岡本法律事務所のブログ

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2022年03月

ラジオタイランド 2022年3月31日 木 2200~2215JST

9390kHz 44443 ICOM IC756PRO3 25mH DP

 

2200 ニュース

警察は情報詐欺を監視するように注意をよびかけている。

 

 

社会保障費の引き下げが閣議決定された。

 

デジタル経済社会省が国立環境情報センターを開設した。

 

政府は予防接種政策を優先させている。

 

 

 

 

 

 

 

小島ひでみ

離婚親子関係の国際私法上の常居所

国際私法判例百選第3版4事件

婦関係調整調停申立事件

【事件番号】    水戸家庭裁判所審判/平成2年(家イ)第565号

【判決日付】    平成3年3月4日

【判示事項】    1 妻(フランス国籍)から夫(イギリス国籍)に対する、離婚及び子(イギリス、フランスの二重国籍)の親権者指定調停申立事件において、相手方の住所地国を日本として我が国に国際裁判管轄権を認め、離婚については、法例16条、14条により夫婦に最も密接な関係がある地を日本として我が国の民法を適用し、親権者の指定については、法例28条1項、21条により子に最も密接な関係がある国をイギリスとして、同国法を適用した事例

          2 上記の調停申立事件において、離婚及び親権者を相手方父と指定する旨の合意はあるが、離婚の準拠法である日本民法とは異なり、親権者指定についての準拠法であるイギリス法には協議ないし調停離婚制度がないから、離婚と併せて親権者の指定をなすには調停で行うのは相当でないとして、家事審判法24条により調停に代わる審判をした事例

【参照条文】    法例14

          法例16

          法例21

          法例28-1

          家事審判法24

【掲載誌】     家庭裁判月報45巻12号57頁

【評釈論文】    ジュリスト1085号110頁

          別冊ジュリスト133号24頁

          別冊ジュリスト133号128頁

 

       主   文

 

 1 申立人と相手方を,離婚する。

 2 当事者間の長男デュポン・ピエール・コティー(DUPONT PIERRE COTY 1979年8月21日生)の親権者を相手方と定める。

 

       理   由

 

1 申立人は,主文同旨の審判を求めた。

2 家庭裁判所調査官○○○○及び同○○○○作成の調査報告書及びその余の資料及び本調停の経過を総合すれば,次の各事実を認めることができる。

 (1) 申立人は,フランス国籍を有するものであるが,同人が20歳ころたまたまスリランカにおいて相手方と出会い,行動を共にするようになり,2~3ケ国を経て1979年5月日本に相手方とともに来て,那珂湊市に居住した。そして1979年8月21日当事者間に長男のデュポン・ピエール・コティー(DUPONT PIERRE COTY)が出生した。その後申立人と相手方はビザを更新しながら3年8月を日本で過ごし,1983年にヨットを完成させて親子3人で世界一周の船旅に出た。申立人らは,ヨーロッパ,カナリア諸島,南アフリカ,南アメリカ等を経て1990年5月に日本の小笠原群島に到達して世界一周の船旅を終えた。この間,フランスに2年間,ケニアに1年半及び仏領ギニアに1年滞在し,同地でそれぞれ働いて生活費を得ていた。申立人らは,長男のためにも正式に婚姻していたほうが良いと考えるようになり,1990年4月22日にグァムにおいて婚姻した。

 (2) 相手方は,イギリス国籍を有するものであるが,1963年に軍役を退き日本に観光目的で渡来し,半年日本に滞在し,1967年ころその前年にメキシコで婚姻した前妻をつれて来日し,東京に居住して,読売新聞の英字版のコピーライターとして稼動し,その間に長女フランソワをもうけている。1970年ころ一度英国に帰り1年前後してまた来日し,今度は水戸市に居住して,ヨットの作製を始めたが前記妻とそのころ離婚し,相手方は長女と共に自作のヨットを住居として,那珂湊市で生活をしていた。そして1977年長女とともに自分のヨットでイギリスに船出し,その途中で申立人とたまたま出会い生活を共にするようになった。相手方はその後申立人と共にイギリスに行き,一旦別れた妻のところにいた長女を連れてまた1979年5月日本に帰り,以後は申立人と相手方はヨットの製作や語学教師をしながら生活していた。その間長男ピエールが出生した。その後3年9月近く申立人と相手方とピエールは日本で生活し,1983年3月自作のヨットで3人で世界一周の船旅に出かけ,また日本に来たものである。

 (3) その後また前記の如く申立人らは,1983年に世界一周をして1990年に来日し,那珂湊市に居住したが,申立人が病気にかかったこともあり,申立人において相手方との前記のような放浪的な生活を嫌うようになり,結局離婚すること及び長男は相手方が養育監護することに当事者間で合意ができた。なお,今後は申立人は引き続き日本に居住し,相手方との離婚成立後には,日本人である田中修司と結婚する予定であり,他方相手方は1年前後は引き続き日本に留まるつもりであるが,いずれ長男を連れて,アフリカのケニアに行き,同所において事業をしながら生活してゆくものの如くである。

 (4) 申立人と相手方は,離婚することについて合意があり,かつ,長男についても相手方が今後監護養育するについて合意ができている。

3 裁判管轄

  前認定の如く,相手方は,1963年に始めて来日して以来,1967年から約3年間妻子とともに日本に滞在し,かつ,東京において定職を得て稼働し,その後も1971年にはさらに3回目の来日をなし,その時は,水戸市及び那珂湊市において相手方の長女とともに自作のヨットで船上生活をしながら語学教師等をしつつ約7年間も日本において生活を続け,1978年5月イギリスへの航海の途中に申立人と知り合い生活をともにするようになり,1979年5月にまた日本に戻って申立人及び長男と生活し,その約3年半後に日本を出て,ヨットで世界一周旅行に出て世界各地を転々とし,1990年5月に申立人らとともにまた日本に戻り,現在の肩書住所地において長男とともに生活しており,ここ1年前後は日本に留まる予定である。

  ところで我国の裁判所が本調停事件について管轄権を有するか否かの観点から見るに,以上の相手方の生活状況に鑑みるとき相手方には,右の意味における住所を我国に有するものということができ,かつ,相手方は本調停に出頭して,主文同旨の内容について申立人と合意をなしており,相手方の前記の住所地を考慮し,結局我国裁判所が本調停について管轄権を有する。

4 準拠法

 (1) 離婚について

   法例16条によれば,同法14条が離婚に準用されるところ,同法14条によれば,夫婦の本国法が同一であるときは,その法律により,その法律がないときは,夫婦の常居所地法が同一であるときは,その法律によるが,以上のいずれの法律もないときは,夫婦に最も密接な関係にある地の法律によることとされている。ところで,本件においては,当事者はその本国を異にし,また,申立人の日本における滞在期間は,1979年5月から3年半余及び今回の1990年5月以降現在までのもののみであり,申立人は,その後相手方としばらくして別居しており,以上の生活状況からすると,法例に14条及び16条にいう常居所を日本に有するとはいえないので,結局本件に適用さるべき法律は,夫婦に最も密接な関係にある地の法律ということとなる。

   ところで,相手方は,前記のとおり日本との関わりを持ち,1963年に初めて日本に来てからは,その後1967年から3年,1971年から約7年,1979年から3年半余日本に滞在して語学教師等をして生活し,日本を離れていた時は,殆どヨットで世界を転々と巡りながら生活してきており,ここ20年間は日本以外には落ち着いて生活したことがないような生活状態であった。以上であるとすれば,少なくとも現時点においては,相手方は法例14条及び16条にいう常居所を日本に有するということができ,その他の前記の日本と相手方との関わり具合及び申立人も今後日本に引き続き居住し,日本人と早期に婚姻する予定であること等を勘案すると,夫婦に最も密接な関係にある地の法律は本件においては,日本法に他ならないということができる。以上であるとすれば,本件には日本民法及び家事審判法等が適用されることになるところ,当事者間において離婚の合意ができており,調停期日に当事者が当家庭裁判所に双方出頭してその旨の合意がなされたので,申立人と相手方の離婚を定めるものである。

