岡本法律事務所のブログ

岡山市北区にある岡本法律事務所のブログです。 1965年創立、現在2代めの岡本哲弁護士が所長をしています。 電話086-225-5881 月~金 0930~1700 電話が話中のときには3分くらいしてかけなおしください。

2021年11月

Rti 台湾国際放送 2021年11月29日のニュース

 

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[ニュース] 「大学に学ぶ意義に懐疑的」、大学生の4

 

Posted: 29 Nov 2021 02:21 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94465

 

黃昆輝教授教育基金会がこのほど発表した調査レポートによると、台湾の大学生の40.4%が、「大学に学ぶことの意義に懐疑的」だということが分かりました。また、「卒業後の前途に悲観的」な大学生は39.5%でした。同基金会は、政策的に大学が過度に拡張されたことで、社会の流動を促進し、個人の社会・経済的地位を改善するという大学の役割が低下しており、このため学生が将来に自信を持てなくなっていると指摘し、教育関係者に対して、この問題に注意するよう呼びかけています。この調査は、同基金会が今年520日から720日にかけて実施したもので、6381人から有効回答を得たもの......more

 

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[ニュース] 台湾の今年の成長率予測は6.09%、11年で最高

 

Posted: 29 Nov 2021 02:20 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94464

 

行政院主計総処はこのほど、台湾の今年の経済成長率予測を、この11年で最高となる6.09%に上方修正しました。前回予測から0.21ポイント引き上げました。また、来年の経済成長率予測についても、4.15%に上方修正しました。前回予測より0.46%引き上げました。主計総処は上方修正の要因として、民間投資の大幅な増加を挙げています。また、比較の対象となる昨年の経済成長率は高い水準だったものの、今年はさらに好成績を上げており、また投資が将来の生産能力を表すものであることから、来年の台湾経済は引き続き拡張すると予測しています。5G(第5世代移動通信システム)、自動車......more

 

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[ニュース] 台湾の景気警告信号、1984年以来で最長の赤(活況)記録

 

Posted: 29 Nov 2021 02:18 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94463

 

行政院国家発展委員会によりますと、10月の台湾の景気警告信号は、景気が活況であることを示す「赤」で、これにより9カ月連続での「赤」となりました。景気警告信号の新しい算出方法に変わった1984年以来、最も長い期間、「赤」が続いています。また、景気警告信号の総合判断指数は39ポイントで、前の月の9月に比べて1ポイント上昇でした。国家発展委員会では、景気は安定的に拡張しており、新型コロナウイルス感染の景気への影響は次第に薄れており、今後も「赤」信号が続く可能性が大きいと指摘しています。景気警告信号を構成する9項目の指標のうち、「製造業の販売量」と「卸売り・小売......more

 

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[ニュース] 大陸軍機の防空識別圏(ADIZ)侵入、「運油20」空中給油機が初めて参加

 

Posted: 29 Nov 2021 02:13 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94462

 

空軍司令部によると、28日に中国大陸の軍機の27機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入しました。この中に初めて「運油20」空中給油機が参加しており、注目されています。これについては、中国大陸の空軍に、長距離を飛行する遠征型の部隊が形成されつつあることを示すものではないかと見られています。邱国正・国防部長は29日、立法院での答弁で、「最近、中国大陸の軍事行動は活発化しており、台湾の防空識別圏に対する侵入は途絶えることがない。これは、中国大陸側が我々が消耗することを狙ったものであり、我々の軍はこれに対応している」と語りました。邱国正・国防部長は、「我々は相手......more

 

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[ニュース] バルト三国の国会議員訪問団が台湾に到着、蔡英文・総統を表敬訪問

 

Posted: 29 Nov 2021 02:10 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94461

 

ヨーロッパのバルト三国の国会議員訪問団が台湾に到着し、29日、蔡英文・総統を表敬訪問しました。この訪問団は、リトアニア議会の台湾友好団体の代表であるマルデイキス議員を団長に、エストニア、ラトビアの国会議員が参加しています。訪問団と会見した蔡英文・総統は、「私たちとバルト三国はいずれも、権威主義による統治を受け、自由の道を勝ち取ってきた。いずれも、民主主義が得難いものであることを深く理解している。世界が権威主義の拡張とフェイク情報の脅威に直面する現在、台湾はヨーロッパの友人とフェイク情報に対抗するための経験を分かち合い、共通の価値感を守り、民主自由の生活様......more

 

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[ニュース] オミクロン株の侵入防止、高リスク国に10カ国を指定

 

Posted: 29 Nov 2021 02:05 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94460

 

台湾の新型コロナウイルス感染症対策本部「中央感染状況指揮センター」は29日、新型コロナウイルスの新型変異株であるオミクロン株のウイルス感染が世界的に拡大していることから、台湾への侵入を防止するため、すでに「重点高度リスク国」に指定している6カ国に加えて、121日から新たに4カ国を「重点高度リスク国」に指定しました。これにより、「高リスク国」は10カ国となります。14日以内にトランジットも含めてこの10カ国に滞在した人は、台湾に渡航した後、14日間、集中隔離施設に入って隔離を受けることになります。その間、定期的にPCR検査を受けると共に、集中隔離施設を出......more

 

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[ニュース] 台湾での新型コロナの新規域内感染、29日はゼロ

 

Posted: 29 Nov 2021 02:02 AM PST

https://jp.rti.org.tw/news/view/id/94459

 

台湾の新型コロナウイルス感染症対策本部「中央感染状況指揮センター」は29日、台

湾で新たに確認された新型コロナウイルス感染者は8人だと発表しました。そのうち、台湾域内での市中感染はいませんでした。海外から台湾に入って来た人からの感染確認は8人でした。また、亡くなった人はいませんでした。これまでに台湾で新型コロナウイルスに感染した人は16596人となりました。亡くなった人は848人のままです。......more

 

ユニオンショップ協定の効力 三井倉庫港湾事件 最高裁平成元年

労働判例百選第8版 86事件 リ^ガルクエスト4版268頁

              解雇無効確認等請求事件

 

【事件番号】       最高裁判所第1小法廷判決/昭和60年(オ)第386号

【判決日付】       平成元年12月14日

【判示事項】       ユニオン・ショップ協定の効力

【判決要旨】       ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である。

【参照条文】       憲法28

             民法90

             労働組合法2章

             労働組合法3章

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集43巻12号2051頁

             最高裁判所裁判集民事158号559頁

             裁判所時報1017号8頁

             判例タイムズ717号79頁

             金融・商事判例839号32頁

             判例時報1336号40頁

             労働判例552号6頁

             労働経済判例速報1381号3頁

【評釈論文】       ジュリスト953号98頁

             ジュリスト臨時増刊957号218頁

             ジュリスト966号104頁

             摂南法学6号147頁

             日本労働法学会誌76号116頁

             判例評論383号230頁

             法学教室349号81頁

             法曹時報43巻2号247頁

             法律のひろば43巻5号75頁

             民商法雑誌103巻2号81頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人竹林節治、同畑守人、同中川克己、同福島正の上告理由第一点について

