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2021年09月

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初出2013年6月30日
26 日満郵便條約實施記念

公衆浴場における男児の盗撮と児童ポルノ 横浜地裁平成29年

深町晋也『家族と刑法 家庭は犯罪の温床か』有斐閣・2021年・73頁

児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ(変更後の訴因:わいせつ誘拐,強制わいせつ)及び未成年者誘拐被告事件

横浜地方裁判所判決/平成28年(わ)第1845号、平成28年(わ)第1990号、平成29年(わ)第12号、平成29年(わ)第251号

【判決日付】    平成29年7月19日

【判示事項】    被告人が,被害児(当時11歳)を複数回誘拐し強制わいせつ行為に及び,知人の息子である被害児(当時4歳)に対し強制わいせつ行為に及びその様子を動画撮影して児童ポルノを製造し,公衆浴場において氏名不詳の男児2名を動画撮影して児童ポルノを製造したとしてそれらの罪に問われた事案。裁判所は,量刑の中心となるわいせつ誘拐・強制わいせつ罪については,被害児童の信頼につけ込み,密室のマンション内居室で執拗なわいせつ行為に及んでおり犯行態様は悪質であるとし,自己本位的な意思決定は相応の非難に値し,小学校教師という職責に真っ向から反する等として,懲役3年に処した事例

【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人を懲役3年に処する。

 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。

 横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1台(平成29年領第736号符号4)及びビデオカメラ1個(平成29年領第736号符号6)を没収する。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

第1(起訴状記載の公訴事実第1関係)

 被告人は,平成28年1月4日午後7時56分頃,東京都■■■の入浴施設■■■男性用脱衣所において,氏名不詳の男児(推定年齢約12歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,全裸になっていた同人の姿態を,腕時計型ビデオカメラ(平成29年領第736号符号6)を用いて動画撮影し,その動画データ1点を同ビデオカメラ内蔵の電磁的記録媒体である記録装置に記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出されまたは強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させまたは刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,前記児童に係る児童ポルノを製造した。

第2(起訴状記載の公訴事実第2関係)

 被告人は,平成28年1月31日午後8時43分頃,前記場所において,氏名不詳の男児(推定年齢約13歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,全裸になっていた同人の姿態を,前記ビデオカメラを用いて動画撮影し,その動画データ1点を同ビデオカメラ内蔵の電磁的記録媒体である記録装置に記録して保存し,もってひそかに衣服の全部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出されまたは強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させまたは刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,前記児童に係る児童ポルノを製造した。

第3(平成29年2月28日付け追起訴状記載の公訴事実第1関係)

 被告人は,■■■(当時4歳。以下「A」という。)が13歳未満の男子であることを知りながら,わいせつな行為をしようと考え,平成28年3月28日午後3時29分頃から同日午後3時31分頃までの間,東京都■■■公園公衆トイレ内において,Aの陰茎を手指で直接触るなどし,これを被告人が使用する前記ビデオカメラを用いて動画撮影し,もって13歳未満の男子に対し,わいせつな行為をした。

第4(平成29年2月28日付け追起訴状記載の公訴事実第2関係)

 被告人は,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記日時場所において,Aの陰茎を露出した姿態及び被告人がその陰茎を手指で直接触るなどの姿態をとらせ,これを前記ビデオカメラで動画撮影し,その動画データ1点を同ビデオカメラ内蔵の電磁的記録媒体である記録装置に記録して保存し,さらに,同動画データを,同日午後11時12分頃,■■■当時の被告人方において,パーソナルコンピュータ(平成29年領第736号符号4)内蔵の電磁的記録媒体であるハードディスクに記憶蔵置させ,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させまたは刺激するもの及び衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出されまたは強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させまたは刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。

第5(平成29年1月12日付け追起訴状記載の公訴事実関係)

 被告人は,■■■当時11歳。以下「B」という。)が未成年者であることを知りながら,Bを誘拐しようと考え,Cと共謀の上,平成28年4月17日午後1時頃,静岡県■■■のスーパーマーケット■■■(以下「本件スーパー」という。)敷地内において,以前から「お肉買ってきたからステーキ食べよう。」などの甘言を用いて誘惑していたBを,同所に駐車していた自動車内に乗車させた上,その頃から同日午後4時26分頃までの間,前記Cが所有する■■■マンション■■■(以下「本件マンション」という。)内等に連れ込み,Bを被告人及び前記Cの支配下に置き,もって未成年者を誘拐した。

第6(訴因変更後の平成28年12月5日付け追起訴状記載の公訴事実第1関係)

 被告人は,Bが13歳未満の男子であることを知りながら,わいせつな行為をしようと考え,同日午後4時5分頃から同日午後4時26分頃までの間,本件マンションにおいて,Bの下着をずらしてその陰茎を手指で直接触った上,これを被告人が使用するデジタルカメラで動画撮影し,もって13歳未満の男子に対し,わいせつな行為をした。

第7(訴因変更後の平成28年12月5日付け追起訴状記載の公訴事実第2関係)

 被告人は,Bが13歳未満の男子であることを知りながら,Bを誘拐してわいせつな行為をしようと考え,平成28年5月7日午後1時15分頃,本件スーパー敷地内において,以前から「お肉買ってきたからステーキ食べよう。」などの甘言を用いて誘惑していたBを,同所に駐車していた自動車内に乗車させた上,本件マンション内等に連れ込み,Bを被告人の支配下に置き,もってわいせつ目的でBを誘拐した上,同日午後1時40分頃から同日午後2時9分頃までの間,同所において,Bの下着をずらしてその陰茎を手指で直接触った上,これを被告人が使用する前記ビデオカメラで動画撮影し,もって13歳未満の男子に対し,わいせつな行為をした。

(証拠)(括弧内は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。)

判示事実全部について

・被告人の公判供述

・領置調書(甲49)

・「押収物件の品名変更について」と題する書面(甲50)

・パーソナルコンピュータ1台(甲52。平成29年領第736号符号4)

・ビデオカメラ1個(甲53。平成29年領第736号符号6)

判示第1,第2及び第6の事実について

・第1回公判調書中の被告人の供述部分

判示第1及び第2の事実について

・被告人の警察官調書(乙2,3)

・Dの警察官調書(甲9)

・写真撮影報告書(甲12),同謄本(甲2,4)

・データ抽出報告書(甲3)

・「撮影媒体の同一性について」と題する書面(甲7)

・「撮影媒体における時刻の整合性の確認について」と題する書面(甲8)

・「犯行場所の所在地,名称の特定について」と題する書面(甲13)

判示第1の事実について

・動画内容抽出報告書(甲5)

・鑑定資料作成報告書(甲10)

判示第2の事実について

・動画内容抽出報告書(甲6)

・鑑定資料作成報告書(甲11)

判示第3及び第4の事実について

・第3回公判調書中の被告人の供述部分

・被告人の検察官調書(乙14。不同意部分を除く。),同抄本(乙15。不同意部分を除く。)

・■■■の警察官調書抄本(甲46。不同意部分を除く。)

・捜査報告書(甲40)

・内容見分報告書抄本(甲41。不同意部分を除く。)

・資料作成報告書(甲54)

判示第3の事実について

・戸籍全部事項証明書抄本(甲39)

・「動画の聞き起こしについて」と題する書面抄本(甲43)

・写真撮影報告書(甲44)

判示第4の事実について

・写真撮影報告書(甲45)

・「データ保存日時について」と題する書面(甲42)

判示第5から第7までの事実について

・第2回公判調書中の被告人の供述部分

・被告人の警察官調書(乙5,6。各不同意部分を除く。)

・「供述調書(甲)の訂正について」と題する書面(乙7)

・Bの警察官調書抄本(甲22。不同意部分を除く。)

・捜査報告書(甲20)

・写真撮影報告書(甲21)

・戸籍全部事項証明書抄本(甲15)

判示第5及び第6の事実について

・被告人の警察官調書(乙8)

・「動画の精査について」と題する書面(甲16)

判示第5及び第7の事実について

・被告人の検察官調書(乙11,13。乙11は不同意部分を除く。)及び警察官調書抄本(乙12。不同意部分を除く。)

