なお,原告がQらに対して清算金を支払ったのは,Qらに対して相続分に応じた代償給付を取得させたためであり,その支払があったことによって,本件農地7及び本件農地9に係る原告及びQらの所有権取得の法的根拠が共有物の現物分割ではないことになるものではない。

        そして,共有関係にある資産を現物で分割することは,その資産全体に及んでいた共有持分権をその一部に集約するにすぎず,資産の譲渡による増加益が実現したといえるだけの経済的実態が備わっていない。固定資産の交換の場合における譲渡所得の特例について,所得税法58条は,譲渡がなかったものとみなす,つまり,譲渡はあったが,これがないこととするとしているのに対し,所基通33-1の6も,共有物の現物分割をした場合,その分割による土地の譲渡はなかったものとして扱う,つまり,譲渡がそもそも存在しなかったこととしているところ,相続税は,所得をどの段階で捕捉し,課税するかを問題とするものであり,所得税と基本的性格は同一であるから,「譲渡」の解釈は,所得税法における「資産の譲渡」(所得税法33条1項)と同一にすべきであり,本件交換は「譲渡」には該当しないというべきである。

      b さらに,「特例農地等」の相続税の納税猶予制度は,農業相続人が農業を営んでいた被相続人から相続又は遺贈により「特例農地等」を取得し,当該「特例農地等」を引き続き農業の用に供する場合,当該「特例農地等」の時価で相続税が課税されると,その相続税の納税のために営農規模の維持や農業の継続が困難となり,また,民法の定める均等相続に基づく遺産分割によって農地が細分化され,農業経営に支障が生じることから,当該「特例農地等」の恒久的な農地等としての価額を超える部分に対応する相続税額について,その納税を猶予し,次の相続又はその事実が生じる前に申告書の提出期限から20年が経過し,それまでの間,当該「特例農地等」が農業の用に供されてきた場合には,その猶予税額を免除することとしたものである。このことは,改正前措置法70条の6第10項,70条の4第7項(以下,これらの規定に基づく特例を「買換え特例」という。)の規定からも明らかである。

        そうだとすれば,相続税の納税の猶予を受けた相続人の行為によって,仮に,形式的には権利の移転が発生していたとしても,そのことによって,当該「特例農地等」で,恒久的な農地等としての価額を超える対価を得ることなく,しかも,「特例農地等」の減少も来さない場合は,何ら相続税の納税猶予制度の趣旨を潜脱することにはならないから,「譲渡」に該当すると解するべきではない。

        本件交換についてみると,旧本件農地7から本件農地9が分筆され,原告とQらの間において相互に共有持分を放棄することで共有物の現物分割を行い,原告が本件農地9の共有持分に概ね相当する地積を取得することによって本件農地1ないし8を単独所有するに至った。もっとも,このことによって,原告は,本件農地9の恒久的な農地等としての価額を超える対価を得たわけではないし,本件各農地の減少を来したわけでもないから,本件交換は「譲渡」に該当しない。

     (イ) 本件交換が「譲渡」に該当するとしても,「代替農地等の取得等に関する承認申請書」(以下「買換え特例承認申請書」という。)の提出に係る改正前措置法70条の6第10項,70条の4第7項,措置法施行令40条の7第16項は,農地等の譲渡の対価をもって代替農地の取得を予定している場合に,その内容を申請し,承認されれば,相続税の納税猶予期限の確定事由としての「譲渡」をなかったことにするというものであるから,既に代替農地が明らかになっている本件交換の場合で,しかも,その過半が同じく「特例農地等」である本件においては,買換え特例承認申請書の提出は不要というべきである。

       また,買換え特例承認申請書の提出が必要であるとしても,原告は,「納税猶予適用農地における所有権の移転についての申立書」(乙3。以下「本件申立書」という。)及び登記名義変更に関するO税務署長からの質問に対する回答を提出する中で,本件交換において共有物の現物分割として本件農地9の共有持分を放棄したと述べた。そして,原告及びQらが本件和解に先立つ平成13年10月2日に連名で提出した本件申立書には,相続税の納税の猶予を継続して受けることを求める旨が記載されている上,買換え特例承認申請書の記載事項が含まれていたのであるから,本件申立書の提出を受けたO税務署長としては,原告が引き続き相続税の納税の猶予の適用を受けることを求めるとの意思を明確に表示していることを認識していたということができる。

