2024年12月
台湾国際放送 2024年12月30日のニュース
** [ニュース] 総統府の新ウェブサイトが今夜公開、コンセプトは「人民の総統 府」 (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100937) ------------------------------------------------------------ 総統府のウェブサイトがリニューアルされ、30日午後10時より公開される。(写 真:総統府提供) 総統府のウェブサイトは30日午後10時に新しいデザインにリニューアルされる予 定です。今回の全体的なイメージとデザインコンセプトは「人民の総統府」を基 本とし、総統府が「国民の礎を共に築く」というイメージを表現しています。ウ ェブサイトのカラーには「新台灣紅(ニュー台湾レッド)」と「永生青(エバー グリーン)」を採用し、幸福と活力、そして台湾人の自然環境と持続的な進歩へ の絶え間ない思いを象徴しています。特筆すべきは、ウェブサイトに「五長灯」 という隠し要素があり、クリックすることでインタラクティブな効果が現れると いうことです。新年を迎える前に、総統府のウェブサイト......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100937) ** [ニュース] 2025年総統府年賀グッズお披露目、正副総統の直筆イラストで新 春を祝う (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100936) ------------------------------------------------------------ 総統府は30日、頼清徳‧総統と蕭美琴‧副総統手描きのイラストをあしらったお 年玉袋、福袋、年賀状および春聯を公開した。(写真:総統府提供) 総統府は30日、2025年の総統‧副総統のお年玉袋、福袋、年賀状および「春聯」 を公開しました。特筆すべきは、今回のデザインが頼清統‧総統と蕭美琴‧副総 統が直接手描きした犬と猫のカラーポートレートを主役とし、ヤエヤマコクタン 、ゲットウ、テリハボクという台湾に原生する3種の植物とともにデザインされ ている点です。「春聯」の「六順和春」は「六六大順(すべてが順調)」を表し 、温かな春の日を象徴しています。また、台湾最大の方言、台湾語での発音が「 好春」(よい春)に似ており、繁栄と豊かさ、そして新年を祝う意味が込められ ています。総統‧副総統の2025年のお年玉袋、福袋......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100936) ** [ニュース] 「総合外交」2025年の展望、外交部:専門性と柔軟性で新局面に 対応 (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100935) ------------------------------------------------------------ 外交部は30日午前、ニュースリリースを発表し、2024年の外交活動を振り返ると ともに、2025年の展望について、頼清統‧総統の価値外交の理念を専門性と柔軟 性で実践していくとしている。(写真:資料写真/Rti) 外交部(外務省)は30日午前、ニュースリリースを発表し、2024年の外交活動を 振り返り、あらゆる外交官が国家の主権、尊厳、利益、および国民の権益を守る ために全力を尽くしてきたことを強調しました。2025年の展望について、外交部 は、自信と強靭さを持って、専門的かつ柔軟な姿勢で新たな局面に対応し、優位 性を活かして課題を克服し、民主主義、平和、繁栄の価値を発展させ、各界の外 交力を結集して国際社会への貢献を続けていくと表明。また、頼清徳‧総統の価 値外交の理念を実践し、「経済の太陽が沈まない国」という展望を実現させ、 Taiwan Can Help(台湾がお手伝いで......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100935) ** [ニュース] 柯文哲氏が党主席辞任を表明、台湾民衆党:党規約に従い処理す る (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100934) ------------------------------------------------------------ 台北地方法院(台北地裁)は29日、汚職や政治献金の横領などで起訴された前台 北市長で台湾の野党第2党、台湾民衆党の柯文哲・主席の保釈に関する差し戻し 審を行い、保釈金を前回決定した3000万台湾元(約1億4400万円)から7000万台 湾元(約3億3600万円)に増額することに加え、電子足輪の装着を義務付けると 決定した(写真:CNA) 北部・台北市の台北地方法院(台北地裁)は26日、汚職や政治献金の横領などで 起訴された前台北市長で台湾の野党第2党、台湾民衆党の柯文哲・主席の保釈を 認める決定を下しましたが、台湾高等法院(高裁)は29日にこの決定を取り消し 、審理を台北地裁に差し戻すと発表しました。これを受け、台北地裁は29日午後 に差し戻し審を行い、保釈金を前回決定した3000万台湾元(約1億4400万)から 7000万台湾元(3億3600万)に増額することに加え、柯文哲氏に行動を監視する ための電子足輪の装着を義務付けると決定しました。柯文哲氏が台湾民衆党の主 席を辞任すると表明していることに対......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100934) ** [ニュース] ジミー・カーター米元大統領が100歳で死去 (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100933) ------------------------------------------------------------ アメリカの元大統領でノーベル平和賞受賞者のジミー・カーター(Jimmy Carter)氏が29日に100歳で亡くなった(写真:AP/達志影像) アメリカのNGO、「カーター・センター」は29日、アメリカの元大統領でノーベ ル平和賞受賞者のジミー・カーター(Jimmy Carter)氏が亡くなったと発表しま した。カーター氏は100歳でした。アメリカの大手日刊紙、ワシントン・ポスト などがカーター氏の家族の話などを引用して報じたところによると、カーター氏 は現地時間29日午後、ジョージア州の自宅で亡くなったということです。カータ ー氏は1977年から1981年までの4年間、アメリカ大統領を務めました。(編集: 本村大資/豊田楓蓮) ......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100933) ** [ニュース] 韓国・チェジュ航空の事故で179人死亡、韓国史上最悪の航空事 故に (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100932) ------------------------------------------------------------ 29日午前に発生した、韓国・済州(チェジュ)航空の旅客機事故は乗員乗客あわ せて179人が死亡、2人が負傷、韓国で発生した事故として史上最悪の航空事故と なった(写真:AFP通信) 韓国南西部・全羅南道の務安(ムアン)国際空港で29日午前に発生した、韓国・ 済州(チェジュ)航空の旅客機事故は乗員乗客あわせて179人が死亡、2人が負傷 し、韓国で発生した事故として史上最悪の航空事故となりました。また、韓国の 航空会社が起こした事故としては、1997年に大韓航空機がアメリカ領グアムで墜 落し、200人以上が犠牲となった事故以来、最悪の航空事故だということです。 これまで韓国国内で発生した最悪の航空事故は、2002年に中国国際航空のボーイ ング767‐200型機が韓国南東部の釜山付近に墜落した事故で、この事故では129 人が死亡、37人が負傷しました。......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100932) ** [ニュース] 日中外相会談後の中国側の発表、日本側:「正確でない」 (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100931) ------------------------------------------------------------ 日本の岩屋毅外務大臣は27日の記者会見で、中国の北京で25日に行われた日中外 相会談後に、中国側が発表した内容は正確ではないと指摘した。 日本の岩屋毅外務大臣は27日の記者会見で、中国の北京で25日に行われた日中外 相会談後に、中国側が発表した内容は正確ではないと指摘しました。中国側が発 表した内容では、岩屋外相は会談で自ら、日本は歴史上の問題に関して今後も「 村山談話」を堅持すると約束するとともに、深い反省と心からの謝罪を表明した とされていますが、日本側が発表したところによると、そのような表現はなかっ たということです。このことについて、日本側は既に中国側に申し入れたとして 発表しています。(編集:本村大資/豊田楓蓮) ......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100931) ** [ニュース] 12/30日中は各地で20度以上に、昼夜の気温差に注意 (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100930) ------------------------------------------------------------ 中央気象署によると、12/30は台湾本島各地と離島の澎湖、金門、馬祖いずれも 晴れのち曇り。日中は台湾本島各地で最高気温20度以上に上昇する見込み(写真 :CNA) 中央気象署によりますと、30日は台湾本島各地と離島の澎湖、金門、馬祖いずれ も晴れのち曇りの予想です。日中は各地で昨日よりも気温が上がり、南部の台南 以北及び北東部の宜蘭、東部・花蓮の最高気温は20度から23度、南部の高雄と最 南端の屏東、南東部は22度から25度となり、各地で昼と夜の気温差が大きくなる でしょう。離島の気温は澎湖で15度から18度、金門10度から18度、馬祖は10度か ら15度の見込みです。(編集:本村大資/豊田楓蓮)......more (https://jp.rti.org.tw/news/view/id/100930)
正当防衛を認めなかった例 大阪高裁令和5年2月8日の原判決
正当防衛を認めなかった大阪地裁堺支部令和4年判決
重判令和年度刑法1の原審 傷害被告事件
大阪地方裁判所堺支部判決/令和元年(わ)第703号
令和4年1月18日
【判示事項】 被告人車が割り込んで来たものと誤認した被害者が、被告人車に対し不適切な運転行為をし、被告人を侮辱する発言をしたことから、被告人が被害者に対し、モンキレンチを振り下ろしてその頭部を殴るなどの暴行を加え、傷害を負わせた事件について、弁護人が、被害者から先制攻撃を受けたことから、防衛の意思をもって暴行を加えたもので、正当防衛が成立すると主張した事案。裁判所は、被害者の被告人に対する侮辱行為及び殴打行為は、けんか闘争において想定される攻防の範囲を超えたものではないとして、正当防衛も過剰防衛も成立しないとした上で、被害者に大きな落ち度があるなどとして、被告人を罰金30万円に処した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
主 文
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,令和元年10月16日午後8時22分頃,大阪府富田林市(以下略)先の国道170号線南行第2通行帯上において,A(当時41歳。以下「A」という。)に対し,持っていたモンキレンチを1回振り下ろしてその頭部を殴り,続けて,モンキレンチを複数回振り下ろして,頭部を守ろうとしたAの左手等を殴る暴行を加え,その結果,Aに加療約10日間を要する左頭頂骨外板陥没骨折等の傷害及び加療約3週間を要する左中指打撲傷等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(以下,かっこ内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示し,弁の番号は,同カードにおける弁護人請求証拠の番号を示す。)
・被告人の公判供述
・証人Aの公判供述
・捜査復命書(甲4,5),回答書(甲7〔不同意部分を除く。〕),診断書(甲8,9),報告書(弁6)
(弁護人の主張に対する判断)
第1 弁護人の主張の要旨
被告人は,Aから顔面を殴打される先制攻撃を受けたことから,防衛の意思をもって,Aの頭部をモンキレンチで1回殴打したにとどまる。したがって,被告人には正当防衛が成立し,被告人は無罪である。
第2 当裁判所の判断
1 証拠により認められる本件の事実関係
証拠によれば,次の事実関係を認めることができる。
