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2020年10月

一時金賠償と定期金賠償 東京高裁平成15年

民事訴訟法判例百選 第5版 A25

              損害賠償請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成14年(ネ)第5039号

平成15年7月29日

【判示事項】       損害賠償請求権者が一時金賠償方式による支払を求めている場合に、定期金賠償方式による支払が命じられた事例

【参照条文】       民法709

             民事訴訟法117

             自動車損害賠償保障法3

【掲載誌】        判例時報1838号69頁

【評釈論文】       朝日法学論集32号55頁

             ジュリスト臨時増刊1269号134頁

             判例評論546号7頁

             法学研究(慶応大)78巻3号85頁

             NBL1107号74頁

 

       主   文

 

 一 原判決中、被控訴人甲野花子に関する部分を次のとおり変更する。

  (1) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、金四九三九万一九〇八円及びこれに対する平成九年三月二二日から支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。

  (2) 控訴人は、被控訴人甲野花子に対し、平成一五年六月二五日からその死亡又は被控訴人甲野花子が満八四歳に達するまでのいずれか早い方の時期に至るまでの間、一か月金二五万円の金員を、毎月二四日限り支払え。

  (3) 被控訴人甲野花子のその余の請求を棄却する。

 二 被控訴人甲野一江、被控訴人甲野二江及び被控訴人甲野梅子に対する控訴を棄却する。

 三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その二を被控訴人らの負担とし、その余は控訴人の負担とする。

 四 この判決一項の(2)は、仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 控訴の趣旨

 (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

 (2) 上記取消しに係る被控訴人らの請求を棄却する。

 (3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

 二 控訴の趣旨に対する答弁

 (1) 本件控訴を棄却する。

 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 事案の概要

 一 事案の要旨

 (以下、被控訴人らについては名前のみで特定する。)

 本件は、交通事故による脳挫傷後遺状態から回復せずに意識障害が残存したままのいわゆる植物状態に陥った被控訴人花子が自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条に基づいて、逸失利益、介護費用、慰謝料等の合計一億一三八六万三四四四円の損害賠償を求め、被控訴人花子の長女である被控訴人一江が三〇〇万円、同二女である被控訴人二江が二〇〇万円、同母である被控訴人梅子が一〇〇万円の各慰謝料の支払を求めている事案である。

 二 第一審は、被控訴人花子につき、その推定余命年数が通常人より短いと認めることはできないとした上、逸失利益について生活費控除割合を二〇パーセントとして算定し、将来の介護費用について定期金賠償方式を採用すべきではないなどとして、合計九四一四万三二三九円及び遅延損害金の限度で請求を一部認容し、また、被控訴人一江につき二〇〇万円、被控訴人二江につき一五〇万円、被控訴人梅子につき一〇〇万円の各慰謝料及び遅延損害金を認容し、その余を棄却した。

 三 争いのない事実

        〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉

 (1) 事故の発生

 次の事故が発生した(以下「本件交通事故」という。)

 発生日時 平成九年三月二二日午後一〇時三〇分ころ

 発生場所 千葉県東金市《番地略》先路上

 加害車両 普通乗用自動車(《ナンバー略》)

 運転者  控訴人

 所有者  控訴人

 被害車両 普通貨物自動車(《ナンバー略》)

 運転者  訴外丙川春夫

 同乗者  被控訴人花子(昭和三〇年六月二九日生)

 事故状況 前記日時場所において、控訴人が泥酔状態で加害車両を運転したため、進路前方の安全確認義務を果たすことができず、停止中の被害車両に追突し、その反動で、被害車両が道路脇の生け垣、電柱等に衝突した。

 (2) 責任原因

 本件事故は、控訴人の酒酔い運転及び前方不注視の過失により惹起されたものであるとともに、控訴人は前記加害車両を保有し、これを自己の運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条に基づき、被控訴人花子に生じた損害を賠償する責任がある。

 (3) 損害の発生

 本件事故により、被控訴人花子は脳挫傷、右上腕骨々折、全身打撲の傷害を負い、次のとおり治療を受けた。

 ア 浜野病院

 平成九年三月二二日通院(ただし、同病院に救急搬送されて応急処置を施され、直ちに千葉県救急医療センターに転送)

 イ 千葉県救急医療センター

 平成九年三月二三日から同年八月四日まで一三五日間入院

 ウ 国保成東病院

 平成九年八月四日から同年一〇月二四日まで八二日間入院

 エ 九十九里病院

 平成九年一〇月二四日から平成一〇年五月三一日まで二二〇日間入院

 オ 上記治療のかいもなく、被控訴人花子は脳挫傷後遺状態から回復せずに意識障害(失外套状態)が残存したまま平成一〇年五月三一日に症状固定となり、後遺障害等級事前認定の結果、一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し常に介護を要するもの)の認定がされた。被控訴人花子は、その後も意識が回復しないまま、九十九里病院に入院を継続中である。

 (4) 既払金

 被控訴人花子は、本件事故に関する自動車損害賠償責任保険金(以下「自賠責保険金」という。)として三〇〇〇万円の支払を受けた。

 四 主要な争点

 (1) 被控訴人花子の推定余命年数

 (2) 定期金賠償方式採用の当否

 (3) 被控訴人花子の逸失利益算定における労働能力喪失期間及び将来介護料算定の看護期間等

 (4) 支給された高額療養費還付金を損害填補とみなすことの可否

 五 主要な争点に対する当事者の主張

 (1) 被控訴人花子の推定余命年数について

 ア 控訴人の主張

  (ア) 被控訴人花子は、意識のない寝たきりの状態、いわゆる植物状態にある。本件事故直後から昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過、平成九年一〇月二五日以降の三度の頭部MRIでは両側大脳の萎縮と脳幹の萎縮が認められるなどの画像所見から、びまん性軸索損傷と考えられ、後遺障害診断書によると、失外套状態にあるとされている。

  (イ) 寝たきり者は、通常人よりも何らかのトラブル(痰詰りや易感染性など)に巻き込まれる確率が高い可能性を示唆し、又はそのトラブルからの回復力の低さ(詰った痰を咳で出す能力の低さや生じた感染に対する抵抗力の低さなど)を示し、その生存余命は現在の医療・社会環境である一定の規則に従って、通常人よりも低いといわねばならない。

  (ウ) 平成四年自動車事故対策センターの寝たきり者のデータに基づけば、事故時四〇歳代の事故後四年経過時点における、平均余命等は次のとおりである。

  ① 五年後の生存率は〇・四五〇、死亡率は〇・四七五である。

  ② 一〇年後の生存率は〇・二二六、死亡率は〇・六六二である。

  ③ 一五年後の生存率は〇・一二一、死亡率は〇・七六七である。

  ④ 二〇年後の生存率は〇・〇六五、死亡率は〇・八二三である。

  ⑤ 平均余命は六・三年である。

  (エ) 被控訴人花子は、これまでは、比較的安定していたが、年齢が若く病院の介護レベルが高いため、大きな問題とならずに経過したと考えられるが、今後は加齢に伴って更に内蔵機能・免疫機能が低下し、肺炎・尿路感染・褥瘡が問題となってくるはずである。