       さらに,本件申立書の提出を受けて,O税務署長は,同月10日,本件農地9の担保を一部解除している。本件交換はこれらを前提としており,本件各農地に係る共有持分の移転登記は,本件和解の履行の結果にすぎず,O税務署長は,本件交換が「譲渡」に該当しないことを十分認識していたといえ,また,買換え特例承認申請書を提出すれば,その承認がされることが確実であったということができる。

       したがって,仮に,一般論として,買換え特例承認申請書の提出が必要であるといえたとしても,上記のとおり,相続税の納税の猶予を継続して受けることが明らかな本件申立書が提出されているにもかかわらず,本件交換が「譲渡」に該当するとして相続税の納税猶予期限を確定させようとするのであれば,O税務署長において,買換え特例承認申請書の提出を教示する義務があるというべきである。それにもかかわらず,O税務署長は,かかる義務を怠った。

       これらによれば,買換え特例承認申請書の提出がないという理由で,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することは,信義則上許されない。

     (ウ) これらによれば,本件交換は「譲渡」に該当しないし,仮に「譲渡」に該当するとしても,買換え特例の承認により「譲渡」がなかったものとみなされ,又は,被告においては,信義則上,相続税の納税猶予期限が確定したと主張することはできない。

    ウ 小括

      以上によれば,旧本件各農地の面積の100分の20を超える割合が「譲渡等」の対象となったことはないから,相続税の納税猶予期限は,未だに確定していない。

   (被告の主張)

    ア 本件転用について

    (ア) 本件施設は,Tが建築主として建築し,所有者として固定資産税を負担し,所得税の申告に際しては自らの減価償却資産として計上しているから,Tが取得,所有しているものである。その上で,Tは,原告に対し,本件施設を有償で賃貸し,賃料収入を得ているのであって,原告が主張するように,本件施設の名義を形式上Tとしているにすぎないとはいえない。

       そして,原告は,本件施設の敷地である本件農地3及び本件農地4の各一部について,Tから賃料収入を得ていないから,Tに対し,使用貸借権を設定したということができる。

     (イ) 原告は,本件施設の所有者がTとなっていることについて,融資及び担保権設定の都合によること,本件施設の建築資金が実質的には原告の営農収入から支払われていることを理由として,本件転用が「譲渡等」に該当しないと主張する。しかしながら,Tは,本件施設から賃料という収益を得ており,本件施設の名義を形式上Tとしているにすぎないとはいえないし,本件施設建築に係る借入金の返済を実質的に原告が行っているとの主張を裏付ける証拠はない。

       また,原告は,本件転用に係る使用貸借の存在を観念することが可能であるとしても,それを理由に相続税の納税猶予分の利益を失わせることは納税猶予制度の目的にそぐわないとも主張する。しかしながら,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度は,農業相続人がその「特例農地等」により農業経営を継続することを前提として設けられたものであるところ,農業相続人である原告が「特例農地等」である本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権を設定することは,権利を設定する「特例農地等」の範囲において,農業相続人である原告の農業の用に供されていないことになるから,相続税の納税猶予の対象とはならないというべきである。

     (ウ) これらによれば,本件転用は「譲渡等」に該当する。

    イ 本件交換について

    (ア)a 「譲渡」とは,有償無償を問わず,所有権その他の権利の移転を広く含む概念で,交換もこれに含まれると解される上,「譲渡」の意義は,文理解釈によるべきであり,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の立法目的及び立法趣旨を考慮し,本件交換が「譲渡」に該当しないと判断すべきではない。本件和解における文言が「交換」という文言を用いていることからすれば,本件交換は,民法上の交換契約の履行によるものであって,「譲渡」に該当する。

        原告は,本件交換は,共有物の現物分割である旨主張するが,共有物の現物分割とは,共有物を現実的にそのまま分割する方法のことをいうのであって,本件交換はこれに当たらない。本件交換以前の事情を考慮し,原告及びQらが選択した法形式とは異なり,本件交換が民法上の交換契約でないとするならば,明確性の求められる課税要件該当性の判断が不明確なものとなってしまいかねない。