 (2) 次に当事者間の長男の親権者の定めについては,法例21条によることになるところ,右長男はイギリス及びフランスの二重国籍を有するところ,法例28条1項によれば,当事者が常居所を有するときは,その国の法律により,もしその国がないときは,当事者に最も密接な関係のある国の法律に依るべきところ,本件においては,当事者間の長男については常居所は少なくともフランス及びイギリスには存しないから,本件においては,法例28条1項にいう当事者に最も密接な法律によるべきところ,本件当事者間で長男の養育監護は,今後父である相手方がこれをなすことに合意があり,かつ,長男本人においてもこれを了解して相手方と現在生活を共にしており,今後相手方と長男はいずれ英語圏のケニアに居住し,右長男に対しイギリス人としての教育を受けさせたいとの意向である。そうであるとすれば,法例28条1項にいう当事者に最も密接な法律は,本件の場合イギリス法にほかならず,しかして,法例21条によれば,長男の父である相手方はイギリス国籍を有し,長男の前記密接関連国と同一であるから,結局イギリス法によることとなる。しかして,イギリスにおける子の親権,監護権の帰属の問題についての関係法規であるところの未成年者後見法(GUARDIANSHIP OF INFANTS ACT),婚姻事件法(MATRIMONIAL ACT)及び婚姻訴訟法(MATRIMONIAL PROCEEDINGS ACT)等によれば,夫婦の離婚の際裁判所は,子の福祉を考慮して夫または妻のいずれかを,子の親権者とすることができるところ,本件においては,申立人及び相手方の前記の合意及び子の福祉に鑑み,相手方を右長男の親権者とすることを相当とする次第である。

5 本件は,申立人と相手方の離婚については法例16条及び14条により結局密接関連としての日本民法が適用されるので,当事者間に離婚の合意があるときは,調停離婚が許されるところであるが,他方子の親権者の指定については法例21条により,子の密接関連国であるイギリス法が適用されるところ,同国法においては我が国におけるが如き全くの協議離婚あるいは調停離婚制度は無いといってよく,親権者の指定は裁判所がなすこととしているので,申立人と相手方の離婚と子の親権者の裁判所による指定を同時になす関係上,本件を調停によらしめるのは相当でないので,当裁判所は,当調停委員会を構成する家事調停委員川崎準雄及び同藤須賀子の各意見を聞いた上,家事審判法24条により,調停に代わる審判をし,主文のとおり審判する。(家事審判官 櫻井康夫)

〔編注〕事件関係人の人名は仮名にした。

 

 

 

 

上田豊三裁判長名判決 最高裁平成17年 非上場株式の価額算定と法人税額相当額控除の可否

 最高裁平成17年11月8日 破棄差戻 金子②4版249頁

山口敬三郎『重要租税判例の解釈Ⅴ』リンケージ・パブリック 2020年 7

所得税更正処分等取消請求事件

最高裁判所第3小法廷判決/平成14年(行ヒ)第112号

平成17年11月8日

【判示事項】       昭和62年の非上場株式の取引に係る個人の所得金額の計算に当たり同株式を1株当たりの純資産価額を基に評価する場合に資産の時価と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等相当額を控除して純資産価額を計算すべきであるとされた事例

【判決要旨】     昭和62年に個人が非上場株式を低額で譲り受けたことによる給与所得に係る収入金額とすべき金額,同年に個人が法人に対し非上場株式を低額で譲渡したことによる譲渡所得に係る総収入金額に算入すべき金額及び同年に個人が有利な発行価額による非上場の新株を取得する権利を与えられたことによる一時所得に係る総収入金額に算入すべき金額の各計算に当たり,上記各株式を発行会社の1株当たりの純資産価額を基に評価する場合において,発行会社の資産の時価と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除して計算した1株当たりの純資産価額による上記各株式の評価が,当時,一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致しており,著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらすことがうかがわれないなど判示の事情の下では,発行会社が当時順調に営業を行っていたとしても,上記控除をして純資産価額を計算すべきである。

【参照条文】       所得税法28-2

             所得税法33-3

             所得税法34-2

             所得税法36-1

             所得税法36-2

             所得税法59-1

             所得税法施行令(平10政令104号改正前)84-1

             所得税法施行令169

【掲載誌】        訟務月報52巻11号3503頁

             最高裁判所裁判集民事218号211頁

             裁判所時報1399号440頁

             判例タイムズ1198号121頁

             判例時報1916号24頁

             税務訴訟資料255号

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1338号220頁

             税務弘報54巻2号90頁

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人系光家ほかの上告受理申立て理由第4,第5について

 1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1)昭和62年当時,上告人X1(以下「上告人X1」という。)は,上告人株式会社X3(当時の商号はA株式会社。以下「上告会社」という。)及びその関連会社の株式会社B(当時の商号は株式会社C。以下「C社」という。)の代表者であり,上告人X1の長男である上告人X2(以下「上告人X2」という。)は,上告会社の役員であり,その関連会社の株式会社D(以下「D社」という。)の代表者であった。上告会社及びC社は,順調に営業活動を行っていた。

 (2)昭和62年2月当時,上告会社の発行済株式数は100万株であり,株主の保有株式数の内訳は,上告人X1が8万0200株,上告人X2が4000株,D社が80万株,E株式会社が9万3000株,その余の株主が2万2800株であった。

 (3)上告会社は,300万株の新株を発行することとし,昭和62年2月9日に開催された取締役会において,発行価額を1株当たり500円として,上告人X1に200万株,上告人X2に84万株,D社に16万株の新株を割り当てる旨の決議をした。同決議に基づき割当てを受けた者は,同年3月11日,新株に係る払込みをし,これを引き受けた。

 (4)上告人X2は,昭和62年3月26日,E株式会社に対し,上記(3)のとおり引き受けた新株84万株のうち18万7000株を1株当たり500円で譲渡した。

 (5)上告会社は,上告人X1に対し,その保有するC社株式について1株当たり1200円で,昭和62年3月30日に90万株を,同月31日に23万株を,それぞれ譲渡した。

 (6)上告人X1は,昭和62年5月12日,D社に対し,前記(3)のとおり引き受けた新株200万株を1株当たり500円で譲渡した。

 (7)被上告人武蔵府中税務署長は,平成3年3月12日,上告人X1に対し,昭和62年分の所得税について,① 前記(3)のとおり引き受けた新株の時価と発行価額との差額が上告人X1の一時所得に当たること,② 前記(5)のとおり譲り受けたC社株式の時価と譲受け価額との差額が上告会社からの賞与として上告人X1の給与所得に当たること,③ 前記(6)の株式譲渡により上告人X1に譲渡所得が生じたこと,以上を理由として増額更正(以下「本件更正1」という。)をした。

 (8)被上告人武蔵府中税務署長は,平成3年3月12日,上告人X2に対し,昭和62年分の所得税について,前記(3)のとおり引き受けた新株の時価と発行価額との差額が上告人X2の一時所得に当たることを理由として増額更正(以下,同更正のうち審査裁決により一部取り消された後のものを「本件更正2」という。)をした。なお,同裁決は,前記(4)の株式譲渡により上告人X2に譲渡所得が生じたと認定した。

 (9)被上告人新宿税務署長は,平成3年3月18日,前記(7)②のとおり上告会社が上告人X1に対し賞与を支給したと解されるとして,上告会社に対し,昭和62年3月分の源泉徴収による所得税の納税の告知(以下,同告知のうち審査裁決により一部取り消された後のものを「本件告知」という。)をした。

