岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

2019年11月

法人税更正処分取消等請求事件

納税者勝訴特定外国子会社認定の平成29年最高裁判決

民集登載のうえ、すぐに調査官解説もすでにでています。

シンガポール事件とでもよびましょうか。

 

最高裁判所第3小法廷判決/平成28年(行ヒ)第224号

平成29年10月24日

【判示事項】 1 内国法人に係る特定外国子会社等の行う地域統括業務が租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるとはいえないとされた事例

2 内国法人に係る特定外国子会社等の行う地域統括業務が租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項及び4項にいう主たる事業であるとされた事例

 

【判決要旨】 1 内国法人に係る特定外国子会社等が行っていた地域統括業務は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システムおよび物流改善という多岐にわたる業務からなり、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものであるなど判示の事実関係のもとにおいては、租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるとはいえない。

2 内国法人に係る特定外国子会社等につき、①対象地域内のグループ会社に対して行う地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システムおよび物流改善に係る地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高が収入金額の多くを占めていたこと、②所得金額(税引前当期利益)は保有株式の受取配当の占める割合が高かったものの、その配当収入の中には上記地域統括業務によって上記グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたこと、③上記特定外国子会社等の現地事務所で勤務する従業員の多くが上記業務に従事し、その保有する有形固定資産の大半が上記業務に供されていたことなど判示の事情のもとにおいては、上記地域統括業務が、租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項および4項にいう上記特定外国子会社等の主たる事業である。

 

【参照条文】 租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66の6-1  租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66の6-3

  租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66の6-4

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集71巻8号1522頁

       裁判所時報1686号235頁

       判例タイムズ1444号82頁

       判例時報2361号33頁

       金融法務事情2085号74頁

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 判例秘書ジャーナルHJ100023

       ジュリスト1517号10頁

       ジュリスト1517号90頁

       税経通信73巻2号173頁

       税務弘報66巻1号181頁

       判例時報2386号148頁

       法曹時報70巻10号277頁

       民商法雑誌154巻3号557頁

       T&Amaster719号14頁

 

       主   文

  1 原判決中,主文第1項を破棄する。

  2 被上告人の控訴を棄却する。

  3 上告人のその余の上告を棄却する。

  4 訴訟の総費用は,これを400分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人国谷史朗ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,内国法人である上告人が,平成19年4月1日から同20年3月31日まで及び同年4月1日から同21年3月31日までの各事業年度(以下,それぞれ「平成20年3月期」,「平成21年3月期」といい,併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各確定申告をしたところ,刈谷税務署長から,租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下「措置法」という。)66条の6第1項により,シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)において設立された上告人の子会社であるA(以下「A」という。)の後記2(1)の課税対象留保金額に相当する金額が上告人の本件各事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入されるなどとして,平成20年3月期の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の再更正処分を受けたため,被上告人を相手に,これらの処分(上記の各再更正処分については上告人の主張する金額を超える部分。以下「本件各処分」という。)の取消しを求める事案である。

  2 関係法令の定め

 (1) 措置法66条の6第1項は,同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係会社(外国法人で,その発行済株式又は出資(以下「株式等」という。)の総数又は総額のうちに内国法人等が有する直接及び間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいう。同条2項1号)のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社(法人の所得に対して課される税が存在しない国若しくは地域に本店若しくは主たる事務所を有する外国関係会社,又はその各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社をいう。平成21年政令第108号による改正前の租税特別措置法施行令39条の14第1項)に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が,各事業年度においてその未処分所得の金額から留保したものとして所定の調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には,適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとして所定の方法により計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額をその内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入する旨を規定する。

  (2) もっとも,措置法66条の6第4項は,①同条3項に規定する特定外国子会社等(同条1項に規定する特定外国子会社等から株式等又は債券の保有,工業所有権その他の技術に関する権利等の提供等を主たる事業とするものを除いたもの。以下,主たる事業がこれらの株式等又は債権の保有,工業所有権等の提供等でないことを「事業基準」という。)が,②本店所在地国において,主たる事業を行うに必要と認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有し(実体基準),③その事業の管理,支配及び運営を自ら行っているものである場合であって(管理支配基準),④各事業年度においてその行う主たる事業が,卸売業,銀行業,信託業,金融商品取引業,保険業,水運業又は航空運送業のいずれかに該当する場合には,その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当するとき(非関連者基準。同条4項1号),上記の各事業以外の事業に該当する場合には,その事業を主として本店所在地国において行っている場合に該当するとき(所在地国基準。同項2号)は,同条1項の規定を適用しない旨を規定する(以下,上記①から④までの要件を「適用除外要件」という。)。

  3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

  (1)ア 上告人は,自動車関連部品の製造販売等を目的とする株式会社(内国法人)である。上告人は,35の国と地域で事業を展開し,全世界に200以上のグループ会社を有する。

  イ 上告人は,東南アジア諸国連合(以下「ASEAN」という。)域内での集中生産・相互補完体制の円滑化を図るため,平成7年,豪亜地域における各拠点間の事業活動の調整及びサポートを行う目的で,シンガポールに地域統括センターとしてB(以下「B」という。)を設立し,同10年,ASEAN域内の上告人のグループ会社に対する統率力を高めるために,Bを含むASEAN・台湾地域のグループ会社の保有株式を現物出資してAを設立した。

  ウ Aは,平成19年3月31日及び同20年3月31日において,上告人の100%子会社であり,同18年4月1日から同19年3月31日まで及び同年4月1日から同20年3月31日までの各事業年度(以下,それぞれ「2007事業年度」,「2008事業年度」といい,併せて「A各事業年度」という。)において,ASEAN諸国等に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有していた。

  エ Aのシンガポールにおける所得に対する租税の負担割合は,2007事業年度では22.89%,2008事業年度では12.78%であった。

  (2)ア Aは,豪亜地域における地域統括会社として,集中生産・相互補完体制を強化し,各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため,設立以来,順次業務を拡大し,A各事業年度当時,地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務(以下,この業務を「地域統括業務」という。)のほか,持株(株主総会,配当処理等)に関する業務,プログラム設計業務及びBのための各種業務の代行業務を行っていた。

  Aは,A各事業年度当時,ASEAN諸国,インド及びオーストラリア連邦に所在する上告人のグループ会社13社(以下「域内グループ会社」という。)に対し地域統括業務を行い,個々の業務につき,域内グループ会社から第三者向け売上高等に一定の料率を乗じた金額又は実費相当額等を徴収していた。