  (オ) 口頭弁論終結時に死亡の結果発生の可能性が具体化していなければ直ちに平均余命まで生存すると認定することは、被害者保護に重きを置くあまり、逆に加害者にとっては酷にすぎる結果となる可能性が高く、ひいては裁判に対する一般人の公平観を揺るがせる危険も否定できないと指摘されている。

  (カ) 以上から、将来の介護費用の算定において、被控訴人花子の推定余命年数は、せいぜい症状固定時から一〇年間と認定すべきである。

 イ 被控訴人花子の主張

 植物状態患者の平均余命については、これまで、平均余命より短い期間を認定した原審の判断を支持した最高裁判決が二件ある(最高裁判所昭和六三年六月一七日判決、同平成六年一一月二四日判決)が、両判決とも、「余命期間は事実認定の問題であり、平均余命より短い期間を認定した原審の事実認定が違法とはいえない」としたものにすぎず、先例的な価値は乏しいとされている。下級審判決には平均余命より制限して認定するものもあるが、裁判実務の大勢は平均余命により認定する扱いである。被控訴人花子が入院している九十九里病院の担当医師によれば、被控訴人花子の状態は安定しており、生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染、敗血症など)を併発したことはこれまでになく、九十九里病院ではこのような感染症の併発予防を行っており、仮にこのような感染症が併発しても、それに対する治療も行えるのである。

 したがって、被控訴人花子の状態は安定しており、平均余命までの生存期間が認定されるべきである。

 (2) 定期金(年金)賠償について

 ア 控訴人の主張

 仮に、被控訴人の推定余命年数について、平均余命よりも短いとする事実認定ができないとするならば、前述したとおり、口頭弁論終結時に死亡の結果発生の可能性が具体化していなければ直ちに平均余命まで生存すると認定することは、加害者にとっては酷にすぎる結果となる可能性が高い。

 そこで、被害者保護を確保することを当然の前提とし(現実の生存期間にわたっての介護費用が賠償されるよう確保して)、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに賠償義務を加害者に負わせる方法として、定期金賠償の方法が検討されねばならない。

 イ 被控訴人花子の主張

  (ア) 人身事故賠償において、治療費や通院交通費、休業損害などの現実損害については実損害の賠償額算定は容易である。しかし、死亡や後遺障害に伴う逸失利益は、将来の確実な収入は見込まれるものの未だ現実に発生していない損害であるから、口頭弁論終結時において賠償額を算定するのは一種の擬制であるし、本件で問題になっている植物状態患者についてはその生存期間を確定できないところから、将来介護費用の算定については一層擬制的とならざるを得ない。

 しかしながら、これまでの実務においては、それが擬制的な算定であることを踏まえた上で、一時金賠償の方式を取ってきている。定期金賠償を認めた下級審判例も散見されるが、最高裁判所昭和六二年二月六日第二小法廷判決・裁判集民事一五〇号七九頁は、「損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当である。」としており、この判例は現在まで変更されていない。

  (イ) 将来の介護費用の算定には擬制的にならざるを得ないことから、定期金方式の賠償の必要性・有用性が広く認識されていた。それにもかかわらず一時金賠償が実務の大勢を占めてきた主たる理由は、①貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、②賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになる、というものであった。この内、①の点については民事訴訟法の改正により一一七条において定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えの制度が新設されて問題は一応解決された。しかしながら②の点については未だに解決されていないのである。保険会社が支払義務者である場合には将来の履行は保証されているとの見解もあろうが、昨今のように保険の自由化が進み、保険会社間の競争が激化し、損害保険会社が破産するという経済情勢では、そのような過度の期待はできないといわなければならない。特に、損害保険会社の合併による統合が進んでいる状況にあって、控訴人が加入している富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災」という。)だけが合併から取り残されてしまい、資本参加を受けざるを得ない極めて厳しい経営状況にある。

 したがって、定期金賠償が制度化されるためには、被害者のための担保供与制度の立法化とか、公的機関・制度を新設して、将来の履行を確保することが不可欠なのである。しかしながら、このような履行確保の制度が整っていない現状においては、介護費用の算定についても、軽々しく定期金賠償方式を取るべきではない。

 (3) 被控訴人花子の逸失利益算定における生活費控除及び将来介護料算定の看護期間等

 ア 控訴人の主張

  (ア) 被控訴人花子の将来介護料算定における要看護期間は、症状固定後一〇年間であると解すべきである。

  (イ) 被控訴人花子の将来の生活に必要な費用は、専ら入院治療費ないし看護費用に限られるから、逸失利益算定においては五割の生活費控除をすべきである。

 イ 被控訴人花子の主張

  (ア) 被控訴人花子の将来介護料算定の要看護期間については、被控訴人花子は本件事故により植物状態になったのであって、本件事故がなければ通常の人生を生き、平均余命を全うすることができたものであるから、平均余命までの期間を要看護期間として将来看護料を算定すべきである。

  (イ) 植物状態患者の生活費を控除した判決例も散見されるが、裁判実務の大勢は控除しないとされている。植物状態の患者だからといって、寝間着程度しか衣服の必要がない等と決めつけるのは、患者の人間としての尊厳を否定するものである。植物状態患者についても、でき得る限り良好な、一般人と同様の環境下での治療、介護を行うべきとの要請を否定すべきではない。因みに、学説では「純粋な意味での生活費は一般人と比較して少ないものの死者と全く同視することはできないとして、死亡の場合より控えめな生活費控除(一〇~二〇%程度)をすべき」との見解が多数であるが、本件において、介護費用については実際に係る費用しか請求しておらず、近親者が毎日のように被控訴人花子の具体的な介護のために病院を訪れる費用については請求していないのであるから、このような実際の家族の負担する介護費用との調整を図る意味でも、生活費控除は行うべきではない。

 (4) 支給された高額療養費還付金を損害填補とみなすことの可否

 ア 控訴人の主張

 被控訴人花子は、将来介護料として、少なくとも月額二五万円を請求している。被控訴人花子は、症状固定後現在まで九十九里病院に入院中であり、同病院は完全看護で近親者の介護は必要ない。そうだとすれば、病院の入院費等の医療費が損害というべきものである。被控訴人花子は、国民健康保険法五七条の二、同法施行令二九条の二に基づく地方自治体の高額療養費還付制度により、光町から、症状固定後の平成一〇年六月からの入院に伴う医療費につき、同月から平成一四年一一月までの五四か月分として合計五三五万一九二二円(一か月平均九万九一〇九円)の支給を受けている。国民健康保険法の高額療養費については、保険給付を行った保険者は、給付事由を生じさせた第三者に対して有する被保険者の損害賠償請求権を代位取得する一方、受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者はその価格の限度において保険給付を行う責を免れるとされている(同法六四条一項、二項)から、被保険者に対する損害を填補する性質をも有するものである。

