深見敏正裁判長不当判決 東京高裁平成29年 渕講義439頁
アルマ2版186頁 あてはめが不当
法人税更正処分取消請求控訴事件
東京高等裁判所判決/平成29年(行コ)第46号
平成29年7月26日
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 青森税務署長が平成23年5月24日付けで控訴人に対してした平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス11億8294万6785円を超える部分及び翌期に繰り越す欠損金額11億8294万6785円を下回る部分を取り消す。
第2 事案の概要(略語は,原判決の例による。)
1 本件は,控訴人が,控訴人の子会社であるA株式会社に対して有していた貸付金等債権3億5155万3294円(ただし,正確な合計額は3億5201万7720円)につき,Aが仙台地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において,同裁判所の許可を得て,平成22年3月1日,前記債権を放棄する旨の契約を締結し,株式会社B(B,Aと併せて本件子会社2社)に対して有していた短期貸付金債権6億4277万7926円(前記貸付金債権と併せて,本件貸付金等債権)について,Aが青森地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において,同裁判所の許可を得て,同年3月3日,前記債権を放棄する旨の契約を締結し,前記各債権の放棄をし(本件債権放棄),放棄されたAに対する3億5201万7720円及びBに対する6億4277万7926円の各債権の合計額9億9479万5646円(本件債権放棄額)を「その他の特別損」勘定として損金の額に算入し,平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度(本件事業年度)に係る法人税の確定申告をしたところ,青森税務署長(処分行政庁)から,本件債権放棄額は本件子会社2社に対する法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)37条の寄附金の額に該当するとして,法人税の更正処分(本件処分)を受けたため,被控訴人に対し,本件処分のうち,控訴人主張の所得金額マイナス11億8294万6785円を超える部分及び控訴人主張の繰越欠損金額マイナス11億8294万6785円を下回る部分の取消しを求める事案である。
2 原審は,(1)本件債権放棄は個別和解によって行われたものであって,裁判所の特別清算協定認可の決定を経たものではないから,基本通達9-6-1(2)の適用の前提を欠いており,これに準じて損金算入することもできない,(2)基本通達9-6-1(4)が個別和解による債権放棄に適用がないということはできないが,本件債権放棄に係る債権の全額が回収不能であったとは認められず,基本通達9-6-1(4)の適用を受けない,(3)基本通達9-4-1は,経営権を事実上移譲しているか否かを問わず適用対象となるが,本件子会社2社は,本件債権放棄当時倒産の危機に瀕しておらず,本件債権放棄は,C銀行からの要請を受けたものではなく,平成21年5月26日付け本件計画書上も明記されていないなど,控訴人における財務及び収益の改善計画において必要不可欠とはいえないから,基本通達9-4-1所定の基準又はこれに準じて法人税法37条1項所定の寄付金に該当しないとして損金算入することはできない,(4)基本通達9-4-2は,業績不振の子会社等の倒産防止のためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど,その債権放棄等について相当な理由があると認められるときに寄付金の額に該当しないと定めており,本件のように本件子会社2社が解散した後に行われた本件債権放棄については適用がないとして,控訴人の請求を棄却した。
3 これに対し,控訴人は,原判決を不服として控訴した。
4 関係法令の定め等,前提事実,税額等に関する当事者の主張,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,次のとおり付加訂正し,後記5のとおり,当審における当事者の補足的主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」1から5まで(原判決2頁15行目から38頁19行目まで,別紙2及び別表1ないし3を含む。)に記載のとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決6頁6行目ないし7行目の「争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実」を「証拠によって認定した事実は,各項末尾かっこ内に認定に供した証拠を摘示し,その記載のない事実は,当事者間に争いがない。」と改める。
(2) 原判決6頁19行目ないし20行目の「乙3,4,」を「乙3ないし5,21及び」と改める。
(3) 原判決11頁21行目の「乙13」の次に,「,同裁判所平成21年(ヒ)第7号」を加える。
