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2020年04月

横領罪と不法領得の意思 東京高裁平成8年

刑法判例百選Ⅱ 第7版66事件の原審 所得税法違反、業務上横領被告事件

東京高等裁判所判決/平成6年(う)第1301号

平成8年2月26日

 

【判示事項】 株式会社の取締役経理部長らが自社の株の買い占めを図っていた者に対抗する目的で、第三者に対し、右株の買い占めの妨害を依頼し、その工作資金及び報酬に当てる目的で、業務上保管中の現金を交付した行為につき、業務上横領罪の成立を否定した第一審判決を破棄し、同罪の成立を認めた事例

 

【参照条文】 刑法253

       刑事訴訟法382

 

【掲載誌】  高等裁判所刑事裁判速報集平成8年41頁

       東京高等裁判所判決時報刑事47巻1~12号29頁

       判例タイムズ904号216頁

       判例時報1575号131頁

 

【評釈論文】 ジュリスト臨時増刊1113号151頁

       捜査研究45巻10号105頁

       判例タイムズ916号40頁

 

       主   文

 

  被告人両名に対する原判決を破棄する。

  被告人Aを懲役三年及び罰金七〇〇〇万円に、被告人Bを懲役一年六月に各処する。

  被告人Aに対し、原審における未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

  被告人Aにおいて右罰金を完納することができないときは、金四〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

  被告人Bに対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

  原審における訴訟費用のうち、証人小林準に支給した分の二分の一は被告人Aの負担とし、証人Cに支給した分は被告人両名の連帯負担とする。

  当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

 

        理   由

 

  本件控訴の趣意は、検察官甲斐中辰夫名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、被告人Aの弁護人赤松幸夫の意見書及び被告人Bの弁護人椎名啓一、同喜田村洋一連名の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

  そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討し、所論に対し以下のとおり判断する。

 第一 被告人両名に対する業務上横領被告事件についての事実誤認の主張について

 論旨は、要するに、被告人両名の共謀による業務上横領の公訴事実につき、犯罪の証明がないとして被告人両名に無罪の言渡しをした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというのである。

  一 公訴事実の要旨

  本件公訴事実(被告人両名に対する平成二年七月二五日付及び同年九月一一日付起訴状記載の各公訴事実)の要旨は次のとおりである。

  被告人Aは、昭和五九年六月から昭和六三年五月までの間、國際航業株式会社(以下「國際航業」という)の取締役経理部長として、被告人Bは、昭和六〇年四月から昭和六三年一二月までの間、同社経理部次長として、いずれも同社の資金の調達運用、金銭の出納保管等の業務に従事していたものであるが、

    (一) 被告人Aが、先に同社の株式を買い占めていたKに協力して同社の経営権を同社代表取締役会長F1(以下「F1会長」という)の一族から奪取すべく画策しており、他方、被告人両名らにおいてF1会長らの方針により密かに右買占めに対抗していわゆる防戦買いの挙に出たことがKの知るところとなり、Kと被告人Aとの間に確執が生じ、Kが同社の経営権を取得したときは被告人両名の右役職を直ちに解任されることが必至であったことから、被告人両名は、共謀の上、右地位を保全するため、政財界研究所代表S及びM政治経済研究所代表Mの両名に対し、Kの取引先金融機関等に融資を行わないよう圧力をかけ、あるいは同人及びその協力者を誹謗する文書を頒布してKの信用を失墜させ、同人に対する金融機関等による資金支援を妨げ、同人による株買占めを妨害し、さらには買占めにかかる株式を放出させるなど、同人による同社の経営権の取得を阻止するための種々の工作方を依頼し、その工作資金及び報酬等に同社の資金を流用しようと企て、別紙1のとおり、昭和六三年二月二日ころから同年四月一一日ころまでの間、前後六回にわたり、業務上保管中の同社の現金合計八億九五〇〇万円を、ほしいままに、右工作資金及び報酬等に充てるためにSらに交付して横領した、

    (二) 被告人両名は、被告人Aが昭和六三年五月一一日右職を解かれた後、さらに共謀の上、被告人Bの地位を保全し、被告人Aの同社取締役への復帰を図るべく、S及びMの両名に対し、前同様の工作方を依頼し、その工作資金及び報酬等に同社の資金を流用しようと企て、別紙2のとおり、同年七月一三日ころから同年一〇月一八日ころまでの間、前後三回にわたり、被告人Bが業務上保管中の同社の現金合計二億八〇〇〇万円を、ほしいままに、右工作資金及び報酬等に充てるためにSらに交付して横領した。

  二 原判決の無罪理由の骨子

  原判決は、「被告人両名が、買占めにより國際航業株約一七〇〇万株を保有しているKに対抗して、最終的には右約一七〇〇万株の株式を当時の國際航業の経営の体制側の支配下に置くために会社として買い取ることを企て、S及びMの両名に対し、Kの取引先金融機関等に融資を行わないよう圧力をかけ、あるいは同人及びその協力者を誹謗する文書を頒布してその信用を失墜させ、同人に対する金融機関等による資金支援を妨げ、同人による株買占めを妨害し、さらには買占めにかかる株式を放出させるなど、同人による同社の経営権の取得を阻止するための種々の工作を依頼し、このような裏工作の経費及び成功報酬を、一株当たり、前者を五〇円、後者を一〇〇円とし、これを含む株の買取り価格を一株当たり三五〇〇円と合意し、別紙1及び2のとおり、業務上保管中の國際航業の簿外資金を、右工作資金及び報酬等として、Sらに交付した」という争いのない事実を認めた上、被告人両名をはじめとする各関係者の、検察官の主張にほぼ沿う検察官調書と、これに反する被告人両名の公判廷における供述とを対比検討し、後者の信用性が高いと判断し、「國際航業においては、K問題に関する基本方針について検察官主張の長期持久戦の方針が確立されていたとは認められず、Kからの株買取り策が一貫した底流としてあったのであり、右の株買取り策へ向けた被告人両名の工作、さらに被告人両名の本件各金員の支出は、会社の方針に反するものであったとはいえないどころか、まさに委託者本人である國際航業の方針に沿ったものということができる。そして、別紙1の番号1及び2の各金員の支出については、そもそも被告人Aに支出の一般的権限があったと認められ、また、別紙1の番号3以降の各金員の支出については、F2社長の包括的承諾があり、被告人Aに具体的支出権限が与えられていたと認められるから、これらの支出に関し、同被告人に権限逸脱の領得行為はなかったということができる。被告人Aの指示に従った被告人Bについても同様のことがいえる。また、別紙1の各金員の支出は、被告人両名が専ら委託者本人である國際航業のために行ったものと認められるから、不法領得の意思を欠くという面からも、被告人両名に業務上横領罪の成立は認められない。別紙2の各金員の支出については、F2社長の明示の承諾はなく、被告人Bに支出権限があったとは認められないものの、同被告人が専ら委託者本人である國際航業のために行ったものと認められるから、同様に同被告人には不法領得の意思が欠けており、業務上横領罪の成立は認められない。占有者の身分を有する被告人Bに犯罪が成立しない以上、これに加功したとされる被告人Aに業務上横領罪の共同正犯が成立する余地はない(なお、被告人Aについても、専ら國際航業のためにする意思で各金員の支出に関与したものと認められる)」と結論付けて無罪の言渡しをした。

  所論は、原判決の右判断について、関係者らの検察官調書の信用性とも関連付けて逐一反論している。

  三 本件をめぐる事実の経過について

 所論の検討に先立ち、便宜必要な限度で関係証拠上明らかな本件をめぐる事実の経過の概要を摘記しておく。これらの事実は、原判決が詳細に認定するところであって、検察官、弁護人及び被告人も概ね争わないところである。

  ① 國際航業は、航空測量等を主な営業目的とする株式会社であり、その株式を、昭和三六年一〇月、東京証券取引所第二部に上場し、昭和六二年九月一日、同取引所第一部に上場した。同社の同年三月末現在の資本金は八〇億円余、発行済み株式総数は二八〇〇万株余であり、昭和六三年三月末現在の資本金は一六七億円余、発行済み株式総数は四〇〇〇万株余であった。

  ② 國際航業は、昭和六二年当時、代表取締役会長F1の下、F1の長男であるF2が代表取締役社長を、F1の娘婿であるC(以下「C専務」という)が専務取締役を務める同族支配の会社であった。そして、同社の営業、技術部門においては、代表取締役副社長営業本部長のT(以下「T副社長」という)が実権を握り、その下で、取締役技術営業副本部長Hが営業部門を掌握していた。また、総務部と経理部を合わせた同社の管理部門は、F2社長らF一族が実権を握っていたが、被告人Aが取締役経理部長として、F一族の信頼を得て管理部門を掌握し、被告人Bが経理部次長として被告人Aを補佐していた。そして、会社の簿外資金は、自社資金のほか、関連子会社から仮払金等として支出し、被告人両名がその管理を担当していた。國際航業では、当時、Hや被告人Aら若手幹部を中心とする層から、F2社長やC専務の経営者としての資質に疑問が呈され、他方、T副社長の専横に対しても批判が高まっていた。また、F一族の間においても、F1会長とF2社長の確執が表面化していた。

  ③ Kは、コーリン産業株式会社(その後、株式会社光進と商号変更)のオーナーであり代表取締役を務め、株式の買占めを行なったり、いわゆる仕手戦を仕掛けたりする人物として知られていた。Kは、國際航業株の買占めを企図し、昭和六二年六月中旬ころ、國際航業の関連会社であるウィング株式会社(以下「ウィング」という)の代表取締役Dを通じて、当時國際航業内におけるF一族による支配体制に不満を抱いていたHや被告人Aに接近し、D、H及び被告人Aと会談し、自らは國際航業株を買い集め、F一族に代わってHら三名が同社の経営権を掌握できるよう協力すると言明して、被告人Aらの協力を取り付けた。その後、Kは、同年七月中旬ころまでに、当時の同社の発行済み株式総数の約四二・五パーセントに当たる約一六〇〇万株を買い集め、Dの仲介により、同月下旬ころ、F2社長と会談し、同人を社長に留まらせることを条件に國際航業をKとF一族との共同経営とし、双方が折半して出資した新会社を設立してその会社に國際航業から借入れさせた資金で、K側が買い占めた國際航業株を買い取らせるという構想に合意させ、同年八月七日、KとF2社長との間で、その旨の共同経営に関する覚書が作成、調印された。

  ④ F2社長は、右覚書を実行に移すために、五〇〇億円の株買取り資金を銀行から調達するように被告人Aに指示し、同被告人において國際航業の取引銀行を回って協力を求めたが、いずれからもKとの共同経営構想に反対されて融資を断られた。このため、F2社長は、同年八月中旬ころ、Kとの覚書の実現を断念し、Kとの共同経営構想を反故にするとともに、自社株の防戦買いを行って、K側と対決することとなった。同社では被告人Aが中心となって防戦買いを行った結果、同年九月下旬ころまでに、当時の発行済み株式総数の約五一・二パーセントの株式を確保するに至った。このようなKによる買占め及び國際航業側による防戦買いの過程に乗じ、被告人Aは、H、D、Yらと國際航業株の売買をして多額の売却益を得た。これを申告しなかったのが被告人Aに対する所得税法違反被告事件の主要部分である。