  イ Aは,A各事業年度当時,シンガポールに開設された現地事務所(以下「本件現地事務所」という。)において,現地に在住する日本人の代表取締役と現地勤務の従業員三十数人で業務を遂行していたところ,従業員のうち20人以上は地域統括業務に,その余はプログラム設計業務及びBのための各種業務の代行業務に従事しており,持株に関する業務のみに従事している者はいなかった。

  Aは,本件現地事務所を賃借し,事務用什器備品,車両,コンピューター等の有形固定資産を保有していたが,これらの施設等は全て持株に関する業務以外の業務に使用され,その大半は地域統括業務に供されていた。

  ウ Aの収入金額のうち地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額は,2007事業年度において約4.9億シンガポールドル,2008事業年度において約6.1億シンガポールドルに上り,いずれも収入金額の約85%を占めていた。他方,その所得金額(税引前当期利益)においては,保有株式の受取配当の占める割合が高かった(2007事業年度は約92.3%,2008事業年度は約86.5%)が,地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築,維持及び発展が図られた結果,域内グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ,A各事業年度においても,これがAの域内グループ会社からの配当収入の中に相当程度反映されていた。

  エ Aは,A各事業年度当時,シンガポールにおいて株主総会及び取締役会を開催し,役員は同国において職務執行をしていた。また,Aは,本件現地事務所において会計帳簿を作成し,保管していた。

  (3) 刈谷税務署長は,上告人に対し,平成22年6月28日,Aの主たる事業は株式の保有であり,上告人の本件各事業年度の所得金額の計算上Aの課税対象留保金額に相当する金額は益金の額に算入されるとして,平成20年3月期の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の更正処分をし,同25年2月28日,平成21年3月期の法人税の再更正処分をした。

  4 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求(平成21年3月期の法人税の再更正処分のうち確定申告に係る所得の金額を超えない部分及び翌期へ繰り越す欠損金の額を超える部分の取消しを求める請求を除く。)をいずれも棄却すべきものとした。

  措置法66条の6第3項にいう株式の保有は,これを事業として行う以上,それによって利益を受けることは当然に含意されており,その利益を受ける方法としては,配当を受領するにとどまる場合もあれば,株式発行会社を支配し,その業務内容を自己の意のままに決定することを通じてより多くの配当を得ようと活動することもある。したがって,事業としての株式の保有は,単に株式を保有し続けることに限られず,株式発行会社を支配し管理するための業務もその事業の一部を成し,一定の地域内にある被支配会社を統括するための諸業務も株式の保有に係る事業の一部を成すから,地域統括業務は,株式の保有に係る事業に含まれる一つの業務にすぎず,別個独立の業務とはいえない。また,実質的にもAの主たる事業は株式の保有であると認められるから,いずれにしてもAは事業基準を満たさず,本件各処分は適法である。

  5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  (1) 措置法66条の6第1項は,内国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保することにより,我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから,このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し,その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである(最高裁平成17年(行ヒ)第89号同19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2486頁参照)。しかし,特定外国子会社等であっても,独立企業としての実体を備え,その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記の取扱いを及ぼすとすれば,我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから,同条4項は,事業基準等の適用除外要件が全て満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしている。

  (2)ア 措置法66条の6第4項は,同条3項にいう株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとしているところ,株式を保有する者は,利益配当請求権等の自益権や株主総会の議決権等の共益権を行使することができるほか,保有に係る株式の運用として売買差益等を得ることが可能であり,それゆえ,他の会社に係る議決権の過半数の株式を保有する特定外国子会社等は,上記の株主権の行使を通じて,当該会社の経営を支配し,これを管理することができる。

  しかし,他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が,当該会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理,調整等に係る業務を行う場合,このような業務は,通常,当該会社の業務の合理化,効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として,その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び,これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括していくものであるから,その結果として当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても,株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的,内容,機能等を有するものというべきであって,上記の業務が株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。そして,A各事業年度において,Aの行っていた地域統括業務は,地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム及び物流改善という多岐にわたる業務から成り,豪亜地域における地域統括会社として,集中生産・相互補完体制を強化し,各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものということができるのであって,個々の業務につき対価を得て行われていたことも併せ考慮すると,上記の地域統括業務が株主権の行使や株式の運用に関連する業務等であるということはできない。

  イ また,措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとした趣旨は,株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり,タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見いだし難いことにある。この点,Aの行っていた地域統括業務は,地域経済圏の存在を踏まえて域内グループ会社の業務の合理化,効率化を目的とするものであって,当該地域において事業活動をする積極的な経済合理性を有することが否定できないから,これが株式の保有に係る事業に含まれると解することは上記規定の趣旨とも整合しない。

  ウ なお,平成22年法律第6号による租税特別措置法の改正によって,株式等の保有を主たる事業とする特定外国子会社等のうち,当該特定外国子会社等が他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性の向上に資する業務を行う場合における当該他の外国法人として政令で定めるものの株式等の保有を行うものとして政令で定めるもの(平成22年政令第58号による改正後の租税特別措置法施行令39条の17第4項に定める統括業務を行う同条3項各号に掲げる要件を満たす統括会社)を株式等の保有を主たる事業とするものから除外することとされた(前記改正後の租税特別措置法66条の6第3項)が,これによって事業基準を満たすこととなる統括会社は,もともと株式等の保有を主たる事業とするものであって(同項柱書き),それ以外の統括会社はその対象となるものではないから,これらの改正経過を根拠に上記の統括業務が株式の保有に係る事業に包含される関係にあるものということはできず,Aの行っていた地域統括業務が株式の保有に係る事業に含まれるということはできない。

  エ 以上によれば,A各事業年度において,Aの行っていた地域統括業務は,措置法66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるものということはできない。

  (3)ア 次に,措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は,特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり,特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは,当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額,事業活動に要する使用人の数,事務所,店舗,工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。

  イ これを本件についてみると,Aは,豪亜地域における地域統括会社として,域内グループ会社の業務の合理化,効率化を図ることを目的として,個々の業務につき対価を得つつ,地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム,物流改善という多岐にわたる地域統括業務を有機的に関連するものとして域内グループ会社に提供していたものである。そして,A各事業年度において,地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており,所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8,9割であったものの,その配当収入の中には地域統括業務によって域内グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものであり,本件現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し,Aの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていたものである。

  以上を総合的に勘案すれば,Aの行っていた地域統括業務は,相当の規模と実体を有するものであり,受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても,事業活動として大きな比重を占めていたということができ,A各事業年度においては,地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうAの主たる事業であったと認めるのが相当である。よって,Aは,A各事業年度において事業基準を満たすといえる。

