以上のとおり,Bが株式保有特定会社に該当するか否かを判断するに当たり,租税回避行為の弊害の有無を考慮要素とした原判決の判断は誤りである。

    オ Cと極めて高い割合で株式を持ち合っているBが発行する株式の価額を類似業種比準方式により適正に評価することはできないことについて

    (ア) 株式の価額は,会社全体の資産に対する割合持分的な価値を表するものであるが,極めて高い割合で株式を持ち合っている2社の個人株主の相続の場合には,相続した株式の価額に持合株式の価額を反映させる必要がある。すなわち,このような場合,当該個人が当該2社を実質的に支配しているにもかかわらず,当該2社の発行済株式数に対する当該個人株主が保有する株式の割合が低い水準にとどまっている結果,当該個人株主の所有株式を評価するに当たっては,計算上は持合株式に帰属することとなる両社の企業価値についても,当該個人株主の保有する株式の価額に適正に反映されるように評価する必要がある。

     (イ) これを本件についてみると,Bの発行済株式864万株のうち645万3400株(約74.7%)をCが保有し,その余の株式を亡A及び本件相続人ら(以下,これらを併せて「本件同族関係者」という。)並びにF株式会社ほか1社(以下,この2社を「本件関係会社」といい,これと本件同族関係者とを併せて「本件個人等株主」という。)が保有しているが,本件個人等株主が保有する株式は218万6600株にすぎず,さらに,そのうちの206万8600株を本件同族関係者が保有している。この場合において,C株式の全てを本件個人等株主が保有していれば,Bの企業価値のうちCの保有する株数に相当する価値もC株式の価額を通して本件個人等株主の株式の価額に反映されるから課税上の問題は生じないが,本件の場合,Cの発行済株式198万株のうち165万9240株(83.8%)をBが保有し,それ以外の株主(いずれも本件同族関係者)が保有する株式は32万0760株にすぎない(議決権についてみれば,Bの議決権の94.6%,Cの議決権の100%を本件同族関係者が保有している。)から,本件各会社は,B株式218万6600株(発行済株式総数に占める割合は25.3%)とC株式32万0760株(同割合は16.2%)を保有する本件個人等株主により実質的に支配されているのであり,本件個人等株主は,本件各会社の企業価値の全部を保有しているといえる。したがって,本件各会社の企業価値は,結局,本件個人等株主が保有する株式の価値に収斂されるものというべきであり,相続税の課税においては,本件各会社の企業価値全体が,本件個人等株主の保有する株式の価額の総額として適正に反映されるよう評価されるべきである。

     (ウ) 原判決は,B株式を類似業種比準方式で評価した1株当たり4653円が相当であると判示しており,このことからすれば,原判決もB株式の時価総額,すなわち企業としての価値は,上記評価額に発行済株式数864万株を乗じた402億0192万円と見積もっているものと解される。しかるに,本件各会社株式の1株当たりの価額について原判決が判示した金額によれば,本件個人等株主が保有する株式の総額は,①B株式については,1株当たり4653円に本件個人等株主の保有株式数218万6600株を乗じた101億7424万9800円となり,また,②C株式については,1株当たり3万1189円に本件同族関係者の保有株式数32万0760株を乗じた100億0418万3640円となり,その合計額は約202億円にとどまるが,この価額は,上記B株式の時価総額である402億0192万円に遠く及ばない。このことは,本件各会社株式1株当たりの価額について原判決が判示する評価額が相当でないことを端的に裏付けるものである。

     (エ) 以上のとおり,本件各会社が,それぞれの発行株式の極めて高い割合を相互に持ち合い,その余の株式を保有する本件個人等株主により支配されているという特殊な事情がある本件においては,その持合株式の価額に相当する価値が本件個人等株主の保有する株式の価額に包含されているということができ,その評価においては,その価値が適正に反映されるべきであるから,B株式の評価について原判決が採用した類似業種比準方式は,上記の持ち合い状態を踏まえた本件各会社株式の価額を適正に評価できないものであって,同方式による評価額は著しく不当に低いものとなり,課税上の弊害が大きい。

    カ 本件判定基準は,本件相続開始時においてなお合理性を有するものであることは明らかであり,B株式については,評価通達189-3の定めによって評価するのが相当である。控訴人が原審以来主張する本件各会社株式の評価額は,上記評価通達が掲げるS1+S2方式によって評価したものであり,その結果としての価額は,相続財産たる株式の客観的交換価値を表するものとして合理的なものである。

