岡本法律事務所のブログ

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2021年05月

ラジオタイランド 2021年5月31日 月 2200~2215JST

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2200 ニュース

政府は不法入国をふせぐために国境警備を厳格化している。」

 

アストロゼネカのワクチンが今月追加で入荷される予定。現在シノバックのものだけが大量接種されている。

 

 

バンスー中央駅がコロナワクシン接種会場として利用されている。

 

インドから帰国するタイ人のために6月から追加のフライトが用意されている。

 

プラトムがタイの麻薬リストから除外された。

 

 

小島ひでみ

手形の買戻しと否認 最高裁昭和37年 

倒産判例百選第5版 35事件

弁済行為否認金員返還請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和33年(オ)第689号

昭和37年11月20日

【判示事項】       約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合と破産法第73条第1項の類推適用の有無

【判決要旨】       約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には、破産法第73条第1項は類推適用されない。

【参照条文】       破産法73

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集16巻11号2293頁

             最高裁判所裁判集民事63号257頁

             金融法務事情330号12頁

【評釈論文】       金融法務事情330号12頁

             金融法務事情333号3頁

             金融法務事情341号18頁

             別冊ジュリスト6号190頁

             別冊ジュリスト52号78頁

             別冊ジュリスト106号84頁

             法学(東北大)33巻3号95頁

             法学協会雑誌82巻2号153頁

             法学研究(慶応大)37巻4号112頁

             法曹時報15巻1号114頁

             民商法雑誌49巻2号94頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人万代蕃の上告理由について。

 所論手形割引の方法によつて破産会社が被上告銀行より融資を受けた債務、すなわち右割引の都度成立せしめた金員消費貸借上の債務についてなした破産会社の被上告銀行に対する所論弁済行為を以て、上告人が本件否認権の対象として主張していることは、記録ならびに原判決の事実摘示(第一審判決引用)に照し明瞭であるところ、原判決が上告人の主張する右消費貸借の成否ならびにその債務の弁済行為の存否について認定判断することなく、前示割引にかかる手形につきなした破産会社の買戻行為ないしいわゆる支払行為が否認権の対象となりえないことのみを論考し、よつて上告人の本訴請求の理由ないことを結論していることは、論旨第一点指摘のとおりであつて、原判決は、正に判決に影響を及ぼすべき事項につき判断を逸脱するものというべきである。

 なお、原判決は、右論考にあたり、第三者振出にかかる約束手形の割引人が割引依頼人から原判示にいう手形の支払を受け、あるいは満期前に割引依頼人の買戻要求に応じ手形を売り戻し、その手形が振出人に返還された場合には、もし後に右が否認されるとすれば、割引人はもはや振出人に対して権利を行使する方法はないことになるから、このような場合にも破産法七三条一項の適用ないし類推適用により割引人を保護すべく、右支払ないし手形買戻行為の否認を許すべきでないと説示するが、同法七三条一項は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払なかりせば前者に対する遡求権行使のための法定手続を履践しおいたであろうことを考慮する制度であり、同条項にいう「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、前者に対する遡求権を指し、「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指すにほかならないから、本件のように振出人でない破産会社が原判示のいわゆる支払ないし手形買戻をした場合には、同条項を適用ないし類推適用する余地は全くないというべきであつて、原判決の同条項適用の誤りを指摘する論旨第二点も理由がある。

 よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべく、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    河   村   又   介

            裁判官    垂   水   克   己

            裁判官    石   坂   修   一

            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

            裁判官    横   田   正   俊

 

性別変更と嫡出推定 (反対意見あり)最高裁平成25年

実務精選120 離婚・親子・相続事件判例解説・第一法規・2019年35

戸籍訂正許可申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

最高裁判所第3小法廷決定/平成25年(許)第5号

平成25年12月10日

【判示事項】       性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子と嫡出の推定

【判決要旨】       性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子は,民法772条の規定により夫の子と推定されるのであり,夫が妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に実質的に同条の推定を受けないということはできない。

             (補足意見及び反対意見がある。)

【参照条文】       民法772

             戸籍法13

             戸籍法施行規則35

             性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3

             性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律4

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集67巻9号1847頁

             裁判所時報1593号4頁

             判例タイムズ1398号77頁

             金融・商事判例1437号8頁

             判例時報2210号27頁

             LLI/DB 判例秘書登載

             登記情報629号97頁

【評釈論文】       季刊教育法183号136頁

             戸籍時報708号62頁

             月報司法書士510号90頁

             ジュリスト1467号78頁

             ジュリスト1479号83頁

             別冊ジュリスト219号190頁

             別冊ジュリスト225号72頁

             小樽商科大学商学討究65巻1号203頁

             東洋法学58巻1号195頁

             判例時報2232号137頁

             年報医事法学29号160頁

             法学教室410号78頁

             法学セミナー59巻6号112頁

             法学セミナー59巻11号102頁

             法曹時報67巻9号322頁

 

       主   文

 

 原決定を破棄し,原々審判を取り消す。

 本籍東京都新宿区▲▲,筆頭者X1の戸籍中,A(生年月日平成21年11月▲日)の「父」の欄に「X1」と記載し,同出生の欄の「許可日 平成24年2月▲日」及び「入籍日 平成24年3月▲日」の記載を消除し,「届出日 平成24年1月▲日」,「届出人 父」と記載する旨の戸籍の訂正をすることを許可する。

 

       理   由

 

 抗告代理人山下敏雅ほかの抗告理由について

 1 本件は,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた抗告人X1及びその後抗告人X1と婚姻をした女性である抗告人X2が,抗告人X2が婚姻中に懐胎して出産した男児であるAの,父の欄を空欄とする等の戸籍の記載につき,戸籍法113条の規定に基づく戸籍の訂正の許可を求める事案である。

 2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。

 (1) 抗告人X1は,生物学的には女性であることが明らかであったが,特例法2条に規定する性同一性障害者であったところ,平成16年に性別適合手術を受け,平成20年,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者である。抗告人X1の戸籍には戸籍法13条8号及び戸籍法施行規則35条16号により同審判発効日の記載がされた。

 抗告人X1は,平成20年4月▲日,女性である抗告人X2と婚姻をした。

 (2) 抗告人X2は,夫である抗告人X1の同意の下,抗告人X1以外の男性の精子提供を受けて人工授精によって懐胎し,平成21年11月▲日にAを出産した。

 (3) 抗告人X1は,平成24年1月▲日,Aを抗告人ら夫婦の嫡出子とする出生届を東京都新宿区長に提出した。これに対し,戸籍事務管掌者である同区長は,Aが民法772条による嫡出の推定を受けないことを前提に,出生届の父母との続柄欄等に不備があるとして追完をするよう催告したが,抗告人X1がこれに従わなかったことから,平成24年2月▲日,東京法務局長の許可を得て,同年3月▲日,Aの「父」の欄を空欄とし,抗告人X2の長男とし,「許可日 平成24年2月▲日」,「入籍日 平成24年3月▲日」とする旨の戸籍の記載(以下「本件戸籍記載」という。)をした(戸籍法45条,44条3項,24条2項)。

 (4) 抗告人らは,Aは民法772条による嫡出の推定を受けるから,本件戸籍記載は法律上許されないものであると主張して,筆頭者抗告人X1の戸籍中,Aの「父」の欄に「X1」と記載し,同出生の欄の「許可日 平成24年2月▲日」及び「入籍日 平成24年3月▲日」の記載を消除し,「届出日 平成24年1月▲日」,「届出人 父」と記載する旨の戸籍の訂正の許可を求めている。

 3 原審は,次のとおり判断して,本件申立てを却下すべきものとした。

 嫡出親子関係は,血縁を基礎としつつ,婚姻を基盤として判定されるものであって,民法772条は,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し,婚姻中の懐胎を子の出生時期によって推定することにより,家庭の平和を維持し,夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐとともに,父子関係の早期安定を図ったものであることからすると,戸籍の記載上,夫が特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と子との間の血縁関係が存在しないことが明らかな場合においては,民法772条を適用する前提を欠くものというべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事189号497頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。

 そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである。

 (2) これを本件についてみると,Aは,妻である抗告人X2が婚姻中に懐胎した子であるから,夫である抗告人X1が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であるとしても,民法772条の規定により,抗告人X1の子と推定され,また,Aが実質的に同条の推定を受けない事情,すなわち夫婦の実態が失われていたことが明らかなことその他の事情もうかがわれない。したがって,Aについて民法772条の規定に従い嫡出子としての戸籍の届出をすることは認められるべきであり,Aが同条による嫡出の推定を受けないことを理由とする本件戸籍記載は法律上許されないものであって戸籍の訂正を許可すべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,抗告人らの本件戸籍記載の訂正の許可申立ては理由があるから,これを却下した原々審判を取り消し,同申立てを認容することとする。

 よって,裁判官岡部喜代子,同大谷剛彦の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官寺田逸郎,同木内道祥の各補足意見がある。

 裁判官寺田逸郎の補足意見は,次のとおりである。

 1 現行の民法では,「夫婦」を成り立たせる婚姻は,単なる男女カップルの公認に止まらず,夫婦間に生まれた子をその嫡出子とする仕組みと強く結び付いているのであって,その存在を通じて次の世代への承継を予定した家族関係を作ろうとする趣旨を中心に据えた制度であると解される。嫡出子,なかでも嫡出否認を含めた意味での嫡出推定の仕組みこそが婚姻制度を支える柱となっており,婚姻夫婦の関係を基礎とする家族関係の形成・継承に実質的な配慮をしていると考えられるのである(注1)。戸籍上女性とされていた性同一性障害者の性別を男性に変更することを認める特例法が,婚姻し,夫となることを認める限りでの適用に限定せず,民法の適用全般について男性となったものとみなすとして(4条),嫡出推定に関する規定を含めた嫡出子の規定の適用をあえて排除していないのも,このように婚姻と強く結び付く嫡出子の仕組みの存在をもふまえてのことであると解される。

