保護責任者の意義を明らかにした昭和63年最高裁決定
刑法判例百選各論 第7版 9事件 8版 8事件
業務上堕胎、保護者遺棄致死、死体遺棄被告事件
最高裁判所第3小法廷決定/昭和59年(あ)第588号
昭和63年1月19日
【判示事項】 堕胎により出生させた未熟児を放置した医師につき保護者遺棄致死罪が成立するとされた事例
【判決要旨】 妊婦の依頼を受け、妊娠第26週に入った胎児の堕胎を行った産婦人科医師が、右堕胎により出生した未熟児に適切な医療を受けさせれば生育する可能性のあることを認識し、かつ、そのための措置をとることが迅速容易にできたにもかかわらず、同児を自己の医院内に放置して約54時間後に死亡するに至らせたときは、業務上堕胎罪に併せて保護者遺棄致死罪が成立する。
【参照条文】 刑法45
刑法214
刑法218-1
刑法219
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集42巻1号1頁
最高裁判所裁判集刑事248号1頁
裁判所時報975号46頁
判例タイムズ658号87頁
判例時報1263号48頁
【評釈論文】 ジュリスト906号56頁
ジュリスト臨時増刊935号146頁
別冊ジュリスト102号200頁
別冊ジュリスト117号10頁
日本法学54巻4号159頁
判例タイムズ670号57頁
月刊法学教室92号108頁
法曹時報41巻4号305頁
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人池宮城紀夫、同新里恵二、同上間瑞穂連名の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余の点は、すべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。なお、保護者遺棄致死の点につき職権により検討すると、原判決の是認する第一審判決の認定によれば、被告人は、産婦人科医師として、妊婦の依頼を受け、自ら開業する医院で妊娠第二六週に入つた胎児の堕胎を行つたものであるところ、右堕胎により出生した未熟児(推定体重一〇〇〇グラム弱)に保育器等の未熟児医療設備の整つた病院の医療を受けさせれば、同児が短期間内に死亡することはなく、むしろ生育する可能性のあることを認識し、かつ、右の医療を受けさせるための措置をとることが迅速容易にできたにもかかわらず、同児を保育器もない自己の医院内に放置したまま、生存に必要な処置を何らとらなかつた結果、出生の約五四時間後に同児を死亡するに至らしめたというのであり、右の事実関係のもとにおいて、被告人に対し業務上堕胎罪に併せて保護者遺棄致死罪の成立を認めた原判断は、正当としてこれを肯認することができる。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦)
弁護人池宮城紀夫、同新里恵二、同上間瑞穂の上告趣意(昭和五九年八月二三日付)〈省略〉