公認会計士が苦戦した租税法平成22年司法試験論文式問題

             弁護士 岡本 哲

 現在事務所の引っ越し準備で書庫を整理している。『受験新報道』も20世紀のものは2008年の引っ越し時に処分しており、2001年から残っている。2011年のなかで当時現役の公認会計士が仕事をしながら法科大学院にかよっていたが、租税法の2010年の司法試験で苦戦し、2011年に合格するまでのはなしがある。

いまある規範を疑わない公認会計士だと第2問は困難だったのかもしれない。

とりあえず問題文・出題趣旨・採点実感を引用しておく。みなさん、解答できますか?

2時間で各問1000~1500字程度だがもっと簡潔なものでも合格しているようである。

 

[租税法]

〔第1問〕(配点:50)

Aは,生計を一にする妻B及び子Cと同居し,飲食店を営む青色申告者である。

Aは,毎日夕方の開店から閉店までの間は,Cに調理の手伝いをさせる一方,Cに調理師の資格を得させてAの飲食店で調理師として働かせるため,昼間は,調理師専門学校に通わせていた。Aは,Cに対し,調理の手伝いに見合う給与のほか,調理師専門学校の授業料相当額を,学資金だと伝えて支払っていた。Cは,学資金名目の金員を調理師専門学校の授業料に充てていた。また,Bは,ピアノの演奏や教授を業としていたが,週末等時間に余裕があるときに,Aの飲食店で,ピアノの演奏を行い,その都度,Aから演奏料を受け取っていた。

Aが雇い入れた従業員甲は,自分の借金の返済などに窮したため,飲食店の売上金200万円を持ち逃げして,すべて使い果たした。

以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

〔設問〕

1⑴ Cが支払を受けた調理師専門学校の授業料相当額の学資金名目の金員は,Cの課税上,どのように取り扱われるか。

AがBに支払った演奏料は,A及びBの課税上,どのように取り扱われるか。

2⑴ 甲の窃盗によりAが失った飲食店の売上金200万円は,Aの課税上,どのように取り扱われるか。

飲食店がAの経営する法人であり,甲がその役員であったとして,甲が飲食店の売上金200万円を横領して,すべて使い果たした場合,法人税の課税関係はどうなるか。

 

〔第2問〕(配点:50)

イタリア料理のレストランを経営する個人事業者であるXは,所轄のY税務署長から青色申告の承認を受け,青色申告書により所得税の確定申告を行っていた。

平成21年分の事業所得につき,Xが確定申告書を提出したところ,所轄税務署の担当職員Aは,経費の過大計上を疑い,Xのレストランにおいて臨場調査を行った。Aが平成19年分から同21年分まで(以下「本件各年分」という。)の帳簿書類の提示を求めたところ,Xは,机上に帳簿書類を積み上げ,「このとおり,帳簿書類はきちんと記録して保存してあるが,今は忙しいので見せられない。」と述べて,その提示をせず,その後の調査日程の調整にも言を左右にして応じなかった。その後,Aは,再びXのレストランに出向いて本件各年分の帳簿書類の提示を求めたが,Xは,前回と同様に,多忙などを理由に帳簿書類の提示をしなかった。他方,Xは,その後,繰り返しAに電話をして,顧問税理士を探しているところであるから待ってほしい旨を述べた。Aは,そのいずれの際にも,Xに対し,税理士の選任は別として,帳簿書類を提示するよう求めたが,Xは,「税理士が決まるまで待ってほしい。」あるいは「準備中でありもう少し待ってほしい。」などと答えた。その後,AがXのレストランに出向いて尋ねたところ,Xは,「良い税理士がいないので,税理士に依頼するのはやめた。」と述べた。その際,Aは,繰り返し本件各年分の帳簿書類の提示を求めたが,Xがやはり言を左右にしてこれに応じなかったので,Xの帳簿書類の内容を確認することはできなかった。そこで,所轄のY税務署長は,Xに対し,青色申告承認取消処分を行うとともに,本件各年分の所得税の更正処分を行った。

所轄のY税務署長は,上記更正処分において,Xが経費として計上していた金額は虚偽のものであるとした上で,経費の額について推計により算定した金額を用いて処分を行っている。その推計の方法は,Xのレストランの所在地と同市内でイタリア料理のレストランを経営している個人事業者で青色申告書を提出している者の中から,従業員数とテーブル数を基準にXと同規模のレストランを経営していると認められる者4人を抽出して,その収入金額に対する経費の額の割合の平均値を採って,Xの申告した収入金額に乗じて経費の額を算出するというものであった。

以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

〔設問〕

青色申告制度の趣旨と概要について,簡潔に説明しなさい。

Xに対する青色申告承認取消処分の適否について,根拠となる所得税法の規定に言及しつつ,具体的に論じなさい。

推計課税が認められている実質的な根拠とそれが認められる要件について,簡潔に説明しなさい。

Xに対する推計課税の適否について論じなさい。

 

 

平成22年司法試験論文式[租税法]出題趣旨

租税法の出題に関しては,これまでと同様に,所得税法を中心とし,これに関連する範囲で法人税法及び国税通則法を含む,基本的な理解を問う出題としている。

〔第1問〕

本問題は,家族的事業についての課税の在り方を通じて,所得税法の基本的な理解と応用力を試すものである。

まず,設問1(1)は,父親Aから子Cに支払われた学資金名目の金員について,授業料に充てられていた上記金員はCの所得に当たるのか,所得税法第9条第1項第14号の学資金又は扶養義務の履行に該当するとして非課税となるのか,若しくは給与となるかをを踏まえて多角的に検討する問題である。

