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2021年10月

会社法判例百選第3版 83 4版80事件 解説者交替なし 社債管理者の責任 名古屋高裁平成21年5月28日 解説は森中京大学教授です。

会社法710条2項について責任を否定したものです。

神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・332頁。

損害賠償請求控訴事件

名古屋高等裁判所判決/平成19年(ネ)第923号

平成21年5月28日

【判示事項】    証券会社は,社債を販売する際に,投資家に対して,その投資家の知識経験等により社債取引に伴うリスクの内容や取引の仕組みの重要部分を理解しているような場合を除き,倒産した場合のリスクや信用リスクを知るための方法及び信用リスク回避方法等を説明する義務があるとされた事例

【参照条文】    民法709

          民法715

【掲載誌】     判例タイムズ1336号191頁

          判例時報2073号42頁

          LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】    別冊ジュリスト205号174頁

          日本法学81巻1号221頁

 

       主   文

 

 1 原判決中,控訴人A及び同Cに関する部分を次のとおり変更する。

  (1) 被控訴人X1証券は,控訴人Aに対し,525万8368円及びこれに対する平成12年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2) 被控訴人X1証券は,控訴人Cに対し,29万1576円及びこれに対する平成12年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 控訴人A及び同Cの被控訴人X1証券に対するその余の請求並びに被控訴人銀行に対する請求をいずれも棄却する。

 2 その余の控訴人らの被控訴人らに対する控訴をいずれも棄却する。

 3(1) 控訴人Aと被控訴人X1証券との間においては,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その3を同被控訴人の負担とし,その余を控訴人Aの負担とし,

  (2) 控訴人Cと被控訴人X1証券との間においては,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を同被控訴人の負担とし,その余を控訴人Cの負担とし,

  (3) その余の控訴人らと被控訴人X1証券との間においては,控訴費用は,その余の控訴人らの負担とし,

  (4) 控訴人らと被控訴人銀行との間においては,控訴費用は,控訴人らの負担とする。

 4 この判決の第1項(1)(2)は,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

  (1) 原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。

  (2) 被控訴人らは,控訴人Aに対し,連帯して916万0008円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年1月28日から,被控訴人銀行においては平成16年12月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 被控訴人らは,控訴人Bに対し,連帯して1094万9752円及びこれに対する次の各金員を支払え。

   ア 被控訴人X1証券においては,上記1094万9752円のうち759万6534円に対する平成12年10月12日から,うち71万0824円に対する平成13年2月19日から,うち97万6457円に対する同年3月7日から,うち97万6533円に対する同月8日から,うち68万9404円に対する同月19日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。

   イ 被控訴人銀行においては,上記1094万9752円に対する平成16年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員。

  (4) 被控訴人らは,控訴人Cに対し,連帯して76万3334円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年1月28日から,被控訴人銀行においては平成17年2月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (5) 被控訴人らは,控訴人Eに対し,連帯して75万9653円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年10月12日から,被控訴人銀行においては平成17年2月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (6) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

  (7) 仮執行宣言

 2 控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人両名)

  (1) 本件控訴をいずれも棄却する。

  (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2 事案の概要(以下,略称は原判決の表記に従う。)

 1(1) 本件は,マイカル社(原判決2頁15行目参照)の無担保社債を購入し同社の更生計画に基づいて一部のみの償還を受けるにとどまった控訴人らが,①上記社債を販売した被控訴人X1証券については,その販売時にこれを投機的とする格付の存在や社債の市況等を控訴人らに説明する義務を怠り,また,その販売後にも情報提供や助言をする義務を怠ったことにつき,民法709条の不法行為責任又は民法715条の使用者責任があるとして,②上記社債の社債管理会社であったX7銀行等(後に被控訴人X10銀行が承継)については,マイカル社破綻のわずか1か月前にマイカル社やその関係会社から担保の供与を受けたことにつき,旧商法(平成17年法律第87号による改正前の商法。以下同じ。)311条の2第2項の責任又は同条1項の責任(旧商法297条の3違反。別紙旧商法関係条文参照)があるとして,被控訴人らに対し,連帯して控訴人らの被った損害(別紙請求額一覧表参照)の賠償とその遅延損害金の支払(被控訴人X1証券については各社債購入の日から,被控訴人銀行については訴状送達の日の翌日から)を求めた事案である。

  (2) 原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として控訴した。なお,1審相原告G及び同Dは控訴をしなかったため,両名の請求は当審の審理対象ではなくなった。

 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり当審における主張(原審での主張を敷衍するものを含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

  (1) 被控訴人X1証券に対する請求(被控訴人X1証券関係)

   ア 控訴人らの主張

    (ア) 説明義務,情報提供・助言義務の有無・内容について(争点(1)ア)

     a 原判決は,社債の信用リスクにつき,一般投資家であれば通常理解していると判示しているところ,確かに,平成8年に適債基準が撤廃され,また,銀行による肩代わり償還も行われなくなり,社債のデフォルトが生じて一般投資家にも損失が発生した例も生じた。しかし,社債の信用リスクは,証券会社や機関投資家には周知の事実であっても,一般投資家はこのリスクにつき気にしなくてよい程度の認識しか有していなかったのであって,これを一般的な常識に属する事項として,その説明義務がないとすることは,不当である。また,流動性は一般投資家にとって唯一の信用リスク回避手段であるから,流動性リスクは,信用リスクに収れんないし包摂されるものではなく,証券会社はこれについても説明義務とりわけ助言義務を負う。

     b 平成12年当時は,流通業界は深刻な経営難の状態にあり,同年2月にはスーパーの長崎屋が,同年7月には百貨店のそごうが相次いで破綻しており,このころには上場企業の倒産は珍しいことではなくなっていたところ,マイカル社についても,業績下降が続き,格付会社も格下げを行うなどしていたのであるから,被控訴人X1証券は,顧客に信用リスクを意識すべきことを注意喚起するためにも,最低限,マイカル社の業績が下降しており赤字状態であって再建中であることを顧客が理解できる形で説明する必要があった。

     c 原判決は,内閣府令第2号様式(原判決61頁7行目から同頁13行目までを参照)を根拠に,依頼格付(同6頁13行目参照)のみを顧客に示せばよいとするが,不当である。各格付機関の格付(本件26回債,27回債〔原判決3頁7行目参照〕につき,別紙格付推移一覧表参照)は当該格付機関の意見表明であって絶対的なものではなく,勝手格付(同頁14行目参照)における投機級の格付が信用リスクの投資判断において重要な情報であることには変わりがないから,証券会社において依頼格付が唯一絶対的なものであるかのように受け取れる形で説明して勧誘することは許されないし,勝手格付であっても,指定格付機関のうち2社が投機級の格付を行っていることを,格付の意義や定義とともに説明すべきであった。

     d 流通利回り(債券を流通市場で購入し,満期まで保有した場合の利回り)は,投資家間で信用リスクが増大し続けていると評価されていることを示す重大なリスク情報であるから,証券会社は,新規発行として本件27回債を勧誘するに当たって既発の本件26回債の流通利回りが上昇を続けて本件27回債の利率より高くなっていること及びこれが信用リスクの増大を示すものであることを説明すべきであり,需給関係その他複雑な要素によって決定されることの一事をもって説明義務の対象とならないとすることはできない。

     e 本件では,マイカル社が破綻に至るまでの重要な局面において,証券会社が,顧客に対し,購入後の情報提供ないし助言義務を負うべき特段の事情があったというべきである。

