一時金賠償と定期金賠償 東京高裁平成15年
民事訴訟法判例百選 第5版 A25
損害賠償請求控訴事件
東京高等裁判所判決/平成14年(ネ)第5039号
平成15年7月29日
【判示事項】 損害賠償請求権者が一時金賠償方式による支払を求めている場合に、定期金賠償方式による支払が命じられた事例
【参照条文】 民法709
民事訴訟法117
自動車損害賠償保障法3
【掲載誌】 判例時報1838号69頁
【評釈論文】 朝日法学論集32号55頁
ジュリスト臨時増刊1269号134頁
判例評論546号7頁
法学研究(慶応大)78巻3号85頁
NBL1107号74頁
主 文
一 原判決中、被控訴人甲野花子に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、金四九三九万一九〇八円及びこれに対する平成九年三月二二日から支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。
(2) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、平成一五年六月二五日からその死亡又は被控訴人甲野花子が満八四歳に達するまでのいずれか早い方の時期に至るまでの間、一か月金二五万円の金員を、毎月二四日限り支払え。
(3) 被控訴人甲野花子のその余の請求を棄却する。
二 被控訴人甲野一江、被控訴人甲野二江及び被控訴人甲野梅子に対する控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その二を被控訴人らの負担とし、その余は控訴人の負担とする。
四 この判決一項の(2)は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消しに係る被控訴人らの請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
(以下、被控訴人らについては名前のみで特定する。)
本件は、交通事故による脳挫傷後遺状態から回復せずに意識障害が残存したままのいわゆる植物状態に陥った被控訴人花子が自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条に基づいて、逸失利益、介護費用、慰謝料等の合計一億一三八六万三四四四円の損害賠償を求め、被控訴人花子の長女である被控訴人一江が三〇〇万円、同二女である被控訴人二江が二〇〇万円、同母である被控訴人梅子が一〇〇万円の各慰謝料の支払を求めている事案である。
二 第一審は、被控訴人花子につき、その推定余命年数が通常人より短いと認めることはできないとした上、逸失利益について生活費控除割合を二〇パーセントとして算定し、将来の介護費用について定期金賠償方式を採用すべきではないなどとして、合計九四一四万三二三九円及び遅延損害金の限度で請求を一部認容し、また、被控訴人一江につき二〇〇万円、被控訴人二江につき一五〇万円、被控訴人梅子につき一〇〇万円の各慰謝料及び遅延損害金を認容し、その余を棄却した。
三 争いのない事実
〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉
(1) 事故の発生
次の事故が発生した(以下「本件交通事故」という。)
発生日時 平成九年三月二二日午後一〇時三〇分ころ
発生場所 千葉県東金市《番地略》先路上
加害車両 普通乗用自動車(《ナンバー略》)
運転者 控訴人
所有者 控訴人
被害車両 普通貨物自動車(《ナンバー略》)
運転者 訴外丙川春夫
同乗者 被控訴人花子(昭和三〇年六月二九日生)
事故状況 前記日時場所において、控訴人が泥酔状態で加害車両を運転したため、進路前方の安全確認義務を果たすことができず、停止中の被害車両に追突し、その反動で、被害車両が道路脇の生け垣、電柱等に衝突した。
(2) 責任原因
本件事故は、控訴人の酒酔い運転及び前方不注視の過失により惹起されたものであるとともに、控訴人は前記加害車両を保有し、これを自己の運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条に基づき、被控訴人花子に生じた損害を賠償する責任がある。
(3) 損害の発生
本件事故により、被控訴人花子は脳挫傷、右上腕骨々折、全身打撲の傷害を負い、次のとおり治療を受けた。
ア 浜野病院
平成九年三月二二日通院(ただし、同病院に救急搬送されて応急処置を施され、直ちに千葉県救急医療センターに転送)
イ 千葉県救急医療センター
平成九年三月二三日から同年八月四日まで一三五日間入院
ウ 国保成東病院
平成九年八月四日から同年一〇月二四日まで八二日間入院
エ 九十九里病院