・Bの検察官調書(甲32。不同意部分を除く。)

・■■■の検察官調書(甲33)

・写真撮影報告書(甲26)

・「手帳(押収品目録番号1)の抄本作成について」と題する書面謄本(甲31)

・「動画の精査について(平成28年4月2日,マンション■■■大浴場内での撮影動画)」と題する書面抄本(甲34)

・「動画の精査について(平成28年4月3日,マンション■■■大浴場内での撮影動画)」と題する書面抄本(甲35)

・「動画の精査について(平成28年4月16日,マンション■■■大浴場内での撮影動画)」と題する書面抄本(甲36)

・「動画の精査について(平成28年4月17日,マンション■■■大浴場内での撮影動画)」と題する書面抄本(甲37)

判示第5の事実について

・Cの警察官調書抄本(甲28。不同意部分を除く。)

判示第6及び判示第7の事実について

・Cの警察官調書抄本(甲24。不同意部分を除く。)

判示第6の事実について

・写真撮影報告書(甲17)

判示第7の事実について

・被告人の警察官調書(乙9)

・Cの検察官調書謄本(甲30)

・「動画の精査について」と題する書面(甲18)

・「撮影媒体の同一性について」と題する書面(甲19)

(争点に対する判断)

第1 判示第3の事実について

 1 判示第3のAに対する強制わいせつの事実に関し,被告人は,当公判廷において,Aの排尿の介助及び糸くず様の異物の除去のためにAの陰茎を触ったもので,わいせつなことをしようと触ったわけではない旨供述し,弁護人も,同供述を前提に,被告人がAの陰茎を触った行為につき,性的意図がないからわいせつ行為に当たらず,強制わいせつ罪は成立しない旨主張する。そこで,当裁判所が被告人の行為につき強制わいせつ罪が成立すると判断した理由を以下に補足して説明する。

 2 関係証拠によれば,次の事実が認定できる。

   被告人は,Aと共に判示の公衆トイレに入り,Aが小便器で排尿する状況等を腕時計型ビデオカメラで動画の撮影をしていた。被告人がAの動画撮影を開始して約11秒後から約16秒後までの間(以下全て動画開始からの秒数である。),Aが排尿しており,約17秒後から約25秒後までの間,被告人が,Aの陰茎を右手で触り,陰茎の先についたしずくを振り落としている。約34秒後頃,被告人がAの正面に回り,約35秒後にAの陰茎を右手で触って持ち上げ,約37秒後,Aの陰茎の包皮を数回伸ばしながら,「大丈夫か。」などと発言しており,この時点でも,Aの陰茎には尿が付着していたので,被告人がしずくを落としている。約40秒後,被告人が腕を動かしたため,公衆トイレ内が撮影されているが,約42秒後,被告人は「ごみがついてるぞ。」などと発言し,この間Aは「さわると病気になるんだよ。」などと発言している。約48秒後から再びAの陰茎が映され,被告人が「はい,大丈夫かな。」「OK。」と発言し,約50秒後以降,Aの陰茎は映っていない。約54秒後に,被告人が「糸くずがいっぱいついてるから。」「はい,よしOK。」と発言し,Aと被告人は公衆トイレを出た。

 3 被告人は,Aの排尿が終了してもなお約30秒の間Aの陰茎の包皮を伸ばすなどしてその陰茎を触り続けている。また,被告人は,自らがAの陰茎を触る様子について1分間以上も動画の撮影を続け,犯行当日の夜には自己が所有するパーソナルコンピュータに当該動画を保存するなどしている。さらに,被告人からは,Aの陰茎に触っている様子を動画撮影しその動画をパーソナルコンピュータに保存した理由につき,「Aの姿が自分にとって和む,癒される」旨(被告人供述調書(2)47頁),「Aの陰茎を撮影したかった」旨(同(2)47頁),「撮影できたかどうか後で見返したかった」旨(同(2)49頁)の供述以外に,説明が特に見受けられない。後記のとおり被告人が排尿の介助や異物の除去のつもりでAの陰茎に触ったならば,例えば,自己の一連の行動の正当性を客観的に裏付けるため動画に撮影して保存したものであるなどの説明が被告人から語られてしかるべきである。

   以上の認定に係る事実関係によれば,被告人において,自身が述べるように,その好みの年齢幅(10歳から13歳くらい)からA(4歳)が外れている上,Aが映っている動画で自慰行為をしていなかったとしても,前記行為の際に性的意図を有していたことを推認するに十分である。

   なお,弁護人は,性的欲求と性的関心を区別してその主張を展開するけれども,性的欲求の範ちゅうに含まれる性的関心の部分をいわば切り出して問題視するものであって,当裁判所とは見解を異にする。

 4 ところで,被告人は,Aの陰茎に触った理由として,Aの排尿を介助するためであり,その際,陰茎に黒いごみ(糸くず様の異物)が付着していたのでこれを除去した旨供述し,実際,前記の動画撮影時にも「ごみがついてるぞ。」と発言するなどしている。被告人が撮影した動画の映像上Aの陰茎に黒いごみが付着していたとの確証は得られないものの,被告人は,当公判廷で,糸くずの付着箇所に丸を付け(被告人供述調書(2)24,58頁),その丸の中に薄暗いはん点様の部分が見受けられ,この部分を念頭に置いて被告人が「綿ぼこりみたいな形で表面にべっとり付いていた」(同(2)48頁)と述べたとの理解も可能である。そして,実際に被告人がAの陰茎の先についたしずくを振り落とすなどしている点で排尿を介助していたといえ,また,Aの陰茎に黒いごみが付着し被告人がこれを取り除いた可能性が残る以上,異物を除去していたとの被告人の供述部分も排斥できないことになる。もっとも,このように外形的な推移としてAの排尿の介助と陰茎に付着する異物の除去があったからといって,これにより被告人の内面の問題である性的意図の有無が直ちに左右されるものではない。そして,当裁判所において,被告人がAの排尿を介助し陰茎の異物を除去するなどの行為の際に性的意図を有しているものと推認したことは前記のとおりである。

 5 よって,被告人には前記行為時に性的意図があったと認められ,結局,関係証拠に鑑み,判示のとおり強制わいせつ罪が成立する。

第2 判示第7の事実について

 1 被告人は,判示第7のうちBに対するわいせつ誘拐の事実に関し,当公判廷において,本件スーパーを出発する時点ではわいせつ目的がなかった旨供述し,弁護人は,被告人が子供たちと本件スーパーの敷地内にいた時点で,被告人にわいせつ目的の未必的な認識があったことは争わないが,わいせつ誘拐罪の成立にはわいせつ目的の確定的認識を要する旨主張して本罪の成立を争うので,以下に検討する。

 2 わいせつ誘拐罪におけるわいせつ目的とは,被誘拐者に対して自らわいせつ行為をしまたは第三者をしてわいせつ行為をさせる目的をいうところ,同目的の内容として確定的認識を必要とせず,わいせつ目的の未必的認識があれば本罪が成立するというべきである。誘拐行為時におけるわいせつ行為の認識は,将来の事実についての予見を内容とするから,その時点では確定的認識を持ち得ない場合も十分考えられるのであって,本罪の成立要件としてわいせつ行為の確定的認識を要求するのは相当とはいえない。わいせつ誘拐罪の目的犯としての処罰を正当化するためには認識認容以上の強い主観的側面を要求すべきである旨の弁護人の主張は,当裁判所と見解を異にするもので,賛同できない。

 3 前提事実

   そこで,Bを誘拐した時点において,被告人にわいせつ目的が認められるかどうかを検討するに,関係証拠によれば,争点判断の前提となる主な事実関係は,次のとおりである。

  (1) 被告人は,平成28年4月(以下月日のみの記載は平成28年を示す。)初旬にBと知り合い,同月2日,3日,16日,17日,30日,5月1日,4日及び7日,Bと共に,本件マンションでおやつを作って食べたり,温泉に入り,卓球するなどして遊んだ。