    (イ) 被控訴人X1証券の説明義務違反等による不法行為責任の有無について(争点(1)イ)

     a 本件において,被控訴人X1証券の従業員らが控訴人らに対して行った勧誘時及び購入後の説明内容は,別紙「購入経緯についての主張一覧表」(当審段階で控訴人らが作成提出したもの)の各控訴人の主張欄記載のとおりである。

     b 控訴人Aについて

       担当者のH(原判決63頁16行目参照)は,退職先で財形貯畜として公社債投信をしていたにとどまる控訴人Aに対し,本件26回債につき,定期預金類似の安全・安心な商品である旨の説明をしたにすぎず,信用リスク等は説明しなかったのであるから,説明義務違反がある。控訴人AがX5ファンドを選択したのはHの説明によりマイカル社債が安全なものと認識していたからにすぎず,このことをもって社債や投資信託に関する理解力について全く問題がないということはできない。

     c 控訴人Bについて

       控訴人Bは,担当者のI(原判決66頁1行目参照)から電話で本件27回債購入の勧誘を受け,その際の説明で国債と似た安全性の高い債券だと思って購入したのであって,自ら積極的に被控訴人X1証券X3支店を訪れるなどして購入したのではない。また,控訴人Bは,Iから,本件26回債につき,本件27回債よりも利回りが高く格付がAである,本件9回債(同3頁6行目参照)につき,利回りがよい既発債があるなどと,それぞれ勧誘を受けたことからこれらを購入した。

       Iは,債券の単価が下落して流通利回りが上昇することが債券の発行主体の評価の低下を意味すること及びマイカル社の流通利回りが上昇していることを知りながら,これを控訴人Bに説明せず,また,マイカル社の経営状態や投機級とする指定格付機関があること,更に,本件9回債が機関投資家向けに発行されたものであることを説明せず,購入後の情報提供等もしなかったのであるから,説明義務違反がある。

     d 控訴人Cについて

       控訴人Cが,過去に社債を取得した際に,社債は会社が発行するもので満期になると元金が償還されるとの説明を受けていたにすぎず,社債の信用リスクや流動性リスクについて十分理解していたわけではないから,平成12年1月,担当者のJ(原判決68頁22行目参照)において,控訴人Cに対し,本件26回債購入を勧誘するに当たり,流通利回りが高いほど元本割れのリスクが大きいといったことや,投機級とする指定格付機関があること等について説明しなかったことには,説明義務違反がある。

     e 控訴人Eについて

       Hは,控訴人Eの母K(原判決73頁6行目参照)を通じて,控訴人Eに対し,マイカル社が,一部上場会社で全国に200店舗を有する大手スーパーであることや,社債の利率及び格付がBBBであることを説明したのみで,流動性リスクが高いことなどは説明しなかったから,説明義務違反がある。

   イ 被控訴人X1証券の主張

    (ア) 説明義務,情報提供・助言義務の不存在等について(争点(1)ア)

     a 会社が倒産すれば株式でも社債でもほとんど価値がなくなること,有価証券取引には一般的に価格変動のリスクがあることは,常識というべきである。また,銀行の定期預金等にしないで,自ら選択して証券会社における取引をなす人であれば,少なくとも社債の一般的な信用リスク(企業の倒産リスク)について認識がないという主張は認められない。平成2年以降のいわゆるバブル崩壊以後は,有価証券取引の一般的なリスクが喧伝され,上記信用リスクとともに価格変動リスクがあるという事実もまた,周知の事実となったというべきである。

     b 控訴人らが説明内容として主張する企業資産評価や財務分析,その他マイカル社の倒産可能性に関する事実は,社債に関する一般的リスクや社債の発行条件等の商品内容を超えて,具体的な投資リスク,投資利益の見込みに関する投資助言に属する事項であるが,証券会社は有価証券の流通に関する業務を行う者であって,個々の顧客の資産運用についての助言業務をなす者ではなく,上記のような事項につき,顧客との間で何ら特約がないのに法律上説明する義務を負うものではない。また,再建の途中で債務の繰延べや関連会社への資金提供のための新規起債は珍しいことではないし,経営者の交代により再建への期待が高まることも不合理ではない。

     c 目論見書に記載されている依頼格付については,発行条件に類似する情報として,通常は目論見書の交付をもって情報提供としては足りると考えられ,また,これを指摘して投資を勧誘することは通常行われていることであるが,複数ある格付情報をすべて提供する義務はない。

    (イ) 被控訴人X1証券の説明義務違反等による不法行為責任の不存在について(争点(1)イ)

     a 控訴人Aについて

       控訴人Aは,本件26回債と同時期に説明を聞いた株式投資信託であるX5ファンドについては,社債と比較してリスクが高いことを認識しつつ「楽しみのつもり」で買ったというのであるから,このような事情に照らすと,財形貯蓄として公社債投信を購入していたほか投資経験がないからといって,リスク管理能力がないとか,信用リスクについて認識可能性がなかったということはできない。

     b 控訴人Bについて

       控訴人Bは,低格付のブラジル債は政府保証があることを評価して買い付けたなどと述べていることに照らすと,各有価証券の条件を聞いた上,自らリスクを判断して投資商品を選択していた。

     c 控訴人Cについて

       控訴人Cは,被控訴人X1証券と取引を始めた当初から既に株式を保有しており,自ら被控訴人X1証券に来店したのであって,有価証券取引に関心を有していたことは明らかであり,従前は小学校教員を,現在は住職を務めていること等に照らしても,社債の信用リスクを認識していなかったということはあり得ない。

     d 控訴人Eについて

       控訴人Eの取引は,控訴人Eの母であるKの求めに応じて,担当者のHが,社債を買い付けるために必要な証券サービス申込用紙を2通,Kの指示のあった控訴人E及びその姉のそれぞれの住所に郵送したのがきっかけである。

       控訴人Eは,自ら有利な運用先を探していたところ,有価証券投資経験のある母Kを信じて取引をしたなどと述べているのであって,Kの投資判断を信じたのにほかならず,Hの投資勧誘の内容を聞いたからではない。

  (2) 被控訴人銀行に対する請求

   ア 控訴人らの主張

    (ア) マイカル名義不動産(原判決32頁5行目参照)の所有者について(争点(2)イ)