平成九年一〇月二四日から平成一〇年五月三一日まで二二〇日間入院
オ 上記治療のかいもなく、被控訴人花子は脳挫傷後遺状態から回復せずに意識障害(失外套状態)が残存したまま平成一〇年五月三一日に症状固定となり、後遺障害等級事前認定の結果、一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し常に介護を要するもの)の認定がされた。被控訴人花子は、その後も意識が回復しないまま、九十九里病院に入院を継続中である。
(4) 既払金
被控訴人花子は、本件事故に関する自動車損害賠償責任保険金(以下「自賠責保険金」という。)として三〇〇〇万円の支払を受けた。
四 主要な争点
(1) 被控訴人花子の推定余命年数
(2) 定期金賠償方式採用の当否
(3) 被控訴人花子の逸失利益算定における労働能力喪失期間及び将来介護料算定の看護期間等
(4) 支給された高額療養費還付金を損害填補とみなすことの可否
五 主要な争点に対する当事者の主張
(1) 被控訴人花子の推定余命年数について
ア 控訴人の主張
(ア) 被控訴人花子は、意識のない寝たきりの状態、いわゆる植物状態にある。本件事故直後から昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過、平成九年一〇月二五日以降の三度の頭部MRIでは両側大脳の萎縮と脳幹の萎縮が認められるなどの画像所見から、びまん性軸索損傷と考えられ、後遺障害診断書によると、失外套状態にあるとされている。
(イ) 寝たきり者は、通常人よりも何らかのトラブル(痰詰りや易感染性など)に巻き込まれる確率が高い可能性を示唆し、又はそのトラブルからの回復力の低さ(詰った痰を咳で出す能力の低さや生じた感染に対する抵抗力の低さなど)を示し、その生存余命は現在の医療・社会環境である一定の規則に従って、通常人よりも低いといわねばならない。
(ウ) 平成四年自動車事故対策センターの寝たきり者のデータに基づけば、事故時四〇歳代の事故後四年経過時点における、平均余命等は次のとおりである。
① 五年後の生存率は〇・四五〇、死亡率は〇・四七五である。
② 一〇年後の生存率は〇・二二六、死亡率は〇・六六二である。
③ 一五年後の生存率は〇・一二一、死亡率は〇・七六七である。
④ 二〇年後の生存率は〇・〇六五、死亡率は〇・八二三である。
⑤ 平均余命は六・三年である。
(エ) 被控訴人花子は、これまでは、比較的安定していたが、年齢が若く病院の介護レベルが高いため、大きな問題とならずに経過したと考えられるが、今後は加齢に伴って更に内蔵機能・免疫機能が低下し、肺炎・尿路感染・褥瘡が問題となってくるはずである。
(オ) 口頭弁論終結時に死亡の結果発生の可能性が具体化していなければ直ちに平均余命まで生存すると認定することは、被害者保護に重きを置くあまり、逆に加害者にとっては酷にすぎる結果となる可能性が高く、ひいては裁判に対する一般人の公平観を揺るがせる危険も否定できないと指摘されている。
(カ) 以上から、将来の介護費用の算定において、被控訴人花子の推定余命年数は、せいぜい症状固定時から一〇年間と認定すべきである。
イ 被控訴人花子の主張
植物状態患者の平均余命については、これまで、平均余命より短い期間を認定した原審の判断を支持した最高裁判決が二件ある(最高裁判所昭和六三年六月一七日判決、同平成六年一一月二四日判決)が、両判決とも、「余命期間は事実認定の問題であり、平均余命より短い期間を認定した原審の事実認定が違法とはいえない」としたものにすぎず、先例的な価値は乏しいとされている。下級審判決には平均余命より制限して認定するものもあるが、裁判実務の大勢は平均余命により認定する扱いである。被控訴人花子が入院している九十九里病院の担当医師によれば、被控訴人花子の状態は安定しており、生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染、敗血症など)を併発したことはこれまでになく、九十九里病院ではこのような感染症の併発予防を行っており、仮にこのような感染症が併発しても、それに対する治療も行えるのである。
したがって、被控訴人花子の状態は安定しており、平均余命までの生存期間が認定されるべきである。
(2) 定期金(年金)賠償について
ア 控訴人の主張
仮に、被控訴人の推定余命年数について、平均余命よりも短いとする事実認定ができないとするならば、前述したとおり、口頭弁論終結時に死亡の結果発生の可能性が具体化していなければ直ちに平均余命まで生存すると認定することは、加害者にとっては酷にすぎる結果となる可能性が高い。
