岡本法律事務所のブログ

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2021年08月

藤田宙靖裁判長不当判決 課税要件の明確性 最高裁平成18年3月28日

谷口勢津夫 「税法基本講義 第6版」弘文堂・2018年9頁

滞納処分取消請求事件

裁判集判決

最高裁判所第3小法廷判決/平成15年(行ツ)第202号

平成18年3月28日

【判示事項】      農作物共済に係る共済掛金等の具体的決定を農業共済組合の定款等にゆだねている農業災害補償法(平成11年法律第160号による改正前のもの)107条1項,農業災害補償法(平成15年法律第91号による改正前のもの)43条1項2号,86条1項,87条1項,農業災害補償法45条の2,87条3項と憲法84条

【判決要旨】      農作物共済に係る共済掛金及び賦課金の具体的決定を農業共済組合の定款又は総会若しくは総代会の議決にゆだねている農業災害補償法(平成11年法律第160号による改正前のもの)107条1項,農業災害補償法(平成15年法律第91号による改正前のもの)43条1項2号,86条1項,87条1項,農業災害補償法45条の2,87条3項の規定は,憲法84条の趣旨に反しない。

【参照条文】      憲法84

            農業災害補償法(平11法160号改正前)170-1

            農業災害補償法(平15法91号改正前)43-1

            農業災害補償法(平15法91号改正前)86-1

            農業災害補償法(平15法91号改正前)87-1

            農業災害補償法45の2

            農業災害補償法87-3

【掲載誌】       最高裁判所裁判集民事219号981頁

            裁判所時報1409号213頁

            判例タイムズ1208号76頁

            判例時報1930号83頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      自治研究85巻2号118頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告人の上告理由について

 以下に摘示する農業災害補償法(以下「法」という。)の各条項は,それぞれ別表のものをいう。

 1 公共組合である農業共済組合が組合員に対して賦課徴収する共済掛金及び賦課金は,国又は地方公共団体が課税権に基づいて課する租税ではないから,これに憲法84条の規定が直接に適用されることはない。

 もっとも,農業共済組合は,国の農業災害対策の一つである農業災害補償制度の運営を担当する組織として設立が認められたものであり,農作物共済に関しては農業共済組合への当然加入制が採られ(法15条1項,16条1項,19条,104条1項),共済掛金及び賦課金が強制徴収され(法87条の2第3項,4項),賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これに憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,その賦課について法律によりどのような規律がされるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,農作物共済に係る農業災害補償制度の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要がある。

 2 法は,共済事故により生ずる個人の経済的損害を組合員相互において分担することを目的とする農作物共済に係る共済掛金及び賦課金の具体的な決定を農業共済組合の定款又は総会若しくは総代会の議決にゆだねているが(43条1項2号,45条の2,86条1項,87条1項,3項,107条1項),これは,上記の決定を農業共済組合の自治にゆだね,その組合員による民主的な統制の下に置くものとしたものであって,その賦課に関する規律として合理性を有するものということができる。

 したがって,上記の共済掛金及び賦課金の賦課に関する法の規定は,憲法84条の趣旨に反しないというべきである。

 以上は,最高裁平成12年(行ツ)第62号,同年(行ヒ)第66号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号登載予定の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・藤田宙靖,裁判官・濱田邦夫,裁判官・上田豊三,裁判官・堀籠幸男)

 

 別表 〈省略〉

最高裁判所第3小法廷 平成15年(行ツ)第202号 滞納処分取消請求事件 平成18年3月28日

強盗致死傷罪における強盗の機会 最高裁平成23年

刑法判例百選2 第8版 44事件

窃盗,営利拐取,監禁,強盗致死,覚せい剤取締法違反被告事件

東京高等裁判所判決/平成22年(う)第1756号

平成23年1月25日

【判示事項】        被害者の死亡の原因となった行為が強盗の機会に行われたものとされた事例

【判決要旨】        強盗犯人が被害者に覚せい剤を注射して放置した行為は,強盗とその行為の場所及び時刻が離れていたとしても,強盗に引き続きその罪跡を隠滅するために行われた本件事実関係の下では,強盗の機会に行われたものということができる。

【参照条文】        刑法240

【掲載誌】         高等裁判所刑事判例集64巻1号1頁

              東京高等裁判所判決時報刑事62巻1~12号1頁

              判例タイムズ1399号363頁

              判例時報2161号143頁

              LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】        ジュリスト1440号159頁

              法学セミナー59巻9号119頁

              刑事法ジャーナル30号145頁

 

       主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 当審における未決勾留日数中120日を原判決の刑に算入する。

 

       理   由

 

 本件控訴の趣意は,弁護人長谷川紘一作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書(釈明を含む)に記載されたとおりであるから,これを引用する。

第1 事実誤認の主張について

 論旨は,要するに,強盗の手段となる行為と被害者の死亡との関連性が認め難いのに,被害者の死亡が強盗の機会に生じたとして強盗致死の事実(原判示第1の2)を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。

 そこで記録を調査して検討すると,原審で取り調べた証拠によれば,次のとおり,原判示の強盗致死の事実を認めることができ,原判決が「補足説明」の第3項で説示するところも正当として是認することができるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認は認められない。

 1 原審で取り調べた証拠によれば,次の事実を認めることができる。

  (1) 被告人は,被害者から金品を奪おうと考え,それを共犯者である暴力団員のAに持ち掛けたところ,Aから,被害者を自動車で拉致して,所持する金品を強取し,被害者をどこかに監禁するとともに,被害者方に赴いて金品を強取した上,被害者の記憶を飛ばし,被害を申告しても警察から信用されないようにするため,被害者に覚せい剤を注射して,どこかに捨ててくるように指示された。そして,被告人は,このような犯行の計画について,共同して本件各犯行を実行する予定の者らに説明した。

  (2) 被告人は,共犯者らのうち4名と共に,平成21年6月27日午後8時37分ころ,勤務先に出勤してきた被害者を拉致して,自動車内に監禁した上,車内で被害者の所持する金品を強取し,次いで,同日午後10時5分ころ,被害者方に赴いて,被害者のパスポートを強取した後,同日午後10時45分ころ,監禁する場所として用意していたウィークリーマンションに赴き,被害者を居室内に連れ込もうとしたが,被害者に抵抗されて失敗した。

  (3) 被告人は,被害者の所持金や被害者方の様子から,それ以上金品を強取することは困難かもしれないと考えるようになり,Aの指示を仰いだところ,Aから,被害者を小河内ダム付近の小屋に連れて行ってそこに監禁するように指示され,その上で最後には被害者に覚せい剤を注射するように言われたため,被害者を小河内ダムに連れて行き,Aから指示があれば,それに従って,被害者から金品の所在を聞き出そうと考えた。

  (4) 被告人は,Aの指示を受けながら,前記共犯者4名と共に,被害者を監禁した自動車で移動し,翌28日午前0時35分ころ,その途中でAと会い,Aから,覚せい剤を渡された上,被害者に覚せい剤を注射して,埼玉県秩父市内の下久保ダムの橋の上から落とし,殺害するように指示された。

  (5) 被告人は,前記共犯者4名と共に,被害者を監禁した自動車で前記下久保ダムに赴き,同日午前3時ころ,同共犯者4名に,被害者をそこから落として殺害することを提案したところ,反対されたため,被害者に覚せい剤を注射して人里離れたところに放置することにして,同日午前3時30分ころ,同共犯者4名のうちの1名をして,被告人の用意した覚せい剤溶液を被害者に注射させた。

  (6) さらに,被告人は,前記共犯者4名と共に,被害者を監禁した自動車で山中に移動した上,同日午前4時ころ,被害者を自動車から降ろして立ち去り,被害者をその場に放置した。その後,被害者は,付近の山中において,覚せい剤使用に続発した横紋筋融解症により死亡した。

 2 以上の事実関係の下では,被告人は,強盗に引き続いて,当初からの計画に従い,強盗の罪跡を隠滅するために,被害者に覚せい剤を注射して放置する行為に及び,被害者を死亡させるに至ったと認められ,このような強盗の罪跡を隠滅する行為は強盗と一体のものと評価できるから,被害者の死亡の原因となった覚せい剤を注射するなどした行為は強盗の機会に行われたということができる。したがって,本件では,強盗致死罪が成立すると認められる。

 所論は,①被告人は,同月27日午後10時45分ころ,被害者をウィークリーマンションに監禁しようとして失敗してからは,被害者から金品を強取することは諦めていた上,②最後の強取行為である被害者方におけるパスポートの強取から,被害者の死亡の原因となった覚せい剤を注射して山中に放置する行為まで,約6時間が経過しており,しかも,強盗が行われた場所及び被害者を監禁する予定であった場所と被害者に覚せい剤を注射して放置した場所とは約50キロメートル離れているから,本件強盗の手段となる行為と被害者の死亡との間に関連性は認め難い,という。

 しかし,まず①についてみると,被告人は,検察官調書(原審乙23)において,被害者を監禁するのに失敗した後,それ以上被害者から金品を強取することは困難かもしれないと考えるようになったが,Aからの指示に従って,小河内ダム付近に向かい,Aから指示があれば,被害者から金品の所在を聞き出そうとも考えていた旨供述している。そうすると,被告人は,Aから,覚せい剤を渡されて,被害者の殺害を指示されるまでは,強盗を継続するか,罪跡を隠滅する行為に移るかを決めかねており,その間は強盗から罪跡隠滅に移行する過渡的な状態にあったというべきであるから,強盗の意思を放棄していたということはできない。

 次に②についてみると,強盗と被害者の死亡の原因となった行為の場所及び時刻が離れていたとしても,被告人及び共犯者らは,当初から,罪跡を隠滅するため,被害者に覚せい剤を注射して放置することを計画しており,実際にも,その計画に従って行動したものと認められる。個別にみると,場所の点では,被告人らは,被害者を監禁している自動車で移動し,常時被害者の間近に居続けて,強盗及び罪跡を隠滅する行為に及んだといえるのであり,また,時間の点でも,被告人は,前述したように,暫くは強盗を継続するか,罪跡を隠滅する行為に移るかを決めかねていたものの,強盗の意思を放棄するや直ちに罪跡の隠滅に向けた行動を開始し,それを行うのに適当な場所まで移動した上,共犯者らと罪跡隠滅の方法を話し合い,被害者に覚せい剤を注射して放置するに至っている。そうすると,強盗と罪跡を隠滅する行為との間には,連続性ないし一体性があると認められるから,本件強盗の手段となる行為と被害者の死亡との関連性を認め難いとする所論は採用することができない。

