不当利得返還等請求事件

納税者へ十分な告知と聴聞があったといえるかは疑問と思われる納税者敗訴の札幌地裁平成31年判決

 

【事件番号】 札幌地方裁判所判決/平成28年(行ウ)第31号

【判決日付】 平成31年3月27日

【判示事項】 被相続人が所有していた農地を,その相続人である原告及びそのきょうだいが共有するに至り,また,農業相続人である原告が相続税の納税を猶予されていた事案において,共有物分割の結果,納税猶予の対象とされていた共有持分の一部が原告から他の相続人に移転し,他の相続人の共有持分の一部が原告に移転したところ,原告の共有持分の移転が,租税特別措置法に規定する納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当するとされた事例

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

  1 原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

  1 不当利得返還請求(主位的請求)又は国税通則法56条1項に基づく還付金等の返還請求(予備的請求)

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万円に対する平成15年8月12日から,うち160万円に対する平成15年9月22日から,うち3215万円に対する平成26年11月7日から,うち2661万円に対する平成27年1月25日から,それぞれその還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成18年12月31日までは年4.1%の割合,平成19年1月1日から同年12月31日までは年4.4%の割合,平成20年1月1日から同年12月31日までは年4.7%の割合,平成21年1月1日から同年12月31日まで年4.5%の割合,平成22年1月1日から平成25年12月31日までは年4.3%の割合,平成26年1月1日から同年12月31日までは年1.9%の割合,平成27年1月1日から平成28年12月31日までは年1.8%の割合,平成29年1月1日から同年12月31日までは年1.7%の割合,平成30年1月1日から同年12月31日までは年1.6%の割合,平成31年1月1日以降は年7.3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合(ただし,当該特例基準割合に0.1%未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)のいずれか低い割合を乗じて計算した各金額を合計した金員(ただし,その合計金額につき100円未満の端数があるときは,その端数金額を切り捨てたもの。)を支払え。

  2 国家賠償請求

    被告は,原告に対し,7342万7300円及びうち1306万0200円に対する平成15年7月11日から,うち160万1400円に対する同年8月21日から,うち3215万5500円に対する平成26年10月6日から,うち2661万0200円に対する同年12月24日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要

    本件は,被相続人が所有していた土地を相続して相続税の納税を猶予されていた原告が,O税務署長から,当該土地の一部を転用しあるいは交換に供したことが,租税特別措置法が定める納税猶予期限の確定事由である「譲渡等」に該当し,納税猶予期限が確定したとして,被相続人の相続に係る相続税本税,利子税及び延滞税(以下「本件相続税等」という。)の納付を求められ,これを納付したものの,当該土地の一部の転用あるいは交換は「譲渡等」に該当せず,被告は,主位的には法律上の原因なく本件相続税等を利得した,予備的にはこれによって誤納金が発生したとして,主位的には不当利得返還請求権(民法703条),予備的には還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づき,上記第1の1の金額及びこれに対する国税通則法及び租税特別措置法所定の還付加算金の支払を求め,又は,これらの請求とは選択的に,O税務署長の「譲渡等」に関する解釈が違法であったとして,国家賠償請求権(国家賠償法1条1項)に基づき,上記第1の2の金額及びこれに対する民法所定の年5%の割合の遅延損害金の支払を求めた事案である。

  1 関係法令等の定め

   別紙1「関係法令等の定め」のとおりである。このうち,改正前措置法とは,平成7年法律第55号による改正前の租税特別措置法をいい(なお,上記法改正の前後を問わない場合は,単に「措置法」という。),措置法施行令とは,平成7年政令第158号による改正前の租税特別措置法施行令をいう。また,以下においては,「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」を「措置法通達」といい,「所得税基本通達」を「所基通」という。

  2 前提事実

   (1) 原告の父であるP(以下「亡P」という。)は,個人で農業を営んでいたところ,平成▲年▲月▲日,死亡した。亡Pの法定相続人は,農業を営んでいないQ,R,S(以下「Qら」という。)及び農業を営んでいる原告であった。