 (10)所得税法施行令(平成10年政令第104号による改正前のもの。以下同じ。)84条1項は,発行法人から有利な発行価額による新株を取得する権利を与えられた場合における当該権利に係る所得税法36条2項の収入金額とすべき価額は,当該権利に基づく払込みに係る期日における新株の価額から当該新株の発行価額を控除した金額によると規定している。

 そして,国税庁長官の発出した昭和45年7月1日付け直審(所)30(例規)「所得税基本通達」(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)は,当該新株若しくはこれに係る旧株が証券取引所に上場され,又はそれらの株式に気配相場がある場合以外の場合における所得税法施行令84条1項に規定する「払込みに係る期日における新株の価額」について,売買実例のあるものにあっては,最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額とし(同(4)イ),売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類,規模,収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるものにあっては,当該価額に比準して推定した価額とし(同(4)ロ。以下,同(4)ロの定める評価の方式を「類似法人比準方式」という。),それらに該当しないものにあっては,当該払込みに係る期日又は同日に最も近い日におけるその株式を発行する法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする(同(4)ハ)と定めている。

 上告会社及びC社の各株式は,非上場株式で気配相場もなかった。

 (11)国税庁長官の発出した昭和44年5月1日付け直審(法)25「法人税基本通達」(平成12年課法2―7による改正前のもの)6―1―4(3)は,有利な発行価額で新株が発行された場合におけるその1株当たりの価額について,新株又は旧株が証券取引所に上場されている場合以外の場合には,その新株の払込期日において当該新株につき同通達9―1―11から9―1―15までに準じて合理的に計算される価額によることとしている。そして,法人税基本通達(平成2年直法2―6による改正前のもの)9―1―14(3)は,「売買実例のあるもの」及び「売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類,規模,収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの」に該当しない非上場株式で気配相場のないものの価額は,「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によることとしている。さらに,同通達9―1―15は,法人が非上場株式で気配相場のないもの(売買実例のあるものを除く。)について法人税法(平成17年法律第21号による改正前のもの)33条2項の規定を適用する場合において,事業年度終了の時における当該株式の価額につき,国税庁長官の発出した昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17「相続税財産評価に関する基本通達」(なお,平成3年課評2―4,課資1―6により,題名が「財産評価基本通達」に改められた。以下「評価通達」という。)の178から189までの例によって算定した価額によっているときは,課税上弊害がない限り,所定の条件を付してこれを認めるものとし,この条件の一つとして,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185に定める1株当たりの純資産価額の計算に当たり,当該株式の発行会社が有する土地を相続税路線価ではなく時価により評価するものとしている。

 (12)上告会社及びC社は,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)178に定める大会社に該当するところ,評価通達(平成6年課評2―8,課資2―113による改正前のもの)179(1)は,取引相場のない大会社の株式の価額は,類似業種比準価額によって評価し,納税義務者の選択により,1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することができる旨を定めている。そして,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185は,上記の1株当たりの純資産価額を,課税時期における各資産を同通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び同通達186―2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下「法人税額等相当額」という。)を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とすると定めている。

 (13)上記の法人税額等相当額は,昭和59年4月1日から同62年3月31日までは,次のアの金額からイの金額を控除した残額に57%を乗じて計算した金額とされ(評価通達(昭和62年直評11,直資2―103による改正前のもの)186―2),同年4月1日から平成元年3月31日までは,同残額に56%を乗じて計算した金額とされている(評価通達(平成元年直評7,直資2―206による改正前のもの)186―2)。

 ア 課税時期における各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額

 イ 各資産の帳簿価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額

 2 本件は,① 上告人X1が,主位的に本件更正1のうち申告額を超える部分の取消しを,予備的に同部分のほかに申告額を下回る一定部分の取消しを,② 上告人X2が本件更正2の一部の取消しを,③ 上告会社が本件告知の取消しを,それぞれ求める事案である。

 3 原審は,次のとおり判断して,本件更正1,本件更正2及び本件告知を適法であるとした。

 (1)通達は,国民に対して拘束力を有する法規とは異なるものであるが,租税実務における通達に基づく画一的な取扱いは,納税者間の公平,納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地からみて合理的なものというべきである。したがって,通達の定めが租税法規に照らして合理性を有する限り,当該租税法規の適用に当たっては,通達の定めに従った解釈,運用を行うのが相当である。

 (2)上告会社及びC社の各株式については,所得税基本通達(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)イの適正と認められる売買実例価額はなく,また,同(4)ロの定める類似法人比準方式により評価することが合理的であるとはいえない。

 (3)評価通達の定める取引相場のない株式の評価方法は一般的に合理性を有するから,所得税基本通達(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)のイ及びロに該当しない場合には,法人税基本通達(平成2年直法2―6による改正前のもの)9―1―15に準じ,評価通達178から189までの例によって評価を行うことができると解される。

 したがって,上告会社及びC社の各株式の評価については,評価通達の定めに従い,類似業種比準価額による評価と1株当たりの純資産価額による評価との選択が認められるべきであり,これらの評価方法により算定される価額の低い方をもって評価すべきであるところ,1株当たりの類似業種比準価額は,昭和62年3月時点の上告会社の株式については4823円であり,同年5月時点の同株式については7580円であり,同年3月時点のC社の株式については5984円である。

 (4)ところで,評価通達が,純資産価額の算定に当たり法人税額等相当額を控除する背景には,相続による事業の円滑な承継に配意し,非上場株式についてできるだけ緩く評価することができる方法を採る必要があるとの政策的な配慮があり,このような配慮の要求されない所得税や法人税については,他に合理的な理由がない限り,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185によって処理すべきことにはならず,結局,通常の取引において法人税額等相当額を控除することを考慮要素として考えることが,取引当事者の合理的な意思に合致するかどうかに帰着する。通常,営業活動を順調に行って存続している会社の株式について,譲渡人は譲渡利益の獲得等を目的とし,譲受人は株式を保有して事業拡大や含み益の増加による株価の上昇を期待して,取引価額を交渉するものとみられるから,このような当事者にとっては,会社の清算を前提とした法人税額等相当額を控除した純資産価額で株式を売買する取引は通常考えられず,これを控除することは不合理である。そうすると,順調に営業活動を行っていた上告会社及びC社の1株当たりの純資産価額の算定に当たって,法人税額等相当額を控除しないことをもって違法ということはできない。

 このようにして算定した1株当たりの純資産価額は,昭和62年3月時点及び同年5月時点の上告会社の株式についてはいずれも9309円であり,同年3月時点のC社の株式については4778円である。

 (5)したがって,1株当たりの価額については,昭和62年3月時点の上告会社の株式は4823円と,同年5月時点の同株式は7580円と,同年3月時点のC社の株式は4778円と,それぞれ評価するのが相当である。

 これに基づいて,上告人X1の一時所得(同月に引き受けた上告会社の新株の時価と引受価額との差額に係るもの),給与所得(同月に上告会社から譲り受けたC社株式の時価と譲受け価額との差額に係る賞与)及び譲渡所得(同年5月にした上告会社株式の譲渡に係るもの)を算定して納付すべき同年分の所得税額を計算すると,本件更正1における税額を上回り,上告人X2の一時所得(同年3月に引き受けた上告会社の新株の時価と引受価額との差額に係るもの)及び譲渡所得(同月にした上告会社株式の譲渡に係るもの)を算定して納付すべき同年分の所得税額を計算すると,本件更正2における税額と同じであり,上記の上告人X1に対する賞与相当額に基づき上告会社の納付すべき同月分の源泉徴収による所得税額を計算すると,本件告知における税額と同じである。

