岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

2021年04月

ラジオタイランド 2021年4月30日 金 2200~2215JST

9390kHz 54444 ICOM IC756PRO3 25mH DP

 

2200 ニュース

国連アジア太平洋経済社会委員会ESCAP第77回会議でプライユット首相が開会の辞を述べた。テレビ会議で開かれた。

 

タイは今年1億回分のコビット19ワクチン調達を目指している。

 

日本格付け研究所がタイの格付けをAマイナスを維持。

 

タイ工業連盟の食品加工部会は食品の輸出高が5~7パーセント成長し1兆バーツに届くだろうと予測した。

 

2210 ニュース展望

バンコクの公共の場所では屋外屋内をとわずマスク着用を義務づけ

 

 

宮井よしあき

医学部入試における女性差別について損害賠償を認めた東京地裁令和2年判決

令和2年度重要判例解説ジュリスト1557号 2021年4月増刊号 憲法3

共通義務確認請求事件

東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第38776号

令和2年3月6日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       銀行法務21 854号68頁

             NBL1167号50頁

 

       主   文

 

 1 被告が,別紙対象消費者目録記載1の対象消費者に対し,個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて,次の金銭支払義務を負うことを確認する。

  (1) 入学検定料,受験票送料,送金手数料及び出願書類郵送料,並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の不法行為に基づく損害賠償の支払義務

  (2) 前記(1)の損害賠償支払義務に係る金員に対する,別紙対象消費者目録記載1の(1)アの対象消費者については平成29年1月24日から,別紙対象消費者目録記載1の(1)イの対象消費者については平成29年1月13日から,別紙対象消費者目録記載1の(1)ウの対象消費者については平成30年1月23日から,別紙対象消費者目録記載1の(1)エの対象消費者については,平成30年1月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務

 2 原告のその余の請求に係る訴え(受験に要した旅費及び宿泊費に係る共通義務の確認を求める部分)を却下する。

 3 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 主位的請求

   被告が,別紙対象消費者目録記載1の対象消費者に対し,個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて,次の金銭支払義務を負うことを確認する。

  (1) 入学検定料,受験票送料,送金手数料,出願書類郵送料,受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の不法行為に基づく損害賠償の支払義務

  (2) 前記(1)の損害賠償支払義務に係る金員に対する,別紙対象消費者目録記載1の(1)アの対象消費者については平成29年1月24日から,別紙対象消費者目録記載1の(1)イの対象消費者については平成29年1月13日から,別紙対象消費者目録記載1の(1)ウの対象消費者については平成30年1月23日から,別紙対象消費者目録記載1の1(1)エの対象消費者については平成30年1月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務

 2 予備的請求1

   被告が,別紙対象消費者目録記載2の対象消費者に対し,個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて,次の金銭支払義務を負うことを確認する。

  (1) 入学検定料,受験票送料,送金手数料,出願書類郵送料,受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の不法行為に基づく損害賠償の支払義務

  (2) 前記(1)の損害賠償支払義務に係る金員に対する,別紙対象消費者目録記載2の(1)ア及びイの対象消費者については平成29年2月18日から,別紙対象消費者目録記載2の(1)ウ及びエの対象消費者については平成30年2月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務

 3 予備的請求2

   被告が,別紙対象消費者目録記載2の対象消費者に対し,個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて,次の金銭支払義務を負うことを確認する。

  (1) 入学検定料,受験票送料,送金手数料,出願書類郵送料,受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の不法行為に基づく損害賠償の支払義務

  (2) 本件訴状送達の日又は各別に催告した日のいずれか早い日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務

第2 事案の概要

 1 本件は,消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「特例法」という。)65条1項により内閣総理大臣の認定を受けた特定消費者適格団体である原告が,東京医科大学(以下「本件大学」という。)を運営する学校法人である被告に対し,平成29年度及び平成30年度の本件大学の医学部医学科の一般入学試験及びセンター試験利用入学試験(以下,総称して「本件試験」という。)において,出願者への事前の説明なく,出願者の属性(女性,浪人生及び高校学校等コード51000以上の者)を不利に扱う得点調整(以下「本件得点調整」という。)が行われたことについて,不法行為又は債務不履行に該当すると主張して,上記属性を有する出願者のうち,受験年の4月30日までに合格の判定を受けなかった者(以下「本件対象消費者」という。)を対象消費者として,特例法3条1項3号,5号に基づく共通義務確認の訴え(特例法2条4号)を提起した事案である。

  (1) 主位的請求

    本件対象消費者の全員(別紙対象消費者目録記載1)につき,被告が本件得点調整を行うことを募集要項等において事前に説明していないことが違法であるとして,不法行為に基づく被告の損害賠償債務として,入学検定料,受験票送料,送金手数料,出願書類郵送料(以下,上記の4つの損害を「本件受験費用」という。),受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の金銭の支払義務を確認するとともに,同支払義務に係る金員に対する本件試験の各出願期間の最終日(平成29年度の一般入学試験の受験につき平成29年1月24日,平成29年度のセンター試験利用入学試験につき同月13日,平成30年度の一般入学試験につき平成30年1月23日,平成30年度のセンター試験利用入学試験につき同月12日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務の確認を求める事案である。

  (2) 予備的請求1

    本件対象消費者のうち,本件試験の一次試験に合格し,かつ,本件試験の二次試験を受験した者(別紙対象消費者目録記載2。本件得点調整の現実の対象者である。)につき,被告が本件得点調整を行うことが入学試験を公正かつ妥当な方法で行う義務に反し違法であるとして,不法行為に基づく損害賠償請求として,本件受験費用,受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の金銭の支払義務を確認するとともに,同支払義務に係る金員に対する本件試験の二次試験の合格発表日(平成29年度につき平成29年2月18日,平成30年度につき平成30年2月17日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務の確認を求める事案である。

  (3) 予備的請求2

    本件対象消費者のうち,前記(2)と同様の者(別紙対象消費者目録記載2)を対象に,被告が本件得点調整を行ったことが,対象消費者と被告との間の入学試験受験契約における入学試験を公正かつ妥当な方法で行う義務に反し,同契約の債務不履行による損害賠償の請求として,本件受験費用,受験に要した旅費及び宿泊費並びに対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用に相当する額の金銭の支払義務を確認するとともに,同支払義務に係る金員に対する本訴状送達の日(平成31年1月10日)又は対象消費者が各別に被告に催告した日のいずれか早い日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務の確認を求める事案である。

 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

  (1) 当事者

   ア 原告は,内閣総理大臣から平成28年12月27日に特例法65条1項に基づく認定を受けた特定適格消費者団体である(甲1,11)。

   イ 被告は,本件大学を運営する学校法人である。

  (2) 平成29年度の一般入学試験

   ア 募集人数は75名であり,一次試験及び二次試験によって合格者を決定するものとされており,入学検定料は6万円である。

   イ 出願期間は,平成29年1月24日までとされ,一次試験は同年2月4日,二次試験は同月12日に行われた。

   ウ 一次試験は,理科200点,数学100点,英語100点の合計400点の学力試験の成績によって判定され,合格者が決定される。

   エ 二次試験は,一次試験合格者に対し,小論文60点,適性検査及び面接の各試験結果に,一次試験の成績及び調査書を加味して,総合的判定によって合格者が決定される。具体的には,一次試験と小論文の得点を加算した合計得点が高い者から順に受験者名が配列された一般二次合格者選定名簿が作成され,成績上位者から順に面接や適性検査の結果を参照して合否判定を行う。

     なお,適性検査及び面接は,一次試験の点数等と合算するものではなく,ネガティブチェックのために行われており,適性検査及び面接の評価の低い受験生については,合否について慎重な判断がされていた。

   オ 受験者数は2832名であり,そのうち女性は1140名であった。二次試験の合格発表は平成29年2月18日に行われ,正規合格者及び繰上合格者の合計は131名であった。

  (3) 平成29年度のセンター試験利用入学試験

   ア 募集人数は15名であり,一次試験及び二次試験によって合格者を決定するものとされており,入学検定料は4万円である。

   イ 出願期間は平成29年1月13日までであり,二次試験は一般入学試験と同日の平成29年2月12日に行われた。

   ウ センター試験のうち,国語200点,数学200点,地理歴史公民100点,理科200点,外国語(英語)250点の合計950点の合計得点が一次試験合格者判定のための資料となる。