(1)被告人は,令和元年10月16日(以下,同年)午後8時21分頃,普通乗用自動車(マツダ・デミオ,黒色。以下「被告人車」という。)を運転して国道309号線を西から東に向かって進行中,右折車線からB交差点を右折し,続けて,Aが運転していた普通乗用自動車(トヨタ・ヴォクシー,白色。以下「A車」という。)も右折車線からB交差点を右折した。それから,A車が車間距離を詰めて被告人車の後方を走行し,C交差点を通過して国道170号線の側道を経由した後,A車と被告人車は,国道170号線南行の本線に進入した。
(2)被告人は,同日午後8時22分52秒頃,判示の道路上でA車の前に被告人車を停車させ,モンキレンチを持って降車した上,その後方に停止したA車まで歩いて行った。そして,被告人は,モンキレンチを用いてA車の運転席側ドアのサイドバイザー(以下「本件サイドバイザー」という。)を損壊した上,Aに暴行を加えて傷害を負わせた。また,同日午後8時23分21秒頃,A車が後退し始めたが,同日午後8時23分36秒頃,A車が前進して被告人車の前に停車した。
(3)その後,被告人車及びA車は,前記道路を南方向に進行した。Aは,同日午後8時24分頃に110番通報をした上,スマートフォンで被告人車を撮影するなどしながら被告人車を追跡したが,同日午後8時29分頃,被告人車の追跡をやめ,再び110番通報した。
(4)Aがした110番通報に基づき,D警察官(以下「D警察官」という。)は,大阪府河内長野市内でAと合流した。D警察官がAから事情聴取すると,Aは,「国道309号線と170号線が交わる大きな交差点で西から南に右折しようとしたところ,被告人車が直線レーンから右折をして,私の車の前に割り込まれた。側道が1車線であるにもかかわらず,相手の車が左に寄って止めようとしたので,右から追い越そうとした。すると,相手の車が加速して,しばらく並走したが,本線に合流するところで相手の車が左から追い越して,私の車の前に割り込まれた。そして,相手が怒鳴りながらスパナを持って,サイドバイザー部分をドンドンと殴ってきた。相手と話をするために車を降りようとして頭を下げた際に,相手から一方的にスパナで頭を殴られた。相手に殴られて頭部をガードするときに,左手も一緒に殴られた。」旨説明した。そして,D警察官がAの頭部等を確認すると,Aの頭部には出血があり,左手の中指と薬指の第1関節と第2関節の辺りに血が付着していた。
(5)その事情聴取の後,Aは,救急車で病院に搬送され,判示の傷害を負っている旨診断された。
(6)被告人は,翌日の10月17日,大阪府羽曳野市内の整形外科で受診し,「言い合いになって殴られた」旨申告した。被告人に他覚的所見はなかったものの,被告人が顔面の圧痛を訴えたため,医師は,傷病名を顔面打撲と診断した。
(7)警察官は,同日,A車の写真を撮影したが,その時点において,本件サイドバイザーは,幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊していた。
2 Aの証言の信用性について
(1)Aの証言の要旨
以上の事実関係の下で,Aは,本件に至る経緯について,「国道309号線を走行していた際,左後方にいた被告人車は,A車の左後ろの車をすごいあおっていたが,A車が国道170号線に右折しようとして右折車線に入った際,被告人車がA車の前に割り込んできた。B交差点を右折すると,被告人車は,止まるくらいのスピードで走った後,左前方に停止した。被告人車を左手に見ながらゆっくり進むと,被告人は,鉄のレンチのようなものを持って,被告人車から降りようとしていた。それを見たAは,スピードを上げて170号線の側道から本線に入り,追越車線に入って逃げようとした。そして,前の車が信号で止まったのでスピードを落とすと,被告人車が前方の車とA車の真ん中に斜めに止まったと記憶しているが,防犯カメラ映像を見ると,それは記憶違いであると分かった。」旨証言した。被害状況については,「被告人は,右手にレンチを持ってわめきながら近づいてきて,左手でAの胸ぐらをつかみ,引っ張り出そうとした上,レンチをA目掛けて振り下ろし,本件サイドバイザーに複数回当たってこなごなに割れた。Aは,被告人を止めないといけないと思い,かがみながらA車を降りようとしたところ,左頭頂部に鈍痛を感じた。左手で頭をかばうようにすると,被告人は,右手に持ったレンチを振りかざして複数回殴ってきて,左手の真ん中の指の当たりや,肩とかいろんなところにレンチが当たった。レンチが頭に当たったのは,1回である。診断書や回答書記載の傷害は,被告人から殴られたときにできたものであり,左中指打撲傷は,左手で頭を覆ったときに生じた傷である。」旨証言した。Aによる暴行の有無等については,「Aは,被告人から殴られる前に,被告人をスマートフォンで撮影したことはない。被告人を殴ったこともなく,被告人が整形外科で受診したことについて思い当たるところはない。」旨証言した。
(2)Aの証言に関する当裁判所の判断
ア 本件に至る経緯に関するAの証言は,左後方を走行していた被告人車が左後方の他車をあおっているのを見たという不自然な内容を含んでいる上,前記1(4)のD警察官に対する説明内容とも大きく異なっており,供述内容に合理性のない変遷が見られる。また,Aによる暴行の有無等に関するAの証言は,前記1(6)のとおり,本件の翌日に被告人が整形外科で受診し,「言い合いになって殴られた」旨申告していることを合理的に説明できていない。
D警察官に対するAの説明内容によれば,Aは,B交差点を右折する際,被告人車が直進車線から右折して割り込んできたものと誤認していたと認められる(なお,捜査報告書〔甲20〕添付のBD-Rに記録されている防犯カメラ映像〔以下「本件防犯カメラ映像」という。〕によれば,被告人車は,直進車線からB交差点を右折したのではなく,A車より先行して右折車線からB交差点を右折していることが明らかである。)。それにもかかわらず,Aが本件に至る経緯につき前記のとおり証言しているところを見ると,Aは,自らの誤認を認めたくないなどという思いから供述を変遷させ,記憶に反する証言をしたものと考えざるを得ない。
以上によれば,Aには自らの落ち度を隠そうとする態度が見られるというべきであり,このようなAの証言は,基本的には信用することができない。
イ もっとも,被害状況に関する証言については,D警察官に対する説明内容からおおむね一貫している。また,Aが被害状況を過大に証言している形跡までは認められない上,Aが負った傷害内容と符合している。
そして,本件サイドバイザーは,前記1(7)のとおり,本件の翌日に警察官が写真を撮影した時点において,幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊していたが,D警察官も,「110番通報により臨場してAから事情聴取をした際に,はっきりと覚えているわけではないが,本件サイドバイザーが私の親指から小指の間の1.5個分,30cmくらい割れていた。その損壊状況は,捜査復命書(甲13)添付の写真第10号に撮影されている本件サイドバイザーの損壊状況と恐らく同じである。また,Aがいた運転席の足元にプラスチック片が散らばっているのが目に入った。」旨証言している。その証言の信用性を疑わせる事情は特に見当たらず,D警察官の証言の信用性は高いと認められるから,D警察官がAに事情聴取をした時点においても,本件サイドバイザーは,幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊していたものと推認される。Aの被害状況に関する証言は,このような本件サイドバイザーの損壊状況とも符合するものである。
したがって,Aの証言は,基本的な信用性に欠けるとはいえ,被害状況に関する部分に限っては,その信用性を肯定すべき合理的な理由があるというべきである。
ウ 以上に述べたところによれば,Aの証言は,被害状況に関する部分に限り信用性を肯定できるものの,その余の部分については信用することができない。
(3)Aの証言の信用性に関する弁護人の主張について
ア これに対し,弁護人は,被告人がAの胸ぐらをつかみ,モンキレンチを複数回振り下ろして本件サイドバイザーを損壊した旨のAの証言について,「①Aの証言には被告人から胸ぐらをつかまれたことに対する防衛行為がなく,胸ぐらから手を離す場面の説明もない上,被告人がモンキレンチで本件サイドバイザーを損壊したにもかかわらず,あえて運転席から出ようとしたという不自然な内容であって,けんかとしてのリアリティーが全くない。②Aは,D警察官には被告人から胸ぐらをつかまれたという説明をしておらず,供述内容が変遷している。③被告人が複数回モンキレンチを振り下ろし,ピンポイントで本件サイドバイザーを壊すことはあり得ず,不自然である。④Aの作為的な一連の供述や行動からすれば,Aが本件事件後に本件サイドバイザーの損壊範囲を広げた可能性も十分にある。したがって,被告人がAの胸ぐらをつかみ,モンキレンチを複数回振り下ろして本件サイドバイザーを損壊した旨のAの証言は,虚偽である。」旨主張する。
①については,確かに,Aの証言は,それ自体では弁護人が主張するような不自然さを伴っている。しかしながら,Aの証言が不自然であるのは,後述のとおり,Aが被告人の顔面を殴打しているにもかかわらず,自らの落ち度を隠そうとしてそれを否定したことが要因であると考えられるから,それは被害状況に関するAの証言の信用性には影響を与えないというべきである。
②については,Aは,D警察官に被告人から胸ぐらをつかまれたことを説明していないものの,それは被告人がした一連の行為の中では強度のものではなく,印象的でもなかったため,傷害の原因となったモンキレンチを用いた行為を申告したにすぎないと考えられる。
③については,被告人が意識的に本件サイドバイザーを狙ってたたいたのであれば,本件サイドバイザーのみ損壊したとしても特に不自然なことではない。
④については,前記2(2)イのとおり,D警察官がAに事情聴取をした時点においても,本件サイドバイザーは,幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊していたものと推認されるから,Aが自ら本件サイドバイザーを損壊して損壊範囲を広げたとすると,Aは,被告人車の追跡をやめた後,D警察官と合流して事情聴取を受けるまでの短時間のうちに,被告人から受けた物的損害を誇張するためにそのような行為をしたということになる。しかしながら,そのような可能性が皆無ではないにせよ,被告人車を約5分間にわたり追跡するほどに被告人に怒りを覚えていたAが,被告人車の追跡を終了した後,短時間のうちに冷静にそのような工作行為をしたというのは非現実的であり,抽象的可能性にすぎないというべきである。
イ また,弁護人は,被告人がモンキレンチで複数回Aを殴打した旨のAの証言については,「①被告人が複数回モンキレンチでAを殴打するためには何秒かの時間が必要であるが,本件ではA車が後退しているから,そのような時間がない。②被告人から複数回モンキレンチで殴られた旨のAの証言によれば,左中指だけをピンポイントで負傷することはあり得ない。③被告人から『肩とか色んなところ』をモンキレンチで殴打され,『あちこちけがした』のであれば,警察官や医師に説明しないことは考えられない。したがって,被告人がモンキレンチで複数回Aを殴打した旨のAの証言は,虚偽である。」などと主張する。
しかしながら,①については,本件防犯カメラ映像によれば,A車は低速度で後退していたことが明らかであるから,A車が後退し始めた時点において,被告人が連続してAをモンキレンチで殴打する程度の短い時間すらなかったとは考えられない。
②については,モンキレンチの当たり方によっては左中指に強く外力が加えられ,その部分のみ腫れて負傷したとしても特に不自然ではない。
③については,Aは,「被告人からモンキレンチで殴打されてあちこちけがをしたが,後日けがを発見したので,その後は医師や警察官に言っていない。」旨証言しているが,それらのけがが軽傷であったとすれば,その説明が不自然であるとまではいえない。
ウ 以上のほか弁護人の主張を検討しても,被害状況に関する部分に限りAの証言の信用性を肯定できる旨の当裁判所の判断は,左右されない。
3 被告人の供述の信用性について
(1)被告人の供述の要旨
これに対し,被告人は,公判において,本件に至る経緯については,「被告人は,国道309号線を走行していた際にあおり運転をしたことはない。国道309号線からB交差点を右折する際,被告人車から右側の方向に向かってA車が突っ込んできた。A車は,だんだん車間距離を詰めてきて,クラクションも五,六回鳴らしてきて,右側の半分を出すような形になったので,腹が立った。A車は,側道から本線への合流地点前のゼブラゾーンが始まるところで,右側から強引に出てきて被告人車を抜いていった。本当に腹が立ったので,追い抜き車線で止まっていたような状態のA車の前に被告人車を止めた。怒りを示すためにモンキレンチを持って被告人車を降り,Aに注意しようと思ってA車に向かうと,Aは,被告人にスマートフォンを向けて撮影していた。被告人は,そのとき着用していた作業着に会社のネームが入っていたため,録画されたら後々会社に迷惑がかかると思い,被告人車に戻ろうとしたが,Aが『びびっとんのか,こら。こじき。ぼけ。掛かってこいや。』などと言ってきたので,腹が立って,注意だけはしようと思ってA車に近づいた。」旨供述した。また,Aから顔面を殴打された状況やAに対する粗暴行為等については,「録画をやめさせるために,左手をAのスマートフォンにかぶせにいった。Aが体をのけぞって身を引いたので,被告人の左手はA車の運転席の方に入っていった。すると,いきなりAから顔面を数回殴られた。両頬や額に鈍器で殴られたようなすごい衝撃があり,ふらふらになって目がチカチカした。そして,Aが運転席のドアを開けて,車外に出ようとしていたので,もっとやられるかなと思い,Aの肩から下を狙ってモンキレンチを1回だけ前に突き出した。モンキレンチは,Aの肩に当たったと思った。モンキレンチを前に突き出したときに,モンキレンチが本件サイドバイザーに当たったが,拳1個分くらいしか壊していない。被告人は,Aの胸ぐらをつかんでいないし,本件サイドバイザーだけをたたいたことも一切ない。」旨供述した。
