会社法判例百選第3版 83 4版80事件 解説者交替なし 社債管理者の責任 名古屋高裁平成21年5月28日 解説は森中京大学教授です。
会社法710条2項について責任を否定したものです。
神田秀樹「会社法 第十八版」弘文堂・2016年・332頁。
損害賠償請求控訴事件
名古屋高等裁判所判決/平成19年(ネ)第923号
平成21年5月28日
【判示事項】 証券会社は,社債を販売する際に,投資家に対して,その投資家の知識経験等により社債取引に伴うリスクの内容や取引の仕組みの重要部分を理解しているような場合を除き,倒産した場合のリスクや信用リスクを知るための方法及び信用リスク回避方法等を説明する義務があるとされた事例
【参照条文】 民法709
民法715
【掲載誌】 判例タイムズ1336号191頁
判例時報2073号42頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 別冊ジュリスト205号174頁
日本法学81巻1号221頁
主 文
1 原判決中,控訴人A及び同Cに関する部分を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人X1証券は,控訴人Aに対し,525万8368円及びこれに対する平成12年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人X1証券は,控訴人Cに対し,29万1576円及びこれに対する平成12年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人A及び同Cの被控訴人X1証券に対するその余の請求並びに被控訴人銀行に対する請求をいずれも棄却する。
2 その余の控訴人らの被控訴人らに対する控訴をいずれも棄却する。
3(1) 控訴人Aと被控訴人X1証券との間においては,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その3を同被控訴人の負担とし,その余を控訴人Aの負担とし,
(2) 控訴人Cと被控訴人X1証券との間においては,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を同被控訴人の負担とし,その余を控訴人Cの負担とし,
(3) その余の控訴人らと被控訴人X1証券との間においては,控訴費用は,その余の控訴人らの負担とし,
(4) 控訴人らと被控訴人銀行との間においては,控訴費用は,控訴人らの負担とする。
4 この判決の第1項(1)(2)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。
(2) 被控訴人らは,控訴人Aに対し,連帯して916万0008円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年1月28日から,被控訴人銀行においては平成16年12月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人らは,控訴人Bに対し,連帯して1094万9752円及びこれに対する次の各金員を支払え。
ア 被控訴人X1証券においては,上記1094万9752円のうち759万6534円に対する平成12年10月12日から,うち71万0824円に対する平成13年2月19日から,うち97万6457円に対する同年3月7日から,うち97万6533円に対する同月8日から,うち68万9404円に対する同月19日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
イ 被控訴人銀行においては,上記1094万9752円に対する平成16年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員。
(4) 被控訴人らは,控訴人Cに対し,連帯して76万3334円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年1月28日から,被控訴人銀行においては平成17年2月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人らは,控訴人Eに対し,連帯して75万9653円,及びこれに対する被控訴人X1証券においては平成12年10月12日から,被控訴人銀行においては平成17年2月11日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(7) 仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人両名)
(1) 本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要(以下,略称は原判決の表記に従う。)
1(1) 本件は,マイカル社(原判決2頁15行目参照)の無担保社債を購入し同社の更生計画に基づいて一部のみの償還を受けるにとどまった控訴人らが,①上記社債を販売した被控訴人X1証券については,その販売時にこれを投機的とする格付の存在や社債の市況等を控訴人らに説明する義務を怠り,また,その販売後にも情報提供や助言をする義務を怠ったことにつき,民法709条の不法行為責任又は民法715条の使用者責任があるとして,②上記社債の社債管理会社であったX7銀行等(後に被控訴人X10銀行が承継)については,マイカル社破綻のわずか1か月前にマイカル社やその関係会社から担保の供与を受けたことにつき,旧商法(平成17年法律第87号による改正前の商法。以下同じ。)311条の2第2項の責任又は同条1項の責任(旧商法297条の3違反。別紙旧商法関係条文参照)があるとして,被控訴人らに対し,連帯して控訴人らの被った損害(別紙請求額一覧表参照)の賠償とその遅延損害金の支払(被控訴人X1証券については各社債購入の日から,被控訴人銀行については訴状送達の日の翌日から)を求めた事案である。