      原判決は,マイカル名義不動産の所有者に関し,グループ企業間で不動産売買を行う場合に費用を節約する等の理由で所有権移転登記手続を留保することも不自然とはいえないとして,標記不動産の所有者を株式会社X15,X16社(同10頁1行目参照),X17社(同9頁24行目から同頁25行目にかけてを参照),株式会社X18であったとする一方で,マイカル社の法人格否認の法理が適用されるような例外的事情がない限りマイカル社の資産と同一視することはできないとしており,その理由に齟齬がある。

      マイカル名義不動産の所有権移転登記は仮装されたものであり,根抵当権設定当時(平成13年8月15日)の所有者はマイカル社である。

    (イ) 本件各担保供与行為についての免責要件充足の有無について(争点(2)ウ)

      X7銀行ら3行(原判決3頁14行目から同頁15行目にかけてを参照)は,平成13年2月時点において,CMP(同8頁23行目参照)の実現可能性が乏しく客観的に「相当程度確実な再建の見込み」がなかったにもかかわらず,従前の5か年再建計画との比較やキャッシュフロー改善の実現可能性等を具体的に検討することなく,救済融資を実施して本件各担保供与行為を受けたことは,同3行が知り得なかった粉飾決算の発覚など当時全く想定しなかった事態の発生によってマイカル社が破綻したというような特段の事情がない限り,免責要件を充足しない。

    (ウ) 本件各担保供与行為の旧商法297条の3の規定違反について(争点(2)エ)

     a マイカル社の第37期(平成12年2月期)決算が粉飾されており,X7銀行は,その財産状態が本件27回債に付される純資産維持条項に抵触することを知りながら,マイカル社と共謀して,社債管理会社となって同社債の発行を可能にしたのであるから,誠実義務・善管注意義務に反する。

会社法判例百選第3版 82 4版79事件 北川徹成蹊大学教授
多数派社員による不公正な業務執行と解散請求 最高裁昭和61年3月13日 民集登載判決です。解説は土橋青山学院大学教授です。

神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・313頁。

合名会社解散請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/昭和56年(オ)第1243号

昭和61年3月13日

【判示事項】    1、合名会社の業務の執行が多数派社員によって不公正かつ利己的に行われ少数派社員が恒常的な不利益を被っている場合と会社の解散についての商法112条1項にいう「已ムコトヲ得ザル事由」

          2、合名会社の業務の執行が多数派社員によって不公正かつ利己的に行われ少数派社員が恒常的な不利益を被っている状態において会社の解散を請求した少数派社員の退社が右の状態を打開する公正かつ相当な手段とはいえないとされた事例

【判決要旨】    1、合名会社の業務が一応困難なく行われているとしても、その執行が、多数派社員によって不公正かつ利己的に行われ、少数派社員が恒常的な不利益を被っている場合には、かかる状態を打開する公正かつ相当な手段のない限り、会社の解散につき商法112条1項にいう「已ムコトヲ得ザル事由」があるものと解すべきである。

         2、合名会社の業務の執行が多数派社員によって不公正かつ利己的に行われ、少数派社員が恒常的な不利益を被っている状態において、少数派社員のうち、Xが会社の解散を請求した場合には、X以外の少数派社員が全員退社したため、Xが退社しさえすれば社員間の対立が解消されるとしても、会社の資産状況等からみて退社により取得すべき持分払戻請求権の実現に多大の困難を伴い長年月を要すると認められ、しかも、Xには右の状態に至ったことにつき帰責事由がないなど判示の事情があるときは、Xの退社は右の状態を打開する公正かつ相当な手段であるとはいえない。

【参照条文】    商法112-1

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集40巻2号229頁

          最高裁判所裁判集民事147号205頁

          裁判所時報938号1頁

          判例タイムズ597号31頁

          金融・商事判例743号3頁

          判例時報1190号115頁

          金融法務事情1128号56頁

【評釈論文】    金融・商事判例757号43頁

          ジュリスト864号94頁

          ジュリスト867号60頁

          ジュリスト臨時増刊887号89頁

          別冊ジュリスト116号218頁

          判例タイムズ677号208頁

          判例評論332号212頁

          法学協会雑誌104巻12号1816頁

          月刊法学教室73号128頁

          法曹時報41巻9号134頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人富岡健一、同木村静之の上告理由について

 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 上告会社は、昭和四年土地の売買等の営業を行うことを目的として設立された合資会社であつたが、昭和一六年合名会社に組織を変更するとともに、その目的を、各種繊維の売買、特殊繭及び各種繊維の反毛・脱色・脱脂・染色並びにその化学的処理、土地の売買等の営業を行うことに変更した。

 上告会社の社員(括弧内はその原始社員とその死亡の年)及びその出資の価額は、A及びBが商法八四条に基づき退社の意思表示をした昭和四九年八月一〇日の直前において、次のとおりである。

  C(D、昭和三九年死亡)    二万〇二五〇円

  被上告人(E、昭和二九年死亡) 一万三五五〇円

  F(G、昭和三八年死亡)    同右

  H(I、昭和四三年死亡)    同右

  A(J、昭和四八年死亡)    同右

  B               六七七五円

 2 上告会社は、昭和一六年の右の組織及び目的の変更により、実際の業務としては、社員である製糸業者から委託を受けて製糸の工程で生ずる副蚕糸の製品化を図る共同処理工場を経営することになつたが、昭和二〇年六月工場が空襲を受けその営業を停止するに至つた。その後、上告会社の社員のうち亡I、亡G及びCの三名は、引き続き製糸業を営んでいたことから、昭和二五年丸共精練株式会社(以下「訴外会社」という。)を設立し、右三名ともその代表取締役に就任したうえ、訴外会社の名において上告会社のほとんど唯一の財産というべき土地建物を使用して、上告会社が従前行つていたと同様、右三名の製糸業者から委託を受けて副蚕糸の製品化をする業務を開始して現在に至つている。訴外会社には、現在、亡Iを承継してH、亡Gを承継してF、そして右C及び外一名が代表取締役に就任している。なお、上告会社の社員のうち被上告人の先代であるEを含むその余の三名はすでに製糸業を廃業していたことから、訴外会社の設立に全く参画しなかつたが、訴外会社を設立した亡I、亡G及びCは、訴外会社を設立し上告会社の所有不動産を使用させることについて、右設立に参画しなかつたEら三名の承諾を得なかつた。

 3 上告会社は、その所有不動産を訴外会社に使用させるのみで、本来の営業活動を全く行つておらず、訴外会社から支払われる賃料名下の金員は、その不動産の価格(昭和五〇年一二月一日の時点で一億四〇〇〇万円)に比し、著しく低額(昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの一事業年度についてみると、年額四六八万四八〇〇円である。)であつて、これを唯一の営業収入としており、このため、右収入の大部分は公租公課及びCに対する役員報酬の支払に充てられ、上告会社の利益はほとんど生じない状態が続いている。なお、Cは、右役員報酬の中から、上告会社の他の社員に対し昭和四〇年ころから一年に二回程度前記出資額の倍額程度の名目的な利益配当を行つている。

