなどにより,強度の群衆圧力が生じ,同日午後8時48分ないし49分頃,同歩道橋上において,多数の参集者が折り重なって転倒し,その結果,11名が全身圧迫による呼吸窮迫症候群(圧死)等により死亡し,183名が傷害を負うという本件事故が発生した。

  (2) 当時明石警察署署長であったC(以下「C署長」という。)は,同警察署管轄区域内における警察の事務を処理し,所属の警察職員を指揮監督するものとされており,同警察署管内で行われる本件夏まつりにおける同警察署の警備計画(以下「本件警備計画」という。)の策定に関しても最終的な決定権限を有していた。

  B地域官は,地域官として,明石警察署の雑踏警備を分掌事務とする係の責任者を務めていたところ,平成13年4月下旬頃,C署長に本件警備計画の策定の責任者となるよう指示され,これを受けて,明石市側との1回目及び2回目の検討会に出席し,配下警察官を指揮して本件警備計画を作成させるなどした。B地域官は,C署長の直接の指揮監督下にあり,本件警備計画についても具体的な指示を受けていた。

  被告人は,明石警察署副署長として,同警察署内の警察事務全般にわたって,C署長を補佐するとともに,その命を受けて同警察署内を調整するため配下警察官を指揮監督する権限を有していた。被告人は,本件警備計画の策定に当たって,いずれもC署長の指示に基づき,B地域官の指揮下で本件警備計画を作成していた警察官に助言し,明石市側との3回目の検討会に出席するなどした。また,被告人が同警察署の幹部連絡会において,本件警備計画の問題点を指摘し,C署長がこれに賛成したこともあった。

  (3) 本件事故当日,C署長は,明石警察署内に設置された署警備本部の警備本部長として,雑踏対策に加え,暴走族対策,事件対策を含めた本件夏まつりの警備全般が適切に実施されるよう,現場に配置された各部隊を指揮監督し,警備実施を統括する権限及び義務を有していた。C署長は,本件事故当日のほとんどの場面において,自ら現場の警察官からの無線報告を聞き,指示命令を出していた。

  被告人は,本件事故当日,署警備本部の警備副本部長として,本件夏まつりの警備実施全般についてC署長を補佐する立場にあり,情報を収集してC署長に提供するなどした上,不測の事態が発生した場合やこれが発生するおそれがあると判断した場合には,積極的にC署長に進言するなどして,C署長の指揮権を適正に行使させる義務を負っており,実際に,署警備本部内において,現場の警察官との電話等により情報を収集し,C署長に報告,進言するなどしていた。

  なお,署警備本部にいたC署長や被告人が本件歩道橋付近に関する情報を収集するには,現場の警察官からの無線等による連絡や,テレビモニター(本件歩道橋から約200m離れたホテルの屋上に設置された監視カメラからの映像を映すもので,リモコン操作により本件歩道橋内の人の動き等をある程度認識することはできるもの)によるしかなかった。

  一方,B地域官は,本件事故当日,大蔵海岸公園の現場に設けられた現地警備本部の指揮官として,雑踏警戒班指揮官ら配下警察官を指揮し,参集者の安全を確保すべき業務に従事しており,現場の警察官に会って直接報告を受け,また,明石市が契約した警備会社の警備員の統括責任者らと連携して情報収集することができ,現場付近に配置された機動隊の出動についても,自己の判断で,C署長を介する方法又は緊急を要する場合は自ら直接要請する方法により実現できる立場にあった。

  3 当裁判所の判断

  本件において,被告人とB地域官が刑訴法254条2項にいう「共犯」に該当するというためには,被告人とB地域官に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する必要がある。

  そして,業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには,共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要であると解されるところ,以上のような明石警察署の職制及び職務執行状況等に照らせば,B地域官が本件警備計画の策定の第一次的責任者ないし現地警備本部の指揮官という立場にあったのに対し,被告人は,副署長ないし署警備本部の警備副本部長として,C署長が同警察署の組織全体を指揮監督するのを補佐する立場にあったもので,B地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた。本件事故発生の防止のために要求され得る行為も,B地域官については,本件事故当日午後8時頃の時点では,配下警察官を指揮するとともに,C署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して,本件歩道橋内への流入規制等を実施すること,本件警備計画の策定段階では,自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し,被告人については,各時点を通じて,基本的にはC署長に進言することなどにより,B地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであったといえ,本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない。被告人につき,B地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないというべきである。

  そうすると,B地域官に対する公訴提起によって刑訴法254条2項に基づき被告人に対する公訴時効が停止するものではなく,原判決が被告人を免訴とした第1審判決を維持したことは正当である。

  よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)

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