岡本法律事務所のブログ

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2020年06月

伊藤正己裁判長名判決 換地計画と関係権利者の同意に関する最高裁昭和59年

行政判例百選Ⅰ 第7版 129事件

少数者の権利を守ったといえます

              換地計画同意等請求事件

 

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和56年(オ)第184号

【判決日付】      昭和59年1月31日

【判示事項】      共同施行の土地改良事業において換地を行うことが予定されているのを了知して右事業の認可の申請に同意した者と換地計画に同意する義務の有無

【判決要旨】      数人が共同して行う土地改良事業の認可の申請に同意した者は、既に換地を行うことが予定されているのを了知して右同意をしたときであつても、換地計画に同意する義務を負うものではない。

【参照条文】      土地改良法(昭和47年法律第37号による改正前のもの)52-3

            土地改良法95-2

            土地改良法96

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集38巻1号30頁

            最高裁判所裁判集民事141号145頁

            裁判所時報883号1頁

            判例タイムズ519号121頁

            金融・商事判例692号3頁

            判例時報1105号44頁

            金融法務事情1075号29頁

【評釈論文】      季刊実務民事法7号168頁

            ジュリスト814号71頁

            別冊ジュリスト93号276頁

            別冊ジュリスト123号270頁

            判例評論307号156頁

            法曹時報40巻10号156頁

            民商法雑誌91巻6号916頁

 

       主   文

 

 被上告人の本訴請求中被上告人が上告人に対し被上告人施行の土地改良事業に係る昭和四六年三月一四日の換地計画についての同意並びに債務不履行に基づく損害八八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を認容した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 右部分につき被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人柴田久雄の上告理由第一点について

 本件記録によれば、所論の点に関する被上告人の主張は、(一) 被上告人は、上告人外六五名をもつて組織している土地改良法に基づき設立した任意組合であつて、昭和四三年九月二五日同法に基づく公告をし、昭和四四年三月一八日秋田県知事の認可を得たものである、(二) 被上告人は、組合設立の趣旨に従い土地改良工事を施行したうえ、昭和四四年五月一五日仮換地を指定し、上告人に対しては第一審判決添付別紙(1)のとおりの配分をした、(三) 昭和四六年三月六日右改良事業の工事が全部完成し、総会において上告人を除く六五名の組合員から換地計画の同意承認を得たが、上告人がこれに同意しないため、換地計画に基づく登記手続等が不可能な状態にある、(四) 被上告人は、上告人の換地計画に同意しないという右債務不履行により合計八八万六〇〇〇円の損害を被つた、(五) よつて、被上告人は、上告人に対し、本件換地計画についての同意に代わる裁判並びに右債務不履行に基づく損害八八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める、というのである。

 これに対し、原審は、数人が共同して行なう土地改良事業においては、一定の場合換地計画について同意を義務づける規定はないが、右土地改良事業の共同施行主体は一種の民法上の組合のような性質を有するものであるから、土地改良事業施行に対する同意等により同意者と共同施行主体又は他の同意者等との間に私法上の契約関係が生じ、右段階で将来換地等がされることが予想される場合には、換地計画に同意しないことにつき合理的な正当事由の存しない限り、これに同意する意思が黙示的に含まれており、組合員は右のような限定的な同意義務を負うものと解するのが相当であるとしたうえ、上告人は、被上告人の事業認可申請に同意したものであり、しかも事業施行に関する段階で既に換地が予定されていることを了知していたものであるから、上告人には、本件換地計画に同意しないことにつき合理的な正当事由の存しない限り、これに同意すべき義務があるとし、かつ、上告人には本件換地計画に同意しないことにつき合理的な正当事由が存しないなどの判断を示し、被上告人の右請求を認容した。