 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない(最高裁昭和四三年(オ)第四九九号同五〇年四月二五日第二小法廷判決・民集二九巻四号四五六頁参照)。

 本件についてこれをみるに、原審が適法に確定したところによると、(1) 上告会社は、参加人組合との間に「上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手は、双方が協議して認めた者を除き、すべて参加人組合の組合員でなければならない。上告会社は、上告会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、参加人組合に加入しない者及び参加人組合を除名された者を解雇する。」との本件ユニオン・ショップ協定を締結していた、(2) 被上告人らは上告会社に勤務する海上コンテナトレーラー運転手であったが、昭和五八年二月二一日午前八時半ころ、参加人組合に対して脱退届を提出して同組合を脱退し、即刻訴外全日本運輸一般労働組合神戸支部に加入し、その旨を同日午前九時一〇分ころ上告会社に通告した、(3) 参加人組合は、同日、上告会社に対し本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇を要求し、上告会社は、同日午後六時ころ本件ユニオン・ショップ協定に基づき被上告人らを解雇した、というのであり、参加人組合を脱退して訴外組合に加入した被上告人らについては、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生ずるものでないことは、前記説示に照らし、明らかというべきである。そうすると、上告会社が、本件ユニオン・ショップ協定に基づき、被上告人らに対してした本件各解雇は、右協定による上告会社の解雇義務が生じていないときにされたものであり、本件において他にその合理性を裏付ける特段の事由を認めることはできないから、結局、本件各解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。以上と同旨の見解に立って、本件各解雇が解雇権の濫用であって無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 同第二点について

 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官  四ツ谷巖

            裁判官  角田禮次郎

            裁判官  大内恒夫

            裁判官  佐藤哲郎

            裁判官  大堀誠一

田中裁判長不当判決 理由付記についての大阪地裁

安井和彦 『逆転裁判例にみる事実認定・立証責任のポイント』税務法研究会出版局・2016年 4事件

賦課決定処分取消等請求事件

大阪地方裁判所判決

平成24年2月2日

【掲載誌】       税務訴訟資料262号順号11870

 

       主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 処分行政庁が原告に対して平成19年11月28日付けでした原告の平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が19万0412円、納付すべき税額4万1800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

 2 処分行政庁が原告に対して平成19年11月28日付けでした原告の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が13万7951円、納付すべき税額3万0100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

 3 処分行政庁が原告に対して平成19年11月28日付けでした原告の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が14万3489円、納付すべき税額3万1400円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

 4 処分行政庁が原告に対して平成19年11月28日付けでした原告の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額が13万0369円、納付すべき税額2万8600円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第2 事案の概要

 1 本件は、財団法人である原告が、処分行政庁から平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」といい、他の事業年度についてもこの例による。)ないし平成19年3月期(併せて、以下「本件各事業年度」という。)の法人税について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたところ、これらの処分は非収益事業に対する課税であり違法であるなどとして、上記更正処分のうち申告額を超える部分及び上記賦課決定処分の各取消しを求めている事案である。

 2 関係法令等の定め

  (1) 法人税法にいう収益事業の範囲

    法人税法7条(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)は、公益法人等に対しては、各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得及び清算所得については法人税を課さないと定めているところ、ここにいう収益事業とは販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいうとされる(法人税法2条13号)。これを受けた法人税法施行令5条1項10号(平成20年政令第156号による改正前のもの。以下同じ。)は請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)は原則として収益事業に含まれる旨を定めるが、同号イでは法令の規定に基づき国又は地方公共団体の事務処理を委託された法人の行うその委託に係るもので、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなことその他の財務省令で定める要件を備えるものは収益事業に含まれない旨を定めている。さらに、これを受けた法人税法施行規則4条の3(平成15年財務省令第28号による法人税法施行規則の改正前は4条の4であるが、内容に変更はない。以下、便宜上、改正後の条数のみを摘示する。)は、同法施行令5条1項10号イ(請負業)に規定する財務省令で定める要件を①その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなこと(1号)、②その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えるに至った場合には、法令の規定により、その超える金額を委託者又はそれに代わるべき者として主務大臣の指定する者に支出することとされていること(2号)、③その委託が法令の規定に従って行われていること(3号)と定めている。

  (2) 法人税基本通達15-1-28(乙1)

    法人税基本通達15-1-28(実費弁償による事務処理の受託等)は、公益法人等が、事務処理の受託の性質を有する業務を行う場合においても、当該業務が法令の規定、行政官庁の指導又は当該業務に関する規則、規約若しくは契約に基づき実費弁償(その委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことをいう。)により行われるものであり、かつ、そのことにつきあらかじめ一定の期間(おおむね5年以内の期間とする。)を限って所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長。以下同じ。)の確認を受けたときは、その確認を受けた期間については、当該業務は、その委託者の計算に係るものとして当該公益法人等の収益事業とはしないものとする旨を定めている。

 3 前提事実(当事者間に争いのない事実等)

  (1) 当事者

    原告は、B市が全額寄附をし、昭和47年5月11日にCから設立許可を受けて、民法34条(平成18年法律第50号による改正前のもの)の規定により設立された財団法人であって、法人税法2条6号、別表第二(ただし平成20年法律第23号による改正前のもの)に該当する公益法人等である。また、原告は、遅くとも昭和51年3月31日に処分行政庁から法人税の青色申告の承認を受けた。

  (2) 確定申告等

    原告は、その行う事業を平成16年3月期及び平成17年3月期は、公益事業会計、収益事業会計及び不法投棄調査収集事業会計の3つの事業に区分して経理し、平成18年3月期及び平成19年3月期は、公益事業会計及び収益事業会計の2つの事業に区分して経理していた。原告は、本件各事業年度において、公益事業会計及び不法投棄調査収集事業会計につき、別紙1-1ないし1-4記載のとおりB市等からし尿収集運搬業務等の委託を受け、各収入金額欄記載の収入を得た。他方、原告は、本件各事業年度において、別紙2記載のとおり、これらの業務に係る事業に必要な経費を支出した。

    原告は、本件各事業年度において、上記収入金額と上記経費合計の差額にほぼ相当する金員(平成16年3月期1億3000万円、平成17年3月期1億3000万円、平成18年3月期1億2000万円、平成19年3月期1億4000万円)を、B市からの一時借入金の返済に充てた。

    そして、原告は、本件各事業年度において、収益事業会計として区分していた事業のみを法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するとして、別表1ないし4の各「確定申告」欄のとおり本件各事業年度の法人税の確定申告をした。

  (3) 本件各更正処分等

    処分行政庁は、原告が営む事業のうち、平成16年3月期及び平成17年3月期において公益事業会計及び不法投棄調査収集事業会計に区分して経理していた事業並びに平成18年3月期及び平成19年3月期において公益事業会計に区分して経理していた事業(以下、これらを併せて「本件各事業」という。)についても収益事業に該当するとして、平成19年11月28日付けで、原告に対し、別表1ないし4の各「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

  (4) 不服申立手続

    原告は、本件各更正処分等を不服として、平成20年1月25日付けで処分行政庁に対して異議申立てをしたが、処分行政庁は、同年4月23日付けで同異議申立てを棄却する決定をした。