  (4) そして,前記3(2)の事実関係等によれば,A各事業年度において,Aは本店所在地国であるシンガポールにおいて地域統括業務に係る事業を行うのに必要と認められる固定施設を有していたこと,株主総会及び取締役会の開催,役員の職務執行並びに会計帳簿の作成及び保管がいずれも同国において行われるなど,Aが本店所在地国において事業の管理,支配及び運営を自ら行っていたこと,地域統括業務に係る事業は,措置法66条の6第4項1号に掲げる事業のいずれにも該当せず,Aはその事業を主としてシンガポールにおいて行っていたことがそれぞれ認められるから,Aは,前記2(2)②から④までの各要件に係る基準を満たすといえる。

  したがって,上告人は,AにつきA各事業年度において適用除外要件を全て満たし,本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外されるから,事業基準を満たさないことを理由に同項を適用してされた本件各処分(ただし,平成21年3月期の法人税の再更正処分については確定申告に係る所得の金額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金の額を下回る部分)はいずれも違法というべきである。

  6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり,原判決中,主文第1項は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,同部分につき,上告人の請求をいずれも認容した第1審判決は相当であるから,被上告人の控訴を棄却し,また,その余の上告については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたから,棄却することとする。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 山崎敏充 裁判官 岡部喜代子 裁判官 木内道祥 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

 

推計課税の要件を満たすとした平成25年東京高裁判決

推計内容がやたら儲かった同業者を前提にしている点とか判決文はなんだか避けている引用です。。

 

法人税更正処分取消請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成24年(行コ)第19号

平成25年3月14日

【判示事項】 控訴人は,租特法66条の4第1項所定の国外関連者のA社との取引(パチスロメーカー向けモーターの購入)をし,該モーターをコインホッパーメーカー等に販売していたが,税務署長は,同条7項の推定課税により,法人税の更正処分及び加算税賦課決定処分をし,控訴人が,更正処分の一部及び賦課決定処分の取消しを求め,原審が,請求の全部を棄却したのに対し,控訴した事案。控訴審は,控訴人は,独立企業間価格算定に必要な帳簿書類等を遅滞なく提出していないから,法66条の4第7項の推定課税の要件を充たし,本件類似3法人の利益率の平均値を用いた推定は算定方法の要件も充たし,税務調査の手続きにも,処分の取消事由となるような違法は認められないとし,原判決を相当として,控訴を棄却した事例

 

【掲載誌】  税務訴訟資料263号順号12166

       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 山形税務署長(麹町税務署長がその権限を承継。以下同じ。)が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2185万7620円及び納付すべき税額751万2700円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  3 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成12年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額5697万5655円及び納付すべき税額1636万4500円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  4 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2388万5592円及び納付すべき税額646万6900円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  5 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成14年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)106万7445円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)6万5320円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  6 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)2619万5391円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)3万6187円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 第2 事案の概要

  1(1) 控訴人は,租特法66条の4(原判決3頁5行目,60頁2行目以下参照)第1項所定の国外関連者(原判決60頁4行目参照)に該当する香港法人のA社(原判決2頁26行目参照)との間で,平成11年12月28日以降,パチスロメーカー向けの本件モーター(原判決2頁末行参照)を購入する本件取引(原判決3頁初行参照)を行い,さらに,本件モーターをコインホッパーメーカー等(控訴人の関連会社を含む。)に販売していた。

   (2) 山形税務署長は,控訴人が,本件取引に関し,租特法66条の4第1項所定の独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出しなかったとして,同種の事業を営む事業規模等が類似した法人の利益率を基礎とする同条7項に基づき算定した価格を本件取引の独立企業間価格と推定して,平成11年12月期(原判決3頁9行目参照)ないし平成15年12月期の本件各事業年度(原判決3頁12行目参照)の控訴人の法人税について本件各更正処分(原判決3頁12行目参照)及び本件各賦課決定処分(原判決3頁13行目参照。以下,本件各更正処分と一括して「本件各更正処分等」という。)をした。

  2 本件は,控訴人が,①控訴人は独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を満たしていない(争点(1)。原判決14頁2行目,81頁4行目以下参照),②山形税務署長が推定した独立企業間価格は適法なものではなかったから,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たさない(争点(2)。原判決14頁5行目,97頁16行目以下参照),③控訴人が提示したB(原判決5頁6行目参照)とC社(原判決5頁10行目参照)との取引は独立企業間価格に基づくものであり,また,控訴人がその算定のために必要な書類を提出している以上,控訴人は,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したことになる(争点(3)。原判決14頁7行目,117頁14行目以下参照),④本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続において重大な違法があったから,この調査結果に基づく本件各更正処分等も違法である(争点(4)。原判決14頁9行目,121頁17行目以下参照)などと主張して,被控訴人に対して,山形税務署長による本件各更正処分等の取消しを求める事案である。

  3 原審は,①争点(1)及び(3)について,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を控訴人は遅滞なく提示又は提出していないから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を充足しており,また,控訴人の提示に係るBとC社との比較対象取引の取引価格を用いて適正な独立企業間価格を算定することはできず,本件取引における独立企業間価格の算定のために必要な書類を控訴人が提出したとはいえないから,本件取引について推定課税をする要件は満たされている(原判決28頁17行目以下),②争点(2)について,本件取引に係る独立企業間価格についての山形税務署長の推定は,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たす適法なものである(原判決38頁4行目以下),③争点(4)について,本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続に処分の取消事由となるほどの手続上の違法は認められず,本件各更正処分等はいずれも適法である(原判決55頁初行以下)などと判断して,控訴人の本訴請求をすべて棄却したので,控訴人が,これを不服として控訴した。

  4 本件における「関係法令の定め」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の2(3頁18行目以下及び60頁以下の別紙2)に,「前提事実」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の3(3頁25行目以下及び65頁以下の別紙3ないし7)に,「被控訴人が主張する本件各更正処分等の根拠」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の4(12頁23行目以下及び70頁以下の別紙8,9)に,「争点」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の5(14頁初行以下)にそれぞれ記載するとおりであるから,いずれもこれらを引用する。

    また,本件における「争点に関する当事者の主張の要旨」については,次項において,争点(2)に関する当審における控訴人の補充主張の要旨を付加する(その多くは原判決別紙10の97頁16行目以下の控訴人の主張と重複するものであるが,当審における控訴人の主張を踏まえて摘示するものである。)ほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の6(14頁10行目以下及び79頁以下の別紙10)に記載するとおりであるから,これを引用する。

