法律上の親子関係と自然血縁 ――日本とドイツ
弁護士 岡本 哲
1 日本法での最近の傾向
実親子関係について、生物学上の親子関係と異なる事態が生じることがある。
父はわが子かわからないので父子関係が問題になることが多いが、母についても。たとえば子が里親の下で育つときや、赤ん坊のときに産院で取り違えられて間違った母に育てられるような場合もある。不妊治療の夫側不妊の場合にドナー提供精子体外受精にによる出生の場合(日本では非嫡出子になるような対外受精は認められていない)も戸籍上の父と自然血縁との差が生じる。
日本民法は母子関係については分娩の事実によって発生し、父子関係については、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され(779条1項)、婚姻前後については2項に規程がある。
第772条1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
婚姻していない場合は認知によりして父子関係が成立する。
最高裁平成26年7月17日判決 民集68巻6号547頁はDNA鑑定等で夫の子でないことが明らかでなったとしても、その事実のみでは父子関係を否定できないとした。
また、最高裁平成26年1月14日 民集68巻1号1頁は、父子関係がないことを知りながら認知した場合であっても、認知者はその後、自らがなした認知無効を主張できるとした。
前者は法的血縁を自然血縁より遠ざけ、後者は近寄らせているわけで、一見矛盾しているようにみえる。婚姻制度を重視したとすれば、説明はつくが。
2 ドイツではどうか
母子関係は、1998年に改正された1591条により、子の母は子を出産した女性であると定めている。それまでは日本と同様に明文はなかった。
代理母のように遺伝上の母と分娩上の母が異なる者について念頭においた規程であり、ドイツでは第三者の卵子提供は法律上禁止されているが、外国で合法的になしうる場合もあり、分娩者に有利になるように規定された。
父子関係も、日本と同様に父母が婚姻中か否かで異なっている。
1592条により、子の父となるためには、出生時に母と婚姻していること、父子関係を認知していること、父子関係が裁判所によって確認されること、のいずれかが必要になる。ローマ法以来の「父は婚姻が示す者である」という原則は生きている。
ドイツ民法でも日本法と同様離婚時期、婚姻時期、提訴中の死亡等にあわせて細かい規程が存在している。
認知については母の同意が必要とされる。
法律上の親子関係と自然血縁が異なる場合、裁判の確定に基づく父子関係以外については否認の訴えが可能になる。
婚姻関係にあった男女間で生まれた子を嫡出子と言うが、嫡出否認の場合、子の福祉のためにも否認権者及び行使期間「は制限されるのが通常である。日本法では夫のみが出生後1年以内になすことが原則とされる。ドイツ法では父も母も子も可能であり、故意の不実認知でも否認可能である。故意の不実認知でも事後否認可能というのは、前掲の日本の最高裁平成26年1月14日判決と同様である。
日本との大きな違いは生物学上の父による否認が可能なことである。連邦憲法裁判所の2003年の決定を受けて2004年に法改正がなされた。ドイツの連邦憲法裁判所は地日本と異なり抽象的違憲審査を行っている。生物学上の父による否認を一切認めないことは、保護される親の権利(基本法6条2項)に違反するとした。「子どもの監護及び教育は、親の自然の権利であるとともに、第一に親に課された義務である」と定めている。日本国憲法には、このような規程はない。
ただし、生物学上の父による否認権行使は、①宣誓に代わる保証をし、②これまでの父と子との間に社会的家族関係が存在せず、③子の血縁上の父であることを証明した場合にできる。否認期間の制限は否認理由を知ったときから2年間である。日本法とは制度設計が異なっている。
ドイツでは2008年に血縁解明法が制定され、子の遺伝上の父子関係を定める独立の手続が定められた。2007年に連邦憲法裁判所が法律上の子が自身に由来するかどうかを知る権利を男性に認めたことから生じたものである。ただし、遺伝上の父と主張する者について申立権は認められていない。否認ができなくなったあとでも可能であるが、法的影響は乏しい。
現在のドイツは移民国家であり、ドイツ国籍の未成年者を認知することによって移住資格を得るという濫用的認知の問題が多々生じてきていた。日本でも、偽装婚姻や濫用的認知の問題は生じうるが、ドイツとは100倍のオーダーで異なっている。そのため立法的対処という点では、あわてて対処せんでもいいという判断もありうる。
非嫡出子と嫡出子の相続における区別がないのはドイツも日本も同様であり、結婚の意味は男女間で別居後数年はやしなう必要があるかどうか、死亡時の相続があるかどうか、父子関係の成立がかたいかどうかの差異に縮小されている。
日本でも専業主婦の40代以上だと結婚は永久就職であり、離婚はなかなかできないし、離婚後も養ってもらえると誤解しているひとがままある。成人した時期の法律感覚で一生を過ごすのが常であるとしても、結婚の効果は薄れており、親の義務は増えてきている。そうなると義務がいやということで、生物学的親子関係に法律的親子関係を近づける方向になろうか。