そこで、被害者保護を確保することを当然の前提とし(現実の生存期間にわたっての介護費用が賠償されるよう確保して)、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに賠償義務を加害者に負わせる方法として、定期金賠償の方法が検討されねばならない。
イ 被控訴人花子の主張
(ア) 人身事故賠償において、治療費や通院交通費、休業損害などの現実損害については実損害の賠償額算定は容易である。しかし、死亡や後遺障害に伴う逸失利益は、将来の確実な収入は見込まれるものの未だ現実に発生していない損害であるから、口頭弁論終結時において賠償額を算定するのは一種の擬制であるし、本件で問題になっている植物状態患者についてはその生存期間を確定できないところから、将来介護費用の算定については一層擬制的とならざるを得ない。
しかしながら、これまでの実務においては、それが擬制的な算定であることを踏まえた上で、一時金賠償の方式を取ってきている。定期金賠償を認めた下級審判例も散見されるが、最高裁判所昭和六二年二月六日第二小法廷判決・裁判集民事一五〇号七九頁は、「損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当である。」としており、この判例は現在まで変更されていない。
(イ) 将来の介護費用の算定には擬制的にならざるを得ないことから、定期金方式の賠償の必要性・有用性が広く認識されていた。それにもかかわらず一時金賠償が実務の大勢を占めてきた主たる理由は、①貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、②賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになる、というものであった。この内、①の点については民事訴訟法の改正により一一七条において定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えの制度が新設されて問題は一応解決された。しかしながら②の点については未だに解決されていないのである。保険会社が支払義務者である場合には将来の履行は保証されているとの見解もあろうが、昨今のように保険の自由化が進み、保険会社間の競争が激化し、損害保険会社が破産するという経済情勢では、そのような過度の期待はできないといわなければならない。特に、損害保険会社の合併による統合が進んでいる状況にあって、控訴人が加入している富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災」という。)だけが合併から取り残されてしまい、資本参加を受けざるを得ない極めて厳しい経営状況にある。
したがって、定期金賠償が制度化されるためには、被害者のための担保供与制度の立法化とか、公的機関・制度を新設して、将来の履行を確保することが不可欠なのである。しかしながら、このような履行確保の制度が整っていない現状においては、介護費用の算定についても、軽々しく定期金賠償方式を取るべきではない。
(3) 被控訴人花子の逸失利益算定における生活費控除及び将来介護料算定の看護期間等
ア 控訴人の主張
(ア) 被控訴人花子の将来介護料算定における要看護期間は、症状固定後一〇年間であると解すべきである。
(イ) 被控訴人花子の将来の生活に必要な費用は、専ら入院治療費ないし看護費用に限られるから、逸失利益算定においては五割の生活費控除をすべきである。
イ 被控訴人花子の主張
(ア) 被控訴人花子の将来介護料算定の要看護期間については、被控訴人花子は本件事故により植物状態になったのであって、本件事故がなければ通常の人生を生き、平均余命を全うすることができたものであるから、平均余命までの期間を要看護期間として将来看護料を算定すべきである。
(イ) 植物状態患者の生活費を控除した判決例も散見されるが、裁判実務の大勢は控除しないとされている。植物状態の患者だからといって、寝間着程度しか衣服の必要がない等と決めつけるのは、患者の人間としての尊厳を否定するものである。植物状態患者についても、でき得る限り良好な、一般人と同様の環境下での治療、介護を行うべきとの要請を否定すべきではない。因みに、学説では「純粋な意味での生活費は一般人と比較して少ないものの死者と全く同視することはできないとして、死亡の場合より控えめな生活費控除(一〇~二〇%程度)をすべき」との見解が多数であるが、本件において、介護費用については実際に係る費用しか請求しておらず、近親者が毎日のように被控訴人花子の具体的な介護のために病院を訪れる費用については請求していないのであるから、このような実際の家族の負担する介護費用との調整を図る意味でも、生活費控除は行うべきではない。
(4) 支給された高額療養費還付金を損害填補とみなすことの可否
ア 控訴人の主張