 特例法3条の規定により,戸籍上女性とされていた性同一性障害者が性別を男性に変更することが認められ,同法4条の規定により夫となる資格を得た場合においても,その夫婦にとって,夫の直接の血縁関係により妻との間で嫡出子をもうけ,その存在を通じて次の世代への承継を予定した家族関係を作ることはおよそ望むべくもない。そのような立場にある者にもあえて夫としての婚姻を認めるということは,そのままでは上記で示した前提をおよそ欠いた夫婦関係を認めることにほかならない。そのような意義づけを避けるとするなら(注2),当該夫婦が,血縁関係とは切り離された形で嫡出子をもうけ,家族関係を形成することを封ずることはしないこととしたと考えるほかはない。つまり,「血縁関係による子をもうけ得ない一定の範疇の男女に特例を設けてまで婚姻を認めた以上は,血縁関係がないことを理由に嫡出子を持つ可能性を排除するようなことはしない」と解することが相当である(注3)。そして,民法が,嫡出推定の仕組みをもって,血縁的要素を後退させ,夫の意思を前面に立てて父子関係,嫡出子関係を定めることとし,これを一般の夫に適用してきたからには,性別を男性に変更し,夫となった者についても,特別視せず,同等の位置づけがされるよう上記の配慮をしつつその適用を認めることこそ立法の趣旨に沿うものであると考えられるのである(注4)。

 (注1)婚姻し,夫婦となることの基本的な法的効果としては,その間の出生子が嫡出子となることを除くと,相互に協力・扶助をすべきこと,その財産関係が特別の扱いを受けること及び互いの相続における相続人たる地位,その割合があるが(民法752条,755条以下,768条,890条,900条),これらは,本質的には,とりわけ強く結び付いた共同生活者であるがゆえの財産関係の規整であり,扶養の必要性の反映であると解される(婚姻していないカップルなどにも事情に応じて夫婦に準じた扱いを当てはめるべきであるとする解釈論があることが,このことを裏付ける。)。男女カップルに認められる制度としての婚姻を特徴づけるのは,嫡出子の仕組みをおいてほかになく,その中でも嫡出推定は,父子関係を定める機能まで与えられていることからも中心的な位置を占める。また,嫡出子とされることにより未成年の間は自動的に夫婦の共同親権に服することとなること(同法818条1項,3項)は,まさに婚姻と嫡出子との結び付きを明らかにするものであるし,嫡出子は夫婦の氏を称することとされていて(同法790条1項本文),夫婦に同氏を称するよう求められる仕組み(同法750条)の下でいずれかの氏を選択することが,実質的には嫡出子の氏を決める意味を持つことも見逃せないところである。

     なお,本文を含めた以上の説明は,嫡出子とそのもととなる婚姻との関係についての現行法における理解を示したものであり,異なる制度をとることを立法論として否定するものではなく,これを維持するか修正するかなどは基本的にすべて憲法の枠内で国会において決められるべきことであることはいうまでもない。

 (注2)かねてから,相続人たる地位を与えるためにのみ婚姻届がされた場合をはじめとして,婚姻の形式は踏んではいるものの一部の効果だけを志向してされた行為について,法の定める婚姻制度の枠内で個々の当事者の意思をどこまで尊重し,婚姻としての効果をどこまで与えるべきかが論ぜられており,これらの一部を類型化し,婚姻に準じた扱いをすることを排除しない方向での見解が示されたりしている。レベルの違う議論であるとはいえ,特例法のような立法がこのような議論に支えられている部分があることは否定できまい。その観点からすれば,「生来の嫡出子がおよそ考えられず,妻が懐胎し,子を生んだとしても,その子が嫡出でない子となるしかないような範疇のカップルには婚姻の効果を与えない」とするところから脱却した考え方に立った立法がされることはあり得ることであるとはいえる。しかし,そのような考え方に立った立法であるならば,婚姻の直接・間接の効果を一括して与えるというのではなく,より厳密な形で個々的な効果を与えるかどうかを検討した上での規律がされるべきであろう。また,仮に,特例法を婚姻による出生子がおよそあり得ない場合にも婚姻自体の効果を限定的に与えることを認める趣旨であると解するならば,なぜそこで認められた対象カップルに限ってそのような関係が認められるのかという別の次元の議論に直面することになろう。

 (注3)特例法により女性とみなされることとなった者がする婚姻についても,嫡出子を持つことをおよそ否定することは,同じく原理的には相当ではない。ただし,この場合には,男性の場合の嫡出推定による規律と異なり,一般的な女性との関係で,嫡出以前の母子関係自体が,婚姻の効果とは結び付けられることなく,出産(分娩)という事実関係により生ずるという原則が現在採られているということの制約は受けざるを得ない。特例法は,民法の適用上,その対象者であるがゆえに不利な扱いを受けることを避けようとしているに止まり,一般の男女に認められることを超えた特別の優遇策を施そうとするものではないと解される。特例法により男性とみなされることとなった者がした婚姻における出生子についても,多数意見4(1)に引用されている当審判例に示されるごとく事実上の離婚をして夫婦の実態が失われているなどの事情が存する場合には,民法772条の規定による推定が及ぶことはないわけである。

 (注4)本件の事例とは離れた一般論であるが,特例法により男性とみなされることとなった結果実現した婚姻が解消された後には,相手方の女性について再婚禁止期間の規定(民法733条)が適用されることについても,嫡出推定に関する規定の適用があるとしてこそ理解されやすいといえよう。

 2 1のような結論に対しては,夫=父親の意思を重んじることで嫡出子とされてしまうことについての子の福祉の観点から批判があり得るのであって,これには傾聴すべきところがある。しかし,それは,本件のような立場の子の場面に限らず,嫡出推定を当てはめるのに相応の疑義があるにもかかわらず同規定の適用によって夫の子とされる他の場合にも生じている問題であり,法が嫡出否認の訴えができる者を父に限っていること(民法774条)に由来するところが大きいわけであって,その仕組みを改めるかどうかとして広く議論をすべきものであろう。ただし,上記1の解釈は特殊な場合に即して夫=父親(副次的には妻=母親)の意思に比重を置いた結果としての家族形成を認める特例法の考え方から導かれるのであり,この特例法による仕組みにおいても,子の立場に立てば親の意思に拘束されるいわれはない度合いが強いと考える余地はあろうから,法整備ができるまでの間は,民法774条の規定の想定外の関係であるとして,子に限って親子関係不存在確認請求をすることができるとする解釈もあり得なくはないように思われる。

 裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。

 1 私は,多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり私の意見を補足して述べる。

 2 民法772条の推定の趣旨

 母子関係は,婚姻の有無にかかわらず分娩により定まることが判例上確定した解釈である。分娩は外形的にも第三者にも明らかな事実であり,それによって,一義的に明確な基準によって一律に母子関係が確定されることになる。父子関係は,分娩に該当するような外形的にも第三者にも明らかな事実が存在しないため,民法772条という婚姻による推定の制度が設けられている。この推定は,嫡出否認の訴えによらなければ覆すことができないものであり,証拠法則上の推定に留まるものではない。

 民法772条が出生時の母の夫を父とするのでなく,婚姻成立の200日後,婚姻の解消等の300日以内の出生をもって婚姻中の懐胎と推定し,婚姻中の懐胎を夫の子と推定したのは,親子関係が血縁を基礎に置くことと子の身分関係の法的安定の要請を調整したものと解される。夫婦の間の子の父子関係については,同条の定めによる出生に該当するか否かをもって父子関係の成立の推定を行うことにより,血縁関係との乖離の可能性があっても,婚姻を父子関係を生じさせる器とする制度としたものということができる。

 このような嫡出推定の制度によって,嫡出否認の訴え以外では,夫婦の間の家庭内の事情,第三者からはうかがうことができない事情を取り上げて父子関係が否定されることがないことが保障されるのである。

 3 推定の及ばない嫡出子

 民法772条の解釈として,婚姻成立の200日後,婚姻の解消等の300日以内に出生した子であっても,嫡出推定が及ばないとされる場合があることは従来の判例の認めるところである。

 「実質的には同条の推定を受けない事情」と多数意見が総称する事情とは,多数意見においては,夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住していたことが明らかなことであり,反対意見においては,夫婦間に性的関係を持つ機会がないことが明らかなこととされている。二つの意見が相違するのは,父子の血縁関係を一方の極に置きつつ,血縁関係の不存在が何をもって明らかであれば嫡出推定を及ぼさない事由となるのかという点においてである。

 血縁の不存在の確定的な証明があれば嫡出推定が及ばないとする見解があるが,これは,結局,血縁のみによって父子関係を定めるということであり,民法772条の推定の趣旨に反し,賛同できない。

 本件は夫が特例法の審判により男性とみなされる者であるから嫡出推定が及ばないとするのが,反対意見であり,これは,特例法の審判(ないしその審判が認定した事実)の存在によって血縁の不存在が明らかであることを嫡出推定を排除する事由とするものである(なお,この審判が戸籍に記載されるのは戸籍法施行規則の定めによるものであり,戸籍記載をもって明らかであることを民法772条による推定排除の理由とするべきではない)。

 特例法は,元の性別の生殖腺がないこと等を要件としているが,このことは,客観的に確実であっても,第三者にとって明らかなものではない。特例法で性別の変更をした者の元の性別も,必ずしも第三者にとって明らかなものではない。

 前記のとおり,民法772条による推定の趣旨は,嫡出否認の訴えによる以外は夫婦の間の家庭内の事情,第三者からはうかがうことができない事情を取り上げて父子関係が否定されることがないとすることにあるのであるから,血縁関係の不存在が明らかであるとは第三者にとって明らかである必要があるが,夫が特例法の審判を受けたという事情は第三者にとって明らかなものではなく,嫡出推定を排除する理由には該当しない。従来の判例において嫡出推定が及ばないとされたのは,事実上の離婚をして別居し,その後まったく交際を絶っていた事案(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁),懐胎当時,夫が出征していた事案(最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁)であり,いずれも,第三者にとって明らかであることを嫡出推定を排除する理由としたものである。

 4 子の利益の観点から

 子の利益という場合,抗告人らの子にとっての利益だけでなく,今後に生まれるべき子にとっての利益を考える必要がある。「実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり,一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきである」(最高裁平成18年(許)第47号同19年3月23日第二小法廷決定・民集61巻2号619頁参照)というのもその趣旨と解される。

 子の立場からみると,民法772条による嫡出推定は父を確保するものであり,子の利益にかなうものである。嫡出推定が認められないことは,血縁上の父が判明しない限り,父を永遠に不明とすることである。夫がその子を特別養子としたとしても,そのことは変わらないし,出生後に夫婦間に意思の食い違いが生ずると子が特別養子となることも期待できない。