        仮に,本件交換が共有物分割であるとしても,共有物分割は,有償か無償かは別にして,持分についての権利が移転することから,その法的性質は,共有者相互間における共有持分の交換又は売買であると解される。このことは,共有物の現物分割であっても同様であり,共有持分についての権利の移転が認められる。このことは,資産の増加益の実現という原告の主張とは全く別問題であり,「譲渡」の解釈は,農業の継続を目的とする相続税の納税猶予という観点から考えるべきで,所得税法における「資産の譲渡」の解釈とは異なる。

      b 原告らは,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度が,農業の振興や,農地が非農地に転用されることの防止を目的としていることを前提として,恒久的な農地等としての価額を超える対価を得ることなく,しかも,「特例農地等」の減少も来さない場合は,当該「特例農地等」について権利の移転があったとしても,「譲渡」には該当しないと主張している。

        しかしながら,相続税は,相続財産をその取得時における時価によって評価した上でされるところ,農地の評価は,転用許可等の可能性を踏まえて行われるため,宅地期待益を含んだ評価となりやすいという問題があったことから,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度において,かかる評価上の問題を解決しようとしたものであって,その立法目的には,農業振興及び農地の転用防止による農地の保護といった点は含まれていない。

        そして,原告が,本件農地1ないし本件農地8のうち,相続税の納税猶予の対象となっていないQらの共有持分8の3を取得したとしても,それは新たな農地の取得にすぎない。本件農地1ないし本件農地8のうち,Qらの共有持分をも一体として,原告が農業経営の用に供していたとしても,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予制度の立法目的に農業振興や農地の保護が含まれない以上,「譲渡」の該当性判断において,原告の本件農地1ないし本件農地8の利用実態を考慮すべきではない。

     (イ) 所得税法58条では,土地の交換が行われた場合,所得税の確定申告書に所要の記載をすることを要件として「資産の譲渡」がなかったものとみなされるが,「特例農地等」について交換が行われた場合には,買換え特例の承認を受ける必要がある。すなわち,措置法通達70の6-34,70の4-33では,固定資産の交換が行われた場合において所得税法58条の規定に基づき,所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされる場合でも,措置法上は「譲渡等」に該当するとされているし,措置法通達70の6-34の解説においても,「特例農地等」の交換が行われた場合,その交換が所得税の課税上譲渡がなかったものとみなされるときであっても,相続税の納税猶予制度上は「譲渡」に該当するため,相続税の納税の猶予を受けようとする場合には,買換え特例の承認を受ける必要があるとされている。

       また,原告が本件申立書(乙3)を提出したとしても,本件申立書には,買換え特例承認申請書に記載すべき事項は記載されておらず,本件申立書の記載内容から,O税務署長において,本件交換が相続税の納税の猶予を継続して受け得るものであると認識することは不可能である。さらに,買換え特例承認申請書は,買換え特例の適用を受けようとする者が,自らの選択によって提出するものであり,O税務署長に買換え特例承認申請書の提出を教示する義務はないし,仮に原告が買換え特例承認申請書を提出したとしても,買換え特例の承認がされたことが確実であったともいえない。

     (ウ) これらによれば,本件交換は「譲渡」に該当する。

    ウ 小括

      以上によれば,旧本件各農地の面積の100分の20を超える割合が「譲渡等」の対象となったといえるから,相続税の納税猶予期限は,全部確定している。

   (3) 争点②(原告が継続届出書を提出していたことが債務の承認に当たり,原告に対する相続税の徴収権の消滅時効が中断するか〔本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (被告の主張)

    ア 相続税を含む国税の徴収権は,法定納期限から5年間行使しない場合,時効によって消滅するが(国税通則法72条1項),「特例農地等」に係る相続税の納税の猶予を受けた相続税については,納税の猶予がされている期間内は,相続税の徴収権の消滅時効は進行しない(改正前措置法70条の6第18項で準用する同法70条の4第15項3号により,国税通則法73条4項中「延納」とあるのは,「延納(租税特別措置法70条の6第1項の規定による納税の猶予を含む。)」と読み替えられることによる。)。

      そして,国税の徴収権に係る時効の中断事由には,債務の承認も含まれるところ(国税通則法72条3項,民法147条3号),債務の承認とは,権利の存在の認識を表示することであり,相手方の権利を消滅させようとする効果意思及び時効期間経過の認識を必要とせず,承認の方法は明示黙示を問わないものと解される。