  (2) 被告人は,4月17日にBを本件マンションへ連れて行った際,横向きに寝転んでいるBにマッサージをした。途中で,被告人は,Bの下着をずらして直接陰茎を触り,上下にしごくように動かすなどしたが,他の子供たちが寄ってきたため,行為を中断した。被告人は,これらの様子をデジタルカメラで撮影した。

  (3) 被告人は,撮影した前記データを同月20日に編集して,被告人がBの陰茎を触る様子だけが映っている動画データを作成した。当該動画中,被告人がBの下着をずらしてBの陰茎を露出させた場面では,Bの陰茎付近のみが画面に表示されるよう画面の拡大や明るさの調整がなされている。被告人は,同日の動画データを観ながら,2回くらい,自慰行為をした。

  (4) 被告人は,5月7日,本件マンションに到着後,午後1時40分頃からBに対してマッサージを開始した。そして,午後1時48分頃から午後2時7分頃までの間,Bの下着をずらして陰茎を露出させ,上下にしごいたり陰茎の先を触るなどし,その様子を腕時計型ビデオカメラで撮影した。

  (5) 被告人は,共犯者であるCに対し,遅くとも4月17日までに,子供たちの中ではBがお気に入りであることを伝えていた。

 4 以上の認定に係る事実関係によれば,被告人は,本件以前から,Bに対し自己の性欲の対象として関心を抱いており,現実に4月17日にBの陰茎を触るというわいせつ行為をして性的欲求を満たしていたものである。そして,被告人は,本件当日,本件マンションにおいてBの陰茎を触る状況等を合計約20分以上撮影している。これらの事情に照らすと,被告人が,本件当日,本件スーパーを出発する時点において,Bにマッサージをするなどして他の子供たちに見られることなく機会があれば,再びBの陰茎を触るなどのわいせつ行為に及ぼうと意図していたことが認められ,被告人がわいせつ目的の未必的認識を有していたことが明らかである。

 5 これに対し,被告人は,要旨「4月17日の件で,Bに嫌われていないかと不安で触ろうとは思わなかった。同日後にも,3回,本件マンションでBと会ったが,その際わいせつ行為には及んでいない。5月7日に本件スーパーを出発する際には,他の子供たちに昼食を催促されており,Bのことを考える余裕がなかった。」などとして,本件スーパーを出発する時点ではわいせつ目的の認識がなかった旨供述する。

   この点,確かに,被告人は4月17日以後,Bと3回会った際に,わいせつ行為に及んでいないが,そのことは,他の子供たちに見られることなくBの身体に触る機会がなかったか,Bが嫌がった場合にまで無理やりわいせつ行為をする意図まではなかったことを意味するにとどまるものといえる。また,本件スーパーを出発した時点において,被告人が供述するとおりの状況であったとしても,前記のわいせつ目的の未必的認識があったことと併存し得るものである。

   そうすると,被告人の前記供述は,未必的認識の限度でわいせつ目的が認められることを揺るがすものではない。

 6 よって,以上の検討及び関係証拠に鑑み,判示のとおりわいせつ誘拐罪の成立が認められる。

(法令の適用)

 被告人の判示第1及び第2の各所為はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ禁止法」という。)7条5項,2項,2条3項3号に,判示第3及び第6の各所為並びに判示第7の所為のうち強制わいせつの点はいずれも平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段に,判示第4の所為は児童ポルノ禁止法7条4項,2項,2条3項2号,3号に,判示第5の所為は刑法60条,224条に,判示第7の所為のうちわいせつ誘拐の点は同法225条にそれぞれ該当するが,判示第7のわいせつ誘拐と強制わいせつとの間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重いわいせつ誘拐罪の刑で処断することとし,判示第1及び第2並びに判示第4の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第7の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1台(平成29年領第736号符号4)は判示第4の児童ポルノ製造の用に,ビデオカメラ1個(平成29年領第736号符号6)は判示第1,第2及び第4の児童ポルノ製造並びに第3及び第7の強制わいせつの用にそれぞれ供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれらを没収する。

(量刑の理由)

 本件は,被告人が,当時11歳のBを2回にわたり誘拐して強制わいせつ行為に及び(判示第5,第6,第7),知人の息子である当時4歳のAに対して強制わいせつ行為に及んでその様子を動画撮影して児童ポルノを製造し(判示第3,第4),公衆浴場において氏名不詳の男児2名を動画撮影して児童ポルノを製造した(判示第1,第2)という事案である。

 そのいずれも,被告人が,男児らに対し一方的にわいせつ行為に及び,児童ポルノを製造するなどという卑劣な犯行である。特に,量刑の中心となるわいせつ誘拐,強制わいせつの罪(判示第7)についてみると,被告人は,Bの信頼につけ込み,密室である本件マンションの居室内で,自己の立場を利用して執ようなわいせつ行為に及んだものであって,犯行態様は悪質である。

 また,被害児童らが,成長して今回の被害について知った際の衝撃は計り知れず,今後の生育過程への悪影響が懸念される。

 さらに,被告人は,男児に対する根深い性的趣向を有し,自己の性的欲求を満たしたいという身勝手な動機から各犯行に及んでおり,酌むべきものはない。

 そうすると,Aに対する強制わいせつ(判示第3)では排尿を介助するなどの側面もある点,Bに対するわいせつ誘拐(判示第7)の目的が未必的認識にとどまっている点を被告人に有利に考慮しても,被告人の行為の客観的な重さや自己本位的な意思決定はそれ相応の非難に値し,同種ないし類似事犯の量刑傾向を踏まえても,被告人は実刑を免れない。

 以上に加え,Bの両親はいまだ被告人の厳罰を望んでいること,検察官指摘のとおり各犯行が当時の被告人の小学校教師という職責に真っ向から反するものであって本件が社会に及ぼした影響も無視できないこと,被告人がA及びBの親権者に対し被害弁償を済ませ示談を成立させていること,被告人に前科がないこと,被告人の両親が今後の監督を誓約する旨の上申書を提出していること,被告人が自ら認める罪状につき反省の弁を述べていること,共犯者の処分状況等を勘案の上,主文の刑が相当であると判断した。

(検察官意見 懲役4年,主文同旨の没収)

(弁護人意見 付全部執行猶予)

  平成29年7月25日

    横浜地方裁判所第1刑事部

        裁判長裁判官  本間敏広

           裁判官  伊東智和

           裁判官  澁江美香

児童買春及び児童ポルノ作成罪 山形地裁平成29年

深町晋也『家族と刑法 家庭は犯罪の温床か』有斐閣・2021年・67頁

        児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,児童福祉法違反被告事件

 

【事件番号】    山形地方裁判所判決/平成29年(わ)第45号、平成29年(わ)第77号

【判決日付】    平成29年7月4日

【判示事項】    18歳に満たない児童に対する児童買春,児童に淫行をさせる行為及び児童が他人の性器等を触る行為の姿態を視覚により認識できる方法により電磁的記録媒体に描写した児童ポルノを製造した児童買春等処罰法違反,児童福祉法違反の事案。裁判所は,被告人は,従前から被害児童の母親Aと金銭を支払って肉体関係を持っていたところ,Aの娘に目をつけ,Aの金銭欲につけ込んで本件犯行の承諾をさせたもので,破廉恥極まりないとの非難を免れないとする一方,被害賠償,家族の更生への協力の約束などを踏まえ,懲役3年,執行猶予5年に処した事例

【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人を懲役3年に処する。

 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

 訴訟費用は被告人の負担とする。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

 被告人は,□□□(以下「被害児童」という。)が18歳に満たない児童であることを知りながら,

第1 被害児童が実母□□□(以下「A」という。)の要求を拒めないことに乗じ,Aに対し,現金等を対償として供与する旨約束をして,平成27年11月16日午前9時58分頃から同日午前11時31分頃までの間,山形県東根市(以下略)所在の「ホテルB」201号室において,A立会の下,被害児童(当時13歳)の臀部に自己の陰茎を擦りつけるなどして,被害児童に,自己を相手に性交類似行為をさせ,もって児童買春をするとともに,児童に淫行をさせる行為をした