 4 しかしながら,原審の上記3(4),(5)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 所得税法施行令84条1項は,発行法人から有利な発行価額による新株を取得する権利を与えられた場合における当該権利に係る所得税法36条2項の収入金額とすべき価額は,当該権利に基づく払込みに係る期日における新株の価額から当該新株の発行価額を控除した金額によると規定している。そして,所得税基本通達(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)は,上記期日における新株の価額について,当該新株が非上場株式で気配相場や売買実例がなく,類似法人比準方式により評価することができない場合には,上記期日又はこれに最も近い日における発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする旨を定めている。同通達の定めは,株式の低額譲受けに係る給与所得の金額及び株式の譲渡に係る譲渡所得の金額を計算するために株式の価額を評価する場合において,当該株式が非上場株式で気配相場や売買実例がなく,類似法人比準方式により評価することができないときにも妥当するものと解されるが,このような一般的,抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難である。

 他方,評価通達の定める非上場株式の評価方法は,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているものであるから,これと著しく異なる評価方法を所得税及び法人税の課税において導入すると,混乱を招くこととなる。このような観点から,法人税基本通達(平成2年直法2―6による改正前のもの)9―1―15は,評価通達の定める非上場株式の評価方法を,原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに,この評価方法を無条件で法人税課税において採用することには弊害があることから,1株当たりの純資産価額の計算に当たって株式の発行会社の有する土地を相続税路線価ではなく時価で評価するなどの条件を付して採用することとしている。このことは,所得税課税においても同様に妥当するというべきである。したがって,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を所得税課税においてそのまま採用すると,相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には,これを解消するために修正を加えるべきであるが,このような修正をした上で同通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は,一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,所得税基本通達(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。

 ところで,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185が,1株当たりの純資産価額の算定に当たり法人税額等相当額を控除するものとしているのは,個人が財産を直接所有し,支配している場合と,個人が当該財産を会社を通じて間接的に所有し,支配している場合との評価の均衡を図るためであり,評価の対象となる会社が現実に解散されることを前提としていることによるものではない。したがって,営業活動を順調に行って存続している会社の株式の相続及び贈与に係る相続税及び贈与税の課税においても,法人税額等相当額を控除して当該会社の1株当たりの純資産価額を算定することは,一般的に合理性があるものとして,課税実務の取扱いとして定着していたものである。

 所得税基本通達については平成12年課資3―8,課所4―29による改正により,法人税基本通達については平成12年課法2―7による改正により,所得税及び法人税の課税における1株当たりの純資産価額の評価に当たり法人税額等相当額を控除しないことが規定されるに至ったのであって,それらの改正前の昭和62年当時に,評価通達(平成2年直評12,直資2―203による改正前のもの)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式のうち法人税額等相当額を控除する部分が,所得税課税における評価に当てはまらないということを関係通達から読み取ることは,一般の納税義務者にとっては不可能である。取引相場のない株式の取引は,法人税額等相当額を控除した純資産価額を上回る価額でされることもあり得るが,一般にその取引の当事者は上記関係通達の定める評価方法に関心を有するものであり,その評価方法が取引の実情に影響を与え得るものであったことは否定し難く,これとかけ離れたところに取引通念があったということはできない。

 したがって,営業活動を順調に行っている会社の株式であっても,法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は,昭和62年当時において,一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,所得税基本通達(平成10年課法8―2,課所4―5による改正前のもの)23~35共―9(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。このように解釈される上記「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によって株式の価額を評価して所得の金額を計算することは,所得税法及び所得税法施行令の解釈として合理性を有するということができる。

 そうであるとすると,昭和62年3月又は5月における上告会社及びC社の1株当たりの純資産価額の評価において,両社が順調に営業を行っていることのみを根拠として,法人税額等相当額を控除することが不合理であって通常の取引における当事者の合理的意思に合致しないものであるということはできず,他に上記控除が上記の評価において著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす事情がうかがわれない本件においては,これを控除して1株当たりの純資産価額を評価すべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決はすべて破棄を免れない。そして,上告会社及びC社の株式について,1株当たりの純資産価額(法人税額等相当額を控除したもの)と類似業種比準価額の低い方をもって評価し,これに基づいて上告人らの納付すべき税額を算定させるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・上田豊三,裁判官・濱田邦夫,裁判官・藤田宙靖,裁判官・堀籠幸男)

 

配置転換無効確認等請求事件

大阪地方裁判所判決/平成22年(ワ)第8408号

平成23年12月16日

【判示事項】    1 本件雇用契約書には,原告Xの勤務地を大阪に限定する旨の条項が存在しないこと,本件雇用契約書および就業規則には業務の必要性がある場合には異なる場所へ転勤させる旨の規定が設けられていること,Xは,被告Y社に対し,雇用契約書上の同条項の削除を求めなかったこと,Xは,西日本地区責任者との面談において,Xには高齢の母親がおり,伯父も入院していること,家のローンがあることから大阪以外での勤務が困難である旨話をするなど,勤務地限定の合意があることを前提とした話をしていないこと,Y社においては,最終的に従業員の同意を得ることはあるとはいえ,勤務場所を異にする配転が行われていたことからすると,Xが主張するような勤務地限定の合意があったとは認められないとされた例

          2 必ずしもXの営業職としての資質に問題があったとまでは認められないこと,Xを名古屋営業所に配転する業務上の必要性および合理性があるとは認めがたいことから,本件配転命令は,配転命令権を濫用したもので無効であり,Xは,名古屋営業所において勤務する雇用契約上の義務を負っていないとされた例

          3 Y社は,本件解雇を行うに際して,整理解雇の有効性を十分に認識し,整理解雇の有効要件ごとにその充足性を慎重に検討して整理解雇を行ったと推認できるのであって,本件解雇に際してのY社の判断について明白重大な誤りがあったとまでは認めがたいこと,Y社は,Xに対して,本件仮処分決定に従って金員を支払っていること,Y社は,本件仮処分決定後,本件解雇の意思表示を撤回し,XとY社との間の雇用関係が回復していることから,本件解雇をもって損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性を有していたとまで評価することはできないとされた例

          4 本件配転命令は,業務上の必要性および合理性がないにもかかわらず,本件仮処分決定を契機としたXの復職に当たって,不当な動機目的をもってなされたものと推認することができ,損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性を有しているといえ,不法行為に該当するとされた例

          5 本件配転命令は不法行為に該当するが,Xについては,勤務地限定の合意があったとは認められず,かえって,雇用契約書およびY社の就業規則によると転居を伴う異動があり得ることが規定等されていること,Y社は,社内規定では認められないにもかかわらず,Xが申請した新大阪名古屋間の新幹線利用にかかる通勤費を全額負担しており,本件配転に伴って,Xに対して一定の配慮をしていること,本件配転命令後,名古屋営業所で勤務するXは,毎日ほぼ定時に退社しており,大阪営業所で就労していた時と帰宅時間が著しく異なる(遅くなる)という状況にあったとは認められないこと,Xの母親は平成22年9月22日に死亡したこと,Xの伯父は入院中であり,Xが毎日介護する必要があるとはうかがわれないことから,Xの生活上の不利益はさほど大きいとは認められないことを総合的に勘案すると,Xの被った精神的損害の慰謝料として50万円が相当であるとされた例

【掲載誌】     労働判例1043号15頁

 

       主   文

 

 1 原告が被告に対し,被告の名古屋営業所において勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。

 2 被告は原告に対し,金50万円及びこれに対する平成22年3月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 原告のその余の請求を棄却する。

 4 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

 第1 請求

1 主文第1項と同旨

2 被告は原告に対し,金300万円及びこれに対する平成22年3月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要等

1 本件事案の概要

 本件は,①被告が原告に対してした被告の名古屋営業所への配転命令が無効であるとして,原告が被告に対し,配転先である同営業所における雇用契約上の義務を負わないことの確認を求めるとともに,②同命令及びそれに至る被告の行為(原告に対する解雇の意思表示行為)が不法行為に該当するとして,民法709条に基づく損害賠償(慰謝料)の支払(遅延損害金を含む。)を求める事案である。