    さらに原告は、同年5月21日、上記異議決定を不服として国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成21年4月30日付けでこれを棄却する裁決をし、同年5月7日、これを原告に通知した(通知日につき弁論の全趣旨)。

  (5) 本訴提起

    原告は、平成21年11月5日、本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 4 争点

  (1) 本件各事業が法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するか。

  (2) 本件各更正処分に係る更正の理由付記は法人税法130条の要件を満たした適法なものであるか。

  (3) 本件各賦課決定処分に国税通則法65条4項の正当な理由が存在するか。

 5 当事者の主張

  (1) 争点(1)(本件各事業が法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するか。)について

   (被告の主張)

   ア 法人税法上、公益法人等の行う事業のうち収益事業から生じた所得に対して法人税を課税する趣旨

     公益法人等の行う事業のうち収益事業から生じた所得に対して法人税を課税する趣旨は、営利法人が事業を行えば法人税が課税されるのに対し、公益法人等が同様の事業を行っても法人税が課税されないとするならば、課税の公平性を欠くことになるためであり、法人税法では、公益法人等であっても、主として営利法人との競合関係にある事業(法人税法施行令5条1項各号の事業)については、これを収益事業とし、かかる収益事業から生じた所得については、法人税の課税の対象とする旨を規定する。そして、公益法人等が実際に行う事業が収益事業に該当するかどうかは、事業目的が公益の増進にあるか否かにかかわりなく、事業が法人税法施行令5条1項各号に掲げる事業のいずれかに該当するかどうかにより判断すべきである。

   イ 本件各事業が法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に該当すること

     法人税法施行令5条1項10号は、法人税法上の収益事業に該当する請負業の範囲を「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」と規定していることから、収益事業について、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう」と定める法人税法2条13号と併せて読めば、法人税法施行令5条1項10号でいうところの「請負業」は、民法632条の「請負」のみならず、広く事務処理の委託を受け、当該事務を継続して行うものをも含むことが明らかである。

     原告が行っていた本件各事業は、B市等からの委託を受け、し尿、ゴミ等の廃棄物の処理及び公共施設等の清掃を継続して行うというものであって、いずれも法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に該当する。

     また、原告が、B市から受領している補助金は、いずれも原告が本件各事業を行う上で必要となる人件費、社屋の賃借料の補助を目的として交付を受けているものであるから、上記補助金は法人税法5条1項10号に規定する「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に係る収入に該当する。

   ウ 本件各事業について、法人税法施行規則4条の3が定める要件を満たさないこと

     法人税法施行規則4条の3の定める要件を満たせば、本件各事業は収益事業に該当せず、法人税を課されないこととなる。しかし、同条1号は、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなこと、同条2号は、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えるに至った場合には、法令の規定により、その超える金額を委託者又はそれに代わるべき者として主務大臣の指定する者に支出することとされていることを定めているところ、原告が受領する委託の対価が事務処理のために必要な費用を超えないこと、あるいは超えた場合に、その超えた金額を委託者(本件の場合はB市等)又はそれに代わるべき者として主務大臣の指定する者に支出することについての法令の規定が存在しないため、原告の行う本件各事業は、法人税法施行規則4条の3が定める要件を満たさない。

   エ 法人税基本通達15-1-28に照らしても、本件各事業は収益事業として法人税を課税されるべきであること

     法人税基本通達15-1-28は、①公益法人等が、事務処理の受託の性質を有する業務を行う場合においても、当該業務が法令の規定、行政官庁の指導又は当該業務に関する規則、規約若しくは契約に基づき実費弁償により行われるものであり(以下「第1要件」という。)、かつ、②そのことにつきあらかじめ所轄税務署長の確認を受けている(以下「第2要件」という。)のであれば、当該業務については、収益事業として課税しない旨定めている。

     しかしながら、本件各事業の契約書等をみても、実費弁償により行われるものといった趣旨の規定が存在しないから、第1要件を満たさない。原告は、公益法人等の営む受託業務が、剰余金の生じない受託業務であるか、又は受託業務から剰余金を生じても、それを得ることのない仕組みになっていることが実費弁償の趣旨であり、剰余金をもって借入金の返済に充当しても、それは剰余金を留保し、これを蓄積することには当たらない旨を主張するが、実費弁償は委託の対価が事務処理に要する費用を超えないことを前提としており、当該剰余金を原資として借入金を返済しても、それが実費弁償には当たらないことは明らかである。そして、原告は、一定の期間をみたときに、当初は赤字であったが、本件各更正処分の対象となった各年度は剰余金が発生していたとして、長い期間をベースにして実費弁償の要件を検討すべきかのようにも主張するが、法人税法施行規則4条の3は、原則として年度ごとに実費弁償の要件を満たすことを要請しているのであり、原告の主張は失当である。

     また、原告は、本件各事業について処分行政庁による事前確認を受けておらず、第2要件も満たしていない。この点、原告は、税務署長の確認手続が不要であるかのような主張をするが、かかる主張は、法人税基本通達15-1-28が非課税としての取扱いの対象を広げているものであるからこそ、適正な運用のため、納税者に事前の確認を要請している趣旨に反するものであって、失当である。

   (原告の主張)

   ア 本件各事業は法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」には該当しないこと

     法人税法及び同法施行令にも「請負業」の定義規定はないから、民法632条の請負(仕事の完成をすることを約し、その仕事の結果に対して報酬が支払われることを内容とする合意)の概念を前提にしているというほかない。ここで、括弧書で「事務処理の委託を受ける業を含む。」と定めて、請負業及び(準)委任を業とする場合と明記していないことに照らすと、「事務処理の委託を受ける業を含む」との文言は、請負業の具体的内容を補足する趣旨にとどまると解するのが相当である。

     本件各事業は、し尿収集運搬業務、公園便所清掃等業務などの「清掃業務」が中心であって、原告とB市等との間の契約の性質は準委任であって、民法上の請負契約には当たらないから、法人税法施行令5条1項10号にいう「請負業」に当たらない。

   イ 仮に本件各事業が法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業」に当たるとしても、収益事業には当たらない。

     法人税法施行規則4条の3の趣旨は、①公益法人等が行う収益事業に対して、事務処理に要する費用を賄う程度の対価を報酬として受領し、所得が発生しないような仕組みになっている場合については、課税の公平性を害するとはいえず、請負業として法人税の課税対象とすることを法人税法が求めていないことのほか、②剰余金をため込んで不必要な投資資産や遊休資産を保有すること、あるいは、公益法人等の理事等と特殊の関係がある者に対して不必要に高額な報酬や対価を支払うなどの便宜や利益の供与をすることを禁じ、公益法人等の適正な活動を保障しようとする点にある。法人税基本通達15-1-28は、収益事業とはしない範囲を、実費弁償が契約や行政指導等に基づく場合にも拡張するものであって、その趣旨は法人税法施行規則4条の3と同様である。