 したがって、高額療養費還付金は、被控訴人花子の損害の填補であるから、被控訴人花子の損害額から控除されなければならない。

 イ 被控訴人花子の主張

 被控訴人花子を入院先の九十九里病院から実家に引き取って介護することは不可能な状況にあるため、被控訴人花子は、将来にわたって入院を継続する必要があり、その費用として毎月、入院代約一一万円、食事負担金二万三五六〇円、貸しオムツ代四万〇三〇〇円、業務委託料七万七五〇〇円の合計二五万一三六〇円の費用を支払っている。この金額には、毎日のように被控訴人花子を介護に訪れるその余の被控訴人ら家族の付添看護費や交通費用は含まれていないのである。したがって、被控訴人花子の看護費用としては、毎月二五万円が必要である。

 被控訴人花子の症状固定後に給付される高額療養費還付金は治療費ではなく、実質的には介護料として意味を有し、社会保障の一環として多額の医療費の負担に耐えられない被控訴人花子に対し、社会福祉の観点からなされるもので、損害の填補を目的としたものではない。また、各地方自治体は厳しい財政状況に置かれているのであり、高額療養費が将来にわたって現在の水準で給付されるかは不確実である。そうすると、既に被控訴人花子が受領した高額療養費については控除されるとしても、将来の高額療養費については、介護費用から控除すべきでない。

第三 当裁判所の判断

 一 被控訴人花子の推定余命について

 控訴人は、被控訴人花子がいわゆる植物状態にあることから、その生存余命は現在の医療・社会環境である一定の規則に従って、通常人よりも短く、被控訴人花子の推定余命年数は、せいぜい症状固定時から一〇年間と認定すべきである旨主張する。確かに、《証拠略》によれば、統計的には、一般的に植物状態の患者の生存率は年数を経過するにつれて低下し、平均余命は通常人に比較してかなり短く、平成四年自動車事故対策センターの寝たきり者に関する資料に基づけば、事故時四〇歳代の事故後六年経過時点における平均余命等は次のとおりであることが認められる。

  ① 五年後の生存率は〇・四四六、死亡率は〇・五〇五である。

  ② 一〇年後の生存率は〇・二四七、死亡率は〇・六六〇である。

  ③ 一五年後の生存率は〇・一三三、死亡率は〇・七七四である。

  ④ 二〇年後の生存率は〇・〇七一、死亡率は〇・八三六である。

  ⑤ 平均余命は六・七年である。

 《証拠略》を併せると、被控訴人花子は、本件事故直後からの昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過や平成九年一〇月二五日以降における三度の頭部MRIに認められる両側大脳と脳幹の萎縮などの画像所見から、びまん性軸索損傷の障害があると考えられ、後遺障害診断書では失外套状態にあると診断されたこと、しかし、既に本件事故時から六年以上、症状固定時から五年以上が経過しているが、被控訴人花子の本件事故後における身体の状態は、九十九里病院の看護状況のほか被控訴人花子の母被控訴人梅子、長女被控訴人一江、二女被控訴人二江、兄甲野竹夫らの献身的看護もあって、安定しており、これまでに生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染、敗血症など)を併発したことはなく、現在も直ちに生命の危険を推認させる事情は見当たらないこと、以上の事実が認められる。そうすると、被控訴人花子の推定余命年数は、植物状態の寝たきり者について推定余命が短いとの統計的な数値のみで症状固定時から一〇年程度であると推測することはできないが、同寝たきり者について推定余命が短いことは統計的に認めざるを得ない。

 しかしながら、被控訴人花子の現実の余命は本件事故によって短くなったのであり、そのこと自体による被控訴人花子の逸失利益の喪失も本件事故と相当因果関係があるから、結局、被控訴人花子の逸失利益の損害は本件事故前の被控訴人花子の統計的稼働年数を基に算定すべきことになる。被控訴人花子の本件事故後の現実の余命の減少は、将来の介護費用損害の算定に大きく影響を及ぼす可能性があるから、その損害賠償方式において考慮すべき事柄である。

 二 被控訴人花子の損害

 (1) 入院雑費【請求額五六万八一〇〇円】

              五六万八一〇〇円

 本件事故時である平成九年三月二三日から症状固定時である平成一〇年五月三一日までの間の入院に要した雑費について、一日当たり一三〇〇円として入院四三七日分(退院日と入院日との重複を含む。)を認めるのが相当である。

 (2) 近親者の付添看護費(交通費を含む。)【請求額一三一万一〇〇〇円】

             一三一万一〇〇〇円

 前記(1)の入院期間について、被控訴人花子が脳挫傷による意識障害という大怪我をしたことにより家族が毎日のように病院を訪れて身の回りの世話をしていたことに基づく近親者の付添看護費として交通費を含めて一日当たり三〇〇〇円とし、入院四三七日分(退院日と入院日との重複を含む。)を認めるのが相当である。

 (3) 車椅子代【請求額一〇万九四五〇円】

              一〇万九四五〇円

 ベッドメイキング、検査などで移動する場合に必要である。

 (4) 介護費用【請求額五二六三万七七〇〇円】

 ア 過去分      一一六九万一八四〇円

 《証拠略》によれば、被控訴人花子は、症状固定日の翌日である平成一〇年六月一日から本訴口頭弁論終結時である平成一五年六月二四日までの間、その介護費用として、少なくとも、毎月二五万円を要したことが認められ、その金額である一五二〇万円を基礎に、ライプニッツ方式により中間利息を控除して(六年のライプニッツ係数〇・九五二三を差し引いた〇・七六九二を乗じる)算定すると、上記金額となる。

 250,000×(12×5+24÷30)×0.7692=1169万1840円

 イ 将来分

 《証拠略》によれば、被控訴人花子は、本訴口頭弁論終結の日の翌日である平成一五年六月二五日から死亡までの間、その介護費用として、少なくとも、毎月二五万円を要することが認められる。

 控訴人は、将来介護費用の損害賠償について、被害者保護を確保することを当然の前提として、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに賠償義務を加害者に負わせる方法として定期金賠償の方法によるべきであると主張する。

 確かに、介護費用はもともと定期的に支弁しなければならない費用であり、植物状態となった被控訴人花子の推定的余命年数については少なくとも現時点から二〇年ないし三〇年と推認することは困難であるものの、この推定余命年数は少ない統計データを基礎にするものであり、現実の余命と異なり得るものであることはもちろん、被控訴人花子の身体状態、看護状況、医療態勢や医療技術の向上の一方で、思わぬ事態の急変もあり得ることなどを考慮すると、概ねの推定年数としても確率の高いものともいい難い。そうすると、推定的余命年数を前提として一時金に還元して介護費用を賠償させた場合には、賠償額は過多あるいは過少となってかえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険がある。このような危険を回避するためには、余命期間にわたり継続して必要となる介護費用という現実損害の性格に即して、現実の生存期間にわたり定期的に支弁して賠償する定期金賠償方式を採用することは、それによることが明らかに不相当であるという事情のない限り、合理的といえる。