被控訴人花子は、将来介護料として、少なくとも月額二五万円を請求している。被控訴人花子は、症状固定後現在まで九十九里病院に入院中であり、同病院は完全看護で近親者の介護は必要ない。そうだとすれば、病院の入院費等の医療費が損害というべきものである。被控訴人花子は、国民健康保険法五七条の二、同法施行令二九条の二に基づく地方自治体の高額療養費還付制度により、光町から、症状固定後の平成一〇年六月からの入院に伴う医療費につき、同月から平成一四年一一月までの五四か月分として合計五三五万一九二二円(一か月平均九万九一〇九円)の支給を受けている。国民健康保険法の高額療養費については、保険給付を行った保険者は、給付事由を生じさせた第三者に対して有する被保険者の損害賠償請求権を代位取得する一方、受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者はその価格の限度において保険給付を行う責を免れるとされている(同法六四条一項、二項)から、被保険者に対する損害を填補する性質をも有するものである。
したがって、高額療養費還付金は、被控訴人花子の損害の填補であるから、被控訴人花子の損害額から控除されなければならない。
イ 被控訴人花子の主張
被控訴人花子を入院先の九十九里病院から実家に引き取って介護することは不可能な状況にあるため、被控訴人花子は、将来にわたって入院を継続する必要があり、その費用として毎月、入院代約一一万円、食事負担金二万三五六〇円、貸しオムツ代四万〇三〇〇円、業務委託料七万七五〇〇円の合計二五万一三六〇円の費用を支払っている。この金額には、毎日のように被控訴人花子を介護に訪れるその余の被控訴人ら家族の付添看護費や交通費用は含まれていないのである。したがって、被控訴人花子の看護費用としては、毎月二五万円が必要である。
被控訴人花子の症状固定後に給付される高額療養費還付金は治療費ではなく、実質的には介護料として意味を有し、社会保障の一環として多額の医療費の負担に耐えられない被控訴人花子に対し、社会福祉の観点からなされるもので、損害の填補を目的としたものではない。また、各地方自治体は厳しい財政状況に置かれているのであり、高額療養費が将来にわたって現在の水準で給付されるかは不確実である。そうすると、既に被控訴人花子が受領した高額療養費については控除されるとしても、将来の高額療養費については、介護費用から控除すべきでない。
第三 当裁判所の判断
一 被控訴人花子の推定余命について
控訴人は、被控訴人花子がいわゆる植物状態にあることから、その生存余命は現在の医療・社会環境である一定の規則に従って、通常人よりも短く、被控訴人花子の推定余命年数は、せいぜい症状固定時から一〇年間と認定すべきである旨主張する。確かに、《証拠略》によれば、統計的には、一般的に植物状態の患者の生存率は年数を経過するにつれて低下し、平均余命は通常人に比較してかなり短く、平成四年自動車事故対策センターの寝たきり者に関する資料に基づけば、事故時四〇歳代の事故後六年経過時点における平均余命等は次のとおりであることが認められる。
① 五年後の生存率は〇・四四六、死亡率は〇・五〇五である。
② 一〇年後の生存率は〇・二四七、死亡率は〇・六六〇である。
③ 一五年後の生存率は〇・一三三、死亡率は〇・七七四である。
④ 二〇年後の生存率は〇・〇七一、死亡率は〇・八三六である。
⑤ 平均余命は六・七年である。
《証拠略》を併せると、被控訴人花子は、本件事故直後からの昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過や平成九年一〇月二五日以降における三度の頭部MRIに認められる両側大脳と脳幹の萎縮などの画像所見から、びまん性軸索損傷の障害があると考えられ、後遺障害診断書では失外套状態にあると診断されたこと、しかし、既に本件事故時から六年以上、症状固定時から五年以上が経過しているが、被控訴人花子の本件事故後における身体の状態は、九十九里病院の看護状況のほか被控訴人花子の母被控訴人梅子、長女被控訴人一江、二女被控訴人二江、兄甲野竹夫らの献身的看護もあって、安定しており、これまでに生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染、敗血症など)を併発したことはなく、現在も直ちに生命の危険を推認させる事情は見当たらないこと、以上の事実が認められる。そうすると、被控訴人花子の推定余命年数は、植物状態の寝たきり者について推定余命が短いとの統計的な数値のみで症状固定時から一〇年程度であると推測することはできないが、同寝たきり者について推定余命が短いことは統計的に認めざるを得ない。