(4) 原判決12頁1行目の「乙19」の次に「,同裁判所平成21年(ヒ)第10005号」を加える。
(5) 原判決13頁15行目から16行目の「本件処分の一部について」を「本件処分のうち,平成21年度分の法人税額等の更正通知書更正の理由4-(1)寄付金の損金不算入額の一部である本件事業譲渡に係る9億9479万5646円について取消しを求める」と改める。
5 当審における当事者の補足的主張
(1) 控訴人の主張
ア 争点(1)(本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か)について
(ア) 基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除に係る貸倒損失)について
a 本件子会社2社の資産状況や支払能力等について
原判決は,Bの売上高が増加し,売上総利益も堅調に推移していること等の事実を挙げて,このような債務者側である本件子会社2社の資産状況や支払能力等の事情に照らし,直ちに本件債権放棄に係る全額が回収不能であったとはいい難いと判断している。
しかし,原判決は,回収可能性ないし借入金の支払余力において着目すべき会計費目を取り違えている。
すなわち,原判決は,売上高及び売上総利益並びに預金額を捉えて,本件子会社2社の資産状況や支払能力等を判定するが,売上総利益全額を金融機関等の債権者の支払に充てることはできないのであり,少なくとも人件費等販売費及び一般管理費を控除すべきである。また,Bについては,平成18年度以降売上高総利益率が改善する一方で,製造原価から販売費及び一般管理費に一部の費用が移行したため,売上高販売管理費率が上昇しているのであり(甲43の138頁),Bについて,売上総利益に基づき返済能力を判定することが合理的でないことは一層明らかである。Aについても,最終損益がマイナスになっており、販売管理費や特別損失を考慮しない売上総利益によって返済能力を捉えることは不合理である。
さらに,原判決は,定期預金その他の預金の額にも着目するが,預金は,日常の資金繰りのために確保する必要があり,通常業務を継続する上で必要不可欠なものであるし,預金は事実上金融機関の担保として差し入れられていたから,これを直ちに返済に充てることはできないものであり,預金を考慮することも誤りである。
b 本件子会社2社の財務改善について
原判決は,本件計画中の製造会社3社の数値目標である改善額が,飽くまで数値目標であるにすぎないにもかかわらず,これをあたかも実績値のように実現確実なものとして採用している点で誤っている。
すなわち,原判決は,一方において,金銭債権の貸倒損失を法人税法上の損金に算入するには,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならないと判示しながら,他方において,単なる計画ないし見通しにすぎない製造会社3社の集約計画の数値目標を財務改善計画の立案時までの財務の実績等の客観的事情と区別せずに判断の基礎に取り込んでおり,判断の枠組みと事実認定に食い違いがある。Dにおいて償却前経常損失を計上した原因は,本件財務改善計画に記載された諸施策の実施の懈怠などではなく,計画内容自体の合理性又は実現可能性の欠如にあった。
c C銀行の債権放棄要請の有無について
原判決は,C銀行は債権放棄を要請しておらず,本件計画書にも記載がなく,債権者である控訴人等においてこれを直ちに回収しようとしていた事情もうかがわれないと判示している。
しかし,原判決は,控訴人がC銀行からBに対する手形割引の枠の更新拒絶を契機にグループ全体の財務改善を要求され,財務改善計画策定中にもかかわらず,控訴人自身の当座貸越残高を手形貸付に変更し,当座貸越契約を解除されていること,本件債権放棄により控訴人本体に生じる繰越欠損金の税効果を踏まえて本件計画上の返済計画が立案されていることを看過している点で誤っている。本件債権放棄は,本件計画書に,数字上明確に表れているものである(乙23の16頁以下)。
d 本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったことについて
原判決は,本件事業譲渡の当事者であるDと本件子会社2社がいずれも控訴人の子会社であることを債権回収に必要な労力等の債権者側の事情や経済的な環境等として挙げている。
しかし,C銀行からは,本件子会社2社について,資金援助の取りやめを勧告され,事業譲渡前と同様の債権管理を行うことは許されておらず,本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることによって,繰越欠損金による税効果を織り込んだ控訴人本体の返済余力を減じることが許される状況になかったのであるから,C銀行からの要求を考慮せずに,単に事業譲渡の当事者が子会社であることをもって,「債権回収に必要な労力等の債権者側の事情や経済的な環境等」について論じることはできない。
(イ) 基本通達9-6-1(2)(特別清算協定認可の決定に係る貸倒損失)について