  ⑤ Kは、同年八月下旬ころ、被告人Aに対し、会社側に立って防戦買いを行っていることを責めて脅迫し、また、F2社長に対しては前記覚書の実行を迫った。また、Dは、Kの代理人として、國際航業の役員にF2社長の覚書締結の事実を暴露し、同人の信用失墜を図り、F1会長を訪ねて覚書の実行を迫るなどした。これに対し、会社は、覚書はF2社長の独断によるものであるから会社には効力が及ばないと主張して対抗し、F1会長をはじめとして社内では、そのような行動に出たF2社長に対する非難が強まり、同年一〇月二〇日の取締役会で、F2社長に覚書締結の責任を取らせる形で同人を会社運営から事実上外し、F1会長が中心となり、T副社長がこれを補佐することが決定された。同社では、防戦買いによって取得した株式の処理等をめぐって月曜会議が開かれていたが、これ以降、F2社長を除いて新たなプロジェクトチームが発足して右の問題の処理に当たることになった。

  ⑥ 被告人Aは、同年九月三日ころ、HとDとの共同による國際航業株の売却益の分け前としてDから現金二億三〇〇〇万円を受け取った。同年一〇月一一日ころ、Dが被告人Aに、同被告人が管理する國際航業株二〇〇万株の譲渡を要求したが同被告人はこれを拒否した。同年一〇月末から一一月初めにかけて、T副社長と被告人AがDに会い、K側からの株の買取りを打診したところ、DはK側が保有する全株の買取りをほのめかしたが具体的話合いに入るまでには至らなかった。同年一一月以降、Dは、被告人Aに対して、K側から一株当たり三〇〇〇円で買い受けたものの代金が未払いとなっている國際航業株二三〇万株の代金六九億円の融資を申し入れ、被告人Aは、これに応じて、Dとの間で國際航業の関連会社からDの経営するD電工株式会社に六九億円を融資し、右二三〇万株を担保に取るという契約を結んだ。そして、同年一二月一一日六九億円を振込んだが、Kが株の引渡しを拒否したため、株の引取りは実現しなかった。その後、DはK側の保有する約一七〇〇万株について一株当たり三〇〇〇円プラス同社所有ビル二つという条件での買取りをF1会長に持ちかけ、F1会長の指示を受けて被告人Aがその交渉を担当したところ、K側からこの買取り資金の融資元として地産グループのオーナーを紹介されたため、被告人Aは、同人とKとの仲を警戒して、結局、この買取り話を断念した。Dは、同年一月二一日ころ、被告人Aと会い、自分がKの信頼を失ったことを伝えるとともに、被告人Aが管理する國際航業株二〇〇万株を渡さないと妻子に危害を加える旨脅迫したが、同被告人はこれを拒否した。

  ⑦ 昭和六三年一月上旬から下旬にかけて、F1会長は、被告人A及びT副社長に、F2社長が両名を辞めさせようとしていると伝えるとともに、取締役会等の席上で、F2社長を辞任させた上自らが社長職を兼務する意向を明らかにした。しかし、取引銀行がいずれもF2社長の辞任に難色を示したため、結局、役員懇談会において、F2社長を当分の間休養させ、同年六月の株主総会において正式に辞任させることとした。なお、F2社長は、同年二月五日ころ、被告人Aと会って、同被告人を辞任させると言ったという噂は事実無根のことであると釈明した。

  ⑧ 同年一月二七日ころ、被告人Aは、元住友銀行行員で、行員当時國際航業の得意先係をしていたEから、政財界に人脈を持ち、株式をめぐる裏工作のベテランであるとして、M政治経済研究所代表のM及び政財界研究所代表のSを紹介された。そして、被告人両名は、同月二九日ころ、MとSから、怪文書を流してKの信用を失墜させたり、政治家からKの取引銀行に圧力をかけさせて、Kを資金的に窮地に追い込み、同人に國際航業株を投げ出させる工作をしてこれを買い取るという計画を聞かされ、当面の活動費として三〇〇〇万円を要求された。被告人両名は、SにK側からの株買取りの裏工作を依頼することにし、國際航業の簿外資金から、別紙1の番号1及び2のとおり、Sらに対して、同年二月二日ころに一〇〇〇万円、同月八日ころに二〇〇〇万円を交付した。

  ⑨ 被告人両名は、同年二月八日ころ、M及びSとの間で、Sらの裏工作の経費及び成功報酬を、一株当たりそれぞれ五〇円及び一〇〇円とし、これを含むK側からの國際航業株の買取り価格を一株当たり三五〇〇円とすることで合意した。Sは、同月一五日ころ、被告人両名に活動費の名目で三億円を要求し、被告人両名からの依頼に沿う行動であるとして、KやDらを中傷する怪文書を作成して政界や金融機関等の各方面に配布したり、被告人両名を代議士の事務所に連れて行くなどした。そして、被告人両名は、同月一九日ころ、國際航業の簿外資金から、別紙1の番号3のとおり、Sらに現金三億円を交付した。

  ⑩ Dは、Kの信頼を失い、同年二月末限りで國際航業の株式問題から手を引き、これに代わって、GがKの代理人となった。被告人Aは、同年三月上旬ころ、Gから、前記③のようにいったんKに協力したことや、⑥のように被告人A、H及びD共同取引による多額の國際航業株の売却代金を受け取ったことを材料に脅迫され、再びK側へ協力するよう求められたがこれを断った。他方、このころからF1会長がGと接触するようになり、これが社内で明らかになったことからF1会長に対する不信感が生じた。國際航業では、同月末日までに防戦買いによって取得した株式の他社へのはめ込み作業を完了したが、この間、F1会長が右作業に消極的姿勢を示したためF2社長がこれに代わって他社を積極的に回ることとなり、F2社長は社内での地位を回復した。しかし、F2社長は覚書問題について新聞記者の取材に応じた記事が同月一〇日付けの新聞に出たため、F2社長に対する信頼は再び低下した。このように、國際航業においては、昭和六二年九月ころから、会社内において、会社としての方針を決定するに当たっての核となる人物が誰なのか不明確な状況が続いた。

  ⑪ 昭和六三年三月七日ころ、被告人両名は、Sらから、Kに協力している暴力団への工作資金として二億円を要求され、同月一〇日ころ、國際航業の簿外資金から、別紙1の番号4のとおり、Sらに現金二億円を交付した。その際、Sから、同人らの買取り工作を表に立って仕上げる弁護士としてP弁護士を紹介され、また、SらからF2社長に会わせるよう要求されたため、同月一八日、F2社長及びC専務をSらに引き合わせた。また、F2社長は、同月二三日ころ、右弁護士と國際航業との顧問契約を結んだ。

  ⑫ 同年三月一一日、新聞に、被告人AがK側と内通してF一族の追い落としを図ったという暴露記事が掲載され、また、同月一八日には、同被告人がK側から二億八五〇〇万円を受け取っている旨の暴露記事が出た。しかし、F2社長やC専務らは、この記事をK側が意図的に流したデマであると認識していた。被告人Aは、被告人Bに対して、Dから二億を超える現金を受け取った事実はあるが、これはDから押し付けられたのでやむなく受け取ったものである旨話して引き続き協力を求め、被告人Bもこれを了解した。

  ⑬ 同年四月初めころ、被告人両名は、前記⑩のとおりDに代わってK側に立って行動しているGを取り込むための工作資金として三億六五〇〇万円を要求され、別紙1の番号5及び6のとおり、國際航業の簿外資金から、Sに対して、同月六日ころ二億円、同月一一日ころ一億六五〇〇万円をそれぞれ交付した。なお、F2社長は、同月二三日ころ、Sの素性を調査してもらっていた政財界の裏情報に詳しいLに被告人Aを引き合わせたところ、Lは、被告人Aに対して、Sに前科があるので気を付けるように忠告した。

  ⑭ F1会長はGからの情報により被告人Aに対する不信感をつのらせ、同年四月二二日ころ、被告人Aに取締役の辞任を迫り、同日付けの辞表を提出させた。そして、同年五月一一日付けで辞任の登記をした。F2社長やC専務はこれに反発し、被告人Aに対して、当分の間、関連子会社の東洋リースに出社して、従来どおり株問題の処理に当たるよう指示した。同月一二日ころ、Gが國際航業の○○顧問弁護士の事務所に押しかけたため、被告人両名は、Sに対して、Gの牽制を依頼したところ、Gの事務所にSの意を受けた暴力団が押しかけた。Gがこれに怒り、同月中旬ころ、暴力団員風の男を連れて被告人Aの自宅を訪れ、同被告人を脅迫した。

  ⑮ 同年五月一二日から同月一八日にかけて、國際航業の社内で、同社の裏金を捻出している興亜開発等の子会社からSらに合計五億円が出金となったまま回収されていないことが明るみに出て、被告人Bは、N総務部長や○○弁護士から追及された。また、被告人Aも、F2社長からこの支出について確認を求められ、株取引の際に清算される旨答えているが、特段に責任を追及されることはなかった。同月三〇日ころ、Eから被告人両名に、株式会社イトマンのルートによるK側からの買取り話が持ちかけられたが、C専務が消極的であったためこの話は流れた。同年六月二三日ころ、被告人Bは、C専務の指示により、Mにこれ以上動かないように頼んだが、同人からこれを拒否された。

  ⑯ 同年五月中旬ころ、F1会長は、Kとの間で、K側が役員一人を入れる予定で自己の支配する國際航業株の議決権をKに委任することに合意した。F1会長は、同月二七日の取締役会で、被告人Aの後任の経理部長として監査室長のRを推薦して了承を得たものの、Gを取締役に推薦したところ他の役員の反対にあって、この案を撤回した。F1会長は、同年六月一七日ころ、自己が支配する國際航業株をK側に譲渡し、委任状を同人に交付した。これによって、同月二九日開催予定の株主総会においてK側が同社の経営権を掌握することが必至となったが、F2社長は、K側の議決権行使停止の仮処分を申請し、同月二八日、この申請が認められた。この結果、翌二九日の株主総会はF2社長のペースで進行し、その直後の取締役会でF1会長の代表権が剥奪された。F2社長は、同年七月一日、被告人Aを東洋リースの代表取締役就任予定に発令した。

  ⑰ 同年七月五日ころ、Gが再び被告人Aの自宅を訪れ、同被告人を脅迫するとともに、Sと手を切りF2社長に協力しないよう要求した。そのころ、被告人両名は、株主総会後初めてSを訪ね、株主総会の模様を報告する一方、Gによる脅迫の件をSに相談した。そして、同月一一日ころ、被告人両名は、Sから、地産ルートでの工作資金と称して一億三〇〇〇万円を要求され、同月一三日ころ、國際航業の簿外資金から、別紙2の番号1のとおり、同人に現金一億三〇〇〇万円を交付した。

  ⑱ 被告人Aは、同年八月五日、本件の過程での國際航業株の売買益についての所得税法違反の嫌疑により、当局の査察を受けたことから、同月八日ころ、F2社長らにそれまでのインサイダー取引やDからの金員の受領の事実を打ち明け、國際航業の関連会社の役職もすべて辞任した。

  ⑲ Sは、同年四月ころから、いわゆるサラ金業者の株式会社武富士(以下「武富士」という)と接触し、武富士ルートによるK側からの國際航業株の買取り工作を積極的に進めようとした。それに対し、Mはその動きを被告人両名に伝え、武富士を下ろすための工作資金として一億五〇〇〇万円を要求した。被告人両名は、Sに対し、國際航業で株を買い取れるようにして欲しい旨依頼したが、Sは、被告人両名の希望に反して武富士に買い取らせる意向を示し、被告人両名に武富士の会長を紹介するなどした。被告人両名は、買取り工作から武富士を下ろしてもらいたいとの気持から、別紙2の番号2及び3のとおり、國際航業の簿外資金から、Sらに対して、同年一〇月五日ころ五〇〇〇万円、同月一八日ころ一億円をそれぞれ交付した。この間の同年九月二一日ころと一〇月六日ころ、被告人Aは、F2社長に簿外資金の交付を除く武富士ルートの工作について説明した。

