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博多駅事件大法廷決定 最高裁昭和44年

『憲法 事例問題起案の基礎』20頁28頁 精選憲法判例人権編45事件 佐藤幸治2版170頁198頁

取材フィルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

最高裁判所大法廷決定/昭和44年(し)第68号

 昭和44年11月26日

 

【判示事項】 1、報道および取材の自由と憲法21条

       2、報道機関の取材フィルムに対する提出命令の許容される限度

 

【判決要旨】 1、報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

       2、報道機関の取材フィルムに対する提出命令の許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、これによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。

 

【参照条文】 憲法21

       刑事訴訟法99

       刑事訴訟法262

       刑事訴訟法265

 

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集23巻11号1490頁

       最高裁判所裁判集刑事174号77頁

      裁判所時報534号11頁

       判例タイムズ241号272頁

       判例時報574号11頁

 

【評釈論文】 警察研究43巻5号111頁

       研修261号7頁

       ジュリスト臨時増刊456号15頁

       別冊ジュリスト31号14頁

       別冊ジュリスト32号142頁

       別冊ジュリスト44号70頁

       別冊ジュリスト51号60頁

       別冊ジュリスト68号80頁

       別冊ジュリスト74号64頁

       別冊ジュリスト85号18頁

       別冊ジュリスト95号122頁

       別冊ジュリスト241号14頁

       捜査研究37巻12号65頁

       時の法令702号44頁

       南山法学17巻1号157頁

       判例タイムズ242号103頁

       別冊判例タイムズ9号84頁

       別冊判例タイムズ10号41頁

       判例評論132号23頁

       法学研究(慶応大)45巻10号147頁

       法曹時報22巻2号234頁

 

       主   文

 

  本件抗告を棄却する。

 

        理   由

 

  本件抗告の趣意は、別紙記載のとおりである。

  抗告人本人らの抗告理由、抗告人代理人弁護士村田利雄の追加理由および抗告人代理人弁護士妹尾晃外二名り理由補充第一について。

  所論は、憲法二一条違反を主張する。すなわち、報道の自由は、憲法が標榜する民主主義社会の基盤をなすものとして、表現の自由を保障する憲法二一条においても、枢要な地位を占めるものである。報道の自由を全うするには、取材の自由もまた不可欠のものとして、憲法二一条によつて保障されなければならない。これまで報道機関に広く取材の自由が確保されて来たのは、報道機関が、取材にあたり、つねに報道のみを目的とし、取材した結果を報道以外の目的に供さないという信念と実績があり、国民の側にもこれに対する信頼があつたからである。然るに、本件のように、取材フイルムを刑事裁判の証拠に使う目的をもつてする提出命令が適法とされ、報道機関がこれに応ずる義務があるとされれば、国民の報道機関に対する信頼は失われてその協力は得られず、その結果、真実を報道する自由は妨げられ、ひいては、国民がその主権を行使するに際しての判断資料は不十分なものとなり、表現の自由と表裏一体をなす国民の「知る権利」に不当な影響をもたらさずにはいないであろう。結局、本件提出命令は、表現の自由を保障した憲法二一条に違反する、というのである。

  よつて判断するに、所論の指摘するように、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

  ところで、本件において、提出命令の対象とされたのは、すでに放映されたフイルムを含む放映のために準備された取材フイルムである。それは報道機関の取材活動の結果すでに得られたものであるから、その提出を命ずることは、右フイルムの取材活動そのものとは直接関係がない。もつとも、報道機関がその取材活動によつて得たフイルムは、報道機関が報道の目的に役立たせるためのものであつて、このような目的をもつて取材されたフイルムが、他の目的、すなわち、本件におけるように刑事裁判の証拠のために使用されるような場合には、報道機関の将来における取材活動の自由を妨げることになるおそれがないわけではない。

  しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。

  本件では、まさに、公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。

  以上の見地に立つて本件についてみるに、本件の付審判請求事件の審理の対象は、多数の機動隊等と学生との間の衝突に際して行なわれたとされる機動隊員等の公務員職権乱用罪、特別公務員暴行陵虐罪の成否にある。その審理は、現在において、被疑者および被害者の特定すら困難な状態であつて、事件発生後二年ちかくを経過した現在、第三者の新たな証言はもはや期待することができず、したがつて、当時、右の現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フイルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。他方、本件フイルムは、すでに放映されたものを含む放映のために準備されたものであり、それが証拠として使用されることによつて報道機関が蒙る不利益は、報道の自由そのものではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるというにとどまるものと解されるのであつて、付審判請求事件とはいえ、本件の刑事裁判が公正に行なわれることを期するためには、この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立つても、なお忍受されなければならない程度のものというべきである。また、本件提出命令を発した福岡地方裁判所は、本件フイルムにつき、一たん押収した後においても、時機に応じた仮還付などの措置により、報道機関のフイルム使用に支障をきたさないよう配慮すべき旨を表明している。以上の諸点その他各般の事情をあわせ考慮するときは、本件フイルムを付審判請求事件の証拠として使用するために本件提出命令を発したことは、まことにやむを得ないものがあると認められるのである。

  前叙のように考えると、本件フイルムの提出命令は、憲法二一条に違反するものでないことはもちろん、その趣旨に牴触するものでもなく、これを正当として維持した原判断は相当であり、所論は理由がない。

  抗告人代理人弁護士妹尾晃外二名の理由補充第二について。

  所論は、憲法三二条違反をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張にすぎず、適法な特別抗告の理由にあたらない。

  よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

   昭和四四年一一月二六日

     最高裁判所大法廷

         裁判長裁判官  石田和外

            裁判官  入江俊郎

            裁判官  草鹿浅之介

            裁判官  長部謹吾

            裁判官  城戸芳彦

            裁判官  田中二郎

            裁判官  松田二郎

            裁判官  岩田 誠

            裁判官  下村三郎

            裁判官  色川幸太郎

            裁判官  大隅健一郎

            裁判官  松本正雄

            裁判官  飯村義美

            裁判官  村上朝一

佐藤哲郎裁判長不当判決 どぶろく事件最高裁平成元年

憲法判例百選Ⅰ 第7版 20事件 佐藤幸治2版198頁
酒税法違反被告事件

取り締まれないものを取り締まろうとして量的違法性のないものを過度に広汎になっているということについて裁判所がこたえていない。

最高裁判所第1小法廷判決/昭和61年(あ)第1226号

平成元年12月14日

酒税法七条一項、五四条一項の規定と憲法三一条、一三条

【判決要旨】       酒税法七条一項、五四条一項の規定は、自己消費目的の酒類製造を処罰する場合においても、憲法三一条、一三条に違反しない。

【参照条文】       憲法13

             憲法31

             酒税法7-1

             酒税法54-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集43巻13号841頁

             最高裁判所裁判集刑事253号681頁

             裁判所時報1017号12頁

             判例タイムズ718号65頁

             判例時報1339号83頁

【評釈論文】       警察研究62巻5号41頁

             ジュリスト954号98頁

             ジュリスト971号313頁

             ジュリスト臨時増刊980号11頁

             別冊ジュリスト120号128頁

             別冊ジュリスト130号52頁

             税72巻4号258頁

             中京法学27巻2号86頁

             法学教室118号96頁

             法学新報103巻10号221頁

             法政研究58巻1号149頁

             法曹時報43巻1号284頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人岡邦俊、同碓井清、同鎮西俊一、同舟木友比古の上告趣意のうち、違憲をいう点の所論は、自己消費を目的とする酒類製造は、販売を目的とする酒類製造とは異なり、これを放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法七条一項、五四条一項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法三一条、一三条に違反するというのである。

 しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり(昭和二八年間第三七二一号同三〇年七月二九日第二小法廷判決・刑集九巻九号一九七二頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法三一条、一三条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁。なお、昭和三四年(あ)第一五一六号同三五年二月一一日第一小法廷判決・裁判集刑事一三二号二一九頁参照)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。

 同上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は本件と事案を異にし適切ではなく、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

 よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  平成元年一二月一四日

    最高裁判所第一小法廷

        裁判長裁判官  佐藤哲郎

           裁判官  角田禮次郎

           裁判官  大内恒夫

           裁判官  四ツ谷巖

           裁判官  大堀誠一

 

拘禁された者の喫煙禁止と憲法13条 最高裁昭和45年

憲法判例百選 第7版 A4 国家賠償請求事件 佐藤幸治2版198頁

最高裁判所大法廷判決/昭和40年(オ)第1425号

昭和45年9月16日

【判示事項】      監獄法施行規則96条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定と憲法13条

【判決要旨】      監獄法施行規則96条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定は、憲法13条に違反しない。

【参照条文】      憲法13

            監獄法施行規則96

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集24巻10号1410頁

            訟務月報16巻11号1275頁

            最高裁判所裁判集民事100号447頁

            裁判所時報554号2頁

            判例タイムズ254号142頁

            判例時報605号55頁

【評釈論文】      ジュリスト469号253頁

            別冊ジュリスト44号16頁

            別冊ジュリスト61号58頁

            別冊ジュリスト68号26頁

            別冊ジュリスト92号54頁

            別冊ジュリスト95号26頁

            別冊ジュリスト122号42頁

            時の法令744号53頁

            法学協会雑誌89巻12号154頁

            法曹時報23巻1号192頁

            法律論叢48巻2号131頁

            民商法雑誌65巻2号124頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人大坪憲三の上告理由について。

 所論は、在監者に対する喫煙を禁止した監獄法施行規則九六条は、未決勾留により拘禁された者の自由および幸福追求についての基本的人権を侵害するものであつて、憲法一三条に違反するというにある。

 しかしながら、未決勾留は、刑事訴訟法に基づき、逃走または罪証隠滅の防止を目的として、被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、監獄内においては、多数の被拘禁者を収容し、これを集団として管理するにあたり、その秩序を維持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには、被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく、右の目的に照らし、必要な限度において、被拘禁者のその他の自由に対し、合理的制限を加えることもやむをえないところである。

 そして、右の制限が必要かつ合理的なものであるかどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様との較量のうえに立つて決せられるべきものというべきである。

 これを本件についてみると、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定するところによれば、監獄の現在の施設および管理態勢のもとにおいては、喫煙に伴う火気の使用に起因する火災発生のおそれが少なくなく、また、喫煙の自由を認めることにより通謀のおそれがあり、監獄内の秩序の維持にも支障をきたすものであるというのである。右事実によれば、喫煙を許すことにより、罪証隠滅のおそれがあり、また、火災発生の場合には被拘禁者の逃走が予想され、かくては、直接拘禁の本質的目的を達することができないことは明らかである。のみならず、被拘禁者の集団内における火災が人道上重大な結果を発生せしめることはいうまでもない。他面、煙草は生活必需品とまでは断じがたく、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、喫煙の禁止は、煙草の愛好者に対しては相当の精神的苦痛を感ぜしめるとしても、それが人体に直接障害を与えるものではないのであり、かかる観点よりすれば、喫煙の自由は、憲法一三条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。したがつて、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自由の制限は、必要かつ合理的なものであると解するのが相当であり、監獄法施行規則九六条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定が憲法一三条に違反するものといえないことは明らかである。

 したがつて、論旨は理由がない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  石田和外

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  田中二郎

           裁判官  松田二郎

           裁判官  岩田 誠

           裁判官  下村三郎

           裁判官  色川幸太郎

           裁判官  大隅健一郎

           裁判官  松本正雄

           裁判官  飯村義美

           裁判官  村上朝一

           裁判官  関根小郷

 

