しかしながら,本件通知書1により,相続税の納税猶予期限が一部確定し,相続税の納税義務があるとの公的見解が表示されたことになるところ,本件取消通知は,相続税の納税猶予期限の一部確定による納税義務がなかったとの公的見解の表示に該当する。また,本件充当通知は,同日時点において誤納金の還付請求権が存在していたとの公的見解を明らかにしたものといえる。

      これらによれば,O税務署長は,原告の誤納金に係る還付請求権が時効消滅していない旨の公的見解を表示していたといえ,本件充当通知によって,同日時点で,時効消滅したはずの誤納金が存在していることが公的に表示されていたということができるから,本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権の消滅時効は,本件充当通知の到達日の翌日から起算されると解さないと,正義,公平に反するといわざるを得ない。

   (被告の主張)

    ア 仮に,原告が本件交換に係る本件相続税等が誤納金に該当するとして,還付請求権を有していたとしても,還付請求権は,その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって,時効により消滅する(国税通則法74条1項)。そして,還付請求権の時効については,援用を要せず,かつ,時効の利益を放棄することはできない(同条2項,72条2項)。そのため,還付請求権の消滅時効の効果は,被告の行為を要することなく法律上当然かつ確定的に生じるものであり,還付請求権の消滅時効について,信義則が適用される余地はない。

    イ また,租税法規の適用における納税者間の平等,公平の要請を犠牲にしてもなお,納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に初めて,信義則の適用を検討すべきであり,かかる特別の事情が存するか否かは,税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したことにより,納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したところ,後に表示に反する行動により納税者が経済的不利益を受けることになったか否か,また,納税者が税務官庁の表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないか否かを考慮すべきである(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。

      本件において,本件取消通知中には,原告の誤納金に係る還付請求権が時効消滅していないとの公的見解は表示されていないし,本件充当通知は,相続税の納税猶予期限が確定したことを前提としたものであり,原告が同日時点においてもなお誤納金の還付請求権を有することを表示したものではないから,O税務署長が,原告に対し,本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権が時効消滅していない旨の公的見解を表示したことはない。また,原告がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことをうかがわせる証拠もない上,信頼に基づく行動による経済的不利益も生じていない。

      これらによれば,被告が本件交換に係る本件相続税等の誤納金の還付請求権の消滅時効を主張することは,信義則に違反するものではない。

   (6) 争点⑤(O税務署長の過失に基づく違法な徴収行為により,原告が平成15年に本件交換に係る本件相続税等を納付し,原告がその納付額相当の損害を被ったか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

    ア 原告は,平成15年6月30日付けの本件通知書1(乙4)及び平成26年11月26日付けの本件通知書2(甲7の2)を受けて,本件相続税等を納付した。本件通知書1及び本件通知書2は,O税務署長が「譲渡等」の解釈を誤り,相続税の納税猶予期限が確定していないにもかかわらず,これが確定したものとして発出されたものである。そして,「譲渡等」に関するO税務署長の法律解釈には合理的根拠はなく,かかる解釈を前提とする本件通知書1及び本件通知書2の発出は,O税務署長の過失に基づく違法行為である。

    イ 特に,本件交換については,原告及びQらは,O税務署長に対し,本件交換以前に,Qらによる遺留分減殺請求によって共有となった旧本件各農地を現物分割すること,その場合でも相続税の納税の猶予を求める旨の本件申立書(乙3)を提出し,O税務署長は,これを受けて,Qらが取得する本件農地9の担保を一部解除した。その上で,本件和解後,O税務署長は,原告に対し,登記名義変更に関する照会をし,これに対し,原告は,「遺産分割(相続共有後の現物分割)」と回答したにもかかわらず,その約7か月後に本件通知書1が送付された。

      このような経緯を踏まえると,O税務署長は,本件交換が共有物の現物分割であったことを認識していたはずであり,これを民法上の交換契約と認定した合理的根拠はない。

    ウ 本件通知書1及び本件通知書2の発出により,原告は,相続税の納税猶予期限が確定しているものと誤信し,その納税義務がなかったにもかかわらず,本件相続税等を納付したものであり,原告には,納付税額相当の損害が生じた。