     亡Pは,平成5年11月18日,遺産の全部を原告に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

     (甲6,乙39)

   (2)ア 原告は,亡Pを相続したことによって納付すべき相続税額が4778万円と算定されたものの,被相続人であるPの農業相続人(改正前措置法70条の6第1項)であったことから,平成6年12月9日,O税務署長に対し,「納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書」を添付した上で,別紙2「特例農地等目録」記載の農地について納付すべき相続税額及び納税猶予税額を4778万円と記載した相続税の申告書を提出し,同項に基づき,相続税の納税を猶予された(以下,同目録記載の農地を番号順に,「本件農地1」ないし「本件農地6」,「旧本件農地7」及び「本件農地8」といい,旧本件農地7につき,下記(5)における分筆後の残地を「本件農地7」,旧本件農地7から分筆された農地を「本件農地9」,旧本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地8を「旧本件各農地」,本件農地7を含めた本件農地1ないし本件農地9を「本件各農地」という。)。

      亡Pの相続開始時点において,同項に規定する「特例農地等」(以下,単に「特例農地等」という。)の相続税の納税猶予対象となった旧本件各農地の面積の合計は,9万9559平方メートルであった(別紙2「特例農地等目録」の①欄参照)。

      (甲6,18)

    イ 原告は,平成10年11月16日,平成12年12月28日,平成15年12月12日頃,平成18年2月28日,平成21年12月11日,平成24年12月10日,O税務署長に対し,措置法の規定に基づき,「相続税の納税猶予の継続届出書」(以下「継続届出書」という。)を提出した。

      原告は,各継続届出書において,措置法70条の6第1項の規定による相続税の納税の猶予を引き続き受けたいこと及び納税の猶予を受けた相続税額を記載するとともに,平成15年12月12日頃以降に提出された各継続届出書には,これらの事項に加えて,「特例農地等」の「譲渡等」(同項1号に定めるもの)をしたために既に猶予期限が確定した(又は確定し納付した)相続税額及び引き続き納税の猶予を受けたい相続税額も記載した。

      (甲15の1~6,乙5の1~6)

   (3) 原告は,本件遺言に基づき,亡Pの遺産の全部を相続したところ,Qらは,自己の遺留分が侵害されているとして,平成6年10月17日,原告に対し,遺留分減殺の意思表示をした。

     Qらは,平成8年頃,原告を相手方とする遺留分減殺請求訴訟を釧路地方裁判所北見支部に提起したところ,同裁判所は,平成10年2月17日,旧本件各農地について,平成6年10月17日遺留分減殺を原因とする持分8分の1の所有権移転の各登記手続をすること等を命じる内容の判決をした。

     Qらは,この判決により,旧本件各農地について,いずれも持分合計8分の3の所有権を取得し,平成10年6月8日,その旨の所有権一部移転登記がされた。その結果,原告が所有する旧本件各農地の面積合計は,6万2224.375平方メートルに減少した(別紙2「特例農地等目録」の②欄参照)。

     O税務署長は,上記の遺留分減殺の結果を受けて,平成11年7月5日,原告に対し,原告の相続税額を4237万4400円とし,納税猶予額を4134万4800円とする更正処分をした。

     (甲9の1~8,乙2,31の1,39,40)

   (4) 原告は,平成10年3月4日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち4172平方メートル及び本件農地4のうち3247平方メートルの合計7419平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は4636.875平方メートル)について,営農規模を拡大し,経営の安定合理化を進めたいことを理由とし,土地造成の上,牛舎及び堆肥盤(以下「本件施設」という。)を建築する目的で転用すること(以下「本件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,同年4月27日,原告に対し,本件転用を許可し,原告の長男であるTの所有名義に係る本件施設が建築された。本件転用に係る許可申請書(甲10の1)には,本件施設の所有者及びその敷地利用に係る法律関係についての記載はない。

