岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

2020年12月

ラジオタイランド 日本語 2020年12月31日 木 2200~2215JST 9940kHz 44443 ICOM IC756PRO 3 25mH DP

 

2200 ニュース

民間部門は政府が来年連休をふやしたことを歓迎している。

 

昨日新たに確認されたコビット19感染者は250人

 

タイ民間航空局はコボット19の蔓延中、国内線での食事飲み物の提供禁止を決定

 

プーケット住民はコビット19の感染拡大によってこれ以上景気が落ち込まないことを望んでいる。

 

2210 ニュース展望

コビット19の新たな感染拡大がおこっているなかタイで合法的に働くことを認められた移民労働者

 

宮井よしあき

[民 事]

司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。ただし,登記上の利害関係を有する第三者に対する承諾請求権(不動産登記法第68条参照)を検討する必要はない。なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。

〔設問1〕

弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。

【Xの相談内容】

「私(X)はZ県の出身ですが,大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。近年,

定年退職の時期が迫り,老後は故郷に戻りたいと考え,自宅を建築するためにZ県内で手頃な土地を探していたところ,甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,立地も良かったことから,甲土地を買うことにしました。私は,令和2年5月1日,Aから,売買代金500万円,売買代金の支払時期及び所有権移転登記の時期をいずれも同月20日とし,代金の完済時に所有権が移転するとの約定で甲土地を買い受け,同月20日に売買代金を支払いました。なお,所有権移転登記については,甲土地の付近に居住し,料亭を営む私の兄のBを名義人とした方が都合がよいと考え,AやBと相談の上、B名義で所有権移転登記を経由することにしました。

ところが,甲土地の購入後,私は,引き続き勤務先で再雇用されることになり,甲土地上に自宅を建築するのを見合わせることにしました。すると,令和7年7月上旬頃,甲土地の隣地に住むCから,甲土地を使わないのであれば1000万円で買い受けたいとの申出があり,諸経費の負担を考慮しても相当のもうけがでることから,甲土地をCに売ることにしました。私は,早速,Cに甲土地を売却する準備にとりかかり,甲土地の登記事項証明書を取り寄せました。すると,原因を令和2年8月1日金銭消費貸借同日設定,債権額を600万円,債務者をB,抵当権者をYとする別紙登記目録(略)記載の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)がされていることが判明しました。

私は,慌ててBに確認したところ,Bは,経営する料亭の資金繰りが悪化したことから,令和2年8月1日,友人のYから,返済期限を同年12月1日,無利息で,600万円の融資を受けるとともに,甲土地に抵当権を設定したが,返済が滞っているとのことでした。

以上のとおり,甲土地の所有者は私であり,本件抵当権設定登記は所有者である私に無断でされた無効なものですので,Yに対し,本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求めたいと考えています。なお,Bは,甲土地の所有権名義を私に戻すことを確約していますし,兄弟間で訴訟まではしたくありませんので,今回は,Yだけを被告としてください。」

弁護士Pは,令和8年1月15日,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,本件抵当権設定登記の抹消登記を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することにした。以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。

(1) 弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。

(2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮する必要はない。

(3) 弁護士Pは,本件訴状において,仮執行宣言の申立て(民事訴訟法第259条第1項)をしなかった。その理由を,民事執行法の関係する条文に言及しつつ,簡潔に説明しなさい。

(4) 弁護士Pは,本件訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,以下の各事実を主張した。

() Aは,令和2年5月1日当時,甲土地を所有していた。

() Aは,〔①〕。

() 甲土地について,〔②〕。

上記①及び②に入る具体的事実を,それぞれ記載しなさい。

〔設問2〕

弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。

【Yの相談内容】

(a) 私(Y)は,Bの友人です。私は,令和2年7月下旬頃,Bから,Bが経営する料亭の資金繰りに困っているとして,600万円を貸してほしいと頼まれました。私は,他ならぬBの頼みではありましたが,金額も金額なので,誰かに保証人になってもらうか,担保を入れてほしいと告げました。すると,Bは,令和2年5月1日に所有者であるAから売買代金500万円で甲土地を買っており,甲土地を担保に入れても構わないと述べたため,私は,貸付けに応じることにしました。私は,令和2年8月1日,Bに対し,返済期限を同年12月1日,無利息で600万円を貸し付け,同年8月1日,Bとの間で,この貸金債権を被担保債権として,甲土地に抵当権を設定するとの合意をしました。ところが,Bは,令和4年12月1日に100万円を返済し,令和7年12月25日に200万円を返済したのみで,それ以外の返済をしません。Xは,Xが令和2年5月1日にAから甲土地を買ったと主張していますが,同日にAから甲土地を買ったのはXではなくBであり,私は,所有者であるBとの間で甲土地に抵当権を設定するとの合意をし,その合意に基づき本件抵当権設定登記を経由したのですから,正当な抵当権者であり,本件抵当権設定登記を抹消する必要はありません。

b) 仮にXが主張するとおり,BではなくXが甲土地の買主であったとしても,Bは,令

和2年8月1日の貸付けの際,甲土地の登記事項証明書を持参しており,私が確認する

と,確かにBが甲土地の所有名義人となっていましたので,私は,Bが甲土地の所有者

であると信じ,上記(a)で述べたとおり,Bに対して600万円を貸し付け,抵当権の

設定を受けたのです。仮にXが甲土地の買主であったとしても,Xの意思でB名義の所

有権移転登記がされたことは明らかですので,今回の責任はXにあることになります。

私は,本件抵当権設定登記の抹消に応じる必要はないと思います。」弁護士Qは,【Yの相談内容】を前提に,Yの訴訟代理人として,本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。