  ⑳ F2社長やT副社長はそれぞれ独自のルートでK側からの國際航業株の買取りを試み、F2社長が会社の裏金八〇〇〇万円を、T副社長が同じく一億円を使ったが、同年一〇月下旬ころまでにすべて失敗に終わった。K側は、臨時株主総会招集を請求し、同年一一月二日に東京地方裁判所の許可を得て同年一二月一〇日開催された臨時株主総会において勝利を収め、同社の経営権を掌握した。なお、被告人Bは、同月二〇日付けで同社財務部次長となり、平成二年六月に本件で逮捕されるまでその地位にあった。

横領と不法領得の意思 東京地裁平成6年

刑法判例百選Ⅱ 第7版 66事件の地裁判決 所得税法違反、業務上横領被告事件

東京地方裁判所判決/平成2年(特わ)第1142号、平成2年(刑わ)第1422号、平成2年(刑わ)第1696号

平成6年6月7日

 

【判示事項】 会社の取締役経理部長等が合計一〇億円を超える裏工作資金を支出した行為が業務上横領罪に当たらないとされた事例

 

【参照条文】 刑法252

       刑法253

 

【掲載誌】  判例タイムズ868号122頁

       判例時報1536号122頁

 

       主   文

 

  一 被告人甲を懲役二年及び罰金七○○○万円に処する。

  未決拘留日数中六○日を右懲役刑に算入する。

  右罰金を完納することができないときは、金四○万円を一日に換算した期間右被告人を労役場に留置する。

  この裁判が確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

  右被告人に対する本件公訴事実中、業務上横領の点は、いずれも無罪。

  訴訟費用中、証人Aに支給した分の二分の一は、右被告人の負担とする。

  二 被告人乙は無罪。

 

        理   由

 

 第一部 被告人甲に対する所得税法違反被告事件

  (罪となるべき事実)

  被告人甲(以下、第一部においては、単に「被告人」と表示する)は、千葉県柏市永楽台〈番地略〉に居住し、営利の目的で継続的に有価証券を売買していたものであるが、自己の所得税を免れようと考え、有価証券売買を他人名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六二年分の実際総所得金額が六億一一六一万五七九八円であった(別紙1の修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六三年三月一五日、同市あけぼの二丁目一番三○号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が一一三五万六九九六円で、これに対する所得税額は、既に源泉徴収された税額を控除すると、五六万八六○○円の還付を受けることとなるという虚偽の内容の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を経過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三億五六○○万一三○○円と右の還付税額との合計額三億五六五六万九九○○円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた。

  (証拠の標目)〈省略〉

  (法令の適用)

  一 罰条 所得税法二三八条一項(罰金刑の寡額については、刑法六条、一○条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)。

  二 刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科。

  三 未決拘留日数の算入 刑法二一条。

  四 労役場拘留 刑法一八条。

  五 懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項。

  六 訴訟費用の一部負担 刑事訴訟法一八一条一項本文。

  (量刑の理由)

  本件は、株式会社國際航業の取締役経理部長であった被告人が、株式の売買をするに当たり、他人の名義を用い、特に自杜株についてはXの買占めにより確実に値上りするという情報を入手して継続的に大量の取引を行い、他の株式取引と合わせた有価証券売買益やリベート収入等の雑収入の合計だけでも五億円近い利益をあげながら、これを全く申告せず、所得税の還付請求までして、三億五六○○万円余りの所得税を脱税したという事案である一なお、弁護人は、いわゆる「甲・B・C財テク取引」、「甲・B・C共同取引」、「甲・B・D共同取引」及び「甲・C共同取引」にかかる各所得は、いずれも被告人が他の者と共同取引をして得た有価証券売買益ではなく、雑収入たる謝礼金である旨主張するが、関係各証拠を総合すると、右各取引によって同被告人が得た所得には、いわゆるX問題が絡んでおり複合的な意味合いがあるとはいえ、その法的性質は検察官主張のとおり有価証券株式売買益であると認めるのが相当であり、弁護人の主張は採用できない一。本件のほ脱税額は単年度としては右のように高額であり、そのほ脱率も約九九・四パーセントと極めて高率である。また、被告人は、税理士資格を有し違法性の意識を充分持ち得たにもかかわらず本件犯行を敢行した上、査察後に他人に申告させようとするなどの犯行隠蔽の工作までしているのである。これらの事情にかんがみると、被告人は懲役刑について実刑を免れがたいとも考えられる。

  しかし、ほ脱所得の大部分を占めるDから分配を受けた「甲・B・D共同取引」による株式売買益並びにCから分配を受けた「甲・B・C財テク取引」及び「甲・B・C共同取引」による株式売買益についは、被告人はいったんはこれらの者に返還を申し出たが断わられたため、これらの金員を有価証券の形に変えたものの、X側に属するD、Bらとは敵対関係になったことからその返還を迫られるなどの事態もありうると考え、その有価証券を貸金庫に保管し何時でも返還できる状態にしておいたものと認められる。したがって、これらの株式売買益も被告人の所得に帰属したとはいえるが、その帰属性には不安定要素が伴っており、この所得については、被告人が納税する気にならなかったのも若干無理からぬ面があると思われる。さらに、右の所得の形成過程についも、前者は、当時XやDと袂を分って國際航業において防戦買いを推し進めていた被告人を懐柔するための資金という性格を帯びていたことが明らかであり(甲・B・D共同取引とはいうものの、その資金の大半は、Xからの援助を仰いだものであり、それにもかかわらず、売買益の三分の一が被告人に交付されている一、後者も、CがXと内通したBの直属の部下であり、その分配の時期が前者のそれと相前後することからすれば、同様の性質を持っていたのではないかとの疑いを否定できない。このように、本件所得の大部分を占める収入が、その受領時点では被告人にとって必ずしも望ましいものではなくなっていたのであり、これらを受領した点に落ち度があるとはいえ、被告人は、後にこの受領の事実を種にして、X側の代理人のEに脅迫されたり、内外タイムスに暴露記事を掲載されるなどの追及を受けていることが明らかである。このような事情も、被告人のため有利に糾酌し得なくはないと考えられる。

  そして、被告人は、本件の起訴前に国税局の指導に従って修正申告をし、既に本税と延滞税を完納し、重加算税についても、国税局に差し押さえられている不動産によりかなりの納付が見込める上、被告人自ら納税に努力しており、本件に対する反省の態度も明らかである。また、被告人には前科前歴がなく、これまで國際航業の取締役経理部長として同社の発展に多大の貢献をしてきたものであり、特に、X問題については、当初一時Xに心を寄せかものの、その後は國際航業のために懸命になってX側と対峙し、その攻勢をしのいできたものであるところ、本件により相当期間身栢を拘束された上、本件の発覚を端緒として、業務上横領による訴追を受けるに至り、同社の関連会社の取締役等の地位を追われるなど、既に相当の社会的制裁を受けている。

  右のような被告人のために酌むべき諸事情を考慮すると、前記のようなほ脱税額の大きさ等の本件の犯情にもかかわらず、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当と思料される。そこで、その他一切の情状を総合して、主文の懲役刑(執行猶予付き)と罰金刑を併科することとした次第である。

 第二部 被告人両名に対する業務上横領被告事件

  一 本件公訴事実の要旨

  被告人甲は、昭和五九年六月二九日から昭和六三年五月一一日までの間國際航業株式会社一以下「國際航業」という一の取締役経理部長として、被告人乙は、昭和六○年四月一日から昭和六三年一二月一六目までの間同社の経理蔀次長として、いずれも同社の資金の調達運用、金銭の出納保管等の業務に従事していたものである。

   1 一平成二年七月一一一五日付け起訴状の公訴事実一

  被告人甲がさきに同社の株式を買い占めていたXに協力して同社の経営権を同社代表取締役会長F1の一族から奪取すべく画策しており、他方、被告人両名がF1会長らの方針によりひそかに買占めに対抗していわゆる防戦買いの挙に出たことがXの知るところとなり、Xと被告人甲との間に確執が生じ、Xが同社の経営権を取得したときは被告人両名が役職を直ちに解任さわることが必至であったことから、被告人両名は、共謀の上、右地位を保全するため、政財界研究所代表G及びH政治経済研究所代表Hの両名に対して、Xの取引先金融機関等に融資を行わないよう圧力をかけ、あるいは同人及びその協力者を誹誇する文書を頒布してXの信用を失墜させ、同人に対する金融機関等による資金支援を妨げ、同人による買占めを妨害し、更には買占めに係る株式を放出させるなど、同人による同社の経営権の取得を阻止するための種々の工作を依頼し、その工作資金及び報酬等に同社の資金を流用しようと企て、別紙3記載のとおり、前後六回にわたり、H政治経済研究所ほか二一か所において、業務上保管中の同社の現金合計八億九五○○万円を、ほしいままに右工作資金及び報酬等に充てるためにGらに交付して横領した。

   2 一平成二年九月一一日付け起訴状の公訴事実一

  被告人両名は、被告人甲の取締役解任後、更に共謀の上、被告人乙の地位を保全し、被告人甲の同社取締役への復帰を図るべく、G及びHに対し、引き続きXによる同社の経営権の取得を阻止するため、前と同様の工作を依頼し、その工作資金及び報酬等に同社の資金を流用しようと企て、別紙4記載のとおり、前後三向にわたり、ホテルグランドパレスほか一か所において、被告人乙が業務上保管中の同社の現金合計二億八○○○万円を、ほしいままに右工作資金及び報酬等に充てるためにGらに交付して横領した。

  二 本件の争点

   1 検察官は、公訴事実を敷街して、冒頭陳述及び論告において、以下のように主張する。

    (一) 被告人甲は、当初Xに協力して、F2社長らF一族から國際航業の経営権を奪取しようとしながら、その後変心して、X側とF一族の側に二股を掛け、自社株の防戦買いを実行したのであり、F一族側とX側に対する二重の裏切り行為をしていた。

    (二) 被告人甲は、X側が國際航業の発行済み株式の過半数を買い集めて経営権を握った場合には、X側に対する裏切りのために役職を直ちに解任されることが必至であった上、F一族側に対しても、当初のX側に対する内通の事実を隠蔽するため、X側から早期にその保有する國際航業株を買い取って、株式問題を解決する必要があった。

    (三) 國際航業の経営陣としては、X側に自社株を買い占められた昭和六二年九月から昭和六三年六月当時、自社の発行済み株式の過半数を制していたのであるから、X側からの株式の高値買取り要求には一切応じず、X側と株主総会で全面的に対決し、X側が金利負担等で疲弊するのを待ち、安値で投げ売りして来るのをじっくり待つという長期持久戦の方針が、唯一の合理的解決方法であり、実際そのような方針が決定された。

   (四) 被告人甲は、取締役在任中は、前記(ニ)のように、自己の地位を保全するには、X側から早期に國際航業株を買い取る必要があったため、会社の長期持久戦の方針に反して、独断でその株を買い取るための工作をGらに依頼し、別紙3記載のとおり、國際航業の簿外資金から支出を続けた。