原判決は,特別清算手続における協定の認可と同手続において行った個別和解について,個別和解は法的規制や裁判所の合意内容の審査,決定を欠いており,その内容につき合理性が客観的に担保される状況下で合意されたものとはいえないから,基本通達9-6-1(2)の適用はないと判示している。
しかしながら,基本通達9-6-1(1)に関し,更生計画認可前に裁判所の許可を得て少額弁済を受ける代わりに当該弁済額を超える部分の金額について債権放棄を行う場合に,当該債権放棄は裁判所の許可を受けた更生手続の一環として行われる債権放棄であるから,経済的な価値に基づくものであるとして貸倒損失と認められているものであり(国税庁の質疑応答事例,甲37),特別清算手続における個別和解も,裁判所の許可を得て行う点で会社更生手続における和解と何ら異なる点はないから,この点について何ら言及することなく基本通達9-6-1(2)の適用を否定した原判決は理由不備の非難を免れない。
イ 争点(2)(本件債権放棄額が寄付金の額に該当するか否か)について
(ア) 基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について
a 原判決は,債権放棄等に経済的合理性の観点から特段の必要性があるか否かを判断する旨判示しているところ,その判断枠組みは適切である。
しかし,原判決の認定事実に誤りがあり,特に,本件計画書が客観的に合理的であるとの判断が前提において誤っており,このような事実誤認に基づいて,本件子会社2社が倒産の危機にあったといえないとの判断は重大な事実誤認である。
b また,子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等に関するタックスアンサー(乙50号証)では,再建支援等事案の事前相談に係る検討事項の概要が記載されているところ,そのフローチャート(乙50の14枚目)の検討項目に沿ってみても,本件債権放棄は経済合理性を有している。
(イ) 基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について
a 原判決は,基本通達9-4-2について,本件債権放棄が本件子会社2社の解散後に行われたことを理由として,本件債権放棄が本件子会社2社の再建に当たらないとして,前記通達の要件を満たさないと判示している。
しかしながら,本件債権放棄は,本件子会社2社の事業継続に有益な資産や負債と事業継続を阻害する資産や負債とで分けて,前者の資産等については事業譲渡の対象とし,後者の資産等が残された会社を清算手続によって閉鎖する一連の再建計画の一環として行われたものである。したがって,本件債権放棄が時期的に事業譲渡や旧会社についての清算手続の開始後であることをもって,基本通達9-4-2にいう「再建」に当たらないと判断するのは形式的すぎる。
b 原判決は,基本通達9-4-2を適用する余地があるとしても,本件子会社2社が倒産の危機に瀕した状況に至っていたとはいえないとして,本件債権放棄につき経済的合理性の観点から特段の必要性があったとはいえないとしている。
しかし,既に述べたとおり,与信枠の削除を含めたC銀行の強い働きかけにより,控訴人らから本件子会社2社に対する債権について,回収ないし放棄をせざるを得ない状況にあったから,基本通達9-4-2の要件と本件の事実関係を検討しても,その適用の前提となる事実がないとの原判決の判断は誤っている。
(2) 被控訴人の主張
ア 争点(1)(本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か)について
(ア) 基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除に係る貸倒損失)について
a 本件子会社2社の資産状況や支払能力等について
控訴人は,原判決が,本件貸付金等債権に対する本件子会社2社の返済能力について,本件子会社2社の売上高や売上総力等で判断したことは誤りである旨主張する。
しかしながら,原判決は,本件子会社2社の売上高や売上総利益等を考慮して,本件貸付金等債権の全額が客観的に回収可能であったか否かを総合的に判断したものであり,売上高や売上総利益の推移が1年間の経営成績を示す客観的な指標であることに変わりはないから、売上高や売上総利益等をその判断要素の一つとして判断することは妨げられない。
また,控訴人は,原判決が預金の額を考慮していることについて,本件貸付金等債権の客観的な回収可能性を判断するに当たって,預金を考慮することが誤っていると主張するが,本件子会社2社が一定の運転資金を保有する以上,預金を考慮することは当然であるし,本件子会社2社が預金を担保に差し入れていたことについて何ら立証がないから,控訴人の主張は理由がない。
b 本件子会社2社の財務改善について
控訴人は,原判決が,本件財務改善計画中の製造会社3社の数値目標を,あたかも実績値のように実現確実なものとして採用している点で誤っている旨主張する。
しかし,本件財務改善計画は,C銀行からの財務改善要請を受けた控訴人が,経営コンサルタント会社のE社へ委託の上で(乙22),複数回にわたる修正及びC銀行の理解を得て作成されたものであり,合理性又は客観的可能性を欠く計画が策定されるはずがない。