(1) ①弁護士Qは,【Yの相談内容】(a)の言い分を本件訴訟における抗弁として主張すべきか否か,その結論を記載しなさい。②抗弁として主張する場合には,どのような抗弁を主張するか,その結論を記載し(当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。),抗弁として主張しない場合は,その理由を説明しなさい。

(2) 弁護士Qは,【Yの相談内容】(b)を踏まえて,本件答弁書において,抗弁として,以下の各事実を主張した。

() Yは,Bに対し,令和2年8月1日,弁済期を同年12月1日として,600万円を貸し付けた。

() BとYは,令和2年8月1日,Bの(ア)の債務を担保するため,甲土地に抵当権を設定するとの合意をした(以下「本件抵当権設定契約」という。)。

() 本件抵当権設定契約当時,〔①〕。

() (ウ)は,Xの意思に基づくものであった。

() Yは,本件抵当権設定契約当時,〔②〕。

() 本件抵当権設定登記は,本件抵当権設定契約に基づく。

() 上記①及び②に入る具体的事実を,それぞれ記載しなさい。

() 弁護士Qが,本件答弁書において,【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために,上記()の事実を主張した理由を簡潔に説明しなさい。

〔設問3〕

弁護士Pは,準備書面において,本件答弁書で主張された【Yの相談内容】(b)に関する抗弁に対し,民法第166条第1項第1号による消滅時効の再抗弁を主張した。

弁護士Qは,【Yの相談内容】を前提として,二つの再々抗弁を検討したところ,そのうちの一方については主張自体失当であると考え,もう一方のみを準備書面において主張することとした。以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。

(1) 弁護士Qとして主張することとした再々抗弁の内容を簡潔に説明しなさい。

(2) 弁護士Qが再々抗弁として主張自体失当であると考えた主張について,主張自体失当と考えた理由を説明しなさい。

〔設問4〕

Yに対する訴訟は,審理の結果,Xが敗訴した。すると,Bは,自分が甲土地の買主であると主張して,Xへの所有権移転登記手続を拒むようになった。そこで,弁護士Pは,Xの訴訟代理人として,Bに対して,所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権を訴訟物として,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求める訴訟(以下「本件第2訴訟」という。)を提起した。

第1回口頭弁論期日で,Bは,Aが令和2年5月1日当時甲土地を所有していたことは認めたが,AがXに対して甲土地を売ったことは否認し,自分がAから甲土地を買ったと主張した。その後,第1回弁論準備手続期日で,弁護士Pは,書証として令和2年5月20日にAの銀行預金口座に宛てて500万円が送金された旨が記載されたX名義の銀行預金口座の通帳(本件預金通帳)及び甲土地の令和3年分から令和7年分までのBを名宛人とする固定資産税の領収書(本件領収書)を提出し,いずれも取り調べられ,Bはいずれも成立の真正を認めた。

その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,Xは次の【Xの供述内容】のとおり,Bは次の【Bの供述内容】のとおり,それぞれ供述した。

【Xの供述内容】

「私はZ県の出身ですが,大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。近年,定年退職の時期が迫り,老後は故郷に戻りたいと考え,自宅を建築するためにZ県内で手頃な土地を探していたところ,甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,立地も良かったことから,甲土地を買うことにし,Aとの間で,売買代金額の交渉を始めました。最初は,私が400万円を主張し,Aが600万円を主張していましたが,お互い歩み寄り,代金を500万円とすることで折り合いがつきました。私は,令和2年5月1日,兄のBと共にA宅を訪れ,Aと私は,口頭で,私がAから売買代金500万円で甲土地を買い受けることに合意しました。所有権移転登記については,甲土地の付近に居住し,料亭を営み地元でも顔が広いBを所有名義人とした方が,建物建築のための地元の金融機関からの融資が円滑に進むだろうと考え,AやBの了解を得て,B名義で所有権移転登記を経由することにしました。私は,同月20日,私の銀行口座からAの銀行口座に500万円を送金して,売買代金をAに支払いました。ところが,甲土地の購入後,私は,引き続き勤務先で再雇用されることになったため,甲土地上に自宅を建築するのを見合わせることにし,甲土地は更地のままになり,金融機関から融資を受けることもありませんでした。甲土地は,私の所有ですので,令和3年分から令和7年分までその固定資産税は私が負担しています。甲土地は,登記上は,Bが所有者であり,Bに固定資産税の納付書が届くので,私は,Bから納付書をもらって固定資産税を納付していました。」

【Bの供述内容】

「私は,Z県内の自己所有の建物で妻子と共に生活をしています。甲土地は,当初は,定年退職の時期が迫り,老後は故郷に戻りたいと考えたXが,自宅を建てるために購入しようと,Aとの間で代金額の交渉をしていました。しかし,Xは,令和2年の正月,やはり老後も都会で生活したいと考えるようになったので,甲土地の購入はやめようと思う,ただ甲土地は良い物件であるし,Aも甲土地を売りたがっていると述べて,私に甲土地を購入しないかと打診してきました。私は,早速甲土地を見に行ったところ,立地もよく,XとAとの間でまとまっていた500万円という代金額も安く感じられたことから,私がAから甲土地を買うことにしました。もっとも,令和元年末に私の料亭が食中毒を出してしまい,客足が遠のいており,私自身が甲土地の売買代金をすぐに工面することはできなかったことから,差し当たり,Xに立て替えてもらうことになりました。もちろん,私は,資金繰りがつき次第Xに同額を返還するつもりでしたが,なかなか料亭の売上げが回復せず,Xに立替金を返還することができないまま,今日に至ってしまいました。このことは大変申し訳ないと思っています。所有権移転登記の名義が私であることからも,私が甲土地の所有者であることは明らかです。なお,甲土地の固定資産税は,私が支払っていると思いますが,税金関係は妻に任せており,詳しくは分かりません。」