田中耕太郎裁判長不当判決 最高裁昭和25年 賭博開帳図利事件

憲法判例百選Ⅰ 第7版13事件 佐藤幸治2版198頁

昭和40年代;より前の人権感覚が乏しい時代のものです。

最高裁判所大法廷判決/昭和25年(れ)第280号

昭和25年11月22日

【判示事項】       賭場開帳図利罪の規定の合憲性

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集4巻11号2380頁

             最高裁判所裁判集刑事36号385頁

             判例タイムズ9号54頁

【評釈論文】       ジュリスト276の2号19頁

             別冊ジュリスト21号16頁

             別冊ジュリスト44号20頁

             別冊ジュリスト68号28頁

             別冊ジュリスト83号192頁

             別冊ジュリスト95号28頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人山崎一男同遊田多聞の上告趣意について。

 賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであつて、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従つて、一見各人に任かされた自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法二七条一項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである。これわが国においては一時の娯楽に供する物を賭した場合の外単なる賭博でもこれを犯罪としその他常習賭博、賭場開張等又は富籖に関する行為を罰する所以であつて、これ等の行為は畢竟公益に関する犯罪中の風俗を害する罪であり(旧刑法第二篇第六章参照)、新憲法にいわゆる公共の福祉に反するものといわなければならない。ことに賭場開張図利罪は自ら財物を喪失する危険を負担することなく、専ら他人の行う賭博を開催して利を図るものであるから、単純賭博を罰しない外国の立法例においてもこれを禁止するを普通とする。されば、賭博等に関する行為の本質を反倫理性、反社会性を有するものでないとする所論は、偏に私益に関する個人的な財産上の法益のみを観察する見解であつて採ることができない。

 しかるに、所論は、賭場開張図利の行為は新憲法施行後においては国家の中枢機関たる政府乃至都道府県が法律に因り自ら賭場開張図利と本質的に異なることなき「競馬」「競輪」の主催者となり、賭場開張図利罪乃至富籖罪とその行為の本質を同じくする「宝籖」を発売している現状からして、国家自体がこれを公共の福祉に反しない娯楽又は違法性若しくは犯罪性なき自由行為の範囲内に属するものとして公認しているものと観察すべく、従つて、刑法一八六条二項の規定は新憲法施行後は憲法一三条、九八条に則り無効となつた旨主張する。

 しかし、賭博及び富籖に関する行為が風俗を害し、公共の福祉に反するものと認むべきことは前に説明したとおりであるから、所論は全く本末を顛倒した議論といわなければならない。すなわち、政府乃至都道府県が自ら賭場開張図利乃至富籖罪と本質上同一の行為を為すこと自体が適法であるか否か、これを認める立法の当否は問題となり得るが現に犯罪行為と本質上同一である或る種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利乃至富籖罪を公認したものということはできない。それ故所論は採用できない。

 よつて、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

 以上は、裁判官栗山茂を除く裁判官の一致した意見である。

 裁判官栗山茂の意見は次のとおりである。

 本件上告は次の理由で、不適法のものとして棄却さるべきものである。

 裁判所の使命とする法律の解釈というのは、法律の政治的若しくは社会的価値即ち立法の是非の判断ではなく、法律上の訴訟の解釈に必要な法的判断を与えることである。このことは違憲法令審査の場合でも同様である。この場合にも当事者から憲法一一条にいう「この憲法が保障する基本的人権」(一二条にいう「この憲法が保障する自由及び権利」である)の中でどの自由又は権利が当該法律又はその条項によつて侵されているという主張即ち法律上の争訟があつて初めて裁判所は当該法律と憲法が保障している当該自由又は権利とについてそれぞれ解釈を試み、果して当該法律が憲法の当該保障に適合しているか否かを判断するのである。ここに初めて法律解釈としての法的判断があるのである。