(2)被告人の供述の信用性に関する当裁判所の判断
ア 被告人の供述は,Aに対する粗暴行為に関する部分を除き,特に不自然,不合理な点は見当たらない。また,Aがスマートフォンを向けて被告人を撮影していた状況については,想像により作出する合理的な理由が乏しい上に,Aから撮影されていた際の心境を含め相当に具体性のある内容となっている。Aから顔面を殴打された状況については,前記1(6)のとおり,被告人が本件の翌日に整形外科で受診し,「言い合いになって殴られた」旨申告していることによって裏付けられている上,その供述内容には具体性や迫真性も備わっている。
イ もっとも,被告人の供述のうちAに対する粗暴行為に関する部分についてみると,本件サイドバイザーを拳1個分くらいしか壊していない旨の供述は,前記2(2)イのとおり,D警察官がAに事情聴取をした時点において,本件サイドバイザーが幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊していたと推認されることを合理的に説明できていない。また,Aの肩から下を狙ってモンキレンチを1回だけ前に突き出すようにした旨の供述は,Aから殴打されてふらふらになり,しかもAがA車の車外に出ようとしていて更なる攻撃も予期されたという緊迫した状況に沿わないものであって,Aに対する反撃行為の態様や意図としては相当に不自然である。
ウ したがって,被告人の供述は,基本的に排斥することはできないものの,Aに対する粗暴行為に関する部分は,信用することができないというべきである。
(3)被告人の供述の信用性に関する検察官の主張について
これに対し,検察官は,Aから顔面を殴打された旨の被告人の供述について,「①被告人が供述するAの殴打行為の態様は,不自然である。また,被告人の供述によれば,あおり運転をしたのはAであり,そのAが被告人に先制攻撃を加えてきたということになる。それが事実であれば,Aは,自らが刑事責任を問われかねない状況であるのに,本件発生後直ちに110番通報をしていることになるが,被告人が供述するような重大な落ち度がある者の行動としては不自然である。②被告人は,Aに顔面を殴られて頭がくらくらし,目がチカチカしたなどと供述するが,その後に直ちに反撃に転じ,Aの後頭部に陥没骨折を生じさせるほどの強度の暴行を加えていることや,それから1分と置かずに被告人車を発進させ,その後,6分近くにわたりA車と激しいカーチェイスを繰り広げていることと整合せず,不自然である。③被告人は,Aから殴られて,左頬骨と目の辺りに一番激しく痛みを感じた旨供述しているが,回答書(弁5)添付の問診票中の人体図(患者が「困っているところ」の部位を図示する人体図。以下「本件人体図」という。)には,その痛みを感じた部分に斜線を引いていないし,顔面に圧痛があるという被告人の愁訴のみで他覚的所見はない。したがって,本件の翌日に被告人が整形外科を受診して顔面打撲と診断されていること(前記1(6))は,被告人の供述を裏付けるものとはいえない。」旨主張する。
しかしながら,①については,後述のとおり,被告人は,Aが被告人の顔面を殴打するに先立ち,Aの胸ぐらをつかんだ上,モンキレンチで本件サイドバイザーを損壊したものと認められるから,それに対抗してAが被告人の顔面を殴打したことも行為態様として不自然であるとはいえない。また,Aは,前記2(2)アのとおり,B交差点を右折する際に被告人車が割り込んできたものと誤認していた上,以上のような経緯で更に被告人から頭部等をモンキレンチで殴打されたのであるから,自分こそが被害者であると考えて自ら110番通報したことも何ら不自然ではない。
②については,被告人がAから顔面を殴打されてふらつくなどした状態になったとしても,モンキレンチを振り回して反撃することがさほど困難であるとは考えられない。検察官が指摘するカーチェイスについても,時間の経過により既に被告人のふらつきなどが解消しつつあったとみれば,特に不自然ではない。
③については,確かに,被告人は,本件人体図の左頬の部分に斜線を引いていない。しかしながら,右頬の部分には斜線を引いていることに鑑みると,被告人は,本件人体図に斜線を記入した際,本件人体図では右と左が逆になっていることを意識せず,左頬が痛むことから本件人体図の正面から見て左側の頬の部分(実際には右頬に当たる部分)に斜線を引いた可能性も十分にあるから,本件人体図の記載が被告人の供述と矛盾しているとまではいえない。また,被告人に他覚的所見がなかったとはいえ,本件の翌日に被告人が整形外科で受診し,「言い合いになって殴られた」旨申告していること自体が,Aから顔面を殴打された旨の被告人の供述を裏付けているとみるのが相当である。
したがって,検察官の前記主張は,いずれも採用することができない。
4 正当防衛の成否について
(1)以上に説示したところによれば,本件一連の出来事は,①Aは,A車を運転してB交差点を右折したところ,その前方にいた被告人車が直進車線から右折して割り込んできたものと誤認して憤り,被告人車との車間距離を詰めて運転したり,クラクションを鳴らしたり,側道から本線への合流地点にあるゼブラゾーンで右側から被告人車を追い越したりした(以下「Aの運転行為」という。),②被告人は,Aの運転行為に立腹し,A車の前に被告人車を停止させ,モンキレンチを持ってA車に近づいたところ,Aが被告人をスマートフォンで撮影する動作をしていたことから,被告人車に戻ろうとしたが,Aが「びびっとんのか,こら。こじき。ぼけ。掛かってこいや。」などと言ってきたため(以下「Aの侮辱行為」という。),これに腹を立て,再びA車に向かって行って,Aの胸ぐらをつかんで引っ張った上,本件サイドバイザーを複数回モンキレンチでたたき,これを幅約36cm,高さ約16cmにわたり損壊した(以下,これらの被告人の行為を「被告人の損壊行為等」という。),③これに対し,Aは,被告人の顔面を素手で複数回殴打した(以下「Aの殴打行為」という。),④AがA車を降りようとしたので,被告人は,モンキレンチを1回振り下ろし,それがAの頭部に当たり,Aに左頭頂骨外板陥没骨折等の傷害を負わせた上,続けて,モンキレンチを複数回振り下ろし,頭部を守ろうとしたAの左手等にモンキレンチが当たり,Aに左中指打撲傷等の傷害を負わせた(以下「被告人の傷害行為」という。),というものであったと認められる。
(2)このような本件一連の出来事を全般的に観察すると,被告人は,挑発的であったAの運転行為やAの侮辱行為を無視して挑発に応じないことも可能であったにもかかわらず,あえて被告人車を停止させてAに近づき,その挑発に応じて自ら被告人の損壊行為等をしてけんか闘争を開始し,その時点以降,被告人とAはけんか闘争の状態になったというべきである。また,空手の世界大会への出場経験もあるAの殴打行為には相当の強度があったといえるものの,被告人に他覚的所見が生じない程度の素手による暴行の限度にとどまっており,被告人の損壊行為等の程度を大きく超える実力行使であったともいえず,けんか闘争において想定される攻防の範囲を超えたものではない。
以上によれば,Aの殴打行為に対抗した被告人の傷害行為は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容するという刑法36条の趣旨に照らし,許容されるものとは認められず,闘争の全般からみて同条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合に当たるというべきである(最高裁判所昭和23年7月7日大法廷判決参照)。
(3)したがって,被告人に正当防衛は成立せず,過剰防衛も成立しない。弁護人の前記第1記載の主張は,採用することができない。
(法令の適用)
罰条 刑法204条
刑種の選択 罰金刑を選択
労役場留置 刑法18条(金5000円を1日に換算)
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項本文(負担)
(量刑の理由)
被害者の頭部等をモンキレンチで殴打するという危険な態様の犯行であり,傷害結果も相応に重いものがある。また,被告人には本件で懲役刑を科せば累犯前科となる前科を含め多数の前科があるのに,被害者の挑発に応じてけんか闘争を開始したのであるから,その自制心を欠いた意思決定に対しては相応の非難を向けざるを得ない。
もっとも,本件は,被害者が前記のとおり被告人車が割り込んできたものと誤認し,その憤りから被告人車に対して不適切な運転行為をした上,被告人を侮辱する発言をして挑発したことがけんか闘争の発端となっており,被害者に大きな落ち度があることが明らかな事案である。また,被告人自身も,被害者から顔面を複数回殴打されて相当程度の身体的苦痛を受けている。
以上の犯情によれば,被告人が被害者に対する粗暴行為については不自然な供述に終始し,反省の態度が不十分であることなどの一般情状を考慮しても,本件で被告人に懲役刑を科すのは刑が重すぎるといわざるを得ず,主文の罰金刑を科せば足りると判断した。
(求刑・懲役2年)
令和4年1月18日
大阪地方裁判所堺支部第1刑事部
裁判官 竹内大明
斉藤正人裁判長名判決 正当防衛成立 大阪高裁令和5年
斉藤正人裁判長名判決 正当防衛成立 大阪高裁令和5年
重判令和5年 刑法1 傷害被告事件
大阪高等裁判所判決/令和4年(う)第197号
令和5年2月8日
【判示事項】 夜間普通乗用自動車を運転中、同方向に進行していた普通乗用自動車のA(41歳)の運転に立腹し、自車をA車の前に停車させ、運転席にいたAの頭部をモンキレンチ様の鈍器で殴るなどの暴行を加え、Aに加療約10日間から3週間の頭部陥没骨折等の傷害を負わせた、として傷害罪で起訴された被告人について、被害者の被害状況に関する証言部分に限っては信用できるとして正当防衛の成立を否定し、被告人を有罪とした原判決の認定・判断は、論理則、経験則に反し前提を誤った不合理なものである、として事実誤認で破棄し、無罪を言い渡した事例
【参照条文】 刑法36-1
刑法204
刑事訴訟法336
刑事訴訟法382
刑事訴訟法397-1
刑事訴訟法400ただし書
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 法学教室517号133頁
ジュリスト1597号134頁
主 文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
理 由
第1 事案の概要及び控訴の趣意
(以下、略称等については、原判決のそれに従うほか、原審公判におけるAの証言及び被告人の供述は、単に「Aの証言」、「被告人の供述」という。)
本件は、被告人が、大阪府内の国道上において、Aに対し、持っていたモンキレンチを複数回振り下ろしてその頭部を殴るなどし、左頭頂骨外板陥没骨折等の傷害を負わせたとされる事案である。
本件控訴の趣意は、主任弁護人E、弁護人F及び同G連名作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、論旨は事実誤認及び訴訟手続の法令違反の各主張である。すなわち、被告人のAに対する行為は、Aからの攻撃を防ぐためにやむを得ずにした防衛行為であって、正当防衛が成立するから、被告人は無罪であるのに、原判決は、被告人のAに対する行為の内容について誤った事実を認定した上、これを前提に正当防衛の成立を否定して、被告人を有罪としたものであり、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるほか、D警察官の本件サイドバイザーの損壊状況に関する証言は、検察官による証人テストでの違法な記憶喚起に基づいた法律的関連性を欠くものであったのに、その点に関する証言を許容した上、同証言を証拠排除しないばかりか、信用性まで肯定し、これに依拠して事実を認定した原審裁判官の訴訟指揮等には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである。
第2 事実誤認の論旨に関する当事者の主張及び原判決の判断の要旨
1 当事者の主張
事実誤認の論旨に関する弁護人の主張は、上記控訴趣意書、主任弁護人E、弁護人F及び同G連名作成の弁論要旨(正当防衛の判断方法について)並びに弁護人作成の弁論メモ記載のとおりであり、これに対する検察官の意見は、検察官和H作成の意見書記載のとおりであって、その骨子は、以下のとおりである。
(1)弁護人の主張
信用できる被告人の供述によると、Aは、被告人の顔面を素手で複数回殴打した上、被告人への更なる攻撃行為のためにA車から降りようとしており、被告人は、そのような正当防衛状況の下で、Aによる攻撃に対する防衛行為として、とっさにモンキレンチを前に突き出したことが認められる。被告人は、けんか闘争を開始したことはない上、本件は、最高裁判所が正当防衛の成立を否定した自招侵害の事案(最判平成20年5月20日刑集62巻6号1786頁)や侵害を予期した上、積極的加害行為により侵害行為に及んだ事案(最判平成29年4月26日刑集71巻4号275頁)とも事案を異にし、被告人の上記行為については、正当防衛が成立する。