   (2) 被控訴人らの主張

    ア 本件判定基準を一律に適用することが不合理であることについて

    (ア) 類似業種比準方式は,それ自体では市場取引価格がない株式につき,これを上場株式と比較することとして上場株式の取引所での取引価格を基に評価する方法であって,上場会社の企業価値が市場で評価された結果として,当該上場会社の株式の時価が取引所市場での取引価格に示されていることからすれば,そのような比較を適切に行えない事情がない限りは優れた評価方式であるといえる。そして,上場会社との比較において,評価会社が負債と差引でどれだけの資産を保有しているかも比較の要素とはなるが,評価会社が保有している資産が取得後どれだけ値上がりして含み益が生じているのかということは,当該資産を保有し続けている以上は,直ちに評価会社が企業として生み出す利益,ひいては評価会社の企業としての価値に影響するものではない。したがって,評価会社の保有資産の含み益が類似業種比準方式によって評価に直ちに反映されないことにより,類似業種比準方式による評価会社の株式の評価と当該株式の適正な時価との間に開差が一般的に生じているとはいえない。それにもかかわらず,評価通達の平成2年改正で,保有資産中に株式や土地が占める割合が高い会社(株式保有特定会社・土地保有特定会社)の株式につき,純資産価額方式等によりそれらの会社が保有する株式や土地自体の評価額を反映された評価を行うようにしたのは,その当時,株式や土地を保有させる目的で用意した持株会社や土地保有会社に保有する株式や土地を譲渡して,その譲渡された株式や土地の時価が持株会社や土地保有会社の株式の評価額に反映されないような状態を作出することによる節税ないし租税回避行為が横行したことに対応する必要があったためという経緯がある。したがって,節税ないし租税回避行為が横行に対応するために行われた改正であるならば,節税でも租税回避行為でもない行為は,改正により設けられた制度の対象とならないと考えるのが当然である。

     (イ) 仮に,このような改正の経緯からは直ちに株式保有特定会社等に係る評価方式の適用範囲を決めることができないとしても,適正な時価評価の観点から,保有資産中に株式等の占める割合が高い会社の株式について類似業種比準方式の適用を制限することの合理性を考えると,その制限の合理性は,事業を営むことよりも資産を保有することが主たる目的の会社の場合に類似業種比準方式の適用の前提が満たされなくなることによって,初めて基礎づけられるものである。すなわち,類似業種比準方式は,評価会社の事業を営む企業としての実態を前提として,企業全体の価値を評価する手法であるから,個々の資産の含み益を反映させなくても問題はないわけであるが,事業を営むことよりも資産を保有することが主たる目的である会社の場合には,このような前提が当てはまらないのであるから,類似業種比準方式の適用を制限する合理性が生じてくる。

       以上のとおり,株式保有特定会社に係る評価方式を適用する合理性は,事業を営むことよりも株式を保有することが主たる目的の会社の場合には,類似業種比準方式の適用の前提が満たされなくなることによって初めて基礎づけられるものであって,評価会社が保有する株式の含み益により類似業種比準方式による評価会社の株式の評価と当該株式の適正な時価との間に一般的に生じている開差が,高い株式保有割合により無視できなくなるからというようなことが理由となるものではない。そして,本件においては,Bは,事業を営むことを主たる目的とする会社であって,実際には持株会社でありながら事業をカムフラージュで営むような会社ではないから,B株式について,類似業種比準方式適用の前提が満たされなくなるというようなことはなく,株式保有特定会社に係る評価方式を適用するのは合理的ではない。

     (ウ) 株式保有特定会社に係る評価方式を適用すべき評価会社か否かの判断は,株式保有特定会社に係る評価方式が導入された平成2年の評価通達改正の経緯や,いかなるときに株式保有特定会社に係る評価方式を適用する合理性があるかという点からすれば,株式保有目的の持株会社であるか,評価会社の株主が本来直接保有しているはずの株式を間接保有に切り替えるために用意した持株会社であるのか,事業を営むことよりも株式を保有することを主たる目的とする会社であるのか,というような基準で行うのが合理的である。もっとも,評価会社の株式保有割合が「非常に異常な数値」(評価通達の平成2年改正における立案担当者の発言。甲第5号証)であるということならば,そのような持株会社ないし株式保有を主たる目的とする会社である蓋然性が高くなるから,そのような数値を株式保有特定会社の該当性に関する指標として考慮することも合理性がないわけではないが,「非常に異常な数値」といえるためには,単に平均値から大きく乖離しているというだけでなく,母集団の値の分布や偏差なども考慮した上で,減多にないといえる数値である必要がある。