 ところで、土地改良法(昭和四七年法律第三七号による改正前のもの。以下「法」という。)五二条三項によれば、土地改良区が行なう土地改良事業につき、その事業の性質上必要があるものとして換地計画を定めるには、その計画に係る土地につき所有権、地上権、永小作権、質権、賃借権、使用貸借による権利又はその他の使用及び収益を目的とする権利を有するすべての者(以下「所有権等の権利を有するすべての者」という。)で組織する会議の議決(同項の者が三分の二以上出席し、その議決権の三分の二以上で決する。)を経なければならないとされているが、法九六条によれば、法三条に規定する資格を有する者数人が共同して法九五条一項の規定により行なう土地改良事業(以下「共同施行の改良事業」という。)につき、その事業の性質上必要があるものとして換地計画を定めるには、所有権等の権利を有するすべての者の同意を得なければならないものとされている。このように、共同施行の改良事業において、換地計画を定めるにつき所有権等の権利を有するすべての者の同意を得なければならないとした法意は、共同施行の改良事業にあつては、施行者の組織する団体が任意団体であり、しかも、その施行に係る土地改良事業が土地改良区を設立するまでもない簡易かつ小規模なものであつて、その公共性も稀薄であるところから、所有権等の権利を有するすべての者の保護を第一義とし、その全員の同意がない限り、換地計画を定めることができないものとしたことにあるというべきであるから、右のような法意に鑑みると、所有権等の権利を有するすべての者は、換地計画の内容、すなわち換地の用途、地積、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件、清算金の明細等諸般の事情を総合して、任意に換地計画に同意するか否かを判断することが許されるものというべきであつて、他に換地計画に対する同意を義務づける実定法上の根拠がない以上、右換地計画に同意すべき法律上の義務を負うことはないものと解するのが相当である。もつとも、法九五条二項、土地改良法施行規則六条、七三条によれば、共同施行の改良事業を行なおうとする場合において、知事に対する土地改良事業の認可を申請するには、土地改良事業に係る計画の概要、すなわち当該土地改良事業の目的、その施行に係る地域の所在及び現況等のほか、当該土地改良事業がその性質上換地計画を定める必要があるものであるときはその換地計画の要領を定め、所有権等の権利を有するすべての者の同意を得なければならないと定められているところ、原審の適法に確定したところによれば、被上告人の施行する土地改良事業では事業施行に関する同意を得る段階で既に換地が予定されており、上告人はこのことを了知して右事業の認可を申請するについて同意したというのであるが、右事業の認可を申請するにあたつて、所有権等の権利を有するすべての者が換地計画によつて将来取得することになる換地の用途、面積、利用条件及び清算金の明細等が明確にされていたという事情は存しないのであるから、上告人が右事業の認可を申請するについて同意したことをもつて、右換地計画に同意する旨の意思が黙示的に含まれていたと解することもできない。

 そうすると、これと異なる見解に立つ原審の前記判断には土地改良法の解釈を誤つた違法があるものというべきであり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、その余の上告理由について判断するまでもなく、被上告人の本訴請求中被上告人が上告人に対し被上告人が施行中の土地改良事業に係る昭和四六年三月一四日の換地計画についての同意並びに債務不履行に基づく損害八八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を認容した部分につき、原判決及びこれと同旨の第一審判決は、破棄又は取消を免れず、右部分につき被上告人の請求は棄却すべきものである。

 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第三小法廷

        裁判長裁判官  伊藤正己

           裁判官  横井大三

           裁判官  木戸口久治

           裁判官  安岡滿彦

 

朝鮮の声 2020年6月30日 火 0600~0630 JST

9650KHz 43443 ICOM IC756 25mH

音質悪い ジャミングの混信あり

 

0603 不滅の革命賛歌キムイルソン将軍の歌

 

0606 不滅の革命賛歌キムジョンイル将軍の歌

 

0608 ニュース

偉大な金正日総書記の不滅の業績を称える催しが各国でありました

 

共和国で閣議が拡大会議の形で行われました

 

キム・ジェリョン内閣総理がポサン製鉄所とピョンヤン建設機械工場の実態を現地で把握しました

 

キムチェク製鉄連合企業所の大型酸素分離機の設置工事が終盤で進められています

 

ハムギョン北道で油脂作物の栽培面積を1.8倍に増やしました

 

国際問題研究院のキム・ヘジョン研究室主任が個人ペンネームの文を発表しました

 

0615 歌 あなただけがすべて

 

0618 自力自供の強者を育てる

 

https://www.honzuki.jp/book/289795/review/247020/

結果的加重犯の共同正犯を認めた最高裁昭和26

刑法判例百選Ⅰ第779事件

強盗殺人強盗窃盗住居侵入被告事件

 

【事件番号】       最高裁判所第3小法廷判決/昭和24年(れ)第2681号

【判決日付】       昭和26年3月27日

【判示事項】       強盗の共犯のうちその1人が強盗の機会において為した殺人の行為につき他の者も責任を負う場合の一事例

【判決要旨】       強盗の共犯の1人が、強盗に着手した後家人に騒がれて逃走し追跡されているうち、巡査に発見され追い付かれて逮捕されようとした際、逮捕を免れるため同巡査に切りつけ死に至らしめたときは、その強盗殺人の行為につき他の共犯も責任を負うべきである。