これに対し、原判決は、Aの証言は基本的には信用することができないとしつつ、被告人とAが相対していたせいぜい1分程度の間の事実経過に関する不可分一体の証言の一部のみをつまみ食い的に取り出して信用性を肯定し、これに依拠して、被告人がAの胸倉をつかんで引っ張った上、本件サイドバイザーを複数回モンキレンチでたたいてこれを損壊したとの事実を認定し、被告人がこの行為によりけんか闘争を開始したとして、正当防衛を認めなかった。このような事実認定は、恣意的かつ支離滅裂であって、論理則、経験則に反する不合理なものであるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。
(2)検察官の意見
原判決の認定、判断のうち、Aの証言を基本的には信用することができないとした点は誤りであるものの、被害状況に関する部分に限ってはAの証言の信用性を肯定することができるとし、これに沿った事実を認定した上、正当防衛はもとより、過剰防衛も成立しないとした原判決の認定、判断は合理的なもので、事実誤認はない。また、仮に、被告人の供述に基づいて事実を認定したとしても、被告人の行為は、Aによる急迫不正の侵害に対抗する行為とはいえず、正当防衛はもとより、過剰防衛も成立しないから、いずれにしても、原判決の認定、判断に誤りはなく、事実誤認の論旨には理由がない。
2 原判決の判断の要旨
原判決は、以下のとおり説示して、被告人及び弁護人の正当防衛の主張を排斥し、おおむね起訴状の公訴事実に沿う事実を認めて、被告人を有罪とした。
(1)証言等の信用性判断
まず、Aの証言について、①本件に至る経緯に関する証言は、左後方を走行していた被告人車が左後方の他車をあおっているのを見たという不自然な内容を含んでいる上、D警察官に対する説明内容とも大きく異なっており、供述内容に合理性のない変遷が見られること、②Aによる暴行の有無等に関する証言は、本件の翌日に被告人が整形外科を受診し、「言い合いになって殴られた」旨申告していることを合理的に説明できていないこと、③D警察官に対するAの説明内容によると、Aは、B交差点を右折する際、被告人車が直進車線から右折して割り込んできたものと誤認していたと認められ、それにもかかわらず、Aが本件に至る経緯につき前記のとおり供述しているところを見ると、Aは、自らの誤認を認めたくないなどという思いから供述を変遷させ、記憶に反する証言をしたものと考えざるを得ないことによると、Aには自らの落ち度を隠そうとする態度が見られるというべきであり、このようなAの証言は基本的には信用できない。しかし、被害状況に関する証言については、①D警察官に対する説明内容からおおむね一貫していること、②被害状況を過大に証言している形跡までは認められないこと、③Aが負った傷害内容と符合すること、④本件サイドバイザーの損壊状況と符合することから、この部分に限っては、その信用性を肯定すべき合理的な理由がある。
Aの上記証言と相反する被告人の供述については、Aに対する粗暴行為に関する部分を除き、①特に不自然、不合理な点は見当たらないこと、②Aがスマートフォンを向けて被告人を撮影していた状況については、想像により作出する合理的な理由が乏しい上に、Aから撮影されていた際の心境を含め相当に具体性のある内容となっていること、③Aから顔面を殴打された状況については、被告人が本件の翌日に整形外科で受診し、「言い争いになって殴られた」旨申告していることによって裏付けられている上、その供述内容には具体性や迫真性も備わっていることから、基本的に排斥することはできない。しかし、Aに対する粗暴行為に関する部分の供述については、①本件サイドバイザーの損壊状況を合理的に説明できていないこと、②Aの肩から下を狙って1回だけ前に突き出すようにした旨の供述は、Aから殴打されてふらふらとなり、しかもAがA車の車外に出ようとしていて更なる攻撃も予想されたという緊迫した状況に沿わないものであって、Aに対する反撃の態様や意図としては相当に不自然であることから、信用できない。
(2)これらを踏まえた事実認定
以上で説示したところによると、本件一連の出来事は、①Aは、A車を運転してB交差点を右折したところ、その前方にいた被告人車が直進車線から右折して割り込んできたものと誤認して憤り、被告人車との車間距離を詰めて運転したり、クラクションを鳴らしたり、側道から本線への合流地点にあるゼブラゾーンで右側から被告人車を追い越したりした、②被告人は、Aの運転行為に立腹し、A車の前に被告人車を停止させ、モンキレンチを持ってA車に近づいたところ、Aが被告人をスマートフォンで撮影する動作をしていたことから、被告人車に戻ろうとしたが、Aが「びびっとんのか、こら。こじき。ぼけ。掛ってこいや。」などと言ってきたため、これに腹を立て、再びA車に向かって行って、Aの胸倉をつかんで引っ張った上、本件サイドバイザーを複数回モンキレンチでたたき、これを幅約36cm、高さ約16cmにわたり損壊した、③これに対し、Aは、被告人の顔面を素手で複数回殴打した、④AがA車を降りようとしたので、被告人は、モンキレンチを1回振り下ろし、それがAの頭部に当たり、Aに左頭頂骨外板陥没骨折等の傷害を負わせた上、続けて、モンキレンチを複数回振り下ろし、頭部を守ろうとしたAの左手等にモンキレンチが当たり、Aに左中指打撲傷等の傷害を負わせた、というものであったと認められる。
(3)正当防衛の成否の判断
このような本件一連の出来事を全般的に観察すると、被告人は挑発的であったAの運転行為やAの侮辱行為を無視して挑発に応じないことも可能であったにもかかわらず、あえて被告人車を停止させてAに近づき、その挑発に応じて自ら損壊行為等をしてけんか闘争を開始し、その時点以降、被告人とAはけんか闘争の状態になったというべきである。また、空手の世界大会への出場経験もあるAの殴打行為には相当の強度があったといえるものの、被告人に他覚的所見が生じない程度の素手による暴行の限度にとどまっており、被告人の損壊行為等の程度を大きく超える実力行使であったともいえず、けんか闘争において想定される攻防の範囲を超えたものではない。
以上によると、Aの殴打行為に対抗した被告人の傷害行為は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容するという刑法36条の趣旨に照らし、許容されるものとは認められず、闘争の全般から見て同条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合に当たるというべきである(最高裁判所昭和23年7月7日大法廷判決参照)。
したがって、被告人に正当防衛は成立せず、過剰防衛も成立しない。
第3 当裁判所の判断
原判決は、上記のとおり、Aの証言は被害状況に関する部分に限っては信用できるとし、これに依拠して、被告人が、Aの胸倉をつかんで引っ張ったり、本件サイドバイザーを叩いて損壊したりするなどしてけんか闘争を開始し、その時点以降、両者はけんか闘争状態になった旨認定、評価した上、正当防衛の成立を否定したが、このような原判決の認定、判断は、Aの証言の信用性判断の手法及び内容の双方において、論理則、経験則に反する不合理なものといわざるを得ない。また、そのような事実認定に基づいた正当防衛の成否の判断も、前提を誤った不合理なものといわざるを得ず、是認することができない。以下、それぞれの点について補足して説明する。
1 Aの証言の信用性判断等について
(1)信用性判断の手法について
原判決は、Aの証言について、基本的な信用性に欠けるとしながら、被害状況に関する部分に限っては、その信用性を肯定すべき合理的な理由があるとしたが、このような証言の一部分のみを取り出して信用性を肯定する判断手法自体、経験則に反する不合理なものである。
すなわち、被害状況に関するAの証言は、被告人が、被告人車を降りてA車に向かい、同車付近で相対していたせいぜい1分足らずの短い時間の一連の出来事に関する不可分一体のものであり、その一部のみを取り出して信用性を肯定し、事実認定の資料として用いることは、合理的な理由がない限り、経験則に反するというべきである。原判決は、被害状況に関するAの証言の信用性を肯定すべき合理的な理由として、上記のとおり、被害状況に関するAの証言が、①D警察官に対する説明内容からおおむね一貫していること、②被害状況を過大に証言している形跡までは認められないこと、③Aが負った傷害内容と符合すること、④本件サイドバイザーの損壊状況と符合することを挙げるが、これらの事情は、Aの証言やその前提となった事実の認識、記憶が可分であることを示すものとはいえない上、そもそも、後述するとおり、原判決の上記説示の多くは、それ自体が誤りであるといわざるを得ず、いずれにしても、不可分一体の証言の一部を取り出して分断的に評価する合理的な理由になり得るものではない。むしろ、原判決は、Aの証言の基本的な信用性を否定すべき事情として、Aには自らの落ち度を隠そうとする態度が見られることを指摘しているところ、被害状況についても、同様の意図、動機から自己の落ち度を隠したり、被害内容を誇張したりして証言している可能性が高いというべきであるから、被害状況についてのみ他の部分と切り離して信用性を肯定する合理的な理由はなおさら考え難い。
(2)信用性判断の内容そのものについて
ア また、被害状況に関するAの証言の信用性を肯定した理由に関する原判決の説示も不合理であるといわざるを得ず、是認することができない。
まず、証言の一貫性(①)、過大な証言の形跡がないこと(②)及び傷害内容との符合(③)の点については、弁護人の指摘するとおり、Aは、D警察官に対しては、被告人から胸倉をつかまれたことを申告していないほか、モンキレンチで頭を殴られた具体的な状況や部位、負傷の内容等、被害状況に関する中核部分についての供述が変遷しており、この点に関する合理的な説明をしているともいえない。殴られた部位や負傷の内容について供述が変遷したのは、上記のようなAの意図、動機と併せ考慮すると、被害状況を誇張したためである可能性を否定することはできない。
また、本件サイドバイザーの損壊状況との符合(④)の点については、原判決の認定した損壊が被告人のモンキレンチによる打撃によって生じたものだとしても、損壊状況自体から、具体的な打撃のタイミング、場面、態様等を特定することはもとより困難であるから、相反する被告人の供述の信用性を排斥してAの証言が信用できるとする理由になるものではない。
さらに、Aの証言によると、被告人は、A車の運転席の窓越しに、運転席に座っていたAの胸倉をつかんで引っ張り出そうとし、これによりAの体が浮くくらいになり、その直後、Aを目掛けてモンキレンチを複数回振り下ろし、それが本件サイドバイザーに当たったというのであるが、同証言に係る一連の経過は、被告人がA車に向かった経緯や状況、A車の車高やAと被告人の体格等に照らし、原判決も自認するとおり、不自然というほかない。
以上のように、原判決が指摘するとおり、Aの証言の基本的な信用性自体に疑問がある上、被害状況に関する証言部分についても、中核部分についての供述の変遷や証言内容の不自然性等が認められることなどに照らし、その信用性には疑問があるというべきである。
イ 加えて、被告人の供述の信用性については、原判決の説示するとおり、一部を除き、不自然、不合理な点は見当たらず、Aがスマートフォンを向けて被告人を撮影していた状況や、Aから顔面を殴打された状況については、相当に具体的な供述をしており、後者については本件翌日の整形外科の受診の事実やその際の申告内容によっても裏付けられている。被告人の供述は、大筋において信用できるというべきである。一方、被告人の供述のうち、モンキレンチによる打撃に関する部分(Aの肩から下を狙ってモンキレンチを1回だけ前に突き出し、Aの肩に当たったと思った、その際にサイドバイザーに当たったなどと供述)は、Aの頭部の負傷の部位や内容に照らし、その限りにおいては信用できない。しかし、この点に関する供述は、まさに中核部分についての供述ではあるものの、録画をやめさせようと左手をAのスマートフォンにかぶせにいったところ、いきなりAから顔面を複数回殴られ、さらに、Aが運転席のドアを開けて車外に出ようとしたので、もっとやられるかなと思ったという被告人の供述(その限りにおいて不自然、不合理な点はない。)を前提にすると、弁護人の指摘するとおり、Aによる突然の激しい殴打に無我夢中で反撃した際の短時間の出来事であり、その際の知覚、記憶に正確性を欠く部分があったとしても無理からぬところがあるといえるほか、仮に、上記のような経緯で反撃行為に及んだのだとしても、これによりAの頭部に骨折を伴う傷害を負わせ、刑事責任を問われる立場に置かれたことから、その刑責を軽くしようと自己の行為を矮小化する供述をした可能性もある。被告人の供述は、上記の点において、信用性に欠けるというほかないが、そのことは、その余の部分の信用性に関する上記判断を左右するものではなく、少なくとも、その信用性を排斥すべき理由となるものとはいえない。
ウ 以上によると、被害状況に関するAの証言は、それ自体に信用性に疑問を抱かせる事情があるのみならず、大筋において信用できる被告人の供述と齟齬するものであり、その相反部分につき、被告人の供述を排斥してなお信用できるといえるほどの高度の信用性が認められないことは明らかである。したがって、被告人の供述は、モンキレンチによる打撃の点を除き、信用できるとしながら、これに相反する被害状況に関するAの証言が信用できるとし、これに依拠して一連の経過を認定した原判決の認定、判断は、具体的な内容においても、論理則、経験則に反する不合理なものといわざるを得ない。
(3)検察官の主張に対する判断
これに対し、検察官は、Aの証言は、被害状況に関する部分のみならず、全体的に信用できると主張する。