   (被告の主張)

    ア 前記(2)(争点①)で主張したとおり,「譲渡等」は,有償無償を問わず,資産の移転を広く含むものと解釈すべきであり,これと異なる解釈を採用すべき根拠規定は改正前措置法には見当たらないことから,O税務署長は,「譲渡等」の意義を文理に忠実に,形式的かつ客観的に解釈した上で,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するものと判断した。このような解釈は,租税法規について,みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではないとの最高裁判例(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁)等によって裏付けられている。

    イ 個別に検討すると,本件転用については,O税務署長の判断当時,被相続人の相続開始後,納税猶予の対象となっている「特例農地等」上に他人所有の建物が建築されたが,当該建物を相続人が独占的に使用し,当該建物の所有者も臨時的に当該建物を使用することがある事案において,このような使用借権の設定が「譲渡等」に該当すると判断した平成14年5月30日付けの国税不服審判所の裁決例(乙49)があった。

      また,O税務署長が,平成26年11月26日,原告に対し,本件通知書2(甲7の2)を送付した時点において,「特例農地等」上の他人所有の建物が存在したとしても,それを相続人が使用し,「特例農地等」を農業の用に供しているときは,「譲渡等」に該当しないという解釈を採用した裁判例,裁決例及び実務上の取扱いは不見当であった。

      次に,本件交換については,前記(2)(争点①)で主張したとおり,「特例農地等」の交換が行われた場合でも,それが「譲渡等」に該当することを前提に,買換え特例の承認を受けない限り,相続税の納税の猶予を受けられないのであるから,本件交換は「譲渡等」に該当し,O税務署長の法解釈に誤りはない。

      また,O税務署長は,本件和解において作成された弁論準備手続調書に添付された和解条項の記載内容から,本件交換が民法上の交換契約であると法的評価したところ,原告及びQらがした法律行為の内容が公証されている弁論準備手続調書の記載を形式的,客観的に解釈すれば,かかる法的評価は極めて自然なものである。

      さらに,O税務署長が,平成15年6月30日,原告に対し,本件通知書1(乙4)を送付した時点において,交換契約が「譲渡等」に該当しないという解釈を前提にした裁判例,裁決例及び実務上の取扱いは不見当であった。

      これらからすれば,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するとのO税務署長の判断には,相当の合理的根拠があった。

      したがって,本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するとして,原告に対して本件通知書1及び本件通知書2を送付したO税務署長の対応は,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえないし,O税務署長には過失もない。

    ウ 原告が,相続税の納税猶予期限が確定しておらず,相続税の納税義務を負っていないにもかかわらず,相続税を納付したのであれば,その納付と同時に,原告は,被告に対し,納付税額と同額の誤納金還付請求権を取得するから,原告の財産は減少しておらず,原告に損害は生じていない。

   (7) 争点⑥(国家賠償請求権の消滅時効の成否〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (被告の主張)

    ア 被害者が損害を知った時(国家賠償法4条,民法724条前段)とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味し,具体的には,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいい,一般人であれば,加害行為が違法であると判断するに足りる事実を認識していれば,被害者において損害の発生を現実に認識したといえると解される。

    イ 原告は,平成15年7月11日までに本件通知書1(乙4)を受領したことで,相続税の納税猶予期限が確定していない根拠となる事実を認識し,また,これを受けて同年8月21日までに本件相続税等を納付したことで納税猶予期限が確定した本件相続税等を納付した事実を認識した。

      原告が認識していた上記事実は,一般人の理解を前提にすれば,国家賠償法上違法な行為に基づいて損害が生じたことを判断するに足りるものということができ,原告は,損害の発生を現実に認識していたといえ,これらの日に,納付税額相当の損害が生じたことを知ったから,これらの日から原告の国家賠償請求権の消滅時効は起算される。

      そうすると,原告の国家賠償請求権の消滅時効は,本件通知書1の受領の3年後である平成18年7月11日及び本件相続税等の納付の3年後である同年8月21日の経過によって完成した。

   (原告の主張)