2 前提事実(ただし,文章の末尾に証拠等を掲げた部分は証拠等によって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)

(1) 当事者

 ア 被告

 被告は,スイスに本社を,世界各国に支社・営業所等を置き,陸・海・空にわたる国際的な運送業務を主な営業内容とするR株式会社(以下「R社」という。)の100パーセント出資にかかる日本法人で,肩書地〈略-編注〉に本社を,大阪,名古屋に支店(以下,「大阪営業所」「名古屋営業所」という。)を,広島に営業所をそれぞれ置き,陸・海・空にわたる運送業務等を営む株式会社である。

 なお,R社を中心とするRグループは,大陸間の航空・海上輸送サービス及びそれに伴うサプライチェーンマネージメントを専門としており,世界90か国にネットワークを有するグループである。

(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)

 イ 原告

  (ア) 原告は,アメリカ合衆国アイダホ州A大学を卒業し,日本において国際輸送業務を扱う企業数社に勤務した後,平成18年11月,被告に入社後,平成22年2月22日付けの配転命令(以下「本件配転命令」という。)が発せられるまでの間,大阪営業所の営業担当として勤務していた。

(〈証拠略〉,原告,弁論の全趣旨)

  (イ) 原告は,本件配転命令後,同命令に対して異議を留めた上で,平成22年3月1日以降,名古屋営業所の輸出入カスタマーサービススタッフとして就労している(〈証拠略〉,原告,〈人証略〉)。

  (ウ) 原告は,平成21年4月17日,被告に対し,全日本建設交運一般労働組合大阪府本部(以下「本件労働組合」という。)に加入した旨通告した(〈証拠略〉)。

(2) 雇用契約の締結及びその内容

 ア 原告は,平成18年11月,被告との間で,同月20日を始期とする期限の定めのない雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

 イ 本件雇用契約において,賃金は年額制とされ,これを12分して,毎月20日限りその1を支払うこととされ,他に営業成績が良好であった場合には,毎年4月に被告の査定に基づきインセンティブ給が支給されることとされていた。

 ウ 原告の平成20年度(同年4月1日から翌年3月31日まで)の賃金は年額610万円と定められ,これを12分して,毎月20日限り,税込52万5811円(交通費込み)の支払を受けていた。

(以上について,〈証拠略〉)。

(3) 就業規則の定め

 被告の就業規則には以下の定めがある(〈証拠略〉。ただし,本件に関連する部分のみを取り上げる。)。

 ア (異動)

 第15条 会社は業務の都合により,社員に対して,次の異動を命ずることがあります。

    ① 転勤

    ② 出向

    ③ 配置転換

 イ (解雇)

 第27条 社員が次の各号の一に該当するときは,30日前に予告するか,又は30日分の平均賃金を支払って即時解雇します。

 ただし,予告日数について,平均賃金を支払ったときは,その支払日数だけ予告日数を短縮します。

    ①,②(略)

    ③ 技能,又は能率が低劣なため業務に適さないと認められたとき。

    ④ 事業の縮小,又は合併,あるいは設備の変更などにより,剰員を生じたとき。

    ⑤ 事業の不振,その他これに準ずる止むを得ない事由のため事業の継続が不可能になったとき。

    ⑥,⑦(略)

 2 (略)

(4) 被告による原告の解雇及び本件配転命令に至る経緯

 ア 被告は,平成21年4月16日,原告に対し,同日付けの解雇予告通知書により同年5月16日付けで解雇する旨の意思表示をした(〈証拠略〉。以下「本件解雇」という。)。

 同通知書には,以下のとおり記載されていた。

「 就業規則第27条 解雇

 社員が次の各号の一に該当するときは,30日前に予告するか,又は30日分の平均賃金を支払って即日(ママ)解雇します。

④ 事業の縮小,又は合併,あるいは設備の変更などにより,剰員を生じたとき。

         記

1 解雇理由

 大幅な業績悪化に伴い全世界規模で組織を改編せざるを得なくなり,日本支社大阪事業所営業部においても剰員を生じたため。

2 補足

 (1) 貴殿の直近の人事考課および営業成績が,合理性,公平性に基づく基準により評定した結果,部内で最も低かったこと。

 (2) また,貴殿に対する顧客からの評価,顧客対応に関する部内の評価,勤続年数および再就職の可能性等を考慮しました。」

 イ 原告は,平成21年6月22日,大阪地方裁判所に対し,本件解雇が無効であることを理由として,地位保全,賃金仮払いの仮処分を申し立てた。同裁判所は,平成21年12月18日,本件解雇について,整理解雇を行うほどの人員整理の必要性があったと認めることは困難であるといわざるを得ず,本件解雇は解雇権の濫用と評価すべきであるとして,原告(債権者)が求めた賃金仮払いの部分を一部認容する旨の決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。

(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)

 ウ 原告は,被告に対し,同(ママ)仮処分決定を踏まえて解雇を撤回するように求めた。これに対して,被告は,当初,原告に対し,同仮処分に基づく賃金の仮払いを行うにとどまっていたところ,平成22年2月22日に至って,原告に対し,①上記解雇を撤回すること,②平成22年3月1日より名古屋営業所の「輸出入カスタマーサービススタッフ」としての勤務を命ずる旨の辞令(本件配転命令)を発した。

(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)

 第3 本件の争点

1 本件配転命令の適法性(争点1)

(1) 原告について勤務地限定の合意あるいは人事慣行があったか否か

(2) 本件配転命令が,配転命令権の濫用といえるか否か

2 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその額(争点2)

(1) 本件解雇及び本件配転命令が不法行為に該当するか否か

(2) 原告の損害額

 第4 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件配転命令の適法性)について

(原告)

(1) 本件雇用契約における勤務地限定に関する合意及び人事慣行違反

 ア 原告は,被告には大阪営業所での勤務の募集に応じて応募したが,入社面接の際,西日本地区責任者であるB(以下「B」という。)から広島営業所での勤務を勧められた。しかし,原告は,高齢の母親と同居していることから,広島での勤務を断り,大阪のみでの勤務を希望し,採用された。そして,本件雇用契約書(〈証拠略〉)にもあるとおり,任命については,平成18年11月20日より営業職,この契約下の任務については,大阪営業所を拠点とすることと明記されている。そうすると,原告と被告は,入社前に明確に大阪営業所での勤務であることを合意しており,本件配転命令は,同合意に違反するものである。

 イ 被告においては,遠隔地への異動については,対象となった従業員に打診し,あるいは社内公募を行い,それにもかかわらず,結局応募者がいなければ外部に求人募集を行うという措置が異動人事の慣行として確立していたところ,本件配転命令は,同慣行に反する一方的なものである。

(2) 配転の業務上の必要性・合理性の不存在

 ア 被告は,本件解雇後も営業社員を募集するなどして(〈証拠略〉),平成21年末までに10名の社員を入社させている(〈証拠略〉)。

 イ 本件仮処分決定後,原告が復帰を求めたにもかかわらず,原告を排除したまま,平成22年3月には,新規採用で海運輸出部門1名,海運輸入部門1名を含む3名が大阪営業所に入社しているなど,大阪営業所は物的,人的規模において拡大を続けており,そもそも被告が本件解雇を(ママ)口実として主張していた人員整理の必要性が存在しなかったことが明らかとなっただけでなく,原告を従事させる部署が存在しないなどという口実が成り立つ余地はない。