しかしながら、被控訴人花子の現実の余命は本件事故によって短くなったのであり、そのこと自体による被控訴人花子の逸失利益の喪失も本件事故と相当因果関係があるから、結局、被控訴人花子の逸失利益の損害は本件事故前の被控訴人花子の統計的稼働年数を基に算定すべきことになる。被控訴人花子の本件事故後の現実の余命の減少は、将来の介護費用損害の算定に大きく影響を及ぼす可能性があるから、その損害賠償方式において考慮すべき事柄である。
二 被控訴人花子の損害
(1) 入院雑費【請求額五六万八一〇〇円】
五六万八一〇〇円
本件事故時である平成九年三月二三日から症状固定時である平成一〇年五月三一日までの間の入院に要した雑費について、一日当たり一三〇〇円として入院四三七日分(退院日と入院日との重複を含む。)を認めるのが相当である。
(2) 近親者の付添看護費(交通費を含む。)【請求額一三一万一〇〇〇円】
一三一万一〇〇〇円
前記(1)の入院期間について、被控訴人花子が脳挫傷による意識障害という大怪我をしたことにより家族が毎日のように病院を訪れて身の回りの世話をしていたことに基づく近親者の付添看護費として交通費を含めて一日当たり三〇〇〇円とし、入院四三七日分(退院日と入院日との重複を含む。)を認めるのが相当である。
(3) 車椅子代【請求額一〇万九四五〇円】
一〇万九四五〇円
ベッドメイキング、検査などで移動する場合に必要である。
(4) 介護費用【請求額五二六三万七七〇〇円】
ア 過去分 一一六九万一八四〇円
《証拠略》によれば、被控訴人花子は、症状固定日の翌日である平成一〇年六月一日から本訴口頭弁論終結時である平成一五年六月二四日までの間、その介護費用として、少なくとも、毎月二五万円を要したことが認められ、その金額である一五二〇万円を基礎に、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(六年のライプニッツ係数〇・九五二三を差し引いた〇・七六九二を乗じる)算定すると、上記金額となる。
250,000×(12×5+24÷30)×0.7692=1169万1840円
イ 将来分
《証拠略》によれば、被控訴人花子は、本訴口頭弁論終結の日の翌日である平成一五年六月二五日から死亡までの間、その介護費用として、少なくとも、毎月二五万円を要することが認められる。
控訴人は、将来介護費用の損害賠償について、被害者保護を確保することを当然の前提として、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに賠償義務を加害者に負わせる方法として定期金賠償の方法によるべきであると主張する。
確かに、介護費用はもともと定期的に支弁しなければならない費用であり、植物状態となった被控訴人花子の推定的余命年数については少なくとも現時点から二〇年ないし三〇年と推認することは困難であるものの、この推定余命年数は少ない統計データを基礎にするものであり、現実の余命と異なり得るものであることはもちろん、被控訴人花子の身体状態、看護状況、医療態勢や医療技術の向上の一方で、思わぬ事態の急変もあり得ることなどを考慮すると、概ねの推定年数としても確率の高いものともいい難い。そうすると、推定的余命年数を前提として一時金に還元して介護費用を賠償させた場合には、賠償額は過多あるいは過少となってかえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険がある。このような危険を回避するためには、余命期間にわたり継続して必要となる介護費用という現実損害の性格に即して、現実の生存期間にわたり定期的に支弁して賠償する定期金賠償方式を採用することは、それによることが明らかに不相当であるという事情のない限り、合理的といえる。
これに対し、被控訴人花子は、損害賠償請求権利者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることができないとし、その理由として、これを命ずることについての問題点とされていた、①貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、②賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになることの内、①の点は平成八年法律第一〇九号として制定された民事訴訟法一一七条において、定期金による賠償を命じた確定判決についての変更を求める訴えの制度が設けられて解決したといえても、②の点は、未だ問題として残されたままではあることを指摘する。しかし、一時金による将来介護費用の損害賠償を命じても、賠償義務者にその支払能力がない危険性も大きいし、賠償義務者が任意に損害保険会社と保険契約を締結している場合には、保険会社が保険者として賠償義務を履行することになるから、不履行の危険性は少なくなるものといい得る。