 上告会社の代表社員は登記上久しくBとなつていたが、同人は単なる名目上の代表社員にすぎず、経営の実権はCが掌握し、会社の代表者印を管理し、Bに対しこれを引き渡さなかつた。

 4 上告会社は、右のとおり、もともと製糸業を営む社員六名の共同利益のために製糸の工程で生ずる副蚕糸の製品化を図る共同処理工場として発足したものであるが、戦後経済情勢の変化により社員のうちにやむなく製糸業を廃業する者が続出し、製糸業を継続する社員三名は、訴外会社の営業によつて利益を受けるものの、製糸業を廃業した社員三名は、訴外会社が支払う賃料名下の低額な金員を原資として行われるわずかな名目的な利益の配当を除くと、訴外会社の営業によつてはなんら利益を受けることがなくなつた。このように、上告会社の社員間には、製糸業を継続する社員と廃業した社員との間に、深刻な利害の対立状態を生ずるに至つた。

 そこで、被上告人は、右のような社員間の利害の対立状態を打開するため、昭和四二年ころから大手の下請会社となる案、ボーリング場を建設する案、上告会社の所有土地を売却するか又はこれを分割する案、上告会社と訴外会社とを合併する案、社員の持分の自由譲渡を認めるように定款を変更する案など種々の提案をしたが、いずれも採用されなかつた。

 5 被上告人と同様製糸業を廃業したJの承継人であるA及びBは、昭和四九年八月一〇日上告会社を退社する意思表示をしたうえ、上告会社に対し持分払戻を求めて訴えを提起し、右訴訟は係属中である。右Bは名目的にせよ上告会社の代表社員であつたので、同人が退社したことにより、上告会社は、代表社員を欠くに至つたが、上告会社の定款によれば、代表社員は総社員の同意をもつて選任されることになつているため、社員間の意見の対立によつて後任の代表社員をいまだ選任することができない状態にある。

 二 商法一一二条一項が合名会社の社員に会社の解散請求権を認める事由として定めた「已ムコトヲ得ザル事由」(以下「解散事由」という。)のある場合がいかなる場合かについて考えるに、合名会社は社員間の強い信頼関係が維持されていることを会社存立の基礎とする人的会社であるから、感情的な原因により、社員間の信頼関係が破壊されて膠着した不和対立状態が生じ、会社の目的たる業務の執行が困難となり、その結果会社ひいては総社員が回復し難い損害を被つているような場合には、これを打開する手段のない限り、解散事由があるものというべきであるが、右のような場合のみならず、合名会社は総社員の利益のために存立する目的的存在であるから、会社の業務が一応困難なく行われているとしても、社員間に多数派と少数派の対立があり、右の業務の執行が多数派社員によつて不公正かつ利己的に行われ、その結果少数派社員がいわれのない恒常的な不利益を被つているような場合にも、また、これを打開する手段のない限り、解散事由があるものというべきである。しかしながら、右のいずれの場合にも、そこでいう打開の手段とは、その困難な事態を解消させることが可能でありさえすれば、いかなる手段でもよいというべきではなく、社員間の信頼関係が破壊されて不和対立が生ずるに至つた原因、解散を求める社員又はこれに反対する社員の右原因との係わり合いの度合、会社の業務執行や利益分配が解散を求める社員にとつてどの程度不公正・不利益に行われてきたか、その他諸般の事情を考慮して、解散を求める社員とこれに反対する社員の双方にとつて公正かつ相当な手段であると認められるものでなければならないと解するのが相当である。

 三 右の見地に立つて、本件をみるに、原審の確定したところによれば、上告会社は、もともと製糸業を営む社員に共通した営業を行うために設立された会社であるが、その後の経済情勢の変化により、製糸業を継続する多数派社員と製糸業を廃業した少数派社員の二派が生じ、その間に決定的な利害の対立状態が存在し、このため、上告会社は一応不動産賃貸の営業を行つてはいるものの、多数派社員による不公正かつ利己的な業務執行によつて少数派社員に恒常的な不利益が生じている状態にあるものといわざるをえないから、これを打開すべき手段が存在しない限り、上告会社には解散事由があるものというべきである。

 そこで、上告会社の右の事態を打開すべき手段の有無についてみるに、製糸業を廃業した社員三名のうち、被上告人を除くその余の二名はいずれも上告会社を退社したうえ、上告会社に対し持分払戻を請求しており、残るは被上告人のみであるから、上告会社が主張するように、被上告人が退社して持分払戻を請求する方法を選択しさえすれば、上告会社における両派の対立する前提が失われ、社員間の利害の対立状態は当然に解消するとともに、被上告人はその出資金を回収することができる筋合である。しかしながら、原審の確定した事実によれば、上告会社は、被上告人が退社した場合における持分払戻に充てるべき財源としての経常収入はなく、その所有不動産を売却換金するのでなければ、被上告人の持分払戻請求に応ずる資金を捻出することはできないが、そうすると、上告会社はその存続する基盤を失うことにならざるをえないから、上告会社を維持存続させようとする社員の必死の抵抗が予想され、被上告人の持分払戻請求権が債権として実現するには多大の困難と長い年月を要することが避けられない。しかも、そもそも上告会社の社員間の利害の対立は、客観情勢の変化によつて製糸業を廃業する社員が生じたのち、製糸業を継続する社員が、その中に業務執行社員を擁していたこともあつて、製糸業を廃業した社員の利益を無視して訴外会社を設立し、これに対し上告会社の所有不動産を低額な賃料で賃貸し、訴外会社に上告会社と同じ営業をさせて、上告会社をその本来の営業につき事実上休業状態にしたうえ、製糸業を廃業した社員には名目的な利益配当を行つてきたことから生じたものというべきであつて、上告会社の社員間の利害の対立の原因は、おしなべて製糸業を継続する社員の不公正かつ利己的な行為にあるものというべきであるから、上告会社の社員間に利害の対立が生じたことにつき特段の帰責事由の認められない被上告人に対し、その意思に反する退社の方法を選択させ、かつ、債権としてその実現に問題のある持分払戻請求権を行使することを強いることは、著しく不公正かつ不相当であるというべきである。したがつて、被上告人に対し退社を求めることは、上告会社における社員間の利害の対立によつて少数派社員に生じている恒常的な不利益状態を打開する手段として公正かつ相当な手段であるということはできない。

そして、他に上告会社の右の現状を打開すべき手段はないのであるから、結局、上告会社には解散事由があるものというべきである。

 以上と結論において同旨の原審の判断は正当として是認することができ、論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものであつて、採用することができない。

 四 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

        裁判長裁判官  高島益郎

           裁判官  谷口正孝

           裁判官  角田禮次郎

           裁判官  大内恒夫

 

 