 子にとって血縁上の父をもって法律上の父とする方法がないことが子の利益にとってマイナスに作用することがありうるであろうが,この点は,父を確保することとの衡量を制度上にどのように反映するかという問題であり,今後の立法課題である。

 また,血縁関係がない夫が子の法律上の父とされることから,血液型・DNA検査などにより,偶然に,子が父と血縁がないことを知るという事態が生じ,子にとって不本意な葛藤を与えることがありうるが,これは,特例法による夫婦の登場によって生じたものではなく,民法772条の推定から不可避的に生ずるものであり,生殖補助医療の発達により,さまざまな場面であらわれていたことでもある。戸籍上の記載を現行制度から改めたとしても,近時の血縁関係の判定手法の発達普及を考慮すると(血縁関係の判定を法律上で禁止することができるのであれば別として),意図せざる判明の可能性は高まるばかりであり,この点についての子の利益は,子の成育状態との関係で適切な時期,適切な方法を選んで親がその子の出自について教示することにより解決されることという他ない。

 5 特例法と民法の関係

 特例法は,性別の取扱いの変更の審判によって民法上でも性別が変更されたものとみなすというものであるところ,民法が想定する婚姻・親子,特例法が想定する婚姻・親子がどういうものであるかについて意見が分かれることは,本件の各意見にあらわれているとおりである。

 特例法の想定の範囲はともかく,民法についていえば,高度化する生殖補助医療など立法当時に想定しない事象が生じていることはいうまでもない。それに備えてきめ細かな最善の工夫を盛り込むことが可能であるのは立法による解決であるが,そのような解決の工程が予測できない現状においては,特例法および民法について,解釈上可能な限り,そのような事象も現行の法制度の枠組みに組み込んで,より妥当な解決を図るべきであると思われる。

 裁判官岡部喜代子の反対意見は,次のとおりである。

 私は多数意見とその結論を異にするので,以下理由を述べる。

 抗告人X1は,特例法3条1項による審判を受けた者として同法4条1項により男性とみなされ,その結果法令の適用について男性として取り扱われる。したがって,抗告人X1は民法の規定に従って婚姻することができ,また父となることができる。しかし,現実に親子関係を結ぶことができるかどうかは親子関係成立に関する要件を満たすか否かによって決定されるべき事柄である。特例法は親子関係の成否に関して何ら触れるところがないのであって,これは親子関係の成否についてはそれに関する法令の定めるところによるとの趣旨であると解するほかはない。本件において妻の産んだ子の父が妻の夫であるか否かは嫡出親子関係の成立要件を充足するか否かによるのであって,子を儲ける可能性のない婚姻を認めたことによって当然に嫡出親子関係が成立するというものではない。

 嫡出子とは,本来夫婦間の婚姻において性交渉が存在し,妻が夫によって懐胎した結果生まれた子であるところ,当該子が夫によって懐胎されたか否かが明確ではないので,民法は772条1項,2項の二重の推定によって夫の子であることを強力に推定しているのである。ところが,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,従前の女性としての生殖腺は永続的に欠いているが(同項4号),生物学上は女性であることが明らかである者であり,性別の変更が認められても,変更後の男性としての生殖機能を現在の医学では持ち得ない以上,夫として妻を自然生殖で懐胎させることはあり得ないのである。その意味で特例法は同法に基づき男性への性別変更審判を受けた者と女性との婚姻において遺伝上の実子を持つことを予定していないといえる。抗告人らは,特例法4条1項の「みなす」との文言により変更後の性別である男性としての生殖能力のないことの証明を禁じていると主張するが,特例法自身が生物学的には女性であることを要件としているのであるから,証明の問題ではなく特例法の適用を受けたこと自体によって男性としての生殖能力のないことが明らかなのである。

 以上述べたところからすれば,本件はそもそも推定を論ずるまでもなく実親子関係を結ぶことはできないと解することも不可能ではないが,民法は父性の推定と嫡出性の付与とを区別せずに同法772条において子の父が妻の夫であるか否かを嫡出推定の存否にかからしめているから,夫が特例法に基づき性別変更審判を受けた者である場合にも民法772条により嫡出の推定が及ぶか否かによって夫の子といえるか否かを検討しなければならないであろう。

 嫡出推定の及ばない場合として当審が従前より認めているのは,多数意見の述べるとおり,事実上の離婚,遠隔地居住など夫婦間に性的関係を持つ機会のなかったことが明らかであるなどの事情のある場合であるところ,本件もまた夫婦間に性的関係を持つ機会のなかったことが明らかな事情のある場合であって,上記判例の示すところに反するものではない。抗告人らは,夫が特例法に基づき性別変更審判を受けた者であるか否かは社会生活上の外観からは不明のことであるというが,特例法に基づき性別変更審判を受けた者であること自体は明らかな事実であり,その者には妻を懐妊させる機会がないこともまた明らかである。嫡出性の推定は通常夫婦間でのみ性交渉が行われるという蓋然性と夫婦間でのみ行われるべきであるという当為によって根拠づけられる。そうであれば,夫婦間に性交渉が行われる機会がないこと,夫による懐胎の機会がないことが既に明らかとされている本件のような場合は,社会生活上の外観以上に性的関係を持つ機会のないことが明らかな場合といえる事情である。さらにその事情は特例法2条によって明らかにされているのである。そのことが戸籍に記載されているか否かは結論に関係しない。多数意見は,婚姻することを認めながらその主要な効果である民法772条による嫡出推定の規定の適用を認めないことは相当ではないと述べる。しかし,民法772条の推定は妻が夫によって懐胎する機会があることを根拠とするのであるから,その機会のないことが生物学上明らかであり,かつ,その事情が法令上明らかにされている者については推定の及ぶ根拠は存在しないといわざるを得ない。抗告人らの指摘するように,血縁関係は存在しないが民法772条によって父と推定される場合もあるが,それは夫婦間に上記の意味の性的関係の機会のある場合つまり推定する根拠を有する場合の例外的事象といい得るのであって,本件の場合と同一に論じることはできない。以上の解釈は,原則として血縁のあるところに実親子関係を認めようとする民法の原則に従うものであり,かつ,上述した特例法の趣旨にも沿うものである。

 以上のとおり,実体法上抗告人X1はAの父ではないところ,同抗告人が特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者であることが戸籍に記載されている本件においては,形式的審査権の下においても戸籍事務管掌者のした本件戸籍記載は違法とはいえない。

 なお,本反対意見は,非配偶者間人工授精によって生まれた子,配偶者の生殖不能にもかかわらず妻の産んだ子,母の夫との間に血液型等遺伝上明らかな背馳のある子などにおける嫡出推定の可否については何ら触れるものではないことを念のため付言する。

 裁判官大谷剛彦の反対意見は,次のとおりである。

 1 特例法4条1項は,性別の取扱いの変更を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがない限り他の性別に変わったものとみなす旨規定しているが,その民法の規定について解釈上の問題があるとすれば,その点については,特例法の制度目的や制度設計の理解の上に立った民法の解釈に従って適用が図られる趣旨と解される。

 そして,特例法2条の性同一性障害者の定義規定や特例法3条1項4号の性別取扱いの変更について生殖腺を欠くこと等の要件の規定,及び現在の生殖医療技術を踏まえれば,特例法の制度設計においては,性別取扱いの変更を受けた者が遺伝的な子をもうけることが想定されていないことは,否定できないところと考えられる。

 なお,性別取扱いの変更は家事審判手続によって認められ,戸籍法13条8号,同法施行規則35条16号は性別取扱いの変更に関する事項を戸籍への記載事項とすることを規定している。

 以上のような特例法の制度設計を前提として現在の民法を解釈すると,本件の抗告人らの子の地位は,父子関係の推定が及ばない,いわゆる「推定の及ばない嫡出子」の範疇にあると考えざるを得ないので,私は,岡部裁判官の反対意見に賛同し,その理由については同意見に述べられているとおりと考えるものである。

 2 若干敷衍すると,民法は,第4編の親族の編において,第2章として婚姻法制を定め,第3章として親子法制(実子制度と養子制度)を定め,それぞれその成立,解消,権利義務関係を規定し,夫婦関係と親子関係を家族法制の中核に置いている。特例法による性別取扱いの変更が,両性の身分的結合の法制である婚姻関係に直接的に及び,その主要な効果である夫婦間の相互扶助,財産関係,相続関係等に適用されることは明らかである。一方,民法の親子に関する法制は,実親子関係と養親子関係に分け,実親子関係は血縁に基礎を置いて,そのうちの母子関係については,客観的に明らかな懐胎,出産という事実により法律上の母子関係を成立させ,一方,父子関係については,従来客観的又は外形的な事実からの判定が困難なところから,婚姻という制度的事実を根拠に民法772条以下の父性の推定規定及び否認権の制限規定により,強力な推定効果をもって法律上の父子関係(この場合嫡出父子関係)の成立を認めるところである。しかし,夫婦が婚姻関係にあっても,明らかに客観的かつ外形的に血縁的な親子関係が生じないような事情がある場合,すなわち性的関係をもつ機会を持ち得ないなど遺伝的な子をもうけることがあり得ないような事情がある場合には,子が実質的には民法772条の父子関係の推定を受けないとされることが当審の判例とされ(多数意見4(1)),講学上「推定の及ばない嫡出子」とされている。このように親子法制においては,婚姻はそれ自体が実親子関係を成立させるものではなく,法律上の親子関係形成の推定の根拠として位置付けられている。

 上記1で述べたとおり,特例法の制度設計において,性別取扱いの変更を受けた者が遺伝的な子をもうけることは想定されておらず,このことは手続的制度とも相俟って,客観的かつ外形的に明らかといえるのであり,上記の民法の解釈からすれば,実質的に父子関係,実親子関係の推定が及ばない場合と解せざるを得ないと考えられる。