(2) 原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として控訴した。なお,1審相原告G及び同Dは控訴をしなかったため,両名の請求は当審の審理対象ではなくなった。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり当審における主張(原審での主張を敷衍するものを含む。)を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 被控訴人X1証券に対する請求(被控訴人X1証券関係)
ア 控訴人らの主張
(ア) 説明義務,情報提供・助言義務の有無・内容について(争点(1)ア)
a 原判決は,社債の信用リスクにつき,一般投資家であれば通常理解していると判示しているところ,確かに,平成8年に適債基準が撤廃され,また,銀行による肩代わり償還も行われなくなり,社債のデフォルトが生じて一般投資家にも損失が発生した例も生じた。しかし,社債の信用リスクは,証券会社や機関投資家には周知の事実であっても,一般投資家はこのリスクにつき気にしなくてよい程度の認識しか有していなかったのであって,これを一般的な常識に属する事項として,その説明義務がないとすることは,不当である。また,流動性は一般投資家にとって唯一の信用リスク回避手段であるから,流動性リスクは,信用リスクに収れんないし包摂されるものではなく,証券会社はこれについても説明義務とりわけ助言義務を負う。
b 平成12年当時は,流通業界は深刻な経営難の状態にあり,同年2月にはスーパーの長崎屋が,同年7月には百貨店のそごうが相次いで破綻しており,このころには上場企業の倒産は珍しいことではなくなっていたところ,マイカル社についても,業績下降が続き,格付会社も格下げを行うなどしていたのであるから,被控訴人X1証券は,顧客に信用リスクを意識すべきことを注意喚起するためにも,最低限,マイカル社の業績が下降しており赤字状態であって再建中であることを顧客が理解できる形で説明する必要があった。
c 原判決は,内閣府令第2号様式(原判決61頁7行目から同頁13行目までを参照)を根拠に,依頼格付(同6頁13行目参照)のみを顧客に示せばよいとするが,不当である。各格付機関の格付(本件26回債,27回債〔原判決3頁7行目参照〕につき,別紙格付推移一覧表参照)は当該格付機関の意見表明であって絶対的なものではなく,勝手格付(同頁14行目参照)における投機級の格付が信用リスクの投資判断において重要な情報であることには変わりがないから,証券会社において依頼格付が唯一絶対的なものであるかのように受け取れる形で説明して勧誘することは許されないし,勝手格付であっても,指定格付機関のうち2社が投機級の格付を行っていることを,格付の意義や定義とともに説明すべきであった。
d 流通利回り(債券を流通市場で購入し,満期まで保有した場合の利回り)は,投資家間で信用リスクが増大し続けていると評価されていることを示す重大なリスク情報であるから,証券会社は,新規発行として本件27回債を勧誘するに当たって既発の本件26回債の流通利回りが上昇を続けて本件27回債の利率より高くなっていること及びこれが信用リスクの増大を示すものであることを説明すべきであり,需給関係その他複雑な要素によって決定されることの一事をもって説明義務の対象とならないとすることはできない。
e 本件では,マイカル社が破綻に至るまでの重要な局面において,証券会社が,顧客に対し,購入後の情報提供ないし助言義務を負うべき特段の事情があったというべきである。
(イ) 被控訴人X1証券の説明義務違反等による不法行為責任の有無について(争点(1)イ)
a 本件において,被控訴人X1証券の従業員らが控訴人らに対して行った勧誘時及び購入後の説明内容は,別紙「購入経緯についての主張一覧表」(当審段階で控訴人らが作成提出したもの)の各控訴人の主張欄記載のとおりである。
b 控訴人Aについて
担当者のH(原判決63頁16行目参照)は,退職先で財形貯畜として公社債投信をしていたにとどまる控訴人Aに対し,本件26回債につき,定期預金類似の安全・安心な商品である旨の説明をしたにすぎず,信用リスク等は説明しなかったのであるから,説明義務違反がある。控訴人AがX5ファンドを選択したのはHの説明によりマイカル社債が安全なものと認識していたからにすぎず,このことをもって社債や投資信託に関する理解力について全く問題がないということはできない。
c 控訴人Bについて
控訴人Bは,担当者のI(原判決66頁1行目参照)から電話で本件27回債購入の勧誘を受け,その際の説明で国債と似た安全性の高い債券だと思って購入したのであって,自ら積極的に被控訴人X1証券X3支店を訪れるなどして購入したのではない。また,控訴人Bは,Iから,本件26回債につき,本件27回債よりも利回りが高く格付がAである,本件9回債(同3頁6行目参照)につき,利回りがよい既発債があるなどと,それぞれ勧誘を受けたことからこれらを購入した。
Iは,債券の単価が下落して流通利回りが上昇することが債券の発行主体の評価の低下を意味すること及びマイカル社の流通利回りが上昇していることを知りながら,これを控訴人Bに説明せず,また,マイカル社の経営状態や投機級とする指定格付機関があること,更に,本件9回債が機関投資家向けに発行されたものであることを説明せず,購入後の情報提供等もしなかったのであるから,説明義務違反がある。
d 控訴人Cについて