 論旨は理由がない。

第2 量刑不当の主張について

 論旨は,要するに,被告人を懲役28年に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。

 1 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討すると,本件は,被告人が,A及び他の共犯者5名と共謀の上,被害者から金品を強取しようとして,東京都渋谷区内において,虚言を用いて被害者を自動車に乗り込ませた上,暴行を加えて被害者を支配下に置き,約7時間30分にわたり,ガムテープを顔面及び両足に巻き付けるなどして,東京都板橋区内の被害者方,埼玉県川口市内のウィークリーマンション付近を経由して,埼玉県秩父市内の下久保ダム付近から山中に入った林道に至るまで,同車内から逃げ出せないようにし(原判示第1の1の営利目的拐取及び監禁),上記共犯者らと共謀の上,上記のとおり監禁していた被害者に対し,暴行脅迫を加えて反抗を抑圧し,被害者から現金約9000円及びキャッシュカード等在中の財布等2点を強取し,次いで,被害者方で被害者のパスポート1通を強取した上,罪跡を隠滅するため,被害者に覚せい剤を注射して埼玉県内の上記山中に放置し,覚せい剤使用に続発した横紋筋融解症により被害者を死亡させ(原判示第1の2の強盗致死及び覚せい剤取締法違反),Aを除く上記共犯者5名と共謀の上,被害者から強取したキャッシュカードを使って,コンビニエンスストアの現金自動預払機から現金40万1000円を引き出して窃取した(原判示第2の窃盗),という事案である。

 本件各犯行は,多額の資産を有しているという風評のある被害者から,その資産を強取するため,被害者の行動や住居を調べ,被害者を拉致し監禁するのに使用する用具及び自動車を用意し,監禁場所とするウィークリーマンションを借りるなどして,計画的に行われたものである。犯行の態様は,都心の路上で被害者を拉致した上,目隠しして両足を縛り,長時間にわたり移動する自動車内に被害者を監禁するとともに,その間強盗に及び,それ以上被害者から金品を強取できなくなると,罪跡を隠滅するため,被害者に覚せい剤を注射し,パンツ以外の衣服を脱がせて山中に放置し,被害者を死亡させ,さらには,被害者から強取したキャッシュカードを用いて,現金を引き出し窃取したという,利欲的な目的を果たすため,極めて大胆に行われた卑劣かつ悪質なものである。このような犯行により,被害者に多大な苦痛を与えた挙げ句,その死亡という深刻な結果を招いたことには,幾重にも厳しい非難が向けられるべきであり,また,窃盗による被害額が比較的高額なものになっていることも看過できない。

 被害者は,格別の落ち度もなく,長時間にわたり不安を煽られ,いわれのない苦痛を強いられて,最後は,覚せい剤を注射されて,裸同然の格好で相当の期間山中を徘徊した上,死亡しており,発見された遺体の惨状は目を覆うものがある。このような経緯で死に臨んだ被害者の苦痛及び悔しさは計り知れないものがあったというべきであり,残された遺族が被告人に対する厳しい処罰を求めているのも,十分に理解できる。

 被告人は,被害者が多額の資産を有しているという風評を聞きつけ,被害者から金品を奪うことを発意し,敬意を抱いて交際していた暴力団員のAに持ち掛けて,その指示を受けながら,被害者の資産を奪うことを計画した上,犯行を厭わない共犯者らを集めて,その計画を説明し,必要な準備をさせるなどしている。また,被告人は,本件各犯行を行うに当たっては,探偵に依頼して被害者の住所を突き止め,被害者の出勤予定を確認し,拉致する際には,出勤してくる被害者の動静の連絡を受けて,それを実行役の共犯者らに知らせており,自動車で被害者を監禁しながら移動する中でも,Aに連絡をとりながら指示を受け,いったんは被害者の殺害を決意し,他の共犯者らから反対されると,Aから渡された覚せい剤を被害者に注射することを提案して,他の共犯者にそれを実行させ,さらには,被害者を山中に放置している。このように,被告人は,A以外の共犯者らに指示し命令するまでの立場にはなかったにしても,犯行を実行するに当たって,その全体を統括して主導する立場にあったということができる上,本件各犯行が計画され実行されたのは,被告人が得た情報が必要不可欠であったということができる。それにとどまらず,被告人は,Aが無責任な指示をしてきたのをそのまま受け容れて,本件各犯行を実行し,犯行後は,大学生の時の友人や郷里の友人に対して,興味本位に本件の経緯を話題として提供し,郷里の友人には,被害者から強取したパスポート及び運転免許証を使って他人名義で金銭を調達することの依頼までしている。被告人は,被害者に及ぼす危害を顧みず,安易に重大な犯罪を行いながら,自らの行動の重大さを適切に受け止めているとは到底いえない。

 これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は相当に重いというほかない。

 そうすると,本件各犯行を計画し被告人に指示してそれを実行させたのは,Aであり,被告人の果たした役割はそれに次ぐものにとどまっていること,被告人は,強取し窃取した現金から利益の分配は受けておらず,そのほかにも本件による利益は得ていないこと,これまで前科前歴がなく,捜査段階の当初は,Aについて供述することをためらっていたが,やがてAの関与も含めて事実関係を認めるようになり,本件について反省の態度を示していること,被害弁償のため350万円を用意して,被害者及びその遺族に対して謝罪の意思を明らかにしていること,その他被告人の身上,経歴等,被告人にとって酌むべき事情を十分に考慮しても,原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。

 2 所論は,①本件は,Aが立案し計画して被告人に指示し,それに従って実行されたのであり,被告人は,犯行を実行した共犯者らに指示し命令する立場にはなかったから,本件に積極的に関与していない,②被告人は,得られた利益はAのものになると考えて本件を行っており,実際にもほとんど分け前に与っていない,③被告人らが被害者に注射した覚せい剤は致死量には至っておらず,本件当時は夏季で気温が高かったから,被告人にとって被害者が死亡することは予測し難かった,④原審の検察官は,被告人が事前にAに報告していたにもかかわらず,Aに内緒で,郷里の友人に被害者から強取したパスポート及び運転免許証を使って金銭の調達を依頼した旨証拠に基づかない論告をしており,そのことが原判決の量刑判断に影響している,などという。

 しかし,①についてみると,前記のとおり,被告人は,被害者に関する風評を聞いて,被害者から金品を奪うことを発意し,自分でなければ得られない被害者に関する情報を入手して,Aに伝え,犯行計画を現実化させている上,犯行を実行した共犯者らに対して,犯行計画を説明し,必要な準備をさせ,被害者を自動車内に監禁してからも,他の共犯者らに,Aの指示する行き先を伝え,罪跡を隠滅する行為に移ることを提案し,それを実行させている。被告人の果たした役割は,Aに次ぐものであり,犯行を実行した他の共犯者よりははるかに積極的で主導的であったということができる。

 ②についてみると,被告人は,被害者が2億円近い資産を有しているという風評を聞きつけ,被害者に関する情報をAに提供した上,Aの立てた計画に基づき,被害者方にまで赴いて,金品を強取しようとしたのであるから,破格に高額な金品を強取することを期待していたものと目される。そうすると,被告人とAとの関係からして,A以外の共犯者らに分配した利益の残りがAのものになり,被告人が利益を得ることが予定されていなかったにしても,そのことを被告人に有利に考慮することはできない。また,被告人と本件各犯行を実行した共犯者らとの関係に照らすと,被告人は得られた利益から分配を受けることは十分可能であったが,本件各犯行の途中で被害者に資産がないことが判明して,期待していた利益よりはるかに少ない現金40万円程度の利益しか得られなかったために,被告人は分け前の要求をしなかったにすぎないとみられるから,そのことが被告人にとって有利な事情になるものではない。

 ③についてみると,確かに,被告人及び本件を実行した共犯者らは,被害者を下久保ダムの橋の上から落として殺害することを思いとどまっており,被害者の死亡する蓋然性があることを認識していれば,被害者に覚せい剤を注射し山中に放置することはなかったといえる。他方において,被害者に覚せい剤を注射して山中に放置すれば,注射した覚せい剤が致死量に達しておらず,かつ,夏季で気温が高かったとしても,被害者の身体に重大な危害が及ぶ可能性があることは認識することができたはずである。いずれにしても,原判決は,被害者の死亡が予想外であったことを被告人に有利に考慮しており,そのことをもっと積極に評価するべきであるとはいえない。

 ④についてみると,被告人が,郷里の友人に金銭の調達を依頼する前に,それをAに報告していたにしても,被害者のパスポートや運転免許証を使って金員を得ることは,元々被告人の発意によるものと認められる。原判決は,それゆえに,上記金銭調達の依頼を,被告人自身が金銭目的で本件各犯行に及んだことの根拠の一つにしていると理解できるから,原判決のこの点に関する説示と量刑判断に不適切なところはない。

 所論のいうその他の点を検討しても,いずれも採用の限りでない。

 論旨は理由がない。

 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯田喜信 裁判官 山口雅高 裁判官 駒井雅之)

 

ラジオタイランド 2021年8月29日 日 2200~2215JST

9390kHz 54444 ICOM IC756PRO3 25mH DP8月29日

 

2200 ニュース

タイ独自のワクチンがほかのワクチンと同程度の免疫力があることが判明

 

2番目のニュースききとれず

 

NESDCによると第二四半期は0.4パーセントのプラス成長となった。

 

サムイプラスはこれまでに500人を超える観光客を受け入れている。

 

2210

政府が来年に向けて1億2000万回分のコビット19用ワクチンを確保

 

宮井よしあき

工藤會関連 起訴後の検面調書に証拠能力を認めた大阪地裁昭和63年

殺人、殺人未遂等被告事件 

大阪地方裁判所判決/昭和50年(わ)第2588号、昭和50年(わ)第3294号、昭和50年(わ)第3792号、昭和51年(わ)第47号、昭和51年(わ)第271号、昭和50年(わ)第3798号

昭和53年1月23日

【判示事項】    起訴後第1回公判期日前に捜査官が被告人を取り調べて作成した供述調書の証拠能力が認められた事例

【参照条文】    刑事訴訟法197

          刑事訴訟法198

          刑事訴訟法317

【掲載誌】     判例タイムズ363号334頁

          判例時報898号120頁

 

       主   文

 

 (一) 被告人溝口弘美を懲役一八年に、同溝口正弘を懲役一七年に、同塩田時雄を懲役一五年に、同平野正章を懲役一二年に、同嶋田種雄を懲役一二年に、同長田民男を懲役一五年に、同高須義行を懲役一五年に、同出崎講市を懲役八年に、同池本勝を懲役一四年にそれぞれ処する。