《証拠略》によれば、控訴人は、自動車事故による損害を填補するため、富士火災と任意に損害保険契約を締結していたことが認められるから、控訴人の損害賠償義務は保険者である富士火災が履行することになると推認される。もっとも、《証拠略》を併せると、富士火災は平成一三年九月中間決算期に経常損益が赤字であるなど経営状況が安定しているとはいい難く、近年は保険自由化が進み、保険会社間の競争も激化し、下位の損害保険会社の中には倒産したものがあったことが認められるが、富士火災が将来破産など倒産するとまで予測することはできない。そうであれば、被控訴人花子の将来介護費用の損害賠償債権は、その履行の確保という面では一時金方式であっても定期金賠償方式であっても合理性を欠く事情があるとはいえないし、民事訴訟法一一七条の活用による不合理な事態の回避も可能であるから、将来の介護費用損害に定期金賠償方式を否定すべき理由はない(なお、被控訴人花子は、介護費用についても定期金による賠償について反対しているものの、第一審における二〇〇二年五月一七日付け準備書面においては、その試算を前提に定期金による賠償も魅力的なものとの意見を示していた。)。以上によれば、被控訴人花子の将来の介護費用損害については、被控訴人花子の請求する将来の介護費用損害を超えない限度で、控訴人に対し、定期金による賠償を命ずるのが相当である。
そして、その期間については、被控訴人花子の推定余命期間が確定したものではないから、平成一五年六月二五日から被控訴人花子が主張通常の平均余命までの期間を超えない限度で、これが確定する死亡又は平均余命の八四歳に達するまでのいずれかの時期までとし、支払方法については、毎月二四日限り前月二五日からの一か月分を支払うこととするのが相当である。
(5) 禁治産宣告手続費用【請求額一〇万五四一九円】
一〇万五四一九円
本件事故に基づく損害賠償請求をするために禁治産宣告の申立てをした手続費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(6) 休業損害【請求額四五二万〇二五六円】
四五二万〇二五六円
賃金センサス平成九年女子労働者学歴計四〇歳から四四歳の年収金三七七万五五〇〇円を基礎に、症状固定日までの四三七日間について認めるのが相当である。
3,775,500÷365×437=4,520,256
(7) 逸失利益【請求額五三二一万一五一九円】
四〇五四万二二二五円
被控訴人花子は、本件事故当時四一歳、症状固定時四二歳であったから、本件事故がなければ、四二歳から六七歳までの二五年間就労可能であった。そこで、本件事故時の前記(6)の年収額三七七万五五〇〇円を基礎に、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとしてライプニッツ方式により中間利息を控除して(四一歳から六七歳までのライプニッツ係数一四・三七五一から、四一歳から症状固定時年齢四二歳までのライプニッツ係数〇・九五二三を差し引いた一三・四二二八を乗じる。)算定するのが相当である。
3,775,500×(1-0.2)×13.4228=40,542,225
なお、被控訴人花子の将来の生活に必要な費用については、植物状態の寝たきり者についても、でき得る限り良好な、一般人と同様の環境下での治療、介護を行うべきであり、被控訴人花子が完全介護状態にあることを考慮して二〇パーセントの割合による生活費控除をするのが相当である。
(8) 入院慰謝料【請求額三七〇万円】
三二〇万円
被控訴人花子は、本件事故時である平成九年三月二三日から症状固定時である平成一〇年五月三一日までの間入院したところ、その精神的苦痛に対する慰謝料は三二〇万円が相当である。
(9) 後遺障害慰謝料【請求額二〇〇〇万円】
二〇〇〇万円
被控訴人花子は、本件事故によって回復不可能で後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を負い、意識のないままに残りの人生を寝たきりの状態で生きていかねばならないところ、その精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。
(10) 以上一時金小計
八二〇四万八二九〇円
(11) 損害の填補
四〇三五万六三八二円
ア 自賠責保険 三〇〇〇万円
イ 入院雑費 四三万円
ウ 看護費 二三四万六六六〇円
エ 休業補償費 二二二万七八〇〇円
オ 高額療養費還付金
五三五万一九二二円