     原告は,O税務署長から送付された本件通知書1(乙4)及び本件通知書2(甲7の2)により,相続税の納税猶予期限が確定したことを一方的に通知され,納期限を指定されたため,相続税の納税猶予期限が確定したものと誤信して,本件相続税等を納付したものである。

     そもそも,前記(6)(争点⑤)で主張したとおり,本件通知書1及び本件通知書2は,O税務署長が改正前措置法の解釈を誤って発出したものであり,これらは違法なものであった。

     そして,一般納税者である原告は,本件通知書1及び本件通知書2が違法であり,損害賠償請求及び誤納金の還付請求が可能であることを認識し得なかった。原告が,相続税の納税猶予期限が確定したことに疑問を持ち,損害賠償請求及び誤納金の還付請求が可能との認識を有するに至ったのは,平成26年11月26日に本件通知書2が送付された後,専門家に相談した時であるから,原告の被告に対する国家賠償請求権は時効により消滅していない。

   (8) 争点⑦(被告による国家賠償請求権の消滅時効の援用が信義則に違反するか〔本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,本件転用は「譲渡等」に該当するが,本件交換が「譲渡等」に該当しない場合,又は本件転用が「譲渡等」に該当しないが,本件交換が「譲渡」に該当する場合に問題となる争点〕)について

  (原告の主張)

     O税務署長は,原告において,本件交換が共有物の現物分割であることなどを詳細に述べて相続税の納税の猶予を継続して受けることを求めたにもかかわらず,前記(6)及び(7)(争点⑤及び争点⑥)で主張したとおり,「譲渡等」に関する誤った法解釈を前提に,違法に本件通知書1(乙4)及び本件通知書2(甲7の2)を発出した。

     原告は,このような違法な本件通知書1及び本件通知書2に基づいて本件相続税等を納付したものであるから,被告が消滅時効を援用して原告に対する損害の填補を免れることは,明らかに正義,公平に反するものであり,信義則に違反するものである。

   (被告の主張)

     原告の主張は,結局のところ,違法な行為をした被告自身が,それによって発生した国家賠償請求権の消滅時効を援用することが信義則に違反して許されないというものである。このような原告の主張は,およそ国又は地方公共団体が国家賠償請求権の消滅時効を援用することが許されず,国家賠償制度における消滅時効制度そのものを否定するに等しく,法的根拠に乏しい独自の見解というほかない。

 第3 当裁判所の判断

  1 認定事実

   (1) 本件転用に関する事実関係

    ア 本件施設については,平成10年8月13日及び同月21日,いずれも建築主をTとして建築確認がされ,本件施設は同年12月頃に完成した。本件施設は,Tを所有者として「土地・家屋・償却資産名寄帳〔課税(補充)台帳〕」(以下「本件台帳」という。)に登録され,本件施設に係る固定資産税の課税及び賦課徴収は,Tに対して行われるとともに,Tは,所得税青色申告決算書において減価償却資産として本件施設を計上し,原告は,Tから本件施設を賃借し,Tに対してその賃料を支払っている一方,本件施設の敷地となっている本件農地3及び本件農地4の各一部について,Tから賃料を得ていない。

      (乙7~9の6,10の1~6,11の1~6,弁論の全趣旨)

    イ(ア) 原告及びTは,平成11年3月3日,本件施設の建築に当たり,V農業協同組合から5850万円を借り入れ,連帯債務者として借入金債務を負担したところ,同農業協同組合に対する借入金債務の返済は,Tが行っている(甲17,19)。

     (イ) 原告は,自らの農業経営において,Tを雇用し,Tに対し,給与を支給している(乙10の1~6)。

    ウ U町農業委員会長は,平成12年12月19日,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」を送付し,本件農地3及び本件農地4の各一部について,本件施設の建築が予定されており,それは措置法施行令40条の7第6項に掲げる施設の用に供するための転用であるとして,農地法4条1項の規定による許可をした旨通知した(甲14の1,乙30)。