    (五) 被告人乙も、被告人甲の腹心の部下であり、同被告人と一心同体であったことから、同被告人が解任されると自己の地位が危うくなる恐れがあったところ、特に、被告人甲から同被告人がDから現金を受け取った事実を知らされてからは、同被告人がX側に内通しており、自己保身のためにX側からあえて株式を買い取ろうとしていることを確定的に認識した上で、専ら自己の地位を保全するため、同被告人が前記(四)のとおり支出するのに加担した。

    (六) 被告人甲は、取締役解任後もなお取締役復帰の願望を有しており、他方、F2社長に前記(一)の内通の事実を知られると、民事、刑事の責任を追及される恐れがあったことから、これを免れるため、引き続き独断でX側から國際航業株を買い取ろうと企て、そのための工作をGらに依頼した。

    (七) 被告人乙も、被告人甲が國際航業の取締役に復帰することを望むとともに、同被告人が責任を追及されると、自己の地位が危うくなる恐れがあったことから、自己保身の動機も加わり、同被告人と共に、前記(六)のとおリ工作をGらに依頼し、別紙4記載のとおり、國際航業の簿外資からの支出を続けた。

   2 これに対し、被告人甲の弁護人は、以下のとおり主張する。

  (1) 本件当時の國際航業にそもそも長期持久戦なる方針はなく、被告人甲らが本件金員を交付したのは、X側から國際航業株を買い取るという会社の方針に沿ったものである。

  (2) 被告人甲は、当時國際航業の経理部長として、表裏を問わず、金員の最終的支出権限を有していたから、本件各金員のうち別紙3記載の分の支出については、右の権限に基づくものであり、権限逸脱行為には当たらない。

  (3) 被告人甲は、本件各金員のうち別紙3記載の分の支出については、一般的権限がなかったとしても、F2社長の承諾を得ていたから、具体的権限を与えられており、権限逸脱行為はなかった。

  (4) 本件各金員は、被告人甲の保身等の個人的目的を図ることではなく、専ら委託者本人である國際航業のために行ったことであるから、同被告人には横領罪の成立要件である不法領得の意思がなかった。

   3 被告人乙の弁護人も、被告人甲の弁護人とほぼ同様の主張をするほか、被告人乙は、被告人甲の内通の事実や主観的意図を知らず、本件各金員の支出についても、同被告人がF2社長の承諾を得ていると思っていたので、不法領得の意思がなかったと主張する。

   4 被告人両名が合計八回にわたって別紙3及び別紙4記載の合計一一億七五○○万円の本件各金員を公訴事実記載のような工作資金等としてGらに交付したことは、被告人・弁護人も争わないところであり、また、被告人両名とG・Hの間にはX側に対する工作を依頼したという以外には特別の関係はなく、被告人両名がGらから本件金員の交付に関連して経済的利益を得たということもなく、被告人両名は本件各金員を一銭も自らの懐に人れていないといっても過言でないことは、検察官の主張するところをみても明白である。このような本件においては、弁護人が指摘するように、本件各金員の支出は、被告人両名にその権限があったと認められるのであれば、被告人甲らの主観的意図を間うまでもなく、権限逸脱には当たらないことになるし、その権限がなくても、本件各金員の支出が國際航業の方針に沿ったものであったとみうるのであれば、専ら委託者本人のためにこれを行ったという推定が働くから、被告人両名には不法領得の意思がないということになり、業務上横領罪の成立が否定されることになる(横領罪において、一般に、占有者が領得行為をもっぱら委託者本人のためにする意図でしかときには、不法領得の意思は認められないと解されることにつき、大審院判決大正一五年四月二○日・刑集五巻一三五頁、最高裁判決昭和二八年一二月二五日・刑集七巻一三号二七二一頁等参照)。

  本件においては、関連する諸々の事実経過が存するところであるが、斗形的事実については、検察官及び弁護人、被告人らにおいてほぼ争いがなく、主どしてこれらの事実の意味づけや被告人両名をはじめとする関係者の意図等が争われている。そこで、以下、まず本件当時の國際航業の状況、いわゆるX問題に関する同社の対応ないしは方針等、本件をめぐる事実の経過を認定した上で、被土白人両名の本件支出についての一般的及び具体的権限の有無、本件各金員の支出と國際航業の方針との関係、被告人両名の不法領得の意思の有無を判断していくこととする。なお、被告人甲が國際航業の取締役の地位を失って以降の別紙4記載の各支出に関しては、被告人乙のみが金員保管者としての身分を有していたので、同被告人を中心に支出権限及び不法領得の意思の有無を検討する。

  なお、以下の説明においては、被告人や証人の公判廷での供述と公判調書中の供述部分を区別せずに「公判一での一供述」あるいは「一公判での一証言」などと表記する。

  三 本件をめぐる事実の経過

  以下の事実は、関係証拠上明らかであり、かつ、検察官及び弁護人、被告人らにも概ね争いのないところである。

  (1) 國際航業は、航空測量等を主な営業目的とする株式会社であり、航空測量業界において第一位の売上高を占めていた。同社は、昭和三六年一○月その株式を東京証券取引所第二部市場に上場し、昭和六二年九月一日、その株式を同取引所第一部市場に上場した。同社の同年三月末現在の資本金は八○億六八四五万九○○○円、発行済み株式総数は二八三七万○一一七株であり、昭和六三年三月末現在の資本金は一六七億八五四六万六○○○円、発行済み株式総数は四○一○万六九二九株であった。

  (2) 國際航業は、昭和六二年当時、F1が代表取締役会長、同人の長男であるF2が代表取締役社長、F1会長の娘婿のIが専務取締役を占める典型的な同族会社であった。同社の営業、技術部門においては、代表取締役副社長営業本部長のJが実権を握り、その下で、取締役技術営業副本部長のBが営業部門を掌握していた。これに対し、経理部と総務部を合せた同社の管理部門は、F2らF一族が実権を握っていたが、被告人甲が取締役経理部長として、F一族の信頼を得て経理部を掌握し、被告人乙が経理部次長として被告人甲を補佐していた。同社においては、営業資金等に充てるため、簿外資金を恒常的に留保していたが、その原資は、自社資金のほか、同社の金融部門を担当する東洋リース株式会社〒専務が代表取締役で、被告人甲が取締役を務めていた。以下「東洋リース」という一や興亜開発株式会社一以下「興亜開発」という一等の子会社から仮払金等として支出しており、被告人両名がその管理を担当していた。國際航業では、当時、Bや被告人甲ら若手幹部を中心とする層から、F2やI専務の経営者としての資質に疑問が呈される一方、J副社長の専横に対しても批判が高まっていた。加えて、F一族の中においても、F1会長とF2社長との確執が表面化していた。

  (3) Xは、コーリン産業株式会社一その後商号を株式会社光進と変更し、現在に至る。以下「光進」という一の代表取締役かつオーナーであり、蛇の目ミシン工業株式会社一以下「蛇の目ミシン」という)の株式を大量に取得するなど、株式の買占めを行ったり、いわゆる仕手戦を手掛けたりする人物として知られていた。Xは、國際航業株の買占めを企図し、昭和六二年六月中旬ころ、同社の関連会社であったウィング株式会社一以下「ウィング」という一代表取締役のDを通じてBに接近し、更に同月二五日ころ、料亭「一条」において、D、B、被告人甲と会談し、自らは國際航業株を買い集め、F一族に代わってBら三名が同社の経営権を掌握できるよう協力すると言明し、被告人甲らの協力を取り付けた。その後、Xは、光進等の名義で同年中旬ころまでに同社の発行済み株式総数の約四二・五パーセントに当たる約一六○○万株を買い集めた。同月下旬ころ、XはF2社長と会談し、同人を社長に留まらせることを条件に、同社をXとF一族との共同経営とし、双方が折半して出資した新会社を設立し、同社に國際航業から借り入れさせた資金で、X側が買い占めた國際航業株を買い取らせるという構想に合意させ、同年八月七日、F2社長との間でその旨の共同経営に関する覚書を作成・調印した。

  (4) F2社長は、覚書を実行に移すために、五○○億円の株買取り資金を銀行から調達するよう被告人甲に指示し、同被告人が國際航業の取引銀行を回って協力を求めたが、いずれからもXとの共同経営構想に反対されて融資を断わられた。このため、F2社長は、同年八月中旬ころ、Xとの覚書の実現を断念し、これを反古にするとともに、自社株の防戦買いを行って、X側と対決することとした。同社では被告人甲が中心となって同株の防戦買いを行った結果、同年九月下旬ころまでに発行済み株式総数の約五一・二パーセントの株式を確保するに至った。

  (5) Xは、同年八月下旬ころ、被告人甲に対し、会社側に立って防戦買いを行っていることを責めて脅迫する一方、F2社長に対しては覚書の実行を迫った。また、Dは、Xの代理人として、國際航業の役員にF2社長の覚書締結の事実を暴露し、同人の信用失墜を図る一方、F1会長を訪れるなどして、覚書の実行を迫った。これに対し、同社側では、覚書はF2社長個人が取り交わしたもので、会社には効力が及ばないと主張したが、このころ、F1会長は独断で覚書を締結したF2社長に激怒し、同社の役員の間でF2社長を非難する声が強まった。このため、同年一○月二○日の取締役会で、F2社長に覚書締結の責缶を取らせる形で、事実上社長職から外し、今後はF1会長が中心となり、J副社長がこれを補佐することが決定された。同社においては、防戦買いによって取得した株式の処理等をめぐって、「月曜会議」が開かれていたが、これ以降、F2社長を除いて新たにプロジェクトチームが発足し、右の問題の処理に当たることとなった。

  (6) 被告人甲は、同年九月三日ころ、BとDとの共同による國際航業株売買一甲・B・D共同取引一の売却益の分け前として、Dから現金約二億三○○○万円を受け取った。同年一○月一一日ころ、Dが被告人甲にその管理する國際航業株二○○万株の譲渡を要求したが、同被告人はこれを拒否した。同月末から同年一一月初めにかけて、J副社長と被告人甲がDに会い、X側からの株の買取りを打診したところ、DはX側が保有する全株の買取りをほのめかしたが、具体的話合いに入ることなく終わった。同年一一月以降、Dは被告人甲に、X側から一株当たり三○○○円で買い受けたものの代金が未払いとなっている國際航業株二三○万株の売買代金六九億円の融資を申し入れ、被告人甲は、これに応じて、國際航業の関連会社である株式会社エス・エス・ケイがDの経営するD電工株式会社に六九億円を融資し、國際航業株二三○万株を譲渡担保に取るという契約をDとの間で締結し、同年一二月一一日、六九億円をD電工の銀行口座に振り込んだが、Xが株の引渡しを拒否したため、株買取りは実現しなかった。同月二三日ころから、Dは、しきりにX側の保有する同株一七○○万株の買取りをF1会長に持ちかけ、同社においても、一株当たり三○○○円プラス同社所有のスカイビル譲渡という条件での買取りを検討し、被告人甲がその買取り交渉の担当者となった。しかし、被告人甲は、X側からこの買取り資金の融資元として地産グループのオーナーのKを紹介されたため、K会長とXの伸を警戒してその実行を断念した。

  (7) F2社長は、昭和六三年一月上旬、國際航業の社長職を事実上外されたことの不満を出張先で幹部に漏らしたが、これがF1会長の耳に入り、同人は、J副社長と被告人甲に、F2社長が両名を辞めさせようとしていると伝えるとともに、同月二一日ころ、F2社長に辞任勧告を突き付けた。同月下旬から同年二月上旬にかけて、F1会長は、取締役会等の席上、F2社長を辞任させた上自らが社長職を兼務する意向を明らかにしたが、取引銀行がいずれもF2社長の辞任に難色を示したため、結局、役員懇談会において、F2社長を当分の間休養させ、同年六月の株主総会において正式に辞任させることとした。これに対し、F2社長は、同年二月五日ころ、被告人甲と会って、同被告人を辞任させるという噂は事実無根であると釈明した。