 (二) 未決勾留日数中、被告人溝口弘美については八〇〇日を、同溝口正弘については七九〇日を、同塩田時雄、同平野正章、同嶋田種雄、同長田民男、同高須義行についてはいずれも八〇〇日を、同山崎講市については七五〇日を、同池本勝については八〇日を右各刑に算入する。

 (三) 押収してある自動装てん式拳銃一丁(昭和五一年押第三一二号の二一)を被告人溝口弘美から、同SW三八口径回転弾倉式拳銃一丁(同号の一九)及び実包一発(同号の二〇)を被告人溝口正弘から、同コルト三八口径回転弾倉式拳銃一丁(同号の二二)及び実包三発(同号の二三)を被告人塩田時雄から、同SW二二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(同号の二六)を被告人平野正章から、同CRS二二口径回転弾倉式拳銃一丁(同号の二四)及び実包一発(同号の二五)を被告人嶋田種雄から、同二二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(同号の二七)を被告人山崎講市から、同SW二二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(同号の一七)及び実包一発(同号の一八)を被告人高須義行から、それぞれ没収する。

 

       理   由

 

 (罪となるべき事実)

 一 本件各犯行にいたる経緯

 被告人溝口弘美は、暴力団松田組系溝口組組長溝口正雄の実弟で同人に代り溝口組をとりしきつている者、同溝口正弘は同組若者頭(同人の父は溝口正雄の従兄弟)、同塩田時雄、同平野正章、同嶋田種雄はいずれも同組幹部(同平野正章の妻は溝口正雄の姪)、同長田民男、同高須義行、同出崎講市は同組組員(同長田民男は溝口正雄の甥)、同池本勝は北九州市の暴力団工藤会系田中組の組員で保釈逃亡中溝口組に客分として世話になつている者である。

 溝口組は、豊中市長興寺南三丁目一二番一九号に事務所をもち、昭和四五年ころから大阪市北区曾根崎上一丁目一〇番地スナツク喫茶「ヒツト」(経営者は溝口正雄の長女早苗)に常設賭博場を開き、被告人溝口正弘を責任者として連日午後一一時ころから翌日午前四時ころまで商店主などを相手にいわゆる賽本引賭博を行い、その寺銭のあがりで組員の生活を維持していたものである。

 山口組系佐々木組内徳元組舎弟頭切原大二郎(当四〇年)は、昭和五〇年六月末ころ、舎弟米澤障彦(当二四年)その若衆木澤貞高(当二五年)らとともに右賭博場に赴き賭博をしたが、負けて所持金約二五万円を失つたので、被告人溝口正弘に対し他人振出の額面四〇万円余の小切手の換金を依頼し賭金を得ようとしたが、同溝口正弘が容易にこれに応じなかつたので、佐々木組代紋入りの名刺まで出して強引に割引を承知させ、右割引金を使用してさらに賭博をし、勝つて右小切手をとりもどして帰つた。その後も右切原大二郎は右米澤障彦らを連れて数回右賭博場に行き賭博をしたが、その折木澤が賭博中にこれみよがしに拳銃をもてあそぶなどしたことがあり、溝口組では前記の小切手割引の一件とあわせ考え、右切原が山口組の勢力を背景に賭場荒しをしようとしているのではないかとの疑念を抱き警戒していた。

 同年七月二四日午後一二時ころ、右切原はわずかの所持金しか持たず、右木澤及び右木澤の連れの朴鐘夏(当二五年)を連れて右賭博場に赴き、応対に出た同平野正章に対し所持していた他人振出の額面三五万円の小切手の換金を申し入れたが、同人は被告人溝口弘美の指示で換金を断つた。これに対し切原らは右賭博場の控室まで強引に上りこみ、さらに執拗に換金をせまり、同溝口弘美との押問答になつたが、同人があくまでも拒否したため、切原らは「わしも佐々木の代紋を持つた男や。たかが二〇万や三〇万で玄関払いを喰つたのやからこのけじめはつけさせてもらう。」などと捨台詞を残して引揚げた。

 二 罪となるべき事実

  (一) 被告人溝口弘美は、翌二五日午前三時ころ、「ヒツト」に被告人溝口正弘を呼び、切原大二郎らとの紛争の経緯を説明し善後策を協議した。その結果、切原大二郎らから申出があればとりあえず同溝口正弘が話合いをすることになつたが、同被告人らは、切原大二郎らが出してくるであろうおとしまえの要求に応ずることは同人らの横車に溝口組が屈服することに他ならず、同人ら以外の山口組系の暴力団組員からも足元をみられてつけこまれ結局は賭博場を維持できなくなるので、同人らの要求に対してはあくまでも拒否の態度を貫く他はないが、その場合には、同人らのこれまでの態度等からみて同人らが報復のため山口組の勢力を背景として溝口組を襲撃しようとしてくることは明らかであると考え、これに対しては溝口組としても賭博場を守るべく組の全勢力を結集して迎撃に出て同人らを拳銃で射殺するもやむなしとの決意をかため、その場に居合わせた被告人塩田時雄、同平野正章、同嶋田種雄、同長田民男、同池本勝らに対し、右決意を表明して各自拳銃等の武器を用意しいつ襲撃をうけても反撃できるように準備し、かつ覚悟をきめておくよう指示するとともに、他の組員にもその旨連絡しておくよう指示し、同塩田時雄らもこれを了承し、ここに同溝口弘美、同溝口正弘、同塩田時雄、同平野正章、同嶋田種雄、同長田民雄、同池本勝の間に切原大二郎ら殺害の共謀が成立した。

 被告人出崎講市は、当夜組事務所の当番に従事していたが、同日午前五時ころ、「ヒツト」から帰つてきた同嶋田種雄から当夜の「ヒツト」での切原らとの紛争の経緯とこれに対する被告人溝口弘美、同溝口正弘ら溝口組上層部の前記のような決意、指示をきくとともに、同被告人から切原大二郎らと喧嘩となつた場合には組員の一人として命を張つても同人らと戦うよう指示され、これを了承し、もつて同人ら殺害の共謀に加担するにいたつた。

 被告人溝口正弘は、切原大二郎らの申出により同日午後九時ころ阪急電鉄豊中駅付近で同人らと会うことになり、話合いが決裂し喧嘩となつた場合にそなえてSW三八口径回転弾倉拳銃一丁(実包五発入り-昭和五一年押第三一二号の一九)を携帯し、三二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(実包四発入り-同号の二七)を携帯した被告人山崎講市に自動車を運転させて前記豊中駅方面に向かつて出発し、その後を溝口組組員溝口次郎の運転する自動車に三二口径自動装てん式拳銃一丁(実包七発入り-同号の二一)を携帯した被告人溝口弘美と同池本勝が乗車して追尾し、被告人嶋田種雄もCRS二二口径回転弾倉式拳銃一丁(実包二発入り-同号の二四)を携帯してタクシーで被告人溝口正弘の後を追つた。

 被告人高須義行も、同日午後九時ころ、被告人平野正章から電話で、前記のような切原とのやりとりの経緯をきいて今後の成行きによつては同人らと命がけの喧嘩となるかもしれないことを察知し、その場合には溝口組の他の組員と共同して同人らと戦うことを決意し、二二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(実包二発入り-同号の一七)を携帯して阪急電鉄豊中駅方面に急行し、被告人溝口弘美らと合流し、もつて切原ら殺害の共謀に加担した。

 被告人溝口正弘は、豊中市本町二丁目一番二三号の空地等で、切原大二郎、米澤障彦、木澤貞高、朴鐘夏らと前夜の一件につき話合いをはじめ、切原大二郎らがおとしまえをつけるよう迫つたのに対し同溝口正弘があくまでもこれを拒否する態度に終始したため話合いがつかず、被告人溝口弘美、同嶋田種雄、同池本勝らが、急を知つてかけつけた同塩田時雄(コルト三八口径回転弾倉式拳銃一丁(実包六発入り-同号の二三)を携帯)、同平野正章(SW二二口径回転弾倉式改造拳銃一丁(実包三発入り-同号の二六)を携帯)、同長田民男(三八口径回転弾倉式拳銃(実包五発入り)を携帯)、同高須義行らとともに遠巻きにして話合いの状況を見守つている中で、業をにやした切原大二郎が被告人溝口正弘を拉致しようとし、この状況をみていた被告人溝口弘美が所持していた前記拳銃を同高須義行に渡し、同被告人の所持していた前記拳銃を同池本勝に手渡させたうえ、同溝口正弘が拉致されそうになつたら自動車を切原らの自動車に衝突させるのでその間に切原らを射殺するよう同高須義行らに指示するなど緊迫した状況が続いた。

 その後被告人溝口正弘は同日午後一一時すぎころ切原らとともに豊中市長興寺南三丁目一番六号スナツク喫茶「ジユテーム」(経営者大森小夜子)に赴き話合いをつづけることになり、被告人平野正章、同嶋田種雄、同出崎講市も同行した。しかし、話合いは依然として押問答のくりかえしで平行線をたどつたままの状態が継続した。被告人溝口弘美は、同塩田時雄、同長田民男、同高須義行、同池本勝らとともに右「ジユテーム」付近路上に待機し、「ジユテーム」での話合いの様子をうかがつていたが、同日午後一二時ころに至るも話合いがつく様子もなかつたので、このうえは自分が「ジユテーム」に赴き結着をつける他はないと決意し、被告人塩田時雄らを連れて「ジユテーム」に入り、切原大二郎に血相をかえてつめ寄り「お前らは他人の盆をつぶしにきたんか。こんなことは上の指令か。」と頭ごなしに詰問したが、これに対し切原も大声でこれに言いかえすなど一歩もひかない態度を示し一触即発の緊迫した状況となつた。

 このような状況の下で、翌二六日午前零時五分ころ、もはや話合いで解決する余地は全くないと判断した被告人らは、かねての謀議のとおり共同して拳銃を発射し切原大二郎らを殺害するもやむなしとの決意をかためるにいたり、ここに互いに意を通じたうえ、被告人溝口正弘、同塩田時雄、同長田民男、同高須義行及び同池本勝においてやにわに切原大二郎、米澤障彦、木澤貞高及び朴鐘夏に対し拳銃を乱射し、よつて右米澤をして心臓銃創、前胸銃創等による心臓血液タンポナーデにより、右大澤をして左頸動脈破砕、左側頸部銃創等による出血失血により、右朴をして心臓銃創、前胸部右側上部銃創等による出血失血により、いずれもそのころ、その場においてそれぞれ死亡させるとともに、右切原に対し入院加療約二週間を要する左頸部貫通銃創(二ケ所)を負わせたが殺害するにいたらず、