 これに対し、被控訴人花子は、損害賠償請求権利者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることができないとし、その理由として、これを命ずることについての問題点とされていた、①貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、②賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになることの内、①の点は平成八年法律第一〇九号として制定された民事訴訟法一一七条において、定期金による賠償を命じた確定判決についての変更を求める訴えの制度が設けられて解決したといえても、②の点は、未だ問題として残されたままではあることを指摘する。しかし、一時金による将来介護費用の損害賠償を命じても、賠償義務者にその支払能力がない危険性も大きいし、賠償義務者が任意に損害保険会社と保険契約を締結している場合には、保険会社が保険者として賠償義務を履行することになるから、不履行の危険性は少なくなるものといい得る。《証拠略》によれば、控訴人は、自動車事故による損害を填補するため、富士火災と任意に損害保険契約を締結していたことが認められるから、控訴人の損害賠償義務は保険者である富士火災が履行することになると推認される。もっとも、《証拠略》を併せると、富士火災は平成一三年九月中間決算期に経常損益が赤字であるなど経営状況が安定しているとはいい難く、近年は保険自由化が進み、保険会社間の競争も激化し、下位の損害保険会社の中には倒産したものがあったことが認められるが、富士火災が将来破産など倒産するとまで予測することはできない。そうであれば、被控訴人花子の将来介護費用の損害賠償債権は、その履行の確保という面では一時金方式であっても定期金賠償方式であっても合理性を欠く事情があるとはいえないし、民事訴訟法一一七条の活用による不合理な事態の回避も可能であるから、将来の介護費用損害に定期金賠償方式を否定すべき理由はない(なお、被控訴人花子は、介護費用についても定期金による賠償について反対しているものの、第一審における二〇〇二年五月一七日付け準備書面においては、その試算を前提に定期金による賠償も魅力的なものとの意見を示していた。)。以上によれば、被控訴人花子の将来の介護費用損害については、被控訴人花子の請求する将来の介護費用損害を超えない限度で、控訴人に対し、定期金による賠償を命ずるのが相当である。

 そして、その期間については、被控訴人花子の推定余命期間が確定したものではないから、平成一五年六月二五日から被控訴人花子が主張通常の平均余命までの期間を超えない限度で、これが確定する死亡又は平均余命の八四歳に達するまでのいずれかの時期までとし、支払方法については、毎月二四日限り前月二五日からの一か月分を支払うこととするのが相当である。

 (5) 禁治産宣告手続費用【請求額一〇万五四一九円】

              一〇万五四一九円

 本件事故に基づく損害賠償請求をするために禁治産宣告の申立てをした手続費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

 (6) 休業損害【請求額四五二万〇二五六円】

             四五二万〇二五六円

 賃金センサス平成九年女子労働者学歴計四〇歳から四四歳の年収金三七七万五五〇〇円を基礎に、症状固定日までの四三七日間について認めるのが相当である。

 3,775,500÷365×437=4,520,256

 (7) 逸失利益【請求額五三二一万一五一九円】

            四〇五四万二二二五円

 被控訴人花子は、本件事故当時四一歳、症状固定時四二歳であったから、本件事故がなければ、四二歳から六七歳までの二五年間就労可能であった。そこで、本件事故時の前記(6)の年収額三七七万五五〇〇円を基礎に、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとしてライプニッツ方式により中間利息を控除して(四一歳から六七歳までのライプニッツ係数一四・三七五一から、四一歳から症状固定時年齢四二歳までのライプニッツ係数〇・九五二三を差し引いた一三・四二二八を乗じる。)算定するのが相当である。

 3,775,500×(1-0.2)×13.4228=40,542,225

 なお、被控訴人花子の将来の生活に必要な費用については、植物状態の寝たきり者についても、でき得る限り良好な、一般人と同様の環境下での治療、介護を行うべきであり、被控訴人花子が完全介護状態にあることを考慮して二〇パーセントの割合による生活費控除をするのが相当である。

 (8) 入院慰謝料【請求額三七〇万円】

                 三二〇万円

 被控訴人花子は、本件事故時である平成九年三月二三日から症状固定時である平成一〇年五月三一日までの間入院したところ、その精神的苦痛に対する慰謝料は三二〇万円が相当である。

 (9) 後遺障害慰謝料【請求額二〇〇〇万円】

                二〇〇〇万円

 被控訴人花子は、本件事故によって回復不可能で後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を負い、意識のないままに残りの人生を寝たきりの状態で生きていかねばならないところ、その精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。

 (10) 以上一時金小計

            八二〇四万八二九〇円

 (11) 損害の填補

            四〇三五万六三八二円

 ア 自賠責保険        三〇〇〇万円

 イ 入院雑費           四三万円

 ウ 看護費       二三四万六六六〇円

 エ 休業補償費     二二二万七八〇〇円

 オ 高額療養費還付金

             五三五万一九二二円

 《証拠略》によれば、被控訴人花子の本件事故後の平成一〇年六月から平成一四年一一月までの入院に伴う医療費の内、合計五三五万一九二二円が、国民健康保険法五七条の二、同法施行令二九条の二に基づく地方自治体の高額療養費還付制度により、光町から被控訴人花子に対して支給されたことが認められる。国民健康保険法の高額療養費還付金については、保険給付を行った保険者は、給付事由を生じさせた第三者に対して有する被保険者の損害賠償請求権を代位取得する一方、受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者はその価格の限度において保険給付を行う責を免れるとされている(同法六四条一項、二項)から、保険契約者である加害者の被害者である被保険者に対する損害を填補する性質をも有するものと認められる。

 したがって、前記支給に係る高額療養費の還付金は、被控訴人花子の損害を填補するものと認められるから、被控訴人花子の損害額から控除すべきである。

 (12) 以上によれば、被控訴人花子の一時金として賠償されるべき損害は、合計額八二〇四万八二九〇円から填補済みの四〇三五万六三八二円を控除すると、四一六九万一九〇八円となる。

 (13) 弁護士費用【請求額七七〇万円】

                 七七〇万円

 被控訴人花子の損害についての弁護士費用は、本件事案の難易等本件について認められる一切の事情を考慮すると、七七〇万円が相当である。

 (14) 以上一時金認容額

            四九三九万一九〇八円

 三 被控訴人一江の慰謝料【請求額三〇〇万円】

                 二〇〇万円

 《証拠略》によれば、被控訴人一江は、被控訴人花子の長女であり、本件事故が発生した平成九年三月二二日当時、高校を卒業して短大への進学が決まっており、入学金や授業料の半年分として合計約七〇万円を支払済みで、進学する短大の制服も購入し、同年四月からの短大生としての新しい生活を夢見ていたこと、しかるに、本件事故によって毎日を母親の付添看護に付きっ切りの生活に陥り、短大進学など叶わない状況になってしまったこと、しかも、母親の意識は事故後も回復せず、事故後既に三年を経過しようとしているが、この間、家族と共に母親の付添看護に努めてきており、母親の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては二〇〇万円が相当である。

 四 被控訴人二江の慰謝料【請求額二〇〇万円】

                 一五〇万円

 《証拠略》によれば、被控訴人二江は、被控訴人花子の二女であり、本件事故当時、中学を卒業し、高校進学の目前であったこと、一五歳という多感な時期に、たった一人の頼るべき母親が回復不能な意識喪失状態に陥り、事故後も現在に至るまで家族と共にその看護に努めてきており、母親の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては一五〇万円が相当である。