《証拠略》によれば、被控訴人花子の本件事故後の平成一〇年六月から平成一四年一一月までの入院に伴う医療費の内、合計五三五万一九二二円が、国民健康保険法五七条の二、同法施行令二九条の二に基づく地方自治体の高額療養費還付制度により、光町から被控訴人花子に対して支給されたことが認められる。国民健康保険法の高額療養費還付金については、保険給付を行った保険者は、給付事由を生じさせた第三者に対して有する被保険者の損害賠償請求権を代位取得する一方、受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者はその価格の限度において保険給付を行う責を免れるとされている(同法六四条一項、二項)から、保険契約者である加害者の被害者である被保険者に対する損害を填補する性質をも有するものと認められる。
したがって、前記支給に係る高額療養費の還付金は、被控訴人花子の損害を填補するものと認められるから、被控訴人花子の損害額から控除すべきである。
(12) 以上によれば、被控訴人花子の一時金として賠償されるべき損害は、合計額八二〇四万八二九〇円から填補済みの四〇三五万六三八二円を控除すると、四一六九万一九〇八円となる。
(13) 弁護士費用【請求額七七〇万円】
七七〇万円
被控訴人花子の損害についての弁護士費用は、本件事案の難易等本件について認められる一切の事情を考慮すると、七七〇万円が相当である。
(14) 以上一時金認容額
四九三九万一九〇八円
三 被控訴人一江の慰謝料【請求額三〇〇万円】
二〇〇万円
《証拠略》によれば、被控訴人一江は、被控訴人花子の長女であり、本件事故が発生した平成九年三月二二日当時、高校を卒業して短大への進学が決まっており、入学金や授業料の半年分として合計約七〇万円を支払済みで、進学する短大の制服も購入し、同年四月からの短大生としての新しい生活を夢見ていたこと、しかるに、本件事故によって毎日を母親の付添看護に付きっ切りの生活に陥り、短大進学など叶わない状況になってしまったこと、しかも、母親の意識は事故後も回復せず、事故後既に三年を経過しようとしているが、この間、家族と共に母親の付添看護に努めてきており、母親の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては二〇〇万円が相当である。
四 被控訴人二江の慰謝料【請求額二〇〇万円】
一五〇万円
《証拠略》によれば、被控訴人二江は、被控訴人花子の二女であり、本件事故当時、中学を卒業し、高校進学の目前であったこと、一五歳という多感な時期に、たった一人の頼るべき母親が回復不能な意識喪失状態に陥り、事故後も現在に至るまで家族と共にその看護に努めてきており、母親の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては一五〇万円が相当である。
五 被控訴人梅子の慰謝料【請求額一〇〇万円】
一〇〇万円
《証拠略》によれば、被控訴人梅子は、被控訴人花子の実母であり、離婚して二人の娘を引き取って生活している被控訴人花子ら家族の将来を思いやり、何かと支えてきたこと、しかし、本件事故により意識を喪失した状態で一生を生きていかなければならない被控訴人花子の身の回りの世話を続けていかなければならず、更に、二人の孫娘の行く末をも心配せざるを得ない状況となり、正に被害者の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては一〇〇万円が相当である。
六 以上によれば、被控訴人らの本件請求は、不法行為に基づき、被控訴人花子については、損害金四九三九万一九〇八円及びこれに対する不法行為の日である平成九年三月二二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の遅延損害金並びに本訴口頭弁論終結の日の翌日である平成一五年六月二五日からその死亡又は八四歳に達するまでのいずれか早い方の時期までの間、一か月金二五万円の金員を、毎月二四日限り支払を求める限度で、被控訴人一江については、慰謝料二〇〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金の限度で、被控訴人二江については、慰謝料一五〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金の限度で、被控訴人梅子については、慰謝料一〇〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金について理由があるから、これを認容すべきであるが、その余の請求はいずれも理由がなく棄却すべきである。
よって、原判決中これと結論を異にする被控訴人花子に関する部分を変更し、その余の被控訴人らの部分に関し同旨の原判決部分は相当であるから、同部分に対する控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 納谷 肇 任介辰哉)