  (二)〈以下、省略〉

 (証拠の標目)〈省略〉

 (法令の適用)〈省略〉

 (弁護人らの主張に対する判断)

 弁護人らは、「判示二の(一)の殺人、同未遂の事実について検察官の請求により証拠調のなされた被告人らの供述調書の中には、起訴後の取調にかかるものが少なからず含まれており、刑事訴訟法上の被告人の地位にかんがみ、これらはいわゆる違法収集証拠として証拠能力を有しないものである。」旨主張する。

 記録によれば、被告人溝口弘美ほか六名が右の訴因について起訴されたのは昭和五〇年九月四日であつて、当裁判所において右の訴因につき証拠調のなされた被告人らの供述調書のうち、被告人溝口正弘の検察官に対する昭和五〇年一〇月三〇日付供述調書((1)乙検察官請求証拠目録23)、同塩田時雄の司法警察員に対する昭和五〇年九月五日付供述調書(同目録33)及び検察官に対する昭和五〇年一〇月一三日付、同年一一月四日付各供述調書(同目録39、40)、同平野正章の検察官に対する昭和五〇年一〇月二九日付、同年一一月七日付各供述調書(同目録52、53)、同嶋田種雄の司法警察員に対する昭和五〇年九月五日付供述調書(同目録64)及び検察官に対する同年一〇月一六日付、同年同月三〇日付各供述調書(同目録69、70)及び同長田民男の検察官に対する昭和五〇年一〇月三〇日付供述調書(同目録85)が起訴後の取調の結果作成されたものであることは弁護人主張のとおりであり、現行刑事訴訟法の当事者主義的、公判中心主義的訴訟構造にかんがみるとき捜査官が当該公訴事実について被告人を取調べることはできるだけ避けるべきであることは多言を要しないが、事実の内容や捜査の進展状況によつては事件の真相を明白にするために起訴後においてさらに補充的に被告人を取調べることがやむをえないと認められる場合も少なくないし、また、この被告人の取調は刑事訴訟法第一九七条の任意捜査に他ならないから、少なくとも第一回公判期日前においては、起訴後の取調という一事をもつて直ちにこの取調を違法とし、この取調の結果作成された供述調書の証拠能力を否定すべきものとは解しがたい(最高裁昭和三六年一一月二一日第三小法廷決定・集一五巻一〇号一七六頁参照)。

 本件の被告人溝口正弘ほか四名の起訴後の取調はいずれも右訴因についての第一回公判期日(昭和五〇年一一月一九日)以前になされたものであり、この取調によつて右被告人らの防禦権が実質的に侵害されたとか弁護人との接見交通が妨害されたという事情も全くうかがわれないのみならず、被告人池本勝が本件殺人、同未遂の訴因につき起訴されたのが昭和五〇年一二月五日、同出崎講市が右訴因につき起訴されたのが昭和五一年二月三日、被告人溝口弘美ほか六名が本件犯行の際所持使用した拳銃、実包につき銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の罪で起訴されたのが昭和五〇年一二月五日(同出崎講市は昭和五一年一月一四日)と、いずれも本件各取調の後であり、本件各取調はいずれもこれら追起訴の訴因の関係での取調という一面をも有していたこと、本件殺人、同未遂の犯行は、前判示のように、多数の被告人が共同して拳銃を乱射し三名を殺害し一名に重傷を負わせたという重大なものであつて、とくにきめの細かい捜査が要求される事案であるが、多数の被告人が加功し、当初の共謀の段階から実行行為にいたるまでの過程が時間的にも場所的にもかなりの拡がりをもち、その間被告人ら以外の組員も種々の役割を演じているというきわめて複雑な事案であるところ、本件犯行後被告人溝口弘美を中心として各種の罪証いん滅工作が行われ、これにしたがい被告人ら逮捕勾留後相当期間虚偽の供述をくりかえしていたため、被告人溝口弘美ほか六名の共同正犯としての罪責ははつきりしたものの、当初の共謀から実行行為にいたるまでの具体的経緯、この間の右各被告人らの行動状況、実行行為時の各被告人の果した役割、各被告人と押収されていた各拳銃との結びつき、他の共同正犯、幇助犯の有無などが右起訴の時点においてはまだ十分に解明されていなかつたので、本件各取調はこれらの点につき従来の虚偽の供述を是正すべくやむをえずなされた補充的なものと認められることなどに照すと、捜査機関に行き過ぎの点があつたとも認められないし、まして違法とは到底いえない。

 したがつて、弁護人らの右主張は採用しない。

 (被告人らの情状)

 本件は、賭博場をめぐるもつれから、被告人九名が豊中市内のスナツクにおいて、共同して拳銃を乱射し三名を虐殺し、一名に重傷を負わせたという事件であり、犯行の態様が組織的で大がかりであり、かつその結果も重大であつた点では、暴力団員による殺傷事件の中でもきわめて重大な犯罪というべきである。また、本件は、その後の山口組系暴力団と松田組系暴力団との全面的な抗争の発端となつた事件であり、両者の間に現在に至るまでこの種の不祥事件が頻発し、社会の治安に少なからぬ悪影響を及ぼし地域住民に不安を惹起している点は、ひとり被告人らのみにその責を帰しえないとはいえ、被告人らの罪責を考えるにあたつては看過しえない事情というべきである。暴力団員の拳銃を使用した犯罪が多発し、時には善良な一般市民さえその被害者となつている近時の世相にかんがみるとき、一般予防の見地からも被告人らの罪責はきびしく追及されなくてはならない。のみならず、被告人らは、本件犯行後被告人溝口弘美を中心として各種の罪証いん滅工作を行ない、公判廷においても自己の罪責を否認し虚偽の供述をくりかえしているなど必ずしも反省の色は十分でなく、また、被告人らの中には組から足を洗う決意をはつきり表明している者は一人もない点などからみて、被告人らには再犯のおそれも十分にあるといわねばならない。

 しかしながら、本件は、切原大二郎らの賭博場荒しに起因して発生したものであつて、「ジユテーム」における本件犯行にいたるまでの経過をつぶさにみると、終始攻撃的で高圧的な態度をとつていたのは切原らの方であり、被告人溝口正弘らはこれに対し受身の態度に終始していたのであり、賭博場を守るため、いわば窮鼠猫を噛む形で敢行されたのが本件犯行であり、切原らの傍若無人で挑発的な振舞がその大きな要因をなしていることは否めず、この点は被告人らの有利な事情として斟酌されるべきである。

 これらの事情に、各被告人の本件犯行の共謀から実行行為にいたる一連の経過の中で果した役割、組における地位、経歴、前科等を併せ勘案し、主文のとおり量刑した次第である。

 よつて、主文のとおり判決する。

(山中孝茂 日比幹夫 的場純男)

工藤會の指定処分取消請求事件 福岡地裁平成7年

福岡地方裁判所判決/平成4年(行ウ)第16号

平成7年3月28日

【判示事項】    暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律3条に規定する暴力団として指定された処分につき、同法についての憲法違反等の主張が排斥され、指定処分が有効と認められた事例

【参照条文】    暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律3

          憲法13

          憲法14

          憲法19

          憲法21

【掲載誌】     訟務月報42巻2号274頁

          判例タイムズ894号92頁

【評釈論文】    訟務月報42巻2号275頁

          訟務月報42巻2号40頁

 

       主   文

 

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は、原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 原告

  1 被告が、平成四年六月二六日、暴力団による不当な行為の防止等に関する法律第三条に基づいてなした原告を指定暴力団として指定する旨の処分を取り消す。

  2 訴訟費用は、被告の負担とする。

 二 被告

 主文同旨

第二 事案の概要

 一 本件は、被告が、平成四年六月二六日、原告を暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年五月一五日法律第七七号、以下「暴対法」又は「法」という。)三条の規定する暴力団(以下「指定暴力団」という。)として指定する処分(以下「本件指定処分」という。)をしたのに対し、原告において、暴対法の立法目的、立法体系、立法過程、各条項等が憲法二一条等に違反し、関係法令の制定・運用、本件指定処分に至る手続き等が違法であり、指定要件も欠缺しているなどと主張して、本件指定処分の取消しを求めた事案である。

 二 当事者間に争いのない事実

  1 原告二代目工藤連合草野一家(以下「草野一家」という場合がある。)は肩書地に本拠を置いており、被告から平成四年六月二六日、暴対法三条の規定により本件指定処分を受けたが、同処分を不服として、同年八月三日同法二六条に基づき国家公安委員会に審査請求をしたところ、同委員会は、同年一〇月二九日、その請求を棄却する旨の裁決をなした。

  2 被告は、警察法三八条一項に基づき、福岡県知事の所轄の下に設置された福岡県の機関であり、本件指定処分をなした機関である。

 国家公安委員会及び警察庁は、警察法に基づき設置された国家の機関であり、内閣の統括下にある。

 福岡県警察は、警察法及び地方自治法に基づき、国の警察事務を団体委任された都道府県警察のひとつであり、福岡県の機関である。

 国会は、国の機関であり、衆議院、参議院及びその各常任委員会である地方行政委員会等によって構成されている。

  3 警察庁は、暴力団対策研究会を発足させ(会員一五名)、同研究会は、平成二年一一月二九日、同年一二月二一日、平成三年一月一六日、同年二月六日に開催され、同月六日「暴力団対策に係る立法についての意見」をまとめ、この意見中で、また、同月二七日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方」を発表したが、この中で「暴力組織」という用語を用いた。

 日本弁護士連合会は、同年三月一五日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方についての意見」を発表し、暴力団対策として新たな法規制が必要か否かという政策的な疑問と、要件や概念の不明確性等の問題点を指摘した。

 警察庁は、同年四月、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(仮称)案の骨子」を発表した。内閣は、同月一二日、国会に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律案を提出し、同月一九日、日本弁護士連合会は当該法案についての意見書を発表した。

  4 国会は、平成三年五月、暴対法を成立させたが、衆参両議院の各地方行政委員会において附帯決議が附され、政府は、その後、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令(平成三年政令第三三五号。以下「施行令」という。)を制定し、国家公安委員会は、同年一〇月二五日、暴対法に基づき、同委員会規則第四号暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)、同五号暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく聴聞の実施に関する規則(以下「聴聞規則」という。)等を定めた。