また,給与とした場合には,家族内の費用支出の取扱い(所得税法第56条)につい及も必要となる。この論点は,さらに,設問1(2)で,ピアノ演奏等を業としている妻Bに

対する演奏料について所得税法第56条,第57条の適用があるかを,判例(最判平成16年11月2日判時1883号43頁)にも照らして検討することが求められている。

設問2は,他人の窃盗によって失った金銭は,所得税において,どのように取り扱われるのか,特に,事業上必要な資産を盗まれた場合はどうかを検討する問題であり,所得税法第37条,第51条,第72条に当たるかが問われている。設問2(2)においては,Aが経営する飲食店が法人であった場合を対比させており,法人税法における損害賠償請求権が両建てされることや,所得税とは損失の取扱いが異なっていることにも言及することを期待している。なお,このような場合に損害賠償請求権が貸倒れになるのかについても適切に論述することが期待される。

〔第2問〕

本問題は,青色申告制度の趣旨及び概要並びに青色申告の承認の取消し,並びに推計課税制度の根拠,趣旨及び概要について,それぞれ,基本的な理解を問うとともに,具体的な事例への適用能力を問うものである。

設問1では,青色申告制度についての基本的知識が問われており,青色申告制度の趣旨のほか,その概要として,青色申告の承認及びその取消し,青色申告者の特典と義務についての基本的な知識が問われている。また,設問2では,青色申告承認の取消事由(所得税法第150条第1項)を本問の事案に即して検討することが求められており,各号が掲げる取消事由の意義を踏まえた合理的な論述が求められているが,本問の事例のように,帳簿書類を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合については判例(最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁)があり,この判例の理解とその内容への適切な言及が期待されるところである。

また,設問3及び設問4は,推計課税についての理解を問うものであり,推計課税が認められる根拠と所得税法第156条について言及することと,推計の必要性と推計の合理性という推計課税の認められる要件について整理して論述することが期待されるところである。さらに,本問の事例について,推計の必要性と推計の合理性が認められるかを具体的に検討することが求められている。

 

 

採点実感

平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)

第1問について

第1問は,家族的事業についての課税の在り方を通じて,所得税法の基本的な理解

と応用力を試すものであり,子の授業料に充てられた金員が非課税となるのか,妻に

対する演奏料支払が必要経費となるかなどについて,設問2は,他人の窃盗によって

失った金銭は,所得税において,どのように取り扱われるのかについて,やはり基本

的な理解と対応力を問うものであった。

このうち,第1問については,まず,設問1の学資金について,所得税法第9条の

非課税規定を挙げる答案が少なかった。最近の最高裁判所が,定期金について,相続

税の課されるものとして同法第9条の非課税規定を適用しており,同法第9条の重要

性を再認識してもらいたい。また,学資金について,直ちに,給与として,同法第5

6条及び第57条の問題として議論する答案が非常に多かった。採点に当たっては,

同法第9条適用の可否に触れないまま給与とした答案にも一定限度で加点したが,こ

の点を丁寧に論じている答案とは差が付くことになった。同様に,設問2で所得税法

第72条の雑損控除規定を挙げた答案とそうでなかったものとの間にも差が生じてお

り,所得税法に対する基本的な理解が答案の内容に反映されたと実感している。法人

税法との比較についても,正確に答えている答案は少なく,差が付く結果となった。

なお,設問1では,所得税法第56条,第57条の適用につき,判例(最判平成1

6年11月2日判時1883号43頁)に照らして検討することが求められているが,

これらの規定に触れた答案は,おおむね検討ができており,基本的な判例に対する理

解は涵養されていると思われる。他方で,同法第56条が「ないものとみなす。」と

規定している意味を理解しない答案も散見され,基本的知識を具体的事案に適用する

訓練が不十分な受験生が一定程度存在することも実感されたところである。

全体として,受験生が比較的正しく理解できている問題と,誤っていたり不十分な

理解が目立つ問題とが明白に分かれており,受験生の実力の差を測るという意味で,

出題内容のバランスはとれていると感じた。

第2問について

第2問は,青色申告制度の趣旨及び概要並びに青色申告の承認の取消し,並びに推

計課税制度の根拠,趣旨及び概要について,それぞれ,基本的な知識を問うとともに,

具体的な事例への適用能力を問うものであった。

課税実務上しばしば問題となり,判例も集積している論点に関する問題であり,全

体的な印象としては,出題の意図を外した答案は少なく,出題時に予定していた解答

水準を満たす内容の答案が多かったと評価できる。

ただし,青色申告の承認の取消しについて,所得税法第150条第1項第1号該当

という正解を述べたものは,予想外に少数であり,これに関する判例(最判平成17

年3月10日民集59巻2号379頁)を知らないと思われるものが大半であった。

そこで,採点に当たっては,同項第2号又は第3号該当という見解を述べた答案につ

いても,論理的に記述されているものについては一定限度で得点を認めるとともに,

同項第1号該当という正解を述べたものには加点をすることとした。基本的な判例の

更なる理解が望まれるところである。

また,推計課税の適否について,所得税法第156条は挙げていても,「推計の必

要性」と「推計の合理性」という二つの要件を整理して過不足なく記述しているもの

は,予想より少なかった。さらに,一般的な記述と具体的な事例への適用に関する記

述との間にずれや食い違いが見られる答案が散見された。単に基本的用語の知識を得

ることを目標とするのではなく,判例等の基本的事案を通じて,実践的にこれを理解

し,具体的な事例に論理的に適用する能力を涵養することが望まれる。