  5 当審における控訴人の補充主張の要旨

   (1) 推定課税は,移転価格税制の適正公平な執行のための制度であるから,その実施に当たっては,移転価格税制の中核となる独立企業原則,つまり,国外関連取引と同様な取引が比較可能な状況下において独立企業間で行われたとした場合に成立した取引価格によって独立企業間価格を算定するという原則に抵触しない解釈ないし運用が求められるところ,関連者間取引を行う法人を比較対照して独立企業間価格を算定するのは,この独立企業原則の本質に反することになり,推定課税制度の趣旨にも反するものである。本件において,A社と同種事業類似法人(原判決83頁25行目参照)に当たるとして山形税務署長が選定した本件類似3法人(原判決87頁13行目参照)であるa社,b社及びc社(原判決87頁14行目参照)は,いずれも主として関連者間取引を行っている法人であり,本件各更正処分等の推定課税は,比較対象としての適格性を有しない法人を用いた独立企業原則に反するものであるから,本件各更正処分等も違法である(原判決97頁17行目以下参照)。

   (2) 被控訴人は,比較対象する本件類似3法人(いわゆるシークレットコンパラブル)についての主張事実に関する客観的な証拠を一切提出しておらず,また,控訴人にも全く開示していない(原判決102頁9行目以下参照)。そして,本件類似3法人についてのモーター以外の事業の具体的な内容(事業内容,売上高の構成比,粗利益率等)が明らかにされておらず,被控訴人は,ごく概括的な情報を記載した調査報告書を提出しただけであり,また,風営法(原判決95頁24行目参照)の規制による影響についても,調査担当者の陳述書を提出しているだけである。そもそも被控訴人は,調査担当者の陳述書ないし調査報告書を開示したに過ぎないのであり,控訴人には防禦の機会が十分に与えられてはいない。

     すなわち,控訴人は,比較対象とされた本件類似3法人の事業内容や財務状況について客観的な証拠に基づく情報を入手できないため,事業の同種性及び事業内容の類似性に関する十分な検討や反論を行うことができないのである。これは,適正手続(憲法31条)の観点からも極めて重大な問題があるというべきであり,納税者が自己の立場を擁護し,司法による的確なコントロールのための十分な機会も与えられていないから,本件の推定課税は違法であり,また,少なくとも事業の同種性及び事業内容の類似性は立証されていないというべきである。

   (3)ア 租特法66条の4第7項の推定課税において選定する同種事業類似法人に関する同項所定の要件は,「事業の同種性」及び「事業内容の類似性」だけである。しかしながら,推定課税の制度は,移転価格税制の下に位置付けられており,推定課税規定が準用している再販売価格基準法及び原価基準法も,売上高総利益率(粗利益率)を比較するのであるから,「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」ないし「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」もその要件になると解するのが相当である。

    イ この観点からは,A社と本件類似3法人との事業規模が著しく相違していることを重視する必要がある。A社の移転価格調整後の各事業年度の売上高は2000万円から2億円程度(更正前の金額を基準としても3000万円から5億円)であるのに対して,a社の売上高は50億円を超えて60億円以下であったから,そこには200倍ないし300倍の相違がある。また,c社の売上高は10億円を超えて20億円以下であるから,A社の売上高(7000万円(平成14年度),1億2000万円(平成15年度))とも大きな相違がある。このように,A社と本件類似3法人との事業規模には極めて大きな差異があり,租特法66条の4第7項1号所定の「事業規模その他の事業の内容が類似するもの」との要件を充足しないというべきである。

    ウ 被控訴人が提出した調査報告書(乙121。以下「本件調査報告書」という。)では,「電気機械器具卸売業の全1172法人」,「販売管理費比率が17.55%以下の法人」,「販売管理費比率が14.15%以下の法人」及び「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に分類して,売上規模と粗利益率の関係を分析しているところ,販売管理費比率が粗利益率に重大な影響を及ぼすことが明らかになっており,売上規模が同一であっても,販売管理比率の高いものほど粗利益率も大きくなっている。

      本件類似3法人の販売管理費比率の平均は,上記の「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に属している(平均粗利益率5.37%)ところ,A社の平成13年から平成15年までの販売管理費比率は平均26%であるから,本件調査報告書に基づく両者の粗利益率には大きな差異がある。仮に,A社の取締役であるD(原判決9頁22行目参照)に対する報酬部分を控除したとしても,同社は,平成13年10月期及び平成15年10月期には「販売管理費比率が14.15%以下の法人」に,平成14年10月期には「電気機械器具卸売業の全1172社の法人」に属することになるから,いずれにしても粗利益率が大きく異なっていることは明らかである。

      また,A社は,本件類似3法人と異なり,納期管理,品質管理,発注,実質的な在庫管理に加えて,仕入先選定,得意先開拓,条件交渉,営業活動,製品選定などの事業活動も主体的に行っていたところ,このような機能面における相違は販売管理費比率に反映しているのであるから,この意味でも,A社と本件類似3法人との事業内容における類似性を認めることはできない。

   (4) A社と本件類似3法人との事業内容には,次のような粗利益率の相違を生じさせる具体的な事情が存する。

    ア 製品のモーターは,OA機器やカメラの用途,販売先によって価格が大きく異なるものであるところ,それらとも全く業態が異なるパチスロ向けに製造されているA社の製品価格はさらに大きく異なるのであり,このような価格の相違は粗利益率にも大きく反映する。

    イ モーターの販売価格は,市場の地理的な相違によって大きく異なる。A社と本件類似3法人とは,いずれも中国の製造業者からモーターを購入しているものの,販売市場は,A社が日本国内であるのに対して,a社は香港等,c社は東南アジア等であるから,粗利益率でもかなりの相違が生ずるものと見込まれる。

    ウ 本件モーターはパチスロ筐体用であり,風営法に基づく規制があり,保通協(原判決95頁26行目参照)の規格に適合することを要するという特殊性を重視する必要がある。パチンコやパチスロ用の部品は,粗利益率等の利益率が非常に高く,業界も寡占的なものである一方,一旦企画や品質基準に対応できず,当該部品を使用する機種の人気が低下すれば,発注も急減するというハイリスク・ハイリターンの構造があり,このような特殊性は粗利益率にも大きな影響を及ぼすものである。

関税法違反の実行の着手時期 最高裁平成26年判決

刑集判決です。

 

       関税法違反被告事件

 

最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(あ)第1333号

平成26年11月7日

 

【判示事項】 関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪につき実行の着手があるとされた事例

 