 暴対法、施行令及び聴聞規則(以下「関係法令」という。)は、いずれも施行期日が平成四年三月一日とされている。

  5 警察庁は、法による指定暴力団の指定権限がないが、法施行前に指定方針に関する広報を行ない、その広報のなかには原告が含まれており、当時の警察庁長官は、平成四年二月二六日全国暴力団対策主管課長会議において、暴力団の間に暴対法の指定逃れの動きや抗戦の構えが見えるのでスムーズな施行に全力をあげよとの内容の訓示をした。

  6 被告は、草野一家に対し、指定聴聞のための平成四年四月六日付けの聴聞通知書(福岡県公安委員会発第七九号)を送達したが、同聴聞通知書には、聴聞の期日は同月二七日午後一時三〇分からとされ、聴聞期日の変更は行われずに実施され、被告は、審理の冒頭において聴聞通知書の「指定をしようとする理由」と同内容の告知をし、その後、聴聞を終結した。

  7 国家公安委員会は、平成四年六月一一日、被告が草野一家を指定するに際してなした確認請求に対して、これを是とする確認をおこない、被告は、同年六月二六日、草野一家を法三条の指定暴力団として指定する本件指定処分をした。

第三 争点

 一 暴対法は、違憲性を有し、立法が許されないものであるか否か。

  1 立法目的の憲法適合性の有無について

 (原告の主張)

 暴対法は、草野一家を含む特定の団体を壊滅させることを目的として制定されたものであるから、憲法二一条一項、同一四条に違反し、関係法令は、右目的を実現するために各条項が全体として不可分一体として構成されているから、関係法令は、全体として違憲である。

 (被告の主張)

 暴対法は、市民生活の安全と平穏の確保を図ることを目的としており、草野一家を含む特定の団体を壊滅させることを目的として制定されたものではない。

  2 立法体系の憲法適合性の有無について

 (原告の主張)

 暴対法は、暴力団員の個人の尊厳と生存を否定して一切の経済活動を否定するなど、目的及び規制手段がいずれも違憲である構造的な体系を備えており、後述のとおり各条項が違憲無効であるのみならず、全体として違憲無効である。

   (一) すなわち、集会結社の自由(憲法二一条一項)は、公共の福祉による一般的制約を受けないのであって、当該集会結社の個別的かつ具体的な行為が「現在かつ明白の危険」があり、「より制限的でない他の選びうる手段(LRA)」がない場合に限って当該行為(行動)が制限されるのみであるところ、行為規制によらず、集会結社自体を団体規制する暴対法は、憲法二一条一項に違反し、集会結社の自由は、団体の構成員の脱退などに関しても、公権力による干渉を受けないことを保障しているから、特定の団体から構成員を離脱させる目的の下に、恣意的差別的に公権力の行使がなされれば、結社の自由を害することになるというべきである。また、原告は政治結社であるから、弾圧の対象にはなるべきものではない。

 憲法二一条一項は、漠然とした概念や恣意的な運用をなしうる概念など不明確な概念を用いて行為規制や団体規制をすることを許容していないところ、暴対法は、各規制の要件において「みだりに」とか「おそれ」とかの漠然とした概念を用い、また、「必要があると認めるとき」とか「……と認める場合(とき)」とかの恣意的な運用をなしうる概念を用いているから、憲法二一条一項に違反し、無効である。

   (二) 「必要があると認めるとき」とか「……と認める場合(とき)」とかの要件は、公安委員会の恣意的な判断を許容することになり、この点で適正手続きを保障した憲法一三条及び三一条に違反する。

   (三) 法三条は、暴力団員が「生計の維持」のために資金を得ることすらも否定的価値としている点において、およそ暴力団員の個人としての尊厳や生存を根本から否定するものであって憲法一三条及び二五条に違反する。

   (四) 法九条は、指定暴力団員の生存を否定する目的で、その事業活動を一律に禁止するものであり、職業選択・営業の自由を定めた憲法二二条一項に違反する。

   (五) 法三四条以下の罰則規定は、白地刑罰法規であって、犯罪構成要件の明確性の原則に違反し、刑罰をもって制裁する必要のない行為を処罰している点で刑罰の謙抑主義に違反し、一年以下の懲役を定めたことは罪刑の均衡原則に違反しており、この点でこれらの諸原則を含めた概念である罪刑法定主義を定めた憲法三一条に違反する。

   (六) 法一五条、一八条、一九条は、その事務所や物品の所有権その他の権原の態様、帰属主体等について何ら考慮せずに事務所の使用制限等を禁止し、命令するものであり、かつ、その命令による当該事務所の所有者らに対する損害の補償を全く予定していない点で、財産権の保障を定めた憲法二九条一項及び二項に反する。

   (七) 法二二条一項は、実質的に無令状捜索差押を認めた規定であり、憲法三五条に違反するとともに、その立入検査等の結果、信書の開披や自白の強要を許容することとなり、憲法二一条二項後段及び同三八条一項に反する。

   (八) 法一五条、一六条、一七条、二〇条一項五号は、憲法二一条一項、一四条に違反する。

 法三条の指定を受けた「指定暴力団」という地位は、国家が国民に対して「……おそれの大きい暴力団」として公認することであり、反社会的存在として公示することによって、事実上、法律上の制約を受け、また、指定前の広報等によっても、団体としての活動が制約されたことは、憲法二一条一項に違反する。

 原告は、任侠道を信奉し実践する団体であるから、本件指定処分は、憲法一九条、二〇条、二一条一項に違反する。

   (九) 警察及び公安委員会は、「無指定暴力団」であり、その暴力団によって他の暴力団を指定する手続きを定めた法律が暴対法であるから、暴対法は憲法一三条、三一条に違反する。

 (被告の主張)

   (一) 暴対法は、暴力団の活動自体を禁止したり、暴力団の解散を命ずる規定も置いていないから、暴力団又は暴力団員の集会結社の自由を否定するものではない。

 同法は、暴力団員の行為を規制する法律であり、三条指定により暴力団を指定するのは、暴対法の規制対象となりうる者を特定するためであるから、原告の主張は失当である。

 法三条は、暴力団を同条に定める暴力団であるとの判断をするだけで、その効果として暴力団の集会結社の自由を法的に制限するものではないから、憲法二一条違反の問題は生じない。仮に、暴力団に対する集会結社の自由の制限であるとしても、暴対法は市民生活の安全と平穏の確保を目指すものであり、法三条によっては同条に定める暴力団であるとの判断をするだけで、団体の集会結社自体に何ら規制を加えるものではないから、公共の福祉による必要かつ合理的規制といえる。

 なお、原告主張のような「現在かつ明白な危険」「より制限的でない他の選びうる手段」という基準は、集会結社の自由に関する違憲性判断基準となりえない。

 原告が不明確の文言がふくまれていると主張する規定は、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその規定が適用されて、そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるから、不明確な規定とはいえない。

 また、法三条の指定を行う場合などに原告主張の不明確な文言が含まれているとされる規定が適用されることもあるが、この場合手続き規定が設けられており、公安委員会の恣意的解釈を行うことはできないから、原告の主張は失当である。

   (二) 法三条は、指定対象となる暴力団の要件を定めたにすぎず、同条自体が指定暴力団員の生計の維持のための資金獲得行為まで否定するものではないから、憲法一三条、二五条に違反するとの原告の主張は失当である。

   (三) 法九条、一五条、一六条、一八条、一九条、二〇条、二二条一項、三四条、三五条は、本件処分の手続き上及び実体上の要件を定めたものではないから、本件処分の適否を左右するものではないうえ、原告は法九条、一五条、一八条、一九条、三四条、三五条の違憲性を主張する法的利益がなく、また、法九条は指定暴力団員の一切の経済活動を禁止、規制するものではない。さらに、暴力団員が一般市民の生命、身体に危険を及ぼす可能性があることから九条、一五条が定められたのであるから、公共の福祉に合致し、合理的な規制である。

   (四) 法一六条は、すべての加入の勧誘及び脱退防止のための行為を禁止しているものでなく、公共の福祉による必要かつ合理的な規制であるから憲法二一条一項に違反しない。

   (五) 法二〇条二項五号は、暴力団又は暴力団員の行為を規制する規定でないから、暴力団の結社の自由を制限するものではない。

   (六) 法は、命令の発出及び範囲を定めているから(一一条、一五条、一七条、一九条)法三四条、三五条が白地刑罰規定であるという原告の主張は失当である。法に基づく命令は、暴力団員による暴力的要求行為等を防止するためのものであるから、刑罰により命令を担保することには合理性があり、法定刑の程度も特段重いものではなく、罪刑の均衡を失するものではない。

   (七) 法一五条、一八条、一九条は、市民の生活の安全と平穏の確保を目的とするものであり、財産権の制限といえないか制限といえても公共の福祉による必要かつ合理的な制限といえる。また、この制限は、特別の犠牲を強いるものではないから、損失補償の必要もない。

 法二二条一項は、法の施行に必要な限度で認められたものであり、刑事責任追及のための資料収集に直接結びつくものではないから、憲法三五条、三八条に違反しないし、同項は指定暴力団員が任意に応じることを前提にしたものであるから、憲法二一条二項後段に違反しない。

  3 立法過程、運用における違憲性の有無について

 (原告の主張)

   (一) 暴対法の法案提出、審議、関係法令の成立過程等の立法過程において、検討、審議は十分にされていないから、立法過程において適正手続きを要求した憲法一三条に違反する手続きで成立したものである。

 また、国権の最高機関である国会の各議院は、附帯決議をなした以上、同附帯決議が遵守されるために、国政調査権を行使しなければならない義務があるにもかかわらず、この義務を怠った点で、憲法二六条に違反している。

   (二) 内閣は、国民の権利義務に関する法案提出に際して、その内容が憲法に適合するか否か、その法案審議が十分に行われる時期と方法が保障されているかを配慮すべき義務(憲法一三条、九九条)があるにもかかわらず、これを怠って暴対法案を提出した。

 同法案は、警察庁の所管であったが、警察庁は、国会が右法案を十分に審議できない時期に提案し、内閣は、これをそのまま提出した点で、国会の審議権を侵害したものといえ、憲法四一条に違反するものである。

   (三) 内閣及び国家公安委員会は、右附帯決議があるにもかかわらず、これを無視している点で憲法七三条一号、九九条に違反している。

   (四) 警察庁は指定権限がないにもかかわらず、指定予定団体を発表し、都道府県公安委員会及び国家公安委員会は黙認した。これは、警察法及び右附帯決議二項に違反するもので憲法七三条一項に違反する。

 (被告の主張)