以上を前提に,以下の問いに答えなさい。

弁護士Pは,本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。その準備書面において,弁護士Pは,前記の提出された各書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Bの供述内容】と同内容のX及びBの本人尋問における供述に基づいて,XがAから甲土地を買った事実が認められることにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を,提出された各書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。

常習傷害罪の起訴と前科

令和2年の予備試験問題です。賭博でも同様の問題はありえます。常習傷害にせずに傷害で通常は起訴しているのでしょう。

刑事訴訟法

次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事例】

甲は,①「被告人は,令和元年6月1日,H県I市内の自宅において,交際相手の乙に対し,その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約5日間を要する顔面挫傷等の傷害を負わせたものである。」との傷害罪の公訴事実により,同月20日,H地方裁判所に起訴された。

同事件について,同年8月1日,甲に対し,同公訴事実の傷害罪により有罪判決が宣告され,同月16日,同判決が確定した。

ところが,前記判決が確定した後,甲が同年5月15日に路上で見ず知らずの通行人丙に傷害を負わせる事件を起こしていたことが判明し,同事件について,甲は,②「被告人は,令和元年5月15日,J県L市内の路上において,丙に対し,その顔面,頭部を拳骨で多数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約6か月間を要する脳挫傷等の傷害を負わせたものである。」との傷害罪の公訴事実により,同年12月20日,J地方裁判所に起訴された。公判において,甲の弁護人は,「②の起訴の事件は,既に有罪判決が確定した①の起訴の事件と共に常習傷害罪の包括一罪を構成する。よって,免訴の判決を求める。」旨の主張をした。

〔設問〕

前記の弁護人の主張について,裁判所は,どのように判断すべきか。

仮に,①の起訴が,「被告人は,常習として,令和元年6月1日,H県I市内の自宅において,交際相手の乙に対し,その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約5日間を要する顔面挫傷等の傷害を負わせたものである。」との常習傷害罪の公訴事実で行われ,同公訴事実の常習傷害罪により有罪判決が確定していた場合であればどうか。

(参照条文) 暴力行為等処罰ニ関スル法律

第1条ノ3第1項 常習トシテ刑法第204条,第208条,第222条又ハ第261条ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス

司法試験予備試験 令和2年 論文式 刑法

以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

甲(28歳,男性,身長165センチメートル,体重60キログラム)は,2年前に養子縁組によって氏を変更し,当該変更後の氏名(以下「変更後の氏名」という。)を用いて暴力団X組組員として活動を始めた。甲は,自営していた人材派遣業や日常生活においては,専ら当該変更前の氏名(以下「変更前の氏名」という。)を用いていた。

甲は,X組と抗争中の暴力団Y組の組長乙を襲撃する計画を立てていたところ,乙が,交際中のA宅に足繁く通っているとの情報を入手した。甲は,A宅を監視する目的で,A宅の向かいにあるB所有のマンション居室(以下「本件居室」という。)を借りるため,某月1日,Bに会い,「部屋を借りたい。」と申し込んだ。Bは,暴力団員やその関係者とは本件居室の賃貸借契約を締結する意思はなく,準備していた賃貸借契約書にも「賃借人は暴力団員又はその関係者ではなく,本物件を暴力団と関係する活動に使いません。賃借人が以上に反した場合,何らの催告も要せずして本契約を解除することに同意します。」との条項(以下「本件条項」という。)を設けていた。Bは,甲に対し,本件条項の内容を説明した上,身分や資力を証明する書類の提示のほか,家賃の引落しで使用する口座の指定を求めた。甲は,自己がX組組員であり,A宅を監視する目的で本件居室を使用する予定である旨告げれば,前記契約の締結ができないと考え,Bに対し,X組組員であることは告げず,その目的を秘しつつ本件居室を人材派遣業の事務所として使用する予定である旨告げた。甲は,Bに変更後の氏名を名乗れば,暴力団員であることが発覚する可能性があると考え,Bに対し,変更前の氏名を名乗った上,養子縁組前に取得し,氏名欄に変更前の氏名が記載された正規の有効な自動車運転免許証を示した。また,甲は,養子縁組前に開設し,口座名義を変更していない預金口座の通帳に十分な残高が記帳されていたため,Bに対し,同通帳を示し,同口座を家賃の引落しで使用する口座として指定した。甲は,同日,前記契約書の賃借人欄に現住所及び変更前の氏名を記入した上,その認印を押し,同契約書をBに渡した。Bは,甲が暴力団員やその関係者でなく,本件居室を暴力団と関係する活動に使うつもりもない旨誤信し,甲との間で上記契約を締結した。この際,甲には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあった。なお,前記マンションが所在する某県では,暴力団排除の観点から,不動産賃貸借契約には本件条項を設けることが推奨されていた。また,実際にも,同県の不動産賃貸借契約においては,暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避けたいとの賃貸人側の意向も踏まえ,本件条項が設けられるのが一般的であった。