【判決要旨】 航空機に機内預託手荷物として積載するスーツケースに隠匿する方法でうなぎの稚魚を無許可で輸出しようとした行為について,入口にエックス線検査装置が設けられ,周囲から区画された国際線チェックインカウンターエリア内にある保安検査済みシールを貼付された手荷物は,そのまま機内預託手荷物として航空機に積載される扱いになっていたなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,被告人らが,同スーツケースを機内持込手荷物と偽って入口での保安検査を回避して同エリア内に持ち込み,不正に入手していた保安検査済みシールを貼付した時点では,既に関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

 

       (補足意見がある。)

 

【参照条文】 刑法43

       関税法111-3

       関税法1-1

 

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集68巻9号963頁

       裁判所時報1615号239頁

       判例タイムズ1409号131頁

       判例時報2247号126頁

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 警察学論集68巻9号171頁

       警察公論72巻7号85頁

       ジュリスト1489号97頁

       捜査研究64巻6号16頁

       法学セミナー60巻3号127頁

       法曹時報68巻6号186頁

       刑事法ジャーナル44号89頁

 前田「刑事法判例の最前線 第3講」

       主   文

  原判決を破棄する。

  本件控訴を棄却する。

 

        理   由

  検察官の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は単なる法令違反の主張であり,弁護人山内大将の上告趣意は,単なる法令違反の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

  しかしながら,検察官の所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。

  第1 第1審判決が認定した犯罪事実の要旨

  1 第1審判決は,以下のとおり無許可輸出の未遂罪の犯罪事実を認定し,被告人を罰金88万円に処した。

  被告人は,A,B,C,D,E及び氏名不詳者と共謀の上,税関長の許可を受けないで,うなぎの稚魚を中華人民共和国に不正に輸出しようと考え,平成20年3月29日(以下「本件当日」という。),千葉県成田市所在の成田国際空港第2旅客ターミナルビル3階において,香港国際空港行き日本航空(以下「日航」という。)731便の搭乗手続を行うに当たり,税関長に何ら申告しないまま,うなぎの稚魚合計約59.22kg在中のスーツケース(以下「本件スーツケース」という。)6個を機内持込手荷物である旨偽って同所に設置されたエックス線装置による検査を受けずに国際線チェックインカウンターエリア(以下「チェックインカウンターエリア」という。)内に持ち込み,あらかじめ入手した保安検査済シール(以下「検査済シール」という。)を各スーツケースに貼付するなどした上,同カウンター係員に本件スーツケース6個を機内預託手荷物として運送委託することにより,税関長の許可を受けないでうなぎの稚魚を輸出しようとしたが,税関職員の検査により本件スーツケース内のうなぎの稚魚を発見されたため,その目的を遂げなかった。

  2 なお,上記1の事実のうち「同カウンター係員に本件スーツケース6個を機内預託手荷物として運送委託することにより」との部分について,原判決は,「運送委託の事実を認定した点で事実誤認がある」旨判示するが,本件では,被告人らが運送委託したことを示す証拠がないことは明白であるから,第1審判決の上記判示部分は,被告人らが運送委託を企図したということを示したものと理解するのが相当であり,第1審判決に事実誤認はない。

  第2 原判決の要旨

  被告人は,第1審判決に対して量刑不当を理由に控訴したが,原判決は,控訴理由に対する判断に先立ち,無許可輸出罪の実行の着手時期に関し,職権で以下のとおり判示した上,本件は無許可輸出の予備罪にとどまるとして第1審判決を破棄し,被告人を罰金50万円に処した。

  実行の着手とは,「犯罪構成要件の実現に至る現実的危険性を含む行為を開始した時点」であって,本件のような事案においては,本件スーツケース6個について運送委託をした時点と解すべきである。航空機の搭乗手続の際に,機内預託手荷物として運送委託をすれば,特段の事情のない限り,自動的に航空機に積載されるから,その時点において本件スーツケース6個が日航731便に積載される現実的危険性が生じるからである。この点に関し,検察官は,「積載する行為」又は「積載する行為に密接に関連し,かつ,積載に不可欠な行為」があれば,この時点で実行の着手を認めるべきとの一般論を前提とし,チェックインカウンターエリア内で本件スーツケース6個に検査済みシールを貼付すれば,「輸出行為が既遂に至るまでに何ら障害のない状況が作出された」と主張するが,肝心の運送委託をしない限り,そのような状況が作出されたと客観的に断ずることはできない。そうすると,「検査済みシールを本件スーツケース6個に貼付するなどした」までの事実をもって,無許可輸出の未遂罪が成立するとはいえず,単に無許可輸出の予備罪が成立するにとどまるというべきであり,第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りが存する。

  第3 当裁判所の判断

  しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。

  1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

  (1) A(以下「A」という。)は,平成18年2月頃から,氏名不詳者より,日本から香港へのうなぎの稚魚の密輸出を持ちかけられ,報酬欲しさに,これを引き受け,繰り返し密輸出を行っていたが,その後,被告人らを仲間に勧誘した。

  (2) 本件当時の成田国際空港における日航の航空機への機内預託手荷物については,チェックインカウンターエリア入口に設けられたエックス線検査装置による保安検査が行われ,検査が終わった手荷物には検査済みシールが貼付された。また,同エリアは,当日の搭乗券,航空券を所持している旅客以外は立入りできないよう,チェックインカウンター及び仕切り柵等により周囲から区画されており,同エリアに入るには,エックス線検査装置が設けられた入口を通る必要があった。そして,チェックインカウンターの職員は,同エリア内にある検査済みシールが貼付された荷物については,保安検査を終了して問題がなかった手荷物と判断し,そのまま機内預託手荷物として預かって航空機に積み込む扱いとなっていた。一方,機内持込手荷物については,出発エリアの手前にある保安検査場においてエックス線検査を行うため,チェックインカウンターエリア入口での保安検査は行われていなかった。

  (3) Aらによる密輸出の犯行手口は,①衣類在中のダミーのスーツケースについて,機内預託手荷物と偽って,同エリア入口でエックス線検査装置による保安検査を受け,そのスーツケースに検査済みシールを貼付してもらった後,そのまま同エリアを出て,検査済みシールを剥がし,②無許可での輸出が禁じられたうなぎの稚魚が隠匿されたスーツケースについて,機内持込手荷物と偽って,上記エックス線検査を回避して同エリアに入り,先に入手した検査済みシールをそのスーツケースに貼付し,③これをチェックインカウンターで機内預託手荷物として預け,航空機に乗り込むなどというもので,被告人らは,Aの指示で適宜役割分担をしていた。