 本件立法過程には何ら瑕疵はなく、附帯決議には何ら法的効力がない上、立法手続き上何らかの義務が課されるものではない。さらに、警察の広報行為の違法の主張の点については、本件指定処分の違法事由とは何ら関係がないから、原告の主張は失当である。

 二 暴対法関係法令の各条項は、違憲性を有するものであるか否か。

  1 法三条本文(暴力団要件)の違憲性の有無について

 (原告の主張)

   (一) 法三条は、指定暴力団としての指定に際し、当該団体が「暴力団」(法二条二号)に該当する事実を要件の一つとしているところ、本件指定処分においては、原告が「暴力団」(法二条二号)に該当するとの事実が認定されていないから、法三条本文、二条二号に違反する。法三条と二条二号の「おそれが大きい」と「おそれ」とは、事実認定の程度の差にすぎないのに、その程度に関する認定に法三条各号の事実を要求している。特に、「大きい」ことの要件として法三条各号を定めたならば、「おそれ」についての要件も詳細に設定しなければならないはずであるのに、単に「おそれ」という抽象的概念にとどまっている。また、「おそれ」とか「大きい」とかの抽象的かつ不明確な概念をもって人権を制約することは、憲法一三条及び三一条に違反する。

   (二) 法三条本文は、公安委員会に指定権限を付与しているが、公安委員会の許認可事務は、実質は警察が行っており、また、暴対法は、指定請求なしに公安委員会が指定できる点で訴追者と審判者が一体となっている点で手続きの公正を害する恐れがある。さらに、暴対法による公安委員会の権限付与は、警察比例の原則に違反し、公安委員会の目的と機能の範囲に関する基本法である警察法を逸脱している。さらに、法三条の前提である法二条の「団体」という概念は不明確である。

 以上のことからすると、適正な手続きによる指定がなされることができないので、法三条本文は、憲法一三条及び三一条に違反する。

 (被告の主張)

 法三条は、当該団体が「暴力団」(法二条二号)に該当する事実を要件の一つとしてはいない。法三条と二条二号の「おそれが大きい」と「おそれ」という文言は、法三条指定の要件ではないから、右文言の恣意的解釈の余地はない。

 法三条指定の権限等は、警察法三八条四項で準用する同法五条三項に基づき、暴対法によって三条指定の権限が公安委員会に属せられ、三条指定にかかる事務を公安委員会が所掌することになったことから、かかる取扱いとなったものである。

 したがって、公安委員会が三条指定権限を有し、これにかかる事務を執行することは、憲法及び警察法の体系上、何ら問題はなく、暴力団につき法三条各号の要件を充足すると認めるときに、当該暴力団に対し三条指定をすることは、暴対法によって与えられた権限行使として憲法違反の問題は生じない。

  2 法三条一号(目的要件)の違憲性の有無について

 (原告の主張)

 「名目上の目的のいかんを問わず」実質上の目的を認定する手続きのもとに、公安委員会の職権的秘密主義が貫かれている点で、憲法三一条、一三条に違反し、「実質上の目的」という不明確な概念によって団体を規制することは、憲法二一条一項に違反し、無効である。

 (被告の主張)

 公安委員会が法三条によって指定暴力団を指定する場合、法三条の要件を充たすか否かについて、聴聞(法五条)、審査専門委員の意見聴取、国家公安委員会の確認(法六条)という手続きがなされるから、憲法一三条、三一条に違反しないし、法三条一号の規定は不明確ではないから、憲法二一条一項にも違反しない。

  3 法三条二号(比率要件)の違憲性の有無について

 (原告の主張)

   (一) 犯罪経歴保有者の地位は、憲法一四条の社会的身分に該当し、一定の政令比率を超える犯罪経歴保有者数を構成員としている団体の地位も同条の社会的身分に該当するところ、当該団体構成員の犯罪経歴保有者数の比率をもって指定要件の一つとすることは、当該犯罪経歴保有者に対し、不合理な差別をしているのみならず、同人らを構成員として結成した当該結社に対しても不合理な差別をすることになり、憲法一四条に違反するものである。

   (二) また、原告のように、この比率を充足するとして指定された団体の地位も社会的身分に該当するから、原告のようにその構成員の中に犯罪経歴を有しない者も多く存在する場合、この者は自己に関係のない事由をもって所属団体が指定され、自己に関係のない事由をもって「指定暴力団員」という社会的身分が付与され、社会的活動に法九条等の制限がなされる点で不合理な差別であり、憲法一四条に違反する。

   (三) 法三条二号と施行令は、集団の区分ごとに政令比率に差異を設けているが、集団の人数と政令比率の差異との間には、論理的関連性がなく、この差別区分を設けることは合理性がないから、憲法一四条に違反する。

   (四) 犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする暴対法の扱いは、憲法一四条だけではなく、同法二一条一項にも違反する。

   (五) 法三条二号の「幹部」の概念は、不明確であり、当該団体とは無関係に幹部を認定し、指定処分をすることは、結社の自由を侵害するものとして憲法二一条一項の結社の自由に反する。

   (六) 法三条の委任を受けた施行規則二条は、何ら合理的な根拠もなく不明確な基準である。また、「政令で定める比率」の基準設定において、法三条二号本文の表現は明確性を欠くものであるから、憲法二一条一項に反する。

 すなわち、政令比率の算出の前提としての統計資料が、刑務所のように高比率非暴力団が含まれているのか、日本国籍をもたない者らで構成される集団は含まれないのか、各概念間の統一性等が欠けており、「暴力団」と「暴力団以外の集団一般」との区別をする基準が不明確であり、法三条二号の要件では、明確とはいえないから、そもそも基準足り得ないものである。

 また、法三条二号の「確実」という表現は、統計学上及び確率論上全く起こりえないかすべて起こりうるかのどちらかであるのに、括弧書きでは一〇万分の一以下になっている。法三条二号本文の政令比率と比較対象されるのは「暴力団以外の集団一般」であるのに対し、括弧書きの政令比率を比較対象される集団は「国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団」とし、「暴力団」と「暴力団以外の集団」とし区別していない。さらに、法三条二号本文の「暴力団以外の集団」は、国民と外国人とを区別していないのに、括弧書きでは、「国民」に限っているなど法三条二号本文と括弧書きとは同じ内容ではなく、全く異なる基準で設定されている。法三条二号の政令比率の「国民」は、外国人まで含むのか明らかでなく、外国人を含まないなら外国人を排除している点でも合理性がない。

   (七) 刑法二七条、恩赦法三条によれば、刑の執行猶予の期間を取り消されることなく経過したときは、刑の言渡しの効力が消滅することになり、法律上言渡しを受けていない者となるから、法三条二号ハないしヘの適用がないことになるが、「言渡しを受け」との表現が、事実上という意味で解釈運用されるときには、法の下の平等に反し、憲法一四条に違反する結果となる。

 (被告の主張)

   (一) 二号要件は、暴力団には犯罪経歴保有者の多数がその構成員となっているという特性に着目して要件とされたのであり、犯罪経歴を有するという理由で犯罪経歴保有者を差別するものではなく、団体がその構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体か否かは社会的身分でもない。さらに、前述の暴力団の特性に鑑みれば、団体がその構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体と他の団体とで異なる取扱いをすることは、合理的理由があるというべきである。

 暴力団員が市民の生命や身体に危険を及ぼしていることからすると、指定暴力団のなかの犯罪経歴を有する者とそうでない者とで何ら差異はなく、暴対法の規制は、合理的な理由に基づく規制というべきである。

 また、法三条二号は、暴力団には、暴力団員が犯すことの多い犯罪を行った経歴のある者が著しく多く含まれている事実に着目し、要件が定められたのであるから、合理性があり、客観的かつ明確な基準というべきである。このように、犯罪経歴保有者比率の要件は、暴力団性の判断のために設けられたものであり、暴力団の是非の価値判断をするものではないから、原告の主張は失当である。

   (二) 犯罪経歴保有者の要件は、暴力団の構成員には一定の犯罪行為を行った者が著しく多いという事実に着目したもので、刑法等とは異なる見地から要件とされたのであるから、憲法一四条違反の問題は生じない。

   (三) 法三条二号の「幹部」概念は、団体の暴力団性の要件である犯罪経歴保有比率を判断する対象者の範囲を定めたものであるから、原告の定める幹部概念とはもともと異なるのであり、このことが原告の集会結社の自由の干渉になる余地はない。

  4 法三条三号(団体要件)の違憲性の有無について

 (原告の主張)

 「運営を支配する地位」という概念は、不明確であり、憲法二一条一項に反する。

 法三条一号の「資金を得ることができるようにする」とか、当該団体の「威力をその暴力団員に利用させ」とかの消極的行為類型の目的概念とその団体を「支配」する組織運営行為の概念とは、関連性が極めて不明確である。

(被告の主張)

 「運営を支配する地位」という概念が、不明確とはいえない。

  5 聴聞規則五条の違憲性の有無について

 (原告の主張)

 聴聞規則五条は、法五条の聴聞の場合には全部不能、法二三条の聴聞の場合には一部不能の規定であり、各聴聞において忌避事由に差異がある規定であって、規定に過誤又は不備がある。また、聴聞通知書受領拒絶理由は審理の公正を妨げるおそれがあるものであり、右のような規定の不備がある場合には、一般条項により忌避の申し出が認められるべきであるところ、この手続きの定めはないから、当該規定自体及びその運用は、憲法一四条、三一条、一三条に違反するものである。

 (被告の主張)

 聴聞規則五条は、もともと法二三条の場合についての規定であり、法五条と法二三条とでは趣旨が異なるから、忌避事由が異なるのは当然であり規定に過誤又は不備があるのではない。また、法五条には聴聞規則四条で除斥事由が定められており、手続きの公正さは担保されている。

 三 関係法令の制定・運用は違法性を有するものであるか否か。

 (原告の主張)〈省略〉

 (被告の主張)〈省略〉

 四 法施行前の広報行為に違法性があるか否か。

 (原告の主張)〈省略〉

 (被告の主張)〈省略〉

 五 本件指定処分に至る各手続きに違法性があるか否か。〈省略〉

 六 原告に対する法三条の本件指定処分は、指定要件が欠缺したものであるか否か。〈省略〉

 七 指定処分自体の違法性の有無について〈省略〉

第四 認定事実

 前記当事者間に争いのない事実、本件各証拠(各項冒頭に記載)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

 一 暴対法成立の経緯、制度の内容の概略等

 (甲七、三五、四八、四九、六五、七二の1、2、七九、乙一ないし七、八の1ないし26、九の1、2、一〇、一一の1ないし19、一二の1ないし12、一三、一四の1ないし5、一五の1ないし4、二八、二九、三五関係各証拠、三六、証人古谷)