     本件転用に係る農地の面積が,原告が所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約7.45%(4636.875平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の③欄参照)。

     (甲8,10の1,18〔写真3〕,19〔別紙8〕)

   (5) 旧本件農地7は,平成12年10月27日,本件農地7と本件農地9に分筆された(別紙2「特例農地等目録」の④欄参照。甲9の7の1・2,乙31の1)。

   (6) 原告は,平成12年12月21日,北海道知事に対し,農地法4条に基づき,本件農地3のうち637平方メートル(うち原告の持分8分の5に相当する部分は398.125平方メートル)について,貯留槽を建築する目的で転用すること(以下「別件転用」という。)の許可の申請をしたところ,北海道知事は,平成13年2月21日,原告に対し,別件転用を許可し,貯留槽が建築された(別紙2「特例農地等目録」の⑤欄参照。甲10の2,甲18〔写真3〕,20〔別紙7〕)。

   (7) 原告は,平成13年12月18日,釧路地方裁判所北見支部に係属していた訴訟において,Qらとの間で,訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。

     その内容は,①本件農地9に係る原告の共有持分と本件農地1ないし本件農地8を含む土地に係るQらの共有持分とを交換すること(以下「本件交換」という。),②Qらは,原告に対し,本件農地1ないし本件農地8を含む土地の各共有持分について,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,③原告は,Qらに対し,本件農地9の各共有持分につき,同日付け交換を原因とする所有権移転登記手続をすること,④原告は,Qらに対し,本件交換の清算金を支払うことなどである。

     本件交換の結果,本件農地1ないし本件農地8に係るQらの共有持分は,原告に対して全部移転され,また,本件農地9に係る原告の共有持分は,Qら3人に対して全部移転されたところ,いずれの共有持分の移転についても,同日付けの持分放棄を原因として共有持分全部移転登記がされた(なお,登記受付日は,本件農地1ないし本件農地8については平成14年2月26日であり,本件農地9については同年1月16日である。)。本件和解によってQらに移転した本件農地9の面積は8848.75平方メートルであり,その面積が原告の所有する旧本件各農地の面積に占める割合は,約14.22%(8848.75平方メートル÷6万2224.375平方メートル×100)であった(別紙2「特例農地等目録」の⑥欄参照)。

     (甲8,9の1~8,11,乙31の1)

   (8) O税務署長は,平成15年6月30日付けで,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書1」という。)を送付し,本件交換が改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡等」(以下,単に「譲渡等」という。)に該当し,相続税の納税猶予期限が一部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定した相続税本税の金額は918万9300円,利子税額は387万0900円,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は3215万5500円である旨通知した(乙4)。

     これを受けて,原告は,平成15年7月11日,本件相続税等として,相続税本税918万9300円及びこれに係る利子税387万0900円,同年8月21日に延滞税160万1400円の合計1466万1600円を納付した。

   (9) 原告は,平成26年10月6日,相続税の猶予税額のうち,3215万5500円を納付した。

   (10) O税務署長は,同年11月26日,原告に対し,本件転用及び別件転用の各許可によって建築された本件施設及び貯留槽は,原告が所有するものではなく,本件転用及び別件転用が「譲渡等」に該当するため,相続税の納税猶予期限の確定事由が存在すること,旧本件各農地のうち,本件転用,別件転用及び本件交換において「譲渡等」の対象となった面積が,原告が相続税の納税の猶予を受けていた面積の100分の20を超えるに至ったことを理由として,本件通知書1に係る通知を取り消した(甲7の1。以下「本件取消通知」という。)。

     その上で,O税務署長は,同日,原告に対し,「猶予期限が確定した相続税額の通知書」(以下「本件通知書2」という。)を送付し,本件各農地について,相続税の納税猶予期限が全部確定し,その猶予期限は平成14年3月18日,猶予期限が確定したことによる本件相続税等の金額は,相続税本税が4134万4800円,利子税が1755万9100円であって,引き続き納税の猶予がされる相続税本税の金額は0円である旨通知した(甲7の2)。