      これを継続届出書についてみると,そもそも,継続届出書を求める趣旨は,農業相続人の相続税の納税の猶予を継続して受ける意思を確認し,「特例農地等」の異動関係等を把握し,国の租税債権の管理を的確化する点にあるところ,継続届出書には,引き続き納税の猶予を受けたい旨のほか,納税猶予分の相続税の額等が記載されていることから,農業相続人が納税の猶予を受けている相続税額の存在を認識し,表示したものと解すべきである。

      したがって,原告は,継続届出書を提出することによって,自らが「特例農地等」の納税の猶予を受けている相続税額の存在を認識し,表示しているといえる。

      また,原告は,継続届出書においては,相続税の納税の猶予を受け,徴収権の消滅時効が進行しない租税債権と,相続税の納税猶予期限の確定事由が発生したために,納期限が到来して消滅時効が進行している租税債権とが区別して記載されており,前者については,消滅時効が進行していることの認識がなく,債務の承認には当たらないと主張する。しかしながら,相続税の納税猶予制度は,あくまで,相続税の納税期限を猶予するものにすぎず,それ以上に,相続税の納税義務自体の性質を変容させる効力を有するものではない。つまり,同一の納税義務についていえば,相続税の納税猶予期限の確定事由がなく,納税が猶予されている納税義務と,かかる確定事由が発生して納税が猶予されていない納税義務とで,納税義務としての違いはなく,その認識対象を区別する合理的理由はない。

    イ 本件では,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するため,平成14年3月18日に相続税の納税猶予期限が確定していたことになる。したがって,客観的には,同日以降に継続届出書が提出されたとしても,それによって相続税の納税の猶予を受けることはできず,継続届出書の提出は無意味なものであったことになる。

      しかしながら,そのことと,相続税額の存在を確認してその認識を表示しているといえるか否かは別問題であり,結果的に無意味な継続届出書の提出であっても,債務の承認としての効果が否定される理由はない。

    ウ そうすると,前提事実(2)イのとおり,原告が各継続届出書を提出したことは,債務の承認に当たり,各継続届出書の提出日において,本件相続税等の徴収権の消滅時効は中断している。

   (原告の主張)

    ア 改正前措置法70条の6第1項に基づく相続税の納税猶予制度は,納税猶予期限が確定することがなかった場合,相続税の徴収権が消滅し,その納付義務を免れるという効果を有するものであり,納付義務の免除を伴わない一般的な納税猶予制度(国税通則法46条)とはその性質を異にするものであるところ,継続届出書を提出する意図は,相続税の納税の猶予を継続し,その納税義務の免除を受けることにあるのであって,相続税の納税義務を確定させることにあるものではない。

      このような継続届出書の提出意図及びその提出によって得られる相続税の納税義務の免除という効果を踏まえると,継続届出書が債務の承認に当たり,消滅時効を中断させるものと考えることは,時効制度の趣旨のみならず,時効の利益を受ける者と時効によって権利を失う者との間の衡平にも反するというべきである。

    イ これに加え,相続税の納税猶予期限が平成14年3月18日に確定したというのであれば,継続届出書は,納税猶予期限が確定するまでの間に提出することが求められているものであるから,同日以後に提出された各継続届出書は,改正前措置法が要求する継続届出書ではないともいえる。

      すなわち,継続届出書に記載されているのは,あくまでも,相続税の納税の猶予がされている間における,徴収権の消滅時効が進行しない租税債権の存在の認識であって,相続税の納税猶予期限の確定事由が発生したために,納期限が到来して消滅時効が進行している租税債権の存在の認識ではない。納税義務の観点からみても,継続届出書には,相続税の納税猶予期限が確定することなく20年が経過すれば消滅する納税義務と既にかかる期限が確定して発生した納税義務の2種類が記載されているといえる。これらの租税債権及び納税義務は,性質が真逆のものであって,区別しなければならない。そうであれば,相続税の納税猶予期限が確定した同日以降に提出された各継続届出書によって,相続税の徴収権の消滅時効が中断すると解することはできない。