また,控訴人は,平成21年3月末時点で休業状態であったDが本件子会社2社の保有していた事業を引き継ぎ,その後も事業を継続している(甲4の3頁,甲17,19,21)ことを踏まえておらず,このような事実からすると,本件計画が合理性又は実現可能性を欠くかのような控訴人の主張は,証拠に基づかないものである。
c C銀行の債権放棄要請の有無について
控訴人は,本件計画書(乙23)の記載を根拠に,本件債権放棄は本件計画書に数字上明確に表れていると主張するが,控訴人単体の財務改善計画の骨子(乙23・6頁)には,本件債権放棄を実行する旨の記載はなく,本件契約書を通してみても,本件債権放棄を実行する旨の記載は見られない。
また,控訴人は,本件計画書上に特別損失として「うち短期貸付金評価損」986百万円が計上されていることもって,本件債権放棄が本件計画書に明記されている旨を主張するようである。しかし,そもそも「評価損」と「債権放棄」とはその性格を異にし,同義とはいえないから,「うち短期貸付金評価損」が計上されていることをもって,本件債権放棄が本件計画書に明記されているとはいえない。
このように,控訴人の主張は,控訴人自身の憶測を述べて原判決を理由なく批判するものであって,失当である。
d 本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったことについて
控訴人は,C銀行の意向からすると,本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることによって,繰越欠損金による税効果を織り込んだ控訴人本体の返済余力を減じることが許される状況になかったと主張する。
しかしながら,そもそも本件債権放棄についてC銀行からの要請はなかったから,本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったということはいえず,控訴人の主張は,前提において理由がない。
この点を措くとしても,資本関係があることに加え,代表者を同じくする会社間においては,そうでない会社間に比して債権回収に必要な労力等はかからないから,D及び本件子会社2社がいずれも控訴人の子会社であることに鑑みて経済合理性の観点から特段の必要性があったとはいえないとの原判決の判断に不合理な点はない。
イ 争点(2)(本件債権放棄額が寄付金の額に該当するか否か)について
(ア) 基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について
a 控訴人は,原判決が,本件子会社2社が倒産の危機にあったといえないと判断したことは重大な事実誤認であると主張するが,この点に事実誤認がないことは,前記ア等において主張したとおりである。
b 控訴人は,子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等に関するタックスアンサー(乙50号証)に沿って検討してみても,本件債権放棄は経済合理性があると主張する。
しかしながら,本件債権放棄について,本件子会社2社が経営危機に陥っているとはいえないことはこれまで述べたとおりであるし,支援者たる控訴人にとって損失負担等を行う相当な理由があるとはいえず,損失負担等の額が必要最低限度であることについて何ら具体的な主張立証はなされていない。また,控訴人以外の本件子会社2社の債権者に対して支援を要請した形跡はうかがわれないから,債権者損失負担等をする支援者の範囲は相当といえず,損失負担等の割合も合理的とはいえないから,乙50号証に沿って検討しても,本件債権放棄が経済合理性を有しているとはいえない。
(イ) 基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について
控訴人の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審と同様に控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,原判決44頁16行目及び18行目の「約」をそれぞれ削り,20行目の「約6億3750万円」を「6億3750万円」と改め,後記2のとおり,当審における当事者の補足的主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1ないし3(原判決38頁21行目から62頁9行目まで。別紙2並びに別表2及び3を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点(1)(本件債権放棄額が貸倒損失の額に該当するか否か)について
ア 基本通達9-6-1(4)(回収不能の債権の免除に係る貸倒損失)について
(ア) 本件子会社2社の資産状況や支払能力等について
控訴人は,原判決が,回収可能性ないし借入金の支払余力において着目すべき会計費目を取り違えているとし,原判決が,本件子会社2社の資産状況や支払能力等を判定するに当たり,売上高や売上総利益で判定するのは誤っており,人件費等販売費及び一般管理費を控除すべきであるし,原判決が本件子会社2社の預金の額を考慮していることも誤りである旨主張する。