     ここで、法人税基本通達15-1-28のうち、公益法人等が、事務処理の受託の性質を有する業務を行う場合においても、当該業務が法令の規定、行政官庁の指導又は当該業務に関する規則、規約若しくは契約に基づき実費弁償により行われるものという第1要件は、上記法人税法施行規則4条の3の趣旨に照らすと、公益法人等が営む業務が剰余金の生じない受託業務であるか、又は剰余金が生じる受託業務であっても、剰余金の生じた年度以降、短期間のうちにその剰余金を業務者の委託者へ返還することによって、その剰余金を得ることがない(剰余金を留保し、蓄積しない)ことと解すべきである。原告は、多額の借入金を抱えて債務超過に陥っている公益法人等であって、今後も長期間にわたって借入金の返済を続けないと、現在の債務超過の状態から抜け出す見込みがない。このような財務状況にある原告が、剰余金をもって借入金の返済に充当したとしても、それは剰余金を留保し、これを蓄積することには当たらないというべきであるから、法人税基本通達15-1-28の第1要件を満たす。

     次に、法人税基本通達15-1-28のうち、実費弁償により行われることにつきあらかじめ一定の期間(おおむね5年以内の期間とする。)を限って所轄税務署長の確認を受けていることという第2要件は、所轄税務署長の事前確認を受けておけば、当該年度の受託事業につき収益事業には当たらないとの事実上の推定が働き、特段の事情がない限り、その旨の認定がされる可能性が高いという程度の意味しかない。したがって、納税者が第2要件の定める手続を履行していなくとも、毎年事後的に法人税基本通達15-1-28の第1要件を満たしているか否かについて、所轄税務署長の審査・判断を受ければ足りるというべきである。原告の場合について、課税上の不均衡を増幅させるような具体的事情は全く伺えないのであるから、第2要件の定める手続を履行していないことを問題にする必要はない。

     すなわち、本件各事業は法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業」に当たるとしても、法人税基本通達15-1-28の適用により、収益事業には当たらないというべきである。

  (2) 争点(2)(本件各更正処分に係る更正の理由付記は法人税法130条の要件を満たした適法なものであるか。)について

   (被告の主張)

    帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合には、更正通知書記載の更正の理由において、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に更正の根拠を具体的に明示するものである限り、法人税法130条の要求する更正理由の付記として欠けるところはない。

    本件各更正処分は帳簿書類の記載自体を否認することなしにされた更正処分であるところ、本件各更正処分に付された更正の理由は、更正処分の対象となる取引を特定し、更正処分を行った理由を明示していることになるから、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものであるといえ、法人税法130条の要求する更正理由の付記として欠けるところはない。

    原告は、本件各更正処分に付された理由からは、帳簿書類の記載を否認する趣旨か、法的評価を否認する趣旨かは明らかでない旨を主張するが、帳簿書類の記載について何ら否認する旨の記載がないことに照らし、納税者の評価に誤りがある旨を指摘したことは明らかである。

   (原告の主張)

    法人税法130条2項は青色申告事業者に対し更正処分をする場合に、更正通知書に理由付記を要求しているところ、その趣旨は、更正処分庁の判断の慎重・合理性を担保にその恣意を抑制するとともに、処分の理由をその相手方である納税者に知らせて不服申立てに便宜を与えるためである。

    この趣旨に照らすと、処分の理由は、他の事情から納税者が了知していたかどうかに関わりなく、更正の通知書に付記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であり、記載すべき理由付記の程度は、事実に対する法的評価の相違に基づき更正処分をするときには、更正処分庁の判断過程を省略することなく具体的に記載する必要があるというべきである。

    また、建築士免許取消処分について行政手続法14条1項違反を認めた最高裁平成●●年(○○)第●●号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁に比しても、青色申告者に対する更正処分の理由付記の必要性ははるかに高い。

    本件各更正処分において記載された処分理由には、更正処分庁が本件各事業を収益事業に当たるとした判断過程の記載がなく、その具体的理由を知ることができないし、そもそも原告の帳簿記載を否認する趣旨か、原告の法的評価を否認する趣旨かも不明であるというほかないから、本件各更正処分は法人税法130条2項に違反し、違法である。

  (3) 争点(3)(本件各賦課決定処分に国税通則法65条4項の正当な理由が存在するか。)について

   (原告の主張)

    原告は、その設立後毎年継続して決算書を添付して法人税の確定申告を行ってきたが、これまで本件各事業と同種の事業が収益事業に当たる旨の指摘を受けたことはなかった。平成7年の税務調査においてもかかる指摘を受けなかった。すなわち、処分行政庁は、原告に対し、本件各事業が収益事業に当たらないとの公式見解を示したにも匹敵するような不作為ないし事実状態を継続したといえる。また、原告は、かかる処分行政庁の態度を信頼し、本件各事業が収益事業に当たらないことを前提に本件各事業年度の法人税について確定申告をしているところ、自らの申告が正当であると信頼していたこともやむを得ないといえる。このような事情に鑑みれば、本件各事業を収益事業として申告しなかったことについて正当な理由があるというべきである。

   (被告の主張)

    国税通則法65条4項にいう正当な理由があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。

    平成7年の税務調査やその後の税務申告において本件各事業が収益事業に当たるとの指摘を受けなかったとしても、本件各事業が収益事業に該当しないとの公的見解が示された場合とは同視できないから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があったとはいえないし、過少申告加算税の趣旨に照らしても納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるともいえない。

第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(本件各事業が法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するか。)について

  (1) 原告の本件各事業は、法人税法施行令5条1項10号の「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に当たること

   ア 法人税法7条は内国法人である公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、法人税を課さない旨を定め、公益法人等においても収益事業から生じた所得については法人税を課す旨を定めている。このように公益法人等の収益事業について課税をする趣旨は、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について、同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するためと解される。

   イ 法人税法2条13号は、収益事業について、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう」と定義し、収益事業に当たる業種については政令の定めに委ねている。これを受けて定められた法人税法施行令5条1項は1号ないし33号までの業種を具体的に定めている。そして、本件で問題となっている請負業(同項10号)については、特段の定義規定は置かれていないが、括弧書において「事務処理の委託を受ける業を含む。」と規定されていることに照らすと、同号にいう請負業には、民法632条の請負だけではなく、同法656条の準委任(事務の委託)が含まれることは明らかである。これに反する原告の主張は採用できない。

     原告は、本件各事業年度において、し尿収集運搬業務等の事務の委託を受ける業を、継続して事業場を設けて行っているのであるから、本件各事業が法人税法施行令5条1項10号柱書にいう「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に当たることは明らかである。