   エ 一次試験合格者に対し行われる二次試験の内容は一般入学試験の二次試験の内容(前記(2)エ)と同じである。

   オ 受験者は,846名であり,そのうち女性は400名であった。二次試験の合格発表は平成29年2月18日に行われ,合格者は48名であった。

  (4) 平成30年度の一般入学試験

   ア 募集人数は75名であり,一次試験及び二次試験によって合格者を決定するものとされており,入学検定料は6万円である。

   イ 出願期間は,平成30年1月23日までとされ,一次試験は同年2月3日,二次試験は同月10日に行われた。

   ウ 一次試験の配点は,平成29年度と同様(理科200点,数学100点,英語100点の合計400点。前記(2)ウ)である。

   エ 二次試験は,平成29年度(前記(2)エ)と同様であるが,小論文の配点は100点とされた。

   オ 受験者数は2614名であり,そのうち女性は1018名であった。二次試験の合格発表は平成30年2月17日に行われ,正規合格者及び繰上合格者の合計は171名であった。

  (5) 平成30年度のセンター試験利用入学試験

   ア 募集人数は15名であり,一次試験及び二次試験によって合格者を決定するものとされており,入学検定料は4万円である。

   イ 出願期間は平成30年1月12日までであり,二次試験は一般入学試験と同日の平成30年2月10日に行われた。

   ウ 一次試験の配点は平成29年度と同様である(国語200点,数学200点,地理歴史公民100点,理科200点,外国語(英語)250点の合計950点)。

   エ 一次試験合格者に対し行われる二次試験の内容は一般入学試験の二次試験の内容(前記(4)エ)と同じである。

   オ 受験者は,917名であり,そのうち女性は384名であった。二次試験の合格発表は平成30年2月17日に行われ,合格者は43名であった。

  (6) 本件得点調整の概要

   ア 平成29年度の本件試験については,一般入学試験及びセンター試験利用入学試験のいずれの二次試験においても,小論文の点数に0.833を乗じた上で,現役の男性受験生には5点を加点し,一浪の男性受験生には4点,二浪の男性受験生には3点を加算する一方で,女性受験生,三浪以上の男性受験生,高校学校等コード51000番以上の者(高等学校卒業程度認定試験合格者,大学入学資格検定合格者,外国の学校等の修了者,国際バカロレア資格取得者,在外教育施設の課程修了者,専修学校の高等課程を修了した者など。甲5)。に対しては加点をしないという得点調整を行った。

   イ 平成30年度の本件試験については,一般入学試験及びセンター試験利用入学試験のいずれの二次試験においても,小論文の点数を0.8倍し,現役,一浪及び二浪の男性受験生については一律10点を加算し,三浪の男性受験生には5点を加算し,女性受験生,四浪以上の男性受験生及びコード51000番以上の受験生には加点をしないという得点調整を行った。

   ウ 前記ア及びイの得点調整(本件得点調整)は,事前に受験生に公表はされていなかった。

 3 争点

  (1) 共通性(争点1)(主位的請求及び予備的請求1,2に共通)

   (原告の主張)

   ア 特例法の訴訟要件たる共通性は,個々の消費者の事業者に対する請求を基礎付ける事実関係がその主要な部分において共通であり,かつその基本的な法的根拠が共通であることをもって足りる。本件は,いずれの請求についても,実施された本件試験で本件得点調整が行われたこと及び出願者に対して事前に本件得点調整の説明がなかったこと,並びに対象消費者が本件試験の受験契約を締結し,(予備的請求については)本件試験の二次試験を受験したことという主要な事実関係が共通しており,共通性の要件を満たす。

   イ 得点調整は合格可能性に影響を及ぼすから,受験生にとって当該大学を受験するか否かを判断するに当たって極めて重要な事項である。受験生にとって,本件得点調整を知っていれば,属性により不利益な扱いを受けることとなるから本件大学には出願しなかったという一般的な因果関係があるというべきである。

     被告は,対象消費者の出願の動機の個別性について主張するが,共通性に取り込まれない要素について,それが支配性の要件を欠かない限りは,「個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合」(特例法2条4号)の問題であり,簡易確定手続で判断すれば足りる。

   (被告の主張)

   ア 本件大学への入学を希望している受験生は,その合格の可能性が完全に排除されない限り,本件大学を受験すると考えるのが通常である。また,私立医科大学の受験においては,複数の大学を併願して受験し,その中から最も希望する大学に入学する受験生が多いこと,腕試しを目的とした受験もあること等の可能性を併せ考えると,本件対象消費者が,本件得点調整がされることを知っていたとしても本件大学を受験した可能性は高いのであって,原告の主張するような本件得点調整を知っていれば受験はしなかったという一般的な因果関係があるとはいえない。

   イ したがって,原告の主張する請求原因が認められるには,個々の受験生の本件試験への出願の動機を審理する必要があるし,本件試験への出願の動機は個々の受験生により異なるものであり,共通性が欠けている。

  (2) 多数性(争点2)(主位的請求及び予備的請求1,2に共通)

  (原告の主張)

   ア 主位的請求について

     本件試験を受けた者のうち,浪人生,高校学校等コード51000以上の者の数は明らかではないが,女性受験生だけでも平成29年度で1540名であり,平成29年4月30日までに二次試験の合格の判定を受けた77名を除いても1463名はいる。また,平成30年度の女性受験者は1402名であり,平成30年4月30日までに二次試験の合格の判定を受けた34名を除いても1368名はおり,本件対象消費者(対象消費者目録1)は多数性を満たしている。

   イ 予備的請求について

     平成29年度の本件試験の一次試験に合格した者のうち,浪人生,高校学校等コード51000以上の者の数は不明であるが,女性受験生は269名であり,このうち平成29年4月30日までに二次試験の合格の判定を受けた77名を除いても192名はいる。また,平成30年度の一次試験に合格した女性受験生は217名であり,平成30年4月30日までに二次試験の合格の判定を受けた34名を除いても183名はおり,本件対象消費者(対象消費者目録2)は多数性を満たしている。

  (被告の主張)

    原告の請求原因は,本件得点調整がされると知っていれば本件大学を受験しなかったということに収斂されるものと思われるが,対象消費者の出願の動機は様々であるから(前記(1)〔被告の主張〕ア),多数性の要件を欠いている。

  (3) 支配性(争点3)(主位的請求及び予備的請求1,2に共通)

   (原告の主張)

   ア 本件対象消費者の属性は明確であり,被告において把握しているから,対象消費者の該当性の判断が,簡易確定手続の書面審理で迅速になし得ない事態は想定し難い。

     属性により不利益な扱いを受けるのであれば,本件大学には出願しないという選択をすることが一般的であることからすれば,本件得点調整を知っていれば本件大学を受験しなったといえるかという因果関係(以下「本件因果関係」という。)の有無は,アンケートや陳述書等で判断可能であり,本件因果関係を否定するような特別な事情が窺われる者についてのみ異議後の訴訟において判断すれば足りる。事業者の虚偽説明により消費者が誤認するというのは典型的な消費者被害として特例法が予定する類型であり,消費者ごとに主観が異なりうる場合でも,それによって支配性が直ちに否定されることは想定されていない。また,消費者の誤認を争点とする通常の集団訴訟でも必ずしも消費者の全員を尋問していないことからすれば,対象消費者全員を尋問する必要はなく,数名程度を尋問してその余の者についてはアンケート等による代替も可能である。

   イ 損害についても,入学検定料,受験票郵送料,出願書類郵送料は対象消費者にとって一律であるし,送金手数料,旅費及び宿泊費,特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用は書面による審理で容易に認定し得るものである。

     旅費及び宿泊費については,領収書やクレジットカードの明細書等の書証による立証が適切であり,対象消費者の尋問を要することはないし,仮にそのような資料が乏しい場合でも,鉄道会社の約款や,旅費法の定める額等により算出することが可能であって,簡易確定手続の書面審理で迅速になし得ない事態は想定し難い。

     また,一度の上京の機会に複数の大学を受験する場合にも,受験した大学の数に応じて案分して旅費や宿泊費を計算することもできるのであるから,そのことをもって支配性を欠くとはいえない。

   (被告の主張)

   ア 前記(1)(被告の主張)ア記載のとおり,本件因果関係の有無については,個々の受験生の主観を審理する必要があり,その審理はアンケートや陳述書では足りず,対象消費者全員に対する反対尋問が必須であって,簡易確定手続において,適切かつ迅速に判断することは困難である。

   イ 損害についても,旅費については,交通手段は公共交通機関,自家用車,通学定期の利用等様々有り得るし,宿泊費についても,他の大学との受験のため連泊するような場合や親戚の家に泊まる場合等の様々なケースがあるのであって,個別の対象消費者に対する反対尋問の機会を確保する必要があるのであり,簡易確定手続において,適切かつ迅速に判断することは困難である。

  (4) 本件得点調整の説明義務があるか(争点4)(主位的請求)