第2 被害児童が実母Aの要求を拒めないことに乗じ,Aに対し,現金を対償として供与する旨約束をして,児童買春及び淫行の相手方として同児童を連れてくるように依頼し,その依頼を受けたAにその旨決意させ,Aをして,平成28年9月2日午前10時頃,山形県天童市鍬ノ町2丁目2番40号所在の「マックスバリュ天童店」駐車場内に被害児童(当時14歳)を連れてこさせた上,同日午前11時7分頃から同日午後零時28分頃までの間,山形市(以下略)所在の「ホテルC」203号室において,A立会の下,被害児童に対し,ゲーム機及びゲームソフト(販売価格合計1万5260円)を対償として供与して被害児童と性交し,もって児童買春をするとともに,児童に淫行をさせる行為をした

第3 Aと共謀の上,同日午前11時19分頃から同日午前11時27分頃までの間,前記「ホテルC」203号室において,被害児童(当時14歳)に被告人の陰茎を触らせる姿態及び被害児童の胸部を露出させた姿態などをとらせ,これらを被告人が使用するタブレット端末の動画撮影機能を使用して動画撮影し,その動画データ1点を同端末に記録させて保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為または児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮きせまたは刺激するもの並びに衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出されまたは強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させまたは刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した

ものである。

(証拠の標目)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

○判示全部の事実について

・被告人の公判供述

・被告人の検察官調書(乙2)

・D(甲7),A(甲10)の各検察官調書謄本

・全部事項証明書抄本(甲1)

○判示第1の事実について

・被告人の警察官調書2通(乙4,5)

・A(2通。甲24,25),E(甲30)の各警察官調書謄本

・捜査報告書謄本(甲28,31)

・写真撮影報告書謄本(甲29)

○判示第2,第3の各事実について

・Aの検察官調書謄本2通(甲11,12〔不同意部分を除く〕)

・捜査報告書謄本(甲13)

・写真撮影報告書謄本2通(甲14,15)

○判示第2の事実について

・Fの検察官調書謄本(甲9),同人作成の診断書謄本(甲8)

・捜査報告書謄本(甲17)

・写真撮影報告書(甲16)

○判示第3の事実について

・被告人の警察官調書(乙6)

・Aの警察官調書謄本(甲32)

・捜査報告書謄本(甲34)

・写真撮影報告書謄本(甲33)

(適用法令)

1 罰条

  第1のうち

   児童買春の点 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条,2条2項3号

   児童に淫行をさせる行為の点

          児童福祉法60条1項,34条1項6号

  第2のうち

   児童買春の点 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律4条,2条2項2号・1号

   児童に淫行をさせる行為の点

          児童福祉法60条1項,34条1項6号

  第3      刑法60条,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項2号・3号

2 科刑上一罪の処理

  第1,第2   いずれも刑法54条1項前段,10条(1罪として重い児童福祉法違反罪の罪で処断)

3 刑種の選択

  判示各罪    いずれも懲役刑を選択

4 併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に加重)

5 刑の執行猶予  刑法25条1項

6 訴訟費用    刑事訴訟法181条1項本文(負担)

(量刑の理由)

 被告人は,従前からAに金銭を支払ってAと肉体関係を持っていたが,Aに中学生の娘(被害児童)がいることに目をつけ,Aに対し,被害児童と肉体関係を持たせるように迫り,Aが被害児童を思いやって渋ると,Aにはもう金を払わない旨申し向けるなどして,Aの金銭欲につけ込んで承諾させ,結局,本件各犯行に及んだもので,分別を持ってしかるべき年令であるのに,自らの性欲の赴くまま,年端もいかない被害児童を相手にその解消を図ったものとして,破廉恥極まりないとの非難を免れず,犯行に至る経緯等には酌むべき事情は何もない。被害児童は,軽度精神発達遅滞等の障害を抱えているところ,自分が被告人からされたことの意味も十分分らないまま,母であるAに言われたとおりにして本件各被害に遭い,特に第2の被害に関しては,よく理解できないながらも,大きなショックを受けているとうかがわれ,憐憫の情を禁じ得ない。

 そうすると,本件犯情は悪質といえる。

 そこで,被告人が被害児童の父に損害賠償の一部として80万円を支払ったこと,被告人が罪を認めて反省の言葉を述べていること,次男が情状証人として出廷したほか,妻子らが家族ぐるみで被告人の更生に協力する旨約束していること,被告人が本件により相当期間身柄拘束されていることなどの一般情状も加味して,被告人がした行為に見合った刑として主文の刑を量定した上,今回に限り,その刑の執行を猶予することとする。

(求刑 懲役4年)

  平成29年7月4日

    山形地方裁判所刑事部

           裁判官  兒島光夫

 

児童ポルノ該当例 京都地裁平成12年

深町晋也『家族と刑法 家庭は犯罪の温床か』有斐閣・2021年・72頁

        わいせつ図画販売、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因わいせつ図画販売、わいせつ図画販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)被告事件

 

【事件番号】    京都地方裁判所判決/平成12年(わ)第61号

【判決日付】    平成12年7月17日

【判示事項】    一 いわゆる児童ポルノ法二条三項三号の解釈及び判断方法

          二 右条項の児童ポルノに該当するとされた事例

【参照条文】    児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2-3

【掲載誌】     判例タイムズ1064号249頁

【評釈論文】    別冊ジュリスト179号122頁

          別冊ジュリスト241号122頁

 

       主   文

 

 被告人を懲役一年六月に処する。

 未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

 この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

 押収してあるビデオテープ一三巻(平成一二年押第三三号の20、21、62ないし72)及びベータ方式ビデオテープ四〇巻(同押号の22ないし61)並びに写真集一六冊(同押号の4ないし19)を没収する。

 

       理   由

 

 (罪となるべき事実)

 被告人は、

 一 電話回線を利用してパソコン通信を接続する専門会社ニフティ株式会社が運濱理するパソコン通信ネットワーク「@ニフティ」の会員であるが、同ネットワークの電子掲示板にわいせつ図画及び児童ポルノである写真集等の販売広告を掲示した上、別紙一覧表記載のとおり、平成一一年一一月中旬ころ、及び、同年同月三〇日ころ、同広告を閲覧して購入を申し込んできたAほか一名に対し、男女の性器や性交場面を露骨に撮影した画像を収録したわいせつ図画であるビデオテープ一巻(平成一二年押第三三号の2)及び児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識できる方法により描写した児童ポルノであるビデオテープ一巻(同押号の1)並びに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである写真集一冊(同押号の3)を、同一覧表「販売場所」欄記載の各場所に郵送し同所で同人らに受領させ、代金合計二万五〇〇〇円で販売し、

 二 販売の目的で、同一二年一月一二日、千葉県船橋市東中山〈番地略〉石井荘二〇一号室の被告人方において、前同様のわいせつ図画であるべータ方式ビデオテープ合計九巻(前同押号の32、33、36、40、44、51、58、59、61)、右同様のわいせつ図画であるビデオテープ四巻(同押号の65、70ないし72)並びに前同様の児童ポルノである写真集一六冊(同押号の4ないし19)及び前同様ないし他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるビデオテープ合計九巻(同押号の20、21、62ないし64、66ないし69)、右同様の児童ポルノであるベータ方式ビデオテープ合計三一巻(同押号の22ないし31、34、35、37ないし39、41ないし43、45ないし50、醪ないし57、60)を所持し、もって、販売の目的で、わいせつ図画及び児童ポルノを所持したものである。

 (証拠の標目)〈省略〉

 (争点に関する判断)

 一 弁護人は、判示一の事実(販売)に係る写真集一冊及び判示二の事実(販売目的所持)に係る写真集七冊並びにビデオテープ二巻(ほぼ同一内容であり、VHS方式のものとベータ方式のものとが、それぞれ一巻ずつある。なお、当初は他のビデオテープについても同様の主張をしていたが、第五回公判期日における被告人質間及び弁論によると、この主張は撤回したと認められる。)について、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)二条三項三号に規定する児童ポルノに該当しない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。そこで、これらの写真集及びビデオテープが児童ポルノに該当すると認定した理由を説明する。