       ところが,株式保有特定会社の分類に係る評価通達の株式保有割合25%という数値基準は,法人企業統計の調査対象会社など一定の範囲の会社における株式保有割合の平均値を考慮して定められたものであるが,それらの会社における株式保有割合の分布や偏差が考慮された形跡はないのであり,平均値だけを根拠として設定された評価通達の基準は,それだけでも合理性を欠いている。

       控訴人が当審において援用した株式会社Dの「E」は,株式保有割合25%という数値が平均値よりは高い数値(ただし,簿価に基づくものにすぎない。)ではあるものの,次のような上場会社における株式保有割合の分布からすれば,「非常に異常な数値」などではないことを示している。すなわち,乙第32号証で控訴人が各会社毎に計算した株式保有割合のデータを基に,その標準偏差を計算すると14.2%となることから,それら控訴人が抽出し計算した平成15年度の上場会社のサンプルにおける株式保有割合の中で株式保有割合25%を偏差値で示すと58.1となる(甲第59号証)。したがって,偏差値58.1に相当する株式保有割合25%という数値は「非常に異常な数値」に該当するとはいえない。また,本判決別表2-2に示されているように,平成15年度においては,控訴人が抽出した上場会社の中でも全体の15%に相当する会社において株式保有割合が25%以上となっているのであって,この点からも株式保有割合25%以上ということが「非常に異常なもの」とはいえない。しかも,乙第32号証で控訴人が抽出したデータは,金融業又は保険業を営む会社を除外しているが,比較対象の母集団の設定においてこれらの会社を除外する理由はなく,これらの会社を含めた母集団を基に株式保有割合25%という数値が「非常に異常な数値」といえるか否かを判定すべきである。そして,これらの会社の株式保有割合は明らかに高くなる傾向があるから,これらの会社を除外せずに同様のデータ抽出を行えば,株式保有割合の平均値は高くなり,株式保有割合25%の偏差値が,平成15年分において58.1よりも更に低くなり,株式保有割合25%以上である上場会社の割合も平成15年において15%よりも高くなることは明らかである。

       以上から,株式保有割合25%という数値は「非常に異常な数値」とは到底いえないのであって,株式保有割合25%をもって異常と判定するのは合理性を欠いている。

     (エ) 控訴人は,資本金5000万円以上10億円未満の法人に係る統計上の数値を根拠に,株式保有割合25%という一律の数値基準の適用を正当化している。しかし,原審において企業統計上の数値を用いるに当たり,資本金10億円以上の法人に係る数値を用いることを選択したのは控訴人に他ならず,それを当審において,突然,資本金5000万円以上10億円未満の法人に係る数値を用いることを主張し出すのは,自らの都合による恣意的な統計使用といわざるをえない。しかも,評価通達には資本金5000万円以上であれば大会社に該当するといった基準はなく,資本金と関連性のある指標を基としては,卸売りで帳簿価額による総資本価額20億円以上,それ以外の業種で帳簿価額による総資産価額10億円以上という基準はあるものの,それ以外は取引金額というフローの金額及び従業員数という,およそ資本金とは直接関係するものではない指標を基にした基準である。したがって,評価通達の指標を満たす大会社に相当する会社が概ね資本金5000万円以上に属する会社であるなどと断ずることはできず,確実に大会社に該当すると思われる資本金10億円以上の法人に係る数値を用いることとした原審における控訴人の選択の方が比較的に合理的である。さらに,本件では株式保有割合25%という基準をBのような会社にも一律に適用することが合理的か否かが争われているのであるから,資本金5000万円以上の法人が評価通達における大会社に相当するとしても,資本金10億円以上の法人の平均値等を基に株式保有割合25%という数値が「非常に異常な数値」といえるのでなければ,株式保有割合25%という数値を「非常に異常な数値」と位置づけるべきではない。すなわち,法人企業統計上の区分をみると,法人企業統計上資本金5000万円以上10億円未満の区分に属する法人の集団と,10億円以上の区分に属する法人の集団とでは,明らかに平均的な株式保有割合に有意の差が認められるところ(前者の集団における株式保有割合の平均値はいずれの年度においても5%前後であるのに,後者の集団のそれは平成2年度で10.1%,平成15年度で16.2%である。),本件相続開始時の直前期末である平成15年5月31日時点におけるBの総資産価額(帳簿価額)が2120億円余であったことからすれば,1法人当たり帳簿価額による総資産額の平均値が1000ないし1300億円程度である法人企業統計上資本金10億円以上の区分に属する法人が,Bのような会社といえるのであって,Bのような大規模な会社にも株式保有割合25%という基準により株式保有特定会社に係る評価方式を一律に適用することの合理性は,法人企業統計上資本金10億円以上の区分に属する法人の集団において株式保有割合25%が「非常に異常な数値」であるといえなければ認められない。