控訴人Cが,過去に社債を取得した際に,社債は会社が発行するもので満期になると元金が償還されるとの説明を受けていたにすぎず,社債の信用リスクや流動性リスクについて十分理解していたわけではないから,平成12年1月,担当者のJ(原判決68頁22行目参照)において,控訴人Cに対し,本件26回債購入を勧誘するに当たり,流通利回りが高いほど元本割れのリスクが大きいといったことや,投機級とする指定格付機関があること等について説明しなかったことには,説明義務違反がある。
e 控訴人Eについて
Hは,控訴人Eの母K(原判決73頁6行目参照)を通じて,控訴人Eに対し,マイカル社が,一部上場会社で全国に200店舗を有する大手スーパーであることや,社債の利率及び格付がBBBであることを説明したのみで,流動性リスクが高いことなどは説明しなかったから,説明義務違反がある。
イ 被控訴人X1証券の主張
(ア) 説明義務,情報提供・助言義務の不存在等について(争点(1)ア)
a 会社が倒産すれば株式でも社債でもほとんど価値がなくなること,有価証券取引には一般的に価格変動のリスクがあることは,常識というべきである。また,銀行の定期預金等にしないで,自ら選択して証券会社における取引をなす人であれば,少なくとも社債の一般的な信用リスク(企業の倒産リスク)について認識がないという主張は認められない。平成2年以降のいわゆるバブル崩壊以後は,有価証券取引の一般的なリスクが喧伝され,上記信用リスクとともに価格変動リスクがあるという事実もまた,周知の事実となったというべきである。
b 控訴人らが説明内容として主張する企業資産評価や財務分析,その他マイカル社の倒産可能性に関する事実は,社債に関する一般的リスクや社債の発行条件等の商品内容を超えて,具体的な投資リスク,投資利益の見込みに関する投資助言に属する事項であるが,証券会社は有価証券の流通に関する業務を行う者であって,個々の顧客の資産運用についての助言業務をなす者ではなく,上記のような事項につき,顧客との間で何ら特約がないのに法律上説明する義務を負うものではない。また,再建の途中で債務の繰延べや関連会社への資金提供のための新規起債は珍しいことではないし,経営者の交代により再建への期待が高まることも不合理ではない。
c 目論見書に記載されている依頼格付については,発行条件に類似する情報として,通常は目論見書の交付をもって情報提供としては足りると考えられ,また,これを指摘して投資を勧誘することは通常行われていることであるが,複数ある格付情報をすべて提供する義務はない。
(イ) 被控訴人X1証券の説明義務違反等による不法行為責任の不存在について(争点(1)イ)
a 控訴人Aについて
控訴人Aは,本件26回債と同時期に説明を聞いた株式投資信託であるX5ファンドについては,社債と比較してリスクが高いことを認識しつつ「楽しみのつもり」で買ったというのであるから,このような事情に照らすと,財形貯蓄として公社債投信を購入していたほか投資経験がないからといって,リスク管理能力がないとか,信用リスクについて認識可能性がなかったということはできない。
b 控訴人Bについて
控訴人Bは,低格付のブラジル債は政府保証があることを評価して買い付けたなどと述べていることに照らすと,各有価証券の条件を聞いた上,自らリスクを判断して投資商品を選択していた。
c 控訴人Cについて
控訴人Cは,被控訴人X1証券と取引を始めた当初から既に株式を保有しており,自ら被控訴人X1証券に来店したのであって,有価証券取引に関心を有していたことは明らかであり,従前は小学校教員を,現在は住職を務めていること等に照らしても,社債の信用リスクを認識していなかったということはあり得ない。
d 控訴人Eについて
控訴人Eの取引は,控訴人Eの母であるKの求めに応じて,担当者のHが,社債を買い付けるために必要な証券サービス申込用紙を2通,Kの指示のあった控訴人E及びその姉のそれぞれの住所に郵送したのがきっかけである。
控訴人Eは,自ら有利な運用先を探していたところ,有価証券投資経験のある母Kを信じて取引をしたなどと述べているのであって,Kの投資判断を信じたのにほかならず,Hの投資勧誘の内容を聞いたからではない。
(2) 被控訴人銀行に対する請求
ア 控訴人らの主張
(ア) マイカル名義不動産(原判決32頁5行目参照)の所有者について(争点(2)イ)
原判決は,マイカル名義不動産の所有者に関し,グループ企業間で不動産売買を行う場合に費用を節約する等の理由で所有権移転登記手続を留保することも不自然とはいえないとして,標記不動産の所有者を株式会社X15,X16社(同10頁1行目参照),X17社(同9頁24行目から同頁25行目にかけてを参照),株式会社X18であったとする一方で,マイカル社の法人格否認の法理が適用されるような例外的事情がない限りマイカル社の資産と同一視することはできないとしており,その理由に齟齬がある。
マイカル名義不動産の所有権移転登記は仮装されたものであり,根抵当権設定当時(平成13年8月15日)の所有者はマイカル社である。
(イ) 本件各担保供与行為についての免責要件充足の有無について(争点(2)ウ)
X7銀行ら3行(原判決3頁14行目から同頁15行目にかけてを参照)は,平成13年2月時点において,CMP(同8頁23行目参照)の実現可能性が乏しく客観的に「相当程度確実な再建の見込み」がなかったにもかかわらず,従前の5か年再建計画との比較やキャッシュフロー改善の実現可能性等を具体的に検討することなく,救済融資を実施して本件各担保供与行為を受けたことは,同3行が知り得なかった粉飾決算の発覚など当時全く想定しなかった事態の発生によってマイカル社が破綻したというような特段の事情がない限り,免責要件を充足しない。
(ウ) 本件各担保供与行為の旧商法297条の3の規定違反について(争点(2)エ)
a マイカル社の第37期(平成12年2月期)決算が粉飾されており,X7銀行は,その財産状態が本件27回債に付される純資産維持条項に抵触することを知りながら,マイカル社と共謀して,社債管理会社となって同社債の発行を可能にしたのであるから,誠実義務・善管注意義務に反する。