しかし、被害状況に関するAの証言の信用性に疑問があることは、上記(1)及び(2)で詳細に説示したとおりである。また、その他の証言部分についても、原判決が指摘するように、Aには自らの落ち度を隠そうとする態度が見られることや、相反する被告人の供述を排斥してなお信用できるといえるほどの高度の信用性を示す事情も認められないことから、同様にその信用性には疑問があるというべきである。
検察官の主張は採用できない。
2 関係証拠によって認定できる事実
以上のとおり、原判決の認定、判断のうち、Aの証言に関する信用性の判断及びこれに依拠した一連の事実経過の認定は是認することができない。そこで、上記1で検討したところを踏まえ、大筋において信用できる被告人の供述と他の原審関係証拠に基づいて一連の事実経過を見ると、被告人が、モンキレンチによる打撃行為に及んだ状況及びその前後の一連の経過について、以下の事実が認められる。
(1)被告人は、被告人車の後方から車間距離を詰めたり、クラクションを鳴らしたりするなどしてきたAの運転態度に立腹し、令和元年10月16日午後8時22分52秒頃、被告人車をA車の前に出して停車させると、A車も被告人車の後方に停車した。
(2)被告人は、Aに注意しようと、作業着のポケットに入っていたモンキレンチを右手に持って降車し、A車に近づいたところ、運転席に座っていたAがフロントガラス越しに被告人をスマートフォンで撮影する動作をしているのに気づき、当時着用していた作業着に会社のネームが入っていたことから、撮影されたら後々会社に迷惑がかかるかもしれないと思い直して、被告人車に戻ることにした。
(3)ところが、戻りかけた被告人に対し、Aが「びびっとんのか、こら。こじき。ぼけ。掛かってこいや。」などと罵声を浴びせてきたため、被告人は一層立腹して、やはり注意だけはしようとA車に再び近づき、まずは撮影を止めさせようと、「止めろ」と言いながら、空いていた左手をAのスマートフォンのレンズにかぶせに行った。Aは、これを避けようとしてA車の内側方向に身体をのけぞらせたため、被告人の身体も前傾して、その左手や頭部が開いていたA車の運転席ドアの窓からA車の中に入った。すると、いきなりAが被告人の顔面等を数回殴打した。
(4)被告人は、この殴打によって鈍器で殴られたような強い衝撃を受け、逃げるように左手や頭部を運転席ドアの外に出したところ、Aが運転席ドアを開けて降車しようとしてきたため、同ドア越しにとっさに右手に持ったモンキレンチを複数回にわたりAに向けて振り下ろし、Aの左頭頂部や左中指等に傷害を負わせた。また、その際、モンキレンチが本件サイドバイザーにも当たり、その一部が損壊した。
(5)その直後の同日午後8時23分21秒頃、A車が徐々に後退し始めたことから、AはA車の運転席に戻り、被告人も自車に戻った。
(6)なお、Aは、本件当時41歳で、身長が191cm、体重が120kgあり、空手の有段者で、世界大会への出場経験もあった。一方、被告人は47歳で、身長は169cmであった。
3 正当防衛の成否について
(1)当裁判所の判断
以上の認定事実を前提に、正当防衛の成否を検討する。
ア 本件の公訴事実は、被告人がAに向けて右手に持ったモンキレンチを複数回振り下ろしてけがを負わせた上記2(4)の暴行(以下「本件暴行」という。)を、傷害罪に問うものである。
しかし、被告人が本件暴行に及んだのは、Aが、上記2(3)及び(4)にあるように、いきなり被告人の顔面等を数回殴打したばかりか、引き続き、A車から降車して被告人のいた車外へ出ようとしたからである。そして、Aのこの一連の行動を見ると、Aが車外で被告人に対し更なる攻撃を加えようとしていたことが優に見て取れるから、上記2(4)のように、車外に出ようとするAに対してとっさになされた本件暴行は、Aからの更なる攻撃を防ぎ、自己の身を守るためになされた対抗行為であると評価することができる。
また、防衛行為の相当性については、確かに、被告人は、素手のAに対し、モンキレンチを用いて本件暴行を加えており、形式的に見るとその手段には違いがある。しかし、上記2(4)のように、Aによる殴打が被告人に与えた衝撃は相当のものであった上(被告人によると、Aに殴打されて目がちかちかしたというのであるし、現に、その翌日にも殴打された部位の痛みを訴えて医師の診察を受けてもいる。)、上記2(6)のとおり、Aの体格は被告人のそれを圧倒しており、しかも、Aは被告人がモンキレンチを持っていることを分かりながら、あえて被告人に近づこうとしたのであって、本件暴行は、このようにAによる攻撃が質あるいは量において更に拡大することも十分想定し得る状況下において、A車の運転席ドア越しに、とっさに、かつ、ごく短時間の間に連続してなされた数回程度のものにすぎない。こうしたことを考慮に入れて実質的に比較すると、本件暴行の持つ危険性が、Aの行為の持つあるいは持ち得る危険性を直ちに上回るとまではいえず、本件暴行が、対抗行為として許される相当な範囲を逸脱したものであるとはいえない。
したがって、被告人の本件暴行は、Aによる攻撃に対し、対抗行為に出ることが正当とされる状況において、やむを得ずにした行為として、正当防衛に当たるというべきである。
イ なお、被告人は、上記2(2)及び(3)のように、右手にモンキレンチを持って被告人車から降車し、A車のところまで赴いた上、スマートフォンで被告人を撮影するような動作をしていたAに対し、それをやめさせようとスマートフォンのレンズに左手をかぶせに行き、最終的には、その左手や頭部が、開いていたA車の運転席ドアの窓からA車の中に入ったことが認められる。
しかし、被告人は、一旦はA車に向かったものの、上記2(2)のような事情から被告人車に引き返そうとしていたのであり、それにもかかわらず、再びA車に向かい、運転席に座るAと相対することになったのは、Aが被告人に対し上記2(3)のような罵声を浴びせたためである。この罵声は、甚だ侮辱的で、かつ、意図的なけんかへの挑発・誘導を内容とするもの(以下、単に「挑発等」という。)であり、これがなければ、被告人は、そのまま被告人車に戻り、両者が相対することもなく、トラブルが収束するであろう状況にあったということができる。また、挑発等を受けての被告人の行動を見ても、モンキレンチを持ったままA車に向かってはいるものの、Aの殴打行為に先んじて、モンキレンチをAに示して脅すような素振りを見せたことも、ましてや、それを用いてAに暴力を振るうような素振りを見せたこともなかったし、A車にその左手や頭部を入れたといっても、意図的にA車の中に侵入しようとしたのではなく、Aによる撮影の動作をやめさせるため、Aのスマートフォンのレンズに左手をかぶせに行った流れの中で、Aが身体をのけぞらせたために更に左手を伸ばし、それに伴って顔面が運転席ドアの窓からA車内に入ったというものにすぎず(被告人のこうした動きは、Aにとっても想定し得る範囲内のものであったといえる。)、けんかの挑発そのものに応じたものではない。
このように、本件のような身体的衝突に至る引き金となったのは、可罰的ではないにしても不正であるか、少なくとも甚だ不穏当なAによる挑発等であることが明らかであり、この挑発等を契機にA車に向かい、Aと相対したとはいえ、これに対する被告人の行為は上記のような態様のものにとどまった一方、Aは、被告人の左手を払ったり、その体を押し返したりするなどして対応することも容易であったのに、いきなり被告人の身体枢要部である顔面等を狙って数回殴打するという、被告人の行為とは質的に異なる暴行でこれに応じたのである。
そうすると、被告人による本件暴行は、Aが上記のような不正な挑発等をきっかけにして自ら招いたものといえるか、仮にそれが不正とまではいえないものであっても、上記2(1)に見られる運転態度に始まるAの行為の帰責性は相当に大きいというほかなく、Aは被告人との衝突状況の解消に相応の負担を負うべき立場にあったといえるのに、かえって上記のような殴打行為にまで及んでいることからすると、被告人がその殴打行為の直前までに上記のように行動していたからといって、Aの殴打行為に対する被告人の正当防衛が許されない状況に至っていたとはいえない。
また、以上のような事実経過に照らすと、これを全般的に観察しても、被告人とAがけんか闘争の状況にあったとはいえず、前提となる事実経過を誤認した上、被告人とAはけんか闘争の状況にあったとして、闘争の全般から見て正当防衛の観念を容れる余地がない場合に当たるとした原判決の判断も、是認できない。
したがって、いずれにしても、Aによる殴打行為の直前までの被告人の上記のような行動の存在が、本件暴行が正当防衛に当たるとの上記判断を左右することはない。
(2)検察官の主張に対する判断
これに対し、検察官は、まず、Aの証言を前提に検討すると、被告人には正当防衛はもとより、過剰防衛も成立しないと主張するが、Aの証言の信用性に疑問があることは上記のとおりであって、検察官のこの主張は前提を欠くというべきである。
次に、検察官は、被告人の供述を前提に検討しても、被告人の内心の意図はどうあれ、被告人がA車を無理やり停車させた上、凶器になり得るモンキレンチを手にしてA車に向かい、左手や頭を運転席窓からA車の中に入れた行為は、Aが被告人を挑発する言葉を発していたとしても、不正の行為であることに変わりはないから、Aがこれに対抗して被告人の顔面を殴打しても、それに対する正当防衛が許容されることない旨主張する。しかし、検察官のこの主張は、上記(1)イで説示したようなAの挑発等が有する不正性あるいはAの一連の行為の帰責性の大きさを過少に評価するものである上、被告人の行為の評価についても異なる前提に立つもので、採用することができない。
4 小括
以上によると、被告人の本件暴行は、Aによる攻撃に対し、対抗行為に出ることが正当とされる状況において、やむを得ずにした行為として、正当防衛に当たると認められるところ、その成立を認めず、被告人を有罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるから、事実誤認の論旨には理由があり、訴訟手続の法令違反の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。
第4 破棄自判
よって、刑訴法397条1項、382条により、原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して、次のとおり判決する。
本件公訴事実の要旨は、「被告人は、令和元年10月16日午後8時22分頃、大阪府富田林市(以下略)先の国道170号線南行第2通行帯上において、A志英(当時41歳)に対し、持っていたモンキレンチ様の鈍器で、同人の頭部を殴るなどの暴行を加え、よって、同人に加療約10日間を要する左頭頂骨外板陥没骨折等及び加療約3週間を要する左中指打撲傷等の傷害を負わせたものである。」というものであるが、上記第3のとおり、被告人のAに対する暴行については刑法36条1項の正当防衛が成立し、罪とならないから、刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとして、主文のとおり判決する。
令和5年2月10日
大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官 齋藤正人
裁判官 大西直樹
裁判官 赤坂宏一
川崎市ヘイトデモ事件 横浜地裁川崎支部令和5年判決
川崎市ヘイトデモ事件 横浜地裁川崎支部令和5年判決
重判令和5年 憲法6 国家賠償請求事件
横浜地方裁判所川崎支部判決/令和元年(ワ)第343号
令和5年7月11日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 ジュリスト1597号18頁
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告らに対し、各500万円及びこれに対する令和元年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、亡A(以下「亡A」という。)による、デモ開催目的での公園内行為許可申請に対し、川崎市が行った、川崎市都市公園条例(以下「本件条例」という。)3条4項の規定に基づく不許可処分によって、亡A、原告X1及び原告X2の表現の自由や政治活動の自由が侵害されたとして、原告らが被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金各500万円及びこれに対する令和元年6月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)関係法令等
別紙関係法令等記載のとおり。
(2)当事者
ア 亡Aは、川崎市に居住し、インターネット上で、通称「A’」の名称で活動していた者であり(乙4)、後記(4)記載の本件申請を行った者である。
なお、亡Aは、令和3年3月15日に死亡し、相続人となるべき者全員が相続放棄の申述をしたので、原告法人が成立し、本件訴訟における亡Aの訴訟上の地位を承継した。もっとも、相続財産管理人は選任されていないため、原告法人につき特別代理人が選任されている。(甲28ないし43)
イ 原告X1は、福島市に居住する者であり、後記(4)記載の本件集会への参加を予定していた。
ウ 原告X2は、川崎市に居住する者であり、後記(4)記載の本件集会への参加を予定していた。
エ 被告は、後記(3)記載の各公園を設置・管理する地方公共団体である。
(3)□□公園ふれあい広場及び△△公園の概要
ア □□公園について
□□公園は、昭和11年12月9日に、川崎市長が都市計画法に基づく都市計画決定をし、昭和15年5月1日に川崎区(以下略)に開設された都市計画公園で(乙13)、都市公園法施行令2条1項4号に規定する総合公園に該当する公園である。