 3 生物学的に性別が明らかである者が,自らの意思で性別取扱いの変更を受けたとしても,なお変更後の性別で自らの子を持ちたいという願望をも持つことは理解できる。夫婦間で遺伝的な子をもうけることができないとしても,生殖補助医療の一環として,夫婦以外の者の精子又は卵子を用いて,夫婦の一方の遺伝的な子を生じさせることが可能であり,実際にも相当広く行われていることは公知といえる。特例法による夫婦間においても,夫婦の一方の遺伝的な子を生じさせることは(そのことが想定されていたかどうかはともかく)この生殖補助医療として可能である。このうち,男性であった者が性別変更の取扱いを受けて女性となり妻となった場合は,夫に生殖能力があるにしても,妻の懐胎,分娩はあり得ず,民法772条の解釈及び代理懐胎に関する最高裁判例からすると,やはり法律上の母子関係を成立させることはできないと解される。性別取扱いの変更を受けた者同士の婚姻においても,同様である。一方,女性であった者が性別取扱いの変更を受けて男性となり夫となった場合は,生殖能力のある妻が夫以外の精子提供によって懐胎,分娩することにより,母子関係の成立はもちろんのこと,民法772条を文言どおりに適用すれば,法律上の父子関係(嫡出子関係)もその推定により成立すると解することが可能となる。

 この場合,生殖補助医療による法律上の親子関係の形成の問題にもなるところ,この問題は,本来的には,生命倫理や子の福祉を含む多角的な検討の上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果,その際の制度整備等について立法によって解決されるべきものであることは,判例においてつとに指摘されてきたところであるが,なお,立法に向けた議論は十分に煮詰まっていないように思われる。

 4 このような状況の下,本件申立ては,戸籍法113条に基づき区長の前記多数意見2(3)の取扱いが法律上許されないものか否かが問われているところ,これを許されないとする場合,現在の戸籍法制を前提とすると,子が登載される戸籍の子の欄に「父」として記載される者(実父,同法13条4号)について,同じ戸籍の父とされる者の欄には,その当否はともかくとして上記1のとおり特例法による者であることが記載されていることになり,一見するところ特例法の制度設計からは整合しない記載となるのであって,身分関係を公証する戸籍事務を管掌する者としては,そのような取扱いを容認し難く,また黙認し難いことも理解できるところである。

 5 なお,民法772条以下の父性の推定規定は,父子の血縁関係を客観的又は外形的に判定することが困難であることが前提にあって,上記2のような趣旨で設けられたものであるが,遺伝的な親子の判定手段に著しい進歩が見られ,また家族観にも変化が見られる中で,嫡出推定の規定と推定の及ばない嫡出子に関する解釈とその適用について,改めて本質的な議論が提起されてきている。

 特例法は,正に民法の特例を定めるが,その適用は特例法の制度趣旨や制度設計を踏まえた民法の解釈に委ねられているところ,上記のような制度設計の理解からすると,特例法による婚姻関係において,性別取扱いの変更を受けた夫の妻が夫以外の精子提供型の生殖補助医療により懐胎,出産した子について,法律上の父子関係を裁判上認めることは,現在の民法の上記解釈枠組みを一歩踏み出すことになり,また,本来的には立法により解決されるべき生殖補助医療による子とその父の法律上の親子関係の形成の問題に,その手当や制度整備もないまま踏み込むことになると思われる。多数意見の見解は,特例法の制度趣旨を推し進め,性別の取扱いの変更を受けた者の願望に応え得るものとして理解できるところであるが,この特例法の制度設計の下で,子に法律上の実親子関係を認めることにつながることが懸念され,私としては,現段階においてこのような解釈をとることになお躊躇を覚えるところである。民法772条をめぐるさらなる議論と,また生殖補助医療についての法整備の進展に期待したい。

(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)

税理士の脱税行為と重加算税 東京高裁平成18

八ツ尾順一『第6版 事例からみる重加算税の研究』清文堂・2018年398頁

過少申告加算税賦課処分取消等請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成17年(行コ)第25号

平成18年1月18日

【判示事項】       (1) 国税通則法70条5項の適用範囲

             (2) 重加算税の制度目的

             (3) 代理人等が隠ぺい又は仮装行為を行った場合の重加算税の賦課要件

             (4) 納税者が納税手続を他人に委任した場合には受任者の行為は原則としてその効果が本人たる納税者に帰属し、納税者の行為と同一視すべきであるとの課税庁の主張が、重加算税が納税者の悪質な行為への誘因を減殺することにあることからすれば、納税者と隠ぺい又は仮装の行為を行った補助者又は代理人との間に意思連絡等がある場合に限定されないとしても、受任者の隠ぺい又は仮装行為を納税者自身に帰責すべき事由が存することを要すると解すべきであるとして排斥された事例

             (5) 重加算税の賦課要件の立証責任

             (6) 過少申告加算税と重加算税との関係

             (7) 納税者が税理士による隠ぺい又は仮装の行為による過少申告を容認し、税理士との間に意思の連絡があったということはできず、また、税理士による隠ぺい行為による過少申告につき、納税者の帰責事由を認めるには足りないとして、重加算税賦課決定処分が取り消された事例

             (8) 所得税が過少申告となったのは、税理士と税務署員の共謀による妨害及び課税庁の行政処理及び指導的確を欠いたためであり、過少申告となったことにつき正当な理由があるとの納税者の主張が、税理士の行為は納税者との委任契約の履行上の問題として解決すべきものであり、納税者の過少申告は、税理士の申告もれあるいは税理士の違法行為に基づくものであり、課税庁の指導上の落ち度によるものということはできないとして排斥された事例

【判決要旨】       (1) 国税通則法70条5項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものと解すべきであり(差戻し前最高裁判決引用)、納税者が納税義務の確定手続において客観的に「偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れ」たとの事実がある場合には、納税者自身が具体的な偽りその他不正の行為を意図し、又は指示したか否かを問うことなく、通則法70条5項が適用されるものと解すべきである。

             (2) 重加算税の制度は、税務行政を混乱させて余分な徴税コストを負担させたという国家的損失を補填させるとともに、一般的に正確な申告を奨励するに止まらず、悪質な納税義務違反に対するより大きな経済的制裁を課することにより悪質な納税義務違反行為への誘因を減殺し、申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

             (3) 重加算税の賦課要件としては、過少申告の計算の基礎となるべき事実につき客観的に隠ぺい又は仮装の行為があり、その隠ぺい、仮装の行為が納税者の行為と評価し得る(納税者に帰責すべき)事由が必要であるが、この場合、納税者自身が隠ぺい又は仮装等の積極的な行為をすることまでの必要はなく、納税者が、補助者又は代理人により、隠ぺい又は仮装の行為がされることを容認し、その間に意思の連絡がある場合には、国税通則法68条1項(重加算税)所定の重加算税の賦課要件を充足するものというべきである。また、補助者又は代理人のした隠ぺい又は仮装の行為が納税者の意図し又は委任した行為とその態様を異にし、又はその態様において過大であったとしても、納税者の目的が納税の一部又は全部を免れることにある以上、それらは納税者の目的に反するものではないから、特段の事情のない限り、納税者は使者又は代理人による隠ぺい又は仮装の行為をも容認していたものと推認される。

             (4) 省略

             (5) 重加算税は過少申告加算税の加重形態であるから、その賦課要件は課税庁において立証すべきものと解すべきである。

             (6) 重加算税は過少申告加算税の加重形態として理解され、重加算税賦課決定は、過少申告加算税において賦課されるべき税額に加重額を加えた額の税を賦課する処分として、過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んでいるものと解される(最高裁昭和58年10月27日判決参照)から、重加算税の賦課決定の取消訴訟において、国税通則法68条(重加算税)1項所定の加重事由は認められないが、同法65条(過少申告加算税)所定の過少申告加算税の賦課要件の存在が認められる場合には、同賦課決定のうち過少申告加算税額に相当する額を超える部分のみを取り消すことができるものと解するのが相当である。

             (7)・(8) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料256号順号10265

【評釈論文】       Lexis判例速報5号95頁

 

       主   文

 

 1 原判決を次のとおり変更する。

  (1) 被控訴人が控訴人に対して平成9年12月19日付けでした重加算税賦課決定のうち、370万2000円を超える部分を取り消す。

  (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。

 2 訴訟の総費用は、これを5分し、その3を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人が控訴人に対して平成9年12月19日付けでした過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定をいずれも取り消す。

  3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

  1 控訴人は、平成2年9月、昭和62年に6836万5000円で買い受けた川崎市328平方メートル外8筆の土地(以下「本件土地」という。)を1億3000万円で売却し譲渡所得を得たことから、平成3年3月3日、平成2年分の所得税に係る確定申告及び納税手続の税務代理を乙税理士(以下「乙税理士」という。)に委任したところ、乙税理士は、丙税務署員(以下「丙税務署員」という。)と共謀して控訴人の課税資料を廃棄させ、控訴人の平成2年分所得として事業所得のみを申告し、本件土地についての譲渡所得税を申告することなく、控訴人から預かった1800万円を領得した。上記事実が発覚した後の平成9年12月12日、控訴人は、平成2年分所得税につき、本件土地の譲渡に係る所得を加えた修正申告をし、納付すべき税額を納付し、これを受けて、被控訴人は、平成9年12月19日、控訴人の平成2年分の所得税について、事業所得に係る税額の過少分につき過少申告加算税賦課決定(税額1万1000円。以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)をし、譲渡所得に係る税額につき重加算税賦課決定(税額880万9500円。以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をした。課税経過及び計算は別紙1のとおりである。

    本件は、本件過少申告加算税賦課決定処分及び本件重加算税賦課決定処分に対し、控訴人が、①平成2年分の所得税についての賦課決定は国税通則法(以下「通則法」という。)70条4項の期間制限以後に行った点で違法であり、また、②控訴人が隠ぺい仮装の行為を行った事実もなく重加算税の課税要件も具備していない、③控訴人には、過少申告につき通則法65条4項に規定する正当な理由があると主張して、各賦課決定(以下「本件各賦課決定処分」という。)の取消しを求めている事案である。

    原審は、控訴人が通則法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をし、同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れているので、本件各賦課決定処分は同法70条4項所定の除斥期間後にされているが同条5項により適法であり、隠ぺい又は仮装されていない控訴人の事業所得の申告もれについても同法65条4項に規定する正当な理由が認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人が控訴した。

    差戻前の第2審は、控訴人が通則法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をしたこと及び同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた行為をしたことのいずれも認められないから、本件各賦課決定処分は同条4項の期間経過後にされた違法なものであると判断して、原判決を取り消して、本件各賦課決定処分を取り消したので、被控訴人が上告した。