    エ 原告が同月28日,平成15年12月12日頃及び平成18年2月1日にO税務署長に対して提出した各継続届出書には,いずれも原告が農業経営をしている旨のU町農業委員会長名義の証明書が添付されており,当該各証明書には,本件農地3及び本件農地4の各一部は,措置法施行令40条の7第6項に規定する「譲渡等」から除外される転用の態様として挙げられている施設に供されている農地として記載されている(乙5の2~4)。

   (2) 本件交換に関する事実関係

    ア 原告及びQらは,本件和解による本件交換に先立つ平成13年10月2日,O税務署長に対し,本件申立書(乙3)を提出し,①亡Pの相続税において,原告が相続税の納税の猶予を受けている本件農地7,本件農地8及び本件農地9について,共有者全員の合意により共有物分割をしたこと,②本来であれば登記原因を共有物分割とすべきところ,Qらが農業者ではなく,分割後の転用計画も明確になっていない現状においては,共有物分割を目的とする登記に必要な農地法の許可が下りないため,やむを得ず分筆登記後に各人が所有権の一部を放棄することにより,共有物分割と同様の結果となるように考慮して実施したこと,③登記に至るかかる事情を理解の上,原告に対する相続税の納税猶予の継続をお願いしたいことを申し立てた(乙3)。

    イ 原告は,平成12年11月16日,O税務署長に対し,本件農地9について,協議分割による分筆を理由として,相続税の納税の猶予を受けるために提供していた担保の一部解除をするよう申し出たところ,O税務署長は,本件交換に先立つ平成13年10月10日,同申出に基づき,本件農地9に係る担保を解除した(甲13,乙27,28の1)。

    ウ(ア) O税務署長は,本件交換後の平成14年11月1日,原告に対し,「登記名義の変更についてのお尋ね」と題する文書を送付し,同年2月26日付けの持分放棄の登記により,原告名義となった本件農地1,本件農地2,本件農地7及び本件農地8について,名義変更の理由を回答するよう求めた(甲12の1)。

       これに対し,原告は,同月18日,O税務署長に対し,本件農地7及び本件農地8について,「遺産分割(相続共有後の現物分割)」という理由を記載し,本件和解に係る弁論準備手続調書を添付して返信した(甲12の2)。

     (イ) また,U町農業委員会長は,平成15年5月1日頃,O税務署長に対し,「農地等の異動事実の通知書」を送付し,本件農地9に係る原告の共有持分が全部Qらに移転したこと,それが本件和解の日である平成13年12月18日における持分放棄によることを通知した(甲14の2,乙32,弁論の全趣旨)。

  2 争点①(本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当しないか)について

  (1) 本件転用について

   ア Tは,本件台帳上,本件施設の所有者として登録され,本件施設の固定資産税を納税していることに加え,自らの所得税の青色申告決算書において,本件施設を減価償却資産として計上している一方で,原告は,Tから本件施設を賃借した上,その賃料を支払っている(認定事実(1)ア)。これによれば,本件施設は,原告ではなく,Tが所有していると認められる。

      そして,本件施設は,原告が所有する本件農地3及び本件農地4の各一部の上に存在するものの,Tは,原告に対し,本件施設に係る賃料等を支払っていない(認定事実(1)ア)。

      そうすると,Tは,本件施設を所有するために,原告が所有する本件農地3及び本件農地4の各一部を無償で利用していることになるから,原告は,Tに対し,「特例農地等」について,「使用貸借による権利〔中略〕の設定をし」た(改正前措置法70条の6第1項1号)といえ,本件転用は「譲渡等」に該当するということができる。

    イ これに対し,原告は,本件施設の建築資金の融資を受けたり,そのために担保権を設定したりする都合上,本件施設について,原告の農業を将来的に承継するTの所有としたものであるし,融資に対する返済は,原告がTに対して支払った賃料を原資として行われていることから,本件施設は,原告の農業の用に供されており,原告以外の者のために建築されたものではなく,実質的には原告の所有に属するものであり,このことは,U町農業委員会が,本件転用について,農地法5条ではなく同法4条に基づく許可をし,「譲渡等」に該当しない転用(措置法施行令40条の7第6項)に当たると認定していることからも裏付けられる旨主張する。