  (4) Aは,氏名不詳者から,「本件当日に15か16ケースのうなぎの稚魚を運んでもらいたい。そのため5人か6人を用意してほしい。」などと依頼され,被告人,D,B及びEの4名について,本件当日発の日航731便の搭乗予約をしていたが,前日になって,「明日は2名で6ケースになった」旨伝えられ,被告人らに対し,被告人,E及びDが本件スーツケース6個を同エリア内に持ち込み,C(以下「C」という。)とBが香港までの運搬役を担当するよう指示した。Aは,C分の同便の搭乗予約をしていなかったが,他の予約分をCに切り替えるつもりでいた。

  (5) 本件当日,A及び被告人を含む総勢6名は,ダミーのスーツケースを持参して成田国際空港に赴き,手分けして同エリア入口での保安検査を受け,検査済みシール6枚の貼付を受けてこれを入手した。そして,被告人らは,同空港で,氏名不詳者から本件スーツケース6個を受け取り,1個ずつ携行して機内持込手荷物と偽って同エリア内に持ち込んだ上,手に入れていた検査済みシール6枚を本件スーツケース6個にそれぞれ貼付した。

  (6) その後,AとCは,本件スーツケースを1個ずつ携え,日航のチェックインカウンターに赴き,Cの航空券購入の手続をしていたところ,張り込んでいた税関職員から質問検査を受け,本件犯行が発覚した。

  2 本件における実行の着手の有無

  (1) 上記認定事実によれば,入口にエックス線検査装置が設けられ,周囲から区画されたチェックインカウンターエリア内にある検査済みシールを貼付された手荷物は,航空機積載に向けた一連の手続のうち,無許可輸出が発覚する可能性が最も高い保安検査で問題のないことが確認されたものとして,チェックインカウンターでの運送委託の際にも再確認されることなく,通常,そのまま機内預託手荷物として航空機に積載される扱いとなっていたのである。そうすると,本件スーツケース6個を,機内預託手荷物として搭乗予約済みの航空機に積載させる意図の下,機内持込手荷物と偽って保安検査を回避して同エリア内に持ち込み,不正に入手した検査済みシールを貼付した時点では,既に航空機に積載するに至る客観的な危険性が明らかに認められるから,関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

  (2) したがって,本件が無許可輸出の予備罪にとどまるとして第1審判決を破棄した原判決には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

  よって,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,なお,訴訟記録に基づいて検討すると,第1審判決は,被告人に対し罰金88万円に処した量刑判断を含め,これを維持するのが相当であり,被告人の控訴は理由がないこととなるから,同法413条ただし書,414条,396条によりこれを棄却し,当審及び原審における訴訟費用につき同法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。

  裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

  私は,本件における手荷物の機内預託手続の実施態様等に鑑み,無許可輸出罪の実行の着手を認めた法廷意見に関連し,次のとおり私見を補足しておきたい。

  1 原判決は,本件スーツケース6個が日航731便に積載される現実的危険性は運送委託の行為をすることにより生ずるとして,この行為の時点を捉えて無許可輸出罪の実行の着手を認めるべきであるとしている。航空機を利用する密輸出が成功するか否かは,保安検査において無許可輸出品の隠されていることが発覚せずにパスさせることができるかが最大の鍵を握っているところ,保安検査で発覚する蓋然性は決して低くなく,近時行われているように,機内預託手荷物の保安検査がチェックインカウンターでの預託後に行われる場合であれば,保安検査に向けて運送委託のための行為を開始するか否かが,実行の着手の有無の判断において,重要な要素ということになろう。

  しかしながら,本件における手荷物の機内預託手続の実施態様は,これとは異なるものであり,原判決のような判断をすることはできない。

  2 本件における機内預託手荷物の保安検査は,上記のようなものとは異なり,チェックイン手続の前に,チェックインカウンターエリアの入口において行われており,密輸出が成功するか否かの鍵を握る場面が運送委託に向けた行為より前の段階で登場する。そして,本件では,法廷意見が判示したとおり,ダミーのスーツケースを利用して保安検査を済ませて検査済みシールを入手して同エリアに入り,その後,手荷物を携帯したまま同エリアから出て,今度はうなぎの稚魚の入った手荷物を機内持込手荷物であると称して同エリア入口での保安検査を免れ,同エリア内に入って,そこで既に入手し剥がしていた検査済みシールを本件スーツケース6個に貼り付けるという一連の偽装工作を完了させており,密輸出の成功の鍵を握る最大の山場を既に乗り越えた状態となっていたのである。残るのは,被告人ら自らが,そのままこれらをチェックインカウンターへ運び運送委託をすることだけである。そして,法廷意見の判示するとおり,検査済みシールを貼付した時点では,通常は,もはや保安検査等で無許可輸出品がスーツケースに入っているか否かの再確認をされるおそれはなくなっており,密輸出に至る客観的な危険性が明らかに認められる。

  3 また,本件スーツケースは,いまだチェックインカウンターエリア内に存置された状態にあり,被告人らにおいて運送委託に向けた行為を開始してはいなかったものの,保安検査を積極的に利用して機内預託手荷物として正式に検査が済んでいるかのような状態を既に作り出しており,密輸出の成功の鍵を握る偽装工作が成功裏に完了し,輸出のための手続の重要な部分が終了しているのである。すなわち,これらの一連の偽装工作は,保安検査前の専ら被告人らだけの領域内で行われたのではなく,保安検査という,機内への手荷物の運送委託の前提となる一連の手続過程に入り込み,これを利用して検査済みシールを貼付することにより完成している。このような状況は,密輸出に至る客観的な危険性が明らかに認められると同時に,構成要件該当行為である機内への無許可輸出品の運送委託に密接な行為が行われたと評価することもできるものである。

  4 以上によれば,本件においては,運送委託行為ないし積載依頼に向けた行為の開始がなくとも,密輸出の実行の着手を肯定してよいと考える。

  原判決は,いまだ手荷物を運送委託する行為がなかった点を捉えて,予備罪の成立にとどめる判断をしている。しかし,本件では,手荷物を預託する際に保安検査を行うという近時行われている検査体制とは異なる検査状況があり,運送委託を完成させるための最も重要で最大の障害となる部分を済ませるに至っており,さほどの重要性がなくなった運送委託の直前の状態まできているという事情があるから,実行の着手を認めることが十分に可能であるというべきである。