 五 被控訴人梅子の慰謝料【請求額一〇〇万円】

                 一〇〇万円

 《証拠略》によれば、被控訴人梅子は、被控訴人花子の実母であり、離婚して二人の娘を引き取って生活している被控訴人花子ら家族の将来を思いやり、何かと支えてきたこと、しかし、本件事故により意識を喪失した状態で一生を生きていかなければならない被控訴人花子の身の回りの世話を続けていかなければならず、更に、二人の孫娘の行く末をも心配せざるを得ない状況となり、正に被害者の死亡に匹敵する精神的苦痛を被ったことが認められ、その精神的苦痛に対する慰謝料としては一〇〇万円が相当である。

 六 以上によれば、被控訴人らの本件請求は、不法行為に基づき、被控訴人花子については、損害金四九三九万一九〇八円及びこれに対する不法行為の日である平成九年三月二二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の遅延損害金並びに本訴口頭弁論終結の日の翌日である平成一五年六月二五日からその死亡又は八四歳に達するまでのいずれか早い方の時期までの間、一か月金二五万円の金員を、毎月二四日限り支払を求める限度で、被控訴人一江については、慰謝料二〇〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金の限度で、被控訴人二江については、慰謝料一五〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金の限度で、被控訴人梅子については、慰謝料一〇〇万円及びこれに対する前同様の遅延損害金について理由があるから、これを認容すべきであるが、その余の請求はいずれも理由がなく棄却すべきである。

 よって、原判決中これと結論を異にする被控訴人花子に関する部分を変更し、その余の被控訴人らの部分に関し同旨の原判決部分は相当であるから、同部分に対する控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 納谷 肇 任介辰哉)

 

既判力の時的限界 白地手形補充権

民事訴訟法判例百選 第5版 A26

約束手形金請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和54年(オ)第110号

昭和57年3月30日

【判示事項】       白地手形による手形金請求を棄却する判決の確定後に白地部分を補充して手形上の権利の存在を主張することの許否

【判決要旨】       白地手形の所持人は、手形金請求の前訴において、事実審口頭弁論終結前に白地補充権を行使しえたのにこれを行使しないため手形要件を欠くとして請求棄却の判決を受け、これが確定したときは、特段の事情のない限り、その後に白地部分を補充しても、後訴において手形上の権利の存在を主張することは許されない。

【参照条文】       手形法10

             手形法77-2

             民事訴訟法199-1

             民事訴訟法545-2(昭和54年法律第4号による改正前のもの)

             民事執行法35-2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集36巻3号501頁

             最高裁判所裁判集民事135号539頁

             裁判所時報836号2頁

             判例タイムズ471号116頁

             金融・商事判例648号3頁

             判例時報1045号118頁

             金融法務事情1008号45頁

【評釈論文】       ジュリスト773号84頁

             ジュリスト臨時増刊792号129頁

             別冊ジュリスト108号88頁

             別冊ジュリスト115号310頁

             判例タイムズ505号193頁

             判例評論288号192頁

             法学協会雑誌100巻11号2129頁

             法曹時報38巻10号147頁

             民商法雑誌89巻2号199頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人宮川典夫、同新井宏明の上告理由について

 手形の所持人が、手形要件の一部を欠いたいわゆる白地手形に基づいて手形金請求の訴え(以下「前訴」という。)を提起したところ、右手形要件の欠缺を理由として請求棄却の判決を受け、右判決が確定するに至つたのち、その者が右白地部分を補充した手形に基づいて再度前訴の被告に対し手形金請求の訴え(以下「後訴」という。)を提起した場合においては、前訴と後訴とはその目的である権利または法律関係の存否を異にするものではないといわなければならない。そして、手形の所持人において、前訴の事実審の最終の口頭弁論期日以前既に白地補充権を有しており、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもかかわらず右期日までにこれを行使しなかつた場合には、右期日ののちに該手形の白地部分を補充しこれに基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の存在が認められない限り前訴判決の既判力によつて遮断され、許されないものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人は、本件被上告人を被告として本訴請求にかかる約束手形の振出日欄白地のまま手形上の権利の存在を主張して手形金請求の訴え(手形訴訟)を提起し、該訴訟(前訴)は横浜地方裁判所昭和四九年(手ワ)第二二五号事件として係属した、(2) 同裁判所は、昭和五〇年一月二一日、該約束手形の振出日欄は白地であるから、上告人が右手形によつて手形上の権利を行使することはできないとして、上告人の請求を棄却する旨の判決を言渡した、(3) 上告人は右手形判決に対し異議を申し立てたが、右異議審においても白地部分を補充しないまま昭和五〇年三月一三日同人の訴訟代理人弁護士が右異議を取り下げ、同年四月一四日被上告人がこれに同意して右手形判決は確定した、(4) 上告人は、右判決確定後に前記白地部分を補充した本件手形に基づき昭和五一年七月一七日本訴(後訴)を提起した、(5) 上告人において右前訴の最終の口頭弁論期日までに白地部分を補充したうえで判決を求めることができなかつたような特段の事情の存在は認められない、というのである。右事実関係のもとでは、上告人が、本訴において該手形につき手形上の権利の存在を主張することは、前訴確定判決の既判力により遮断され、もはや許されないものといわざるをえない。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らせば、原判決に所論釈明権不行使、審理不尽の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官  環 昌一

            裁判官  横井大三

            裁判官  伊藤正己

            裁判官  寺田治郎

氏変更の準拠法 大阪高裁平成17年

国際私法判例百選第2版 84事件

氏の変更許可申立却下審判に対する即時抗告事件

大阪高等裁判所決定/平成16年(ラ)第1274号

平成17年3月3日

【判示事項】       日本人男性と婚姻後に帰化し夫の戸籍に入籍した抗告人が,離婚後,前夫の氏と同じ氏で自己を筆頭者とする新戸籍を編成したものの,子の高校進学を機に新たに選択した氏への変更の許可を求めた事件の即時抗告審において,本件に顕れた事実関係を総合すると,日本人であれば婚氏続称後の復氏に当たるものとして抗告人の希望する氏を評価するのが相当であり,抗告人の氏を同人の希望する氏に変更すべき「やむを得ない事情」があると認めるのが相当であるとして,申立てを却下した原審判を取り消し,認容した事例

【参照条文】       戸籍法107-1

             家事審判法9-2

【掲載誌】        家庭裁判月報58巻2号166頁

 

       主   文

 

   1 原審判を取り消す。

   2 抗告人の氏「A山」を「B川」と変更することを許可する。

   3 抗告費用は,抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

第1 事案の概要等

 1 事案の概要

  (1) 抗告人は,もと中国国籍の女性(当時の中国人としての姓は「B」であった。)であるが,日本国籍男性と婚姻し,婚姻中に長女をもうけた後,帰化し,日本国籍を取得し,夫の戸籍に入籍した。