    上告審は、通則法70条5項は、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきであるとして、同項の適用を認め、差戻前の第2審が認定し事実関係によれば控訴人は乙税理士が架空経費の計上など違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、特段の事情のない限り、被上告人は同税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当であり、被上告人と乙税理士との間に本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、通則法68条1項に規定する重加算税の賦課の要件を充足するというべきである等として、差戻前の第2審の判決を破棄し、被上告人と乙税理士との間に前記意思の連絡があったと認められるかどうか等について審理を尽くさせるため、本件を差し戻した。

  2 争点及び争点に関する当事者の主張

    (1) 賦課決定の除斥期間の例外を定める通則法70条5項の適用の有無

     【被控訴人】

     ① 控訴人は、重加算税を賦課されるべき「偽りその他不正の行為」によって本件土地の譲渡に係る所得税額を免れたのであるから、通則法70条5項の規定により、加算税の納税義務成立の日である法定申告期限の経過の時から7年を経過する前にされた本件各賦課決定処分は適法である。

     ② 納税者から納税手続を受任した者の行為は、原則としてその効果が本人に帰属し、受任者の行為が納税者の行為と同一視でき、受任者による隠ぺい又は仮装の行為がされた以上、その選任、監督について納税者に過失がない場合を除き、受任者の申告の効果が納税者に帰属する。

     【控訴人】

      控訴人には、脱税をする意思も脱税のための積極的な行為もなく、「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた」事実はないから、通則法70条4項の規定により、納税義務の成立の日から5年を経過した平成8年3月16日以後、平成2年分の所得税に係る加算税の賦課決定を行うことは許されない。

      なお、本件上告審判決は、控訴人が委任した乙税理士に偽りその他不正の行為があればよいとするもののようであるが、乙税理士の行為は、控訴人による委任の範囲を明白に越えてされており、上記上告審判決の判断の拘束力は及ばないものというべきである。

    (2) 重加算税の賦課要件たる通則法68条1項の事由の有無

     【被控訴人】

     ① 本件重加算税賦課決定処分の適法性

       控訴人は、下記のとおり、乙税理士が控訴人の所得税をほ脱させることを容認した上で、具体的方法を乙税理士に委ね、脱税報酬を含め、又はその全額が報酬に充てられても異存はないとの意思の下に、乙税理士に対し、1805万円を支払い、乙税理士が確定申告書を提出し、これにより、当初から所得を過少に申告することを意図した上で、同税理士の「隠ぺい又は仮装」の行為によって、本件土地の譲渡に係る所得税を免れた。

       すなわち、乙税理士は、平成3年2月末ころ、控訴人から本件土地の譲渡所得に係る所得税について相談を受け、裏付け資料等を示されることなく事情を聴取しながら別紙2のメモ(以下「本件メモ」という。)を作成し、本件メモを控訴人に示しながら税額が約2600万円になると説明した。その際、経費に加えられた本件土地の購入に係る手数料207万円、本件土地の売却に係る買手の紹介料356万円及び草刈費用60万円については、実際には支払っていない架空経費であった。控訴人は、脱税手段の概略について説明を受け、購入手数料、紹介料及び草刈費用等の架空の経費を計上して税額を計算することを明確に認識しながら、これを積極的に認容し、納税額が約800万円低くなる理由について説明を受けることなく、乙税理士に確定申告手続を依頼したものである。乙税理士も、正規の税額を約2600万円という計算をしておきながら1800万円以内の納税しかせずに済まそうという話であるから、これがいわゆる脱税行為であることは控訴人も当然分かっているはずであると認識していた。

       控訴人は、乙税理士が架空経費の計上など違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたものであるから、特段の事情のない限り、乙税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたものと推認され、その間に意思の連絡があると認められるべきものであり、通則法68条1項所定の重加算税の賦課決定の要件は充足されている。

       仮に、控訴人が乙税理士に支払った1800万円に納税資金が含まれるとしても、重加算税は、その対象について納税者の認識を考慮する必要はなく、客観的に生じた過少申告の結果に対して賦課され、控訴人が譲渡所得税の全額について脱税することまでは意図していなかったとしても、納税すべき額と1800万円の差額ではなく、納税を免れた金額の全額について賦課される。

     ② 他人による隠ぺい又は仮装の行為

      ア 通則法68条1項にいう「納税者」は、納税者本人に限られず納税者以外の者で、納税者本人と同視し得る者を含む。

      イ 納税者が納税手続を他人に委任した場合、受任者の行為は原則としてその効果が本人たる納税者に帰属し、納税者の行為と同一視できるというべきで、受任者による隠ぺい又は仮装の行為がされた以上、その選任、監督について納税者に過失がないと認められる場合を除き、受任者の申告の効果が納税者に帰属し、重加算税の賦課要件を満たし、かつ、通則法70条5項の偽りその他不正の行為の要件を満たす。

      ウ 本件において、乙税理士は、控訴人から申告手続を依頼され、隠ぺい又は仮装の行為に及んでおり、乙税理士の行為は控訴人の行為と同視し得るというべきで、控訴人は、乙税理士が架空の経費を計上することを知りながら黙認し、確定申告書の内容を確認しておらず、選任、監督について過失がなかったとはいえないのであって、乙税理士の隠ぺい又は仮装の行為についての控訴人の認識のいかんにかかわらず、重加算税の賦課要件が満たされる。

     ③ 税理士による隠ぺい又は仮装の行為

      ア 税理士による隠ぺい又は仮装の行為について、当該税理士に委任した納税者に重加算税を賦課すべきかどうかは、税理士による当該行為によって生じた国家的損失を当該納税者の負担によって補填させるのが公平か、当該納税者に補填させず国家の損失、即ち、他の正当な申告納付義務の履行者全体の損失のまま止めることが公平かという観点から決すべきで、かかる観点からすれば、納税者が税理士に隠ぺい又は仮装の行為やそれに基づく過少申告を指示したか否か、あるいは、納税者が税理士による隠ぺい又は仮装の事実やその具体的方法を知悉していたか否かにかかわらず、税理士に納税手続を委任した以上、選任、監督に過失がないことを立証しない限り、当該税理士の行為は納税者の行為と同視すべきで、重加算税の賦課がされるべきである。

      イ 控訴人は、乙税理士から、税額約2600万円を2310万円に減額するに当たり、C有限会社(以下「訴外会社」という。)に対する紹介料や本件土地の草刈費用等の架空経費を計上すると説明を受け、「全部で1800万円でやってあげますよ。」と言われ、脱税に当たると認識しつつ、納税と報酬を含めて1800万円で済むと考えて委任しており、職務の公正を疑わせる事情のある乙税理士の選任を中止することも、不正行為に及ぶことのないように監督することもなく、逆に、不正行為を利用して脱税を図ろうとしたのであり、選任、監督について過失がある。

     ④ 仮定主張

       控訴人が納税を免れた全額について重加算税の賦課要件を満たさないとしても、乙税理士に渡した1800万円を超える部分は、控訴人と乙税理士との委任契約の趣旨に基づくもので、少なくとも、重加算税の賦課要件を満たす。

     【控訴人】

     ① 乙税理士は、控訴人から、平成2年分の所得税の申告及び納付の手続を受任し、1800万円を預かり、控訴人について虚偽の転入通知をし、丙税務署員が課税資料を廃棄する方法により、控訴人の所得税申告を妨害し、1800万円を横領したのであり、控訴人は、不正行為に巻き込まれ、濡れ衣を着せられたのである。

       控訴人は、脱税する意思はなく、脱税のための積極的な行為もなかったものであり、乙税理士も控訴人に対し、隠ぺい又は仮装の行為をする旨を表示したこともない。まして、控訴人は、乙税理士が架空経費の計上など違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたことはなく、乙税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたものでもなく、乙税理士との間に意思の連絡があったものでもないから、通則法68条1項所定の重加算税の賦課決定の要件は充足されていない。

      ア 控訴人の検察官に対する供述調書(乙8。以下「本件検面調書」という。)中には、乙税理士から説明を受けた際、虚偽の経費を計上するなどして申告を行い、不正に税金を安く済ませることを理解しており、大変悪いことをしたと深く反省しているとの記載があるが、控訴人は、当初から脱税の意思はなかったと述べ、訂正を求めていたが、東京地検のT検事(以下「T検事」という。)から、連日にわたる取調べと台湾人は嘘つきで嫌いだとの差別的発言を受け、偽りの転居届をしたと決めつけられ、大学教授の地位を失うのではないかと混乱に陥り、当時、危篤状態にあった台湾在住の父親を訪問する必要があったほか、所得税法違反は公訴時効が成立していて起訴されることはなく、乙税理士の責任のみを追及するためである等と言われ、取調べから免れるため、事実に反する供述調書に署名押印したものであり、上記供述部分は、任意性及び信用性を欠くものである。

        また、東京国税局調査官に対する聴取書(乙9)中にも、任せて貰えれば1800万円に安くしてくれると話されて乗ってしまい、「乙に税金が安くなると持ち掛けられそれにのり不正な申告をしたことは私の不徳の致すところで非常に申し訳なく思っています。」との部分があるが、控訴人は、上記のとおり、検察官から連日にわたる苛酷な取調べを受けて疲労困憊し、判断力が低下した状態にあり、事実と異なる聴取書に署名押印したのであり、上記部分も任意性及び信用性を欠くものである。

      イ 控訴人は、本件土地取得後、平成2年9月に売却するまでの3年間、留学生に年3回の草刈りと年1回の土留作業を依頼し、1回に4、5人の留学生が作業に従事し、アルバイト代として1人1回1万円を支給しており、これら草刈り等の費用として合計約60万円を負担していたので、乙税理士がメモに記載した草刈費用は架空経費ではなく、控訴人には架空経費との認識はなかった。

      ウ 本件メモのうち、「内紹介料356万・・・・・C有限会社」との記載は、乙税理士がメモしたものではない。平成3年3月になって控訴人が妻E(以下「E」という。)に本件メモを見せた際、Eが有限会社F(以下「F」という。)に仲介手数料を支払ったのであれば、Fを控訴人に紹介した訴外会社(Eが代表取締役をしている会社)にも紹介料を払って欲しいと言って、上記のとおり記載したものである。したがって、乙税理士及び控訴人は、上記紹介料356万円を本件土地譲渡の際の経費とは全く考えていなかったものであり、架空経費計上の根拠となるものではない。

     ② 乙税理士は、所得税の申告手続を受任しながら、控訴人の意思とは全く反対に、丙税務署員と共謀して、控訴人の納税資金を着服横領したのであり、控訴人のために行為をしたとはいえず、その法律効果が控訴人に帰属することはない。