 二 児童ポルノ法二条三項三号の解釈

 児童ポルノ法二条三項三号にいう児童ポルノ(以下「三号児童ポルノ」という。)とは、写真、ビデオテープその他の物であって、(1)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって(2)性欲を興奮させ又は刺激するものを(3)視覚により認識することができる方法により描写したものに該当するものである(数字は条文にはないが便宜上付け加えた)。本件では、(1)、(3)は客観的に判断することができることから、特に(2)の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の意味内容が問題となる。

 そもそも、児童ポルノの販売等が禁止され、さらに、これらの目的での児童ポルノの製造、所持等が禁止されているのは、これらの行為による児童に対する性的搾取及び性的虐待が、児童ポルノの対象となった児童の心身に有害な影響を与え続け、児童の権利を著しく侵害するからに他ならない(児童ポルノ法一条参照)。

 このように、児童の権利を保護することの重要性にかんがみて、児童ポルノ法は、刑法におけるわいせつの定義、すなわち、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、幣通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」という最高裁判所の判例(最高裁昭和三二年三月一三日大法廷判決参照)によって確立されている定義とは異なった観点から児童ポルノの範囲を定め、性欲を興奮又は刺激せしめる点は必要であるが、しかし、「徒に」興奮又は刺激しなくても処罰の対象とし(この点で刑法よりも規制対象を拡大しているといえる。)、また、禁止される行為の範囲も業としての貸与、頒布等の目的での製造等にまで広げ、国内外を問わず処罰することとしたのである(同七条参照)。

 そうだとすると、問題となっている写真、ビデオテープ等が、ことさらに扇情的な表現方法であったり、過度に性的感情を刺激するような内容のものである場合などに限るなど、特別な限定をしなくても、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められる以上は、三号児童ポルノに該当すると解すべきである。弁護人は、「性欲を興奮させ又は刺激する」との規定の意味を、児童のポーズが意味もなく局部を強調するものであったり、構図などから男女の性交を暗喩していると認められるような場合に限定すべきであると主張するが、そのように限定して解釈すべき理由はない。

 三 判断の方法

 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。

 もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。

 そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。

 四 各写真集等についての認定

  1「Bel Ange(ベル・アージュ)可憐な天使写真集」

 ヨーロッパ風の建物内で、ヨーロッパ系と思われる少女(六歳、八歳程度)を写した写真集である。

 全八〇頁(表紙を除く。以下同じ)中、全裸写真が約二〇頁を占める上、その他も下着姿(パンツのみを着用した写真や下着をはだけて胸部を見せているような写真もある。)などである。特に扇情的なポーズをとった写真や性器を強調するような写真はなー、性器にはぼかしが入っているものの、着衣の一部をことさらにめくって肌を露出した写真や臀部や胸部を大きー写した写真がある。また、衣服を着用するのが通常である居室などにおいて少女の裸体を撮影し、ベッドの上でことさらに下着の一部を着けていない姿を撮影しているが、このような写真を撮影する必然性ないし合理性も認められず、性欲を興奮又は刺激するのに十分な内容である。

 写真集全体の構成を見ても、前記のとおりヌード写真ばかりであり、さらに、表紙には「ユーロ美少女たちの青くみずみずしいプライベートヌード」とうたって、ヌード写真であることを売りにしているものであって、芸術性等が性的刺激を緩和するとは認められない。

  2 「美少女ヌード写真集 おともだち 理恵と亜由香」

 六から八歳の少女と他一名の少女の写真集である。

 全六四頁中、裸体等の写真が約二七頁を占めている上、その他も上半身が体操着で、下半身に下着だけを着用していたり、スクール水着をめくって、胸部を見せたり、体を布にくるんで、裸体を想像させるような写真である。そして、少女があえぐような表情をしたり、性器自体はぼかしているものの、足を開かせて性器が写真に収まるようなポーズをとらせており、扇情的な表現が認められる。性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

 なお、右のように扇情的な表現を用いていること、表紙に「美少女ヌード写真集」と記載して、ヌードを売りにしていることからすると、特に性的刺激を緩和する表現は認められない。

  3 「ロリコンハウス6月号通巻第7号」

 グラビア、漫画、文章による記事からなる雑誌であり、グラビアに、六から八歳の少女が入浴している写真と四から七歳の少女の全裸写真がある。

 全一七八頁中、乳首等を撮すなどした裸体等の写真が約二一頁を占める。全体に占める裸体等の写真の比率は比較的少ないが、枚数自体は多い。裸体等の写真部分のみがカラー頁となっており、雑誌の冒頭に掲載するなど、当該雑誌の中心を占めるといってよい。また、風呂内でポーズをとっていたり、エプロンのみを着けた少女が喫茶店の店員として登場する場面があるが、そのような演出をする必然性はなく、扇情的効果のある表現と認められ、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

 また、写真にせりふをつけて漫画形式にした読み物があるが、ストーリーの展開上、少女に着替えをさせて少女の裸体等を見せる必要は認められない。なお、当該雑誌の他の記事は、少女との性交、性交類似行為に関する記事、少女を誘う方法を教示する記事などであり、表紙に「世界一のロリコン専門誌」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、澁澤龍彦の少女に関する文学作品を紹介する記事があるが、ごく一部に過ぎず、性的刺激を緩和するに至っていない。

  4 「ロリコンハウス6月号通巻第13号」

 3と同様の雑誌であり、一〇から一四歳の少女が着衣の一部を脱いだ写真と一四から一八歳の少女が入浴している場面の写真グラビアがある。

 全一七八頁中、乳首や臀部が映った裸体等の写真は約二一頁を占める。全体に占める裸体等の写真の比率は比較的少ないが、枚数自体は少なくない。

 裸体等の写真部分のみがカラー頁となっており、雑誌の冒頭に掲載するなど、当該雑誌の中心を占めるといってよい。表現方法を見ても、ことさらに乳首が見えるように着衣をめくったり、臀部を強調するような写真があり、演出も、裸体に泡をつけたり、シャワーを使ったりする必然性がなく、ガラスに向かってキスをするなど扇情的な部分がある。性欲を興奮又は刺激するに十分である。

 なお、当該雑誌の他の記事は、少女との性交に関する記事、少女との性交場面がある漫画等であり、表紙に]世界一のロリコン専門誌」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、エドガー・アラン・ポーと少女の関係についての文学評論等があるが、ごく一部に過ぎず、性的刺激を緩和するに至っていない。

  5 「MAGIC BEAUTYくりぃむれもん」

 四から七歳の少女の写真集である。

 全三八頁中(ただし、切り取って使用する部分を除く。)、全裸写真が約九頁あり、その他もヌード写真ばかりである。

 性器部分は黒く塗潰されており、着衣をまとっている写真もあるが、着衣は透けて見える生地を使っている。少女がアイシャドーや口紅を濃く塗って化粧をして、ワイングラスを持っているなどの演出をしているが、前記のとおり、全裸写真などが写真集の中心を占めていることに照らせば、成人女性をカリカチュアするなどの特段の意味のある表現とはいえず、扇情的効果を狙っているものと認められる。また、着衣の一部を脱いで性器や乳首を覗かせたり、少女が流し目をしたり、臀部を強調するような写真があり、中には性器が見えるように股を若干開いたポーズをとったものもある。表現方法は明らかに扇情的であって、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

 表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、ロリータ写真集と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、特に性的刺激を緩和する表現は認められない。

  6 「NEW FACE」

 二から六歳の少女の写真集である。

 全五六頁中、約三七頁以上が全裸である。その他も、透けて見える生地を体にまとったようなヌード写真に準ずるものである。陰部は黒く塗潰してあるものの、乳首等は写っている。

 また、股を開いて性器が見えるようなポーズをとったり、体の線を示すように上体を反らせたり、臀部を強調するように腰をひねったような写真がある。バドミントンのラケットを持つている写真があるが、全裸でラケットを持っている姿を写真に撮る必然性は認められない。描写方法も性的関心を引くようなものと認められ、性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

 なお、随所にゲーテやリルケ等の詩を引用しており、一部に写真の内容に沿う詩も引用されているが、写真との関連性は薄く、こじつけといえるもので、表現の主要部分は前記写真であることが明らかである。また、表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、「ロリータ写真集」と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、特に性的刺激を緩和するような表現は見あたらない。