 もとより基本的自由及び権利は「この憲法が保障する自由及び権利」(憲法一一条及び一二条)以外に存しうるのは言うをまたない。米国憲法には「本憲法中に特定の権利を列挙した事実を以つて、人民の保持する他の権利を否認し又は軽視するものと解してはならない」という修正条項第九条がある。しかし「人民が保持する他の権利」が何であるかは結局裁判所が裁判で定めるか、それとも憲法の条項に追加するかによつて定めるの外はないのである。わが国においても少くとも当裁判所が裁判によつて定めない限り「この憲法が保障する自由及び権利」は憲法第三章に列挙されているものである。憲法が定める国会、内閣及び裁判所の各権限も、その権限の行使に対して憲法が保障する自由及び権利も、すべてこの憲法の定めるところによることは、いわゆる成文憲法の原則であつて、この原則は日本国憲法も他の国の成文憲法と同様に採用しているのは明である。そして憲法一一条一二条及び一三条は「この憲法が保障する自由及び権利」の保障そのものではなく、保障は一四条以下に列挙するものである。

 以上の前提の下に、本件上告論旨を見ると、論旨は賭博行為乃至賭場開張図利の行為は公共の福祉に反するものでないと主張するだけであつて、上告人が賭場開張図利罪によつて処罰されるのは、刑法の当該条項が、この憲法が保障しているどういふ自由又は権利を侵す結果であるという主張と理由とを展開していないのである。もともと法律は国会が国政(公共の福祉もその一部である)に関する政策として制定するものであるから、かような上告論旨は立法の当否、本件では公共の福祉の判断を論議する政治的批判にすぎない。これに対する多数意見の説示は賭博行為乃至賭場開張図利行為に関する刑法規定の立法理由を説明しているのと異るところがないといえる。日本国憲法実施以来本件のように憲法一三条を楯にとつた上告論旨をしばしば見るのであるが同条は公共の福祉に適合しなければ違憲な法律であるという保障を与えているものではない。憲法のどこにも左様な保障はないのである。同条は寧ろ公共の福祉のために制定せられた法律ならば、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利が制限せられる旨を規定しているのである。ここに公共の福祉というのは、観念論的な公共の福祉を言うのではない。例を挙げれば憲法二五条により国民をして健康で文化的な最低限度の生活を営ましめるに欠くべからざる立法は公共の福祉のためにされるものである。従て社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に関するものの如きはその模範的なものである。一口に言えば米法にいわゆる警察権(policepower)の仮訳である。)の作用によつて生命、自由及び幸福追求に関する権利、つまり契約の自由その他行動の自由及び財産権(憲法二二条、二九条二項参照)が制限せられることを是認した条項に外ならない。米国憲法修正条項第五条、第一四条にいういわゆる「法律の適正な手続」という辞句が立法行為に対する実体上の制限の保障にまで拡充解釈されてきた歴史は周知のとおりである。かような拡充解釈の結果、裁判所が法律解釈の末に拘泥して契約の自由その他財産権の行使の自由を過度に保護した結果となつて、政府の社会立法の実施が阻止されたため、いわゆるニウ、デイル立法の際に米国最高裁判所改組案までも論議せらるゝに至つた実例もまた周知のとおりである。こういう歴史を背景として日本国憲法の立案者は前記米国憲法にいう「法律の適正手続によらなければ、生命、自由若しくは財産を奪はれない」という規定を解体して一方にわが憲法三一条に単に「何人も法律の定める手続によらなければその生命若しくは自由を奪はれない」として「適正手続」の辞句を改め同時に財産の文字を削除し、財産権については二九条でその不可侵を保障するけれども、「財産権の内容は公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」旨を規定したのである。そして、それと同時に一三条の概括的規定を設けたものであろう。立案者の周到な用意がうかがわれるのである。