そこで検討するに,法人の各事業年度の所得の金額の計算において,金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入する際の判断枠組みは,原判決第3・1(2)アにおいて判示するとおりであり,その際に,債務者の資産状況,支払能力等もその要素として考慮すべきところ,その判断に当たって,債務者である本件子会社2社の売上高及び売上総利益の推移を一つの事情として判断することが誤っているということはできない。
控訴人は,売上総利益が直ちに返済に充てられるものではないとして原判決を批判するが,原判決も,売上総利益の全額を債権者への支払に充てることを前提に判断しているものではなく,売上高や売上総利益の推移のほか,預金額や借入額の推移,債権者数,債権者が控訴人及びその子会社のみであること等を踏まえて、本件子会社2社の資産状況や支払能力等を判断しているものであり,控訴人の批判は的確なものとはいえない。しかも,証拠(乙8ないし12,16ないし18)によれば,原判決第3・1(2)イ(ア)のとおり,本件子会社2社について,販売費及び一般管理費等を控除した税引後の当期純利益の推移についてみても,Bについては,平成16年12月期から平成20年12月期まで毎年利益が計上されており,Aについては,平成16年12月期から平成18年12月期までは利益が計上されており,平成19年12月期及び平成20年12月期について,損失が計上されているものの,平成19年12月期は特別損失を計上したことが損失計上の要因となっていると認められるから,販売費及び一般管理費を控除したとしても,原判決の判断に影響を与えるものとはいい難い。
また,預金についても,会社にとって重要な資産であることは明らかであって,これを直ちに返済に充てることができるか否かはともかく,本件子会社2社が一定額の預金を保有していることをもって,資産状況や支払能力等の判定の考慮要素とすることが誤りとはいえない。
したがって,この点についての控訴人の主張は理由がない。
(イ) 本件子会社2社の財務改善について
a 控訴人は,原判決が,本件計画中の製造会社3社の数値目標である改善額をもって,数千万円規模の財務改善が見込まれていると判示しているが,前記改善額は飽くまで目標にすぎないのであり,これをあたかも実績値のように採用している点で誤っていると主張する。
しかしながら,本件計画の作成経緯は,原判決第2・2(2)ないし(5)に判示するとおりであり,控訴人がC銀行からの財務改善要請を受け,C銀行の推薦した経営コンサルタント会社の一つである(乙40)E社へ委託して財務改善計画書第1案を作成し,その後,C銀行からの指摘を受けて内容を再検討し,第2案を作成したが,更にC銀行の意向を踏まえて同最終案を作成し,C銀行を含めた全ての取引金融機関の了承を得たものである。したがって,控訴人の財務改善計画は,経営コンサルタント会社が関与し,C銀行を含む全ての取引金融機関も了解したものであって,客観的な資料に基づいて策定された相応の根拠のあるものとうかがわれるから,本件計画の数値目標を本件債権放棄時における見込み額として考慮することが誤りということはできない。
b また,控訴人は,原判決が,一方において,金銭債権の貸倒損失を法人税法上の損金に算入するには,当該金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならないと判示しながら,他方において,単なる計画ないし見通しにすぎない製造会社3社の集約計画の数値目標を財務改善計画の立案時までの財務の実績等の客観的事情と区別せずに判断の基礎に取り込んでおり,判断の枠組みと事実認定に食い違いがあるとも主張する。
本件債権放棄時における客観的な回収可能性の判断をするには,その時において既に発生している事実のみならず,将来にわたる財務改善の見込み等,事後の事実をも考慮することは必要なことであり,その際,将来にわたる財務改善の見込みについて,債権放棄の時点における相応の根拠のある数値によることが必要であるとはいえるものの,将来の改善見込み額を考慮すること自体が許されないということはできないものであり,そのような認定をしたことをもって,判断枠組みと事実認定の間に食い違いをもたらすということはできない。
そして,本件計画における財務改善見込み額が相応の根拠のあるものであることは前記aにおいて判示するとおりである。
c したがって,この点についての控訴人の主張を採用することはできない。
(ウ) C銀行の債権放棄要請の有無について
控訴人は,C銀行が債権放棄を要請していないと認定したことについて,原判決は,財務改善計画策定中にもかかわらず,控訴人自身の当座貸越残高を手形貸付けに変更し,当座貸越契約を解除されていること,本件債権放棄により,控訴人本体に生じる繰越欠損金の税効果を踏まえて本件計画上の返済計画が立案されていることを看過している点で誤っていると主張する。
しかしながら,控訴人主張に係る点は,証拠(甲6,45)からうかがわれないではないが,仮にそうした事実があったとしても,そうした事実は,C銀行が控訴人グループの財務改善を求めていたことを裏付けるものではあっても,本件債権放棄を求めていたことまで根拠付けるものということはできない。そして,この点について,C銀行が本件子会社2社に対する債権放棄を要請したことがなかったことは,原判決第3・1(2)イ(ウ)において判示するとおりである。