合資会社の退職した無限責任社員の負担すべき損失の計算 最高裁令和元年

会社法判例百選4版 2021年 78事件

遺留分減殺請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成30年(受)第1551号

令和元年12月24日

【判示事項】    合資会社の無限責任社員が退社により当該会社に対して金員支払債務を負う場合

【判決要旨】    無限責任社員が合資会社を退社した場合において,退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされた結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならない。

【参照条文】    会社法611-2

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集73巻5号457頁

          裁判所時報1739号1頁

          判例タイムズ1476号66頁

          金融・商事判例1601号46頁

          金融・商事判例1591号16頁

          判例時報2456号45頁

          金融法務事情2146号58頁

          LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】    ジュリスト1542号2頁

          法学教室475号130頁

          銀行法務21 857~858号85頁

          銀行法務21 868号81頁

          民商法雑誌157巻1号116頁

          税務事例53巻4号78頁

          判例時報2481号114頁

          法の支配199号115頁

 

       主   文

 

 1 原判決中次の部分を破棄する。

  (1) 被上告人の請求を認容した部分

  (2) 上告人の相殺の抗弁を認めて被上告人の上告人に対する172万4773円の不当利得返還請求及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分

 2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人山田克己の上告受理申立て理由第1について

 1 本件は,亡Aの長女である被上告人が,Aがその所有する一切の財産を長男である上告人に相続させる旨の遺言をしたことにより遺留分が侵害されたと主張して,上告人に対し,遺留分減殺請求権の行使に基づき,第1審判決別紙遺産目録記載の各不動産について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めるとともに,上告人が上記遺言によって取得した上記財産のうち解約済みの預貯金及び現金並びに上記各不動産の一部について上告人がAの死後に受領した賃料に係る不当利得の返還等を求める事案である。被上告人の遺留分の侵害額の算定に関し,合資会社B(以下「本件会社」という。)の無限責任社員であったAが,退社により本件会社に対して金員支払債務を負うか否かが争われている。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) Aは,本件会社の無限責任社員であったが,平成23年11月,後見開始の審判を受けたことによって本件会社を退社した。

 (2) 本件会社は,上記の退社当時,債務超過の状態にあった。

 3 原審は,合資会社が債務超過の状態にある場合であっても,無限責任社員は,退社により当該会社に対して金員支払債務を負うことはないと判断して,Aの本件会社に対する金員支払債務を考慮することなく被上告人の遺留分の侵害額を算定し,被上告人の請求を一部認容するとともに,上告人の相殺の抗弁を認めるなどしてその余の請求を棄却した。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 無限責任社員が合資会社を退社した場合には,退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされ(会社法611条2項),その結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を下回るときには,当該社員は,その持分の払戻しを受けることができる(同条1項)。一方,上記計算がされた結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければならないと解するのが相当である。このように解することが,合資会社の設立及び存続のために無限責任社員の存在が必要とされていること(同法576条3項,638条2項2号,639条2項),各社員の出資の価額に応じた割合等により損益を各社員に分配するものとされていること(同法622条)などの合資会社の制度の仕組みに沿い,合資会社の社員間の公平にもかなうというべきである。

 (2) 前記事実関係によれば,無限責任社員であるAが本件会社を退社した当時,本件会社は債務超過の状態にあったというのであるから,退社時における計算がされた結果,Aが負担すべき損失の額がAの出資の価額を超える場合には,上記特段の事情のない限り,Aは,本件会社に対してその超過額の支払債務を負うことになる。

 5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,被上告人の請求を認容した部分並びに上告人の相殺の抗弁を認めて被上告人の上告人に対する172万4773円の不当利得返還請求及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分は破棄を免れない。

 そして,Aが退社により本件会社に対して金員支払債務を負うか否か及びこれを考慮した被上告人の遺留分の侵害額等について更に審理を尽くさせるため,上記各部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林 景一 裁判官 戸倉三郎 裁判官 宮崎裕子 裁判官 宇賀克也)

 

会社法判例百選第3版 81 4版 77事件 今泉岡山大学教授 合資会社の社員の出資義務と持分払戻請求権 最高裁昭和62年1月22日 民集にはのっていません。解説は大和関西大学教授です。

神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・320頁。

 合資会社退社による持分払戻し請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/昭和58年(オ)第1562号

昭和62年1月22日

【判示事項】    履行期が定められていない合資会社の社員の金銭出資義務につき会社の履行請求前に社員が退社したときと右社員の会社に対する持分払戻請求権の成否

【判決要旨】    合資会社の社員の金銭出資義務の履行期が定款又は総社員の同意により定められていない場合に、会社からの右義務の履行請求前に社員が退社したときは、右社員の会社に対する持分払戻請求権は成立しない。

【参照条文】    商法89

          商法147

【掲載誌】     最高裁判所裁判集民事150号15頁

          判例タイムズ631号130頁

          金融・商事判例764号3頁

          判例時報1223号136頁

          金融法務事情1152号45頁

【評釈論文】    金融・商事判例780号47頁

          ジュリスト888号65頁

          ジュリスト臨時増刊910号100頁

          ジュリスト979号105頁

          別冊ジュリスト116号224頁

          判例タイムズ677号206頁

          法律のひろば40巻9号68頁

          民商法雑誌97巻3号434頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人比嘉正憲の上告理由について

 合資会社の社員の金銭出資義務は、定款又は総社員の同意によりその履行期が定められていないときは、会社の請求によりはじめてその履行期が到来し、特定額の給付を目的とする金銭債務として具体化されるものというべきであり、かかる金銭債務となる前の出資義務は社員たる地位と終始すべきものであつて、社員が退社して社員たる地位を喪失するときは、出資義務も消滅するに至るというべきであるから、右退社員の合資会社に対する持分払戻請求権は成立しないと解すべきである。(大審院昭和一五年(オ)第六八号同一六年五月二一日判決・民集二〇巻一二号六九三頁参照)。

 本件についてこれをみるに、原審の確定した事実は、(一) 上告人伊波なつえ、同安間洋子、同伊波寛栄及び第一審原告安間靖(以下「上告人なつえら四名」という。)は昭和四四年八月六日に設立された合資会社たる被上告会社の有限責任社員である、(二) 上告人なつえら四名の出資の目的は被上告会社の定款により金銭とされ、その価額は、上告人伊波なつえ、同伊波寛栄及び第一審原告安間靖につき各六一万円、上告人安間洋子につき三〇万五〇〇〇円と定められていた、(三) 被上告会社の右定款及び登記簿上、上告人なつえら四名の前記各金銭出資義務は全部履行されたことになつているが、上告人なつえら四名がその退社前に右出資額に相当する金銭を現実に被上告会社に支払つたことはない、(四) 被上告会社の定款又は総社員の同意によつて前記金銭出資義務の履行期が定められていたことはないところ、上告人なつえら四名がその退社前に被上告会社から右金銭出資義務の履行の請求を受けたことはない、(五) 上告人なつえら四名は昭和五二年三月三一日被上告会社を退社した、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として首肯することができ、右の事実関係のもとにおいては、上告人なつえら四名は被上告会社に対し退社による持分払戻請求権を取得しないというべきであるから、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として若しくは独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)