     ③ 控訴人は、次のとおり、乙税理士の選任及び監督について過失がなかった。

      ア 控訴人は、税務知識がなく、知人のDに照会して、資格のある税理士であることを確認し、乙税理士に対し、平成2年分の譲渡所得の申告手続を依頼した。

      イ 控訴人は、乙税理士に申告手続を委任し、納税資金1800万円を預け、税務代理報酬5万円を支払い、預り証及び領収書を受領しており、乙税理士が丙税務署員と共謀して納税資金を横領する意図であったことを知る由もなかった。

      ウ 控訴人は、税務知識に乏しく、当時多忙を極めており、乙税理士を信頼して申告手続を一任し、その後、妻Eを介して納税が完了したとの報告を受け、平成2年分の所得税の納税は終了したと考えていたのであり、乙税理士について「職務の公正を疑わせる事情」は存在せず、選任を中止し、又は監督する必要を感じなかった。

     ④ 仮に、控訴人が本件メモに基づき架空経費の計上の方法による税額800万円に係る隠ぺい又は仮装について認容する意思を表示したとしても、乙税理士が実行した事績書廃棄の方法による不申告についての意思の連絡はない。この場合、乙税理士の意思は、事績書廃棄の方法による、税額2600万円の脱税であるから、控訴人と乙税理士との間には、隠ぺい又は仮装の態様、目的とする金額がいずれにおいても全く一致せず、両者の間に意思の連絡は認められない。

       また、控訴人は、乙税理士に対し、1800万円を納税資金として交付したものであり、1800万円に相応する所得額については、隠ぺい又は仮装の意思の連絡は全くなかったものである。

     ⑤ 本件は、控訴人の与り知らないところの土地の譲渡所得の課税資料に対する国の杜撰な管理に起因し、これに元及び現税務署員が結託したことから生じたもので、税務当局に重大な落度がみられるものであり、被控訴人が本税だけでなく、重加算税まで徴収しようとすることは、徴税権の濫用であり、本件重加算税賦課決定処分は違法である。

    (3) 過少申告についての正当な理由(通則法65条4項)

     【被控訴人】

     ① 本件過少申告加算税賦課決定処分について

       控訴人は、平成2年分の所得税の確定申告において、事業所得の金額の計算上、収入を過少に申告するとともに必要経費を過大に計上することにより事業所得の金額を過少に申告しており、事業所得の金額が過少申告となったことについて通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条1項の規定により過少申告加算税が賦課される。

     ② 本件重加算税賦課決走処分について

       仮に、本件重加算税賦課決定処分について、通則法68条1項所定の加重事由である納税者による「税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部について隠ぺい又は仮装の行為」が存在することが認められない場合においても、少なくとも、過少申告加算税額に相当する額を超えない部分は適法というべきである。

    【控訴人】

      控訴人の平成2年分の所得税の申告が過少となったのは、上記のとおり、乙税理士及び丙税務署員による妨害のためであって、被控訴人の行政処理や指導が的確を欠いたのであり、納税者のみにその責めを帰することは酷であり、このような事情は通則法65条4項に規定する「正当な理由」その他真にやむを得ない事情がある場合に該当し、控訴人に対して過少申告加算税を課すことは許されない。

      控訴人は、検察官による苛酷な取調べが終了した直後の平成9年12月初旬、修正申告について税務署職員の調査を受け、同月12日、いわれるまま、同職員が下書きした書面を写すことにより、修正申告(以下「本件修正申告」という。)をしたが、当時、未だ心身の疲労から脱却されない諸症状に継続的に悩まされ、税務署職員による調査結果を十分理解できないまま、いわれるとおり修正申告をしたのであって、「不当若しくは酷になる場合」であり、通則法65条4項に規定する「正当な理由」があるというべきである。

第3 当裁判所の判断

  当裁判所は、控訴人の請求は本件重加算税賦課決定処分のうち、370万2000円を超える部分の取消しを求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

  1 争点(1)について検討する。

    通則法70条5項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものと解すべきであるところ(本件上告審判決参照)、本件において、控訴人が平成2年分の所得税の申告手続を乙税理士に委任し、同税理士が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者である控訴人が平成2年分の所得税に係る税額の一部を免れたことについては争いがないから、同条5項2号の期間内にされた本件各賦課決定処分に、同条4項に規定する除斥期間経過後であることの違法は認められない。

    この点につき、控訴人は、乙税理士の行為は、控訴人による委任の範囲を越えたものであるから、上記上告審判決の判断の拘束力は及ばないと主張する。しかし、通則法70条は、課税(賦課)権について時的限界を規定するものであり、通則法73条3項に規定する徴収権の消滅時効と同様、納税義務自体の消長又は納税義務の多寡を規定するものではない。そして、通則法70条5項は、同条4項で賦課権の除斥期間を規定した国税についても、偽りその他不正の行為による申告行為等、課税当局の発見、調査が妨げられるような事情があった場合に、その例外を規定するものであって、これは偽りその他不正の行為をした者への制裁を目的としたものではない。したがって、納税者、その補助者又は代理人によるものであっても、納税者の納税義務の確定手続において客観的に「偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れ」たとの事実がある場合には、納税者自身が具体的な偽りその他不正の行為を意図し、又は指示したか否かを問うことなく、同条5項が適用されるものと解すべきであり、本件上告審判決の上記説示も同趣旨を説くものと解すべきである。

関根小郷裁判長名判決 青色申告承認取消しと理由付記 最高裁昭和49年

八ツ尾順一『第6版 事例からみる重加算税の研究』清文堂・2018年401頁

青色申告書承認取消処分取消請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/昭和47年(行ツ)第76号

昭和49年6月11日

【判示事項】       1 旧法人税法(昭和40年法律34号による改正前のもの)25条9項(青色申告承認取消通知書の理由付記)の趣旨

             2 青色申告承認取消通知書の理由付記の内容及び程度

             3 旧法人税法25条8項3号に該当する場合の青色承認取消通知書の理由付記の程度

             4 税務調査の過程において帳簿書類の不備等が指摘されたとしても、そのことのゆえに取消通知書に事実の付記がなくても処分の相手方が具体的な取消事由を知り得るのが通例であるとは認められないとされた事例

             5 処分理由の付記に関して、青色申告承認取消処分と保釈の取消、勾留及び青色申告承認申請の却下処分との差異

【判決要旨】       1 青色申告承認取消処分は、承認を受けた納税者の納税上の種々の特典をはく奪する不利益処分であるから、処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制し、相手方の不服申立てに便宜を与えるという、一般に法が行政処分につき付記を要求している場合とその趣旨、目的を同じくするものと解される。

             2 青色申告承認取消通知書の理由付記の内容と程度は、特段の理由がない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。

             3 旧法人税法25条8項3号におけるように該当号数を示しただけでは取消しの基因となつた具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を付記するのみでは足りず、右基因事実自体についても処分の相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが相当である。

             4 省略

             5 青色申告承認取消通知における理由付記に関し保釈の取消しや勾留のような緊急を要する刑事上の裁判や、青色申告承認申請の却下のような法自体が処分の性質に差異を認めて書面による通知等を要求していない拒否処分と対比して論ずることは、当を得ないものである。

【参照条文】       旧法人税法(昭和40年法律34号による改正前のもの)25-8

             旧法人税法(昭和40年法律34号による改正前のもの)25-9

             旧法人税法25-5

             刑事訴訟法96

             刑事訴訟規則70

【掲載誌】        訟務月報20巻9号170頁

             最高裁判所裁判集民事112号101頁

             判例時報745号46頁

             税務訴訟資料75号773頁

【評釈論文】       訟務月報20巻9号170頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人香川保一、同松沢智、同叶和夫、同仙波英躬、同伊藤洋逸の上告理由について。

 論旨は、要するに、原判決が、本件青色申告書提出承認取消処分の通知書に取消しの基因となつた事実の附記がないことを理由として右処分を違法としたのは、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号。以下「旧法人税法」という。)二五条九項後段の規定の解釈適用を誤つたものである、というのである。

 思うに、旧法人税法二五条は、その八項において、青色申告書提出承認の取消し(以下単に「承認の取消し」という。)の事由を一号ないし五号に掲げる五つに限定したうえ、その九項において、承認の取消しをしたときは、その旨を当該法人に通知すべく、当該通知の書面には承認の取消しの基因となつた事実が同条八項各号のいずれに該当するかを附記しなければならないものと定めているのであるが、旧法人税法が承認の取消しの通知書にこのような附記を命じたのは、承認の取消しが右承認を得た法人に認められる納税上の種々の特典(前五事業年度内の欠損金額の繰越し、推計課税の禁止、更正理由の附記等)を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、承認の取消しの理由を処分の相手方に知らせることによつて、その不服申立てに便宜を与えるためであり、この点において、青色申告の更正における理由附記の規定(旧法人税法三二条)その他一般に法が行政処分につき理由の附記を要求している場合の多くとその趣旨、目的を同じくするものであると解される。それゆえ、この場合に要求される附記の内容及び程度は、特段の理由のないかぎり、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを処分の相手方においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の原因となつた具体的事実関係をも当然に知りうるような例外の場合を除いては、法の要求する附記として十分でないといわなければならない。

 この見地に立つて旧法人税法二五条の規定をみるに、同条八項各号に掲げられた承認の取消しの事由は、青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる場合を類型化したものであるが、具体的事案においていかなる事実がこれに該当するとされるのかは必ずしも明らかでなく、特に同項三号の取消事由は極めて概括的で具体性に乏しいため、取消通知書に同号に該当する旨附記されただけでは、処分の相手方は、帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性が疑わしいとされた理由が、取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装したことによるのか、それともそれ以外の理由によるのか、また、右の隠ぺい又は仮装が帳簿書類のどの部分におけるいかなる取引に関するものであるのか等を、その通知書によつて具体的に知ることは、ほとんど不可能であるといわなければならない。のみならず、承認の取消しは、形式上同項各号に該当する事実があれば必ず行われるというものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によつて決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によつて当該承認の取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりを得られないこととなるのである。