  (2) 法人税法施行規則4条の3の要件に該当しないこと

    法人税法施行令5条1項10号イは、同号柱書に該当する場合であっても法令の規定に基づき国又は地方公共団体の事務処理を委託された法人の行うその委託に係るもので、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなことその他の財務省令で定める要件に該当するものは収益事業としない旨を定め、これを受けて定められた法人税法施行規則4条の3は、1号(その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなこと)、2号(その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えるに至った場合には、法令の規定により、その超える金額を委託者又はそれに代わるべき者として主務大臣の指定する者に支出することとされていること)、3号(その委託が法令の規定に従って行われていること)の全ての要件を満たす場合に、当該事務処理を委託を受ける業は、収益事業に含まれない旨を規定している。法人税法施行令5条1項10号イ及び法人税法施行規則4条の3が、その要件に該当する事業については、請負業であっても収益事業に当たらず非課税としている趣旨は、国又は地方公共団体から委託を受けた事業であって、その事業に実際に要した費用の限度で代金を受け取るにすぎないことが法令の規定上明らかなものについては、当該公益法人等が当該事業から収益を得ていない以上、同種の事業を営む営利法人の競争条件を特に不利にせず、課税の公平性を害することがないことが明らかであるからと解される。

    しかるに、原告がB市から受けた本件各事業はいずれも法令の規定に基づくものではない(争いがない。)から、本件各事業は法人税法施行規則4条の3により収益事業に含まれないということはできない。

  (3) 法人税基本通達15-1-28の要件に該当しないこと

   ア 法人税基本通達15-1-28の趣旨

     法人税法施行令5条1項10号及び法人税法施行規則4条の3の趣旨は、国又は地方公共団体からの委託を受けた事務処理について実費弁償(その委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことをいう。)を受けるにすぎない場合には、同種の事業を営む営利法人の競争条件を特に不利にせず、課税の公平性を害することがないことから、かかる場合における事務処理事業を非課税とする点にある。このことを踏まえ、法人税基本通達15-1-28は、法人税法施行令5条1項10号及び法人税法施行規則4条の3の要件のうち、①委託の主体を国又は地方公共団体に限定せず、②実費弁償の根拠が法令のみならず、行政指導や契約等による場合も含むと非課税範囲を拡張している。

     この点、原告は、法人税法施行令5条1項10号、法人税法施行規則4条の3及び法人税基本通達15-1-28の趣旨は、公益法人等が剰余金をため込むことによる弊害を防止し、公益法人等の適正な活動を保障する点にあると主張する。しかし、原告の指摘する上記法令や通達はもとより、法人税法その他の関係法令は公益法人等が収益事業により上げた収益を内部留保金として蓄積すること等を何ら禁止していないことは明らかであり、原告の主張を容れることはできない。

   イ 法人税基本通達15-1-28における実費弁償の趣旨

     法人税基本通達15-1-28は、公益法人等が事務処理の委託を受けて営む事業につき実費弁償により行われることについて、「その委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことをいう」との定義を置いている。ここにいう「当該業務のために必要な費用」とは、当該業務の直接の経費のみならず、その受託に係る業務の用に供される固定資産の減価償却費、修繕費、租税公課、人件費のうち当該業務に係るものなどの間接的な経費も含まれるが、当該業務以外の経費や利益の上乗せは含まないというべきである。

     本件各事業に係る契約書等(乙3ないし104)を通覧しても、原告の受け取る委託料ないし補助金の額が本件各事業のために原告に必要な経費の額を上回らないことに関する規定は見受けられない。現に本件各事業年度における本件各事業による原告の収入は別紙1-1ないし1-4記載のとおりであるのに対し、本件各事業に必要な経費は別紙2記載のとおりであり(前記前提事実(2))、原告は本件各事業年度において本件各事業によって毎年約1億円の収益を上げているのであって、本件各事業が実費弁償により行われているといえないことは明らかである。

     この点、原告は、本件各事業の委託料ないし補助金収入から必要な経費を差し引いた剰余金を原資として、B市からの多額の一時借入金を返済していることに照らすと、実費弁償の要件を満たす旨主張している。しかし、本件各事業と同種の事業を営む営利法人等においては、得られた委託料収入から必要な経費を控除してもなお残額がある場合には法人税が課されるのであって、そのことはその残額を原資として借入金を返済する場合であっても何ら変わりがない。原告の主張は、結局、その営む事業に係る収入から必要な経費を差し引いた剰余金を原資として借入金を返済する場合において、営利法人よりも公益法人等を有利に扱うことを意味しており、法人税法7条が公益法人等と営利法人との間で競争条件の平等を図り、課税の公平を確保するために公益法人等についても収益事業については課税をすることとしている趣旨に反するというほかない。

     したがって、本件各事業が実費弁償により行われていることについて事前に所轄税務署長の確認を受けていない点について論ずるまでもなく、本件各事業について法人税基本通達15-1-28の適用の余地はない。

  (4) 小括

    以上の検討結果によれば、本件各事業は法人税法2条13号、法人税法施行令5条1項10号にいう「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に当たり、原告が本件各事業によって得た収入は収益事業から生じた所得として課税対象となる。

    なお、原告は、原告の行っている事業の公益性やB市の指示に基づき本件各事業によって上げた利益をもとにB市からの累積借入金を返済しているという実態に鑑みれば、本件各事業を非課税としても課税の公平は害されないとも主張するが、これは法人税法が競合する営利法人との課税の公平を確保するために公益法人等の収益事業について課税することとした趣旨に反するものであって、容れることができない。

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慶田康男裁判長不当判決 横浜地裁平成8年 質問検査権行使について広きに失する

酒井克彦『裁判例からみる税務調査』大蔵財務協会・2020年14頁

損害賠償請求事件

横浜地方裁判所判決/平成7年(ワ)第2328号

平成8年10月2日

【判示事項】    (1) 国税訟務官室職員の質問検査権行使の可否

          (2) 質問検査権行使の時期、場所等実施の細目

          (3) 課税処分等に関する行政訴訟が提起される前の当該課税処分の違法を原因とする損害賠償請求訴訟において、国税訟務官室係官が質問検査権を行使して資料収集することは違法であるとの納税者の主張が、国税訟務官室係官が納税者の主張内容を確認するために訴外司法書士に対して質問検査したことは調査の必要性が認められ、違法性はないとして排斥された事例

          (4) 司法書士の守秘義務と質問検査権に対する回答

          (5) 司法書士が課税庁係官の電話による質問検査に対して、納税者宛に発行した領収書記載金額の内訳について回答したことは、司法書士の収入金額に係る事実であり業務上知り得た秘密には該当しないから、司法書士法に定められた秘密保持の義務に違反するものではないとされた事例

          (6) 司法書士が課税庁係官の質問検査に応じ、課税庁係官がその内容について聴取書を作成して被告国の証拠として提出したとしても、司法書士が司法書士法一〇条が禁止している他人間の訴訟に関与していることには当たらないとされた事例

【判決要旨】    (1) 所得税法二三四条一項は、「国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、」同項一号から三号までに掲げる者に「質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。」と規定し、所得税に関する質問検査権の主体が「国税庁、国税局又は税務署の当該職員」であることを明らかにしているが、右の「当該職員」には、大蔵省組織規定一二八条一項、二項により各国税局課税部に置かれる国税訟務官室の職員を含むものと解される。