 

 上告代理人比嘉正憲の上告理由

 一1 原判決はその理由中で上告人伊波なつえ、同安間洋子、同伊波寛栄、訴外亡安間靖(以下の者を便宜上、上告人らと称する)が被上告人会社の有限責任社員(登記簿記載のとおりの出資義務を負担する)であつたこと、そして昭和五二年三月三一日退社したことを認定し、

 2 ところが、上告人らは同出資義務に基づく出資をなさず、また出資義務の履行期も到来しておらず同出資義務は具体的出資払込請求権(具体的出資払込債務)の発生がないまま退社したので退社とともに出資払込債務は消滅した。従つて上告人らの持分は零で持分払戻請求権は成立しない旨説示する。

二 しかし原判決の右2の事実認定には次のとおり事実誤認、理由不備、判例違反等の違法がある。

 1 (上告人らの出資義務の履行の有無)

 合資会社の有限責任社員の出資義務が金銭その他の財産出資に限られていることは商法一五〇条に定めるところであり、上告人らの出資義務は定款の定めにより金銭出資である。

 ところで金銭出資義務履行の形には現実に現金を支払うという典形的な形から相殺その他種々の態様があつて然るべきことは諸様相を呈する人間の社会生活上当然のことである。

 そこで上告人らは出資義務の履行として外形上、例えば労務出資その他の形(社屋建設の際のそれぞれの費用負担による大工の接待、約一年間報酬の支払いを受けなかつたこと、あるいは報酬の一部から積み立て、あるいは被上告人会社の商品代金の立替払いによるその購入など)をとつているが結局これらに要した費用額(諸債権)でもつて出資金に充当しその義務の履行があつたものとして全社員が黙示の合意をなしている事実は会社設立の経緯、社員の人間関係(三組の夫婦で構成、これらは兄弟や従兄妹の間柄)その後の社員の会社における活動の状況などから明白(上告人らの第一審における各尋問調書)と言つてよい。殊に設立約一年後に各夫婦単位に約一万ドルあての社員配当を行つている事実などは前記出資義務の履行のあつたことを全社員が認め合つたことを前提にしない限り成立し得ないことがらである。これらの事実は各社員の前記各出費でもつて出資に充当しその履行があつたものとして全社員が合意している証左である。

 更にまた商法一五〇条における有限責任社員の出資の目的の制限は会社債権者保護とかその他の取引上の理由から定められたものではない。(学説としても、有限責任社員の会社企業への参加が資本的関係におけるものであるという理論的根拠をあげる立場と、資本提供者が有限責任社員になつたという沿革上の理由を主張する立場の両者であつて、その程度の理由である)要するに無限責任社員と有限責任社員の色わけあるいは合名会社と合資会社の色わけというその程度の意味しかないと言つてよい。有限責任社員の純然たる労務出資はもちろん法の禁止するところであり許されない。しかし、だからと言つて金銭出資の履行形態をしかく厳格に解する必要性もないのである。したがつて後において報酬債権や、財産の使用料、立替払金や会社に積み立てた積立金などを出資の履行としてこれに充当することを全社員により明示にしろ、黙示にしろ、その合意があつたものに事実上限定される場合はその義務の履行があつたものと解すべきである。これは資本充実の原則をとらず、むしろ内部的持分の明確をもつて満足する人的会社の規定である商法一五〇条の立法趣旨にいささかも反するものではないと言うべきである。(なお原判決は上告人らが労務出資をした旨主張しているような言いぶりであるが上告人らはそのような主張はしていない。報酬債権、立替払金、財産等の使用料、積立金などにより出資に充当した旨主張しているのである)

 2 (出資義務履行期到来の有無)

 原判決は、上告人らが出資義務を履行せず且つ出資義務の履行期末到来のまま退社したので持分払戻請求権は成立しないという。原判決の言うとおり、かりに上告人らの出資義務の履行がないとしても、はたしてその履行期末到来と言えるであろうか。出資義務の履行期は定款または総社員の同意により定められたときはそれによることとなる。被上告人会社の定款(乙第一号証)には各社員の出資義務は履行済の旨記載されている。これは、現に会社設立が認定され、定款にかような記載がある以上少くとも出資義務の履行期が到来しているものと解すべきである。原判決はその理由第三項2号で上告人等の現実の履行が労務出資や現物出資であることを前提に、「控訴人の定款においては被控訴人四名の出資の目的が前記のような金銭のみに限定されているのであるから前記労務、不動産等の提供の事実があるからといつても、これをもつて有限責任社員としての資格に基づく有効な出資の履行があつたものと認めるに由なく」と説示し、つまり事実上の履行々為はあつたが有効なものとは認められないと言うのである。これら事実上の行為は出資義務の履行を目的に全社員(被上告人代表者夫婦も含めて)によつてそれぞれなされたのであるが、してみると現に会社の設立が認定され、そして全社員が履行期の到来を前提に出資義務履行を目的に事実上の履行々為をなしたのであつてこれらの事実とあいまつて定款の全部履行の記載の事実からして少くとも出資義務の履行期は到来しているものと解すべきである。設立当事者全員(社員全員)が履行期到来を前提にその目的達成のための行為(その有効無効は別として)をしているのに履行期到来を否定する理由がどこにあるのか原判決には全くその説示がない(理由不備である)。

 実際問題(理論上もそうだが)としても会社のさし当つての運営資金は出資金でまかなうのが常識であつて、従つて会社成立までには出資の履行をするという暗黙の合意を当然のこととして前提にしている。それで定款上はてつとり早く全部履行と記載するのが半ば慣習化しているのである。その意味で定款に履行期を記載しないと言うのは例外中の例外と言つてよい。これらの事情からしても定款の出資の全部履行の記載を履行期到来と解することは当事者の意思に合致こそすれこれを否定することは私法行為解釈の本旨にもとる極めて不合理な解釈と言うべきである。

 因みに原判決は前述の理由第三項2号においては上告人らの出資義務不履行(未履行ではなく)を念頭においた論述をしている(従つて有効な出資の履行ではないと言う)が、その直前の同項1号では未履行を論述しその論旨は不明りようである。前者であれば履行期が到来していることになるし、また前者で認定している上告人らの事実上の履行行為の存在を認めるならば同項1号の履行期末到来の結論にはならないはずである(理由不備)。原判決は「大審院昭和一六年五月二一日判決民集二〇巻一二号六九三頁」の判例適用に急で、実体から遊離した不合理な判決となつている。なお、第一審の判決において上告人らの出資義務につき未履行の文字を使用しているが、これは全体の文章のながれ及び趣旨から不履行の意味であり、原判決が一審の右未履行の語句を取り上げ未履行と解釈したのであればこれは誤解に基づくものである。