    その後,長女の親権者を抗告人と定めて夫と協議離婚したが,その際,前夫の氏と同じ「A山」を自己の氏と設定して新戸籍を編製した。

  (2) 抗告人は,長女が高等学校に入学する機会に,「A山」の氏を「B川」の氏に変更することの許可を求めた。

    原審は,上記申立てには,戸籍法107条1項に定める氏を変更すべき「やむを得ない事由」を認めることができないとし,これを却下する旨の原審判をした。

  (3) 本件は,原審判を不服として,抗告人が後記のとおり主張して抗告した事案である。

 2 抗告の趣旨及び理由

   抗告人は,原審判を取り消し,本件を原審に差し戻す旨の裁判を求めた。

   抗告理由の趣旨は,要するに,抗告人のような離婚した帰化日本人に対し,離婚前の氏と同じ氏を称し続けさせることは酷であり,新しい氏を称するためにされた本件氏の変更許可申立てには,戸籍法107条1項に定める「やむを得ない事由」があると解すべきである,というにあるものと解される。

第2 当裁判所の判断

   当裁判所は,原審判と異なり,抗告人の氏「A山」を「B川」に変更することを許可するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおりである。

 1 事実関係

  一件記録によれば,次の事実が認められる。

  (1) 抗告人は,元中国の国籍を有する者(1962年[昭和37年]○月○日生。当時の姓名は「B愛蘭」である。)であるところ,昭和62年1月22日,日本国籍を有するA山太郎(以下「太郎」という。)と婚姻届出をし,兵庫県△△市所在の筆頭者太郎の戸籍の身分事項欄にその旨の記載がされた。

  (2) 抗告人は,平成元年□月□日,太郎との間に,長女蘭(以下「蘭」という。)をもうけ,蘭は,同月17日,上記筆頭者太郎の戸籍に入籍した。

  (3) 抗告人は,平成4年9月8日に日本に帰化したが,帰化に当たり,筆頭者太郎の上記戸籍に入籍し,A山の氏を称することとした。

  (4) 抗告人と太郎は,平成10年1月19日,蘭の親権者を抗告人と定めて協議離婚した(この間,太郎は,平成8年3月に○○市に転籍している。)。

    抗告人は,その際,蘭が中学校を卒業するまでは「A山」を称し,中学校卒業後に氏を変更したいと考えていたため,離婚後の氏として,太郎と同じ「A山」を称することとし,○○市を本籍地とし,抗告人を筆頭者,氏を「A山」とする新戸籍が編製され,平成10年1月26日に蘭が抗告人の戸籍に入籍した。

(5) 抗告人は,平成17年4月には蘭が現在の中学校を卒業して高校に進学する予定であるため,平成16年9月6日,神戸家庭裁判所に対して,抗告人の氏「A山」を「B」に変更することの許可を申し立てたところ(平成16年(家)第□□□□号氏の変更許可申立事件),同裁判所は,同月21日,同申立てを認容した(このとき,蘭は,抗告人の氏を「B」に変更することに同意していた。)。

  ところが,その直後,蘭は,抗告人の氏が「B」に変更されると,蘭の氏名は「B蘭」と,いかにも中国風となってしまうため,今後日本の高校に進学し,日本の社会で生活する上で不安であると訴えるようになったため,抗告人は,その心情を思い,審判確定前の同月24日,上記申立てを取り下げた。

(6) 抗告人は,同月24日,上記申立取下げと同時に,同裁判所(原審)に対して,抗告人の氏「A山」を「B川」に変更することの許可を求める本件申立てをした。

  その理由としては,抗告人の氏の変更については,上記のような蘭の心情に配慮する必要がある,抗告人自身は,離婚した夫に対する信頼感が失われているので,A山姓を続けて称したくない等と主張し,「B川」は,自己のルーツに配慮した日本人としての氏として気に入っており,蘭もこれに同意している,と主張している。

(7) 原審は,「A山」は,珍奇,難読ではない,同姓同名の者がいるために社会生活が混乱している等の事情はない,抗告人と「B川」という氏につながりはなく,使用実績もないから,戸籍法107条1項所定の「やむを得ない事由」は認められないと判断し,抗告人の申立てを却下する原審判をした。

2 以上の関係事実に基づき,抗告人の原申立ての当否について判断する。

 (1) 帰化により日本国籍を取得した者は,出生によって日本民法上の氏を取得していないので,帰化したことによって新たに氏を定めなければならず,その氏は,当該人の意思に従って自由に設定することができるものと解される(昭和25年6月1日民事甲1566号民事局長回答参照)。

   しかし,帰化者の配偶者が日本人である場合は,帰化前には夫婦の氏は定まっていないのであるから,夫婦の氏及び本籍を同一にする要請から,夫婦いずれの氏を称するかを協議で定め,帰化者が筆頭者になる場合は,夫婦について新たな氏に基づく新戸籍を編製し,日本人配偶者が筆頭者になる場合は,既に存在するその戸籍に入籍することとなる(上記回答,同年8月12日民事甲2099号民事局長回答参照)。

   更に,上記夫婦が離婚に至った場合において,帰化者が筆頭者であった場合には,帰化者がそのまま当該氏を称することになることは当然であるが,帰化者が日本人配偶者の戸籍に入籍していた場合は,帰化者は,夫婦の氏の決定につき主導性を有しておらず,事実上,自らの氏を設定する機会が与えられていなかったことになるから,離婚の時点において改めて氏の設定の機会が与えられて新戸籍を編製することとされている(昭和23年10月16日民事甲2648号民事局長回答,昭和26年2月20日民事甲312号民事局長回答参照)。

 (2) 上記の実務例に則して,抗告人の場合を検討すると,抗告人は,

  日本国籍を有する太郎と婚姻し,その後出生した蘭が既に太郎の戸籍に入籍していた状態で帰化したものであるから,帰化の時点では,事実上,自己の氏を設定する自由を有せず(夫婦の氏の決定につき主導性を有しておらず),太郎の戸籍に入籍するほかはなかったものと推認できる。

  そして,その後,抗告人が太郎と離婚した後に編製した新戸籍において設定した氏「A山」は,法律上は,抗告人が自由な意思に基づいて選択した氏ではあるけれど,抗告人が蘭の親権者となっていたことからすれば,就学年齢に達していた蘭に心理的混乱を起こさせないことを考慮して,当面は,いわば婚氏を続称する趣旨でやむを得ない選択をしたものと理解することができる。

  そして,記録によると,抗告人は,かねてから,いずれは,自己の自由な選択による氏を称したいと希望していたものであり,その希望を実現するため,蘭の高校進学の時期をよい機会として,「B川」の氏を称すべく原申立てに及んだものである。

(3) ところで,日本人同士の婚姻が破綻した場合に,一方配偶者(多くは妻)がその親権下にある子の氏の呼称の変更を避けるため,当面心ならずも婚氏を続称し,一定期間が経過し,子の氏の呼称の変更に支障がなくなった時点において,婚姻前の氏に復氏するのと同様の効果を目的として,氏の変更許可の申立てをすることは,しばしばみられるところであるが,このような場合には,特にそれを不相当とする事由のない限り,戸籍法107条1項に定める「やむを得ない事由」があるものとして,許可の裁判をするのが相当と考えられる。