  (8) Dは、同年一月二一日ころ、被告人甲と会い、自分がXの信頼を失ったことを伝えるとともに、被告人甲の管理する國際航業株二○○万株を渡さないと妻子に危害を加えると脅したが、同被告人は、これを拒否した。被告人甲は、同月二七日ころ、元住友銀行行員で國際航業の得意先係をしていたF1から、政財界に人脈を持ち株式をめぐる裏工作のべテランとして、H政治経済研究所代表のH及び政財界研究所代表のGを紹介された。被告人両名は、同月二九日ころ、HとGから、怪文書を流してXの信用を失墜させたり、政治家からXの取引銀行に圧力をかけさせて、同人を資金的に窮地に追い込み、同人に國際航業株を投げ出させる工作をしてこれを買い取るという計画を聞かされ、当面の活動費として三○○○万円を要求された。被告人両名は、GらにX側からの同株買取りの裏工作を依頼することとし、同社の簿外資金から、別紙3の1及び2記載のとおり、Gらに同年二月二日ころ一○○○万円、同月八日ころ二○○○万円を交付した。

  (9) 被告人両名は、同年二月八日ころ、HとGとの間で、Gらの裏工作の経費及び成功報酬を、一株当たりそれぞれ五○円及び一○○円とし、これを含むX側からの國際航業株の買取り価格を一株当たり三五○○円とすることで合意に達した。Gは、同月一五日ころ、被告人両名に活動費として三億円を要求する一方、XやDらを中傷する怪文書を作成して政界や金融機関等の各方面に配布したり、被告人両名を代議士の事務所に連れて行くなどした。そして、被告人両名は、同月一九日ころ、同社の簿外資金から、別紙3の3記載のとおり、Gらに現金三億円を交付した。

  (10) Dは、Xの信頼を失って、同年二月末限りで國際航業の株式問題から手を引き、これに代わって、E一以下「E」という)がXの代理人となった。被告人甲は、同年三月上旬ころ、Eから、(3)のとおりいったんX側に協力したことや、(6)のとおりDから多額の現金を受け取ったことを材料に脅迫され、X側への協力を求められたが、これを断わった。他方、このころから、F1会長がEと接触するようになり、これが社内で明らかとなったため、F1会長に対する不信感が生じた。同社では、同月末までに、防戦買いによって買い集めた自社株の他社へのはめ込みを完了したが、この間、F1会長がはめ込み工作に消極的姿勢を示したため、F2社長がこれに代わって他社を積極的に回ることとなり、休職状態を脱して事実上社長職に復帰した。しかし、F2社長が覚書問題について新聞記者の取材に応じた記事が、同月一○日付けの朝日新聞夕刊に出たため、F2社長に対する社内及び社外の信頼は再び低下した。

  (11) 同年三月七日ころ、被告人両名は、GらからXに協力している暴力団への工作資金として二億円を要求され、同月一○日ころ、國際航業の簿外資金から、別紙3の4記載のとおり、Gに現金二億円を交付したが、その際、Gから同人らの買取り工作を表に立って仕上げる弁護士としてM弁護士を紹介された。このころ、被告人両名は、GらからF2社長に会わせるよう要求されたため、F2社長とI専務の了解を得て、同月一八日、両名をGとHに引き合わせた。さらに、同月二三日ころ、F2社長は、M弁護士と同社の顧間契約を結んだ。

  (12) 同年三月一一日、内外タイムスに、被告人甲がX側と内通してF一族の追い落としを図ったという暴露記事が出たのに続き、同月一八目には、同被告人がX側から二億八五○○万円を受け取ったという暴露記事が出た。しかし、F2社長やI専務らは、これによって被告人甲に対する信頼を揺るがせることなく、これらの記事は、Xが國際航業の切り崩しのために意図的に流したデマであると認識していた。一方、被告人甲は、そのころ被告人乙に、Dから現金二億三五○○万円を受け取った事実はあるが、これは、Dから押しつけられたのでやむなく受け取ったものであると告げて、引き続き協力を求め、被告人乙もこれを了解した。

ラジオタイランド 日本語 2020年4月29日 水 2200~2215JST

9390kHz 53443 ICOM IC756PRO3 25mH DP

岡山県岡山市 

 

2200 ニュース

タイ中央銀行が総額242億バーツにのぼるソフトローンを開始した。

 

750万人が5000バーツの現金給付をうけていうる。

 

バンコク大量輸送公社が移動条件が緩和されたあとバスの運行本数を増やす方針。現在通常時の70パーセントを90パーセントに。

 

農民たちが灌漑作業に動員されている。28623人が応募。8万人以上を雇う。

 

2208 ニュース展望

非常事態前言の発令期間を遠投 5月31日まで

 

宮井よしあき

森脇勝裁判長名判決 納税告知に関する東京高裁平成15年

租税訴訟資料にのみ掲載 所得税の各納税告知処分及び各賦課決定処分等取消請求控訴事件

東京高等裁判所/平成14年(行コ)第189号

平成15年1月30日

 

【判示事項】 控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が所得税の源泉徴収及び納付をしなかったとして,納税告知及び不納付加算税の賦課決定をしたことに対し,被控訴人が同納税告知および同加算税の賦課処分の取消を求めたのに対し,原審は,被控訴人の取消を求める範囲の一部について訴えを却下した上で,被控訴人が招聘外国人に支払った報酬に係る源泉徴収税について納税告知及び不納付加算税の賦課処分については適法としたが,当該部分に係る納税告知及び不納付加算税の賦課処分の部分を取消した事案で,控訴審は,控訴人の当審での主張を勘案しても,被控訴人の請求は原判決認容の限度で理由があるから,原判決は相当であり,本件本件控訴を棄却した事例

 

【判決要旨】 (1) 納税告知は、既に発生した納税義務につき納期限を指定してその履行を請求する徴収処分であり、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、確定した税額についての課税庁の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため、抗告訴訟で争うことができると解される。

 

       (2) 国税通則法36条2項及び同法施行令43条、同法施行規則5条1項の規定から、同法は、同一の法定納期限の複数の源泉所得税の納税義務が法定納期限までに履行されなかった場合、納税義務を「納付すべき税額」、「納期限」及び「所得の種類」で限定した上、「年月分」(法定納期限)を同じくするものを一括して1個の納税告知を行い、それ以外の納税義務についての納税告知との範囲を画していると解される。

 

       (3)~(5) 省略

 

【掲載誌】  税務訴訟資料253号順号9272

       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 控訴の趣旨

 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 第2 事案の概要

  本件は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が所得税の源泉徴収及び納付(所得税法212条1項)をしなかったとして,平成9年11月26日付けで納税告知及び不納付加算税の賦課決定をしたことに対し,被控訴人が,同納税告知及び同加算税の賦課処分の取消しを求めた事案であり,原審は,被控訴人の取消しを求める範囲の一部について訴えを却下した上で,被控訴人が招へい外国人に支払った報酬に係る源泉所得税についての納税告知及び不納付加算税の賦課処分の部分についてはこれを適法としたが,被控訴人が,フィリピン共和国のバービートール(「BAL BIRS TOOR」)というプロダクション及びインドネシア共和国のアリーナセル・アスリー(「ALI NASSER ASRY」)というプロダクション(以下,両者を併せて「本件プロダクション」という。)に対して支払った手数料等は,源泉徴収の対象とならないとして,当該部分に係る納税告知及びその不納付加算税の賦課処分の部分を取り消した。これに対して控訴人のみが控訴したものである。したがって,当審における主たる争点は,被控訴人が本件プロダクションに対して支払った手数料等が所得税法161条2号,同法施行令282条1号の定める「国内において芸能人の役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価」に該当するか否かである。

  事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

 1 原判決4頁24行目及び同12頁20行目から21行目にかけての「本件プロダクションに支払った航空券代金及びコスチューム代金」をそれぞれ「本件プロダクションに支払った本件手数料等のうち航空券代金及びコスチューム代金等に係る部分」と改める。

 2 同11頁8行目の「それにより紹介する者の中から」を「それによって紹介される者の中から」と改める。

 (控訴人の当審における主張)

  所得税法161条2号の「人的役務の提供に係る対価」は,同法施行令282条に掲げる職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を行ったことによる対価であれば足りると解されるべきである。すなわち,本件でいえば,原判決が認定したごとく,「被控訴人は,外国人である芸能人を日本国内においてホステスとして勤務させる旨の雇用契約を締結し,同外国人も本件出演店にホステスとして派遣されることを承知しており,実際にホステスとして勤務していたから,本件プロダクションは,招へい外国人を出国させる目的が芸能活動を行わせることになかった」と認められる場合であっても,以下の観点にかんがみると,本件手数料等が,国内源泉所得に該当するものと解すべきである。

 (1)理論的正当性

  外国法人に対する「人的役務の提供に係る対価」が源泉徴収義務の対象となる趣旨が,領土内所得課税主義に基づくものであることからすると,わが国における当該外国人の活動内容によって,外国法人に対する源泉徴収義務の内容に差異を設けるべき理論的必然性はない。そして,所得税法161条2項が「人的役務の提供に係る対価」の支払時期を問題にしていないことからすると,外国プロダクションが招へい外国人の芸能活動に対する対価を前もって支払う場合が考えられるが,そのような場合,招へい外国人が本邦内に入国後どのような活動を行うかは同人次第であるため,厳密な意味で芸能活動に対する対価の部分を特定することは困難である一方,芸能活動を行うための資格である「興業」の在留資格なくして本邦内での活動は不可能であるという側面は否定できないから,「興業」という在留資格に基づく役務提供に係る対価ということができる。また,当該外国人が本来の事業と一体としてその他の事業も行っていた場合に所得の内容を性質ごとに区別することもまた困難であるが,このような場合においても同様なことがいえる。そうすると,いったん芸能人として入国した外国人が,予定された別個の活動を行うことによって,課税行為を回避することを未然に防ぐという見地からも,所得税法161条2号は,同法施行令282条の職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を行ったことによる対価であれば足りると解釈されるべきである(しかも,法の許容しない活動を行うことを例示として列挙することは不可能である。)。

  非居住者等に対する課税規定は,いわば国際法であるから,公序良俗に反する職業人や,いわゆるホステスのように,入管法において単純労働者であることから在留資格が認められない職業人の斡旋手数料等に課税する旨を法律で明示するような立法をすることは,事実上不可能である。そうすると,所得税法161条2項及び同法施行令282条は,適法に本邦に入国し就労が認められる在留資格を取得し得ることが可能な職業人を想定して人的役務の提供事業を列挙したものと解される。

 (2)課税実務上の弊害

  仮に,10人の外国人が本件プロダクションを通じて適法に本邦に入国した後に,同外国人のうち6人は芸能活動を行ったが,残り4人は芸能活動を行わずホステスとして勤務した場合,本件プロダクションに対する手数料のうち,6人分に該当する部分は国内源泉所得に該当し源泉徴収義務があり,4人分に該当する部分については源泉徴収義務がないとすれば,源泉徴収義務者において手数料の支払時には源泉徴収の要否が不明となり,納期限の経過を避けるために勤務実態を未確認のまま仮納付した場合には,勤務実態を確認後に源泉所得税を還付する必要が生ずることとなる。