     そして,O税務署長は,平成26年12月12日,原告に対し,本件通知書1に係る通知を取り消した結果,上記(8)で原告が納付した本件相続税等1466万1600円の誤納金が発生したものの,これを相続税の納税猶予期限が確定したことに伴う本件相続税等に充当した旨の通知をした(甲1。以下「本件充当通知」という。)。

   (11) 原告は,上記(10)を受けて,同月24日,本件相続税等として,相続税本税4134万4800円,利子税1743万1700円及び延滞税1465万0800円の合計7342万7300円のうち,既に納付した4681万7100円(上記(9)の3215万5500円と上記(10)の充当額1466万1600円の合計額)を控除した残額の2661万0200円を納付した。

   (12)ア 原告は,平成27年2月13日,O税務署長に対し,本件充当通知(甲1)を充当処分と捉えた上で,相続税の納税猶予期限が平成14年3月18日であるため,その徴収権は時効により消滅しているとして,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求める旨の異議申立てをした。これに対し,O税務署長は,平成27年5月11日,原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした。(甲2の1~3,3)

    イ 原告は,同年6月10日,国税不服審判所長に対し,本件充当通知に係る充当処分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成28年3月17日,審査請求を却下する旨の裁決をした。

      国税不服審判所長は,この裁決の中で,上記(8)で原告が納付した本件相続税等は誤納金に該当しないと判断したところ,これを受けて,O税務署長は,同年11月10日,原告に対し,本件充当通知(甲1)を取り消す旨の通知をした。

      (甲4,5,乙1)

    ウ 上記イの裁決を受けて,原告は,同年8月25日,被告に対し,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないこと等を理由として,不当利得返還請求権に基づき,納付した本件相続税等の返還を請求する本件訴訟を提起したところ,平成29年3月1日の第2回弁論準備手続期日において,還付金等請求権(国税通則法56条1項)に基づく納付した本件相続税等の返還請求を予備的に追加し,平成30年3月12日の第8回弁論準備手続期日において,納付した本件相続税等を損害とする国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求を選択的に追加した(国家賠償請求の選択的な追加は,原告が,同期日において2018(平成30)年2月20日付け準備書面(5)を陳述したことによってされた。なお,同期日の調書には,「2018年2月23日付け準備書面陳述」と記載されているが,当該記載は,同月20日付け準備書面陳述の誤記と認める。)。

      被告は,同年8月30日の第11回弁論準備手続期日において,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく原告の上記請求権は時効によって消滅しているとして,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

  3 争点及びこれに関する当事者の主張

   (1) 争点の概略等

    ア 本件においては,まず,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないかが争点となる(争点①)。

    イ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当する場合,適法な徴収権に基づいて相続税が徴収されてはいるものの,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,相続税の納税猶予期限である平成14年3月18日から5年経過後に納付されたものであり,かかる差額分に係る徴収権が時効によって消滅していること(国税通則法72条)になるため,原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか(抗弁)が争点となり(争点②),さらに,被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点③)。なお,この場合,国家賠償請求については,違法かつ過失に基づく徴収行為はないことになる。

    ウ 争点①において,本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となる。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については,不当利得又は誤納金となるものの,その納付から5年以上が経過していることから,還付請求権の消滅時効(国税通則法74条,72条)の期間が経過していることになるが(抗弁),これに対して,被告が消滅時効の主張をすることが信義則に違反するか(再抗弁)が争点となる(争点④)。また,この場合,国家賠償請求の争点は,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為により,原告が平成15年に本件交換に係る本件相続税等を納付し,原告がその納付額相当の損害を被ったか(請求原因,争点⑤),国家賠償請求権の消滅時効の成否(抗弁,争点⑥)及び被告による国家賠償請求権の消滅時効の援用が信義則に違反するか(再抗弁,争点⑦)となる。