【参照条文】       刑法60

             刑法240

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集5巻4号686頁

             最高裁判所裁判集刑事42号579頁

【評釈論文】       ジュリスト307の2号204頁

             別冊ジュリスト27号232頁

             別冊ジュリスト57号176頁

             別冊ジュリスト82号162頁

             別冊ジュリスト111号162頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 一、弁護人両名の上告趣意は末尾添附刷紙記載の通りである。

 論旨第一点に対する判断

 被告人、原審相被告人A、同B等が、共謀の上右Aにおいて判示窃盗を実行し、被告人においてその見張をした以上、右Bの所為及びその責任の如何にかかわらず、被告人においても判示窃盗について共同正犯の責を免れないことは、当裁判所の判例に徴し明白であり、論旨は理由がない。(昭和二二年(れ)第二三五号、昭和二三、三、一六第三小法廷判決、二巻三号二二〇頁)

 向第二点に対する判断

 原審の認定した事実によれば相被告人Aは被告人と共謀の上原判示の如く強盗に着手した後、家人に騒がれて逃走し、なお泥棒、泥棒と連呼追跡されて逃走中、警視庁巡査に発見され追付かれて将に逮捕されようとした際、逮捕を免れるため同巡査に数回切りつけ遂に死に至らしめたものである。されば右Aの傷害致死行為は強盗の機会において為されたものといわなければならないのであつて、強盗について共謀した共犯者等はその一人が強盗の機会において為した行為については他の共犯者も責任を負うベきものであること当裁判所の判例とする処である(昭和二四年(れ)第一一二号七月二日第二小法廷判決)それ故相被告人Aの行為について被告人も責任を負わなければならないのであつて論旨は理由がない。

 同第三点に対する判断

 論旨によれば、判示二個の強盗殺人罪が、併合罪の適用を受くベきこととなり却つて被告人に不利益となるのであるから、適法な上告理由とはならない。

 同第四点に対する判断

 記録によれば、原審第三回公判調書は二通あり原審第四回公判においてはむしろ前者について証拠調をしたものと認められ、かつ、右調書中には原判決に引用してあるCの供述記載があるから、これについて証拠調をしたことは明かである。されば原判決には所論の違法は存しない。

 よつて旧刑訴法四四六条に従つて主文の如く判決する。

 右は裁判官全員一致の意見である。

 検察官 岡本梅次郎関与

  昭和二六年三月二七日

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    井   上       登

            裁判官    島           保

            裁判官    河   村   又   介

 裁判官穂積重遠は差支の為署名捺印することができない。

         裁判長裁判官    井   上       登

 

池上政幸裁判長名判決 接見妨害に関する最高裁昭和30年 接見妨害等国家賠償請求事件

令和元年度重要判例解説 刑事訴訟法3事件

最高裁判所第1小法廷判決/平成29年(受)第990号

平成30年10月25日

【判示事項】      保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その旨を未決拘禁者に告げないまま,保護室収容を理由に面会を許さない刑事施設の長の措置が,国家賠償法上違法となる場合

【判決要旨】      刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人又は弁護人となろうとする者からあった場合に,その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は,未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り,未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。

            (補足意見がある。)

【参照条文】      刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律79-1

            刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律79-4

            刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律115

            刑事訴訟法39-1

            国家賠償法1-1

【掲載誌】       最高裁判所民事判例集72巻5号940頁

            裁判所時報1710号7頁

            判例タイムズ1456号57頁

            判例時報2399号13頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      自治研究95巻8号134頁

            ジュリスト1535号92頁

            法学教室461号157頁

            法学教室461号161頁

            法学セミナー64巻2号130頁

 

       主   文

 

 原判決中,上告人らの接見交通権の侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分を破棄する。

 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告人兼上告代理人X2及び上告代理人斎藤利幸ほかの上告受理申立て理由第3について

 1 本件は,拘置所に被告人として勾留されていた上告人X1及びその弁護人であった上告人X2が,上告人X1が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)79条1項2号イに該当するとして保護室に収容中であることを理由に拘置所の職員が上告人X1と上告人X2との面会を許さなかったことにより,接見交通権を侵害されたなどとして,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び遅延損害金の支払を求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人X1は,平成20年6月,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件で起訴され,福岡拘置所に被告人として勾留された。