   (原告の主張)

   ア 本件得点調整は,後記(原告の主張)のとおり,不法行為ないし債務不履行に当たる違法なものであるが,被告は,本件得点調整をすることを募集要項等において事前に明らかにしていない。

   イ 大学入学者選抜実施要項(甲6。以下「本件実施要項」という。)は,直接私法上の義務を課すものではないが,募集要項には入学志願者が出願に必要な事項を明記して公表することを定めており,私法上の信義則上の説明義務の有無においても重要な指標となる。大学が,本件実施要項やアドミッション・ポリシーと合理的関連性のない採点方法,採点基準による試験の実施を予定している場合には,信義則上採点基準を明示すべき義務を負う。被告は,本件大学について,本件得点調整を事前に公表していないことについて説明義務違反があり,不法行為責任を負う。

   ウ 被告の主張する証拠(本件大学の大学案内。乙19号証)により,本件得点調整が予想できたとはいえない。

   (被告の主張)

   ア 本件実施要項は公法上の義務を定めるものに過ぎない上,「試験の評価,判定方法については可能な限り情報開示に努める」と努力義務として定めているだけであり,採点方法,採点基準を募集要項に明記することについては法的に義務付けられていない。また,アドミッション・ポリシーに表示したからといって,それに沿った採点を義務付けられるわけでない。

     したがって,被告が本件得点調整を説明する義務を負っていたとはいえない。

   イ また,被告は,証拠(乙19号証)において,受験者及び入学者のそれぞれについて,男女比や浪人構成比を明らかにしており,属性ごとの本件大学の入学しやすさを判別するに足りる情報を開示していた。

  (5) 主位的請求についての損害及び因果関係(争点5)

   (原告の主張)

   ア 以下の損害は,本件得点調整の説明義務違反と相当因果関係のある損害である。

    (ア) 入学検定料

      対象消費者のうち,一般入学試験を受けた場合(別紙対象消費者目録1(1)ア,ウ)は6万円,センター試験利用入学試験を受けた場合(別紙対象消費者目録1(2)イ,エ)は4万円である。

    (イ) 受験票送料

      全ての対象消費者につき342円である。

    (ウ) 送金手数料

      所定の振込票により電信扱いで送金する必要があり,窓口送金を要するところ,その費用は540円又は864円である。

    (エ) 出願書類郵送料

      願書を書留・速達便で送付すべきものとされており,基本料金120円,速達料金280円,書留料金430円の合計830円である(なお,実額が判明する場合はそれによる。)。

    (オ) 受験に要した旅費及び宿泊費

    (カ) 特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用

      特例法においては,制度上,対象消費者が被害回復する場合には特定適格消費者団体の報酬及び費用を支払うべきものとされており(特例法76条,65条4項6号),本件得点調整の説明義務違反と相当因果関係のある損害である。

覚せい剤を飲ませた殺人未遂起訴について殺意を認定しなかった長野地裁令和2年

覚せい剤取締法違反,殺人未遂被告事件

長野地方裁判所松本支部判決/平成31年(わ)第21号

令和2年9月18日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人を懲役3年に処する。

 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

 被告人は,

 第1 みだりに,平成27年8月中旬頃,長野県安曇野市(以下略)被告人方において,Aらから,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する結晶若干量を代金約12万円で,事情を知らない郵便配達員を介し,同所を配達先とする郵便物として受領し,もって覚醒剤を譲り受けた。

 第2 Bと傷害の限度で共謀の上,同月23日午前2時20分頃から同日午前3時5分頃までの間に,同県松本市(以下略)所在の飲食店「C」店内において,法定の除外事由がないのに,覚醒剤を混入させた飲料をD(当時31歳)に対して提供し,事情を知らない同人にこれを飲ませて覚醒剤を使用し,よって,同人に入院加療4日間を要する覚醒剤による急性薬物中毒の傷害を負わせた。

 第3 前記第2記載の日時場所において,法定の除外事由がないのに,覚醒剤を混入させた飲料を,事情を知らない前記Bをして,E(当時28歳)に対して提供させて事情を知らない同人にこれを飲ませるとともに,前記第2記載の飲料を同人が飲むに至らしめて覚醒剤を使用し,よって,同人に入院加療4日間を要する覚醒剤による急性薬物中毒の傷害を負わせた。

(証拠の標目)

 以下,括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

判示事実全部について

・ 被告人の公判供述

・ 証人Fの公判供述

・ 捜査報告書(甲65,68)

判示第2,第3の事実について

・ 証人Bの公判供述

・ D(甲5)及びE(甲6)の各検察官調書

・ 捜査報告書(甲66,67)

(事実認定の補足説明)

 第1 本件の争点及び当事者の主張

 本件の争点は,判示第2及び第3の各事実における,D(以下「D」という。)とE(以下「E」という。)のそれぞれに対する殺意の有無である。

 検察官は,DとEに対してそれぞれ,飲料に混ぜた致死量に至るような多量の覚醒剤を全て飲ませようとした行為(以下「本件実行行為」という。)が,人を死亡させる危険性が高い行為であり,被告人もそのことを認識していたとして,被告人にはDとEに対する殺意が認められ,DとEのそれぞれに対する殺人未遂罪が成立する旨主張する(なお,検察官は,仮にEに対する直接的な殺意が認められないとしても,いわゆる方法の錯誤であって,Dに対する殺意が認められる結果として,Eに対する殺意も認められる旨の主張もしている。)。

 これに対して,被告人は,DとEのいずれに対しても殺意がなかった旨弁解し,これを受けて,弁護人も,被告人に殺意はなく,DとEのいずれに対しても殺人未遂罪は成立せず,傷害罪が成立するにとどまる旨主張する。

 当裁判所は,被告人が,本件実行行為に及んだ時点で,本件実行行為について人が死亡する危険性の高いものであると認識していなかったのではないかとの合理的な疑いが残ることから,DとEのいずれに対しても殺意は認められないと判断した。以下,そのような判断に至った理由を補足して説明する。

 第2 本件犯行に至る経緯等

 関係各証拠によれば,本件犯行に至る経緯等について,次の事実が認められる(以下の月日は,特に断らない限り平成27年中におけるものである。)。

 1 被告人は,本件当時,飲食店である「C」(以下「本件店舗」という。)に勤務し,いわゆる「チーママ」として本件店舗の従業員を管理するような立場にあった。

 被告人は,6月頃,数年前から通っていたホストクラブの従業員であり,かねてから被告人が同ホストクラブを訪れた際にホストとして指名していたG’(現姓はGであり,以下「G」という。)と交際するようになり,間もなくGと半同棲する関係になった。なお,Gは,5月頃までDと交際していたが,その頃にGがDに対する傷害の容疑で逮捕された後に,Dとの交際を解消していた。

 被告人は,Gから,上記のとおり逮捕されたことに関してDを非難する言動や,Dに復讐したいと考えていることなどを聞いた。

 2 被告人は,7月中旬頃,本件店舗の経営者であるF(以下「F」という。)に対して,中国人を利用してDに対して危害を加えることを相談した。

 3 被告人は,7月中旬頃,本件店舗の従業員であり,Dと交遊関係のあるB(以下「B」という。)に対し,異物を混入させた飲料をDに飲ませる計画を話して協力を求め,最終的にBはこれに応じた。

 4 被告人は,7月下旬頃,覚醒剤を混入した飲料をDに飲ませることを決意した。

 被告人は,8月中旬頃,Fから紹介を受けたAらから,覚醒剤約5~7グラム(以下「本件覚醒剤」という。)を約12万円で購入して入手した。

 5 被告人は,8月22日,Bから,DがEと共に本件店舗に深夜に来店し,Bと会食する予定であることを聞いた。

 被告人は,同月23日午前2時20分頃,缶コーヒーを2本購入し,本件店舗において,そのうちの1本に本件覚醒剤全てを混入させた。そして,①D用のグラスには焼酎と本件覚醒剤が混入したコーヒーを,②B用のグラスには覚醒剤が混入していないコーヒーを,③E用のグラスには本件覚醒剤が混入したコーヒーと覚醒剤が混入していないコーヒーをそれぞれ入れた上で,Bに対し,D,E,Bがそれぞれ飲むべき飲料を指定し,上記各飲料を提供するよう指示した。

 6 Bは,その頃,本件店舗において,被告人から受け取ったD用の飲料をDに,E用の飲料をEに,それぞれ提供した。DとEは各飲料をそれぞれ少量ずつ飲んだが,Dが,飲料が苦いなどと言い出し,その後,体調が急激に悪化したため,Eは,D用の飲料の味見をするため,同飲料を飲んだ。