  また,源泉徴収義務者が芸能人の勤務実態の確認を要するとすれば,源泉所得税の納期限を徒過する可能性が極めて高く,源泉所得税が未納となっている場合には,徴収権の時効(国税通則法72条1項)により,徴収不能という事態に陥ることになりかねない。

  なお,課税庁において,既に出国した外国人ごとの過去の勤務実態を個別に確認した上で,源泉所得税の還付あるいは告知処分を行うことは事実上不可能である。

  さらに,通常,本件プロダクションに対する手数料は,招へい外国人が日本国で興行を行う期間が3か月間あるいは6か月間という前提で支払われることから,仮に,芸能人が当初の4か月間は芸能活動を行ったが,その後の2か月間は芸能活動を行わずにホステスとして勤務したような場合,その勤務実態に即した源泉課税が要求されるとすれば,当初納付した源泉所得税のうち,2か月分に対応する部分ついては納付義務がないこととなり,上記と同様な事態に陥ることとなる。

  上記のような事態は,課税実務上も極めて不合理な結果となり,源泉徴収義務者に過度の事務負担を強いるとともに,源泉徴収制度の法的安定性が担保されないことにもなる。

  このような源泉徴収の制度面からしても,また,源泉所得税の納税義務の存否が所得の支払の時に成立し,特別の手続を要しないで自動的に確定するものであることからしても,本件手数料等に係る源泉徴収については,同手数料等の支払の基礎となる被控訴人と本件プロダクションとの間の契約の内容によって判断されるべきである。

 (3)課税の公平性

  招へい外国人の本邦における勤務実態がホステスである場合に,本件手数料等は源泉徴収の対象にならず,招へい外国人に支払ったホステスとしての人的役務の提供に対する報酬のみが源泉徴収の対象になるとすれば,本来招へい外国人に支払われるべき報酬部分を源泉徴収の対象とならない手数料部分に上乗せ,あるいは手数料に仮装して支払った後,国外において配分することにより,本来負担すべき源泉所得税額を免れるような租税回避行為を行うことが容易に可能となる。

  このような租税回避行為を防止する観点からしても,本件手数料等が同法161条に規定する国内源泉所得のいずれに該当し,所得税を源泉徴収すべきか否かの判断は,被控訴人が,本件プロダクションに役務の提供の対価として支払った時にされなければならない。

 (被控訴人の当審における主張)

 1 所得税法161条2号は,政令により,その国内源泉所得の範囲を限定しており,政令に具体的に定められた範囲を徴税上の便宜から拡張解釈することは,税法の本質からしても,到底認められない。

  控訴人が主張する徴税上の便宜や不都合に基づく主張は,立法論の問題である。

 2 本件外国法人は,自ら外国人女性を採用して日本に派遣しているものではなく,単にフィリピン又はインドネシアにおける書類の作成名義人になり,招へい外国人が日本に入国するための現地の労働省の許可及び日本大使館のビザの発給を受けるための手続に関与し,これに対して,被控訴人がその手数料や名義借り料を外国法人に支払っているものであるから,当該外国法人は日本国内における人的役務の提供を主たる内容とする事業を行っている者とはいえず,それゆえ,同外国法人が受け取る手数料等は,国内に源泉のある所得とはいえない。

 第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,本件プロダクションは,被控訴人との間の合意のもとで,日本国内の飲食店においてホステスとして勤務する外国人女性を斡旋し,この招へい外国人を本国から出国させ,本邦に入国させることの対価として本件手数料等の報酬を受給していたのであり,招へい外国人を出国させる目的が日本国内においてホステスを行わせることにあり,芸能活動を行わせることになかったことは明らかであるから,本件プロダクションが芸能人の役務の提供を主たる内容とする事業を行う者(所得税法161条2号,同法施行令282条1号)に該当するということはできないと判断するが,その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第3 争点に対する判断」欄の説示のとおりであるから,これを引用する。

 (1)原判決18頁13行目の「本邦へ招へいし,」の次に「上記女性らとの間で」と付加する。

 (2)原判決20頁17行目の「手数料等を受給していたのであり」の次に「(したがって,本件プロダクションが受け取った本件手数料等は国内に源泉のある所得とはいえないとする被控訴人の主張は採用できない。)」と付加する。

 2 事案にかんがみ,控訴人の当審における主張についての当裁判所の判断を,以下のとおり付加する。

  控訴人は,所得税法161条2号の「人的役務の提供に係る対価」は,同法施行令282条に掲げる職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を行ったことによる対価であれば足りると解されるべきであり,本件でいえば,「被控訴人は,外国人である芸能人を日本国内においてホステスとして勤務させる旨の雇用契約を締結し,同外国人も本件出演店にホステスとして派遣されることを承知しており,実際にホステスとして勤務していたから,本件プロダクションは,招へい外国人を出国させる目的が芸能活動を行わせることになかった」場合でも,本件手数料等が,国内源泉所得に該当するものと解すべきであると主張する。

  この主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,仮に,その趣旨が,芸能人としての形式を整えた外国人を,本件プロダクションがホステスとして稼働させる目的で本邦に渡航させ,被控訴人も,当該外国人をホステスとして勤務させるために雇用し,現にホステスとして本件出演店に派遣していたとしても,本件プロダクションは所得税法161条2号所定の「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令に定めるものを行う者」に該当するとの主張だとすると,控訴人のいう「理論的正当性」「課税実務上の弊害」及び「課税の公平性」を考慮しても,到底採用できない。なぜなら,所得税法161条2号が,「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業」の全部を規律の対象としておらず,「政令で定めるもの(事業)」に限って対象としており,その政令である所得税法施行令282条は,「法161条第2号(国内源泉所得)に規定する政令で定める事業は,次に掲げる事業とする。」とした上で,その1ないし3号において具体的に各職業人を挙げてその職業人の役務の提供を主たる内容とする事業と明定している趣旨に反することになるからである。

  よって,控訴人の上記主張は採用できない。

 第4 以上の認定,説示のとおり,控訴人の当審での主張を勘案しても,被控訴人の請求は原判決認容の限度で理由があるから,原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。

  よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第2民事部

         裁判長裁判官  森 脇   勝

            裁判官  中 野 信 也

            裁判官  林   道 晴

西田美昭裁判長名判決 東京高裁平成15年

国賠のごく一部認容

名誉回復並びに損害賠償請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成14年(ネ)第1310号

 平成15年1月30日

 

【判示事項】 普通地方公共団体の特別委員会において証言を拒否した関係人の告発、審査請求は違法であるとして、地方公共団体の国家賠償責任が認められた事例

 

【参照条文】 地方自治法100-1

       地方自治法100-3

       地方自治法100-4

       地方自治法110-1

       地方自治法110-3

       検察審査会法2-2

       国家賠償法1

 

【掲載誌】  判例時報1828号3頁

 

       主   文

 

  一 原判決を次のとおり変更する。

   (1) 被控訴人茎崎町は、控訴人に対し、五〇万円及びこれに対する平成一三年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

   (2) 控訴人の被控訴人茎崎町に対するその余の請求を棄却する。

   (3) 控訴人のその余の被控訴人らに対する請求及び被控訴人乙原梅夫に対する当審において追加した予備的請求をいずれも棄却する。

  二 訴訟費用は、第一、二審を通じて控訴人と被控訴人茎崎町との間ではこれを二〇分し、その一を被控訴人茎崎町の、その余を控訴人の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間ではすべて控訴人の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第一 当事者の求めた裁判

  一 控訴人

  (1) 原判決を取り消す。

  (2) 被控訴人らは、連帯して、控訴人に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一三年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  (3)ア 主位的請求

  被控訴人丙川竹夫は、被控訴人茎崎町議会議長の資格において、控訴人に対し、別紙(一)記載の新聞及び機関紙に別紙(二)記載の謝罪広告を別紙(三)記載の条件で掲載せよ。

  イ 予備的請求(当審において追加)

  被控訴人乙原梅夫は、被控訴人茎崎町議会議長の資格において、控訴人に対し、別紙(一)記載の新聞及び機関紙に別紙(四)記載の謝罪広告を別紙(三)記載の条件で掲載せよ。

  (4) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

  (5) (2)につき仮執行の宣言。

  二 被控訴人ら

 本件控訴をいずれも棄却する。

 第二 事案の概要等

  一 事案の概要

  茎崎町の前町長である控訴人は、被控訴人茎崎町の議会が地方自治法一〇〇条、一一〇条に基づいて設置した調査特別委員会に証人として出頭したが、議会議長は、控訴人が正当な理由なく証言を拒否したとして控訴人を告発し、その不起訴処分に対し検察審査会に対して審査申立てをした。本件は、控訴人が、これらの委員会設置、告発、審査申立ての一連の行為は、当時の現職町長である被控訴人乙山が、前町長で政敵関係にあった控訴人の政治生命を絶つことを意図して、現職町長派の議員である、被控訴人茎崎町及び被控訴人乙山を除くその余の被控訴人ら(以下「被控訴人議員ら」という。)と共謀するなどして、同議員らが賛成表決し、あるいは決議に基づくとして行った行為であるが、議会が控訴人を告発する決議をしたことはないのであって共同不法行為に当たり、これにより控訴人は名誉を毀損され、また精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人茎崎町に対しては国家賠償法一条一項に基づき、現職町長ないし議会議員であったその余の被控訴人らに対しては民法七〇九条、七一〇条に基づき、被控訴人らが連帯して損害賠償一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を、さらに、議会議長である被控訴人丙川に対しては民法七二三条に基づき、議会議長の資格において、名誉回復処分としての謝罪広告の掲載を求めた事案である。

  原審は、被控訴人乙山及び被控訴人議員らに対する請求は、町長又は町議会議員として行った職務に関するものであって、公務員である上記被控訴人ら個人は責任を負わず、なお、被控訴人乙山については、被控訴人議員らと共謀して行ったとの事実を認めるに足りる証拠もないとして、いずれも棄却した。また、被控訴人茎崎町に対する請求については、①調査特別委員会設置の賛成表決は、議員に委ねられた広範な裁量の範囲内の行為であって、不法行為に当たらない、②告発とその賛成表決については、議会で控訴人を告発する決議をしたものであるところ、控訴人の正当な理由のない証言拒否に対し、議会は告発する義務があり、職務上の法的義務に違背したといえない、③審査申立てとその賛成表決についても、それをするか否かは議員の広範な裁量に委ねられているとして、いずれも棄却した。

  このため、控訴人がこれを不服として控訴をし、併せて、議会議長が交替したことに伴い、謝罪広告について予備的請求を追加した。

  二 本件における認定事実は、次のとおり補正するほか、原判決事実及び理由の「3 認定事実(証拠等を掲記した以外の事実は争いがない。)」に記載のとおりであるから、これを引用する。

  (1) 原判決四頁二行目の末尾に「なお、被控訴人丙川は、平成一三年六月、茎崎町の議長を辞任し、被控訴人乙原が議長に就任した。」を加える。

  (2) 同五頁一九行目及び二〇行目の各「本件調査報告」をいずれも「本件監査報告」に改め、同頁末行の「と定めた。」から同行末までを、「と定め、調査権限について、地方自治法一〇〇条一項(及び同法九八条一項)の権限を委任する旨を定めた。この本件委員会設置の議案は、同日、被控訴人丁川が被控訴人甲川、同丙山及び同甲田の三名を賛成者として議長である被控訴人丙川に対して提出し、これを受けて茎崎町議会が上記のとおり承認決議したものである。(目的、調査事項、権限につき、甲第一、第四号証、この議案提出につき、甲第九号証)」と改める。