乙の警護役であるY組組員の丙(20歳,男性,身長180センチメートル,体重85キログラム)は,同月9日午前1時頃,A宅前路上に停めた自動車に乗り,A宅にいた乙を待っていたところ,前記マンション敷地から同路上に出てきた甲を見掛けた。その際,丙は,甲のことを,風貌が甲と酷似する後輩の丁と勘違いし,甲に対し,「おい,こんな時間にどこに行くんだ。」と声を掛けた。これに対し,甲は,無言で上記路上から立ち去ろうとした。これを見た丙は,丁に無視されたと思い込み,同車から降りて甲を追い掛け,「無視すんなよ。こら。」と威圧的に言い,上記路上から約30メートル先の路上において,甲の前に立ち塞がった。丙は,その時,甲が丁でないことに気付くとともに,暴力団員風で見慣れない人物であったことから,その行動を不審に思い,乙に電話で報告しようと考え,着衣のポケットからスマートフォンを取り出した。他方,甲は,丙が取り出したものがスタンガン(高電圧によって相手にショックを与える護身具)であると勘違いし,それまでの丙の態度から,直ちにスタンガンで攻撃され,火傷を負わされたり,意識を失わされたりするのではないかと思い込み,同日午前1時3分頃,自己の身を守るため,丙に対し,とっさに拳でその顔面を1回殴ったところ,丙は,転倒して路面に頭部を強く打ち付け,急性硬膜下血腫の傷害を負い,そのまま意識を失った。なお,甲は,丙の態度を注視していれば,丙が取り出したものがスマートフォンであり,丙が直ちに自己に暴行を加える意思がないことを容易に認識することができた。甲は,同日午前1時4分頃,丙が身動きせず,意識を失っていることを認識したが,丙に対する怒りから,丙に対し,足でその腹部を3回蹴り,丙に加療約1週間を要する腹部打撲の傷害を負わせた。丙は,同日午前9時頃,搬送先の病院において,前記急性硬膜下血腫により死亡したが,甲の足蹴り行為により死期が早まることはなかった。

 

未成年の子の特別代理人と善管注意義務

実務精選120 離婚・親子・相続事件判例解説・第一法規・2-19年 57事件

損害賠償請求控訴事件

 

【事件番号】       広島高等裁判所岡山支部判決/平成22年(ネ)第41号

【判決日付】       平成23年8月25日

【判示事項】       家庭裁判所の選任した未成年者の特別代理人(弁護士)が,未成年者を代理して遺産分割協議を成立させた行為について,特別代理人としての善管注意義務に違反し,不法行為が成立するとされた事例

【参照条文】       民法709

             民法860

             民法826

             家事審判法9-1

【掲載誌】        判例タイムズ1376号164頁

             判例時報2146号53頁

【評釈論文】       月報司法書士494号74頁

             法学新報120巻7~8号293頁

 

       主   文

 

 一 一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

 二 一審被告は、一審原告に対し、一〇七二万三六一三円及びこれに対する平成五年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 三 一審原告のその余の請求を棄却する。

 四 一審被告の控訴を棄却する。

 五 訴訟費用のうち参加により生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は第一、二審を通じてこれを五分し、その三を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。

 六 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第一 控訴の趣旨

 一 一審原告

 (1) 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。

 (2) 一審被告は、一審原告に対し、二〇五八万一五〇二円及びこれに対する平成五年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

  (なお、一審原告は、当審において、一審で求めていた三一九三万〇〇五六円の損害賠償請求及びこれに対する平成五年四月六日から支払済みまでの遅延損害金の請求を、三〇五一万一五五八円の損害賠償請求及びこれに対する平成五年五月二六日から支払済みまでの遅延損害金の請求に減縮した。原判決は、損害金九九三万〇〇五六円及びこれに対する平成五年五月二六日から支払済みまでの遅延損害金の限度で請求を認容しており、控訴の趣旨(2)は、請求減縮後の請求額と原判決認容額との差額の支払を求める意である。)

 二 一審被告

 (1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

 (2) 一審原告の請求を棄却する。

第二 事案の概要

 一 本件は、一審原告が、一審原告の特別代理人に選任された一審被告が、特別代理人の善管注意義務に違反し、不相当な遺産分割協議を成立させ、一審原告に損害を加えたとして、一審被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害の賠償及び一審被告を特別代理人に選任する審判のされた平成五年四月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原判決は、一審原告の請求を一部認容したところ、一審原告及び一審被告の双方が控訴した。

 一審原告は、上記第一の一のとおり、当審において請求を減縮した。請求減縮後の遅延損害金の起算日は、上記遺産分割協議の成立した日である。

 二 本件の争いのない事実等及び争点は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の内容」の一、二(原判決二頁五行目から同一一頁一四行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 (1) 原判決三頁八・九行目〈編注・本号後掲五九頁三段一一行目〉の「以下」の前に「一審被告補助参加人。」を付加する。

 (2) 原判決三頁一三行目の「甲三、」の次に「一九の四〇頁以下、」を付加する。

 (3) 原判決四頁七行目の「原告は、」から同八行目まで〈同五九頁四段一六~一八行目〉を「一審原告は、以下の土地(以下「荒神の土地④」などと、まとめて「荒神の各土地」という。)の各持分二分の一を取得する。」と改める。

 (4) 原判決四頁二二行目〈同六〇頁一段五行目〉の「した。」の次に「その内容は、上記(引用の原判決第二の一(5)ア(イ))変更後の遺産分割協議のとおりであり、一審被告は、一審原告の特別代理人として、この遺産分割協議書に署名押印したものである。」を付加する。