 ウ 原告は,大阪営業所において従事していた業務は,主に国際海上・航空貨物輸送における,貿易商社,製造会社(貿易部)に対して行う営業活動で,次の業務であった。①被告入社以前から培った同業他社での経験,人脈を使い過去に付き合いのあった顧客への営業活動,②新規開拓については,自ら情報収集活動を行い,新規顧客への訪問活動を行い,新たな見積もりの提出,新たな提案により顧客ヘの物流コストの削減を行う提案型営業,③海上小口貨物又は海上コンティナー単位での港から港までの効率とコストを勘案した提案と見積もり。また,国内海外でのコスト(通関費,トラック料金,諸経費等)の見積もり,④混載航空貨物サービスからオーバーサイズ等の航空貨物の効率とコストを勘案した提案と見積もり。また,国内海外でのコスト(通関費,トラック料金,諸経費等)の見積もり,⑤コミュニケーションサービス(顧客からの依頼によっては翻訳,通訳などのサポートによりビジネスをより迅速にスムーズに支援する業務),⑥トレーシングサービス(海上,航空貨物の最新の輸送状況を把握し,顧客からの問い合わせに応じ,貨物の所在地,その後の経由,フォローアップ等の説明などの業務),⑦輸入承認書をはじめ,銀行関係書類等(信用状),通関業務等,貿易上に必要な様々な業務の手伝い,⑧現地メーカーの紹介,マーケット情報,見本市の紹介等,輸入ビジネスにとっての貴重な情報提供,⑨日々の営業活動を日報として,会社の末端システムへの入力とうものである。

 エ 原告は,本件解雇前に上記のような営業を中心とした業務に従事し,被告から高い評価を受けてきたのであり,これらの幅広い業務を行う能力と経験があることは実証済みである。被告は,本件仮処分手続においても,原告からの釈明要求に対して,原告が,上記業務に適さないとする具体的な理由を挙げることができなかった。

 オ 名古屋営業所の業務の実態と原告を配置転換させるべき業務上の必要性・合理性の不存在

  (ア) 名古屋営業所は,所長も不在の上,社員は7名の小所帯で,営業部門3名を支えるカスタマーサービススタッフ2名が既におり,原告に与えられた仕事は,その営業社員とカスタマーサービススタッフをさらにサポートするという役目で,本来,必要のない業務である。また,業務自体は,単純労務で,派遣社員でも可能な業務である。

  (イ) 現に,原告は,平成21(ママ)年3月から赴任して現実に担当している業務は,次のとおり,電話の取り次ぎを主とする単純業務である。すなわち,①営業からの依頼により,自動車会社の輸入航空貨物に関して,航空便のドイツ現地出発日,出発時間,到着日,到着時間を確認し,エクセルシートに入力し,顧客,関係会社へメールにて連絡する業務(1日3回程度),②営業社員とカスタマーサービススタッフのサポートが中心となるが,現実には,外線からの電話対応が主な業務となり,営業社員とカスタマーサービススタッフが電話を取る前に原告が電話をとり,取り次ぐなど,極力,営業社員が(ママ)カスタマーサービススタッフへの労力の軽減に努めている(1日15~20回程度),③カスタマーサービススタッフからの依頼により,銀行への入金業務を週に2~3回程度の割合で,入金を行っている,④カスタマーサービススタッフ2名より割り振られた顧客についてのサービス対応(4月6日時点で約7社),⑤国内での通関業,配達の販売業務である。

  (ウ) 被告は,名古屋営業所において,原告を勤務させる業務上の必要性がないのに,月額13万4150円もの新幹線通勤費を支出してまで,大阪営業所から排除するという差別を行っている。これは,被告の原告に対する不当労働行為意思のあらわれである。原告に不利益を与えてまで強行すべき業務上の必要性は認められない。かえって,被告が,原告について,その能力や大阪営業所において得ている経験を活用する業務に就かせず,同人が,主として電話取り次ぎにすぎない単純な業務に耐えられず,自ら退職する心境に追いやる意図に出た措置であると言わざるを得ない。

(3) 本件配転命令は,不当な動機目的に基づいてなされたものであり,また,人事権(転勤命令権)濫用により,無効である。

 本件配転命令は,被告の原告に対する人員整理を理由とする解雇について大阪地方裁判所においてこれを無効とする判決(ママ)が出された後,解決金を条件とする退職,被告のグループ会社であるS株式会社(東京所在。以下「S社」という。)への就職斡旋などの被告の順次の提案を原告が拒否した後,「仮に本訴で敗訴しても大阪では職場は保障できない」との告知(被告代理人)の下,専ら原告を大阪営業所から排除すべく,大阪営業所における営業職に対する適格を欠くことを理由として,配属先である名古屋営業所における業務上の必要が存在しないにもかかわらず。(ママ)従来の慣行に反して,原告の意向を打診し,説得するなどの措置もとらず全く一方的に発せさ(ママ)れたもので,その動機,理由,手続,不利益のいずれの点にかんがみても,極めて乱暴に行われたもので,人事権濫用として無効というべきである。

(4) 本件配転命令は,原告に重大な不利益を与えている。

 ア 原告は,名古屋営業所については,やむを得ず,新幹線通勤により赴任しているが,①自宅からJR T駅まで20分,②JR T駅から新大阪駅まで15分,③新大阪駅から新幹線のぞみ号で55分で名古屋駅着,④JR名古屋駅から金山駅まで5分,⑤金山駅下車3分と,待ち合わせ時間を入れると片道で約2時間を要する。毎朝午前6時45分に自宅を出て午前8時45分に被告に出社する毎日で,往復1日4時間の長距離通勤を強いられている。

 イ(ア) 原告は,同居の高齢で病気の母親と近くに住む障害をもつ伯(ママ)父の世話をしているが,とりわけ母親の病院への同行を余儀なくされている日常であった。原告が,病気の母親を世話しなければならない立場にあったことは,仮処分(ママ)において原告が提出した診断書(〈証拠略〉)からも被告が熟知している事情であり,それゆえ単身赴任ではなく,大阪からの通勤を余儀なくされることを認めざるを得ず,新幹線通勤の便宜を図らざるを得なかったのである。

  (イ) 大阪営業所の勤務であれば,半日での有給休暇で済む用事が,名古屋営業所のため,朝晩の通勤時間が従来より片道約1時間ほど多くかかるため,私的な用事があっても,弁護士との会談,母親が病弱のため,夕食の買い物の代理等で,丸一日の有給休暇が必要となり,仕方なく,私的な時間までもが抑制されている。また,住居地に属する,市役所,税務署,職業安定所などの公的機関を利用する際,半日有給休暇で済む用事が,丸一日を必要とすることになり,仕方なく,私的時間(有給休暇選択)までもが拘束される。さらに,朝の出勤時刻が早いので睡眠時間の確保に支障が生じ,また医師より適度な運動を勧められて通っているスポーツクラブ通いなどの時間の活用までが拘束されてしまい,ワーク・ライフ・バランスの確保がより難しくなり,これらの結果,人間的な生活や健康の維持についても大きな懸念を抱かざるを得ない。

(5) 本件配転命令は不当労働行為であり,無効である。

 ア Bは,本件労働組合との団体交渉において,本件労働組合を嫌悪する態度を示し,「たとえ会社が,10年から20年後に営業職の募集をする機会があるとしても,このたび甲野が第三者機関を使って会社に対抗してきていることからすると,全く信用できないので甲野を雇うつもりはない」,「組合からの抗議文の内容では,このたびの解雇が報復解雇だと言っているので,信頼関係を失ったので雇うことは難しい」と述べた(〈証拠略〉)。

 イ 本件配転命令は,原告が本件労働組合の組合員として,本件労働組合の指導と援助を受けて本件解雇を争い,さらに(ママ)仮処分決定に基づいて大阪営業所に復帰することを求めていることに対し,原告の労働組合活動を嫌悪してなされた嫌がらせの遠隔地配転であるから,そもそも不当労働行為として無効である。