  7 「少女の夢。」

 ヨーロッパ風の田園風景や邸宅内等で、六から八歳、七から一〇歳、一〇から一二歳等のヨーロッパ系と思われる少女を撮影した写真集である。

 全一一二頁中、約七五頁が全裸写真であり、性器が写っていたり、乳首が写っているものが多い。全裸でなくとも、下半身が裸であったり、着替えをする場面など裸体等の写真がほとんどを占める。

 性交を暗示させるような扇情的なポーズをことさらにとらせた写真は見当たらないものの、田園風景のもとで裸体等になったり、邸宅内の台所や応接室、ピアノや絵画の前なぞで通常裸体等になる必然性は認められない。さらに、着衣の一部をめくる姿など性器等が見えるような構図が多い上、逆立ちをしたり、股を若干開くなどして、ことさらに性器が見えるようにしたポーズや、真下から脚部と性器のみが見えるように撮影している場面があり、性欲を興奮又は刺激するに十分である。

 なお、各少女について説明文がついているが、特別に意味があるようなものでなく、また、表紙に全裸の写真を掲載し、ヌード写真集であることが一見して分かる体裁であり、性的刺激を緩和する表現は特に認められない。

  8 「純少女」

 前記「MACIG BEAUTYくりぃむれもん」とほぼ同一内容の写真集である。

 全四八頁中、約一五頁が全裸であり、全裸でない写真でも性器が写っている写真が多い。性器をぼかしたりせず、そのまま掲載されている写真すらあり、「MACIG BEAUTYくりぃむれもん」よりも性欲を興奮又は刺激するに十分な内容である。

 そして、表紙に、全裸の少女の写真を掲載した上、美少女ロリータ写真集と記載して、ロリコン趣味の人の興味を引くような体裁であって、性的刺激を緩和するような表現は特に認められない。

  9 「のぞき屋1・2・3・4」

 五から七歳と六から八歳の東南アジア系と思われる少女が、全裸でフリスビーをする場面等が撮彰されているビデオである。

 フリスビー場面は約一〇分間と比較的長く、児童の乳首や性器が映っている場面がある。児童には特に演技をさせている様子は認められないが、少女が自発的に全裸でフリスビーをするとは到底考えられない。臀部をアップにした場面があり、アップでなく、また短時間ではあるが、性器が見える場面が何度も登場し、フリスビー自体の動きとは関係なく、胸部や臀部を撮影し、ときには臀部や陰部が見えるように下方から撮影したり(なお、性器をモザイクでぼかしたりしていない。)、なかには、一分以上にわたって臀部や脚部を撮している場面があり、表現方法に性器等を強調する傾向が窺える。性欲を興奮又は刺激する内容といえる。

 全裸でフリスビーをする表現上の必然性は認められない上に、同場面の前後には、児童の着替え、水浴び、滑り台で遊ぶ少女の下着などを盗み撮りした場面が脈絡なく延々と続いており、児童の健全な発育を記録するようなものとは到底認め難く、性的刺激を緩和するような表現は全く認められない。

 五 故意について

  1 被告人は、右四の1ないし9の写真集等を個人の観賞用として入手し、その内容を熟知していたものであって、故意に必要な認識があるのは明らかである。

  2 もっとも、被告人は、捜査段階から右写真集等の一部について児童ポルノに該当しないと判断していた旨供述し、公判廷でも同様の供述をしている上、専ら写真集についてのみ広告を出していたことなど、写真集は適法であると信じていたことに沿う事実もある。

 しかし、被告人自身が児童ポルノ法の施行前に警察庁のホームページで同法の内容を調べ、同法の規制内容を知っていたこと、被告人は美少女写真集を売りますという広告をパソコン通信に掲示していたが、パソコン通信の管理者からこれを削除され、警告を受けていたこと、同広告中には被告人自身も児童ポルノと認めているものが含まれていること、被告人が問い合わせを受けた際などに送る商品リストには、「のぞき屋1・2・3・4」について、以前は市販されていたが平成一一年一一月以降は販売していない旨の注記があり、被告人自身も児童ポルノ法施行後は市販されていないことを知っていたと認められること、写真集等の中には販売価格が三万円、五万円とかなり高額のものが含まれていたこと、さらに、捜査段階において、右写真集の一部について、自ら性的な剌檄を受けるし、もしかしたら児童ポルノに該当するかも知れないと思っていた旨供述していることなどからすると、右誤信に相当な理由は認められない。

 なお、被告人は、児童ポルノ法施行後に、テレビのコマーシャルの中に半裸の少女が出ていたこと、テレビの番組の中で外国人の少女が全裸で動いている姿が放映されたことから、右写真集等も児童ポルノに該当しないと考えた旨供述する。しかし、公序良俗に反するような放送は放送法三条の二第一項一号で禁止され、そのための厳格な内部基準(コード)があるのが通常である上、テレビのコマーシャル番組では、児童の裸体等が写る時間が短く、性器等を強調する表現もないのが通常であって、さらに、宣伝や娯楽のために、演出に工夫が凝らされている場合が多いので、児童ポルノには該当しないのが通例である。したがって、右写真集等のように児童の裸体等ばかりを集めたものとは、格段に性的刺激の程度が違うのであるから、これも相当な理由となるものでない。

  3 よって、故意も認められる。

 (法令の適用)

 被告人の判示所為のうち、わいせつ図画の販売及びわいせつ図画販売目的所持の点は包括して刑法一七五条に、児童ポルノ法七条一項、二項に、それぞれ該当するところ、右は一個の行為が二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い児童ポルノ法違反の罪の刑で処断し、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してあるビデオテープ一三巻(平成一二年押第三三号の20、21、62ないし72)及びベータ方式ビデオテープ四〇巻

(同押号の22ないし61)並びに写真集一六冊(同押号の4ないし19)は、判示わいせつ図画販売目的所持ないし児童ポルノ法違反(販売目的所持)の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないから、同法一九条二項本文を適用してこれらを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

 (量刑理由)

 本件は、パソコン通信を通じてわいせつ図画及び児童ポルノ(以下「児童ポルノ等」という。)を販売し、販売目的で児童ポルノ等を所持したという事案である。

 サラ金への借金返済などから生活が困窮したため、児童ポルノ等の販売をして金を稼ごうとしたという動機は誠に安易である。たびたび削除されたにもかかわらず、パソコン通信の掲示板に児童ポルノ写真集を販売する旨の広告を出していたこと、所持していた児童ポルノ等の数も決して少なくなく、実際に利得を得ていることなど、犯情は悪質である。また、販売または所持にかかる児童ポルノ等には、児童の性交場面などの痛々しい児童虐待場面が写されたものがあり、児童の心身に与えた有害な影響は軽視できない。

 しかし、もともとは個人的趣味で集めた児童ポルノ等を販売したもので、顕著な計画性や営業性は認められないこと、一貫して犯行を認めて反省していること、前科前歴はないこと、相当長期間勾留されたこと、勤務先を諭旨解雇されたこと、既に児童ポルノ等は押収済みであり、再犯に及ぶ可能性が低いことなどの事情を考慮すると、被告人には主文の刑を科した上、その執行を猶予するのが相当である。

 よって、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・今井俊介、裁判官・芦高 源、裁判官・綿貫義昌)

 別紙 一覧表〈省略〉

売春型児童淫行罪 福岡地裁小倉支部 昭和35年

深町晋也『家族と刑法 家庭は犯罪の温床か』有斐閣・2021年・67頁

児童福祉法違反被告事件

福岡家庭裁判所小倉支部判決

昭和35年3月18日

【判示事項】    --児童に淫行させる行為を教唆した事例--

【参照条文】    児童福祉法34-1

【掲載誌】     家庭裁判月報12巻7号147頁

 

       主   文

 

 被告人を懲役六月に処する

 被告人に対しては本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する

 訴訟費用は全部被告人の負担とする

 

       理   由

 