    エ 争点①において,本件転用が「譲渡等」に該当せず,本件交換が「譲渡等」に該当する場合,原告が平成26年に納付した本件相続税等と平成15年に納付した本件相続税等の差額分については,国が不当に利得したことになり,不当利得又は誤納金となるところ,国家賠償請求との関係では,かかる差額分がO税務署長の過失に基づく違法な徴収行為による原告の損害といえるか,その消滅時効の成否及び被告による消滅時効の援用が信義則に違反するかが争点となる(争点⑤ないし⑦と同様である。)。他方,原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の金額については不当利得及び誤納金とはならず,また,かかる相続税の金額を損害とする国家賠償請求についても,O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為はないことになる。

   (2) 争点①(本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないか)について

  (原告の主張)

    ア 本件転用について

    (ア) 本件施設の所有名義人であるTは,原告の後継者であるところ,原告の年齢上の問題から,T名義でなければ本件施設の建築資金の融資を受けられなかったため,担保権設定の都合上,形式的に本件施設の所有名義をTとし,原告がTから本件施設を賃借する形をとったものである。現に,本件施設の建築資金に係る借入金の返済は,原告からTに支払われた本件施設の賃借料から支出されている。これらによれば,本件施設は,実質的には原告の所有に属するものである。

       このような実態に照らすと,形式的には,Tが所有する本件施設のために,その敷地利用権として本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権が設定されているとみることが可能であるとしても,それを理由に相続税の納税猶予の利益を失わせることは,後記イ(ア)bにおいて述べる「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的にそぐわない。

       加えて,原告が本件農地3及び本件農地4の各一部を使用貸借に供したとしても,そのことによって農地の宅地期待益が実現するような利得が発生したわけでもないから,この点からも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の目的に外れるものではない。

     (イ) そもそも,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農業継続の意思がありながら,地価の高騰に伴い,相続によって農地に対する宅地期待益を含んだ売買価格を基礎として相続税が課税されることによって農業継続ができなくなることを防止し,農業経営の近代化と農業後継者育成を税制面から支援することを目的とする制度である。

       そして,旧本件各農地における営農の主体は一貫して原告であるところ,本件転用において本件施設を建築したことも,旧本件各農地での原告の営農規模の拡大及び合理化を目的としたものであって,他者のためにこれらを建築したわけではない。

       このことは,本件転用に際して北海道知事がした許可が,農地法5条ではなく,同法4条に基づくものであって,これを受けて,U町農業委員会長が,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」(甲14の1)を送付していることからすれば,Tに対する本件農地3及び本件農地4の各一部に係る使用貸借権の設定は前提とされていないこと,継続届出書に添付されているU町農業委員会の証明書(措置法施行規則〔平成7年省令第33号による改正前のもの〕23条の8第12項1号に基づくもの)においても,本件農地3及び本件農地4の各一部が,措置法施行令40条の7第6項に掲げる施設,すなわち農業相続人の耕作又は養畜の事業に係る施設の敷地に供している農地として記載されていることからも明らかである。

     (ウ) これらによれば,本件施設は実質的には原告所有であるということができるのであって,本件転用は「譲渡等」の一類型である「転用」には該当しないというべきである。

    イ 本件交換について

    (ア)a 本件交換は,本件和解における調書上,交換の形式を採用しているものの,その実質は,亡Pに係る相続の発生に伴って生じた旧本件各農地の共有状態の解消に当たって,農業相続人である原告においては,承継すべき農地を確保することを,農業を営んでいないQらにおいては,非農地及び清算金を獲得することを,それぞれ目的として行われたものである。すなわち,旧本件農地7は,現況が非農地となっていたことから,旧本件農地7から本件農地9を分筆してこれをQらが取得し,分筆後の本件農地7を原告が取得したものであって,まさに共有物の現物分割というべきものであり,民法上の交換契約又は売買契約には該当しない。