旧司法試験論文式 刑法 平成13年解答例

行為無価値の通説・判例ライン 団藤・大塚・大谷のラインであっさりつくっています。

条文しかない六法が配布されます。わかりやすくするため使う条文については問題文のあとにつけてみています。

 

 

第1問

 

 甲は、酒癖が悪く、酔うと是非善悪の判断力を失い妻乙や二人の間の子供Aに暴行を加える事を繰り返しており、そのことを自覚していた。甲は、ある日、酒を飲み始めたところ、3歳になるAが台所で茶わんを過って割ってしまったことを見とがめ、Aの顔を平手でたたくなどのせっかんを始めた。甲は、しばらく酒を飲みながら同様のせっかんを続けていたところ、それまで泣くだけであったAが反抗的なことを言ったことに逆上し、バットを持ち出してAの足を殴打し重傷を負わせた。甲は、Aが更に反抗したため、死んでも構わないと思いつつAの頭部をバットで強打し死亡させた。乙は、その間の一部始終を見ていたが、日ごろAが乙にも反抗的な態度をとることもあって、甲の暴行を止めようとはしなかった。甲については、逆上しバットを持ち出す時点以降は是非善悪の判断力が著しく減退していたとして、甲及び乙の罪責を論ぜよ。

 

39条 1.心神喪失者の行為は、罰しない。

2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

(共同正犯)

60条二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

621.正犯を幇助した者は、従犯とする。

2.従犯を教唆した者には、従犯の刑を科す

 

199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

第2問

 製薬会社の商品開発部長甲は、新薬に関する機密情報をライバル会社に売却して利益を得ようと企て、深夜残業中、自己が管理するロッカー内から新薬に関する自社のフロッピーディスク1枚を取り出した上、同じ部屋にあるパソコンを操作して同ディスク内の機密データを甲所有のフロッピーディスクに複写し、その複写ディスクを社外に持ち出した。その後、甲は、ライバル会社の乙にこの複写ディスクを売却することとし、夜間山中で乙と会ったが、乙は、金を惜しむ余り、「ディスクの中身を社内で確認してから金を渡す。」と告げて、甲からディスクを受け取って自己の車に戻り、すきを見て逃走しようとした。乙は、車内から甲の様子を数分間うかがっていたが、不審に思った甲が近づいてきたことから、この際甲を殺してしまおうと思い立ち、車で同人を跳ね飛ばし谷底に転落させた。その結果、甲は重傷を負った。

 甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。

 

第1問

第1 甲の罪責

一 まずは構成要件行為ごとに検討する。

1 甲がAの顔を平手でたたき続けた行為は不法な有形力を他人に対して行使しているので暴行罪(208条)の構成要件に該当する。わが子のそそうをしたことに対するせっかんとしておこなっているので、民法上の親権・監護権の行使として刑法35条により違法性阻却が問題たりうるが、3歳になる程度のおさない人間に体罰が功を奏するわけもないので、違法性阻却はない。責任阻却事由も特に異常酩酊におちているような事情もなく特に存在しない。暴行罪が成立する。

2 甲がAの足を殴打し重傷を負わせた行為は傷害罪(204条)の構成要件に該当する。バットによる殴打は懲戒権行使としても行き過ぎは明らかであり、違法性阻却事由はない。

 責任については、バットを持ち出して以降の行為時には、是非善悪の判断力が著しく減刑する心神耗弱状態にあり、刑法39条2項により必要的減刑となる。

3 甲がAを、死んでも構わないと思いつつ、Aの頭部をバットで強打し死亡させた行為につき殺人罪(199条)の構成要件に該当し、刑法39条2項の適用がある。

 そして、これら暴行罪と傷害罪は、殺人罪と被害者が同一であり時間的場所的に接着してなされているので殺人罪に吸収される。

二、甲は酒癖が悪く酔うと是非善悪の判断力を失うことを自覚してAのそばで飲酒に及んおり、酩酊及び責任能力低下について、自己の行為が原因となっている。かかる場合にも完全な責任を問い得ないとすると国民の法感情に反することから、いわゆる原因において自由な行為の理論により完全な責任を問えないか問題になる。

   まず、行為時に責任能力を判断するの同時存在の原則は維持されるべきである。責任の前提として責任能力が要求されるのは、責任能力ある段階での意思決定に基づき犯罪を実現しているときに初めて非難が可能だからである。

    とすれば、結果行為時に限定責任能力の状態であっても、結果行為が責任能力ある時点での意思決定の実現過程といえる場合には完全な責任を問えると解する原因において自由な行為論はとりえない。

 自己の行為を道具としておこなう間接正犯類似行為として考え、利用行為自体に責任があれば責任能力を問いうると考える。この場合過失犯については定型が緩いので、暴行の故意がある時点で完全責任能力があれば傷害罪の傷害部分は過失犯であるから完全責任能力となる。

  本件で、甲が酒を飲み始めて暴行を開始した時点においては、甲は殺人の故意を有していなかったが暴行の故意はあるから、原因行為から傷害の結果行為にについて暴行を利用した間接正犯が成立している。よって傷害については刑法39条2項の適用はない。しかし、殺人については故意もなく、自己の責任能力低下した行為の利用意思もないので間接正犯類似構造もない。