 (5) 原判決五頁一行目の「平成五年」から同二・三行目の「された。」まで〈同六〇頁一段一三~一六行目〉を「平成六年一月三一日付けで、本件各土地につき、平成五年一二月二七日売買を原因として、竹夫から丁原社に対して所有権移転登記ないし持分全部移転登記がされた。」と改める。

 (6) 原判決五頁七行目〈同六〇頁一段二二行目〉の「の持分全部」を削除する。

 (7) 原判決五頁一一行目〈同六〇頁一段二七行目〉の「より、」の次に「荒神の各土地及び本件建物につき、」を付加する。

 (8) 原判決五頁一二行目〈同六〇頁一段二九行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(12) 一審被告が、第一回目の特別代理人選任申立てにおいて特別代理人の候補となって以降、特別代理人として遺産分割協議を成立させるなど職務を遂行するまでの過程において、戊田弁護士は、原判決添付別紙一、二に記載された各土地(荒神の各土地)以外の太郎の遺産の詳細、本件売買契約の存在や代金額のことを、一審被告に知らせていなかった(争いのない事実)。」

 (9) 原判決九頁一行目〈同六一頁二段一七行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(エ) 一審被告が、下記のとおり、本件の事実経過の大要であると主張する事実は争う。」

 (10) 原判決九頁二行目〈同六一頁二段一八行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(ア) 上記特別代理人の権限に照らせば、一審被告が、第二回目の特別代理人選任申立てに対する審判の主文に従って遺産分割協議を成立させたことに何ら注意義務違反はない。

  (イ) 本件の事実経過の大要は、次のとおりである。

 竹夫と一審原告は、特別代理人選任申立事件について戊田弁護士に委任する前から、松夫を排除して、太郎の遺産を二人で分割取得し、一審原告の取得分は当面竹夫が預かり保管することを合意しており、一審原告は、竹夫や戊田弁護士の説明により、太郎の遺産の全貌、上記合意を実現する便法として、一審被告が特別代理人に選任され、原判決添付別紙二記載の内容による遺産分割協議がされることを理解していた。そして、竹夫と一審原告は、竹夫が戊田弁護士から引き継いだ本件売買の残代金四六八八万一三〇三円(甲二五の一・二)と預貯金残高八五一万五四五四円(甲八)の半額を、竹夫が一審原告のために預かり保管する旨合意したが、竹夫は、預かり保管していた一審原告取得分を、平成一〇年までに費消してしまった。

  (ウ) 上記(イ)によれば、一審原告主張の損害は竹夫の浪費行為によるものであり、一審被告の特別代理人としての注意義務違反を問う余地はない。」

 (11) 原判決九頁三行目〈同六一頁二段一九行目〉の「(ア) 」を「(エ) 一審原告、竹夫及び戊田弁護士は、本件各土地を含む遺産の全体を秘匿していたし、」と、同四行目の「竹夫」を「竹夫及び戊田弁護士」と、各改める。

 (12) 原判決九頁九行目の「(イ)」を「(オ)」と、同二二行目の「(ウ)」を「(カ)」と、各改める。

 (13) 原判決九頁二六行目から同一〇頁一四行目まで〈同六一頁三段二二行目~四段一二行目〉を、次のとおり改める。

 「(ア) 弁護士費用以外の一審原告の損害額は、松夫が代償金五〇〇万円のみを取得することで遺産分割協議に応じているから、次のaからb、cを控除した残額を一審原告と竹夫とで二分の一ずつ取得できるものとして計算すべきであり、さらにdを控除すれば二七七四万一五五八円となる。

  a 太郎の遺産総額 九二三九万一三三四円

  b 経費の合計 二七九八万五三四五円

 譲渡税、市県民税、電気代、仲介手数料、葬儀費用、税理士報酬、弁護士報酬、司法書士書類取寄費用の合計額である。

  c 松夫に対する代償金 五〇〇万円

  d 一審原告が既に取得した額 一九六万一四三六円

 一審原告が、遺産分割協議によって取得した不動産の価額である。

  (イ) 本件訴訟提起に係る弁護士費用相当の損害額は二七七万円である。

  (ウ) 合計三〇五一万一五五八円」

 (14) 原判決一〇頁一六行目から同二三行目まで〈同六一頁四段一四~二七行目〉を、次のとおり改める。

 「(ア) いずれも否認ないし争う。

  損害額算定は、太郎の遺産総額を法定相続分に従って三等分した額を基礎とすべきである。松夫は、太郎の遺産の全貌を知らされずに、遺産分割協議における意思表示をしたのであって、遺産分割協議は無効である。

  (イ) 一審被告の行為と一審原告の損害との間には相当因果関係がない。一審原告主張の損害は、竹夫の浪費行為によるものである。

  (ウ) 一審原告は、太郎と同居し、太郎の耕作を手伝い、あるいは、戊田弁護士から説明を受けることにより、本件売買契約の存在、特別代理人選任審判の内容、遺産分割協議の内容をいずれも知悉していた。そして、竹夫と一審原告は、太郎の遺産を二人で分割取得するとの当初からの合意に基づき、戊田弁護士から引き継いだ本件売買の残代金及び預貯金の合計五五三九万六七五七円の半額を、竹夫が一審原告のために預かり保管する旨合意した。これにより、一審原告は、遺産分割協議による取得額一九六万一四三六円を除いても、二七六九万八三七八円の限度で損害の填補を受けており、法定相続分に従って取得し得る太郎の遺産の三分の一に当たる額(仮に、相続税の申告書控え(甲八)に従えば、二一四六万八六六三円である。)を超える利益を確保しているから、一審原告に損害は発生しない。」