 以上の点から考えると、同条九項後段の規定は、その文言だけからは、一見、承認の取消しが同条八項各号のいずれによるものであるかのみを附記すれば足りるとするもののようにみえないでもないけれども、このような解釈が前記理由附記の趣旨、目的にそうものでないことは明らかであり、他方、そのような不十分な附記で足りるとする特段の合理的理由も認められないのである(承認の取消しを行う処分庁としては、既に具体的な取消事由についての調査を経ているはずであるから、これを具体的に処分の相手方に通知すべきものとしても、さほど困難な事務処理を強いられるものとは考えられない。)から、同項三号におけるように該当号数を示しただけでは承認の取消しの基因となつた具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を附記するのみでは足りず、右基因事実自体についてもこれを処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが、相当である。このように解しても、必ずしも所論のいうように同条九項後段の文理及び立法経過と相容れないものということはできないし、また、同条項後段が前記青色申告の更正の理由附記に関する規定とその形式を異にする点も、承認取消処分と更正処分の性質、内容の差異を考慮すれば、いまだ右の解釈を妨げる根拠とするに足りない。

 所論は、承認の取消しにあたつては、それに先行する税務調査の過程で帳簿書類の不備、不正等の点が具体的に問題とされるのが通例であり、したがつて、処分の相手方は、通知書に取消事由の該当号数さえ記載されていれば、取消処分がいかなる判定に基づいてされるに至つたかを了知することができるのであるから、取消処分の理由附記の程度としてはそれで十分であると、主張する。しかし、税務調査の過程において帳簿書類の不備等が指摘されたとしても、これによつて処分庁が最終的判断としていかなる事実を取消事由と認めたのかを知りうるものではないから、取消通知書に事実の附記がなくても処分の相手方が具体的な取消事由を知りうるのが通例であるとはとうてい認めることができない。所論は、また、保釈の取消しや勾留における理由の記載の程度についての解釈、及び青色申告承認申請に対する却下処分について書面による通知、理由附記が要求されていないこととの対比をいうが、前者のような緊急を要する刑事上の裁判や、後者のような法自体が処分の性質に差異を認めて書面による通知等を要求していない拒否処分との対比を論ずることは、当をえないものであるといわなければならない。

 以上述べたところからすれば、単に旧法人税法二五条八項三号に掲げる事実に該当すると附記されているにすぎない本件青色申告書提出承認取消処分の通知書は、法の定める附記の要件を欠くものというほかなく、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するにすぎないものであつて、採用することができない。

 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第三小法廷

        裁判長裁判官  関根小郷

           裁判官  天野武一

           裁判官  坂本吉勝

           裁判官  江里口清雄

           裁判官  高辻正己

 

 上告代理人香川保一、同松沢智、同叶和夫、同仙波英躬、同伊藤洋逸の上告理由

 原判決には、旧法人税法(昭和四〇年法律三四号による改正前の法人税法。以下「法」という。)二五条九項後段の解釈および適用を誤つた違法があり、この違法は、判決の結果に影響を及ぼすことが明らかである。

 すなわち、原判決は、法二五条九項後段の解釈につき、青色申告承認の取消処分の通知書には、取消の理由として、単に該当条項を記載するのみでは足りず、承認取消の基因となつた事実をも具体的に摘示することを要求しているものと解するのが相当であるとして、上告人の主張を排斥しているが、それは同条項の解釈を誤つているものである。

第一、不利益処分の理由附記の趣旨とその程度

  法令が一定の行政処分についてとくに理由を付することを要求している場合があるが、その趣旨は、一般的には、最高裁二小廷昭和三八年五月三一日判決(民集一七巻四号六一七頁)が判示しているように、「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものである」と解すべきである。問題は、この場合における理由附記の程度であるが、この点について、右最高裁判決は、「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」と判示している。これは、まさに、理由附記の程度は、画一的でなく、個別的に、その根拠規定あるいは処分の性質に照らして決められるべきことを明らかにしているものである。

  租税法の分野においても、青色申告の更正、異議決定、裁決等の特定の処分に限つて理由附記をすべきこととされているが、その程度については、右のとおり、それぞれについて個別的に決められるべきものである。

第二、青色承認の取消処分の理由附記

 一、法二五条九項の文理

   青色申告承認の取消処分(以下「承認取消処分」という。)については、法二五条九項(現行法人税法一二七条二項と同趣旨)は、「政府は、……承認の取消をなしたときは、当該法人に、これを通知する。この場合において、前項の規定による承認の取消の通知をするときは、当該通知の書面にその取消の基因となつた事実が前項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない。」と規定し、同条八項各号は、取消事由として具体的な事実を列記している。

   右条文は、理由附記に関し、租税法の分野における他の処分についての理由附記を要する旨の規定とその趣きを異にしている。

   すなわち、青色申告の更正処分(以下「青色更正処分」という。)の場合は、「更正通知書にその理由を附記しなければならない」(法三二条)旨を定めているが、それは、単に理由を附記すべき旨を抽象的に規定しているのみで、その附記の程度についてはなんら規定していない。また、異議決定および裁決の場合は、「異議決定書または裁決書には、決定の理由を附記し、……右理由においては、その維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない」(国税通則法八四条四、五項、一〇一条一項)旨を定めており、理由附記の必要なことおよび理由附記の程度について規定しているが、その程度に関しては、承認取消処分の場合に比して具体性を欠き、抽象的である。

   このように、承認取消処分の場合については、法律は、明白に他の場合と趣きを異にし、理由附記の程度についてまで具体的に規定を設け、理由附記として必要な記載事項を明示しているのである。そして、その内容は、取消の基因となつた事実がどの条項に該当するのか、つまり該当条項だけを記載すれば足りると規定しているのであり、理由附記の程度について法律によつてこれを明らかにしているのである。

  従つて、この場合も理由附記の趣旨は、前掲最高裁判決が一般的な理由附記について判示するとおりのものであるが、その記載の程度については、右判示の一般的な考え方は通用せず、法律がその記載の程度を明文をもつて具体的に規定しているのである。

   法律の解釈は、いうまでもないことであるが、条文の文理に従つて解釈すべきものであつて、条文の文理を離れた理解は、法律の解釈の域を超えるものというべきである。

   しかるに、原判決が、「本件条項は、読み方によつては、……当然に……『取消の基因となつた事実』をも附記することを要求しているものと解することができないわけではなく、したがつて、右条項を形式的に文理解釈するだけではいずれとも定め難いところであるから、右の文言のみに捉われずに、……合理的に右条項を解釈しなければならない。」(原判決一四丁裏一行目から八行目まで)としているのは、右条項の解釈にあたつて文理を曲げたか、その出発点において文理解釈の手法を放棄したか、いずれかであるというべきである。

   原判決は、結局、該当条項のほかに「取消の基因となつた具体的事実」の記載をも要求されているものと解しているが(原判決一五丁一二行目から同丁裏二行目まで)、それは、本件条項が「取消の基因となつた事実およびその該当条号を附記しなければならない」と規定しているときに、はじめていえることである。

   法二五条九項において、「取消の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」と規定している文理は、素直に読んで、他の場合のように、理由附記が要求されている立法趣旨をふえんして理由附記の程度について種々解釈を加えることを必要としているものでなく、法文のうえで理由附記の程度について記載すべき内容を明示しているのである。それは、具体的事実の記載を要求しておらず、該当条項の記載だけで足りることを明らかにしているものである。

 二、法二五条九項の立法経過

   承認取消処分の理由附記の程度について、該当条項だけを記載すれば足りると解すべきことは、前に述べたとおり、条文の文理に照らして何よりも明らかなことであるが、このことは、立法経過からも明らかである。

   すなわち、承認取消処分の理由附記およびその程度に関する規定は、昭和三四年法律八〇号による法人税法の改正の際、議員修正により設けられたのであるが、それは、国会の議事録の質疑応答において明確になつているように、青色申告の承認を取り消すべき場合は、取消理由が法律上において明確に制限されているので、納税者にどの条項(取消理由)を理由として取り消したのかを明確にすれば足りるということで、理由附記の程度として該当条項の記載だけを必要とする規定を設けるに至つているのである(詳細は乙一五号証「昭和三四年二月一八日付小委員会議事録」、乙一六号証「昭和三四年二月二五日付小委員会議事録」参照)。

   原判決の解釈は、立法の経過をまつたく無視したものであり、正当でない。

 三、承認取消処分の性質と法二五条九項の立法趣旨

   承認取消処分の理由附記の程度について、該当条項だけを記載すれば足りるものであることは、前に述べたとおり、条文の文理あるいは立法経過に照らして明らかなことであるが、このことは、承認取消処分の性質からも明らかにできることであつて、承認取消処分の性質からいつて、理由附記として該当条号を記載するだけで、一般的な理由附記の趣旨に十分に適合しているのである。

   青色更正処分との対比において、承認取消処分の性質について考えてみるに、まず前者は、納税者が帳簿書類に基づいて提出した納税申告書の課税標準もしくは欠損金額または法人税額の計算が国税に関する法律規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等がその調査したところと異なるときに、当該申告書に係る課税標準等を更正するものである。したがつて、青色更正処分は、税務官庁が、当該納税者において記帳した帳簿書類を尊重し、これに基づいて所得の計算をする建前となつているのに、それにもかかわらず、右帳簿書類の記載を信用しないのであるから、右帳簿書類の記載をいかなる理由で信用しないのかを、帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示して、説明することが必要とされるのである。したがつて、更正の理由附記としては、「いかなる勘定科目に幾何の脱漏があり、その金額はいかなる根拠に基づくものか」(前記最高裁二小廷判決)をその記載自体から了知できる程度に明示されねばならないといえるのである。

   これに対して、承認取消処分は、帳簿書類の備付けとその記帳が、法二五条八項各号所定の取消事由に該当するものとして、承認を取り消すものであつて、個々の具体的数額が直接問題となるものではない。

   元来、青色申告の承認は、事業年度開始の日までに、所轄税務署長に法定の事項を記載した申請書を提出することにより、通常承認が得られる建前になつている。すなわち、法二五条五項の却下要件に該当しない限り、政府は、右申請を承認しなければならないし、また当該事業年度終了の日までに、当該申請の承認または却下がなかつたときは、当該申請の承認があつたものとみなされる(法二五条六項)のである。

   しかしながら、納税者において、全事業年度を通じ、法所定の帳簿書類を完備し、誠実にこれが記帳を続け、それに基づく正しい会計処理と所得計算をするのでなければ、この帳簿書類に即して課税標準等を算定することはもはや期待できないのであるから、そのような期待のできない場合には、青色申告の承認が取り消されるのもやむをえないといわねばならない。