  (3) 同六頁二、三行目の「平成一一年九月一六日から平成一二年三月六日まで約半年をかけで」を「平成一一年一〇月五日から平成一二年三月六日まで約五か月をかけて」に、一六行目の『知らないといっている。」と述べたと記載されているが』を『知らないと言っている」と書かれているが』に、二一行目の「あると言うことを」を「あるということを」に、それぞれ改める。

  (4) 同七頁三行目から一〇行目までを次のとおり改める。

  『(6) 本件委会は、平成一二年二月三日開催の委員会において、控訴人の本件行為が証言拒否に当たるか、控訴人を再喚問すべきか告発すべきかについて意見が交わされた後、委員長である被控訴人乙原を除く一五名の委員による採決が行われ、被控訴人乙原を除く被控訴人議員らを含む賛成一四名、反対一名により、控訴人の本件行為を正当な理由のない証言拒否に当たるとし、控訴人の再喚問については、同じく上記一五名の委員による採決の結果、賛成七名、反対八名により、再喚問しないことに決定した。上記意見交換の中で、副委員長である被控訴人丁川が、一〇〇条委員会という名前で告発ができる旨の説明をした。(甲第一号証)

   (7) 本件委員会は、その調査結果を平成一二年三月一六日付け「茎崎町国際交流に関する調査特別委員会報告書」(以下「調査結果報告書」という。)としてまとめ、同月六日開催の第九回委員会において、被控訴人乙原を除く被控訴人議員らを含む委員全員が満場一致でその原案を認定し、これを茎崎町議会定例会最終日に委員長報告として提出することを承認可決した。その調査結果報告書の末尾に六項として「平成一二年一月三一日、第六回調査特別委員会で行われた証人尋問の際、甲野太郎証人の証言拒否があったので、地方自治法第一〇〇条九項により当委員会として告発する。」旨が記載されていた。(甲第一、第四号証)』

  (5) 同七頁一一行目の「三九行」を「四〇行」に、一六行目の「補正予算案も提出しなかったため」を「補正予算にも計上しなかったため」に、同八頁二行目の「法例違反行為」を「法令違反行為」に、三行目の「信用を犯した」を「信用を汚した」に、それぞれ改める。

  (6) 同八頁七行目から一三行目までを次のとおり改める。

  『(8) 平成一二年三月八日開会の茎崎町議会定例会において、同月一六日、議題とされた本件委員会の調査結果報告が、委員長である被控訴人乙原から調査結果報告書に基づいてされた後、議員により討議が行われたが、その中で、議長である被控訴人丙川は、討論終了の後、委員長の報告のとおり決定することについて、起立の方法により採決を行うこととし、採決の結果、起立多数であったため、「委員長の報告のとおり決定いたします。これをもって、国際交流に関する調査を終了いたします。」と宣言したが、控訴人の証言拒否を告発する件について、どの議員からも独立した議案の提出はなく、したがって、議案提出を前提とするその趣旨説明、これに対する質疑応答、討論もなく、採決も行われなかった。』

  (7) 同八頁一五行目の「証言を拒否」を「証言拒否」に改める。

  三 本件における当事者の主張は、当審における当事者の主張を次のとおり追加するほか、原判決事実及び理由の「4 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一〇頁四行目の「本件証言事項」を「本件証人尋問事項」に、同一一頁一九、二〇行目の「請求の趣旨(原告の請求(2))記載のとおりとするのが相当である。」を「本判決の事実及び理由第一当事者の求めた裁判 一控訴人(3)ア記載のとおりとするのが相当である。仮に、被控訴人丙川に対するその請求が認められないとしても、議会議長が被控訴人丙川から被控訴人乙原に交替したので、同様の理由で、本判決の事実及び理由第一当事者の求めた裁判 一控訴人(3)イ記載のとおりとするのが相当である。」に、同一五頁四行目の「あるいし」を「あるいは」に、それぞれ改める。)。

  (1) 控訴人

  ア 公権力の行使について

  (ア) 調査結果報告書末尾には、証言拒否に対する告発の決定として、「平成一二年一月三一日、第六回調査特別委員会で行われた証人尋問の際、甲野太郎証人の証言拒否があったので、地方自治法第一〇〇条九項により当委員会として告発する。」との記載があり、上記報告書は、平成一二年三月六日第九回本件委員会において、控訴人を告発することを含めて、被控訴人茎崎町、被控訴人乙山及び被控訴人乙原を除くその余の被控訴人ら全員が異議なく満場一致で承認可決した。

   (イ) そうであれば、その余の被控訴人ら全員が本件委員会において控訴人を地方自治法一〇〇条九項に基づく告発する旨の議決権を行使したことになる。

  そして、被控訴人丙川は、平成一二年三月一六日開催の茎崎町議会定例会において、調査結果報告書が委員長である被控訴人乙原によって報告され、それが起立多数で承認されただけで、控訴人を告発する旨の議案の提出もなく、その旨の議決もないまま、茎崎町議会を代表して平成一二年四月二六日控訴人を竜ヶ崎警察署長宛に告発した。

   (ウ) 本件委員会は、本議会により付託された調査と審査を行うものであって、決議機関でないのに、その余の被控訴人ら全員がその権限を逸脱して違法にも「委員会として告発する」旨の決議を行い、その旨の議決権を行使したことになる。

  したがって、その議決権の行使は、公権力の行使に当たる公務員がその職務を行う場合に該当する。

  イ 故意又は重過失について

  (ア) 地方自治法一〇〇条九項は、「議会は……告発しなければならない。」と明記しており、告発をするのが一〇〇条特別委員会でないことは明らかである。すなわち、同規定に基づく告発は、議会の議決でもって議長名で行わなければならず、告発について一〇〇条特別委員会に委任議決することはできない。

   (イ) そうであれば、被控訴人丙川の告発は、地方自治法一〇〇条九項に違反し、無効であるだけでなく、重大な過失があり、その余の被控訴人ら全員についても、違法に議決権を行使したことに重大な過失がある。

   (ウ) それだけでなく、控訴人に対する告発は、水戸地方検察庁土浦支部で平成一二年一二月二七日、不起訴処分になったにもかかわらず、平成一三年一一月二八日、検察審査会に審査申立てを行う旨の議案が提出され、同年三月七日茎崎町議会の議決を経て、被控訴人丙川が茎崎町議会議長として、同年三月三〇日、土浦検察審査会に審査申立てを行った。これに対し、土浦検察審査会は、同年七月一九日、「本件不起訴処分は相当である。」旨の議決を下した。

   (エ) しかし、審査申立権者は、検察審査会法三〇条で法定されており、告発が違法であれば、被控訴人丙川は茎崎町議会を代表して審査申立てができず、茎崎町議会が審査申立てをすべき旨決議したことも違法となる。更に、同決議に賛同して議決権を行使した被控訴人茎崎町及び被控訴人乙山を除くその余の被控訴人ら全員は、被控訴人丙川を含め、公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うにつき、違法に控訴人に損害を加えたことに該当する。

  そのうえ、同職務を行うにつき重大な過失があったことは明白である。

  ウ 損害について

  (ア) 控訴人は、告発されるいわれがないのに、茎崎町議会が竜ヶ崎警察署長に告発したこと及び水戸地方検察庁土浦支部に証言拒否を理由に地方自治法違反容疑で書類送検されたこと、並びに茎崎町議会が土浦検察審査会に審査申立てをしたことが、いずれも地元の各有力新聞に大々的に報道された。

   (イ) 控訴人は、現町長である被控訴人乙山との今回の選挙戦に惜敗し、前茎崎町長の職を歴任していたために、その反響は大きく、その政治生命を断たれるほどの社会的打撃を受けた。

  町長選挙が茎崎町民を二分するほどの激しい戦いになるため、控訴人がその社会的信用と名誉を失墜したことは、捲土重来を期している控訴人にとって致命的な痛手を被り、回復し難い社会的損失を受ける結果となった。

   (ウ) このように、控訴人の受けた損失が精神的損害というよりも、社会的地位の失墜であり、人格・品性の毀損であり、社会的名声・評価の低下であるから、これを回復させるためには金銭的慰謝料よりも、謝罪広告が必要不可欠である。

  (2) 被控訴人ら

 ア 公権力の行使について

  (ア) 本件委員会において(1)ア(ア)記載の決定がされたことは認めるが、その決定とは、あくまで、本件委員会として議会に対し控訴人を告発すべきであるとする報告内容の決定であり、本件委員会が告発主体となって告発するとの決定ではない。その後の手続においても本件委員会が告発主体となって告発するような手続は一切とられておらず、単に告発主体についての表現の適否(正確性)の問題があるのみである。

   (イ) (1)ア(イ)記載の主張は争う。上記のとおり、本件委員会自らが告発主体となって控訴人を告発する決議は行っていないし、そもそも、一〇〇条特別委員会は、議会から付託された調査事項について調査を行い、その調査結果を議会に報告するための機関であって、自ら議決・決議を行うような機関ではない。

   (ウ) (1)ア(ウ)記載の主張は争う。調査結果報告書に記載された「委員会として告発する」との表現は必ずしも正確なものではないが、その真意が「委員会として(議会が告発主体となって)告発すべきであると考える」というものであることは明らかである。実際、その後の手続もそのような理解を前提に問題なく進められている。

  イ 故意又は過失について

 (1)イ記載の控訴人の主張は、すべて茎崎町議会では控訴人を告発する旨の決定がされていない(本件委員会で違法に告発決議がされた)ことを前提とする主張であるが、平成一二年三月一六日開催の茎崎町議会定例会において、控訴人を証言拒否で告発すべしとする本件委員会の委員長報告を承認することにより、茎崎町議会の機関意思として控訴人を証言拒否で告発することを決定したのであるから、その控訴人の前提主張自体誤りである。したがって、被控訴人茎崎町及び乙山を除くその余の被控訴人らについて、故意又は重過失を論ずる余地はない。

  ウ 損害について

 (1)ウ記載の主張はすべて争う。

 第三 当裁判所の判断

        〈編注・以下証拠の表示は一部を除き省略ないし割愛します〉

  一 被控訴人乙山及び被控訴人議員らに対する請求について

 当裁判所は、本件委員会設置、本件告発、本件審査申立てが、同被控訴人らの公務員としての職務を行うについてされたものであって、被控訴人茎崎町が賠償責任又は名誉を回復する処分(民法七二三条、国家賠償法四条)を行う責任を負うことがあるのは格別、公務員であるその余の被控訴人ら個人は、控訴人に対してその責任を負わないと解すべきであり、また、被控訴人乙山については、被控訴人議員らの上記行為が被控訴人乙山と被控訴人議員らが共謀するなどしてされたことを認めるに足りる証拠もないので、控訴人の被控訴人乙山及び被控訴人議員らに対する損害賠償請求、被控訴人丙川に対する謝罪広告を求める請求は、いずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決事実及び理由の「5 当裁判所の判断」欄の(1)記載のとおりであるから、これを引用する。

  同様の理由から、当審で追加された控訴人の被控訴人乙原に対する予備的請求も理由がない。

  二 被告茎崎町に対する請求について

 (1) 本件委員会設置についての賛成表決について

 当裁判所は、被控訴人議員らによる本件委員会設置の賛成表決が、被控訴人乙山と共謀して行った、公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについてした違法行為であるとの控訴人の主張は理由がないと判断する。その理由は、原判決事実及び理由の「5 当裁判所の判断」欄の(2)ア記載のとおりであるから、これを引用する。