 (15) 原判決一一頁八行目〈同六二頁一段一〇行目〉の「二〇日ころ」の次に「、少なくとも根抵当権設定登記等のされた同年五月一九日」を付加し、同九行目の「平成一〇年三月二〇日」を「平成一〇年五月一九日」と改める。

 (16) 原判決一一頁一〇行目〈同六二頁一段一四行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(イ) なお、一審原告は、平成五年五月二六日の時点で、一審被告が一審原告の特別代理人に選任され、その代理行為により、不平等な内容の遺産分割協議が成立したことを認識していた。

 平成五年五月二六日から三年が経過した。

  (ウ) また、一審原告は、平成六年一月三一日、竹夫との間で、本件売買の残代金を竹夫が預かり保管する旨話し合った際、遺産分割協議の内容を知った。

 平成六年一月三一日から三年が経過した。」

 (17) 原判決一一頁一一行目の「(イ)」を「(エ)」と改める。

 (18) 原判決一一頁一四行目〈同六二頁一段一九行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(5) 権利濫用

 ア 一審被告の主張

 一審原告は、上記(加除訂正に係る引用の原判決第二の二(3)イ(イ)(ウ))のとおり、竹夫と合意したとおりの利益を取得していながら、長期間にわたり竹夫にその管理を委ねた結果、竹夫から上記利益の回収ができなくなったため、その損失を一審被告に補填させるべく本訴請求に及んだものであり、権利濫用に該当する。

 イ 一審原告の主張

 争う。

 (6) 過失相殺

 ア 一審被告の主張

 一審原告は、上記(加除訂正に係る引用の原判決第二の二(3)イ(イ)(ウ))のとおり、竹夫に金員等を預かり保管させ、平成七年一月八日に一審原告が成年に達した後も、預かり保管に係る金員の返還を請求せず、竹夫の預かり保管状態にも注意を払わず放置していたところ、竹夫は、その間に、上記金員を費消してしまった。

 一審原告は、平成三年八月三〇日から平成一三年二月一日まで竹夫と同居し、同人の行動を十分確認し得たばかりか、平成一〇年に荒神の各土地や本件建物を担保提供した際には、同人の預かり保管する金員の所在について危機感を抱いたこともあったにもかかわらず、これを放置し続けたのであるから、一審原告の不注意が、損害の発生及び拡大を助けたことは明白である。

 イ 一審原告の主張

 一審原告は、遺産分割協議の内容を知らなかったし、竹夫には一審原告に現金を渡す意図も法的義務もないばかりか、同遺産分割協議の内容を知り得たとしても、その無効を主張する余地もなかった。したがって、一審原告が竹夫に金員の返還請求をしなかったことが、一審原告の過失であるとか、損害を拡大したということはできない。

 共同不法行為者の一人が無資力になるまでに、その者に損害賠償請求をしなかったとしても、それが被害者の過失に当たるとはいえないから、一審被告の主張は失当である。」

第三 当裁判所の判断

 当裁判所は、一審原告の請求は、一審被告に対し、一〇七二万三六一三円及びこれに対する平成五年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却するベきであると判断する。

 一 認定事実

 次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の一(原判決一一頁一六行目から同一五頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 (1) 原判決一一頁一六行目の「一九、」の次に「二五の一・二、二六、」を、同一八行目の「甲野竹夫、」の次に「同戊田夏夫、」を、同一八・一九行目の「被告本人」の次に「。なお、甲八は、写しを原本として提出したもので、甲二五の一・二、証人戊田夏夫、一審原告本人及び弁論の全趣旨により税理士乙野冬夫の作成と認められる。」を、各付加する。

 (2) 原判決一一頁二四行目〈同六二頁一段三一行目〉の「していた。」を「しており、中学卒業後就職し、少なくとも平成五年三月ころまでは、自動車整備工場で稼働する傍ら、岡山市立丙山高等学校の夜間部に在学していた。」と改める。

 (3) 原判決一二頁一行目〈同六二頁二段三行目〉の「建築し、原告と同居を続けたが」を「建築して同建物に居住し、一審原告も隣接建物で生活していたが」と改める。

 (4) 原判決一二頁一〇行目〈同六二頁二段一八行目〉の「八月中旬」を「七、八月」と改める。

 (5) 原判決一二頁一二行目〈同六二頁二段二三行目〉の末尾に、「戊田弁護士は、本件売買契約やその代金等について、一審被告に説明しなかった。」を付加する。

 (6) 原判決一三頁一六行目〈同六二頁四段一一行目〉の末尾に、「戊田弁護士は、変更後の遺産分割協議書に新たに記載された荒神の土地②ないし⑥については一審被告に告げたが、本件売買契約やその代金等については、一審被告に説明しなかった。」を付加する。

 (7) 原判決一三頁一九行目の「丁原社」から「締結し、」まで〈同六二頁四段一六~一七行目〉を「竹夫と丁原社が売買契約を締結したとの形式を整え、」と改める。

 (8) 原判決一三頁二六行目の「竹夫は、」から同一四頁二行目まで〈同六二頁四段二九~三二行目〉を「竹夫は、本件売買の残代金から上記経費を除いた約四六二〇万三七〇三円位を戊田弁護士から受領し、現金や預金合計八五一万五四五四円を取得した後ころ、一審原告に対し、太郎の遺産が四〇〇〇万円位入るので、半分は一審原告の分として竹夫が預かっておく旨述べた。」と改める。