  1 暴力団の実体と世論等

 暴力団の用語が定着したのは、昭和三〇年代である。暴力団は、従来、覚醒剤の密売、賭博、ノミ行為、ゆすり・たかり等の恐喝、みかじめ料の要求などを行ってきたが、昭和三八年には暴力団組織は一八万人を超え、それに対応して、昭和三九年に暴力行為等処罰に関する法律の改正がされるなどした。その後、全国の警察による暴力団に対する第一次、第二次頂上作戦が実施され、暴力団排除対策も一応の功を奏し、全体として勢力は減少し、昭和五六年には暴力団員数(準構成員を含む。)は、約一〇万人に減少したが、近年、暴力団は、社会問題への関与や政治活動を仮装、標榜して、また、交通事故の示談、不動産の賃貸借に伴うトラブル、債権取立て等の民事問題に介入、関与して、企業や市民から違法、不当な資金の獲得を図るようになり、これらの民事介入暴力事件は、手口が巧妙になっていることや、検挙の対象となりにくい事例が多いことから、一般市民は被害の甘受を余儀なくされる状況となっている。また、合法事業を装って資金獲得を図ろうとする動きも顕著であり、平成元年末では暴力団員数は、八万七二〇〇人、暴力団の年間収入は、一兆三〇〇〇億円を超えるといわれるまでに至っている。

 また、暴力団は、その組織の拡大、資金源の拡大、維持のために他の暴力団との抗争を引き起こしてきており、その縄張り争い等から、対立抗争事件を繰り返してきた(昭和六〇年には、年間に約三〇〇回の抗争事件が発生した。)が、近年では、山口組、稲川会、住吉連合会等の大規模な暴力団による寡占化が進む過程において、対立抗争等に備えてその武装化が促進され、暴力組織の末端や周辺層までもが拳銃を持つこととなり(暴力団員一人が一丁の銃を所持しているとまで言われている。)、そのため、これが簡単に使用される例が増加し、これまで多くの一般市民が巻き添えとなって死傷し、市民社会に与える脅威は、さらに深刻化してきている。また、暴力団事務所の使用としては、大々的に団体の代紋や看板を掲げているが、市民が不安を感じて、対立抗争の巻き添え、周辺の違法駐車、威圧感などのために事務所の撤去を求める住民運動が全国的に行われるに至り、一種の社会問題化するに至った。

 このような国民の要望、機運の状況のもとに、直接には暴力団の対立抗争による発砲事件が契機となり、現行法令では十分にカバーできないか、現行法令に抵触しないような形で敢行されている暴力団員による各種の不当な行為を規制していくための暴力団対策の立法化が求められるに至った。

 なお、平成三年一月から二月にかけての都内の飲食店等の営業を営む経営者について、いやがらせ、みかじめ料等経験の有無のアンケートについては、四三パーセントが「ある」との回答をし、また、平成二年一〇月から一一月にかけて警察庁が福島県等六県所在の暴力団事務所用の建物の所有者一〇〇名に対してしたアンケート調査では、七八名が「個人用住宅として賃貸したが、知らない間に暴力団事務所となっていた。」旨の回答をしており、平成三年二月から三月にかけて、政令指定都市を中心に全国一六都道府県の住民を対象にされたアンケートでも暴力団対策立法を望む声が大勢を占め、各地方公共団体等によっても、暴力団対策立法を要望する旨の決議がされた。

  2 暴対法の審議と成立の経過

 暴対法等の成立、施行の経過の概略は、第二、二、3ないし5のとおりである。

 暴対法については、その目的には賛成が圧倒的に多数であるものの、憲法二一条の集会、結社の自由等の基本的人権保障の規定との整合性についての疑問を指摘する意見もあったが、基本的な骨格として、暴力団員取り締まりについての特別法をつくること、市民、企業など民間の暴力団排除運動の活性化を図ること、刑罰を第二次的とし、第一次的には、中止命令などの行政取り締まりを可能とすることの案が進行し、第一二〇回通常国会では、平成三年四月一日に上程され、衆議院地方行政委員会に付託された後、全会一致で可決され、その後の衆議院本会議の全会一致の可決を経て、会期末の五月八日参議院本会議で全会一致で可決成立し、その際、各院において別紙一のとおりの附帯決議がされ、そのほかの関係諸法令とともに制定、施行された。

  3 暴対法、指定暴力団制度及び施行規則等

   (一) 暴対法の概要

 暴対法本則は、全三八か条、関連の国家公安委員会規則は四本合計一〇八か条、並びに国家公安委員会告示は一本一四か条、総合計一六四条に及んでおり、その基本根幹をなすのは、暴力団の指定制度であるが、暴対法は、暴力団の構成員である個々の暴力団員の一定の行為について必要な規制をするというものであり、暴力団そのものに解散を命じたり、あるいは暴力団を結成することを禁じたりするような団体そのものを直接規制することを内容とはしていない。同法により、従前の刑事法令によっては犯罪として立件することが困難とされた暴力団員の一定の行為が規制されることになったが、すべての暴力団員の一定の行為が直接規制されるものではなく、その行為が暴対法によって定められた一定の行為に該当することが必要とされており、また、その行為を行う者が都道府県公安委員会から一定の要件に充足する暴力団または暴力団連合体であるとの指定を受けた暴力団の構成員でなくてはならないとの方法が採られている。したがって、自己が所属する団体が公安委員会から指定を受けたか否は、重大な影響を持つことになるが、指定制度が採用されたのは、暴力団としての実体を有する団体の指定逃れに対処し、あるいは暴力団以外の団体が指定されることのないように、いわば振分け作業をするともいえるものであり、概要は次のとおりである。

 (1) 指定暴力団の指定(法三条)

 一定の要件を満たす暴力団について、その暴力団の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定する。

 (2) 指定暴力団員の禁止行為(法九条、一六条、一八条)

 指定された暴力団について右の行為が禁止される。

 (3) 行政命令(法一一条、一二条、一五条、一七条、一九条)

 公安委員会は、指定暴力団員が右法条による禁止行為をしたときは、当該行為の中止を命令することができ、また一定の要件を満たすときは、当該事務所を現に管理している指定暴力団員に対し、一定期間、使用の禁止を命じることができる。

 (4) 罰則(法三四条、三五条)

 右の命令の実効性を担保するため、命令に違反する行為をした者は、五〇万円以下の罰金、一年以下の懲役に処せられることになっている。

   (二) 指定暴力団制度について

 指定暴力団指定の要件は、法三条一ないし三号で規定されているが、第一に実質的な存立目的の該当(目的要件という。)、第二に犯罪経歴保有者要件の該当(比率要件という。)、第三に階層構成要件の該当(団体要件という。)の各要件を充足することが求められ、指定の手続についての細目事項は、政令及び国家公安委員会規則で定められることになっているが、指定に当たっては、公安委員会による公開の聴聞の手続き(法五条)がとられ、当該公安委員会は、必ず国家公安委員会に要件該当の確認を求める(法六条)こととされるなど、他の団体を指定することのないように配慮がされている。

 指定は、官報による公示によって効力を生じるが、その有効期間は、公示のあったときから三年間であり、解散等によるときは、取消しをすることとされ、三年の経過とともに自動的に効力は失われる。したがって、当該暴力団への規制の継続の必要のあるときは、改めて法五条以下の手続をする必要があることとされている。

   (三) 施行規則等について

 施行令、施行規則は、暴対法の施行に関し、細目を定めているが、同規則は、法二条一号の暴力的不法行為等として、暴力団員が犯すことの多い犯罪(法別表に掲げる二八の法律に定める犯罪)を定めているほか、法三条二号の比率要件に関し、幹部についての要件(同規則二条一ないし三号)を定め、また比率算定の基準日等を定めている(同規則三条)。もともと、比率要件は、指定がされる団体は、犯罪経歴のある者が著しく多い事実に着目して、他の団体が間違って指定されないように区別するために要件とされたものであり、施行令は、集団の人数の区分毎に「集団の人数」が三人又は四人のときは、六六・六七パーセントとして、人数が増える毎に比率は低減することとして、一〇〇〇人以上のときは、四・一一パーセントとされている。右比率は、確率の計算方法について二項分布の計算方法により、集団の人数の区分に応じて、国民の中から任意に抽出した集団における犯罪歴保有者の占める比率が施行令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率を計算して規定されたものであるが、暴力団以外の集団であれば、その構成員の犯罪歴保有者の比率が施行令一条に定める比率以上となることが現実的にあり得ないといえるだけの確率を持った比率である。具体的には、国民の中に占める犯罪経歴保有者数は、司法統計年表等により調査された暴力的不法行為等に係る罪を処断罪として刑に処せられた者の人数等を合計して算出し、推計により国民の中の犯罪経歴保有者比率を〇・九二パーセントとして計算がされているが、実際の人数より多いものとして、三条指定が厳しくなる方向での計算がされている。

   (四) 民間活力の活用等

 暴対法の立法化にあたっては、民間活力の利用等が図られるものとして、暴力追放運動推進センター(法二〇条、以下「暴追センター」という。)の制度が新設された。同センターは、市民・企業などの民間の暴力排除運動の活性化を図るべく、各都道府県に一つに限り都道府県センターを、全国に一つに限り、全国暴力追放運動推進センターを指定することができることになっており、それぞれ暴力団員による不当な行為の予防や、少年に対する暴力団の影響の排除の活動やその被害者への見舞金の支給等により、幅広く暴力を追放するというものである。

 二 原告の構成及び活動等

 (甲三、八、七一、乙一六ないし二三、二四の1ないし21、二五の1ないし10、二六の1ないし9、二七の1ないし7、三七ないし四三、四四関係各証拠、四五関係各証拠、四六、証人古谷)

  1 草野一家は、昭和六二年六月一七日、北九州市における従前の二大勢力であった「工藤会」と「草野一家」とをもとにして結成された。平成二年一二月九日、溝下秀男が二代目総長を襲名し、団体の名称を「二代目工藤連合草野一家」と改称のうえ、二代目総長溝下秀男、名誉総裁工藤玄治、総裁草野高明、総長代行天野義孝の新体制となった。北九州市小倉北区神岳一丁目一番一二号に主たる事務所が置かれ、平成四年三月一〇日現在、福岡、長崎、山口の三県にわたり構成員約六〇〇人を有する団体である。