(6) 小括

 以上のとおり,原告に対する本件配転命令は,解雇に引き続き不当労働行為意思ないし不当な動機・目的に出たものであり,職種・職務場所についての合意・配転についての慣行に反し,原告の大阪営業所における営業職としての適格性にも欠けるところがないにもかかわらず,また,そもそも配転自体に合理性がなく,名古屋営業所への配転にも何ら必要性・合理性が存在しないにもかかわらず行われ,その結果原告に対し,重大な不利益を与えることとなったもので,これらいずれの点からしても無効というべきである。

(被告)

(1) 原告被告間における勤務地限定の合意及び被告における原告主張に係る人事慣行の点について

鈴木健太裁判長名判決 オリンパス事件 平成23年東京高裁

配転命令無効確認等請求控訴事件 実務に効く 初版 7-2 2版 12-1

東京高等裁判所判決/平成22年(ネ)第794号

平成23年8月31日

【判示事項】      1 キャリアプランの記載自体を根拠として従業員の配置に関するY1社の労働契約上の義務を認めることはできないとされた例

            2 Y1社は,労働契約において職種が限定されていない限り,業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務内容を決定することができるものと解され,XとY1社との間に営業職,開発(技術)職というような職種の限定に関する明確な合意があったことを認めるに足りる証拠はないとされた例

           3 コンプライアンス室の対応は,運用規定14条2項の守秘義務に反して,通報者個人が特定されうる情報を他に開示したものというべきであるとされた例

            4 Xの本件内部通報を含む一連の言動がXの立場上やむを得ずにされた正当なものであったにもかかわらず,Y2はこれを問題視し,業務上の必要性とは無関係に,主として個人的な感情に基づき,いわば制裁的に第1配転命令をしたものと推認でき,第1配転命令は,Xの内部通報をその動機の一つとしている点において,通報による不利益取扱いを禁止した運用規定にも反するものであるとされた例

            5 第1から第3配転命令は,いずれも人事権の濫用であるというべきであるとされた例

            6 Y2の行為ならびにXが第1配転命令後に受けたパワーハラスメントについて不法行為が成立し,これらのパワーハラスメントおよびY2の不法行為はいずれもY1社の職務を執行するにつき行われたものであるから,Y1社も使用者として責任を負うとされ,Y1社およびY2の損害賠償責任が認められた例

【参照条文】      民法709

            民法715

            公益通報者保護法2

            公益通報者保護法5

            公益通報者保護法6

【掲載誌】       判例時報2127号124頁

            労働判例1035号42頁

            労働経済判例速報2122号3頁

            LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      経営法曹175号114頁

            ジュリスト1456号144頁

            法律時報85巻3号136頁

            労働判例1042号5頁

            総合政策研究紀要22~23号225頁

 

       主   文

 

 1 本件控訴及び当審における訴えの変更に基づき,原判決中,被控訴人Y1株式会社及び被控訴人Y2に関する部分を次のとおり変更する。

  (1) 控訴人が,被控訴人Y1株式会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部システム品質グループにおいて勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。

  (2) 被控訴人Y1株式会社及び被控訴人Y2は,控訴人に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成20年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 控訴人の被控訴人Y1株式会社及び被控訴人Y2に対するその余の請求を棄却する。

 2 控訴人の被控訴人Y3に対する控訴を棄却する。

 3 訴訟費用は,控訴人と被控訴人Y1株式会社及び被控訴人Y2との間では,1・2審を通じ,これを5分し,その2を控訴人の,その余を被控訴人Y1株式会社及び被控訴人Y2の負担とし,控訴人と被控訴人Y3との間では,控訴費用のすべてを控訴人の負担とする。

 4 この判決は,第1項(2)に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 主文第1項(1)と同旨。

 3 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成20年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 被控訴人Y1株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は,デジタルカメラ,医療用内視鏡,顕微鏡,非破壊検査機器(以下「NDT」という。)等の製造販売を主たる業とする株式会社であり,控訴人は,昭和60年1月から被控訴人会社に勤務している。被控訴人Y2(以下「被控訴人Y2」という。)は,被控訴人会社のIMS事業部事業部長であり,被控訴人Y3(以下「被控訴人Y3」という。)は,IMS事業部の一部門であるIMS国内販売部の部長である。

 2 控訴人は,平成18年11月から,日本法人であるA株式会社(以下,「A」といい,被控訴人会社を「Y1」ということがある。)においてNDTシステムの営業に携わっていたが,翌19年4月1日,Aが被控訴人会社に吸収合併されたため,同日から,被控訴人会社IMS事業部のIMS国内販売部NDTシステムグループ営業チームリーダーの職についた。

   被控訴人会社は,控訴人に対し,平成19年10月1日付けで,IMS事業部IMS企画営業部部長付への配置転換を命じた(以下「第1配転命令」という。)。

 3 本件は,控訴人が,控訴人に対する第1配転命令は,控訴人が被控訴人Y2や被控訴人Y3らによる取引先企業の従業員の雇入れについて被控訴人会社のコンプライアンス室(以下「コンプライアンス室」という。)に通報したことなどに対する報復としてされたもので無効であるなどと主張して,控訴人が被控訴人会社IMS企画営業部部長付として勤務する雇用契約上の義務がないことを確認することを求め(以下「第1の訴え」という。),また,違法な第1配転命令と,その後の上司による業務上の嫌がらせ(パワーハラスメント)等により控訴人の人格的利益が傷付けられたなどと主張して,被控訴人らに対し,民法709条,715条,719条に基づく損害賠償請求として,賞与の減額分23万9100円,慰謝料876万0900円及び弁護士費用100万円の合計1000万円並びに平成20年2月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求めた事案である。

   被控訴人らは,第1配転命令には業務上の必要性があり,不当な動機・目的はなく,また控訴人には第1配転命令による不利益はなく,第1配転命令後に控訴人がパワーハラスメント等を受けたことはない旨主張して争った。

 4 原審は,第1配転命令には業務上の必要性があり,また,同命令が,控訴人が取引先企業従業員の雇入れについて被控訴人Y2に意見を述べたりコンプライアンス室に通報したことを理由にされたものとは認められず,被控訴人らが第1配転命令後に控訴人を精神的に追い詰め退職に追い込もうとした事実は認められないなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。

   被控訴人会社は,控訴人に対し,原審口頭弁論終結後の平成22年1月1日付けで,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付への異動を命じ(以下「第2配転命令」という。),さらに,当審係属中の同年10月1日付けで,同品質保証部システム品質グループへの異動を命じた(以下「第3配転命令」という。)。このため,控訴人は,当審において,まず,第1の訴えを「控訴人が,被控訴人会社ライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付として勤務する雇用契約上の義務がないことを確認する。」と変更し(以下「第2の訴え」という。),次いで,第2の訴えを主文第1項(1)記載のとおりに変更した(以下「第3の訴え」という。)。

第3 前提事実(当事者間に争いのない事実及び各項目末尾の証拠によって認定することができる事実)

 1 当事者等

  (1) 被控訴人会社は,デジタルカメラ,医療用内視鏡,顕微鏡,NDT等の製造販売を主たる業とする株式会社である。

  (2) 被控訴人Y2は,被控訴人会社のIMS事業部事業部長で,IMS事業部を統轄する権限を有する。被控訴人Y3は,IMS事業部の一部門であるIMS国内販売部の部長で,被控訴人Y2のすぐ下の職位にあり,同じくIMS事業部の一部門であるIMS企画営業部に控訴人が異動になる前は,控訴人の直属の上司であった。

  (3) 控訴人は,昭和60年1月から被控訴人会社に正社員として勤務しているが,被控訴人会社においては,職能ゾーン資格制度を採用し,従業員をE(エグゼクティブ),P(プロフェッショナル)及びS(スタッフ)の三つのゾーンに分けており(甲201),控訴人の資格はP2(係長各相当)であった。