 (9) 原判決一四頁三行目〈同六二頁四段末行〉の「約四〇〇〇万円」を「受領した金員」と改める。

 (10) 原判決一五頁七行目〈同六三頁二段二一行目〉の末尾に、改行して次のとおり付加する。

 「(10) 一審被告は、一審原告が、特別代理人選任申立事件について戊田弁護士に委任する前から、松夫を排除して、太郎の遺産を二人で分割取得し、一審原告の取得分は当面竹夫が預かり保管することを竹夫と合意しており、本件売買契約の存在、特別代理人選任審判の内容、遺産分割協議の内容等を知悉していたと主張する。しかし、上記事実を認めるに足りる的確な証拠はないばかりか、荒神の各土地や本件建物について担保不動産競売開始決定がされ、玉木弁護士に相談をした際には、太郎の相続人は竹夫と一審原告のみであり、遺産分割も竹夫に任せていたのでよく分からないし、特別代理人である一審被告のことも知らない旨玉木弁護士に告げている(甲一一)ことを考慮すれば、一審被告が主張する上記の事実は認められない。」

 二 争点(1)(特別代理人の注意義務)について

 次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の二(原判決一五頁八行目から同一七頁二行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 (1) 原判決一六頁五行目〈同六三頁三段二九行目〉の「場合でも、」の次に「その趣旨は、特別代理人の裁量権行使により未成年者の利益が害されることのないようその裁量権を制限するものであって、」を付加する。

 (2) 原判決一六頁二一行目〈同六三頁四段二六行目〉の「固定資産評価証明書」の次に「、名寄帳」を付加する。

 三 争点(2)(一審被告の注意義務違反)について

 次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の三(原判決一七頁三行目から同一九行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 原判決一七頁六行目〈同六四頁一段一二行目〉の「窺えない。」の次に「原判決添付別紙一記載の遺産分割協議案は土地一筆を掲げるのみであるのに対し、同別紙二記載の遺産分割協議案には土地六筆が掲げられていたのであるから、」を、同七行目〈同一五行目〉の「固定資産評価証明書」の次に「、名寄帳」を、同一五行目〈同二九行目〉の「了解し、」の次に「戊田弁護士が「それ以外の遺産」について明確な説明をしなかったにもかかわらず、同弁護士に質問等をしたり、関係者に問い合わせる等の調査行為を全くせず、」を、各付加する。

 四 争点(3)(損害)について

 (1) 《証拠略》によれば、次のとおり認められる。

 ア 太郎の遺産総額 九二三九万一三三四円

 イ 経費の総額 二七九八万五三四五円

 ウ 一審原告が遺産分割協議により取得した不動産の価額 一九六万一四三六円

 (2) 松夫の相続分

 一審原告は、「松夫が代償金五〇〇万円のみを取得することで遺産分割協議に応じているから、損害額の算定においては、上記五〇〇万円を超えて松夫の相続分を考慮する必要はない。」旨主張する。しかし、松夫、竹夫及び一審原告の法定相続分は各三分の一であるところ、既に認定した事実及び弁論の全趣旨に照らすと、松夫が太郎の遺産の全貌を認識して上記遺産分割協議に応じたとは認め難いし(一審原告もこの点は否定しない。平成二二年一二月二二日付け当審準備書面)、一審被告が太郎の遺産の全貌を認識していれば、この点に係る松夫の認識や意思を確認した可能性もある。そうすると、一審被告に注意義務違反がなかった場合に、太郎の遺産総額から経費と代償金五〇〇万円を除いた額の二分の一の額を一審原告が取得する旨の遺産分割協議が成立したと直ちには認められない。したがって、一審原告の損害額の算定に当たっては、太郎の遺産総額から経費を控除した上、これを三等分した額を基礎とすることが相当である。

 (3) 竹夫の預かり保管

 一審被告は、「一審原告が、戊田弁護士から引き継いだ本件売買の残代金等の半額に当たる二七六九万八三七八円を、竹夫が一審原告のために預かり保管する旨竹夫と合意したことにより、遺産分割によって取得し得る額を超える利益を確保したので、一審原告に損害は発生しない。」と主張する。しかし、遺産分割協議の成立により、竹夫が荒神の各土地の持分以外の遺産を一旦は取得することになり、その遺産のうち約四〇〇〇万円の半分を一審原告の分として預かっておくと竹夫が述べ、一審原告がこれを了承したとしても、これによって、一審原告が上記金員を管理できるわけではないから、一審原告に損害が発生しなかったとか、その損害が回復したということはできない。

 (4) 総額 一九五〇万七二二七円

 上記(1)アから同イを控除し、これを三等分して同ウを控除した額である。なお、弁護士費用相当の損害額は、後記七において判断する。

 五 争点(4)(消滅時効の成否)について

 (1) 一審被告は、消滅時効の起算日について、「一審原告は、平成五年四月六日には本件売買代金債権の存在を知っていた、あるいは、同年五月二六日には一審原告の特別代理人に一審被告が選任され、その代理行為により、不平等な内容の遺産分割協議が成立したことを認識していた。」と主張するが、これらの事実を認めるに足りる証拠はない。一審被告は、「竹夫や戊田弁護士が、本件売買契約等について一審原告に説明した。」と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