  (2) 本件告発についての賛成表決及び本件告発について

 ア 当裁判所は、本件委員会における控訴人の本件行為が、地方自治法一〇〇条三項所定の正当な理由のない証言拒絶に当たると判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決事実及び理由の「5当裁判所の判断」欄の(2)イ(ア)記載のとおりであるから、これを引用する。

   (ア) 原判決一八頁八、九行目の「本件証言事項」を「本件証人尋問事項」に改める。

   (イ) 同一八頁二四行目から同一九頁一三行目までを次のとおり改める。

  「また、控訴人は、本件調査事項の被調査本人である控訴人には憲法三八条一項に規定する自己帰罪供述強要の禁止が適用されるから、証言拒否には正当な理由が存在すると主張する。しかし、本件委員会による本件調査事項の調査は行政手続であり、憲法三八条一項は本件委員会の手続に適用があるものではなく、証人である控訴人が、刑事訴訟手続における被告人のように、終始沈黙し、又は個々の質問に対し(その質問事項が何であれ)供述を拒むことができるもの(刑事訴訟法三一一条一項)ではない。もっとも、地方自治法一〇〇条一項による調査のための証言については、同条二項により民事訴訟に関する法令の規定中証人の訊問に関する規定が準用されること、民事訴訟法一九六条は、証言が、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するとき等には、証人は証言を拒むことができる旨を定めているのであるから、憲法三八条一項の趣旨は、この規定を介して実質的に尊重されているのである。

 本件においては、控訴人に対する証人尋問手続の冒頭で、委員長である被控訴人乙原が控訴人に対し、証言拒絶権が認められる場合や正当な理由のない証言拒絶に対する罰則を具体的に説明した上で、証人尋問が開始されたものであるが(甲第一号証)、控訴人は、委員長の最初の質問が前記第二、二で引用した原判決事実及び理由3(5)のとおり、控訴人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項ではなく、その他の証言拒絶が認められる事由もないのに、前同所認定の発言、行為に及んだものであり、憲法三八条一項の趣旨を実質上考慮しても、証言拒絶に正当な理由は認められない。」

 イ 地方自治法一〇〇条九項が、「議会は、……告発しなければならない。」と定めた趣旨は、議会は地方公共団体の内部の機関であって法人格を有しないから、本来告発することはできないが、同条一項が特別規定として選挙人の出頭、証言等の請求権を直接議会に認めたことから、これに付随する特例として、特に議会に告発の権限を付与したものである。したがって、議会が告発できるのは一〇〇条九項による場合に限られるのであり、告発について、委員会に委任して議決をすることはできず、議会自ら議決することを要すると解すべきである。

 他方、地方自治法一〇〇条による調査を行うために、同法一一〇条に基づいて設置された特別委員会は、議会から付託された調査を行う機関であって、決議機関ではなく、同委員会は議会に調査した経過と結果を報告するだけであり、これに基づいて意思決定をする必要があれば、議会自らこれを行うものである。同委員会の調査の過程で生じた証言拒絶に関する告発についても、同委員会が議会に代わって決議をすることはできないものである。

  ウ そこで、本件告発についての経過をみると、前記認定事実のとおり、調査結果報告書は、平成一二年三月六日開催の本件委員会において、委員全員の満場一致で承認可決されたものであり、同月一六日開催の茎崎町議会定例会において、委員長である被控訴人乙原からこれに基づく報告があった後、賛成多数によりその報告のとおり決定されたものであるが、その末尾(六項)に「平成一二年一月三一日、第六回調査特別委員会で行われた証人尋問の際、甲野太郎証人の証言拒否があったので、地方自治法一〇〇条九項により当委員会として告発する。」と記載されていたものである。これ以外に、本議会が控訴人を告発する旨の議決をした事実を認めるに足りる証拠はない。

  エ ところで、議会において地方自治法一〇〇条九項に基づく告発を議決する形式としては、告発が、捜査機関に対し、個人の犯罪被疑事実について、捜査及び訴追を求めるという対象者の人権にかかわる行為であり、それを議会の名において行うだけの要件の有無を、余事について考慮することなく、慎重に審査する必要があることからすれば、議会として告発すること自体を議員が別途議案として提出し、審議の上議決すべきものであり、本件において提出された証拠によって認られる全国の町村の先例でも、そのような方法で議決されたものが多数である。

  もっとも、特別委員会の委員長報告(報告書)中に、証言拒絶等について議会が告発すべきである旨明示されている場合は、委員長報告全体を議題として審議の上、その報告のとおり承認する議決があったことをもって議会として告発する議決があったとすることも、適切ではないが違法とはいえないと解する余地がある。本件において提出された証拠によって認められる全国の町村の先例でも、そのような方法で議決されたものが一部に存在する。

  しかし、本件における告発の議決の形式はそのようなものでもない。すなわち、前記ウに認定のとおり、それに基づいて委員長報告がされた調査結果報告書には、控訴人の証言拒否について「当委員会として告発する。」と記載されており、議会はその報告のとおり議決、決定したのであり、これを議会として告発する旨の議決と認めることはできない。

  本件委員会が、もともと告発の決議を行うことができないことはイのとおりであり、本件委員会の設置に当たって議会から委任された権限も地方自治法一〇〇条一項(及び同法九八条一項)の権限のみであり、同法一〇〇条九項の権限は委任されていないのであるから、調査結果報告書に基づく委員長の報告を議会がそのとおり議決、決定しても、「当委員会として告発する。」との部分についての議決は法律上無意味なものである。

 地方公共団体の議会は、意思決定機関であり、その権限、活動の手続、内部機関である委員会の権限等については地方自治法、各地方公共団体の条例等の法令に定められていて、その意思決定は重要な意義を有しているのであるから、その内容は言葉で表現されたとおりの意味と解すべきであり、表現されたのと異なる趣旨と解するのは相当でない。本件の場合、議会が告発をするのか委員会が告発をするのかは法律的効力において大きな差があるのであり、事案が告発という対象者の人権にかかわる事項に関することであることをも考えると、議決という議会としての意思表示の内容中の、「当委員会として告発する。」との部分はその文言のとおりの意味と解すべきであり、たとえ、議員の多数が主観的には議会として告発することを意図していたとしても、「議会として告発する(告発すべきである)。」との趣旨であると解するのは相当でない。

  なお、本件委員会を構成する委員は、議長である被控訴人丙川を含む町議会議員全員であったが、そのことにより上記判断が左右されるものではない。

  オ 上記イないしエのとおり、本議会においては、控訴人を告発する旨の決議はされていないと解されるところ、被控訴人丙川は、茎崎町議会議長の資格において、控訴人の証言拒否について、議会の議決を経ることなく地方自治法一〇〇条九項により告発を行ったものであるから、公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて違法な行為をしたものであり、これにより控訴人に後記(4)のとおりの損害を与えたものというべきである。

  そこで、被控訴人丙川の過失について検討する。

  地方自治法一〇〇条九項の告発をする主体が議会であることは法文自体から明白であり、委員会が議会の内部組織であり議会そのものとは別の組織であることは地方自治法一〇九条、一一〇条から明らかである。本件委員会の設置に当たって議会が本件委員会に委任した権限は、地方自治法一〇〇条一項及び同法九八条一項の権限であり、同法一〇〇条九項の権限が含まれていないことは、本件委員会の設置決議から明らかであることによれば、前記のような調査結果報告書に基づく委員長報告を議会がそのとおり議決、決定したことをもって、控訴人を告発する旨の議会の議決があったと判断して、これに基づいて控訴人を告発した被控訴人丙川には過失があったものと認められる。

  カ 次に、被控訴人丙川以外の被控訴人議員らは、本件委員会において控訴人を当委員会として告発する旨の記載のある調査結果報告書を承認可決し、本議会において前記のとおりその調査結果報告書に基づく委員長報告を起立多数で承認可決したものであるが、そのことによって、被控訴人丙川に控訴人に対し議会の議決を経ることなく告発するという違法行為をさせるに至ったものであり、被控訴人丙川以外の被控訴人議員らについても公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて違法な行為をしたものであり、これにより控訴人に後記(4)のとおりの損害を与えたものというべきである。

  被控訴人丙川以外の被控訴人議員らに過失がある理由は、前記被控訴人丙川の過失と同じである。

  なお、前記アのとおり、控訴人の本件行為は地方自治法一〇〇条三項に違反する正当な理由のない証言拒絶に当たるのであるから、これを告発されるべき行為であると考えて、本件委員会、本議会において前記のような承認、決定をしたこと自体を違法な職務行為ということはできない。

  (3) 本件審査申立てについての賛成表決及び本件審査申立てについて

 前記認定事実によれば、本件告発にかかる控訴人に対する被疑事実について検察官による不起訴処分がされた後、茎崎町議会は、議長である被控訴人丙川を除く被控訴人議員らの賛成多数により、検察審査会に当該処分を不服として審査を申し立てることを決議し、この決議に基づいて、被控訴人丙川が、茎崎町議会議長の資格において、本件審査申立てを行ったことが認められる。

  検察審査会へ審査申立てをすることができる者は、検察審査会法二条二項に定められているところ、本件審査申立ては、本件告発をした者としてされたものと認められるが、少なくとも、審査申立ての対象となった事件の被疑者である控訴人との関係では、違法な告発に基づいて捜査が行われた結果、不起訴処分となった事件について、更に検察審査会へ審査申立てをする旨の決議を行い、それに基づいて審査申立てを行うことは、適法な告発が追行されたなどの特段の事情のない限り違法というべきである。本件においては、そのような特段の事情は認められないから、本件審査申立てを行う旨の茎崎町議会における決議及びそれに基づいて被控訴人丙川が行った本件審査申立ては、いずれも被控訴人茎崎町の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについてした違法な行為であり、これによって控訴人に後記(4)の損害を与えたものというべきである。

  被控訴人丙川を含む被控訴人議員らが、本件告発が控訴人を告発する旨の議会の議決がないのに、その議決があったものと認識して上記違法な行為をしたことに過失があることは、被控訴人丙川の本件告発についての過失について、上記(2)オに認定判断したとおりである。

  (4) 損害について

 被控訴人丙川が、控訴人に対する告発をしたところ、その事実あるいは告発予定であることが、全国紙の茨城版や地元新聞で報道され、告発が竜ヶ崎警察署に受理されたことは平成一二年五月二六日発行の「くきざき議会だよりNo.35」にも掲載された。また、同事件が竜ヶ崎警察署から水戸地方検察庁土浦支部検察官へ送付された事実も、全国紙の茨城版や地元新聞に報道された。本件告発自体及びこれに関する新聞報道により、前町長であった控訴人の名誉が一定の程度損なわれ、控訴人は精神的苦痛を受けたものと認められる。また、検察官が不起訴処分をした後に、本件審査申立てがされたことによっても、控訴人は精神的苦痛を受けたものと認められる。

  他方、控訴人の本件行為が正当な理由のない証言拒否に当たると解されることは先にみたとおりであり、告発手続及び本件審査申立ての手続に違法があったとはいえ、告発にかかる被疑事実の嫌疑は認められること、その他本件に現れた諸事情を勘案すれば、控訴人が被ったと解される精神的損害を償う慰謝料は五〇万円と認めるのが相当である。

  三 以上の次第で、控訴人の被控訴人茎崎町に対する請求は、五〇万円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、その余の被控訴人らに対する請求及び被控訴人乙原に対する当審で追加した予備的請求はいずれも理由がない。

  よって、原判決は、上記判断と相違する限りにおいて相当でないのでこれを変更することとし、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 森高重久 大段 亨)

  別紙 (一)~(四)《略》

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