  これとの対比において,本件をみると,抗告人の原申立ては,上記の場合と類似した側面があるとみることができ,ただ,抗告人は,帰化した日本人であるから,婚姻前の氏に相当する日本人としての氏がないので,これに代わるものとして,自己の意思で選択した氏「B川」を設定し,それへの変更許可を求めているものと理解することができる。そして,帰化した日本人には,本来自己の自由に選択した氏を設定することが許されるのが原則であることは前記のとおりであるから,以上の事実関係を総合すると,本件においては,日本人であれば婚氏続称後の復氏に当たるものとして,抗告人の希望する氏「B川」を評価するのが相当であって,これにつき更に抗告人との繋がりや一定期間の使用実績を要求するまでの必要はないと解するのが相当というべきである。このように解しても,氏の変更制度の運用に関し,不都合な結果を生ずるとは解されない。

   なお,抗告人は,原申立ての直前に,その氏を「B」に変更することを許可され,審判確定前に当該申立てを取り下げたことは前記のとおりであるが,「B」は,抗告人が帰化する前の中国における氏であって,日本人としての氏ではないから,その「B」と本件の「B川」とは,いわば同価値であって,その間に許可不許可の境界をもうけることは,必ずしも合理的ではない。

  以上の次第で,本件においては,抗告人の氏を「B川」に変更すべき「やむを得ない事情」があると認めるのが相当である。

3 よって,以上の見解と異なる原審判は相当ではないから,家事審判規則19条2項により,原審判を取り消し,審判に代わる裁判をする趣旨で主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 田中壮太 裁判官 橋詰 均 三宅康弘)

 

古田佑紀裁判長名判決 長期間経過後の懲戒処分を認めない最高裁平成18年 ネスレ事件

労働判例百選 第8版 60事件

労働契約上の地位確認等請求,民訴法260条2項の申立て事件

最高裁判所第2小法廷判決/平成16年(受)第918号、平成18年(オ)第1075号

平成18年10月6日

【判示事項】       従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例

【判決要旨】       従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなど判示の事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効である。

【参照条文】       労働基準法89

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事221号429頁

             裁判所時報1421号427頁

             判例タイムズ1228号128頁

             判例時報1954号151頁

             労働判例925号11頁

             労働経済判例速報1958号3頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       産大法学40巻3~4号1032頁

             日本労働法学会誌109号139頁

             判例時報1974号214頁

             法学教室346号74頁

             民商法雑誌136巻3号383頁

             労働基準699号27頁

             労働判例930号5頁

             労働法学研究会報58巻10号22頁

             労働法律旬報1655号44頁

 

       主   文

 

 1 原判決を破棄する。

 2 被上告人の控訴を棄却する。

 3 被上告人は,上告人甲野一郎に対し,5万5131円及びこれに対する平成16年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 4 控訴費用,上告費用及び前項の裁判に関する費用は,被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

第1 上告代理人古川景一,同佐久間大輔の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,被上告人から諭旨退職処分を受け,同処分で定められた期限までに退職願を提出しなかったことから懲戒解雇とされた上告人らが,同処分による懲戒解雇は無効であるとして,被上告人に対し,労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めるとともに,上記懲戒解雇の日以降の給与及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めている事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)上告人甲野一郎(以下「上告人甲野」という。)は昭和51年4月に,上告人乙山二郎(以下「上告人乙山」という。)は同53年4月に,それぞれ被上告人に従業員として採用され,霞ヶ浦工場に勤務していた。

 (2)上告人乙山は,平成5年6月9日,体調不良を理由に欠勤し,翌日,この欠勤を年次有給休暇に振り替えようとしたが,上告人乙山の上司であった丙川三郎製造課課長代理(以下「丙川課長代理」という。)がこれを認めなかったため,上告人乙山の同年7月支給分の賃金が一部減額された。上告人らは被上告人の一部の従業員らで組織する労働組合に所属し,当時,上告人乙山はその霞ヶ浦支部の副書記長であったところ,同支部は,丙川課長代理による上記の取扱いを同労働組合に対する攻撃としてとらえ,組合員が職場内で丙川課長代理等に会ったときに「有休を認めろ。」と声を掛けるなどの抗議行動を行った。そして,こうした抗議行動が継続されている状況の下で,次のアないしウ記載のとおり,上告人らの丙川課長代理に対する暴行事件(以下「本件各事件」という。)が発生した。

 ア 平成5年10月25日の事件

 上告人甲野は,平成5年10月25日午後5時30分過ぎころ,霞ヶ浦工場のQ棟出入口付近において,業務報告に赴く途中の丙川課長代理に対し,「おい,乙山の有休はどうなんだ。」と大声で怒鳴った上,丙川課長代理のネクタイや襟をつかんでその身体を壁に押し付けるなどの暴行を加えた。その際,上告人乙山は,丙川課長代理の胸元等をつかんで上告人甲野に加勢した(以下,この事件を「10月25日事件」という。)。

 イ 平成5年10月26日の事件

 上告人らは,平成5年10月26日午前8時30分の始業時刻の前に,社員食堂に集まった同僚の組合員らに対し,10月25日事件は丙川課長代理の上告人甲野に対する暴力事件であるとしてその経過を話した。そして,上告人らは,同僚の組合員らと共に,同日午前8時31分過ぎころ,充填包装作業場付近において丙川課長代理を取り囲み,上告人乙山や他の組合員らが丙川課長代理の作業服をつかんで身動きができないようにし,上告人甲野が丙川課長代理のひざをけり上げるなどの暴行を加えた。これに引き続き,上告人らは,充填包装事務所に向かおうとした丙川課長代理を追い掛け,上告人甲野において,丙川課長代理の作業服の襟をつかんで首を締め上げたり,その右手小指をつかんでねじり上げたりするなどの暴行を加え,上告人乙山においても丙川課長代理の作業服をつかむなどした。以上の暴行の結果,丙川課長代理は,けい部捻挫,左ひざ挫傷,右小指挫傷の傷害を負った(以下,この事件を「10月26日事件」という。)。

 ウ 平成6年2月10日の事件

 上告人乙山は,平成6年2月7日及び同月8日の両日,風邪を理由に欠勤したが,丙川課長代理が同月8日の欠勤を年次有給休暇に振り替えることを認めなかったことから丙川課長代理に強く反発し,同月10日午後8時43分ころ,充填包装事務所において執務中の丙川課長代理に対し,左手をその首に回し,右手でその腹部を殴打する暴行を加えた(以下,この事件を「2月10日事件」という。)。

 (3)被上告人は,本件各事件について目撃者に報告書を提出させるなどして調査を行い,平成7年7月31日ころ,上告人ら及び上告人らと共に10月26日事件において丙川課長代理に暴行を加えた丁田四郎(以下「丁田」という。)に対し,本件各事件等を掲記した上で,猛省を促すとともに懲戒処分等を含む責任追及の権利を留保する旨を記載した通告書を送付したが,丙川課長代理が10月26日事件及び2月10日事件について江戸崎警察署及び水戸地方検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから,これらの捜査の結果を待って被上告人としての処分を検討することとした。