2019年11月18日に従来のトマト銀行本店南隣から岡山磨屋町ビル5階に事務所を引っ越した。
岡山駅にはだいぶ近づいたが裁判所からはだいぶ遠のいたことになる。


駐車場は余分がなく来客時には近所の有料駐車場をつかってもらうことになった。


繁華街の前なので昼夜の食事等は便利になった。

法人税更正処分等取消請求事件

ネズミ講と法人税 最高裁平成16年判決

ケースブック租税法第5版では219頁で参考判例あつかいです。

租税判例百選第6版には採用されていません。

 

最高裁判所第3小法廷判決/平成12年(行ヒ)第32号、平成12年(行ヒ)第33号、平成12年(行ヒ)第34号

 

平成16年7月13日

【判示事項】 法人でない社団の要件を具備すると認定してされた法人税等の更正が当然無効であるとはいえないとされた事例

 

【判決要旨】 無限連鎖講を主宰していた個人が,その事業主体が法人でない社団で代表者の定めがあるものになったとして,同社団名義で法人税,法人事業税,法人県民税及び法人市民税の申告をした場合につき,外形的事実に着目する限りにおいては,その社団というものが,意思決定機関,業務執行機関,代表機関等の団体としての組織を備え,その意思決定を多数決の原則で行い,定款の規定上は構成員の変更にかかわらず団体として存続するとされ,代表の方法,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているようにみえるという事情の下においては,課税庁が法人でない社団の要件を具備すると認定してしたこれらの税の増額更正は,仮にその認定に誤りがあるとしても,誤認であることが上記各更正の成立の当初から外形上,客観的に明白であるとはいえず,また,上記個人が,税務対策等の観点から上記のとおり社団化を図り,その社団の名において事業活動を展開し,上記申告に係る税の納付により高額の所得税の負担を免れたなど判示の事情の下においては,上記個人に上記各更正による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合に該当せず,上記各更正は当然無効であるとはいえない。

 

【掲載誌】  訟務月報51巻8号2116頁

       最高裁判所裁判集民事214号751頁

       裁判所時報1367号311頁

       判例タイムズ1164号114頁

       判例時報1874号58頁

       税務訴訟資料254号順号9695

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 ジュリスト1295号234頁

       税務事例37巻4号1頁

 

       税務事例37巻9号61頁

       民商法雑誌132巻1号92頁

 

       主   文

 

  原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。

  前項の部分につき被上告人らの控訴を棄却する。

  控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

 

        理   由

 

 平成12年(行ヒ)第32号上告代理人山崎潮ほかの上告受理申立て理由第四,平成12年(行ヒ)第33号上告代理人舞田邦彦ほかの上告受理申立て理由第四及び平成12年(行ヒ)第34号上告代理人成瀬公博ほかの上告受理申立て理由第四について

1 本件は,亡B(以下「B」という。)の主宰していた無限連鎖講の事業主体が昭和47年5月20日から法人でない社団で代表者の定めがあるC研究所(以下「C研究所」という。)になったとして,C研究所の名義でされた同48年4月1日から同49年3月31日まで及び同年4月1日から同50年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税,法人県民税,法人事業税及び法人市民税の申告について,それぞれ増額更正(以下「本件各更正」という。)がされた後,Bの相続財産の破産管財人である被上告人らが,C研究所は法人でない社団としての実体を欠き本件各更正は無効であると主張して,上告人らに対し,これに基づき納付された各金員の還付及び還付加算金の支払を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)Bは,昭和42年以降,無限連鎖講を次々と考案し,自らその本部となって講を運営していたが,講加入者の急増に伴い,税務調査を受けるようになり,同46年11月,所得税更正及び重加算税賦課決定を受けたことから,税務対策上も団体化を急ぐこととした。

 (2)Bは,C研究所と称する法人でない社団の定款案の策定のため,昭和47年,本部関係者十数人及び地方の有力会員が自発的に組織した支部の関係者十数人の出席の下に2回にわたって発起人会を開催し,発起人会の決議を受けて,同年5月20日,C研究所の創立会員総会を開催した。同総会において議決権を有する会員代表については,これに先立つ同月12日の理事会において,熊本県支部から20人を,その余の支部から各15人を選出すること及びその選出方法を各支部にゆだねることが決定されていた。議事録によれば,同総会には,各支部選出の会員代表140人中94人及び支部外会員代表6人が出席し,定款案等が審議され,可決された。

なお,定款を変更するためには,会員総会に会員代表の2分の1以上が出席し,その3分の2以上の同意を要する旨の規定が,定款に置かれていた。

 (3)C研究所の定款は,構成員である会員の資格について,「本会の目的に賛同し,本会の立案育成する相互扶助の組織に加入したものを会員とする。」(7条1項),「前項の組織に加入するにはその都度所定の申込書に入会金を添えて本会に提出するものとする。」(同条2項),「会員となった者は毎年1回以上同一組織に加入するものとする。」(同条3項)と定め,8条において,死亡,退会の申出及び定款違反による除名を会員の資格喪失事由として定めていた。しかし,C研究所設立前のいつの時点から講に入会した者が会員となるのかについて,定款上定めがなかった。また,いったん会員となった者が1年後に同一の組織に加入しなかった場合に,定款7条3項により会員資格を喪失するのかなどの点が,明確でなかった。

 (4)C研究所の定款は,意思決定機関である会員総会について,① 会員総会が各支部選出の会員代表によって構成されること,② 会員代表の数は,理事会が各支部の会員数に応じて決定すること,③ 会長が会員総会の議長となること,④ その決議は,会員代表の2分の1以上が出席して,その過半数をもって決すること,⑤ 基本財産の処分,歳入歳出予算及び歳入歳出決算の承認,定款の変更その他会長の付議する事項を会員総会に付議することを定めていた。毎年5月に定時会員総会が開催され,役員及び定足数を満たす会員代表の出席の下に,一定の議題について審議及び採決が行われ,議事や議決の結果は,会計年度ごとに作成される事業報告書に定款の内容等と共に掲載され,本部及び支部事務所に備え付けられた。

 (5)定款に基づいて制定された支部運営規則は,支部長が,毎年,理事会の定める数の会員代表を定時総会開催予定日の1か月前までに会員の選挙又は互選の方法により選出しておくべき旨を定めていた。各支部は,会員代表の選出のために支部大会を開催し,その開催がある旨を地元紙への広告掲載等によって周知した結果,相当数の会員が支部大会に出席し,1000人以上の会員が出席した支部もあった。もっとも,理事会による各支部の会員代表数の決定の基準は,一貫しておらず,会員代表の具体的な選出方法の定めのない支部も多数あった。