 その後,Eが,119番通報と110番通報をし,Dは駆け付けた救急隊員に病院まで救急搬送された。

 第3 本件実行行為の危険性に対する被告人の認識

 1 本件実行行為の客観的危険性

 関係各証拠によれば,覚醒剤の過剰摂取により死亡した成人13名の死後の血中覚醒剤濃度の平均値が血液1リットル当たり1ミリグラムであったとのデータがあること,本件で覚醒剤の混入した飲料を飲んだ後のDとEの血液1リットル当たりの覚醒剤の量が,それぞれ約2.8ミリグラムと約1.8ミリグラムであったこと,DとEがそれぞれ提供された飲料に混入していた覚醒剤を全量飲んだと仮定した場合の血液1リットル当たりの覚醒剤の推計量が,それぞれ約7.8~14.5ミリグラムと約1.2~2.8ミリグラムであったことが認められる。これらの事実に鑑みると,DとEに対してそれぞれ,飲料に混ぜた覚醒剤を全て飲ませようとした本件実行行為は,客観的に見れば,いずれも人が死亡する危険性の高い行為であることが明らかである。

 2 Dに対する殺意の有無

 (1)検察官は,D用の飲料から検出された覚醒剤の量がE用の飲料から検出された覚醒剤の量よりも多く,被告人がDに対する殺意を有するに至ったことをうかがわせる事情もあったなどと主張し,また,Dに対する殺意が認められれば,仮にEに対する直接的な殺意がなかったとしてもEに対する殺意も認められる関係にあるなどとして,Dに対する殺意があったことを一次的に主張していると解されるため,まずはDに対する殺意の有無について検討する。

 (2)客観的に見て,Dに対して本件覚醒剤の一部を混入させたD用の飲料を飲ませようとした行為が,人が死亡する危険性の高い行為であったことは前記1のとおりである。もっとも,被告人が,本件当時,通常の1回分の使用量等の覚醒剤に関する詳しい知識を有していたことを示す証拠はなく,覚醒剤について,それと関わりのない人と同程度の知識しか有していなかったことを前提に殺意の有無を判断すべきである。そして,被告人は,本件当時,本件覚醒剤の量について,注射器に入れて使用することを想定し,2回から3回分の使用量であると感じた旨供述するところ,被告人に覚醒剤に関する詳しい知識がなかったことに照らすと,その供述は,不合理であるとまではいえず,その信用性を否定することはできない。そうすると,被告人が,本件当時,覚醒剤を過剰摂取すれば人が死亡する場合があることは認識していた旨供述していることを踏まえても,被告人が,その供述するとおり,2回から3回分の使用量の覚醒剤を飲ませたところでDらが死亡することはないと認識していたとしても不合理とまではいえず,本件実行行為について,人が死亡する危険性が高いものであると認識していたことが,常識に従って判断した場合に間違いないとまではいえない。

 かえって,被告人は,D用の飲料を飲んでDの容態が急変した後に,そのような容態の急変を事前に想定していなかったとうかがわれる言動をしている。すなわち,被告人は,BがDとEにそれぞれの飲料を提供して飲ませたと認識した後,B及びFとの間でラインのメッセージのやり取りをしているところ,Bから,Dについて「てかやばいかも 具合悪いって」「医者行くかも」というメッセージを受信した直後に,「まぢかよー 水飲みなって」とのメッセージを送信し,Fとの間では,上記やり取りの直後に「具合悪いって言ってる?」とのメッセージを送信し,Fから「うん」とのメッセージを受信した直後に「だろうね まずいな」とのメッセージを送信している。このことについて,被告人は,当公判廷において,Dの具合が悪くなったこと,Dらに覚醒剤を飲ませることを本件店舗で行ったことについてFに怒られること,及びその犯行が発覚することを指して「まずいな」とのメッセージを送信した旨供述している。上記のようなメッセージのやり取りを素直に解釈すれば,被告人の当時の認識として,Dが覚醒剤を飲むことにより医療機関を受診しなければならないほど体調が悪化することを事前に想定しておらず,ましてや,Dが死亡するかもしれないことは全く想定していなかったと考えるのが自然である。このことは,本件実行行為時において被告人にDへの殺意がなかったことを推認させる有力な事情といえる。

 また,仮に,被告人が,本件実行行為について,人が死亡する危険性の高い行為であると認識していたとすると,被告人は,本件当時勤務していた本件店舗を犯行場所に定めて,上記のような認識の下で本件実行行為に及んだことになる。しかしながら,その場合には,被告人は,覚醒剤を飲んだDが,Dに覚醒剤を飲ませる計画に加わっていない関係者らもいる本件店舗において死亡するという重大犯罪に該当する事態が生じることも想定していたはずであるところ,その後の事態の進展として当然に予想される,高い確率で共犯者であるBが犯人として特定され,そのことを通じて被告人も犯人として特定される可能性があることや,Dが死亡することで大騒動になった後の本件店舗の他の関係者らへの対応等について,対応策を事前に検討していたような事情は,証拠上全く見当たらない。被告人にDに対する殺意があったとすれば,Dに対して覚醒剤を飲ませる計画がこのように杜撰なものになるとは考え難く,被告人にDに対する殺意がなかったと考えなければ,説明が困難である。

 なお,被告人は,検察官調書(乙4)において,本件実行行為によりDが病院に行く必要性が生じる事態を想定しており,具合が悪くなったDが飲物を全部飲まなかったら,D用飲料で提供した覚醒剤を全部飲ませるという自らの計画が失敗することがまずいということを指して「まずいな」と送信したものである旨供述している。しかし,仮に被告人が上記のような想定をしていたとすれば,医療機関を受診しなければならないほどのDの体調悪化は想定どおりの出来事ということになり,被告人とBやFとの間で交わされたラインのメッセージの文言と齟齬があるといわざるを得ない。加えて,上記検察官調書は本件事件が起きてから約3年半後に作成されており,被告人の記憶が事件当時から相当減退していた可能性があることなどの事情も考慮すると,上記検察官調書における被告人の供述の信用性が高いものとして,被告人の内心がその供述どおりの状態にあったと認めることはできない。

 (3)検察官は,被告人が,①覚醒剤を過剰摂取すれば,人が死ぬ場合があると認識していたこと,②長年好意を寄せていたGの元交際相手であるDを憎み,Fに「Dを殺したい」と相談し,その直後にDに覚醒剤を飲ませる準備を始めたこと,③安全な分量を確認せず,極めて多量の覚醒剤をDに摂取させようとしたこと,④捜査段階において「事件のとき,Dが命を落とすこともあると思っていた」旨供述したことから,Dに対する殺意が認められる旨主張する。

 ア しかし,上記①についていえば,仮に被告人が上記のとおり,覚醒剤を過剰摂取すれば人が死亡する場合があるという認識を持っていたとしても,本件実行行為により人が死亡する危険性があるということを具体的に認識していたということが認められなければ,殺意があったと認めることができないことは当然である。そして,前記(2)のとおり,被告人は本件当時覚醒剤の通常の1回分の使用量等についての知識を有していなかったと認められ,本件覚醒剤の分量について,2回から3回分の使用量であると認識していたという供述を排斥できないところ,そのような供述を前提とすれば,当該分量を使用したとしても人が死亡する危険性があるという認識に至らなかったとしても,そのことが不自然とはいえない。

 イ 上記②について,被告人が,Gから,Dに対する否定的な意見を聞かされた上,元交際相手であるDと復縁することを装ってDに接近して復讐を行うといった計画を聞き,場合によってはGが本当にDと復縁してしまうことになるのではないかといったことに不安感を抱くなどして,Dに対する悪感情を抱くに至ったことは認められる。しかし,本件当時,被告人がGと半同棲の状態にある一方で,GとDは,関係者立会いの下で話合いを行った結果,完全に別れることになり,GとDが復縁する具体的な見込みがなかった(このことはGも認める趣旨の証言をしている。)ことを踏まえれば,検察官の主張するような経緯や動機で被告人がDに対する殺意を有するに至ったと考えることは,飛躍があるといわざるを得ない。