□□公園の南西には、Bと呼ばれる球技場があり、同公園の南東には、親子で楽しむことができる広場として、「ふれあい広場」と呼ばれる広場(以下「ふれあい広場」という。なお、平成23年3月に策定された□□周辺地区整備実施計画における名称は、「こども広場」である。)が整備されている。また、ふれあい広場の西側約20メートルの位置には「市民が憩い、語らうことのできる広々とした芝生の広場」として「市民広場」が、ふれあい広場と市民広場の間には、公園内を回遊できる安全で快適な空間として園路がそれぞれ整備されている。(乙13、38、45)
□□公園は、国道132号線(□□通り)に面しており、沿線には、教育文化会館、労働会館、裁判所等の公共施設が複数立地している(乙13)。
イ △△公園について
△△公園は、昭和24年5月13日に、川崎市長が、都市計画法に基づく都市計画決定をし、昭和26年4月1日に川崎区(以下略)に開設された都市計画公園で(乙14)、都市公園法施行令2条1項1号に規定する街区公園に該当する公園である(以下、□□公園と併せて「本件各公園」という。)。
△△公園は、国道15号線(第一京浜)や川崎府中線(市役所通り)に面しており、△△神社が隣接している(乙2)。
(4)本件申請行為
亡Aは、平成28年5月20日、川崎市長宛てに、ふれあい広場及び△△公園の利用に係る公園内行為許可申請書をそれぞれ提出した(以下、総称して「本件申請」といい、本件各公園を利用して行われる予定であった集会を「本件集会」という。)。亡Aが提出した各公園内行為許可申請書の記載内容は、下記のとおりである。(甲1の1、甲1の2)
ア ふれあい広場に係る公園内行為許可申請書について
〔公園名〕□□公園ふれあい広場
〔日時〕平成28年6月5日午前9時30分から平成28年6月5日午後0時30分まで
〔目的〕デモの集合、到着、集会の会場として
〔参加人員〕100名
〔使用面積〕400平方メートル
イ △△公園に係る公園内行為許可申請書について
〔公園名〕△△公園
〔日時〕平成28年6月5日午前10時00分から平成28年6月5日午後1時30分まで
〔目的〕デモの集合、到着、集会の会場として
〔参加人員〕100名
〔使用面積〕400平方メートル
なお、本件申請当時、亡Aは、本件各公園のいずれかを集合場所とし、C駅から◇◇地区近辺を通って、D駅を解散場所とするデモ行進を予定していた(第1回弁論準備手続調書)。
(5)本件不許可処分
被告は、平成28年5月30日、「平成28年5月24日に成立した本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に規定される不当な差別的言動を行うおそれがある」として、本件条例3条4項に基づき、亡Aによる本件申請をいずれも不許可とした(以下「本件不許可処分」という。乙46)。
なお、平成28年6月5日には、□□公園内にあるBにおいて球技イベントの開催が予定されていたところ、後に、同日午前9時から午後10時までの13時間に同所を訪れた人数が700人を超えていたことが報告されている(乙18、19)。
(6)本件訴訟の提起
原告らは、令和元年5月16日、本件訴訟を提起した。
2 争点
(1)本件不許可処分の違法性(争点①)
(2)被告市長の過失(争点②)
(3)損害(争点③)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点①(本件不許可処分の違法性)について
(原告らの主張)
本件不許可処分は、亡Aらが行った過去の集会及びデモの内容が違法であるから、本件申請行為にかかる本件各公園を使用した集会・デモ行為もまた違法であると決めつけてなされたものであり、違法である。
平成27年11月8日に行われた「Eデモ」(以下「第1弾デモ」という。)において韓国人又は朝鮮人の生命又は身体に危害を加え又は著しく侮蔑する発言がされたことはなく、平成28年1月31日に行われた「Eデモ第2弾 反日を許すな」と題するデモ(以下「第2弾デモ」という。)においても、「ゴキブリ朝鮮人」との発言を除いて、そのような発言はない。亡Aは、反日活動を行う外国人や共産主義に対する批判を行っているのであって、反日活動を行っているか否かに関わらず、韓国人又は朝鮮人であれば排斥せよといった、出自に着目した差別的言動は一切行っていない。
亡Aらが行っていたデモの一貫したテーマは、「反日を許すな」ということであり、近隣国家が日本に敵対的な政策をとっていることに対し、日本の主権、国益、日本人の人権等を守るためには、反日国家及びそれに与して日本と日本人の利益を蔑ろにする勢力を許してはならないという主張である。そして、その批判の矛先は、各デモのコール文からも明らかなとおり、反日国家や、亡Aにおいて反日活動をしていると思料した日本人、在日韓国人及びその団体等であり、話題についても、外国人参政権や公務就任への反対、亡Aらによるデモの妨害への抗議、入管特例法の廃止等極めて多岐に及ぶものの、外国人政策に対する意見表明は、国民固有の権利であり、そのような意見表明が人種や民族に着目した不当な差別的言動に該当するものではない。
また、同日に、□□公園ふれあい広場の一般利用が事実上困難になったことは認めるが、同日の集会は、亡Aが被告から公園使用許可を受けたうえで開催されたものであり、同日に集会が開催されていなければできるはずの一般利用が事実上困難となることは想定の範囲内の事態である。加えて、同日のふれあい広場の一般利用が事実上困難となった原因は、亡Aによる集会開始前の段階から、集会参加者をはるかに上回る反対勢力が同広場を取り囲み、巨大な横断幕や「レイシストは帰れ!」などと記載されたプラカードを掲げたり、マイクを用いて発言するなどの集会行為を行っていたことにある。亡A及び原告らが行う集会に対する妨害勢力こそが、騒音や暴言等の悪影響の原因であり、亡A及び原告らによる本件各公園の使用によって、本件各公園の利用者や周辺住民に対する悪影響は生じない。
なお、デモや集会を開催するに際して、拡声器を用いることは通常のことであり、拡声器を使用することで公園の使用に支障が生じるというのであれば、およそ公園での集会は不可能になるから、拡声器を用いて集会を行い、騒々しくなることは、本件不許可処分の理由にはならない。また、仮に亡Aらによる拡声器の使用が騒々しく、本件各公園の一般使用に支障を及ぼすというのであれば、本件各公園内での拡声器の使用に制限を加えれば足りる。
(被告の主張)
第2弾デモの出発前に□□公園内で行われた集会における、集会参加者による発言は、韓国人又は朝鮮人の生命又は身体に危害を加える旨を告知し、又は著しく侮蔑するものであって、ヘイトスピーチ解消法2条に規定する「本邦外出身者に対する差別的な言動」に該当する。また、第1弾デモの出発前に開催された集会における集会参加者による言動も、インターネット上に記載されている内容や、第2弾デモの内容からして、第2弾デモの際の言動と同様のものであったと推測される。
このような経過に鑑みれば、インターネット上で予告された、平成28年6月5日に実施予定の「Eデモ第三弾!」(以下「第3弾デモ」という。)が実施された場合には、第1弾及び第2弾デモと同様に、本件集会において、本邦外出身者に対する不当な差別的言動が拡声器等を用いて騒々しく行われる蓋然性が極めて高い。
また、平成28年3月に法務省の委託調査研究事業として公益財団法人人権教育啓発推進センターが作成した「ヘイトスピーチに関する実態調査報告書」(乙24)によれば、川崎市においては、平成25年5月12日、同年10月12日、平成26年11月16日及び平成27年3月14日にヘイトスピーチに相当する言動があったとされているところ、上記各日は、いずれも亡Aが公園内行為許可を受けている日であることからすれば、亡Aが第2弾デモ以前から本邦外出身者に対する不当な差別的言動を行っていたといえる。
以上を踏まえると、本件申請を許可した場合には、本件各公園において、亡Aらが「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を騒々しく行い、本件各公園の一般利用者の通常使用が事実上不可能となるほか、本件各公園の周辺を通行し又は周辺に在住する韓国人、朝鮮人の人格権を著しく侵害する蓋然性がある。特に、□□公園については、本件集会が予定されていた平成28年6月5日に、同公園内で球技イベントが予定されており、多数の者が同公園を利用し又はその周辺を通行することが予想されていたことからすれば、本件集会が開催された場合の影響も大きい。
したがって、本件条例3条4項に基づいて行った本件不許可処分は、適法である。
(2)争点②(被告市長の過失)
(原告らの主張)
本件不許可処分に至るまでの間の亡Aらによるデモや集会の状況、言動の内容からすれば、ヘイトスピーチが行われる蓋然性など認めることができないのは明らかであるところ、被告市長は、過去のデモや集会における状況等を把握していたにもかかわらず、本件不許可処分を行ったのであるから、過失がある。
(被告の主張)
本件不許可処分は処分要件を満たしているから、被告市長について、職務上通常尽くすべき注意義務違反も過失もない。
(3)争点③(損害)について
(原告らの主張)
原告らは、本件不許可処分により、表現の自由、政治活動の自由が侵害され、原告らの人格権が否定されたため、各500万円の損害を被った。
(被告の主張)
否認し、争う。
なお、原告X1及び原告X2については、本件集会に参加する予定であったとしても、本件集会が開催された場合の参加者に過ぎないから、本件不許可処分による損害が生じることはない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1)本件申請行為に至るまでの亡Aによる集会、デモ行進の実施等
ア 平成26年11月16日のデモ
(ア)亡Aによる公園内行為許可申請等
亡Aは、平成26年10月29日、川崎市長宛てに、ふれあい広場の利用に係る下記内容の公園内行為許可申請をした(乙25の4)。
〔公園名〕□□公園ふれあい広場
〔日時〕平成26年11月16日午前9時30分から同日午後1時30分まで
〔目的〕デモ行進の集合地及び集会の為
〔参加人員〕80名
〔使用面積〕200平方メートル
川崎市川崎区役所道路公園センターは、亡Aによる上記公園内行為許可申請を許可した(乙33)。
(イ)デモ行進
亡Aは、平成26年11月16日、ふれあい広場において、「Fデモ」と題するデモを実施した。
亡Aは、インターネット上において、当該デモの趣旨に関し、「反日勢力に阿る川崎G市長、反日を優遇し、日本人を蔑ろにする川崎市政」、「反日テロリストのアカ共の革命ごっこで日本破壊テロを、反日朝鮮勢力と手を組んでの日本破壊を許さない!」などと説明している。(乙33、34・5、6頁)
イ 平成27年3月14日のデモ等
(ア)亡Aによる公園内行為許可申請等
亡Aは、平成27年2月16日、川崎市長宛てに、△△公園の利用に係る下記内容の公園内行為許可申請をした(乙25の5)。
〔公園名〕△△公園
〔日時〕平成27年3月14日午前10時から同日午後4時まで
〔目的〕デモ行進の出発・到着地及び集会
〔参加人員〕30名
〔使用面積〕200平方メートル
川崎市川崎区役所道路公園センターは、亡Aによる上記公園内行為許可申請を許可した(乙33)。
(イ)集会
原告X1は、平成27年3月14日、△△公園において、後記(ウ)記載のデモ行進の開始前に、多摩川河川敷で遺体で発見された中学生のように生命又は身体に被害が生じるおそれがある生徒がいると新聞紙に掲載されている旨を述べた上で、在日の人間による日本人に対する犯罪が後を絶たない旨発言した(甲15の3)。
(ウ)デモ行進
亡Aは、同日、△△公園を集合場所とし、「Hデモ」と題したデモを開催した。
なお、亡Aは、インターネット上において、当該デモの趣旨について、自民党神奈川県議会の議員団の1人が「反日テロ組織である『I』の日本人弾圧テロである『国にヘイトスピーチ禁止の法制定を働きかけるよう求める要望書』に【唯々諾々】と従い神奈川県議会に意見書を提出し、議決を求めた。」、「『とても日本人では考えられない【残虐な殺人事件】の発生』これは、神奈川県教育委員会が、反日勢力の言いなりに、【ガキ共を野放し】にした結果である。一方で、神奈川県教育委員会は『J』なる連中が『外国人県民の権利』などと意味不明、違法、無法プロパガンダで【日本人差別】を行っている。」、「上記を扇動する『G川崎市長・K・共産テロリスト・反日半島勢力団体・プロ市民』」、「我々日本人は、上記の様な者共を絶対許さない。」などと説明している。(乙33、34・3頁)
ウ 平成27年6月7日のデモ
亡Aは、平成27年6月7日、ふれあい広場を集合場所とし、同公園から別紙1記載の経路で川崎駅に向かう道順で、「Hデモ」と題するデモを実施した(乙33、34・1頁、44の1)。
上記デモにおいて、デモ隊は、「川崎市は憲法違反の反日特亜国籍、韓国籍職員雇用をヤメロ~!」、「川崎市は多文化と言いながら韓国朝鮮だけのごり押しをヤメロ~!」などの発言をした(甲52)。
エ 平成27年11月8日の第1弾デモ
(ア)亡Aによる公園内行為許可申請等
亡Aは、平成27年10月6日、川崎市長宛てに、ふれあい広場の利用に係る下記内容の公園内行為許可申請をした(乙42の1)。
〔公園名〕□□公園ふれあい広場
〔日時〕平成27年11月8日午後1時から同日午後2時30分まで
〔目的〕デモ行進の集合地及び集会の場所として
〔参加人員〕50名
〔使用面積〕200平方メートル
川崎市川崎区役所道路公園センターは、同年10月19日、亡Aによる上記公園内行為許可申請を許可した(乙42の2)。