 被告人は福岡県遠賀郡○○町○○区○○○○亡N子が金融業を営む被告人の妻○ヨより金融を受けていた関係より同女を識るに及び同女が生活費に窮し被告人に対し「金の返済ができないときは娘M子(昭和十九年五月十日生)を犠牲にしてもよいから奥さんに内緒の金を貸してくれ」と金員の借用方を申し向けるや同女に対し約二回にわたり合計約金一万三、四千円を貸与したが同女がその支払に窮するや右M子がいまだ十八才未満の児童であることを知りながら昭和三十三年六月頃前示N子の夫であるS方で同人に対し「家がきつい時は娘一人位犠牲にしていいではないか」と被告人を相手方として家計の援助を代償として右M子に淫行させるよう申し向け因つてその後同人をして家計の貧困に乗じ娘M子に被告人と淫行をさせることを決意させるに至らしめよつて娘M子をして同年八月初頃より翌三十四年十月二十五日頃までの間右S方外三個所に於いて前後二十数回にわたり被告人を相手方として淫行させもつて右Sの児童に淫行させる行為を教唆したものである。

 判示事実は

一、被告人の当公廷での供述

一、証人Sの当公廷(第一一回第四回)での供述

一、証人M子の当公廷での供述

一、検察官のM子に対する昭和二十四年十一月二十二日附同月二十四日附各供述調書中の各供述記載

一、検察官のSに対する供述調書中の供述記載

一、司法警察員の被告人に対する供述調書中の供述記載

一、鹿児島市長平瀬実武作成のM子に対する身上調査照会に対する回答書中同女の生年月日が昭和十九年五月十日である旨の記載

を綜合してこれを認める

 弁護人は

(一)児童福祉法第三十四条第一項第六号所定の児童に淫行させる行為には児童を直接相手方として淫行をした場合は含まれないので被告人は無罪である旨主張するので按ずるに弁護人の主張するように児童に淫行させる行為なる概念中には児童を直接相手方として淫行した者が包含されないのは勿論であるが本件は被告人が児童であるM子の父親であるSに被告人を相手方として娘M子に淫行させるよう教唆したとして起訴されているのであつて被告人が児童であるM子を相手方として行つた淫行について問擬しているのではないので弁護人のこの点に関する主張は採用することはできない

(二)児童を相手方として淫行する行為と児童に淫行させる行為との関係は贈収賄罪における贈賄行為と収賄行為との関係に相似して居り以前に於いては贈賄行為は罰せられていないところより贈賄行為を収賄行為の必要的共犯若しくは教唆犯として処罰していたが昭和十六年の徹正により贈賄行為を処罰することとなつてよりは贈賄行為を収賄行為の共犯として刑事責任を問う趣旨でないことより考えると本件も児童を相手方として淫行する者が児童に淫行させる者の教唆犯としての刑事責任はないこととなり本件は無罪であると主張するが児童を相手方として淫行した者を処罰する規定がない現在贈賄行為と同様に解釈するわけにはいかないので弁護人のこの点の主張も採用することができない

(三)若し被告人が無罪でないとしても被告人は児童福祉法違反行為を教唆したものではなくその従犯であると主張するが証人Sの当公廷での供述に依ればSが当時家計に窮していたことは認められるが被告人の苦しいときには娘一人位犠牲にしてもいいではないかと申し向ける行為がなかつたならば娘M子に淫行をさせるまでの犯意を生ぜしめなかつたことが認められるので被告人の言動がSの児童福祉違反行為を容易ならしめた程度のものとは認められないので弁護人のこの点に関する主張も採用することができない。

 次に被告人は児童であるM子が十八才未満であつたことは知らなかつた旨弁疎するが被告人の当公廷でのM子は十七才か八才と思つていた旨の供述並に証人Sの当公廷での被告人がSに家がきついようだから娘一人位犠牲にしてもよいじやないかと申し向けた時娘はまだ子供だからといつた旨の供述、検察官のM子に対する昭和三十四年十一月二十二日附供述調書第九項中同人の供述として被告人は私がまだ中学生であるということを知つていたと思いますというのは私が今年四月から学校に行くようになりましたが被告人は学校だけは真面目にやらんといかんぞと云つて居りました旨の供述記載を綜合すれば被告人はM子が満十八才未満の児童であつたことを知つていたことは明らかであるので被告人の弁疎は採用することができない。

 法律に照すと被告人の判示所為は児童福祉法第六十条第一項第三十四条第一項第六号刑法第六十一条第一項にあたるので所定刑中懲役刑を選択しその所定刑期内で被告人を懲役六月に処する、ただし諸般の事情より被告人には刑の執行を猶予する情状があると認めるので刑法第二十五条第一項により本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人をして全部これを負担させることとする

 よつて主文の通り判決する (裁判官 大津浅吉)

 

児童淫行罪は起訴されなかったわいせつ目的誘拐 大津地裁令和2年

深町晋也『家族と刑法 家庭は犯罪の温床か』有斐閣・2021年・40頁

詐欺,わいせつ目的誘拐,愛知県青少年保護育成条例違反,傷害被告事件

 

【事件番号】    大津地方裁判所判決/令和元年(わ)第494号、令和元年(わ)第653号、令和元年(わ)第710号、令和2年(わ)第8号

【判決日付】    令和2年9月16日

【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 被告人を懲役5年に処する。

 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

 被告人は,「Y1’」なる架空の少年になりすまし,A(その氏名及び生年月日は別紙1のとおり。)とソーシャルネットワーキングサービス等により連絡をとりあっていたものであるが,

第1 A(当時16歳)が「Y1’」の存在を信じて好意を寄せていることを利用し,借用名目で現金をだまし取ろうと考え,別紙2「欺罔年月日」欄記載のとおり,平成30年10月10日頃から平成31年3月11日頃までの間,別紙2「欺罔場所」欄記載の各場所から,Aに対し,コミュニケーションアプリ「LINE」の通話機能等を利用して,真実は,申し向けたような事実はなく,借り受けた現金は自己の生活費等に費消する意図であり,同現金を返済する意思も能力もないのに,その情を秘し,その都度,別紙2「欺罔文言」欄記載の嘘を申し向け,同人に,それぞれその旨誤信させ,よって,別紙2「送金・振込日」欄記載のとおり,平成30年10月17日から平成31年3月11日までの間,13回にわたり,別紙2「送金・振込場所」欄記載の場所から,別紙2「送金・振込先」欄記載の,被告人名義の株式会社□□銀行高木瀬支店に開設された普通預金口座又は株式会社△△銀行に開設された通常貯金口座に別紙2「送金・振込金額」欄記載の各金額をそれぞれ送金又は振込入金させる方法により,Aから現金合計90万8000円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。(令和2年6月26日付け訴因変更請求書による訴因変更後の令和元年11月26日付け起訴状記載の公訴事実関係)

第2 Aがなおも「Y1’」の存在を信じて好意を寄せていることを利用し,Aを誘拐して,同人とホテルで性交しようと考え,令和元年8月6日頃から同月16日までの間,滋賀県内又は京都市内において,「Y1’」になりすまして,A(当時17歳)に対し,携帯電話のコミュニケーションアプリを使用して「Aに会いたい」,「僕とAが2人で会うと,未成年だしすぐ警察に保護されて,もう会えなくなるかもしれない」,「Aは,お父さんや警察に尾行されていたり,盗聴されているかもしれない」,「誰にもつけられていないことを確認するため,二,三日,Y1’’(被告人の呼称)と一緒に行動してほしい」,「8月16日にJR大垣駅近くのショッピングモールでY1’’と落ち合ってほしい」,「Y1’’の言うことにNGはなし。NG出したら会えなくなる」などと申し向け,家出をして自己の下へ来るように誘惑し,Aにその旨決意させ,同月16日午後零時5分頃,岐阜県大垣市(以下略)に誘い出して同人と合流し,同日午後3時16分頃,名古屋市名東区(以下略)ホテル××客室に同人を連れ込んで,同月21日午前11時53分頃まで,同ホテルに宿泊させて自己の支配下に置き,もってわいせつの目的でAを誘拐した。(令和2年1月15日付け起訴状記載の公訴事実関係)

