住居侵入・窃盗・事後強盗

                       弁護士 岡本 哲

  2009年1月24日配信の毎日新聞記事である。容疑者の名前が匿名なのは傷害の動機が
理解不能なので、精神障害者の疑いがあるからであろうか。

  1月24日午前3時ごろ、東京都(省略)のアパートで、30代の女が隣の部屋に
侵入、帰宅した世帯主の20代の女性と口論となった。女は自宅に戻って包丁(刃渡り
約17センチ)を持参し、女性の手を切るなどした。女性は手などに軽傷。女性が駆け
込んだコンビニエンスストアの店員からの通報で駆けつけた警視庁世田谷署員が女の身
柄を確保。同署は傷害容疑で逮捕する方針。

 同署によると、女は合鍵を使って女性宅に侵入。携帯電話を充電していたとい
う。女性が帰宅時に「経済的に苦しいので勝手に充電しました」と申し出、口論になっ
たという。

 同署の調べに「電気代を浮かせるために侵入した」と供述しているという。

  刑法の問題として出題されたとして考えてみよう。
  住居侵入について成立するか。被害者の明示的同意はないが、カギをもってい
た経緯によっては平穏な態様といえないこともないし、窃盗目的だとしても電気窃盗の
みがほんとうに目的ならば違法性がたりないのではないか、という問題もある。

  携帯電話の充電を他人のところでやった場合、窃盗罪が成立するのか。電気は
窃盗罪の客体たりうるか、電気は物か、(一般常識ではエネルギーであって、物とは有
体物--一定の体積をしめるものという通常の理解と異なる判決となった)ということで
刑法総論の罪刑法定主義の類推解釈の禁止のところで大審院判例とともに紹介される。
立法的には電気に関しては窃盗罪に客体とする明文ができたので解決ずみである。それ
でも電気以外のエネルギーについては有体物説では無罪、管理可能性説では有罪となる
ので解釈がわかれている。本件についてはとくに問題はない。
  ただ、携帯電話充電のためだというと電気料金としては数円レベルのはなしなので違法性がかけないか、という問題がある。これまた刑法総論の違法性のところで一厘事件などを勉強することになる。
  さらに窃盗後の傷害であるから事後強盗も問題たりうるが、これは窃盗の機会におこなわれたと解するのはちょっと無理であろう。

  なお、逮捕前の供述をもとにしているので、警察・検察での供述がどうなるか
によって罪責はけっこうかわってくる。本当は物品の窃盗目的だったがものがなかった
だけかもしれないし、傷害も過去にいろいろな経緯があったのかもしれないし、被害者
が実は留守番をたのんでいたのに、それを忘れてしまった(認知症があるような場合)と
かまでありうるわけである。

  なお、携帯電話充電のためだけであれば、公共施設のコンセントるあのところ
でこっそりやってしまうことはほとんど可能なのではないだろうか。わざわざ隣でやる
ことはないので(病気とかで移動ができない状態とかもありうる)このいいわけはちょっ
と不自然不合理とおもっている。

  これでおもいだしたことがある。筆者はパソコン通信時代(1980年代~2000年
くらいか?)からパソコンにふれている。 パソコン通信(死語になってしまったか)で電話料金通
信料金が高い時代--15年くらい前までは、他人の住居にいってモジュラージャックがあると勝手にパソコンをつ
なぐというようなこともあったらしい。これは被害額がおおきいけど、ぬすんだのは電
気ではなく情報とするのであろうか。やはり電気とするのであろうか。