 (6)C研究所の定款は,業務執行機関である理事会及び代表機関である会長について,① Bが,終身理事かつ会長であること,② 会長がC研究所を統轄し,代表すること,③ 理事が理事会を組織し,会務の執行を決定すること,④ 理事の員数が15人以上30人以内であること,⑤ 会長が理事の3分の1を指名し,その余の理事及び監事を,会員の中から会員総会の決議により選任すること,⑥ 事業計画,支部の設置,歳入歳出予算及び歳入歳出決算に関する議案,定款変更に関する議案その他会長の付議する事項を,理事会に付議することを定めていた。理事会は,ほぼ毎月開催され,支部運営規則の承認及び決定,決算及び予算案の策定方針の承認,基本財産の組入れ及び譲渡等の議題について,審議及び採択がされた。

しかし,理事会の定足数及び議決方法について定款に定めがなく,理事会の議題は,基本的にBが作成し,提案どおり可決されるのが一般的であった。理事会で議決された事項をBが実行に移さないことも多く,理事会に諮ることなくBの一存で重要な財産の取得や処分が行われることも少なくなかった。

 (7)支部運営規則に基づいて設置された支部の数は,昭和52年5月には約20に上り,各地で会員代表選出等を議題とした支部大会等が開催された。しかし,支部の設置,廃止等は,理事会の決議を経ずに適宜本部で処理するというのが実態であった。支部長の交代に際して引継ぎが行われず,職務内容を理解していない支部長もいるなど,名目だけの支部役員も多数いた。

 (8)C研究所は,定款により,Bの所有していた本部事務所,保養所等の不動産,自動車等を基本財産に組み入れ,定款上,理事会が基本財産への組入れを決議し,基本財産の処分に会員総会の承認を要することとされていた。C研究所は,設立後,収支計算書,本部経費帳,資産元帳及び損益元帳を新規に備え,昭和47年10月28日,本部,支部及び研修所(保養所)ごとに会計諸表及び帳簿書類を備え付け,現金,預金その他の資産の出納及び管理について記帳すべきこと等を定めた経理規程を定め,各支部においても同規程に従った処理がされた。不動産等の取引及び預金口座にもC研究所名義が使用された。もっとも,C研究所においては,貸借対照表,固定資産台帳,什器備品台帳等が作成されず,B個人が主宰してきた講事業を承継する手続は明確にされなかった。

 (9)Bは,昭和47年6月7日ころ,国税庁長官,熊本国税局長,熊本県知事及び熊本市長に対し,C研究所の定款,基本財産目録,創立会員総会議事録等を,また,同月16日,所轄税務署長に対し,「不備事項ご指導方のお願いについて」と題する書面をそれぞれ送付して,C研究所の設立を印象付けるとともに,同年7月4日,所轄税務署長に対し,C研究所名義の給与支払事務所を同年5月20日に新たに開設した旨を届け出た。同日以降の事業年度に係るC研究所名義の法人税の確定申告書は,Bの所得税の確定申告書とは別途に提出された。C研究所は,本件各事業年度の法人税,法人県民税,法人事業税及び法人市民税を申告し,納付していたが,このうち法人税については同52年4月23日に,法人県民税及び法人事業税については同年5月24日に,法人市民税については同月25日に,それぞれ過少申告を理由に更正を受けた。

 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件各更正に基づき納付された各金員の還付及び還付加算金の支払請求を認容した。

 (1)C研究所の構成員の範囲等には多大な疑義がある上,定款上はその構成員である会員であっても,団体意思の形成に参画することができない者も構造的に多数存在した。会員総会及び理事会の議決は,基本的にはBの決めたことを追認するだけのものであり,団体意思の形成,実現の観点からすると,形式的なものにすぎなかった。C研究所は,Bの実施してきた個人事業が社団化したものとされるが,Bが終身代表者である会長に就任する旨の異例の定めを定款に置くだけではなく,現に理事会の議決等に拘束されることなくBの一存で財産の処分等を行っており,Bの存在なしには存続不可能な組織であった。C研究所名義でされた取引や税務申告等も,Bが税金等を免脱するための手段にすぎない。結局,C研究所は,Bないしその個人事業の別称である。

 (2)所得の帰属主体が個人又は法人のいずれであるかの過誤は,重大であり,社団性を有しないものに対しこれを有するとしてした課税処分は,存在しない虚無人を名あて人とするものであるから,処分の存否にかかわる重大な瑕疵がある。本件各更正を信頼して新たな法律関係を構築すべき第三者が存在することの主張,立証もないから,特にそのために本件各更正を有効とすべき理由もない。したがって,本件各更正は,徴税行政の安定やその円滑な運営の要請等を考慮しても,なお,処分の存否ないしその根幹にかかわる重大な瑕疵があるものとして無効である。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  前記事実関係によれば,C研究所の定款の成立過程及び備付け状況に照らし定款の効力に疑義があることが明らかであるとはいえず,定款の規定の文言のみをもって会員の要件が不明確であると速断することはできない上,Bが終身理事及び会長である旨の定款の定めがあったが,これを変更することは定款上可能であったし,また,会員総会,支部大会及び理事会が一見してその機能を果たしていなかったと断定することもできない。そうすると,外形的事実に着目する限りにおいては,C研究所は,意思決定機関としての会員総会,業務執行機関ないし代表機関としての理事会ないし会長が置かれるなど団体としての組織を備え,会員総会の決議が支部において選出された会員代表の多数決によって行われるなど多数決の原則が行われ,定款の規定上は構成員である会員の変更にかかわらず団体として存続するとされ,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているようにみえるというべきである。したがって,課税庁においてC研究所が法人でない社団の要件を具備すると認定したことには,それなりの合理的な理由が認められるのであって,仮にその認定に誤りがあるとしても,誤認であることが本件各更正の成立の当初から外形上,客観的に明白であるということはできない。

  また,仮に本件各更正に課税要件の根幹についての過誤があるとしても,前記事実関係によれば,Bは,税務対策等の観点から講事業の社団化を図り,自ら,C研究所の定款の作成にかかわり,発起人会,会員総会及び理事会を開催し,C研究所の名において事業活動を展開するとともに,C研究所に所得が帰属するとして法人税,法人事業税,法人県民税及び法人市民税の申告をし,申告に係るこれらの税を納付して,高額の所得税の負担を免れたというのである。そうすると,徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしんしゃくしても,なお,不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由としてBに本件各更正による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合(最高裁昭和42年(行ツ)第57号同48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁参照)に該当するということもできない。

  以上によれば,本件各更正が当然無効であるということはできず,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,同部分について請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,同部分に対する被上告人らの控訴を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三)

 

↑このページのトップヘ