           すなわち、所得税法二三四条一項の文理からこれを否定することは到底できないし、実質的に見ても国税訟務官と国税訟務官室は、内国税に係る訴訟に関する事務を処理するものと定められ(右組織規程一二八条一項、三項)、各税務署長の行う課税処分等に関して訴訟が生じた後に、その訴訟に関する事務の処理をその職務とするものであるが、そもそも、右の質問検査権は、脱税を防止するなど国の課税権の適正な行使のために前記当該職員に与えられた権限であり、その趣旨に照らしてみれば、必ずしも原処分のためにだけに行使すれば足りるものではなく、原処分に関して訴訟が提起された後にもなお最終的に適正な課税処置を実現するために調査の必要があるときは、更に質問検査権を行使させてその実現を図ることが右の所得税法二三四条一項の趣旨に適うことになると解されるからである(訴訟提起後の調査の必要は、国税訟務官において良く判断できる事項である。)。

          (2) 所得税法二三四条(当該職員の質問検査権)一項は、質問検査権行使の要件について「所得税に関する調査について必要があるとき」と規定しているのみで、調査の種類、目的及び時期等について何ら限定していないから、具体的な方法、目的に違法がない限り、過去の所得事項に遡って調査することも、課税処分に対する行政訴訟が提起される前に調査することも、また一般に通常民事訴訟と同種訴訟と考えられている国家賠償請求訴訟の追行のために必要であるとして調査活動を行うことも、いずれも許容されるものと解される。

          (3) 省略

          (4) 司法書士法一一条は、司法書士は正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた事実を他に漏らしてはならない旨規定しており、右規定は、登記申請人等のプライバシー、営業上又は名誉若しくは信用上の秘密を保護するためのものと解されるところ、一方では国税庁、国税局又は税務署の当該職員についても同様の守秘義務が課されており(国家公務員法一〇〇条一項)、当該職員に対する告知が当然に漏洩とはならないことにかんがみると、当該職員が司法書士に対して質問検査権を行使する場合においては、その調査が必要とされる範囲内の事項については、特別の事情のない限り、右質問に応じて回答することは司法書士法一一条所定の秘密保持義務に違反するものではないと解するのが相当である。

          (5)・(6) 省略

【掲載誌】     税務訴訟資料221号1頁

 

       主   文

 

 一 原告の請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 原告の請求

 一 被告国は、原告に対し、金一〇九五万円及びこれに対する平成五年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 二 被告渡部芳雄は、原告に対し、金九五万円及びこれに対する平成五年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 一 争いのない事実

  1 原告は、保土ヶ谷税務署長(以下「税務署長」という。)が行った原告の平成二年分の所得税の減額更正処分、平成三年分の所得税額の決定等の課税処分とこれに先立つ税務相談等に違法があったとして、平成五年四月一六日被告国を相手方として1095万円の損害賠償を請求する訴訟(横浜地方裁判所平成五年(ワ)第一三一六号損害賠償請求事件。以下「前訴」という。)を提起した。

  2 被告国の公務員である石倉正光大蔵事務官(以下「石倉事務官」という。)は、東京国税局課税第一部国税訟務官室に配属された大蔵事務官であり、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律二条二項に基づく被告国の指定代理人として、前訴の訴訟追行に携わっていた。

  3 石倉事務官は、前訴の訴訟追行の準備のため、平成五年一〇月八日、司法書士である被告渡部芳雄(以下「被告渡部」という。)に対し、前訴において平成二年の譲渡所得であるか平成三年の譲渡所得であるかが争われた原告の訴外長田恵美子への不動産譲渡についての登記手続事務につき被告渡部が受領した報酬等に関して、同人が平成二年一二月七日付けで発行した金二三万七五〇〇円の領収書(以下「本件領収書」という。)の内容事項について電話で質問をし、被告渡部から回答を得た(以下、この質問と回答を「本件聴取」という。)。

  4 石倉事務官は、本件聴取の結果に基づいて別紙記載のとおりの電話聴取書(以下「本件聴取書」という。)を作成し、右文書を前訴における被告国の書証(乙第一三号証)として裁判所に提出した。

  5 横浜地方裁判所は、平成六年二月一日前訴について原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。

 二 原告の主張

  1 被告国の責任

   (一) 質問検査権の主体

     石倉事務官の本件聴取は、所得税法二三四条一項三号所定の質問検査権に基づいてされたものであるところ、国税訟務官や国税訟務官室の大蔵事務官は、質問検査権の主体には該当しないから、本件聴取は権限なくしてされた違法な税務調査であり、本件聴取書は違法に収集された証拠である。

   (二) 平成二年分の所得税に関する調査資料の収集

     仮に石倉事務官が質問検査権の主体に該当するとしても、本件聴取における質問事項は被告渡部が平成二年一二月七日付けで発行した領収書に関するものであるが、このような質問検査権が許容されるのは同年分の課税処分等に関する行政訴訟が提起された後であるべきである。民事訴訟(国家賠償請求事件)である前訴の訴訟追行のために、石倉事務官が質問検査権を行使して同年分の所得税に関する調査を行って資料を収集するのは違法である。

   (三) 被告渡部に対する違法教唆及び幇助等

     石倉事務官は、被告渡部に右のような違法な調査に対する協力を求め、被告渡部もこれに応じて違法な本件聴取が行われたのである。また、石倉事務官は、被告渡部において本件回答をすることが後記2(一)及び(二)のとおり司法書士法所定の義務に違反することを知りながら、被告渡部をして違法に右義務違反行為を行わしめるよう教唆又は幇助をしたものであって、被告渡部と共同不法行為の関係に立つ。

   (四) 石倉事務官の違法な領収書取得

     本件聴取を行うに際しては、石倉事務官は本件領収書の原本又は写しを所持していたものと考えられるが、本件領収書は平成二年一二月七日に被告渡部から原告に発行されたものであり、原告の事務所から外部に出た事実はない。したがって、保土ヶ谷税務署の税務調査の際に盗まれたとしか考えられず、石倉事務官は違法に本件領収書の原本又は写しを入手している。

   (五) 以上によれば、被告国は、石倉事務官の故意又は過失に基づく違法な公権力の行使によって生じた原告の後記3(一)の損害について国家賠償法一条一項による責任を負う。

  2 被告渡部の責任

   (一) 司法書士法一一条違反

     被告渡部は、正当な事由がある場合でなければ、司法書士として業務上取り扱った事件について知ることのできた事実を他に漏らしてはならないという秘密保持義務(同法一一条)を負っていたにもかかわらず、右義務に違反して本件聴取に応じたのは違法である。

   (二) 同法一〇条違反

     被告渡部は、司法書士として業務の範囲を超えて他人間の訴訟その他の事件に関与してはならない義務(同法一〇条)を負っていたにもかかわらず、右義務に違反し、本件聴取書が前訴において被告国の証拠方法として提出されることを認識していながら、本件聴取に応じたのは違法である。

   (三) 以上によれば、被告渡部は、司法書士法上の右各義務に違反する違法な行為により、原告に後記3(二)の損害を負わせたものであり、原告に対して不法行為責任を負う。

  3 原告の損害

   (一) 石倉事務官の行為によって生じた損害 合計一〇九五万円

     原告は、本件聴取書が被告国の証拠方法として提出されなければ前訴において敗訴することはなかったのであるから、石倉事務官の右不法行為により、前訴で請求した損害金一〇〇〇万円と慰謝料九五万円の合計一〇九五万円の損害を被っている。