 そもそも国会が立法するにしても、常に最上の政策として立法するとは限らないことは言うまでもない。次善の策(最上は一つであるが次善となれば一つとは限らぬものである。)ではあるが、国の財政状態とか国家の実状とかの政治的考慮の下に政策として決定して法律によつて実行に移すのである。又次善の策にしても甲の政党はAの政策を次善とし、乙の政党はBの政策を次善とするけれども投票(政策の価値判断の表示である。)によつてAの政策が採択されるのである。裁判所はかような政策の価値判断に代るべき判断をどうしてできるであろうか。憲法は最上級の政策でなければ適憲でないとは保障していないのである。極論すれば公共の福祉に反する法律が制定された場合に、どうして阻止するかという説があるかもしれない。それは主権者である国民が国会又は内閣を打倒するより外にないことであつて、裁判所が法令審査権を以てしても主権者と並んで立つものではないはずである。こう考えて見ると、憲法一三条は立法権の作用と司法権の作用とを調整することを目標とした法令審査権の限界に関する原則を定めたものと言つてよいであろう。要するに、本件論旨のように公共の福祉に反するものでないという主張は国会え申出ずべき筋合のもので、裁判所え訴え出ずべき筋合のものではないのであるから、上告不適法の論旨たるを免れないと言うのである。

  検察官堀忠嗣関与

  昭和二五年一一月二二日

     最高裁判所大法廷

         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

            裁判官    塚   崎   直   義

            裁判官    長 谷 川   太 一 郎

            裁判官    澤   田   竹 治 郎

            裁判官    霜   山   精   一

            裁判官    栗   山       茂

            裁判官    真   野       毅

            裁判官    小   谷   勝   重

            裁判官    齋   藤   悠   輔

            裁判官    藤   田   八   郎

 

 

杉山正士裁判長名判決 ハンセン病訴訟 熊本地裁平成13年

医事法判例百選 第2版 11 芦部7版399頁 佐藤幸治2版197頁

「らい予防法」違憲国家賠償請求事件

熊本地方裁判所判決/平成10年(ワ)第764号、平成10年(ワ)第1000号、平成10年(ワ)第1282号、平成11年(ワ)第383号

平成13年5月11日

【判示事項】       一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の職務行為(昭和三五年以降)につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めた事例

             二 国会議員が違憲性が明白となっていたらい予防法を廃止しなかった立法不作為(昭和四〇年以降)につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めた事例

             三 国立らい療養所の入所者・元入所者が新法及び被告国のハンセン病政策によって受けた損害につき、共通性を認め得る限度で本件の賠償の対象とし、慰謝料額を、初回入所時期及び入所期間に応じて、一四〇〇万円から八〇〇万円までの四段階として、被告国に対する国家賠償を認容した事例

             四 民法七二四条後段の除斥期間の起算点を違法行為終了時であるらい予防法廃止時とし、本件において除斥期間の規定の適用はないとした事例

【参照条文】       民法724後段

             国家賠償法1-1

             憲法22-1

             憲法13

             らい予防法(昭和28年法律第214号)

             らい予防法の廃止に関する法律(平成8年法律第28号)

             憲法14

【掲載誌】        訟務月報48巻4号881頁

             判例タイムズ1070号151頁

             判例時報1748号30頁

【評釈論文】       自治研究78巻5号110頁

             ジュリスト1210号152頁

             ジュリスト臨時増刊1224号25頁

             訟務月報48巻4号1頁

             判例タイムズ1070号115頁

             判例評論516号2頁

             法学教室258号別冊付録3頁

             法学新報108巻11~12号175頁

             法政研究69巻1号117頁

             法律時報73巻11号109頁

             法律時報92巻11号78頁

             法律時報別冊私法判例リマークス25号58頁

             別冊ジュリスト183号56頁

 

       目   次

 

主文

事実及び理由

第一章 原告らの請求

第二章 事案の概要等

第一 事案の概要

第二 前提事実

 一 ハンセン病の医学的知見の概略

 二 ハンセン病に対する法制の変遷等

 三 原告らの療養所入所歴について

第三 本件の主要な争点

第三章 当事者の主張

第一節 請求原因について

(原告らの主張)