 (2) 上告人X1は,平成21年7月23日,福岡拘置所において,「獄中者に対する暴行を謝罪せよ。」などと大声を発し,同拘置所の職員から再三にわたり制止を受けたが,これに従わず,同様の発言を繰り返して大声を発し続けたため,刑事収容施設法79条1項2号イに該当するとして保護室に収容された。

 なお,上告人X1は,同拘置所に勾留されてから上記の収容までの間にも,複数回にわたり,他の被収容者と共に「死刑執行に反対するぞ。」などと大声でシュプレヒコールを行い,保護室に収容されたことがあった。

 (3) 上告人X1の弁護人であった上告人X2は,平成21年7月27日,福岡拘置所を訪れ,上告人X1との面会の申出(以下「本件申出」という。)をした。上告人X1は,同月23日以降も連日大声を発し,継続して保護室に収容されており,同月27日も,本件申出の前後にわたり,「獄中者に対する暴行を謝罪しろ。」などと大声を発していた。同拘置所の職員は,上告人X1に対して本件申出があった事実を告げないまま,上告人X2に対して上告人X1が保護室に収容中であるために面会は認められない旨を告げ,上告人X1と上告人X2との面会を許さなかった。

 3 原審は,被告人が保護室に収容中であることを理由として被告人と弁護人との面会を許さない措置の違法性について次のとおり判断して、上告人らの接見交通権の侵害を理由とする損害賠償請求をいずれも棄却すべきものとした。

 保護室に収容されている被告人との面会の申出が弁護人からあった場合に,刑事施設の長が保護室への収容を継続する必要性及び相当性を判断する前提として,上記申出があった事実を被告人に告げるか否かは,その合理的な裁量に委ねられており,この事実を告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない措置がとられたとしても,上記裁量の範囲の逸脱がなく,上記必要性及び相当性の判断に誤りがない限り,原則として,国家賠償法1条1項の適用上違法とならない。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 刑訴法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される接見交通権は,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人等からいえばその固有権の最も重要なものの一つである(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁参照)。そして,刑事収容施設法31条も,未決拘禁者の処遇に当たっては,未決の者としての地位を考慮し,その防御権の尊重に特に留意しなければならないものとし,また,刑事収容施設法115条は,刑事施設の長は,未決拘禁者(受刑者又は死刑確定者としての地位を有する者を除く。)に対し,弁護人等を含む他の者から面会の申出があったときは,同条所定の場合を除き,これを許すものとしている。これらに照らすと,刑事施設の長は,未決拘禁者の弁護人等から面会の申出があった場合には,直ちに未決拘禁者にその申出があった事実を告げ,未決拘禁者から面会に応ずる意思が示されれば,弁護人等との面会を許すのが原則となるというべきである。

 (2) もっとも,刑事施設においては,その施設の目的や性格に照らし,未決拘禁者を含む被収容者の収容を確保し,その処遇のための適切な環境及び安全かつ平穏な共同生活を維持する必要があるため,規律及び秩序が適正に維持されなければならない(刑事収容施設法1条,73条参照)。そして,刑事収容施設法79条1項2号は,被収容者が同号イからハまでのいずれかに該当する場合において,刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときには,被収容者を保護室に収容することができるものとしており,同条3項及び4項は,その収容の期間を制限した上,収容の必要がなくなったときは直ちにその収容を中止させなければならないものとしている。その一方で,刑事収容施設法は,保護室に収容されている未決拘禁者と弁護人等との面会については特に定めを置いていない。これは,保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあったとしても,その許否を判断する時点において未決拘禁者が同条1項2号に該当する場合には,刑事施設の長が,刑事施設の規律及び秩序を維持するため,面会を許さない措置をとることができることを前提としているものと解される。上記時点において未決拘禁者が同号に該当するか否かは,未決拘禁者に係る具体的な状況を踏まえて判断されるべきものであるが,その判断に当たっては,未決拘禁者が,刑務官の制止に従わず大声又は騒音を発するなど同号に該当するとして保護室に収容されている場合であっても、面会の申出が弁護人等からあった事実を告げられれば,面会するために大声又は騒音を発することをやめるなどして同号に該当しないこととなる可能性もあることが考慮されるべきである。