   (二) 被告渡部の行為によって生じた損害 九五万円

     原告は、被告渡部の行為によって著しい精神的苦痛を被ったが、右苦痛に対する慰謝料として九五万円が相当である。

  4 よって、原告は、被告国に対する国家賠償法一条一項による損害賠償請求として合計一〇九五万円、被告渡部に対する不法行為による損害賠償請求として九五万円並びに右各金員に対する不法行為の日である平成五年一〇月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 三 被告国の主張

  1 質問検査権の主体

    国税訟務官及び国税訟務官室の大蔵事務官は、所得税法二三四条一項所定の「国税局の当該職員」に該当するから、質問検査権の主体となりうる。

  2 平成二年分の所得税に関する調査資料の収集

    質問検査権は、同項に規定する「所得税に関する調査について必要があるとき」においては、調査の種類、目的及び時期等を問わず行使することができるものであるから、前訴のように所得税課税処分等の違法を理由とする損害賠償(国家賠償)請求訴訟のために、その係属中に質問調査を行うことも何ら違法ではない。

  3 被告渡部に対する違法教唆及び幇助等

   (一) 司法書士法一一条所定の義務違反

     本件聴取書は、石倉事務官において電話のやり取りの内容を整理要約して作成したものであり、被告渡部が本件聴取において実際に回答したのは、登録免許税と司法書士の報酬に関する部分だけである。これは納税額と同被告自らの収入金額に係る事実に過ぎないのであるから、司法書士の業務上知り得た秘密には該当しない。

   (二) 同法一〇条所定の義務違反

     同法一〇条にいう「他人間の訴訟への関与」とは、業務として代理人に類似する行為を行うなど訴訟に直接関与する場合をいうと解される。被告渡部は石倉事務官の質問検査権の行使に対して回答すべき責任義務を果たしたに過ぎないのであるから、他人間の訴訟に関与したとはいえない。

  4 以上によれば、石倉事務官は本件聴取に当たり質問検査権を適法に行使して質問し、被告渡部は右質問に対して回答すべき義務を果たしたに過ぎないから何ら不法行為を構成するものではない。

 四 被告渡部の主張

  1 石倉事務官が原告の資料を探り出す目的で被告渡部に協力を求めた事実はなく、右事務官は、税務調査の権限行使であると告げて本件聴取を行ったものであり、被告渡部がこれに応じたことは何ら違法ではない。

  2 司法書士法一一条所定の義務違反

    被告渡部が実際に本件聴取において回答したのは、登録免許税と司法書士の報酬に関する部分だけであって、右部分のうち登録免許税の税額は登録免許税法に法定されているし、司法書士の報酬については司法書士会の報酬規定に明示されているから、これらは司法書士の業務上知り得た秘密には該当しない。

  3 同法一〇条所定の義務違反

    被告渡部は、本件聴取に当たり石倉事務官の質問に対して回答しただけであり、石倉事務官がその後右聴取の内容を要約整理して作成した本件聴取書を前訴における被告国の書証として裁判所に提出したとしても、これをもって被告渡部が他人間の訴訟に関与したことにはならない。

  4 以上によれば、被告渡部の行為は何ら不法行為を構成するものではない。

 五 争点

  1 国税訟務官室の大蔵事務官が質問検査権の主体となるか。

  2 国税訟務官室の大蔵事務官は、所得税に関する課税処分等に関する行政訴訟が提起される前に、民事訴訟の追行のために訴訟外で質問検査権を行使して所得税に関する課税資料を収集できるか。

  3 被告渡部が本件聴取において石倉事務官の質問に回答したことが司法書士法一一条所定の秘密保持義務違反に該当するか。

  4 被告渡部が本件聴取において石倉事務官の質問の回答したことが司法書士法一〇条の禁止する他人間の訴訟に関与したことに該当するか。

  5 その他、本件聴取に違法があるか。

  6 原告の損害

第三 争点に対する判断

 一 争点1について

   所得税法二三四条一項は、「国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、」同項一号から三号までに掲げる者に「質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。」と規定し、所得税に関する質問検査権の主体が「国税庁、国税局又は税務署の当該職員」であることを明らかにしているが、右の「当該職員」には、大蔵省組織規程一二八条一項、二項により各国税局課税部に置かれる国税訟務官と国税訟務官室の職員を含むものと解される。

   すなわち、所得税法二三四条一項の文理からこれを否定することは到底できないし、また、実質的に見ても国税訟務官と国税訟務官室は、内国税に係る訴訟に関する事務を処理するものと定められ(右組織規程一二八条一項、三項)、各税務署長の行う課税処分等に関して訴訟が生じた後に、その訴訟に関する事務の処理をその職務とするものであるが、そもそも、右の質問検査権は、脱税を防止するなど国の課税権の適正な行使のために前記当該職員に与えられた権限であり、その趣旨に照らしてみれば、必ずしも原処分のためだけに行使すれば足りるものではなく、原処分に関して訴訟が提起された後にもなお最終的に適正な課税処置を実現するために調査の必要があるときは、更に質問検査権を行使させてその実現を図ることが右の所得税法二三四条一項の趣旨に適うことになると解されるからである。(訴訟提起後の調査の必要は、国税訟務官において良く判断できる事項である。)。

   石倉事務官は、前記のとおり、東京国税局課税第一部の国税訟務官室に属する大蔵事務官であるから、訴訟が提起された後にも原告に対する税務調査のために質問検査権を行使し得ることに問題はなく、この点で本件聴取に違法はない。

 二 争点2について

  1 原告は、本件聴取の目的は、原告が平成二年一二月七日付けで被告渡部から受領した本件領収書の内容事項であり、平成七年に原告が行政処分の取消訴訟を提起する前の平成五年一〇月八日に、民事訴訟である前訴の訴訟行為の追行のために本件聴取が行われたことは違法であるという趣旨の主張をするので検討するに、所得税法二三四条一項は、質問検査権行使の要件について「所得税に関する調査について必要があるとき」と規定しているのみで、調査の種類、目的及び時期等について何ら限定していないから、具体的な方法、目的に違法がない限り、過去の所得事項に遡って調査することも、課税処分に対する行政訴訟が提起される前に調査することも、また一般に通常民事訴訟と同種訴訟と考えられている国家賠償請求訴訟の追行のために必要であるとして調査活動を行うことも、いずれも許容されるものと解される。