第3 A(当時17歳)が18歳に満たない青少年であることを知りながら,令和元年9月1日午前零時8分頃から同月2日午後6時14分頃までの間に,愛知県稲沢市(以下略)所在の◇◇205号室において,専ら自己の性的欲望を満たすだけの目的で,Aと性交し,もって青少年に対して,いん行をした。(令和元年9月13日付け起訴状記載の公訴事実関係)

第4 令和元年9月1日頃,前記◇◇205号室において,A(当時17歳)に対し,その頸部を両手やフェイスタオルを用いて複数回にわたり絞めつける暴行を加え,よって同人に対し,加療約14日間を要する頸椎捻挫,前頸部圧挫創等の傷害を負わせた。(令和元年12月24日付け起訴状記載の公訴事実関係)

(事実認定の補足説明)

 被告人は,公判廷において,判示第2の事実(わいせつ誘拐)について,Aを誘い出す際に,「警察」に言及したことは一切ない旨供述する。

 しかし,Aは,「Y1’」になりすました被告人と通話した際,同人から,「僕とAが2人で会うと,未成年だしすぐ警察に保護されて,もう会えなくなるかもしれない」,「Aは,お父さんや警察に尾行されていたり,盗聴されているかもしれない」などと言われた旨供述するほか(甲67,71),父親らが厳しい監視の目を向ける中,家出をしてまで,被告人と落ち合って,行動を共にするようになった経緯や心境等について具体的かつ詳細に供述している。その供述内容は,自然で,不合理な点はない上,被告人及びAの合流後の行動状況を含め,関係証拠によって優に認定することができる前後の事実関係にもよく整合している。被告人自身,捜査段階においては,複数回にわたり「警察」に言及してAを誘い出したことを認めて,上記A供述に沿う供述をするとともに,そのようにして誘おうと考えた理由等についても具体的に供述しており,その限りにおいて不自然な点もない。Aの供述は,上記被告人の発言部分も含め,十分に信用することができる。一方,被告人の上記公判供述は,Aを誘い出した場所や合流後の行動状況等に照らし,それ自体,不自然・不合理である上,被告人は,捜査段階の上記具体的供述と異なる供述をする理由につき,合理的な説明をしておらず,少なくとも,Aの供述に反する限りにおいて,信用することはできない。

(累犯前科)

 被告人は,平成26年1月30日松山地方裁判所で強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の各罪により懲役1年2月に処せられ,平成27年3月19日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙7)によって認める。

(法令の適用)

1 罰条

 (1)判示第1の各行為  いずれも刑法246条1項

 (2)判示第2の行為   刑法225条

 (3)判示第3の行為   愛知県青少年保護育成条例29条1項,14条1項

 (4)判示第4の行為   包括して刑法204条

2 刑種の選択(判示第3及び第4の各罪について)

              いずれも懲役刑を選択

3 累犯加重        刑法56条1項,57条(判示第1ないし第4の各罪は前記前科との関係で再犯であるからそれぞれ再犯の加重)

4 併合罪の処理      刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第4の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重〔ただし,短期は判示第2の罪の刑のそれによる。〕)

5 未決勾留日数の算入   刑法21条

6 訴訟費用の処理     刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)

(量刑の理由)

1 被告人は,仕事も収入もなく,生活費に困窮する中,SNSを通じて知り合った未成年の被害者が,被告人の作り出した中学3年生の「Y1’」に強い恋愛感情を寄せていることを知ると,これに乗じて,借用名目で金銭をだまし取ろうと企て,本件詐欺(判示第1)の各犯行に及び,その後,被害者と「Y1’」が連絡を取り合っていることを知った被害者の父親から,二度と連絡を取らないよう叱責されるなどしたにもかかわらず,その数か月後には,被害者への連絡,接触を再開し,被害者がなおも「Y1’」に強い恋愛感情を寄せていることに乗じて,被害者を自己の性欲のはけ口として利用しようと企てて,「Y1’」になりすまして被害者を誘い出し,わいせつ誘拐(判示第2),いん行(判示第3)及び傷害(判示第4)の各犯行に及んだ。

 いずれの犯行も,未成年者である被害者の未熟さや無垢な恋愛感情に付け込んだ卑劣かつ悪質な犯行である上,被告人は,本件と同様にその未熟さに付け込んで未成年の被害者を脅迫し,陰部等の写真を送信させたという強要及び児童ポルノの製造の罪による累犯前科がありながら,上記のような身勝手かつ自己中心的な動機,経緯で本件各犯行に及んだものであり,これら犯行について強い責任非難を免れない。被害者がこれら一連の犯行によって受けた精神的・肉体的な苦痛は計り知れず,被害者及び両親が被告人に対する厳罰を望むのも当然である。以上に加え,各犯行に関する事情として,以下の点を指摘することができる。

 (1)本件詐欺(判示第1)について

 被告人は「Y1’」の身を案じる被害者の不安を煽るなどして,合計13回にもわたり現金をだまし取り,その被害金額は合計90万8000円もの多額に上っている。また,被告人は,その供述によれば,これまでもSNSを通じて知り合った複数の女性から,同種の手口で現金をだまし取っていたというのであって,本件犯行の反復・継続性と併せ考慮すると,本件犯行は,常習性の高い犯行といえる。

 (2)本件わいせつ誘拐(判示第2)及びいん行(判示第3)について

 被告人は,前記のような経緯から,被害者の父親が「Y1’」に対し強い警戒感を抱いていることを認識しながら,被害者の「Y1’」に対する恋愛感情に付け込んで,自己の性欲のはけ口にしようと考え,警察の捜査が及ばぬよう策を講じつつ,「Y1’」に会うためには被告人と一緒に過ごす必要があるなどと言葉巧みに告げて,被害者を家出させ,名古屋市内のホテルの客室に連れ込んで宿泊させるなどして,約5日間にわたり,被害者を自己の支配下に置いて誘拐した。

 また,被告人は,被害者の年齢を熟知しつつ,自己の性欲の赴くまま,「Y1’」に対する恋愛感情に乗じて,避妊の措置もとらずに被害者と性交し,本件いん行に及んだ。本件いん行は,本件誘拐後の犯行ではあるが,誘拐中及びその前後を通じ,多数回にわたり同種行為が繰り返される中で行われたものであり,常習的な犯行である。

 (3)本件傷害(判示第4)について

 被告人は,被害者が意識を失い,失禁するほどの時間と強さで,その首を両手で絞め,その後もタオルを巻き付けてその首を絞めている。傷害の程度は,結果的に加療約14日間にとどまったものの,生命を脅かしかねない危険な犯行というべきである。また,被告人は,その供述するところによれば,「Y1’」に会えないことを悲観して「死ぬ」と言い出した被害者に,死ぬことがどれほど苦しいものかを思い知らせて,思いとどまらせるために本件傷害の犯行に及んだなどというのであるが,仮にこれを前提としても,被害者を死のうと思うほどに追い詰めたのは,被告人が「Y1’」になりすまして被害者をだまし続けたからにほかならず,そのことを認識しながら,真実を告げることもなく本件傷害の犯行に及んだことは卑劣かつ自己中心的であり,強い非難を免れない。

 (4)以上のような犯情に照らすと,本件各犯行は,個別にみてもそれぞれ相応に重いというべきであり,併合の利益を考慮しても,被告人は相当期間の実刑を免れないというべきである。

2 他方,被告人は,本件各犯行を概ね認め,二度と被害者に連絡をしない旨述べるなどして一定の反省の態度を示しているほか,被害者側に拒否されているものの,5万円を弁護人に預けて被害弁償の申し入れをしている。これらは被告人のために酌むことのできる事情である。

3 そこで,前記1の犯情に加え,前記2の被告人のために酌むことのできる事情も併せ考慮し,被告人に対しては,主文掲記の刑を科すのが相当であると判断した。

 よって,主文のとおり,判決する。

(求刑-懲役5年の実刑)

  令和2年9月16日

    大津地方裁判所刑事部

        裁判長裁判官  大西直樹

           裁判官  横井裕美

           裁判官  松浦和徳

 

                         (別紙1及び2省略)

 

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