 (2) また、一審被告は、消滅時効の起算日について、「一審原告は、平成六年一月三一日に本件売買の残代金について話し合い、遺産分割協議の内容を知った。」と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。平成四年八月及び平成五年三月、一審原告が家庭裁判所の照会に対する各回答書を作成したこと、同年四月ころ、一審被告が第二回目の審判書の写しを一審原告に送付したこと、平成六年一月三一日以降に、竹夫が太郎の遺産約四〇〇〇万円の半分を一審原告の分として預かっておく旨一審原告に述べたことは既に認定したとおりである。しかし、平成五年四月当時、一審原告は一八歳であり、同年三月当時は自動車整備工場に勤務しながら高等学校夜間部に在学していた未成年者であること、当時、竹夫は二六歳ないし二七歳と一審原告より相当年長であり、一審原告と同居するとともに、遺産分割及び特別代理人選任手続を主導的に行っていたこと、一審原告は、平成一九年に玉木弁護士に相談した際、遺産分割についてよく分からない旨述べていること(甲一一)、竹夫、一審原告及び戊田弁護士は、竹夫や戊田弁護士が本件売買契約について一審原告に説明していないと証言・供述していることを考慮すれば、一審原告が、当時、特別代理人選任等の遺産分割協議成立に至る手続や遺産分割の内容を十分理解していたとは認められないし、竹夫が太郎の遺産約四〇〇〇万円の半分を預かる旨一審原告に述べた際に、本件売買契約やこれと遺産分割協議の関係等について説明したとまでは認められない。

 (3) さらに、一審被告は、消滅時効の起算日について、「一審原告は、平成一〇年三月二〇日ないし同年五月一九日には本件売買代金債権について知った。」と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。一審原告は、平成一〇年三月二〇日ころ、荒神の各土地の持分を担保に供するために、司法書士に対する委任状に署名押印しており、上記各持分を太郎からの相続により取得したことを認識していたと認められる(乙三五の一ないし六、三六の一ないし五、証人甲野竹夫、一審原告本人)。しかし、上記(2)で説示した事情、一審原告は、平成一〇年三月当時二三歳であり、遺産分割協議成立後、本件売買契約を含め、太郎の遺産等について具体的な説明を受けたことをうかがわせる事情が認められないことを考慮すれば、上記遺産を取得した事実を認識していたからといって、本件売買代金債権について知っていたとは断定できない。

 (4) 以上によれば、一審被告主張の時期に一審原告が損害及び加害者を知ったとはいえず、一審被告の消滅時効の上記各主張は採用できない。

 六 争点(5)(権利濫用)について

 一審被告は、本訴請求が権利濫用に該当すると主張する。その主張は、一審原告が、松夫を排除して太郎の遺産を分割する旨竹夫と合意し、合意どおりの利益を取得したことを前提とするものであるが、上記合意の事実は認められないこと、一審原告に損害が発生しないとか、損害を回復したといえないことは既に説示したとおりである。また、一審原告が取得すべき遺産相当額について竹夫から回収できなくなった点は、過失相殺において考慮すれば足りる。

 したがって、一審被告の上記主張は採用できない。

 七 争点(6)(過失相殺)について

 (1) 既に認定した事実によれば、一審原告は、中学卒業後就職し、一七歳であった平成四年八月及び一八歳であった平成五年三月には、特別代理人選任申立てに係る家庭裁判所の照会に対する回答書を作成しており、少なくとも太郎の遺産分割について何らかの手続がされていることを認識し得たこと、また、その後、竹夫から太郎の遺産約四〇〇〇万円の半分を一審原告の分として預かっておく旨聞かされており、自身が相当額の遺産を取得できる可能性があったと認識し得たが、これを確認等せず、全面的に竹夫に委ねたままにしていたこと、平成七年一月には成年に達し、法的には自己の財産を管理できる立場となったこと、当時、一審原告は竹夫と同居しており、成年に達した後も太郎の遺産の内容や上記手続の意味等について何時でも質問し、不平等な遺産分割協議が成立したことを認識し得たと認められること、他方、竹夫は、平成六年ころ以降、本来であれば一審原告が取得し得た遺産を含め、本件売買の残代金等の現金・預金五四七一万円余を受領して管理していたが、これを平成一〇年までにすべて費消したことが認められる。

 上記認定事実によれば、一審原告は、成年に達した後も、竹夫が管理する金員をすべて費消するより前に、不平等な遺産分割協議の成立について認識し、これによる損害を回復し得たにもかかわらず、漫然とその状態を放置したことにより損害を回復する機会を失ったというべきであり、その過失割合は五割と認めるのが相当である。

 一審原告は、遺産分割協議の内容を知り得ても、その効力を否定できなかったと主張するが、一審原告及び特別代理人である一審被告は、本件売買契約の代金債権等の遺産の重要な部分について知らされていなかったから、遺産分割協議の錯誤無効を主張し得たというべきである。また、本件は、一審原告が返還を求めうる金員そのものを竹夫が費消した事案であるから、共同不法行為者の一人が無資力になった場合とは同視できない。

 (2) 既に認定した損害額一九五〇万七二二七円から、上記五割を控除すれば、九七五万三六一三円となる。

 上記過失相殺後の損害額を考慮すれば、弁護士費用相当の損害額は九七万円が相当である。

 一審被告は、上記合計額一〇七二万三六一三円及びこれに対する遺産分割協議の成立により一審原告が損害を被った日である平成五年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

第四 結論

 以上によれば、一審原告の本件請求は上記説示の限度で理由があり、その余の請求は理由がないので、これと一部異なる原判決を一審原告の控訴に基づき変更し、一審被告の控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 檜皮高弘 濱谷由紀)

 

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