 2 NDTシステムの概要及び控訴人の職歴

  (1) NDTシステムの概要

    NDTとは,Non-destructive Testingの略で,超音波探傷技術及び渦流探傷技術を利用し非破壊的に鉄鋼製品等の傷を探知する検査機器をいい,NDTシステムとは,NDT機器の中でもフェイズドアレイという高度技術を使う特に高度な技術レベル装置をいい,主に鉄鋼会社の製造ラインにインラインで設置し,約20年間,24時間稼働で使用するものである。NDTシステムは,取引先の注文に応じて設計製造され,検査規模や検査対象により金額が異なるが,大型であれば1機あたり2億円前後で取引され,その商談には最低でも半年程度の綿密な打合せが必要となる。実際に納品するには,約1か月から2か月を要し,被控訴人会社担当者は,取引先工場において,ほぼ連日常駐して作業を行う。納品後も被控訴人会社による継続的な保守管理及びサポート体制を必要とする。

    被控訴人会社に吸収合併された日本法人Aは,NDTシステムを販売するビジネスを行なっていた。B株式会社(以下「B」という。)は,上記合併前にAによって買収された会社であり,鉄鋼製品のうち丸棒鋼を製造するC株式会社(以下「C」という。)から大型NDTシステム国内第1号機を受注し,平成16年に第1号機を納入し,平成18年8月に第2号機を備え付けた。そのため,CはBの最重要顧客であった。

  (2) 控訴人の職歴

    控訴人は,昭和60年から平成4年まで,被控訴人会社の技術開発センター及び辰野事業場においてカメラの研究開発業務に従事した。

    控訴人は,平成6年,希望して営業職に転換し,国内販売部門,海外営業部門,ニューヨーク駐在,関連会社であるD株式会社のデジタルカメラ開発企画部門に順次配属された。

    平成17年10月1日,控訴人は,被控訴人会社IMS事業部に異動し,1年間IMS事業部IMS企画営業部工業用内視鏡販売部門に配属され,販売部門チームリーダー及びマーケティング部門チームリーダーの職に就いた。

    控訴人は,平成18年11月から日本法人であるAにおいてNDTシステムの販売に携わることになった。被控訴人Y2は,同年10月12日に上記Aへの異動を内示する際,控訴人に対し,Bの副社長であったEが有するNDTシステムに関する知識,業界人脈,ケベックとの人脈などを早く吸収し,NDTシステム事業を成功させることが控訴人の最優先事項である旨述べた。

    Aが平成19年4月1日に被控訴人会社に吸収合併されたため,控訴人は,同日から,被控訴人会社のIMS事業部IMS国内販売部NDTシステムグループ営業チームリーダーの職につき,NDTシステム営業販売業務の統括責任者として業務に従事することとなった。

 3 第1配転命令ないし第3配転命令

  (1) 被控訴人会社は,控訴人に対し,平成19年10月1日付けで,IMS事業部IMS企画営業部部長付への配置転換(以下,「第1配転」という。)を命じた。第1配転によって,控訴人は,新事業創生探索活動として,主としてSHM(構造ヘルスモニタリング,Structural Health Monitoring 以下,「SHM」という。)のビジネス化に関する調査研究を行う業務を担当することになった。SHMは,一定期間にわたって時間軸上で対象物(構造物)の健全性を監視するシステムであり,航空機のメンテナンス等の場面において注目されている。

  (2) その後,被控訴人会社は,控訴人に対し,平成22年1月1日付けでライフ・産業システムカンパニー統括本部品質保証部部長付への配置転換(以下「第2配転」という。)を命じ,さらに同年10月1日付けで,同品質保証部システム品質グループへの配置転換(以下「第3配転」という。)を命じた。

 4 被控訴人会社の就業規則及び労働協約の規定

   被控訴人会社の就業規則(以下,単に「就業規則」という。)33条には,「業務の都合により従業員に対し,同一事業場内の所属変更および職種の変更を命ずることがある。」との定めがあり,34条には,「前2条の場合,従業員は正当な理由がなければ,これを拒むことができない。」との定めがある。

   被控訴人会社と控訴人が加入するY1労働組合との間の労働協約(以下,単に「労働協約」という。)40条は,「会社は,職務の任免にあたっては,組織の必要性と効率性の観点から最も合理的に行う。」とし,41条(1)には,「会社は業務の都合により,組合員に事業場間の派遣,転勤,転籍または社外勤務を命ずることができる。」との定めがあり,同条(3)は,「会社は異動にあたり,人材の適材適所を狙いとしたチャレンジシステムを有効に活用する。」と規定する(甲137)。

 5 被控訴人会社の企業行動憲章及びコンプライアンスヘルプライン運用規定被控訴人会社は,Y1グループ企業行動憲章を定め,その前文で「法令遵守はもとより,高い倫理観を持って企業活動を行う」とし,社員に徹底させていた(甲2,3,6,7,192)。Y1グループ行動規範は,企業行動憲章を実現するための役員・社員に対する行動指針であり,「第1章 総則」,「第2章 行動規範」,「第3章 運用体制」から構成され,第3章では,行動規範の実効性を確保するためヘルプラインを設置したこと,ヘルプラインへの通報は秘密が厳守され,通報したことにより何らの不利益を課されるものではないことが明記されている(甲193)。

   被控訴人会社のコンプライアンスヘルプライン運用規定(以下「運用規定」という。)は次のように定めている(甲4,5)。

   (利用対象事項)

    第4条 従業員等は,従業員等が関与する以下の事項について,上長または専門部署への相談・報告が困難である場合,ヘルプラインを利用して通報することができる。

        (1) 組織的または個人による,法令,社規則,企業行動憲章・行動規範に反する,または反する可能性があると感じる行為(以下,法令違反等)

        (2) 業務において生じた法令違反等や企業倫理上の疑問や相談

   (通報要領)

    第8条 従業員等は,ヘルプラインを利用して法令違反等の通報をする際,次の事項に留意する。

        (1) 通報内容は,法令違反等に関して客観的で合理的根拠に基づいた誠意あるものに限られるものとし,個人的利益を図る目的,個人に対する私怨,誹謗中傷する目的,個人の不平不満や意見を表明する目的で通報をしてはならない。

        (2) 通報する際は,客観的な合理的根拠とそれに基づく推測とを区別して述べ,噂を含む曖昧な事実を客観的事実として断言したり,誤解を与えるような表現をしたりすることは避けなければならず,付表の連絡シートの内容に従って,「いつ・どこで・誰が・何を・どのように」をできる限り明確にし,原則として所属部署及び氏名を明らかにしなければならない。

    (通報者への連絡)

     第13条 コンプライアンス室は,通報者に対して,通報内容に関する事実調査及び是正措置の結果について連絡する。

    (守秘義務)

     第14条 ヘルプライン宛てに送信された電子メール・書面・電話は,原則としてコンプライアンス室長及び限定されたコンプライアンス室の担当者のみが受信するものとする。

        2 コンプライアンス室の担当者は,通報者本人の承諾を得た場合を除き,通報者の氏名等,個人の特定されうる情報を他に開示してはならない。

        3 コンプライアンス室及び調査・対応チーム等,通報された事案に関与した全ての者は,調査・対応上必要な場合を除き,通報内容及び調査内容を他(自らの所属長を含む。)に一切開示してはならない。

    (通報者の保護)

     第16条 国内Y1グループは,通報者に対して,ヘルプラインを利用したという事実により不利益な処遇を行ってはならない。不利益な処遇とは,解雇,降格,減給等の懲戒処分や不利益な配置転換等の人事上の措置のほか,業務に従事させない,専ら雑務に従事させる等の事実上の措置を含む。

第4 争点及び争点に関する当事者の主張

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