(イ)デモ行進
亡Aは、平成27年11月8日、ふれあい広場を集合場所として、□□公園から別紙2記載の経路でD駅に向かう道順で、「Eデモ【反日を許すな】」と題するデモ(第1弾デモ)を実施した(乙5、44の2)。上記デモでは、「共産党と言う政党をかたる連中の正体はテロ集団だぞ~!」、「共産主義者は天安門事件の実態を隠蔽する思想犯罪者だぞ~!」といった、特定の政党又は政治的思想を批判する内容の発言や、川崎では共産主義者と朝鮮人が連携し、その他反日勢力と呼応しながら、破壊活動を繰り広げていると主張したうえで、「川崎市の日本国民無視、特定外国人優遇を許さないぞ~!」、「川崎市の多文化共生なる、朝鮮半島隷属施策を叩き潰せ~!」といった、川崎市における外国人政策を批判する内容の発言をした。また、従軍慰安婦は追軍売春婦である、強制連行は出稼ぎ目的の不法密航であったなどと主張したうえで、「嘘と捏造で、日本に居座り、日本人にユスリ、タカリを繰り返すザイニチを許さないぞ~!」、「日本を貶め、日本人の先祖を貶めるザイニチを日本から叩き出せ~!」といった発言もなされた(甲53、乙5)。
もっとも、第1弾デモは、◇◇地区を通過する予定であったが、当該デモ隊が◇◇地区に立ち入ることを阻止することを企図した川崎市内外の人々が約300名集まり、一部の人々が道路上に寝そべるなどしたため、同デモ隊は同地区内に立ち入ることができず、◇◇地区でのデモをすることはできなかった(甲6、62)。
オ 平成28年1月31日の第2弾デモ等
(ア)亡Aによる公園内行為許可申請等
亡Aは、平成28年1月12日、川崎市長宛てに、ふれあい広場の利用に係る下記内容の公園内行為許可申請をした(乙41の1)。
〔公園名〕□□公園ふれあい広場
〔日時〕平成28年1月31日午前11時30分から同日午後3時30分まで
〔目的〕デモの集合地点及び集会場所
〔参加人員〕50名
〔使用面積〕200平方メートル
川崎市川崎区役所道路公園センターは、同月20日、亡Aによる上記公園内行為許可申請を許可した(乙41の2)。
(イ)集会
亡Aは、平成28年1月31日、「Eデモ『第二弾!』【反日を許すな】」と題するデモ(第2弾デモ)の出発前に、ふれあい広場で開催された集会に参加した。なお、当該集会の主催者は不明である。
当該集会には、主催者側参加者が約60~70名参加したのに対し、当該集会及びこれに続いて行われる第2弾デモの実施に反対するためにふれあい広場に集まった人々(以下「抗議参加者」という。)は約400から500名にのぼり、約500名の警察官が出動した。警察官は、ふれあい広場の中央にいた主催者側参加者の周囲を二重に取り囲み、その外側を抗議参加者が取り囲んでいた。
当該集会において、主催者側参加者は「在日犯罪追放」、「反日教育の国民を公務員に採用するな」、「南北朝鮮は敵国人」、「韓国は敵国だ!」、「朝鮮人との共生!?拒否します」等と記載されたプラカードを掲げ、主催者側の複数の弁士が、拡声器等を用いて交代で発言した。その発言内容(抜粋)は、下記のとおりであり、このうち亡Aによる発言は、下記①及び④である(以下、下記①ないし④の各発言を、順に「本件発言①」などという。)。なお、下記②及び③の発言は、L千葉支部長のM(以下「M」という。)による発言である。(乙6ないし8)
①「韓国では自分の国のことは『ヘル朝鮮』と言ってるそうじゃないか。帰ればいいんだよ、おまえら。一匹残らず叩き出してやるからよ、日本からよ。なにが『◇◇を通すな』だよ。ここは日本なんだよ。」
②「大韓民国、南朝鮮ね韓国ね、そして北朝鮮も、わが国にとって敵国であります。韓国は国を挙げて世界中でないことを言いふらして日本の悪口を言いふらして貶めているんです。そして竹島を不法占拠して我が国の領土を奪っております、これを敵国といわずして何というんでしょうか。いいですか、敵国人に対して死ね、殺せ、こんなのは当たり前なんですよ。」
③「みなさん、堂々と言いましょう、朝鮮人出ていけ。朝鮮人は出ていけ、ゴキブリだ。ゴキブリ朝鮮人は出ていけ。何を言っても構わないんです。」
④「絶対に許さないからよ。これから存分に発狂するまで焦ればいいよ。じわじわじわじわ真綿で首絞めてやるからよ。一人残らず日本から出ていくまでな。」
これに対し、抗議参加者は、当該集会が開催されている間、拡声器等を用いて、途切れることなく「帰れ」、「集会中止」等を連呼した。
(ウ)デモ行進
亡Aは、上記(イ)記載の集会後、□□公園から別紙3記載の経路を辿ってC駅西口に向かうコースで第2弾デモを実施した(乙44の3)。デモ隊は、亡Aを先頭にふれあい広場を出発した後、その周囲を多数の警察官に囲まれながら、「反日レイシスト川崎市長 Gは辞職しろ」などと書かれた横断幕、日本国旗や旭日旗、「多文化共生断固反対」、「日韓断交」と書かれたプラカードなどを掲げて車道を行進した。また、同デモ隊は、デモ行進時に拡声器等を用いて、特定の国会議員、新聞社、政党又は政治的思想を批判する発言のほか、「今の日本は、反日勢力に汚染され尽くしています!」、「【反日勢力とは】周りでデモ妨害、恫喝を繰り広げて居るような勢力です。」、「デモを妨害している勢力の一部は当初【しばき隊】などと名乗った【暴力恫喝集団】であり、その正体は特別永住者を装う反日で勢力です!」、「我々は反日勢力と戦い、日本を浄化するぞ~!」といった発言も行っていた。(甲54、乙6)
なお、上記デモ行進の際、多数の抗議参加者が詰めかけ、時には多数の抗議参加者がデモ行進を行っている車道上に溢れながらも、同デモ隊と並進するように、同デモ隊に対し拡声器等を用いて、「差別反対」、「差別はやめろ」、「おまえら、タダじゃ済まんって分かってるんかオラー」などの怒声を浴びせていたため、現場は騒然としていた(甲7)。
(2)第2弾デモ実施後における第3弾デモの予告
亡Aは、第2弾デモ終了後、インターネット上で、主催者を「N A’」として、「Eデモ第3弾!」と題するデモ(第3弾デモ)を平成28年6月5日に実施する旨を告知するとともに、「今こそ、反日汚染の酷いからこそ【川崎を攻撃拠点】に、自国を貶め、嘘、捏造を垂れ流す日本の敵を駆逐しましょう!」などと記載した(甲63、乙10)。
なお、その後、亡Aは、上記記載に加え、「絶対に違法行為はしない。(中略)ヘイトスピーチ解消法にも従ってください。【悪法も法なり】です。」、「『悪法も法なり』上記を実践出来ない方の参加はお断りします。」など、第3弾デモへの参加を検討している人達への呼びかけを追記した(甲63)。
(3)周辺住民等からの要望
ア □□公園が所在する川崎区××地域の町内会の連合体である、××地区連合町内会会長は、平成28年2月9日、川崎区長宛に、「1月31日、□□公園よりヘイトスピーチデモが行われました。当日は□□公園一帯に機動隊の車両と機動隊員が配備され物々しい雰囲気でした。昨年11月8日も同様に行われ、××地区の住民は不安な中、1日を過ごしました。川崎区におかれましては公園の使用を許可しないようにお願いします」と記載した要請書を提出した(乙9)。
イ また、「Oネットワーク」は、平成28年5月12日、川崎市長宛に、対策を求める署名3万1553筆を提出し(乙36)、同月30日には、川崎市議会が議長名で、川崎市長に対し、「川崎市におけるヘイトスピーチの断固たる措置を求める要望書」を提出した(乙37)。
(4)本件不許可処分等
亡Aは、平成28年5月20日、同年6月5日におけるふれあい広場及び△△公園の利用に係る本件申請を行い、被告はこれを同月23日に受理した(甲1の1・2)。
被告は、ヘイトスピーチ解消法が国会で審議されていること及び亡Aが過去に川崎区内の公園で行ってきた集会の実態を踏まえ、亡Aに電話連絡をして予定している本件集会の内容を確認した。これに対し、亡Aは、過去に自分が主催した集会においてヘイトスピーチが行われたと市が認めてきた経過はあるのか、ヘイトスピーチを行っているのは自分たちでなく反対派である、公園の使用を不許可にしたら裁判で戦うなどと述べた(乙49、P証人)。
被告は、関係部署内において、ヘイトスピーチ解消法の趣旨や、過去に亡Aが行ってきた集会の状況から韓国人及び朝鮮人に対するヘイトスピーチが行われる可能性とその影響等について協議し、検討を行った。その結果、本件集会が、インターネット上で亡Aにより「Eデモ第3弾」と銘打たれており、過去2回実施され不当な差別的言動があったと認識している第1弾デモ及び第2弾デモと同一のテーマであること及び同一の主催者によるものであることや、亡Aが被告からの電話確認に対し従前の集会における不当な差別的言動の存在自体を否定していたことからすると、本件集会においても不当な差別的言動が騒々しく行われる蓋然性が高く、公園の利用者や通行人、周辺住民のうち韓国人、朝鮮人の人格権を侵害する危険性があるほか、本件集会における罵声や挑発を含む言動によって国籍を問わず公園の利用者や通行人、周辺住民に不安や恐怖を覚えさせることとなり、公園の通常利用が事実上不可能になるものと判断した(乙47、49、Q証人、P証人)。
被告は、同年5月30日、「平成28年5月24日に成立した本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に規定される不当な差別的言動をおこなうおそれがある」として、本件条例3条4項に基づき、本件不許可処分をした(前提事実(5))。
なお、被告は、平成25年5月1日以降、本件不許可処分に至るまでの間、亡Aからの公園内行為許可申請を不許可にしたことはなかった(争いなし)。
(5)第3弾デモの実施
ア 神奈川県公安委員会による道路使用許可
亡Aは、平成28年6月1日、神奈川県公安委員会宛てに、下記内容の集団示威運動及び道路使用に係る許可申請をし、同公安委員会は、これを許可した(甲19)。
〔申請者〕 N代表 A
〔開催の日時〕 平成28年6月5日 11時30分から12時30分
〔場所又は区間〕R前~S前~T駅東口ロータリー前~流れ開放
〔道路使用の目的〕日本浄化
〔集会等の目的名称〕Eデモ第3弾
イ 第3弾デモ
第3弾デモ参加者は、「ここはカンコク??超汚染塵の超賤神による朝鮮人のための川崎を!」(乙50の1)、「基地外朝鮮人」(乙50の2)、「やめましょう!みっとも無いコンス(朝鮮お辞儀)!」(乙50の3)、「反日国家の国民を公務員に採用するな!」(乙50の4)といったプラカードを掲げてデモ行進を開始したが、当該デモに対する多数の抗議参加者に取り囲まれ、予定していたデモ行進の進路を進むことができなくなったため、当該デモは中止となった(甲58)。
2 争点①(本件不許可処分の違法性)について
(1)総論
ア 被告が設置した本件各公園は、地方自治法244条1項にいう公の施設に該当するから、被告は、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならないし(同条2項)、住民の利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条3項)。本件条例は、同法244条の2第1項に基づき、公の施設である本件各公園の設置及び管理について定めるものであり、本件条例3条4項は、「市長は、…公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合に限り、…許可を与えることができる」と定めて、その利用を拒否するために必要とされる正当な理由を具体化したものと解される。
そして、同法244条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件各公園のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。
したがって、その管理者は、当該公共施設の種類、規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正に管理権の行使をすべきであって、これら物理的支障の点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、当該制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである(最高裁平成7年3月7日第3小法廷判決・民集49巻3号687頁参照)。
本件条例3条4項に基づく本件各公園の利用の制限は、上記に述べた較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、原告らの集会の自由を不当に侵害するものではなく、また、検閲に当たるものでもない。したがって、憲法21条に違反するものではない。
そして、このような較量をするに際しては、集会の自由の制約は、基本的人権のうち、精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下にされなければならない。
イ 本件条例3条4項は、「公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合に限り」、集会のために公園を利用することの許可を与えることができる旨規定している。上述した趣旨からすれば、本件条例3条4項の規定は、本件各公園における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件各公園で集会が開催されることによって、人の生命、身体、自由、財産、人格的利益が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。