 (3) 上記(1)及び(2)の刑訴法及び刑事収容施設法の趣旨等に鑑みると,刑事施設の長は,未決拘禁者が刑事収容施設法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている場合において面会の申出が弁護人等からあったときは,未決拘禁者が極度の興奮による錯乱状態にある場合のように,精神的に著しく不安定であることなどにより上記申出があった事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかな場合を除き,直ちに未決拘禁者に同事実を告げなければならず,これに対する未決拘禁者の反応等を確認した上で,それでもなお未決拘禁者が同号に該当するか否かを判断し,同号に該当しない場合には,同条4項により直ちに保護室への収容を中止させて刑事収容施設法115条等により未決拘禁者と弁護人等との面会を許さなければならないというべきである。

 そうすると,刑事収容施設法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は,未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り,未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。

 (4) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,福岡拘置所において刑事収容施設法79条1項2号イに該当するとして保護室に収容されていた被告人である上告人X1との面会を求める本件申出が,その弁護人である上告人X2からあったのに対し,同拘置所の職員は,本件申出があった事実を上告人X1に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さなかったものである。上告人X1は,本件申出の前後にわたり保護室において大声を発していたが,当時精神的にどの程度不安定な状態にあったかは明らかではなく,意図的に抗議行動として大声を発していたとみる余地もあるところ,本件申出があった事実を告げられれば,上告人X2と面会するために大声を発するのをやめる可能性があったことを直ちに否定することはできず,前記2(2),(3)の上告人X1の言動に係る事情のみをもって,前記特段の事情があったものということはできない。

 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らの接見交通権の侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官池上政幸の補足意見がある。

 裁判官池上政幸の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に補足して次のとおりの意見を述べておきたい。

 1 刑事収容施設法73条2項は,刑事施設の規律及び秩序の維持という目的を達成するために執られる措置は必要な限度を超えてはならないとする比例原則を規定したものと解され,刑事収容施設法における刑事施設の規律及び秩序を維持するための措置についての他の規定も,必要な限度を超える措置が許されないものであることを踏まえて設けられたものと考えられる。

 保護室への収容(刑事収容施設法79条)は,こうした措置の一つであり,同条1項2号は,被収容者が同号イからハまでのいずれかに該当する場合において,刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときに,被収容者を保護室に収容することができる旨を規定している。この「特に必要があるとき」という要件は,保護室への収容が,特殊な収容形態であり,被収容者の心身に重大な影響を与えるおそれもあることから,それに見合った高度の必要性がある場合に限る趣旨で規定されたものと解される。このような規定の文理や趣旨等に照らすと,「特に必要があるとき」とは,被収容者が著しく不安定な精神状態にある場合に限られるものではなく,被収容者が意図的に抗議行動として大声等を発するなどしており,状況に応じてその行動を自制することができる場合であっても,現に同号イからハまでのいずれかに該当し,刑事施設の規律及び秩序を維持するため上記高度の必要性があるときは、保護室に収容する措置を執ることができるものと解するのが相当である。

 2 他方,未決拘禁者が刑事収容施設法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている場合であっても,面会の申出が弁護人等からあったときは,刑事施設の長は,保護室収容中の未決拘禁者の中には,上記1のように弁護人等と面会するためであれば大声等を発するなどの行動を自制することが可能な状態にある者も含まれることをも考慮に入れて面会の許否を判断しなければならない。そのため,刑事施設の長は,未決拘禁者が,上記申出があった事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がある場合を除き,直ちに未決拘禁者に上記申出があった事実を告げなければならないと考えられる(なお,付言すると,「特段の事情」は,精神状態に起因するものに限らないが,法廷意見が例示する「未決拘禁者が極度の興奮による錯乱状態にある場合」のように,未決拘禁者が,上記申出があった事実を告げられても,その告知内容を理解すること又はこれに的確な対応をすることが著しく困難な状況にあるために,上記告知をすることが実質的に意味を持たないような場合をいうものと解される。そこで,刑事施設の長としては,上記申出を受けた後,直ちに,室内監視カメラのモニターで未決拘禁者の動静を確認するにとどまらず保護室に赴いてその状況を現認し,上記特段の事情がない限り,まずは未決拘禁者に上記告知をし,これに対する未決拘禁者の反応等を確認することが求められ,その上で,確認した未決拘禁者に係る具体的な状況を踏まえて,当該時点において未決拘禁者が依然として同号に該当するか否かを判断し,面会の許否を決する必要があるといえよう。)。

(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚 裁判官 深山卓也)

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