窃盗,道路交通法違反,傷害致死被告事件で生後3カ月の4男生後1歳3カ月の長女を虐待死亡について懲役9年のさいたま地裁平成17年判決

量刑については現在も参考になると思われます。

責任能力などの事実認定については判例秘書をごらんください。

 

 

【事件番号】 さいたま地方裁判所/平成16年(わ)第654号、平成16年(わ)第798号、平成16年(わ)第937号

【判決日付】 平成17年5月20日

【判示事項】 被告人は,飲酒の上,長女が泣き止まないことに腹を立て,同女を両手で持ち上げ,多数回前後に激しく揺さぶり,頭部を強く動揺させた上,数回にわたり布団の上に座らせて手を離し,転倒させて頭部を布団や畳に打ち付けさせるなどの暴行を加え,急性硬膜下血腫の傷害を負わせ,市内の病院において,上記の傷害により,死亡させた事案につき,常日ごろの惰性で酒に溺れる生活と長期間にわたる家庭内暴力の末に未必的に犯された犯行であるとして,懲役9年を言い渡した

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  被告人を懲役9年に処する。

  未決勾留日数中360日をその刑に算入する。(量刑の事情)

  本件は,被告人が,平成13年1月に生後3か月の四男を,平成15年6月に生後1歳3か月の長女をそれぞれ虐待して死亡させた2件の傷害致死(判示第1及び第2)のほか,平成16年1月末から同年2月初めにかけて窃盗(判示第3)及び無免許・酒気帯び運転(判示第4)の各犯行を敢行した事案である。

  まず,傷害致死の各犯行についてみるに,被告人は,酒を飲んでは仕事を休み,自分の境遇やふがいなさにいらだちを募らせて,妻子に日常的に暴力を振るうような生活を続けていたところ,各犯行の際も,幼い我が子の泣き声で昼寝を妨げられ,あるいは,泣く子をあやしても泣きやまないことにいらだち腹を立てて,こともあろうに,生後3か月又は1歳3か月の乳幼児に対し,ベビーキャリーごと床に投げ落とし,身体を執ように激しく揺さぶり,独り座りもできない乳幼児を無理に座らせて畳や布団の上に頭から転倒させるなどの暴行を相次いで加え,脳挫傷,急性硬膜下血腫,くも膜下出血といった傷害を負わせて,死に至らせているのである。

  このように,その犯行態様は,抵抗しようのない乳幼児に対して,無慈悲にも,一方的に致命的損傷を与え得る苛烈な暴行を執ように加えた残忍かつ凶悪なものであり,その動機ないし経緯も,自己のいらだちやうっぷんを,最も身近で抵抗力のない被害者らにぶつけるという身勝手極まりないもので,酌量の余地などありようはずがない。しかも,被告人は,父親として被害者を保護すべき立場にあったのに,その自覚を根本から欠いて,安易にも幼気な我が子をうっぷん晴らしの対象としているその姿勢は,厳しい非難に値する。とりわけ,被告人は,判示第1の犯行後,虐待を疑った担当医から,「子供の脳は豆腐のように柔らかいから,少しの衝撃でも,血管が切れて出血することがある」と警告されながら,性懲りもなく再び同じ罪を犯して,何の罪もない我が子の生命を奪っているのであり,この種事犯の累行性さえうかがわれ,自力による更生も困難とみるほかはない。

  そして,結果も誠に重大である。被害者らは共に,未熟児として生まれながら,特に長女は生来の障害のために2回の心臓手術に耐えるなどしつつ,懸命に生きていたにもかかわらず,わけもなく父親からいきなり苛烈な暴行を受けて,脳に重大な損傷を負い,長女は約5時間後,四男は約50日後に,いずれも医療関係者等の手厚い看護も空しく一命を落とし,理不尽にもその将来を奪われているのである。さらに,本件が被害者らの3名の幼い兄弟に与える影響も懸念されるところであり,事件後に離婚した被告人の妻やその母親らが,被告人に対する可能な限りの厳しい処罰を希望しているのは当然である。

  そのうえ,被告人は,いずれの犯行後も,妻に口止めをし,担当医師らに対して虚偽の説明をするなど,犯罪の隠蔽を図っており,また,捜査段階ではいったん罪を認めながら,公判に至るや,責任回避の姿勢に転じているのであって,犯行後の情状も劣悪である。また,本件は,児童虐待が多発する近時の社会状況において,父親が我が子を2人も虐待により死亡させたという衝撃的な事件として広く報道されるなど,その社会的影響も少なくないところ,この種事犯の発覚が一般に困難であることに照らすと,一般予防の観点も軽視することはできない。

  更に加えて,被告人は,飲酒の影響により,我が子を2人死亡させた後も,行状を改めることなく,酒におぼれる怠惰な生活を続けて勤務先から解雇され,行き場を失った末に,偶然に鍵が付いたまま駐車中の自動車を窃取した上,無免許であるのに,飲酒しながら,その自動車を運転して,判示第3及び第4の各犯行に及んでいる。しかも,被告人は,平成7年に酒気帯び運転,平成8年に傷害,平成9年には酒気帯び運転の各罪でそれぞれ罰金刑に処せられ,平成11年5月11日には無免許運転の罪で懲役5月,3年間執行猶予に処せられているのであって(同月26日確定),判示第1の犯行は,その執行猶予期間中,その余の各犯行も,その期間満了からわずか1年ないし1年8か月後のもので,被告人の規範意識の鈍麻は甚だしく,犯罪性向も目に余るものがあるというほかない。

  そうすると,被告人の刑事責任は相当に重大といわざるを得ない。

  他方,判示第1及び第2の各犯行において,被告人には積極的で強固な加害意思までは認められず,被告人は,犯行後,119番通報するなど,被害児らを救護しようとしていること,判示第2の犯行については,被害児の心臓の手術歴やアスピリンの摂取が硬膜下血腫の拡大因子となった可能性があること,判示第3の被害品は,被告人が判示第4の犯行で現行犯逮捕されたことにより,被害者側に還付されていること,被告人が,判示第3及び第4の犯行については素直に認め,判示第1及び第2の事実についても,自己の関与自体は認めて,それなりに反省の態度を示していること,被告人の父親が,当公判廷に出廷し,被告人が今後アルコールを断つことに協力する旨述べていること,被告人の母親と弟が当裁判所あてに寛大な処分を望む旨の上申書を提出していること,その他被告人のために酌むべき事情も認められる。

  しかしながら,本件各傷害致死における,被告人の常日ごろの怠惰で酒におぼれる生活と長期間にわたる家庭内暴力の末に必然的に犯されたともいえる犯行に至る経緯,2名の無垢な我が子の命を失わせた結果の重大性,被告人の根深い犯罪性向等を考えると,本件には厳格な態度をもって臨まざるを得ず,これら諸事情を総合考慮すると,被告人に対しては懲役9年の刑に処するのが相当である。

  よって,主文のとおり判決する。

     さいたま地方裁判所第二刑事部

     (裁判長裁判官 中谷 雄二郎, 裁判官 蛯名 日奈子, 裁判官 高嶋 由子)