 本件は大審院昭和一五年一〇月二〇日民四部判決、合名会社の社員の出資義務の不履行はその持分払戻請求権の発生を妨げない(昭和一五年(オ)第三一四号事件、民集一九巻二三号二一四二頁)の事案類似の事件であり原判決は同判例に違反していると言うべきである。

三 参考のため本件会社設立の経緯及び原審における和解勧告の経緯を説明する。

 1 会社設立の経緯

 被上告人会社設立の際の社員人選に当つては親戚の中から同社代表者安間功夫婦と気の合う者で、会社経営の能力があり、ある程度の資産を有する者ということで、右功の多数いる兄弟の中からその弟の安間靖同洋子夫婦、それから右功の妻の側からはその弟に当る伊波寛栄同なつえ夫婦がそれぞれ見込まれ、結局三組の夫婦で設立することになり各自従前の職業を投げうつて参加することとなつた。

 そして昭和四三年一〇月二三日沖縄県国頭郡恩納村在の山田温泉で右三組の夫婦六名が集まつて会社設立のための話し合いを行い、その経営については六名全員で共同経営することになり、出資の割合については代表者の功夫婦はそれまでの実績を考慮して全体の二分の一とし、残り二分の一について他の二組夫婦で分担することに合意し、社員の登記については、当時伊波寛栄は公務員であつたのでその退職後に行うこととなつた。それで各夫婦は従前の仕事の整理をなし昭和四四年八月一日の設立準備会において定款を作成し各出資額も定款記載のとおり決定された。以後各自は、気持としては実質無限責任社員の気持で会社の仕事に没頭するようになつた。そこで、社屋建設に当つてもその期間中各夫婦単位で交互に大工達の茶菓子の接待を担当したのを始め、社屋建設後の会社運営についても私心を捨てて積極的に業務を遂行した。具体的には第一、二審における準備書面で述べているとおりである。それは上告人らが是非社業を成功させなければならないという社員としての真摯な気持からであつた。そのかいあつて会社は繁栄し、利益を上げ社屋建設のための借入金も順調に返済し、上告人らの報酬等からの積立金(会社の裏金)なども七〇〇〇万円余に達した。

 右のようにお互い誠意を尽した努力の結果会社は軌道にのつた。ところが代表者功は右裏金七〇〇〇万円余を勝手に引き出し自己の不動産を購入し、あるいは土地ころがしのため費消したりし、また同人の妻が死亡したあと無断で会社を休み一人で数か月も外国旅行をするなどして会社経営の意欲を喪失し上告人らの会社運営のうえにあぐらをかくという行動をとるようになつた。それでも上告人らは外国旅行などについては妻死亡によるさびしさからだろうとこれを責めることはしなかつた。しかし同人が個人で経営していた店の従業員である人妻と不貞な交際をし問題となつたので上告人らがこれを注意したところ争いとなり、上告人らはもはや同人との事業遂行は困難と考え退社するに至つた。

 2 和解の話し合いの経緯

 第一審において和解の勧告があつた際上告人側は被上告人代表者功が勝手に費消した右記七〇〇〇万円相当を上告人側に支払うなら和解したい旨申出たのに対し被上告人側は最初二〇〇〇万円、その後右七〇〇〇万円の半額の三五〇〇万円の支払いを申出たため不調に終つた。

 更に第二審における和解勧告の際も上告人側は第一審の場合と同様社屋の分はよいからせめて積立金の分に相当する七〇〇〇万円の支払いを申し出たが受け入れられず裁判所はそれでは会社が倒産する旨意見を出され被上告人側の呈示額を受け入れるような勧告されたが上告人側は受け入れ難く結局不調に終つた。

 被上告人会社の倒産云々の問題であるが、代表者功はとうに同会社経営の意欲を喪失し、むしろ沖縄市池原でOK会館と称する遊戯場を大々的に経営し、これに熱中しているのである。そして被上告人会社の商いは功個人が経営していた元OKストアーに商品を移してやつており、被上告人社屋は本年六月から閉さし、これを処分しようとしているのである。

 

倒産法の開始時現存額主義と超過配当の取扱い 最高裁平成29年

倒産判例百選第6版 47事件

配当表に対する異議申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

最高裁判所第3小法廷決定/平成29年(許)第3号

平成29年9月12日

【判示事項】    破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合における,破産手続開始時の債権の額を基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分の配当方法

【判決要旨】    破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは,その超過する部分は当該債権について配当すべきである。

          (補足意見がある。)

【参照条文】    破産法104

          破産法200

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集71巻7号1073頁

          裁判所時報1684号201頁

          判例タイムズ1442号52頁

          金融・商事判例1531号24頁

          金融・商事判例1527号8頁

          判例時報2355号9頁

          金融法務事情2083号64頁

          金融法務事情2075号6頁

          LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】    判例秘書ジャーナルHJ100043

          金融法務事情2078号34頁

          金融法務事情2089号48頁

          金融法務事情2097号44頁

          季刊 事業再生と債権管理162号164頁

          ジュリスト1514号95頁

          ジュリスト1518号140頁

          法学教室447号151頁

          法政論集(名古屋大)278号295頁

          法曹時報70巻7号211頁

          民商法雑誌154巻6号1223頁

          早稲田大学法務研究論叢3号282頁

          千葉大学法学論集35巻3~4号1頁

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

 抗告人の抗告理由について

 1 本件は,破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた破産債権者である相手方が,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分(以下「超過部分」という。)を物上保証人に配当すべきものとした抗告人作成の配当表(以下「本件配当表」という。)に対する異議申立てをした事案である。

 2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 山孝興業株式会社(以下「破産会社」という。)は,平成23年9月,破産手続開始の決定を受け,抗告人が破産管財人に選任された。

 (2) 相手方は,破産会社の大阪信用金庫に対する2口の借入金債務を保証していたところ,大阪信用金庫に対し,その元本全額並びに破産手続開始の決定の日の前日までの利息全額及び遅延損害金の一部(合計5651万1233円)を代位弁済した。そして,相手方は,破産会社の破産手続において,この代位弁済により取得した求償権の元本(以下「本件破産債権」という。)等を破産債権として届け出た。

 (3) Aは,相手方との間で,破産会社の相手方に対する求償金債務を担保するため,自己の所有する不動産に根抵当権を設定していたところ,平成24年10月,上記不動産の売却代金から2593万9092円を本件破産債権に対する弁済として支払った。

 この代位弁済の結果,本件破産債権の残額は3057万2141円となった。

 (4) Aは,平成27年8月,破産会社の破産手続において,前記(3)の代位弁済により取得した求償権2593万9092円を予備的に破産債権として届け出た。

 (5) 抗告人は,破産債権の調査において,本件破産債権の額を認め,Aの前記(4)の求償権について,「本件破産債権の残額が配当によって全額消滅することによる,破産法104条4項に基づく求償権の範囲内での原債権の代位行使という性質において認める」旨の認否をした。