 また,被告人は,Fに対し,Dについて,7月11日に「D殺すのまぢ早くしてほしいんだ お金が必要なら用意するから」,同月15日に「だからね,先殺せば あの女居なくなればしなくて済むでしょ?だからね 殺したいの」というラインのメッセージを送信し,さらに,本件当日,FからDについて「気持ち悪くなってきた~って言ってる」とのラインのメッセージを受信した後に,「だろうね(笑) だって(笑)」「犯罪者は死ねばいい(笑)」とのメッセージを送信しているところ,実際に被告人が本件実行行為に及んでいることに鑑みると,被告人のDに対する悪感情が,Dに対してその健康状態を悪化させるような具体的な行動を起こす程度に強いものであり,上記各メッセージは,被告人が本件店舗の客や従業員に対して日常的に用いていた「殺す」などといった言葉遣いとは明らかに意味合いが異なるものであったと認められる。しかし,上記各ラインのメッセージを文字どおり解釈すると,その当時において,被告人はDに対して確定的な殺意を有していたことになるところ,仮にそうだとした場合,覚醒剤の通常の1回分の使用量等についての知識を有しないまま,殺害の方法として本件覚醒剤を飲料に混入させて飲ませるという,被告人の主観から見れば不確実な手段を採ったことになるが,それでは,確定的な殺意とそのために採った手段との間に齟齬が生じることになり,不自然といわざるを得ない。また,「犯罪者は死ねばいい(笑)」とのメッセージも,本当にDが死亡する危険性が高いと認識していたとすると,生じるであろう重大な結果との関係で緊張感を欠く不自然なメッセージであるといわざるを得ない(その後,Dの状態を知らされ,Dが医療機関を受診しなければならないほど体調が悪化する事態が生じることを事前に想定していなかったと考えられるメッセージをFに対して送信していることは前記(2)のとおりである。)。そうすると,被告人がFに対して送信したメッセージの意味合いとして,Dに対する殺害の意図までは有していなかったという被告人の供述を排斥することはできない。

 ウ 上記③についていえば,確かに,被告人がDの死亡する可能性を認識していたにもかかわらず安全な分量を確認せずに覚醒剤を飲ませたとすれば,Dが死亡する結果が生じても構わないとの意思で本件実行行為に及んだものとして殺意が認められ得る。しかしながら,被告人が本件実行行為によって人が死亡することはないと認識していたのであれば,覚醒剤について安全な分量や致死量を確かめなかったとしても,Dが死亡する結果を認容していたとまではいえないことになる。そして,被告人が,2回から3回分の使用量の覚醒剤を飲ませたところでDらが死亡することはないと認識していたことが否定できないことは,前記(2)のとおりである。そうすると,検察官の主張する事情をもって被告人が殺意を有していたことが推認されるわけではない。

 エ 上記④についていえば,本件実行行為が,多量の覚醒剤を他人の身体に摂取させて使用するという,殺人の手法としては一般的でない行為といえること,被告人は本件当時に覚醒剤の通常の1回分の使用量等についての知識を有していたとは認められないこと,検察官が指摘する供述が犯行から相当の年月が経過した段階においてなされたものであること,同供述の内容がDの容態が急変することを事前には想定しなかったと考えられるラインのメッセージと整合しないことなどを踏まえれば,同供述は,被告人にDに対する殺意があったことを認定する証拠としての価値が低いといわざるを得ない。

 (4)上記のような事情を総合的に考慮すると,被告人が,本件実行行為に及んだ時点において,Dが死亡する危険性が高いと認識していなかったのではないかとの合理的な疑いが残るといわざるを得ないから,Dに対する殺意があったと認めることはできない。

 3 Eに対する殺意の有無

 前記2のとおり,Dに対する殺意があったとは認められないところ,Dに対する殺意が認められないのと同様の理由に加えて,被告人がEに対して殺意を抱くような事情が特に見当たらないこと,E用の飲料から検出された覚醒剤の分量がD用の飲料から検出された覚醒剤の分量と比べてかなり少量であったことも考慮すると,Eに対する殺意があったと認めることはできない。

 4 結論

 以上の次第で,被告人において,DとEに対する殺意があったと認めることはできないから,DとEに対する殺人未遂罪はいずれも成立せず,それぞれに対する傷害罪が成立するにとどまるものと判断した。

(法令の適用)

 被告人の判示第1の所為は令和元年法律第63号による改正前の覚せい剤取締法41条の2第1項に,判示第2の所為のうち,覚醒剤使用の点は同法41条の3第1項1号,上記改正前の同法19条に(なお,Bについて,覚醒剤を含む違法薬物をDの身体に摂取させて使用する認識があったとは認められないから,Dに対する覚醒剤使用罪の共同正犯は成立しない。),傷害の点は刑法60条,204条に,判示第3の所為のうち,覚醒剤使用の点は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,上記改正前の同法19条に,傷害の点は刑法204条にそれぞれ該当するが,判示第2及び第3はいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条によりそれぞれ1罪として重い傷害罪の刑で処断することとし,判示第2及び第3の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

 本件は,被告人が,覚醒剤を譲り受けた上で,その覚醒剤を混入させた飲料を事情を知らない被害者2名に提供して飲ませるなどして,いずれの被害者についても入院加療を要する覚醒剤による急性薬物中毒の傷害を負わせた事案である。

 被告人はあらかじめ規制薬物である覚醒剤を入手し,被害者Dと面識のある共犯者を利用して被害者Dを本件店舗に誘い出すなどして本件犯行に及んでおり,一定の計画性が認められる。そして,被告人が,被害者Dと被害者Eそれぞれの飲料に規制薬物である覚醒剤を大量に混入させて飲ませようとした行為は,客観的には同人らを死に至らしめる危険性が相当に高いものであった。また,被告人が,飲料に混入した覚醒剤を全て被害者らに飲ませるよう執拗に共犯者に指示していることや,結果的には覚醒剤の危険性を向上させるには至らなかったものの,そのような意図をもって精神安定剤を混入させてもいることからすれば,被害者らに対して危害を加える意思が強固なものであったと認められる。さらに,本件犯行の主な目的は,覚醒剤を混入させた飲料を被害者Dに飲ませることによって,同人の精神状態を害し,覚醒剤使用の容疑により捜査機関に逮捕されるような状態にしたり,覚醒剤に依存させてそれを使用し続けなければ生きていけない状態にしたりするというものであって,その主要な目的に照らしても,相当に悪質な行為であったというべきであり,また,その主要な目的とは無関係の被害者Eにも覚醒剤を飲ませて負傷させており,この点でも厳しい非難に値する。実際にも,被害者らは,いずれも,覚醒剤を摂取させられたことによって,4日間の入院加療を要し,さらには外食等に対して不安を抱くなどの精神的後遺症にも苦しんでいる。被害者らは,本件被害に遭い,多大な肉体的,精神的苦痛を受けたものであり,被告人に対して強い処罰感情を有しているのも当然である。犯行の経緯について見ても,被告人が当時の交際男性から被害者Dに関する話を聞くなどして同人に対する悪感情を有するようになり,また,交際男性が被害者Dと復縁する可能性を解消して,交際男性との関係を維持するために本件犯行に及んだものであり,身勝手極まりない。なお,被告人は,交際男性から被害者Dに覚醒剤を飲ませるよう指示され,それに従って本件犯行に及んだと供述しているところ,証拠上,そのような指示があったかどうかは不明というほかないが,仮にそのような指示があったとしても,被告人自身,積極的に本件犯行に関与していたことは明らかであるから,被告人の刑事責任を特に軽くする事情になるとは評価できない。そうすると,本件犯行は,毒物又は薬物を人に摂取させて傷害を負わせたという事案の中でも,特に悪質な事案であったと認められる。

 以上からすれば,本件に至るまで犯罪歴のなかった被告人が反省の態度を示していることや,母親が,当公判廷において,被告人の更生に向けて助力する意向を示したことなど,被告人のために有利に考慮すべき事情を十分に踏まえても,被告人の刑事責任は相当に重いというべきであり,相応の期間の実刑は免れず,主文のとおりの刑を科すのが相当であると判断した。

(求刑 懲役8年)

  令和2年9月18日

    長野地方裁判所松本支部

        裁判長裁判官  高橋正幸

           裁判官  清水公一

           裁判官  國井陽平

台湾国際放送 2021年4月30日

 

Rti 台湾国際放送

 

///////////////////////////////////////////

[ニュース] 5/1労働者デモ行進、賃金上げと労働保険年金維持を要求

 

Posted: 29 Apr 2021 06:00 AM PDT

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/93571

 

年に一度の労働者デモ行進が51日メーデーに行われます。台湾の労働者団体が組織する「2021五一行動連盟」が23日、総統府前の凱達格蘭大道(ケタガラン大通)に集結し、51日メーデーには労働者3000人を集め、賃金の引き上げと労働保険年金の現状維持を主張すると宣言しました。 五一行動連盟によりますと、昨年(2020年)世界で数少ない、経済成長率が上昇した台湾では、今年の経済成長率は4.6%と予測され、平均株価指数も史上最高を更新し続けています。ところで、労働者はその成果を実感できていないということです。 全国教師工会総聯合会の侯俊良・......more

 