 (4)水戸地方検察庁検察官は平成11年12月28日付けで上告人ら及び丁田につき不起訴処分とし,同12年1月から同年3月にかけて関係者にその旨の通知がされたため,被上告人は,そのころから,上告人ら及び丁田に対する処分の検討を始めた。そのような中で,霞ヶ浦工場の戊原五郎工場長は,同年5月17日,丁田に対し,本社において丁田らの懲戒処分が検討されている旨を話し,自ら退職願を提出することを勧めたところ,丁田は,同日退職願を提出したが,その翌日にこれを撤回した。丁田は,退職の意思表示の効力を争って,同年6月20日に被上告人を相手方として水戸地方裁判所龍ヶ崎支部に地位保全の仮処分を求める申立てをするとともにその本案訴訟を提起し,同支部が同年8月7日付けで被上告人に賃金の仮払を命ずる仮処分命令を発したため,被上告人は,上告人らに対する処分を見合わせた。しかし,同支部が同13年3月16日に上記本案訴訟において丁田の請求を棄却する判決を言い渡し,その判決の中で被上告人の言い分が認められたことから,被上告人は,改めて上告人らの処分を検討し,被上告人の就業規則の規定に基づき,同年4月17日,上告人らに対し,同月25日までに退職願が提出されたときは自己都合退職の例により退職金を全額支給するが,同日までに退職願が提出されないときは同月26日付けで懲戒解雇する旨の諭旨退職処分(以下「本件諭旨退職処分」という。)を行った。

 (5)被上告人の就業規則においては,「故意に業務を阻害したとき」,「会社内において,暴行,脅迫,監禁その他これに類する行為を行ったとき」,「業務上の指揮・命令に違反し,又は業務上の義務に背いたとき」等が懲戒解雇事由として定められているところ,本件諭旨退職処分においては,上告人らの次の行為が就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するものとされた。

 ア 上告人甲野の懲戒解雇事由

(ア)平成5年10月25日,丙川課長代理に対し,暴行,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと(以下「上告人甲野の解雇事由1」という。)。

(イ)平成5年10月26日,無断で職場を離脱した上,丙川課長代理に対し,暴行,傷害,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと(以下「上告人甲野の解雇事由2」という。)。

(ウ)平成6年1月5日から同7年7月24日までの間,丙川課長代理に対し,繰り返し暴言,業務妨害等の行為に及んだこと。

(エ)平成11年10月12日,無断で職場を離脱した上,丙川課長代理に対し,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと。

 イ 上告人乙山の懲戒解雇事由

(ア)平成5年10月25日,丙川課長代理に対し,暴行,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと(以下「上告人乙山の解雇事由1」という。)。

(イ)平成5年10月26日,無断で職場を離脱した上,丙川課長代理に対し,暴行,傷害,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと(以下「上告人乙山の解雇事由2」という。)。

(ウ)平成6年2月10日,無断で職場を離脱した上,丙川課長代理に対し,暴行,傷害,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと(以下「上告人乙山の解雇事由3」という。)。

(エ)平成5年7月29日から同7年7月24日までの間,丙川課長代理らに対し,繰り返し暴言,業務妨害等の行為に及んだこと。

(オ)平成5年6月9日,同年7月28日,同6年2月8日,同月28日及び同年10月18日,無許可で欠勤したこと。

(カ)平成5年9月17日及び同月20日,被上告人の掲示板に無断で落書きをし,さらに,同年10月28日,無断で職場を離脱し,丙川課長代理らに対し,暴言を吐いて業務を妨害した上,被上告人の備品である丙川課長代理の机を毀損するなどの行為に及んだこと。

(キ)平成11年10月12日,丙川課長代理に対し,暴言,業務妨害等の行為に及んだこと。

 (6)被上告人は,上告人らが本件諭旨退職処分で定められた期限までに退職願を提出しなかったことから,平成13年4月27日,上告人らに対し,同月26日付けで懲戒解雇となった旨を通知した。

 3 原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断し,本件諭旨退職処分による懲戒解雇は有効であるとして,上告人らの請求を棄却すべきものとした。

 (1)本件各事件の事実関係によれば,上告人甲野の解雇事由1,2及び上告人乙山の解雇事由1ないし3が認められ,これらが被上告人の就業規則所定の懲戒解雇事由である「会社内において,暴行,脅迫,監禁その他これに類する行為を行ったとき」等に該当することは明らかである(なお,原審は,本件諭旨退職処分に係る懲戒解雇事由のうち上記各解雇事由以外の事由については,その事実の存否を確定していない。)。

 (2)本件各事件から本件諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが,被上告人は,捜査機関による捜査の結果を待っていたもので,いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではなく,本件諭旨退職処分が解雇権の濫用であるとか,信義則に違反するものであるということはできない。

 (3)本件諭旨退職処分が不当労働行為に当たることなど本件諭旨退職処分による懲戒解雇が無効であるとする上告人らのその余の主張は採用することができない。

 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

 前記事実関係によれば,本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ,被上告人においては,丙川課長代理が10月26日事件及び2月10日事件について警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら,本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり,被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから,上記の捜査の結果を待たずとも被上告人において上告人らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ,本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。しかも,使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには,使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ,上記の捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず,被上告人が上告人らに対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは,その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

 また,本件諭旨退職処分は本件各事件以外の事実も処分理由とされているが,本件各事件以外の事実は,平成11年10月12日の丙川課長代理に対する暴言,業務妨害等の行為を除き,いずれも同7年7月24日以前の行為であり,仮にこれらの事実が存在するとしても,その事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過していることは本件各事件の場合と同様である。同11年10月12日の丙川課長代理に対する暴言,業務妨害等の行為については,被上告人の主張によれば,同日,丙川課長代理がネスレフィリピン社からの来訪者2名を案内し,霞ヶ浦工場の工場設備を説明していたところ,上告人乙山が「こら,丙川,おい,丙川,でたらめ丙川,あほんだら丙川。」などと大声で暴言を浴びせて丙川課長代理の業務を妨害し,上告人甲野においても丙川課長代理に対し同様の暴言を浴びせるなどしてその業務を妨害したというものであって,仮にそのような事実が存在するとしても,その一事をもって諭旨退職処分に値する行為とは直ちにいい難いものであるだけではなく,その暴言,業務妨害等の行為があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでには18か月以上が経過しているのである。これらのことからすると,本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ,少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては,企業秩序維持の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる。

 以上の諸点にかんがみると,本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は,原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても,処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず,社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると,本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり,本件諭旨退職処分による懲戒解雇はその効力を生じないというべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,その余の点について検討するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,上告人らが労働契約上の従業員たる地位にあることを確認し,被上告人に対し本件諭旨退職処分による懲戒解雇の日から判決確定に至る日までの給与及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の支払を命じた第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却するのが相当である。

第2 上告人甲野の民訴法260条2項の裁判を求める申立てについて

 上告人甲野は,別紙のとおり,民訴法260条2項の裁判を求める申立てをしているところ,上告人甲野が申立ての理由として主張している事実関係については,被上告人において争っていない。そして,原判決が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから,原判決中の民訴法260条2項の裁判に付された仮執行宣言はその効力を失うことになる。

 そうすると,上記仮執行宣言に基づいて給付した金員及びこれに対する給付の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人甲野の申立ては,正当として認容すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・古田佑紀,裁判官・滝井繁男,裁判官・津野 修,裁判官・今井 功,裁判官・中川了滋)

 

 別紙〈省略〉

 

Rti 台湾国際放送 2020年10月31日

 

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