第一 総論

第二 厚生大臣の責任

第三 国会議員の責任

第四 沖縄・奄美におけるハンセン病政策の責任

第五 損害論

(被告の主張)

第一 請求原因の整理

第二 厚生大臣の責任について

第三 国会議員の責任について

第二節 除斥期間について

(被告の主張)

(原告らの主張)

(被告の主な反論)

第四章 当裁判所の判断

第一節 ハンセン病の医学的知見及びその変遷

第一 ハンセン病の病型分類と症状の特徴等

 一 リドレーとジョプリングの病型分類

 二 リドレーとジョプリングの分類と他の病型分類との関係

 三 症状の特徴

 四 経過、予後、治癒

 五 らい反応

第二 ハンセン病の疫学

 一 ハンセン病の疫学的特徴

 二 ハンセン病の感染について

 三 ハンセン病の発病

 四 WHOのハンセン病制圧基準

第三 ハンセン病治療の推移

 一 スルフォン剤登場前の治療について

 二 スルフォン剤の登場

 三 DDS

 四 リファンピシン

 五 クロファジミン(B六六三)

 六 多剤併用療法

 七 再発、難治らいについて

第四 ハンセン病に関する国際会議の経過

 一 戦前の国際会議について

 二 戦後の国際会議について

第五 新法制定前後のハンセン病の医学的知見

 一 感染・発病のおそれについて

 二 スルフォン剤の医学的評価について

 三 「らいの現状に対する考え方」

第二節 我が国のハンセン病政策の変遷等

第一 戦前の状況について

 一 「癩予防ニ関スル件」の制定

 二 療養所の設置

 三 懲戒検束権の付与

 四 断種(ワゼクトミー)の実施

 五 第一期増床計画

 六 入所対象の拡張等

 七 旧法の制定

 八 「癩の根絶策」

 九 療養所の新設

 一〇 無らい県運動

第二 戦後、新法制定までの状況について

 一 栗生楽泉園特別病室事件の発覚

 二 優生保護法の制定

 三 プロミンの予算化

 四 戦後の第二次増床計画と患者収容の強化

 五 栗生楽泉園殺人事件とその影響

 六 三園長発言

 七 予防法闘争

 八 衆議院議員長谷川保の質問に対する内閣総理大臣の答弁書

 九 新法の国会審議

 一〇 「伝染させるおそれがある患者」の解釈

第三 新法制定後の状況について

 一 新法制定後の通達の定め

 二 新法改正運動の経過

 三 退所について

 四 外出制限について

 五 優生政策について

 六 患者作業について

 七 療養所における生活状況の変遷

 八 療養所以外の医療機関での治療等について

 九 新法廃止までの経過

第四 ハンセン病患者等に対する社会的差別・偏見について

 一 旧来からの差別・偏見について

 二 無らい県運動以降の戦前の差別・偏見について

 三 戦後の差別・偏見について

 四 後遺症と園名について

 五 差別・偏見の現れ

第三節 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意・過失の有無(争点一)

第一 厚生省の隔離政策の遂行等について

第二 隔離の必要性の有無について

第三 違法性及び過失の検討

第四節 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無(争点二)

第一 原告らの主張

第二 新法の違憲性

第三 立法行為の国家賠償法上の違法性及び故意・過失の有無について

第五節 損害について(争点三)

第一 原告らの主張

第二 原告らの被害の実態の概観

 一 退所経験のない原告について

 二 退所経験のある原告について

第三 包括一律請求の可否及び共通損害の内容等

第四 損害額の算定

第六節 戦後、本土復帰前の沖縄について

第七節 除斥期間について(争点四)

第八節 結論

 

       主   文

 

 一 被告は、原告らに対し、別紙認容額一覧表の各原告に対応する「認容額」欄記載の各金員及び右各金員に対する同一覧表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

 三 訴訟費用は、これを八分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

 四 この判決の第一項は、本判決が被告に送達された日から一四日を経過した時は、仮に執行することができる。

 

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