(エ) 本件債権放棄の対象となった債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったことについて
控訴人は,C銀行からの要求により,本件債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったから,C銀行からの要求を考慮せず,単に事業譲渡の当事者が子会社であることをもって,「債権回収に必要な労力等の債権者側の事情や経済的な環境等」について論じることはできないと主張する。
しかし,前記認定のとおり,C銀行から債権放棄の要請があったと認めることはできないから,債権の一部又は全部をDに債務として承継させることが許される状況になかったとの控訴人の主張は,前提において失当であって,採用し得ない。
イ 基本通達9-6-1(2)(特別清算協定認可の決定に係る貸倒損失)について
控訴人は,基本通達9-6-1(1)に関し,会社更生手続において,更生計画認可前に裁判所の許可を得て少額弁済を受ける代わりに当該弁済額を超える部分の金額について債権放棄を行う場合に,貸倒損失と認められており(甲37),特別清算手続における個別和解に基本通達9-6-1(2)が適用されないというのであれば,会社更生手続との相違や甲第37号証(国税庁の質疑応答事例)との関係について言及すべきであるにもかかわらず,原判決は,この点について何ら言及しておらず,理由不備の非難は免れないと主張する。
しかしながら,原判決は,原判決第3・1(1)イのとおり,会社更生法,民事再生法はもとより特別清算の法的整理の手続において更生計画認可,特別清算協定認可等裁判所の決定に基づき法人の有する金銭債権が消滅する場合には,当該債権の消滅に係る協定及び計画の内容の合理性が法令の規制及びこれに係る裁判所の審査と決定によって客観的に担保されている一方,特別清算手続における個別和解について,そのような法令の規制及び裁判所の審査と決定を欠いている旨の判示をしており,会社更生手続における債権の消滅と特別清算手続における個別和解との相違について判断していることが明らかである。
そして,原判決の前記判示は,会社更生手続及び特別清算手続の個別和解に関する法令に照らし相当なものであるから,控訴人の主張は的外れというほかない。
(2) 争点(2)(本件債権放棄額が寄付金の額に該当するか否か)について
ア 基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について
(ア) 控訴人は,本件計画書が客観的に合理的であるとの判断が前提において誤っており,このような事実誤認に基づいて,本件子会社2社が倒産の危機にあったといえないとの判断は重大な事実誤認であると主張する。
しかしながら,本件計画が客観的に合理的なものであることは,前記(1)ア(イ)aにおいて判示するとおりであり,これを踏まえて,本件子会社2社が倒産の危機にあったとは認められないとした原判決の判断が誤っているということはできない。
(イ) また,控訴人は,乙第50号証の検討項目に沿ってみても,本件債権放棄は合理性を有していると主張する。
そこで検討するに,乙50号証は,国税庁作成に係る子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等であり,控訴人が主張するフローチャート(乙50の14枚目)は,再建支援等事案の事前相談に係る検討事項の概要を示すものであって,そのような記載内容に照らし,前記質疑応答事例等が,本件訴訟において本件債権放棄の合理性を判断する基準として的確なものか否か疑問の余地がある。
この点を措くとしても,前記認定のとおり,本件債権放棄について,本件子会社2社が経営危機に陥っているとはいえないこと,支援者たる控訴人にとって損失負担等を行う相当な理由があるとはいえないこと等の事実からすると,乙50号証に沿って検討しても,本件債権放棄が経済合理性を有しているとはいえない。
したがって,この点の控訴人の主張には理由がない。
イ 基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について
控訴人は,本件債権放棄が時期的に事業譲渡や旧会社についての清算手続の開始後であることをもって,基本通達9-4-2にいう「再建」に当たらないと判断するのは形式的すぎるとし,書籍(乙48)においても,本件と同様の方式の場合に,基本通達9-4-2の適用を認めている旨の主張をする。
しかしながら,前記書籍は,本件のような子会社の解散後に親会社が子会社に対する債権放棄をする場合について,基本通達9-4-2の適用がある旨を述べているものではないから,前記書籍を根拠とする控訴人の主張は理由がない。
2 控訴人はその他種々主張するが,いずれも前記認定及び判断を左右するものではない。
第4 結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 深見敏正
裁判官 吉田尚弘
裁判官 餘多分宏聡