  2 したがって、原告が、右の一般論の範囲で石倉事務官の本件聴取の違法をいう限りでは原告の主張に理由はないが、なお、本件聴取の必要性に関して、事実関係を検討するに、前記争いのない事実に、証拠(甲一、甲四、乙一ないし乙五、丙一)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が平成五年四月一六日に横浜地方裁判所において提起した前訴においては、原告は、昭和五四年一二月以降所有していた横浜市旭区柏町五八番一所在の土地一九〇・九八平方メートル(以下「旧土地」という。)から分筆された宅地九〇・二一平方メートル(以下「本件土地」という。)と本件土地上の建物一棟(以下「本件建物」という。)を訴外長田恵美子(以下「長田」という。)に対して代金一億六五〇〇万円で売却する旨の売買契約に係る譲渡所得が平成三年に発生したとして、租税特別措置法三五条一項所定の特別控除の適用を認めることなくされた税務署長の平成二年分についての減額更正処分と平成三年分の所得税額等の決定処分の適法性を争い、長田との間で右売買契約の外に平成二年一〇月三〇日付けで本件土地と旧土地上の木造二階建て建物(以下「旧建物」という。)を売却する旨の売買契約があるとして譲渡年を平成三年と認定した右処分の違法を主張し、その根拠として本件土地及び旧建物の所有権移転登記が平成二年一二月七日に行われている事実を主張したこと、石倉事務官は、前訴において被告国の指定代理人として訴訟追行していたが、旧建物は平成二年一一月に取り壊されているにもかかわらず、同年一二月七日に同日売買を原因として原告から長田に対する所有権移転登記が経由され、平成三年七月二六日に同年一月一〇日の取毀を原因とする滅失登記がされていることが判明したので、これらの登記の申請を誰が司法書士に依頼したかを確認する必要があると考え、前訴において原告から書証として提出されていた原告の平成二年分の所得税の確定申告書に添付されていた「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面を手がかりにして、被告渡部が右登記申請を受任して平成二年一二月七日付けで二三万七五〇〇円の報酬等に関する本件領収書を原告に発行している事実を把握し、本件聴取を行うことになったことが認められる。

  3 右の認定事実によれば、原告は、前訴において、平成二年一二月七日に本件土地と旧建物の所有権移転登記が行われたのであるから本件土地及び旧建物の譲渡年は平成二年であると主張したけれども、旧建物がすでに同年一一月に取り壊されていた事実が判明していたと認められるのであって、右主張実態に即していないのではないかと疑いが生じたのも当然であると考えられ、このような疑いがある以上、石倉事務官において、被告渡部に対して本件領収書の宛先及び内訳について質問調査をする必要があったというべきである。このようにして、本件聴取に関して調査の必要性を認めることができるから、石倉事務官の質問検査権の行使に違法性があるとはいえない。

 三 争点3について

  1 司法書士法一一条は、司法書士は正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた事実を他に漏らしてはならない旨規定しているが、右規定は、登記申請人等のプライバシー、営業上又は名誉若しくは信用上の秘密を保護するためのものと解される。しかし、一方では国税庁、国税局又は税務署の当該職員についても同様の守秘義務が課されており(国家公務員法一〇〇条一項)、当該職員に対する告知が当然に漏洩とはならないことにかんがみると、当該職員が司法書士に対して質問検査権を行使する場合においては、その調査が必要とされる範囲内の事項については、特別の事情のない限り、右質問に応じて回答することは司法書士法一一条所定の秘密保持義務に違反するものではないと解するのが相当である。

  2 ところで、本件においては、前記争いのない事実に、証拠(甲一、乙一ないし乙三、乙五、丙一)を総合すると、石倉事務官は、平成五年一〇月初めごろ被告渡部に対し、原告の所得税に関する調査である旨を告げた上で、同被告に本件領収書の宛先及び内訳について質問したところ、被告渡部は、平成四年以前の事件の関係資料を自宅に保管していたことから右質問に即答することができなかったため、石倉事務官は、改めて同月八日午後一時四〇分ごろ被告渡部に対し、電話で再度同じ質問をしたところ、被告渡部は、領収書簿冊から本件領収書の写しを検索し、右写しに基づいて、本件領収書は原告宛に発行されたものであり、その内訳は、根抵当権の抹消登記及び所有権移転登記に関する登録免許税、報酬、閲覧及び謄写の費用及び交通費等である旨回答したが,それ以外の事項(旧建物の表示、登記上の権利者及び義務者の住所の表示、登記原因たる売買の日付等)については、石倉事務官から質問もなかったので回答しなかったこと、石倉事務官は、本件聴取後、聴取した内容(領収書の宛先及び内訳)を本件聴取書にまとめるに際して、右の登記申請の内容を特定するため、旧建物の閉鎖登記簿謄本を参考にしながら本件聴取書の「答」の欄に旧建物の表示、登記の目的及び原因、登記権利者及び義務者の住所などを記載したこと、そして、石倉事務官らは前訴において本件聴取書を被告国の書証として提出し、これに基づいて平成二年に行われた本件土地及び旧建物の所有権移転登記は買主の意思にかかわりなく原告が主導して行ったものである旨の主張を行ったことが認められる。

  3 右の認定事実によれば、石倉事務官の本件領収書の宛先及び内訳についての質問に対して、被告渡部は、本件領収書は原告宛に発行されたものであり、その内訳は根抵当権の抹消登記及び所有権移転登記に関する登録免許税、報酬、閲覧及び謄写の費用及び交通費等である旨回答したにとどまり、それ以外については何ら告知していなかったことが認められる。したがって、右の特別の事情があるとはいえず、何ら右の秘密保持の義務に違反したとはいえない上、右の回答事項は専ら右被告収入金額に係る事実に過ぎないのであって、そもそも司法書士の業務上知り得た秘密には該当しないというべきである。

    このようにして、被告渡部が右質問に回答したことをもって、同条の秘密保持義務に違反したことにはならず、違法はない。

 四 争点4について

   前記認定のとおり、被告渡部は、石倉事務官の質問調査に応じて本件領収書の宛先及び内訳について回答したにとどまるのであり、その後、石倉事務官において、同被告の回答内容を証拠とするために本件聴取書を作成し、前訴における被告国の書証として提出したからといって、右被告の回答行為が司法書士法一〇条が禁止している他人間の訴訟に関与することに当たるとはいえず、この点で違法性を認めることはできない(後述のとおり、石倉事務官と被告渡部が違法な目的の下で協力し合ったという事実を認める証拠はない。)。

 五 争点5について

  1 原告は、本件聴取が行われたことについては、原告に関する課税資料を探り出す目的で被告渡部に協力を申し入れ、被告渡部もこれに応じたという共同不法行為の関係があると主張するが、本件聴取に関する事実関係は前記認定のとおりであって、右事実関係から原告の右主張事実を推認することは到底できず、本件全証拠によるも、原告の右主張を裏付けることはできない。また、原告は、石倉事務官が被告渡部の各司法書士法違反を教唆し、又は幇助したとも主張するが、被告渡部に司法書士法違反の事実がないことは、前記認定のとおりであって、原告の右主張も失当である。

  2 更に、原告は、石倉事務官は入手できる筈のない本件領収書の原本又は写しを入手して本件聴取を行った違法があると主張するが、前記認定のとおり、石倉事務官は、原告が保土ヶ谷税務署に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面のメモ等を手がかりとして本件聴取を行ったものと認められ、本件領収書の原本又は写しを入手した事実を認めるべき証拠はないから、原告の右の主張も理由がない。

 六 結論

   以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

    横浜地方裁判所第五民事部

        裁判長裁判官  慶田康男

           裁判官  千川原則雄

           裁判官  高橋伸幸

 

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