三 以上から、甲に殺人罪が成立し、刑が必要的に減軽される。

第二 乙の罪責

  乙が甲のAに対する殺人を止めようとしなかった点につき、殺人罪が成立しないか。

  乙は甲のA殺害の一部始終を見ていたという行為態様であるから、共同正犯あるいは@同時犯・幇助犯(62条1項)のいずれに問擬すべきか。

 この点、片面的共同正犯は求められないと解する。刑法60条は実行行為を共同するものであって双方の共謀があってしかるべきだからである。また、自己の犯罪として行為をした場合には正犯となり、他人の犯罪に加功したにすぎない場合には幇助犯となると解するが、本件では、乙は、Aに対する殺人に関して、甲の犯行を見ていただけであって、何ら重要な役割を演じたとはいえないから、自己の犯罪として行為をしたとはいえず、甲の犯罪に加功したにすぎないといえる。幇助については片面的にもなしうると解する。62条の文言上定型がゆるやかだかれである。

  殺人罪の幇助犯を検討することになる。

では、乙に殺人の幇助犯は成立するか。乙は甲の行為を見ていたにすぎず、何ら作為を行っていないことから不作為による幇助の可罰性が問題となる。

  この点、幇助とは実行行為以外の方法で正犯の行為を促進することをいうところ、不作為によっても正犯の行為を促進することは可能であるから不作為も幇助たりうると解する。

  もっとも、あらゆる不作為が幇助にあたるとすると元々不定型な幇助の範囲がますます不明確となり罪刑法定主義(憲法31条)に反するおそれがある。作為による幇助と構成要件的に同価値の不作為のみが幇助たりうると解すべきである。具体的には①作為義務があり、②作為の可能性・容易性が必要と解する。

 本件では、まず、乙はAの母親であるから、Aに対する監護義務(民820条)があり、また、その場には、甲の他には乙しかおらず、甲の生命は乙に依存していたといえる。とすれば、甲の行為をやめさせようとする作為を行う義務があったといえる(①充足)。

 また、自ら甲を止めることは困難であったとしても、外に出て人を呼んだり携帯電話等で110番通報をする等と言った作為を行うことは容易かつ可能であったといえる(②充足)。 よって、乙に殺人罪の幇助犯(62条1項、199条)が成立する。

以上

 

第2問

(司法試験の刑法なので不正競争防止法が除外されていますが、実務的には10年以下の懲役又は2000万円以下の罰金ということで、情報流出が立証できる場合は横領より不正競争防止法違反のほうが使いやすいものです。本件では情報が具体的に流出しているのか不明なので、刑法上の犯罪を論ずる実益は一応ありますが。)

第一 甲の罪責

一 甲が会社の機密情報を管理規約に背いてもちだした行為は、情報自体は物ではなく占有されるものではないので、物に対する占有を保護する窃盗罪(235条)にはあたらない。

二 甲が機密情報のはいったディスクを管理規約に背いて社外に持ち出した行為は、ディスクに財物性があるため、窃盗罪又は横領罪または背任罪が問題たりうるが、業務上横領罪(253条)が成立すると解する。

 窃盗か横領・背任かで、本件のディスクの占有が製薬会社にあるのか甲にあるのかであるが、甲にあると解する。上下関係がある場合は原則として上の者に占有が認められるが、高度の信頼関係がある場合は下の者に占有が認められる。甲は商品開発部長であり、高度の信頼関係があるので占有が認められる。

 横領か背任かであるが、甲のおこなった行為が領得行為であれば横領であるので領得行為か否かを検討する。

 領得行為は委託の趣旨に背いて所有者でなければできないことをすることであり、機密情報のはいったディスクを情報をとりだすために持ち出すことは、この所有者でなければできないことをおこなっているので領得行為といえる。したがって背任罪でなく横領罪の成立しうる。

 甲は商品開発部長であり、金銭その他の財物を委託を受けて保管することを職務の内容としているから、業務性は認められる。

 複写ディスクの乙への売買約束については業務上横領罪の不可罰的事後行為である。

三 以上より、甲には業務上横領罪が認められる。

第二 乙の罪責

一 甲の業務上横領の客体である複写ディスクを売買を約束して譲り受けた行為は、盗品有償譲受罪にあたる(256条2項)。

 中身の確認を実際は売買代金を支払わずに逃走する目的を隠して受け取った行為は、詐欺罪(246条)にあたらないか。 

 甲の行為は不法原因給付(民法708条)にあたるが、詐欺行為がなければ交付しなかったのであり、財産上の損害はあるので、詐欺罪成立に支障はない。

二 乙甲を車で跳ね飛ばした行為は強盗殺人未遂罪(240条後段・243条)にあたると解する。

 甲は返還請求権を行使していないし、免除する処分行為をしていないが、強盗利得罪成立には詐欺の場合と異なり処分行為は必要ないと解する。なぜなら、奪取罪である強盗においては被害者の処分行為をなしえないほどの意思抑圧は予想されるものだからである。本件では殺害行為であり、被害者の犯行を抑圧する程度の暴行といえる。

 そして殺意をもって強盗行為をおこなう場合については強盗殺人罪であり、殺人が未遂の場合は同罪の未遂罪が成立すると解する。そうしないと、殺意のない場合と刑の不均衡が生じること、結果的加重犯のみの規定の特徴である因っての文言が存在しないからである。

三 以上より乙について盗品有償譲受罪・詐欺罪・強盗殺人未遂罪が成立するが、詐欺罪は強盗殺人未遂罪に吸収されるので、結局盗品有償譲受罪・強盗殺人未遂罪が成立し、両者は併合罪となる。

以上

 (平成23年の不正競争法改正後は実務的には甲は不正競争防止法違反だけ、乙は強盗殺人未遂だけでやりそうではあります)