    ウ そうすると,原告が各継続届出書を提出したことは,債務の承認に当たるものではなく,その提出によって本件相続税等の徴収権の消滅時効が中断するとはいえない。

   (4) 争点③(原告に対する相続税の徴収権について被告が消滅時効の中断の主張をすることが信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換がいずれも「譲渡等」に該当し,継続届出書の提出が債務の承認に当たる場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア O税務署長には,継続届出書及びその添付書類を検討し,相続税の納税猶予期限の確定事由の有無を調査すべき義務があり,調査によって,相続税の納税猶予期限の確定事由があると判断した場合は,速やかに相続税の納付を求めるべきである。それにもかかわらず,O税務署長は,各継続届出書の提出を受けて相続税の納税猶予期限の確定事由を調査せず,又は調査してもかかる事由が発生していないと判断し,漫然と相続税の徴収権の消滅時効期間を経過させたものである。

      被告は,本件転用に係る農地の異動の事実に関する通知及び各継続届出書には,本件転用に関する事実とは異なる記載がされていること等を主張し,O税務署長の調査義務を否定する。しかしながら,原告が提出した書類の内容が正しいことを前提に,調査義務の存在を否定するのであれば,そもそも実地確認が必要となる場合などないことになるし,O税務署長は,自ら所管する居住者の所得税の申告を受けることにより,本件転用の直後から,本件施設の所有関係及びその敷地利用状況を実地確認する必要があったといえる。

    イ これによれば,被告が,本件相続税等の徴収権の消滅時効の中断を主張することは,信義則に違反し,許されない。

   (被告の主張)

    ア 「特例農地等」に係る相続税の納税猶予に関する実地確認は,その必要性を個別に検討して行われるものであり,継続届出書の提出があったことが,直接にO税務署長に対し,実地確認を義務付けるものではなく,現に,O税務署長は,平成26年において原告の相続税の納税猶予期限が確定したことを把握した以前の段階では,本件農地3及び本件農地4の利用状況等を実地確認する必要性を認めなかった。

      すなわち,措置法等の法令は,税務署長において,「特例農地等」に係る相続税の納税猶予期限の確定事由について,農業委員会等による農地等の異動の事実に関する通知及び農業相続人からの継続届出書によって把握し,その上で必要に応じて確認調査を行うことを予定している。

      本件では,O税務署長は,平成12年12月21日,本件転用に係る異動の事実に関する通知を受領したが,そこには,本件転用が「譲渡等」に該当しない転用に該当するとの記載があり,また,平成10年11月16日に提出された継続届出書には,旧本件各農地に異動はなく,引き続き農業を営んでいるとのU町農業委員会の証明書が添付され,その後の平成12年12月28日,平成15年12月12日頃及び平成18年2月28日に提出された各継続届出書にも,本件転用が「譲渡等」に該当しない転用に該当することを前提とした本件施設の利用に関する書類が添付されている。さらに,平成21年12月10日及び平成24年12月7日に提出された各継続届出書には,本件転用に関する記載はない。

      これらによれば,O税務署長は,本件転用が「譲渡等」に該当するとの疑いを持つことはできず,他に実地確認の必要性を認める事情は平成26年に至るまで認められなかった。また,継続届出書の提出を受けた場合に,実地確認をすることを義務付けた法令の規定もない。

    イ そうすると,被告における本件相続税等の徴収権の消滅時効の中断の主張が信義則に違反することはない。

   (5) 争点④(原告が平成15年に納付した本件交換に係る本件相続税等の還付請求権について被告が消滅時効の主張をすることが信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア 被告は,本件交換に係る本件相続税等の還付請求権は,本件相続税等が納付された平成15年7月11日及び同年8月21日から5年を経過した平成20年7月11日及び同年8月21日の経過をもって,時効により消滅した旨主張する。

      しかしながら,O税務署長は,平成26年11月26日,原告に対し,本件通知書1(乙4)に係る通知を取り消し(本件取消通知),本件通知書1に基づいて納付した誤納金について,還付金等請求権が発生したことを通知するとともに,平成14年3月18日に相続税の納税猶予期限は確定しており,相続税の納期限が到来していたとした上で,同年12月12日,本件充当通知を送付し,かかる誤納金を相続税の納税猶予期限が確定したことに伴って納付すべき本件相続税等に充当した。

      このように,O税務署長は,被告主張に係る還付請求権の消滅時効期間経過後のこととはいえ,一旦還付請求権の発生を通知している以上,被告において,本件交換に係る本件相続税等の還付請求権が時効によって消滅したと主張することは信義則に違反し,許されない。

    イ 被告は,本件取消通知及び本件充当通知をしたとしても,これらが公的見解の表示に該当しない旨主張する。