///////////////////////////////////////////

[ニュース] 中部・日月潭ダム、連続大雨で水25万トン増

 

Posted: 29 Apr 2021 05:45 AM PDT

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/93570

 

昨年から深刻な水不足の状態が続いている台湾中部。対流雲が発達しているため、27日と282日連続で大雨が降りました。日月潭ダムの底は草原から水溜まりになりました。 日月潭周辺の住民は、「昨日は午後1時頃から、かなり長い時間雨が降っていた」と喜んでいました。 経済部水利署中区水資源局の統計によりますと、南投県の日月潭ダムと台中市の霧社ダムでは、31時間で貯水量が25万トン増加しました。中区水資源局の潘楨哲・副局長は、「これで、渇水期におけるダムの給水量と給水期間は少し延長できた」と嬉しさを隠さずに言いました。 日月......more

奥田隆文裁判長不当判決 減資と課税 不当 東京高裁平成26年6月12日

佐藤修二『租税と法の接点』大蔵財務協会・2020年151頁

法人税更正処分取消等請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成24年(行コ)第480号

平成26年6月12日

【判示事項】       控訴人の連結子会社である株式会社51社等との間で,会社の分割等の事業再編のうち,各子会社が発行した株式の一部が消却されて,それらを保有していた控訴人に一定の金額が払い戻されたことに関して税務署長がした各更正処分等の一部の取消しを求めた事案の控訴審。控訴審は,本件訴えのうち更正処分及び再更正処分のそれぞれ一部の取消しを求める部分はいずれも不適法として却下し,控訴人が本件各子会社に対価なく移転した経済的な利益に相当する金額については,損金の額に算入することができない「寄附金」に該当する(法人税法37条7項)とし,再々更正処分及び各賦課決定処分は,いずれも適法として請求を棄却した原審の判断を支持して控訴を棄却した事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1472号8頁

             ジュリスト1479号213頁

             ジュリスト1489号130頁

             税研208号126頁

 

       主   文

 

 1 控訴人の当審での変更後の請求に基づく本件控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用はすべて控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴人

  (1) 原判決を取り消す。

  (2)(当審での変更後の請求①)

    神奈川税務署長が控訴人に対して平成20年6月30日付けでした,控訴人の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得の金額を欠損金額494億2141万0395円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

  (3)(当審での変更後の請求②)

    神奈川税務署長が控訴人に対して平成21年6月30日付けでした,控訴人の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度の法人税の再更正処分のうち,所得の金額を欠損金額494億2141万0395円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

  (4)(当審での変更後の請求③)

    神奈川税務署長が控訴人に対して平成22年6月29日付けでした,控訴人の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度の法人税の再々更正処分のうち,所得の金額を欠損金額494億2141万0395円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

 2 被控訴人

   主文第1項同旨

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

   本件は,控訴人が,被控訴人に対し,神奈川税務署長が控訴人に対して行った,控訴人の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度(本件事業年度)に係る,①平成20年6月30日付けの法人税の更正処分(本件更正処分)の一部及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分),②平成21年6月30日付けの法人税の再更正処分(本件再更正処分)の一部及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件再賦課決定処分),③平成22年6月29日付けの法人税の再々更正処分(本件再々更正処分)の一部及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件再々賦課決定処分)の各取消しを求めた事案である(なお,以下,本件更正処分,本件再更正処分及び本件再々更正処分を一括して「本件各更正処分」と,本件賦課決定処分,本件再賦課決定処分及び本件再々賦課決定処分を一括して「本件各賦課決定処分」と,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を一括して「本件各更正処分等」という。)。

 2 本件に至る主な経緯等

  (1)(本件事業再編)

    自動車の開発,製造等の事業を目的とする株式会社である控訴人は,いわゆる連結子会社である株式会社(本件各子会社。原判決2頁11行目参照)51社について,不動産管理事業を分離してA株式会社に集約するとともに,販売事業を整理統合して販売体制を再構築するため,平成18年4月から同年7月にかけて,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)の規定に基づき,①会社の分割,②新株の発行,③減資及び減準備金,④会社の合併という一連の事業再編をした(同2頁15行目,4頁7行目以下参照)。

    上記の事業再編において,本件各子会社のうち債務超過の状態にあった30社は,旧商法上,債務超過の状態にある会社を消滅会社とする吸収合併は許されないと解されていたことから,平成18年4月及び同年5月,割当てを受ける者を控訴人とする総額845億円の第三者割当増資をした。そして,本件各子会社は,同年6月,資本金及び準備金の額を減少させ(この結果,本件各子会社の資本金の額はいずれも最低額の1000万円となった。),旧商法213条に基づく株式の強制消却(本件株式消却。原判決5頁13行目参照)を行い,同年7月,Aを存続会社とし,本件各子会社を消滅会社とする吸収合併を実施した。

    なお,本件株式消却に際して,増資をしなかった本件各子会社21社は,減資における減資の額及び減準備金の額の合計額に相当する85億2007万0971円(本件払戻額。原判決2頁21行目,5頁末行以下参照)を控訴人に払い戻し,増資をした30社は,払戻しにより再び債務超過の状態となる可能性があったことから,控訴人に対する払戻しをしなかった。

  (2)(本件確定申告)

    控訴人は,本件事業年度の法人税につき,①本件払戻額85億2007万0971円から,法人税法(本件においては,特に断らない限り平成19年法律第6号による改正前のものをいう。)24条1項所定の「みなし配当額」の44億0032万4497円を控除した41億1974万6474円を本件消却株式(消却された本件各子会社株式)の同法61条の2第1項1号所定の「その有価証券の譲渡に係る対価の額」(譲渡対価の額)とする,②本件消却株式の帳簿価額である1432億6924万8647円を同項2号所定の「その有価証券の譲渡に係る原価の額」(譲渡原価の額)とする,③その差額である1391億4950万2173円を同項所定の「譲渡損失額」として「損金の額」に算入し,欠損金額を530億6119万5490円とするという内容の確定申告書を神奈川税務署長に提出して,確定申告をした(甲2。原判決(98頁)別表2参照)。

  (3)(本件各更正処分等)

   ア 神奈川税務署長は,平成20年6月30日,①本件払戻額が本件消却株式の譲渡に係る適正な対価の額に比して低額であり,控訴人は,有価証券の譲渡損失額を過大に計上した,②過大に計上した有価証券の譲渡損失額から一部を控除した額は,本件各子会社に対する控訴人の「寄附金」(法人税法37条7項及び8項)に当たり,損金算入限度額(同条1項)を超える部分は,本件事業年度の所得の金額の計算上「損金の額」に算入されないなどとして,所得金額を92億7787万0266円,納付すべき法人税額を4億7817万4100円とする内容の本件更正処分及び本件賦課決定処分をした(甲3)。

   イ また,同税務署長は,平成21年6月30日,所得金額を110億5082万5515円,納付すべき法人税額を10億1323万4100円に増額する内容の本件再更正処分及び本件再賦課決定処分をした(甲5)。

   ウ さらに,同税務署長は,平成22年6月29日,所得金額を117億0751万2684円,納付すべき法人税額を13億7233万3700円に増額する内容の本件再々更正処分及び本件再々賦課決定処分をした(乙1)。

     なお,本件再々更正処分においては,①本件株式消却時における消却株式の時価総額(本件時価)715億4510万6241円から,「資本金等の額の超過分」(本件各子会社の時価純資産額のうち未消却株式に係る部分が減資後の資本金等の額に満たない場合,資本金等の額から時価純資産額のうち未消却株式に係る部分を控除した金額。原審における被控訴人準備書面(1)51頁)の1億4626万4558円及び「みなし配当額」の35億8985万2112円を控除した678億0898万9571円が法人税法61条の2第1項1号の「譲渡対価の額」として「収益」に当たり,控訴人が計上した有価証券譲渡損失1391億4950万2173円のうち636億8924万3097円が過大であるとして,これを申告所得額に加算するとともに,②715億4510万6241円(本件時価)から,払戻しを受けた85億2007万0971円(本件払戻額)と「資本金等の額の超過分」を控除した残額である628億7877万0712円が「寄附金」に当たり,その一部である619億6517万9676円を「損金の額」に算入しないものとしている(原判決(81頁)別紙4,同(101頁)別表5及び同(102頁)別表6参照)。