 (6) 本件配当表には,本件破産債権について,配当をすることができる金額として前記(3)の残額が,備考欄に「計算上の配当額は4512万4808円であるが,本件破産債権の残額は3057万2141円であり,これを超えての配当はできないため」との旨が,それぞれ記載されていた。また,本件配当表には,Aの前記(4)の求償権について,配当をすることができる金額として1455万2667円が,備考欄に「本件破産債権の残額が配当によって全額消滅することによる,破産法104条4項に基づく原債権の代位行使に対する配当として(本件破産債権の計算上の配当額と残債権額との差額の配当として)」との旨が,それぞれ記載されていた。

 3 原々審は,超過部分は債権の一部を弁済した求償権者に配当すべきであるなどとして,本件配当表に対する相手方の異議申立てを却下した。これに対し,原審は,超過部分を上記求償権者に配当することはできないとし,次のとおり判断して,原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻した。

 破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のうちの一部の配当により当該債権が消滅する以上,超過部分は,当該債権について配当すべきでなく,その他の破産債権について配当すべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 同一の給付について複数の者が各自全部の履行をする義務を負う場合(以下,全部の履行をする義務を負う者を「全部義務者」という。)について,破産法104条1項及び2項は,全部義務者の破産手続開始後に他の全部義務者が弁済等をしたときであっても,破産手続上は,その弁済等により債権の全額が消滅しない限り,当該債権が破産手続開始の時における額で現存しているものとみて,債権者がその権利を行使することができる旨を定め,この債権額を基準に債権者に対する配当額を算定することとしたものである。すなわち,破産法104条1項及び2項は,複数の全部義務者を設けることが責任財産を集積して当該債権の目的である給付の実現をより確実にするという機能を有することに鑑みて,配当額の計算の基礎となる債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであり,その結果として,債権者が実体法上の債権額を超過する額の配当を受けるという事態が生じ得ることを許容しているものと解される(なお,そのような配当を受けた債権者が,債権の一部を弁済した求償権者に対し,不当利得として超過部分相当額を返還すべき義務を負うことは別論である。)。

 他方,破産法104条3項ただし書によれば,債権者が破産手続開始の時において有する債権について破産手続に参加したときは,求償権者は当該破産手続に参加することができないのであるから,債権の一部を弁済した求償権者が,当該債権について超過部分が生ずる場合に配当の手続に参加する趣旨で予備的にその求償権を破産債権として届け出ることはできないものと解される。また,破産法104条4項によれば,債権者が配当を受けて初めて債権の全額が消滅する場合,求償権者は,当該配当の段階においては,債権者が有した権利を破産債権者として行使することができないものと解される。

 そして,破産法104条5項は,物上保証人が債務者の破産手続開始後に債権者に対して弁済等をした場合について同条2項を,破産者に対して求償権を有する物上保証人について同条3項及び4項を,それぞれ準用しているから,物上保証人が債権の一部を弁済した場合についても全部義務者の場合と同様に解するのが相当である。

 したがって,破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは,その超過する部分は当該債権について配当すべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。

 しかしながら,以上説示したところによれば,相手方の異議申立てを却下した原々決定は不当であるから,原々決定を取り消して本件を原々審に差し戻した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,原決定の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにすぎず,採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官木内道祥の補足意見がある。

 裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。

 1 本件における配当表は,相手方の確定破産債権の額を配当手続に参加することができる債権の額とし,その額を基礎として各債権に配分した額を配当額とするべきであり,Aの届け出た求償権(以下「Aの債権」という。)については,配当手続に参加することができる債権の額,配当額とも0円とすべきである。

 その理由は,基本的には,配当額の計算の基礎となる債権額と実体法上の債権額とのかい離を認める破産法104条1項及び2項によるものであるが,配当手続との関係においても,配当表は上記のとおりのものとならざるを得ない。

 2 相手方の配当手続に参加することができる債権の額と配当額

 相手方の届出債権(本件破産債権)合計5624万0102円は,債権調査において確定し,破産債権者表に確定債権額として記載されている。

 破産法198条1項ないし3項は,異議等のある破産債権,停止条件付債権又は将来の請求権である破産債権,別除権付債権について配当手続に参加するための要件を規定しているが,これらの債権とは異なり,確定した破産債権は,破産債権者表の確定債権額としての記載が確定判決と同一の効力を有しており,債権者は確定債権額をもって配当手続に参加することができる。

 したがって,配当表において,相手方の配当手続に参加することができる債権の額とされるべきものは相手方の確定債権額であり,その配当表に対する異議において,債権調査手続において述べるべき主張を事由とすることはできない。確定した破産債権者表の記載を変更する手続は破産手続内に備えられておらず,手続外で行われる請求異議の訴えなどによって確定判決と同一の効力が覆されない限り,確定債権額を配当手続に参加することができる債権額とする配当表が変更されることはないし,全部義務者から破産手続開始決定の後に弁済を受けた債権者については,破産財団に属する財産で外国にあるものによって破産手続開始決定の後に弁済を受けた債権者に対するような配当調整の規定(破産法201条4項)も設けられてはいないのである。

 各債権者に対する配当額は,配当することができる金額(総額)を破産法194条の定める順位で割り振った額であり,本件では,本件破産債権はその他の一般の破産債権と同順位であるから,債権額の割合に応じて案分した額が配当額でなければならない。

 抗告人の作成した配当表は,相手方の配当手続に参加することができる債権額を相手方の確定債権額としつつ,相手方に対する配当額を案分額から1455万2667円を減額した3057万2141円としているが,そのように減額し得る法的根拠は存しない。

 3 Aの債権の配当手続への参加の可否

 Aの債権は,予備的なものとして届け出られ,抗告人は「本件破産債権が配当によって全額消滅することによる,破産法104条4項に基づく求償権の範囲内での原債権の代位行使という性質において」として,これを認めた。

 予備的とする届出の趣旨,また,抗告人が認めるとした趣旨は必ずしも明らかではないが,本件破産債権が配当によって全額消滅することを停止条件とする債権が届け出られ,債権調査において認められたとしても,この債権をもって配当手続に参加するには,配当除斥期間内に停止条件が成就していなければならない。配当除斥期間内に配当が実施されるはずがなく,本件破産債権が全額消滅することもないから配当除斥期間内の条件成就はあり得ない。相手方が残債権を全額消滅させるに足りる配当請求権を取得することが停止条件であると解しても,相手方が配当請求権を取得するのは,破産管財人からの配当通知によってであり,それは配当表が確定した後になされるのであるから,その条件が配当除斥期間内に成就することもあり得ない。

 また,前項で述べたように,相手方は,本件破産債権の全額をもって配当手続に参加することができるのであるから,請求異議訴訟などによってそれが変更されない限り,Aの債権は,予備的あるいは条件付とされるのがいかなる趣旨であったとしても,これをもって本件破産債権と並んで配当手続に参加することはあり得ないのである。

(裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

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