  2 原告においては、団体を代表する総長の溝下秀男のほか、団体運営を支配する名誉総裁・総長代行・若頭・最高顧問・常任相談役各一人・相談役(八人)・事務総局長・総本部長・組織委員長・常任委員長・幹事長・風紀委員長・事務局長・筆頭若頭補佐・総長付室長各一人の合計二二人がいるほか、若頭補佐一一人・直若二八人・専務理事二一人・その他常任理事・理事・幹事等の地位の階層がある。総長以下、専務理事までの幹部の犯罪経歴保有者の人数は、四〇人である。

 組織の運営方針等、団体としての意思を決定する事項については、通常執行部(若頭・総本部長・組織委員長・常任委員長・幹事長・風紀委員長・事務局長・筆頭若頭補佐・総長付室長で構成)において協議し、その結果を総長に上申して判断を仰ぎ、総長が最終決定をしている。

  3 原告への加入は、親子盃、兄弟盃という盃を交わす儀式を行うことによって、親子・兄弟という擬制的血縁関係が生じたとされているが、この儀式等も原則として各傘下組織の長に委ねられており、加入と同時に原告の代紋入りのバッジが傘下組織の長から交付されている。原告からの排除については、直若以上の地位にある者については、総長の直接の裁断、常任理事・理事については、執行部の審議を経て総長の裁断、幹事以下については、各傘下組織の長の判断によって行われるが、事前に本部に報告することが必要とされている。

  4 原告は、北九州市一円及び長崎、山口両県の一部を「シマ(縄張り)」と称して各地域に組長を名乗った責任者を置き、他の暴力団を排除し、構成員は、その「シマ」を中心に、代紋入りのバッジを誇示したり、団体名を相手に告げるなどの方法によって原告の威力を利用した風俗営業者等に対するみかじめ料(縄張り内で営業を営む者に対して、その営業を営むことを容認する対償として供与された金品)の要求、債権の取立て、賭博、交通事故の示談介入等の不法な資金獲得行為をしており、みかじめ料の要求にあたり、その要求を拒絶した相手には、暴力を加え、あるいは店舗内に劇薬を投げ込み、営業活動を妨害するなどしている。これらの行為をしたことで、過去五年間に約二五〇名が警察によって検挙されており、検挙されたのは、原告の末端の構成員に限らず、幹部も含まれているが、原告は、このような行為をしたことを理由として右構成員らに対し、その組織内の処分はしていない。

 三 聴聞と指定の経緯

 (甲三、四、八ないし一一、一七、一九、二〇、六五、七一、七六、乙一六ないし二三、二四の1ないし21、二五の1ないし3、二五関係各証拠、三〇、三一、三二の1ないし3、三三の1、2、三七ないし四三、四四関係各証拠、四五関係各証拠、証人古谷)

  1 警察庁の方針等

 全国の暴力団のうちの最大のものは、山口組であって、全国に約三万人を超える構成員がいると言われているが、他には、稲川会、住吉連合会等のほか、九州を本拠とする原告が主たる勢力を占めており、警察庁は、前記第二、二、5のとおり、法施行前に指定方針に関する広報を行ない、原告を予定指定暴力団体にあげていた。

 暴対法成立後、被告は、原告を指定暴力団に指定する対象として、聴聞手続を進めていたが、原告総長の溝下は、平成三年七月ころはその身柄は勾留中であった。

  2 原告への聴聞通知等

 被告では、勾留中の原告代表者の溝下に対してではなく、代理を務める原告総長代行の天野義孝に対し、法五条二項の聴聞通知の手続をとることを予定していたが、平成四年四月六日同人が北九州市内の小倉北警察署に呼び出されていることを知り、同所で聴聞通知書を出会送達することにし、同日午後三時二〇分ころ、被告係官は、同署会議室において天野及び同人の同伴者である原告最高顧問の林東鍋と面会した。同係官らは、天野に対し、直ちに同日付けの同人宛て聴聞通知書(福岡県公安委員会発第七九号)を示し、指定にかかる聴聞を実施する旨及び聴聞の期日が同月二七日午後一時三〇分からであり、聴聞の場所が福岡市博多区東公園七番七号所在の福岡県警察本部一階の聴聞会場であることなどを口頭で説明し、さらに「聴聞についてのお知らせ」と題する説明書に基づいてその説明をした。天野は、聴聞通知書を受け取ろうとしたが、同席していた林が制止し、押し問答の末、天野は、聴聞通知書の受領を拒否した。その後、再度の出頭が要請され、同日午後五時三〇分ころ、天野は、一人で小倉北警察署に出頭してきたので、同署会議室において、被告係官は、再度、聴聞の日時場所等の必要事項を説明した上、受領を促したところ、天野は、「いずれ受け取って聴聞には出席する。しかし、今日は前にも言ったように総長などの意向を聞けないから受け取る訳には行かない。自分の一存だけではできない事情がある。山口組の聴聞が終わる一〇日以降には受け取る。」等と述べて受領を拒否した。そこで、被告係官は、天野に対し、聴聞の内容を通知し、関連する説明事項を伝達し、それが正式な通知であることを担保するためとして、録音等の措置を講ずる旨申し向けたところ、天野は「通知書は受け取れないが、通知の内容を聞くことは差し支えない。」としてこれを承諾した。

 そして、同日午後七時、同署会議室において、被告係官は、天野に対し、聴聞通知書と前記説明書の全文を読み上げて聴聞に関する事項をすべて告知するとともに、同状況を録音し、写真撮影を実施した。その間、天野は、被告係官の読み上げに耳を傾け、通知は間違いなく聞いた旨返答し、聴聞の通知を受けたこと及びその内容を十分理解した旨の天野作成名義の申立書をその場で作成し、聴聞通知書は受領せずに退出した。

 被告係官の古谷ら四名は、同月一〇日午後〇時五〇分、前記のとおり、天野が「一〇日以降には受け取る。」と言っていたことを受けて、原告の主たる事務所である北九州市小倉北区神岳一丁目一番一二号所在の通商草野会館に赴いた。同事務所内には、原告組員四名が在室していたが、天野は不在であり、所在も判明しなかった。そこで、古谷らは、在室していた組員のうち、責任者で、原告の理事である伊崎美津夫に聴聞通知書(乙三〇)を交付し、同人名義の受領確認書を徴した。

  3 聴聞の経過

 平成四年四月二七日午後一時三〇分ころから福岡市博多区東公園七番七号の福岡県警察本部一階の聴聞会場において、天野、代理人原田利勝こと原田信臣、補佐人林武男こと林東鍋の出席のもとに、原告に対する聴聞が実施された。審理の冒頭において聴聞通知書の「指定をしようとする理由」と同内容の告知がされ、聴聞官が代理人及び補佐人に対し、「指定をしようとする理由」について意見を求められたところ、代理人原田において用意してきている意見書を朗読したい旨を申し出たので、聴聞官がこれを許可し、代理人原田は意見書を読み上げた。その後、聴聞官が代理人原田に対し、意見書の趣旨を確認した。さらに、補佐人から意見陳述がされ、証拠調べがなされた後、五分間ほどの休憩をはさみ、これ以上の意見陳述、証拠提出の申し出がないか否かの確認がされ、聴聞は終了した。

  4 原告への本件指定処分

 その後、第二、二、7の経緯のもとに、本件指定処分がされた。指定通知書中の「指定をした理由」は別紙二のとおりである。

 指定に当たり、基準日とされた平成四年三月一〇日現在の施行規則二条に該当する原告の幹部と認定され者は、八三名である。そして、そのうちの施行規則二条一項所定の幹部は、一名(溝下)、同条二号所定の幹部は、二二名、同条三号所定の幹部は、六〇名であり、右幹部のうちの法三条二号イからヘのいずれかに該当する犯罪経歴保有者は、四〇名であった。なお、基準日現在の原告構成員数は、六〇二名であった。

 四 暴対法の現状等

 (甲七、一八ないし二〇、六五、七〇、証人古谷)

  1 平成五年二月末現在、暴対法三条により指定がされた暴力団は、一六団体である。また、暴対法上は、従前の暴力追放運動推進協議会が母体となって、前記暴追センターが公益法人化されることになっており、同センターは、広報活動や民間の予防活動の援助、暴力団員による不当な行為に関する相談などを実施してきているが、少年に対する暴力団の影響の排除のための活動や暴力団離脱者の援助等も大きな仕事となっており、平成五年二月現在で、約二四の暴追センターが設立されるに至っている。

 前記のとおり、暴対法は、暴力団に対して直接、その解散を命じるものではないが、暴追センターなどの活用も相まって市民や民間会社が暴力団員に対抗する事例も多くなり、その結果、暴力団はその資金源を断たれ、暴力団を離脱しようとする暴力団員希望者もいる状況となり、公安委員会による離脱妨害の中止命令も発せられることが多くなり、さらにこれらの離脱者の社会復帰対策の重要性が増加したため、その就業を中心とした社会復帰促進の組織作りが各地で始められ、都道府県センター等で構成された社会復帰協議会が設立され、社会復帰の支援がされることとなった。

 なお、平成四年七月から平成五年二月までの間の公安委員会による命令の発出状況は、法一一条一項の暴力的要求行為に対する中止命令約一五〇件、加入の強要等に関する中止命令約一八〇件であり、平成三、四年は、対立抗争による銃の発砲事件は減少している。また、被告は、法一七条一項により、原告団員内野勉に対し、平成四年一二月一五日付けで、「傘下組織である大原組から脱退することを妨害してはならない。」との中止命令を発したが、その理由は、「法一六条二項の規定に違反する行為をし、相手方が困惑している。」というものであり、その後も被告は、原告構成員に対し、平成五年一月六日付け、同月七日付けで同旨の中止命令を発している。

  2 暴力団の銃使用については、所持等を厳しく制限すべきであるとの世論が強く、平成三年四月二三日、銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律が可決され、同年五月二日に公布され、平成四年三月一日から施行された。主として拳銃等の規制を目的とするものであり、暴力団員については、従来も拳銃所持の許可はされていなかったが、より暴力団排除の趣旨を明確化するものとして、同法五条一項五号の三の規定が新設され、公安委員会は、「集団的または常習的に暴力的不法行為またはその他の罪に当たる違法な行為を行う恐れがあると認めるに足りる相当な理由がある者」については、銃砲または刀剣類の所持の許可をしてはならないこととなった。そして、改正法に伴い、衆参両院において、「暴力団が密輸入によって大量の銃器を隠匿保有していると見込まれる現状に鑑み、拳銃等の銃器の密輸入ルートの解明及び撲滅に全力を挙げること」などの項目を含む附帯決議がされた。

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