加えて、公の施設における集会でなされる可能性のある発言内容を理由に、当該公の施設の使用を不許可にすることは、言論の自由の事前抑制になることからすれば、ヘイトスピーチを目的としたり、特定の個人に対する名誉毀損や侮辱といった犯罪行為が行われたりするおそれが、客観的事実に照らして、具体的に明らかに認められる場合でなければ、原則として不許可にすべきではないと解するのが相当である。
(2)本件不許可処分について
ア 上記認定事実(4)のとおり、被告は、「不当な差別的言動をおこなうおそれがある」ことを理由に「公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合」に該当しないとして、本件条例3条4項に基づき、本件不許可処分をしているところ、その判断は、過去の集会等において亡Aないし集会参加者が不当な差別的言動を行ってきた経過があることを前提にしており、具体例として、第2弾デモ出発前に開催された集会における亡A又はMによる本件発言①ないし④(認定事実(1)オ(イ))を挙げている。
これに対し、原告らは、本件発言①ないし④は、韓国人又は朝鮮人の生命又は身体に危害を加える旨を告知し、又は著しく侮蔑するものでなく、ヘイトスピーチ解消法2条に規定する「本邦外出身者に対する差別的な言動」には該当しないから、これらの発言の存在をもって本件集会でも「本邦外出身者に対する差別的言動」がなされると決めつけ、被告が本件不許可処分をしたことは、違法である旨主張するので、以下、本件発言①ないし④が、「本邦外出身者に対する差別的な言動」に該当するか否かについて検討する。
(ア)定義
ヘイトスピーチ解消法2条において、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいうものと定義されている。
(イ)本件発言①について
本件発言①は、亡Aが、兵役拒否をして前科を有する韓国人二人が成田空港で入国拒否をされたことや日本在住の特別永住者も韓国で兵役の義務を負っていることを主張したうえで、発言するに至ったものである。
原告らは、本件発言①の「なにが『◇◇を通すな』だよ。ここは日本なんだよ。」の後に、「おまえらの好き勝手にはさせねーぞ。」と亡Aが述べていることからすれば、本件発言①における「おまえら」は、亡Aらの面前にいた抗議参加者を指しているのが明らかである旨主張する。しかし、上記発言は、本件発言①の後になされたものであることや、亡Aらの面前で抗議活動をする抗議参加者が在日韓国人、朝鮮人であるか定かではない状況の中で本件発言①の発言をしていることからすると、本件発言①における「おまえら」は、実際に亡Aらの面前にいるかもしれない抗議参加者のうちの在日韓国人、朝鮮人にとどまらず、広く一般に日本国内に居住する韓国人、朝鮮人を指していると解するのが相当である。
そして、本件発言①のうち、「一匹残らず叩き出してやる」という発言は、韓国という出自に着目して、在日韓国人を日本国内から排除することを煽動するものと認められるから、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。
(ウ)本件発言②について
本件発言②は、Mが、韓国と北朝鮮は日本の敵国であると述べたうえで、敵国人に対して「死ね、殺せ」というのは当然のことである旨発言したものである。同人は、本件発言②の後も、「死ね、殺せなんて言葉は戦争になれば必ず使う」、「朝鮮人はわが国にとって敵であります。敵に対して出ていけだの、死ねだの、何を言ってもこんなものは差別には当たりません」と発言を続けている(乙8)。
しかし、日本と韓国又は北朝鮮が敵国である、敵国人に対し「死ね、殺せ」と言うのが当然のことであるとはいえず、本件発言②は、専ら在日韓国人、朝鮮人に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、公然とその生命に危害を加える旨を告知するものであることは明らかである。
よって、本件発言②は、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。
(エ)本件発言③について
本件発言③は、Mが本件発言②に続けて発言したものである。同人は、韓国と北朝鮮が日本の敵国であること、敵国人に対して「死ね、殺せ」というのは当たり前で、太平洋戦争中のアメリカも「KILLS JAP」と発言していたことを引き合いに出したうえで、本件発言③に至っている。同人は、本件発言③の後も、「敵に対してぶち殺せというのは当たり前」などと発言を続けている(乙8)。
本件発言③の前後の文脈を踏まえると、原告らは、在日韓国人又は朝鮮人に対しては、敵国関係にある以上、在日韓国人又は朝鮮人を「ゴキブリ」と呼び、「出ていけ。」と日本国外への退去を求めることは正当化され、ヘイトスピーチ解消法にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」には該当しない旨主張していると解されるが、当該主張を採用できないことは上述のとおりであり、「ゴキブリ」と呼ぶことが極めて侮蔑的な表現であることが明らかであることからすれば、本件発言③は、専ら在日韓国人、朝鮮人に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で、公然と在日韓国人、朝鮮人を著しく侮蔑するものであり、かつ、その出身を理由として地域社会から排除することを煽動するものであると認められる。
よって、本件発言③は、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。
(オ)本件発言④について
本件発言④について、原告らは、「真綿で首を絞める」の慣用句としての意味は、遠回しに責めたり、ゆっくり痛めつけることのたとえであり、本件発言④の直後に亡Aが「俺たちはお前たちなんか殺して手をかけて、自分の手を汚すようなことをしないよ。」と発言していること(乙8)からすれば、在日韓国人、朝鮮人の生命身体に危害を加える旨の告知には該当しない旨主張し、当該発言の真意は、日本国内で反日活動をしている在日韓国人、朝鮮人を合法的に日本から退去させるという意図である旨主張する。
確かに、「真綿で首を絞める」の慣用句としての意味は、上記のとおりであり、本件発言④が在日韓国人、朝鮮人の生命に対する危害を告知する意味に直ちに解することはできない。もっとも、本件発言④の文脈からすれば、在日韓国人、朝鮮人が日本からいなくなるまでは、じわじわと責め、痛めつけ続けるという意の発言に解され、結局のところ、当該発言は、在日韓国人、朝鮮人を地域社会から排除することを目的とした発言にほかならない。
よって、本件発言④は、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。
(カ)以上のとおり、本件発言①ないし④は、いずれもヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する。
イ このように第2弾デモ出発前に開催された集会において在日韓国人、朝鮮人の人格権を侵害する差別的言動が行われていた事実に加えて、上記認定事実(1)のとおり、第1弾デモ及び第2弾デモのテーマとして、大量殺戮や追放等の手段を通じて特定の民族の排除を図る意味をもつ「浄化」という言葉が用いられていること(認定事実(1)エ(イ)、オ(イ)、乙34)、亡Aが主催する集会及びデモにおいては、一貫して在日韓国人、朝鮮人が一括りに「反日」勢力として扱われていること(認定事実(1)、(5))、本件集会が第1弾デモ及び第2弾デモと同一の主催者によって同一のテーマである「Eデモ」の「第3弾」と銘打たれていたことからすれば、本件各公園において亡Aらによる集会が開催された場合には、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当する言動がされていた蓋然性が高いことが客観的事実に照らして明らかに認められるというべきである。
そして、本件発言①ないし④が拡声器を用いて行われていたことから(認定事実(1)オ(イ))、本件集会においても同様の態様で行われる蓋然性が高いといえるところ、前記前提事実(3)から認められる本件各公園の立地状況や利用状況のほか本件各公園が開放された空間であることを踏まえると、本件各公園において差別的言動がなされれば、本件各公園の周辺住民や本件各公園及び周辺の施設利用者のうち在日韓国人、朝鮮人の人格権を直ちに侵害することになるから、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されたといえる。
また、本件条例3条5項において、市長は許可に際し管理のため必要な範囲内で条件を付けることができると規定されているものの、亡Aが過去の集会でヘイトスピーチを行ったことを否定する趣旨の発言をしていたこと(認定事実(4))や、亡Aがインターネット上で「絶対に違法行為はしない」「ヘイトスピーチ解消法にも従ってください。【悪法も法なり】です。」などと第3弾デモ参加予定者へ呼びかけていたにもかかわらず(認定事実(2))、実際に行われた第3弾デモにおいて「基地外朝鮮人」といった差別的文言を含むプラカードが掲げられていたこと(認定事実(5))を踏まえると、何らかの条件を付けることで亡Aらによる差別的言動を防止することができたとは言い難く、不許可以外のより制限的でない方法によって人格権侵害の危険を回避することができたとも認められない。
以上によれば、本件集会は、本件条例3条4項にいう「公園の利用に支障を及ぼさないと認める場合」に該当しないといえるから、本件不許可処分は、適法である。
なお、原告らは、Mによる本件発言②及び本件発言③を同人の個人的意見にとどめず、本件不許可処分の根拠とすることは、過度に広範な規制にあたり、違法である旨主張する。しかし、平成28年1月31日の集会における、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」は、本件発言②及び③のみではないし、同集会後の第2弾デモの主催者であった亡Aが、本件発言②及び③の発言を訂正、謝罪等せずに黙認し、むしろ自ら本件発言①及び④を行っていたことからすれば、本件発言②及び③は、少なくとも亡Aの意見としても表明されたとみるのが相当であるから、原告らの上記主張を採用することはできない。
ウ 本件集会では、100名程度の集会参加者が見込まれること(前提事実(4)ア)、平成28年1月31日の集会時には、集会参加者60名から70名程度に対して、抗議参加者が400から500名、警察官500名が駆けつける騒然とした事態となったこと(認定事実(1)オ(イ))、平成28年2月9日には、××地区連合町内会の会長から、本件申請に対する不許可を求める要望書が提出されていること(認定事実(3)ア)、第2弾デモの際には、多くの抗議参加者が詰めかけ、デモ行進が予定されていた道路周辺は騒然となったこと(認定事実(1)オ(ウ))からすれば、仮に被告が本件申請を許可していた場合には、本件各公園の一般利用者や通行人をはじめ、公園周辺の歩行者や自転車利用者、付近住民にも不安や恐怖を覚えさせることとなり、本件各公園の通常利用は事実上不可能となる蓋然性が高い。
この点、原告らは、平成28年1月31日に行われた集会が騒然となったのは、当該集会への抗議参加者が多数集まり、同集会参加者に対する抗議を行ったためである旨主張する。確かに、ある集会に対する抗議者の存在や活動によって当該集会が騒然とすることを理由に、安易に当該集会の開催自体を規制することは、当該集会で行われる特定の言論内容が、当該抗議者から嫌悪されていることを理由とした規制にほかならないことからすれば、多数の抗議者の存在や活動によって、当該集会が騒然とすることを理由に、当該集会の開催を制限すべきではない。
しかし、上記アで述べたとおり、平成28年1月31日に開催された集会における本件発言①ないし④は、いずれもヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」であって、同日の集会の騒乱は、これらの発言を拡声器等を用いて騒々しく行っていたことに起因するから、平穏な態様で開催された集会でないことが明らかである。本件集会においても、平成28年1月31日に開催された集会からの変更が予定されていなかったことからすれば、平穏な集会を行おうとしている者に対して、一方的に実力による妨害がされる場合と同一に論じることはできないから、原告らの主張は採用できない。
エ また、本件不許可処分に至るまで、被告が亡Aからの本件各公園の利用申請をいずれも許可していた(認定事実(4))ことからすれば、本件申請に係る集会が、亡Aが主催する集会であるとの一事をもって、被告が本件不許可処分をしたものではないことは明らかである。
その他、原告らは縷々主張するが、いずれの主張も上記結論を左右しない。
第4 結論
以上の次第であるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所川崎支部民事部
裁判長裁判官 櫻井佐英
裁判官 村井みわ子
裁判官 三好瑛理華
別紙
当事者目録
(亡Aの最後の住所)川崎市高津区(以下略)
原告 亡A相続財産
(以下「原告法人」という。)
同特別代理人 U
福島県福島市(以下略)
原告 X1
(以下「原告X1」という。)
神奈川県川崎市幸区(以下略)
原告 X2
(以下「原告X2」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 U
神奈川県川崎市川崎区宮本町1番地
被告 川崎市
代表者市長 G
同訴訟代理人弁護士 V
同指定代理人 W
同 (以下略)