 3 原審での請求等

  (1) 控訴人は,①神奈川税務署長が「寄附金」と認定した額のうち,本件株式消却の際に株主への払戻しをする場合における旧商法上の限度額を超える部分(本件払戻限度超過額。原判決3頁10行目参照)の払戻しを控訴人は受けることができる法的地位になかったから,本件払戻限度超過額は「寄附金」に該当しない(争点2。原判決9頁9行目,24頁2行目以下参照),②仮に本件払戻限度超過額が「寄附金」に該当するとしても,本件各更正処分において「収益」と計上された678億0898万9571円は,本件消却株式の時価に基づいて算定される額と比較して過大なものであるから,本件各更正処分において計上された有価証券の譲渡損失額は不当に低い額となっている(争点3。同9頁10行目,45頁21行目以下参照)などと主張して,本件各更正処分の一部(所得の金額を欠損金額287億9418万2339円として計算した額を超える部分)及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた。

  (2) これに対して,被控訴人は,①本件更正処分は本件再更正処分に,同処分は本件再々更正処分にそれぞれ吸収されるから,本件更正処分及び本件再更正処分の取消しを求める部分は,訴えの利益を欠いた不適法なものである,本件再更正処分に対する不服申立てはないから,本件再々更正処分の取消しを求めることができる範囲は本件再更正処分により既に確定した所得の金額及び納付すべき税額を超える部分に限られ,本件再々更正処分の取消しを求める訴えのうち,本件再更正処分における更正の額を下回る部分の取消しを求める部分は,訴えの利益がなく不適法である,本件再賦課決定処分は不服申立てを経ていない不適法なものである(争点1。原判決9頁7行目参照),②本件消却株式の時価総額(本件時価)から「資本金等の額の超過分」と本件払戻額を控除した額(628億7877万0712円)は,経済的な利益が対価なく移転したものであり,これを通常の経済取引として是認できる合理的な理由はないから,「寄附金」に当たる(争点2。同25頁17行目以下参照),③本件合併比率算定書(乙5。同6頁20行目参照)に記載されている本件各子会社の株式1株当たりの価額(本件□□評価額。同7頁14行目参照)は合理的なものであり,これに基づいて本件消却株式の時価総額(本件時価)を算定した本件各更正処分等はいずれも適法である(争点3。同35頁5行目以下参照)などと主張して,控訴人の本訴請求を争った。

 4 原審の判断

   原審は,争点を,①本件訴えのうち本件更正処分及び本件再更正処分の一部取消しを求める部分の適法性と,本件再々更正処分の一部取消しを求める訴えのうち本件再更正処分における更正の額を下回る部分及び本件再賦課決定処分の取消しを求める部分の適法性(争点1),②本件払戻限度超過額の「寄附金」該当性(争点2),③本件株式消却における適正な「譲渡対価の額」(争点3)とした上で,これらの争点について次のとおり判示し,本件訴えのうち原判決(73頁)別紙2「主文関係目録」記載の各請求に係る部分を不適法として却下する(原判決主文第1項)とともに,本件再々更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であるとして,その余の部分に係る控訴人の請求をいずれも棄却した(同主文第2項)。

  (1) 争点1について(原判決53頁25行目以下)

   ア 本件更正処分の後,納付すべき税額を増額する本件再更正処分がされ,更にこれを増額する本件再々更正処分がされたから,本件訴えのうち本件更正処分及び本件再更正処分の一部の取消しを求める部分(原判決別紙2「主文関係目録」記載の各請求に係る部分)は,訴えの利益がなく,不適法である。

   イ 控訴人が本件再更正処分の一部及び本件再賦課決定処分の取消しを求める本件訴えを提起するに先立ち,異議申立てに対する異議決定又は審査請求に対する裁決を経なかったことについては,国税通則法115条1項3号(原判決74頁の1参照)の正当な理由があり,控訴人は,審査請求についての裁決等を経ることなく,本件再更正処分の取消しを求める訴えを適法に提起することができたのであって,その後に本件再々更正処分がされた本件においては,訴訟手続上,本件再更正処分は本件再々更正処分に吸収されたと評価すべきものであるから,本件再々更正処分の一部の取消しを求める訴えのうち本件再更正処分における更正の額を下回る部分の取消しを求める部分及び本件再賦課決定処分の取消しを求める部分は,いずれも適法である。

  (2) 争点2について(原判決56頁14行目以下)

    控訴人は,本件株式消却により株主としての地位とその時価に相当する経済的利益を失う一方,本件各子会社から時価よりも低い額(本件払戻額)の払戻しを受けたに止まるから,このような本件株式消却を伴う減資の手続を通じて,控訴人に払戻しをした本件各子会社に対しては本件消却株式の時価総額と本件払戻額との差額に相当する経済的な利益が,払戻しをしなかった本件各子会社に対しては本件消却株式の時価総額に相当する経済的な利益がそれぞれ対価なく移転したものと認められ,このような対価のない経済的な利益の移転を内容とする手続をすることについて,通常の経済取引として是認することができる合理的な理由があると解することはできないから,控訴人が本件各子会社に対価なく移転した経済的な利益に相当する額については,本件払戻限度超過額も含めて,法人税法37条7項の規定により「損金の額」に算入することができない「寄附金」に該当する。

  (3) 争点3について(原判決64頁2行目以下)

    B銀行が作成した本件合併比率算定書(乙5。原判決6頁20行目参照)に記載された本件□□評価額は,法基通4-1-5(4)(同78頁の(3)参照)が定めるところと同様の株式価額の算定方法である純資産価額方式によって算定されたものであり,その算定過程について正確性に格別の疑念を抱かせるような点は見当たらず,また,本件合併比率算定書に記載された本件□□評価額は,本件合併における合併比率を算定する基礎として実際に用いられたものであって,通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものといえるから,本件□□評価額を本件株式消却時における本件各子会社の株式の時価と認めるのが相当であるとして,本件株式消却における適正な「譲渡対価の額」を678億0898万9571円とした。

  (4) 原審は,以上の(1)ないし(3)の判断を踏まえて,適正な「譲渡対価の額」に基づいて算出される「寄附金」の額は,原判決(101頁)別表5のとおり合計628億7877万0712円であり,これを前提とする本件再々更正処分及び本件各賦課決定処分(原判決別紙4「本件再々更正処分及び本件各賦課決定処分の根拠及び適法性」1(1)ウ(ア)(87頁18行目以下)参照)は,いずれも適法なものであると判断した(同64頁2行目以下参照)。

 5 控訴人は,原判決を不服として控訴を申し立て,その取消しと本訴請求の全部認容を求めた。

   なお,控訴人は,原審においては,欠損金額を287億9418万2339円として,本件各更正処分のうち,所得の金額を同額として計算した額を超える部分の取消しを求めていたところ,当審において,本件払戻限度超過額(405億5164万5849円)の全額を「損金の額」に算入すると,欠損金額が494億2141万0395円になるとして,本件各更正処分のうち取消しを求める範囲を,「所得の金額を欠損金額494億2141万0395円として計算した額を超える部分」と訂正し,前記第1の1(2)ないし(4)のとおりに請求の趣旨を変更した。

 6(1) 本件における「関係法令等の定め」及び「前提事実」は,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の2及び3に摘示するとおりであるから,これを引用する。

   ア 原判決8頁24行目の「取消し求める」を「取消しを求める」に改める。

   イ 同75頁21行目の次に,行を改めて次のとおり加える。

    「  同条3項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,当該事業年度における収益に係る売上原価等の原価の額,当該事業年度における販売費,一般管理費等の費用の額,当該事業年度における損失の額で資本等取引以外の取引に係るものの額とする旨を定めている。

       同条4項は,同条2項に規定する当該事業年度における収益の額並びに同条3項に規定する当該事業年度における原価の額,費用の額及び損失の額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨を定めている。

       同条5項は,同条2項,3項に規定する資本等取引を定義している。

     (3) 法人税法23条1項は,内国法人が剰余金の配当若しくは利益の配当又は剰余金の分配等を受けるときは,その配当等の額の全部又は一部は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しない旨を定めている。」

   ウ 同75頁22行目の「(3)」を「(4)」に,同76頁8行目の「(4)」を「(5)」に,同頁23行目の「(5)」を「(6)」にそれぞれ改める。

   エ 同79頁20行目の次に行を改めて,次のとおり加え,同頁21行目の「6」を「7」に改める。

    「6 所得税法(本件においては,特に断らない限り平成18年3月31日法律第10号による改正前のものをいう。)

      (1) 所得税法25条1項は,法人の株主等が当該法人から当該法人の合併,分割型分割,資本の減少等により金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が,当該法人の資本金等の額等のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは,その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は,剰余金の配当等とみなす旨を定めている。

      (2) 同法92条1項は,居住者が利益の配当や剰余金の分配等に係る配当所得を有する場合には,その居住者のその年分の所得税額から,同項各号の区分に従い,同項各号及び同条2項に定める金額を控除する旨を定め,同条3項は,この控除を配当控除という旨を定めている。」