   このように、承認取消処分は、信頼性のある帳簿書類を完備、記帳していない納税者に対し、その帳簿書類の信頼性の欠如を理由にこれが承認を取り消すものであり、個々の科目や数額をその帳簿書類に直接関連させながら、逐一こくめいに摘示しなければならない必要性はまつたくないものである。

   したがつて、承認取消処分と青色更正処分とはその性質を異にしているのであるから、これが処分通知書に理由を附記しなければならない程度も当然に異なり、前者の場合は、後者の場合よりも理由が簡単であつてさしつかえないのである。

   しかるに、原判決は、承認取消処分の理由附記の程度を判断するにあたつて、前記のとおりの規定自体の差異を無視するのみならず、承認取消処分と青色更正処分との性質の差異をも無視して、これらの両処分を同じ平面におき、その単純な軽重の均衡論を前提として、その理由附記の程度を同じように解しようとしている(原判決一七丁裏)のはまつたく誤りである。

   また、ここで強調しておかねばならないことは、承認取消処分は、青色更正処分のように種々の態様のものがあるのではなく、前に述べたとおり、帳簿書類の信頼性が欠如するに至つた場合に行なわれるものであるので、法律は、その取消理由を類型化し、取消しを制限的に規定していることである。つまり、その取消理由として、帳簿書類の信頼性を欠くと認められる場合を、つぎの五つの類型に分けて具体的に明文化し、これら五つの類型のいずれかに該当するときでなければ、取消処分が許されないものとしているのであり、その取消しについては厳しいチエツクを加えていることである(法二五条八項)。

  (一) 当該法人の備え付ける帳簿書類が二項の規定による命令の規定に準拠していないこと(同項一号)。

  (二) 当該法人がその備え付ける帳簿書類について四項の規定による指示に従わなかつたこと(同項二号)。

  (三) 当該法人の備え付ける帳簿書類に取引の全部または一部を隠ぺいしまたは仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があること(同項三号)。

  (四) 一八条ないし二一条または二二条の二ないし二二条の五の規定による申告書をその提出期限内に提出しなかつたこと(同項四号)。

  (五) 九条の七第三項(九条の八第三項において準用する場合を含む。)の規定による政府の承認を受けないでそのよるべき方法を変更したこと(同項五号)。

   このように、法は取消理由を類型化し、取消を制限的に規定しているのであるから、承認取消処分の理由附記の程度としては、どの条項(取消理由)で取り消されたのかを明示しさえすれば、税務官庁の恣意は十分に抑制されることになり、また、納税者に対して不服申立のための便宜もつくされているものといえるのであつて、一般的に不利益処分に関し、理由附記を要求する法の趣旨にも充分合致しているのである。

   すなわち、右類型化されている取消理由のうち、(四)(五)の場合は、いずれも形式的なものであるので、該当条項が示されただけで理由附記の程度として十二分なことは多言を要しないところである。また、(一)ないし(三)の場合は、いずれも帳簿書類に関するものであつて、これを統一的に理解すべきものであるが、(一)(二)の場合は、形式的不備による帳簿書類の信頼性の欠如であり、該当条項が示されただけで理由附記の程度として十分であることは、前記(四)(五)の場合と同様であり、さらに(三)の場合についても、帳簿書類の記載事項の単なる一部ではなく、その全体について信用できないことを明らかにしているものであり、法自体が「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし、又は、仮装して記載する等」(法二五条八項四号)と規定し、帳簿書類が信頼性を欠如する具体的根拠を示しているのであるから、この場合についても、該当条項が示されただけで理由附記の程度として十分なものというべきである。もつとも、(三)の場合、他の取消事由と比べると、やや具体性に欠ける場合の起ることが考えられなくもないが、このような場合でも、立法の当否は別として、解釈上具体的事実等の記載を欠くときは当然に承認取消処分を違法と評価しなければならない程の実質的理由はない。しかも、承認取消処分は、当該法人がなんら関知しないときに率然として承認取消の通知書が届けられるものではなく、承認取消処分に先立ち当該帳簿書類について税務調査が行なわれるのである。すなわち、承認取消処分がされるときは、それに先立つて、税務調査が先行し、税務署の担当係官は、必ずこれら法人の帳簿書類のすべてについて調査するのであり、これには、もちろん、当該法人の経理担当者が立ち会い、必要に応じて説明し、また質問を受け、弁明する機会が与えられている。それ故、通常、調査の全過程を通じて、いかなる会計処理が問題であるかが、必ず論議の対象となり、それに関連し、帳簿書類の項目と数額について、その記載の不備、不正、脱ろう、過大計上、過少評価等が論議されるのが通例である。とすれば、これらの税務調査を経たうえで承認取消処分の通知が発せられるものである以上、そこに記載されている取消事由の該当条号をみれば、所轄税務署長がいかなる判定に基づき、当該青色承認を取り消すに至つたかを了知することができるものである。

   以上のように、法二五条九項の立法趣旨は、取消処分を制限し、そして取消理由を類型化している建前を前提として、理由附記の程度としては、該当条項のみで足りることをまさに明定しているものである。そして、このような解釈こそ、前に述べた文理解釈にも、また、立法の経過にもきわめてよく合致するものといえよう。

   このことは、法定の手続が厳格に保障されている刑事法の分野における保釈の取消と対比してみても、明らかである。すなわち、刑事訴訟法九六条一項は、五つの保釈取消の理由を規定している。これは、保釈取消の理由が制限的かつ類型的に定められているものと解すべきであるが、保釈取消決定においては、該当条項だけを記載すれば足りると解されているのである。なお、勾留についてみても、刑事訴訟法六〇条一項各号所定の勾留の理由は、前記保釈取消事由と同様、制限的かつ類型的に定められているものと解すべきであり、刑事訴訟規則七〇条は、「勾留状には、……の外、法第六〇条第一項各号に定める事由を記載しなければならない。」と規定しているが、勾留状には該当条項だけを記載すれば足りると解されているのである。

   また、青色申告の承認申請に対する却下処分については、却下の理由として、承認取消処分の取消理由とほぼ同じ理由が掲げられているのであるが(法二五条五項)、この場合には、書面による通知および理由附記が要求されていない。このことと対比して、承認取消処分の理由附記に関しては、該当条号のみの記載で足りるものとしても充分合理性を主張しうるものというべきである。

   以上のような次第であるから、法二五条九項によりその記載を命じているのは、法二五条八項の一号ないし五号のいずれの取消事由に該当するかという該当条号の附記であり、それ以上に、その具体的根拠や、それを裏付ける資料または認定の過程、あるいは、不備の存する帳簿書類とその科目、数額を刻明に示さなければ、附記理由として不備であるとの違法評価をうけるものではないと解すべきである。

第三、原判決の解釈、適用の誤り

  原判決は、承認取消処分と青色更正処分とを対比して、承認取消処分は、青色申告の特典を将来にわたつて失わせるものであり、一時的に不利益を与える青色更正処分よりもはるかに大きな不利益処分であると述べ(原判決一五丁以下)、このことを前提として、承認取消処分の根拠規定である法二五条九項の解釈として、該当条項を附記するだけでは足りず、取消しの基因となつた具体的事実をも摘示することが必要である旨を判示し、さらに、該当条項を記載すれば足りるとしたのでは、とくに処分の相手方に取消しの理由を知らせて不服の申立に便宜を与えようという法の趣旨は、ほとんど没却されるに至ると述べている。しかし、まず、青色申告の承認は、取消しの通知を受けた日から一年を経過すれば、あらためて何時でも承認を受けることができるのであり(法二五条五項)、また、承認取消処分によつて納税義務が具体化するものでもないから、承認取消処分を青色更正処分と対比してはるかに大きな不利益処分であるとするのは、決して正鵠を得たものでない。

  さらに、原判決の右の解釈は、前に述べたとおり、同項の立法趣旨および文理解釈、立法の経過ならびに承認取消処分の性質のいずれの点から検討しても、失当である。なかんずく、承認取消処分の場合の理由附記に関して他の処分の場合と異なり附記すべき事項が法律上明定されている点を無視し、実定法規を離れた、立法にも類する解釈をしている点は、違法というほかない。しかも、上告人の主張するごとく、文理解釈をしても、既に述べたとおり、承認取消処分の取消理由が各条号によつて具体的に類型化されていること等からいえば、充分合理性に堪えるものであつて、それを単純に承認取消処分と青色更正処分とを同じ平面で対比して、その均衡論から、甚だしく実定法規を離れて該当条項の附記だけでは足りないとしているのは、明らかに失当というべきである。

  因に法二五条九項について、現在のところ、下級裁判所の解釈はつぎのように分かれているが、該当条号だけで足りるとする解釈が、前に述べたとおり、諸観点から検討してみて正当であると考えられる。

 (一) 該当条号の記載だけで足りるとするもの

  1 富山地裁昭和四三年二月一六日判決(行裁判例集一九巻一・二号二六一頁)

  2 名古屋高裁金沢支部昭和四三年一〇月三〇日判決(行裁例集一九巻一〇号一六九頁)(1の控訴審判決であり、右判決は確定した。)

  3 名古屋地裁昭和四五年二月二四日判決(税務訴訟資料五九号二二六頁)

  4 名古屋高裁昭和四七年三月二八日判決(シユトイエル一二一号五八頁)(3の控訴審判決であり、右判決は確定した。)

 (二) 該当条号のほかに、具体的事実の記載を必要とするもの

  5 大阪地裁昭和四二年六月二四日判決(行裁例集一八巻五・六号八〇一頁)

  6 大阪高裁昭和四四年一二月一六日判決(行裁例集二〇巻一二号一七〇二頁)(5の控訴審判決であり、上告中である。)

  7 岡山地裁昭和四六年九月九日判決(シユトイエル一一四号五四頁)(控訴中である。)

  8 広島地裁昭和四七年三月二一日判決(シユトイエル一二一号五四頁)(控訴中である。)

  9 秋田地裁昭和四六年四月五日判決(本件の原審)

第四、まとめ

  以上のとおり、原判決は、法二五条九項について、立法の趣旨、条文の文理、立法の経過および当該処分の性質から遊離した誤つた解釈および適用を行なつているものであり、この誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決の破棄を求めるものである。

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