  (2) 本件における当事者双方の主張は,次の第7項及び第8項において,当審における当事者双方の補充主張の要旨を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の6(9頁11行目以下)において摘示するとおりであるから,これを引用する(なお,原判決(81頁)別紙4「本件再々更正処分及び本件各賦課決定処分の根拠及び適法性」において摘示する,被控訴人の本件再々更正処分及び本件各賦課決定処分の根拠及び適法性に関する主張を含む。)。

 7 当審における控訴人の主張の要旨

  (1) 本件払戻限度超過額の「収益」(法人税法22条2項)該当性について

   (主位的主張)

   ア 本件各更正処分等が適法とされるためには,まず本件払戻限度超過額(405億5164万5849円)が課税上,控訴人の「収益」として認識される必要がある。本件払戻限度超過額が「収益」として認識されないのであれば,控訴人の課税所得額も405億5164万5849円減少することになり,それだけで本件各更正処分等は違法となる。

     また,「寄附金」とは,相手方に対する経済的利益の「移転」であるから,課税上,その対象となる経済的利益が納税者に「帰属」していることが前提となり,納税者の「収益」として認識されないときには,その「移転」ということもあり得ず,当該経済的利益を「寄附金」として認定する余地もなくなるから,このような観点からも,まず,本件払戻限度超過額の「収益」該当性を検討する必要がある。

   イ 減資における払戻額が旧商法上の限度額を超える場合には,その超過部分の払戻しが無効とされるため,控訴人は本件払戻限度超過額を収受することができず,かつ,これを実際にも収受していないのであるから,本件払戻限度超過額については収入実現の蓋然性がなく,これを課税上の「収益」として認識することはできない。違法かつ現実に収受していない経済的利益を「収益」として認識できないことは,最高裁昭和43年(行ツ)第25号同46年11月9日第三小法廷判決・民集25巻8号1120頁(昭和46年最高裁判決)以来,確立した判例法理である。

   ウ また,法人税法22条2項の趣旨は,合理的な経済人であれば通常の対価相当額で取引を行うところを,無償ないし低廉な対価で取引(資産の譲渡)をすることによって「収益」に計上せず,課税上有利に取り扱われる結果となる不公平を是正するため,無償ないし低廉な対価での取引についても,通常の対価で取引を行った場合と同様の適正な所得が発生したものと擬制するというものであり,通常人が私法その他の法令の枠内で適法に行動したときと比較した場合における課税の公平を確保しようとするものである。

     したがって,同項は,通常人(合理的経済人)が私法その他の法令上およそ収受することが許されない収益を,実際に収受していないにもかかわらず,課税上の「収益」として認識することまで要求するものではない。

     また,同項が前提とする同条4項は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」により認識可能な額を「収益」とするものであるから,会計処理上,収受したものとして扱うことができない本件払戻限度超過額を課税上の「収益」として認識することは,同項に反し許されない。

   エ 法人税法22条2項の「別段の定め」である同法61条の2第1項が適用される本件においては,同法22条2項の適用はなく,同法61条の2第1項1号の「譲渡対価の額」の解釈が問題となる。そして,この「譲渡対価の額」とは,当事者の合意による金額を意味するものである。

     また,課税上,株主が第三者に株式を売却した場合と,株主と発行法人との間で株式を譲渡した場合とでは異なる規律に服することが予定されている。そのため,同号の「譲渡対価の額」を当事者間の合意による額とは解することができないとしても,株主と発行法人間の取引においては,商法ないし会社法上の制限を無視することはおよそ許されないから,旧商法の規定により収受することができない本件払戻限度超過額を「譲渡対価の額」に含めることはできない。仮に適正な時価をもって同号の「譲渡対価の額」とするとしても,あくまでも「法令の範囲内で収受可能な公正な対価の額」と解するべきである(同法22条2項所定の「収益の額」についても同様である。)。

     したがって,本件払戻限度超過額を同法61条の2第1項1号の「譲渡対価の額」に含めて譲渡損益を計算した本件各更正処分は違法である。

   オ 本件株式消却に法人税法22条2項ないし同法61条の2第1項を適用するに当たっては,本件株式消却に係る行為形式を所与の前提として,その正常な対価だけを検討すべきであり,本件各子会社の減資及び本件株式消却の実施についての経済合理性の有無を考慮した上で,本件株式消却を他の行為形式(例えば,本件消却株式の時価相当額の払戻しを伴う株式消却)に引き直して控訴人に課税することは,租税法律主義に反し,許されるものではない。

     なお,本件事業再編における減資及び本件株式消却は,通常の合理的な経済取引であって,課税上もそのまま是認されるべきである。すなわち,本件株式消却に伴う減資は,旧商法に基づく合併を可能にするために債務超過に陥っていた控訴人の販売子会社が行った増資によって,その規模に比して過大となっていた資本金額を,最低資本金の額にまで減少させ,会社管理のコストを削減し,過大な外形標準課税を回避するために行われたものであり,十分な経済合理性を有するものである。また,本件事業再編を検討して準備するための時間は実質的に2か月弱しかなかったことから,従前から販売子会社が減資を実施する際に行ってきた株式の強制消却の方法を用いたのである。したがって,本件株式消却は,組織再編を効率的に行うために控訴人が従前から用いていた手法を単に踏襲したものであり,その過程で殊更に譲渡損失を計上する目的で恣意的に株式消却の内容を決定したものではなかった。

  (2) 本件払戻限度超過額の「寄附金」(法人税法37条7項)該当性について

   ア 本件各更正処分等は,本件株式消却に係る「寄附金」の額を628億7877万0712円と認定しているところ,これは本件払戻限度超過額を含むものである。しかし,本件払戻限度超過額は「寄附金」に当たらないから,本件各更正処分等は「寄附金」を過大に計上していることになり,違法である。

   イ 本件株式消却は,株主が保有する株式を発行会社による取得を経ずに直接消滅させる強制消却であるから,発行会社である本件各子会社は,私法上,本件消却株式を取得しておらず,本件株式消却によって何らの経済的利益も受けていない。また,株式の強制消却は,株主による株式の譲渡と擬制され,自己株式の取得と同様に譲渡損益を計上することになるところ,本件各子会社は,当該株式を取得していないという私法上の効果を踏まえて,これを「収益」として計上していないし,税務当局も,本件各子会社について,「寄附金」の額に対応する受贈益課税をしていない。したがって,私法上も課税上も,本件払戻限度超過額相当額の「移転」は観念できないから,本件払戻限度超過額は「寄附金」に該当しない。

   ウ 仮に控訴人から本件各子会社に対する本件払戻限度超過額相当額の「移転」が何らかの形で観念されるとしても,それは控訴人が違法に収受したものと擬制される本件払戻限度超過額の本件各子会社に対する「返還」に当たり,民法703条所定の不当利得返還義務の履行に他ならないのであるから,この「返還」(=移転)については合理的な根拠が存することになる。したがって,本件払戻限度超過額は「寄附金」に該当しない。

   エ 本件払戻限度超過額を「寄附金」と認定することにより,本件株式消却に係る譲渡損失額の「損金の額」への算入を否定することは,平成22年度税制改正前の法人税法の規定が適用されるべき本件株式消却について,実質的には,改正後の法人税法61条の2第16項を遡及して適用することにほかならない。すなわち,本件各子会社51社のうち49社が控訴人の完全子会社であって,本件株式消却の内容を控訴人が任意に決定することができたことを理由にして,同項が制定される前に行われた本件株式消却による譲渡損失の損金算入を認めないのは,租税法規の遡及適用に当たり,租税法律主義に反し許されないことである。

   オ 仮に本件株式消却時に本件払戻限度超過額相当額が「寄附金」に当たり,「損金の額」に算入されないとした場合,控訴人には,当該差額(本件消却株式の時価相当額から「みなし配当額」を控除した額と本件払戻額との差額)相当額の経済的価値に対応する課税がされることになる。他方,「寄附金」に該当する以上,差額相当額の価値が本件消却株式から残存する子会社の株式に移転するものとして取り扱わざるを得ないことになるが,租税法令上,残存する子会社の株式の税務上の取得価額につき差額相当額の増額調整(いわゆる税務上の簿価のステップ・アップ)は行われない。したがって,控訴人が本件株式消却後に残存子会社株式を譲渡した場合には,当該差額相当額は,再びキャピタルゲインとして課税され,実質的に二重課税がされることになる。

  (3) 本件時価(本件株式消却時における消却株式の時価総額)について

   ア 本件各更正処分等において,本件時価を本件□□評価額に基づき715億4510万6241円と算定したことは違法である。

↑このページのトップヘ