      確かに,原告は,自己の農業経営においてTを雇用しており(認定事実(1)イ(イ)),Tは,原告の農業に関与しているといえる。また,原告とTは,本件施設の建築資金の融資を受けるに当たって連帯債務者となっている(認定事実(1)イ(ア))ことからすると,Tは,原告の農業経営に供するために本件施設を建築し,原告は,現に本件施設を自己の農業の用に供しているということもできる。

      しかしながら,本件施設が原告の農業経営のために使用されているとしても,Tが,本件台帳上,本件施設の所有者として登録され,本件施設の固定資産税を納税していること,Tは,自らの所得税の青色申告決算書において,本件施設を減価償却資産として計上していること,Tは原告から本件施設の賃料を受領していること,Tが本件施設の建築資金であるV農業協同組合からの借入金債務を弁済していること(認定事実(1)ア)等の事実からすれば,本件施設はTの用にも供されていると評価でき,そうすると,たとえ,同農業協同組合からの借入れ及び同農業協同組合に対する担保権設定の都合から本件施設の所有者をTとしたこと,上記賃料が上記借入金債務の返済原資となっていること等の事情があったとしても,本件施設の実質的な所有者が,Tではなく,原告であると認めることはできないというべきである。

      また,本件転用に係るU町農業委員会の許可の法的根拠が農地法5条ではなく同法4条にあったとしても,本件転用に係る許可申請書(甲10の1)には,本件施設の所有者及びその敷地利用に係る法律関係の記載がないこと(前提事実(4))からすれば,U町農業委員会が,本件施設の所有者及びその敷地(本件農地3及び本件農地4の各一部)の利用に係る法律関係を踏まえて農地法4条に基づく許可をしたとは認められない。さらに,U町農業委員会は,本件施設につき,原告の耕作又は養畜の事業に係る施設として,本件農地3及び本件農地4の各一部を本件施設の敷地にするための転用として認定しているが(認定事実(1)ウ,エ),「農地等の異動事実の通知書」(甲14の1,乙30)及び継続届出書添付の証明書(乙5の2~4)には,いかなる根拠に基づいて本件転用が「譲渡等」に該当しない転用と認定されたのかに関する理由が記載されていない(特に,対外的にはTが本件施設の所有者として行動しているにもかかわらず,Tの本件施設の所有権及びその敷地の使用貸借権を否定した根拠が明らかではない。)。そうすると,これらによっても,本件施設の実質的な所有者が原告であることが裏付けられているとまではいえない。

      これらによれば,本件施設が実質的に原告の所有に属すると認めることはできず,農地法4条に基づき本件転用の許可がされていることが上記アの認定を左右するものではない。

    ウ さらに,原告は,形式的に本件農地3及び本件農地4の各一部を使用貸借に供したとしても,そのことによって,使用貸借部分に係る宅地期待益が実現するような利得が発生したわけではないとして,本件転用が「譲渡等」に該当しない旨主張する。

      しかしながら,上記アで説示したとおり,本件施設の所有者は実質的にもTであり,原告は,Tに対し,本件施設に係る敷地部分である本件農地3及び本件農地4の各一部に使用貸借権を設定した以上,宅地期待益の実現があったか否かを問題とするまでもなく,改正前措置法70条の6第1項1号の文言上,本件転用が「譲渡等」に該当することは明らかであるから,原告の主張は採用できない。

    エ 以上によれば,本件転用は「譲渡等」に該当する。

   (2) 本件交換について

   ア そもそも,租税法規は,みだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁),多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から,法的安定性の要請が強く働くため,その解釈は,原則として文理解釈によるべきである。

      そこで,このことを踏まえて,本件交換が改正前措置法70条の6第1項1号の「譲渡」に該当するかを判断すると,本件交換は,本件農地9に係る原告の共有持分(「特例農地等」に該当するもの)を原告からQらに移転する一方,本件農地1ないし本件農地8に係るQらの共有持分(「特例農地等」に該当しないもの)をQらから原告に移転するものである。

      そして,一般に,資産を移転させる行為を(資産の)譲渡というところ,たとえ同時に「特例農地等」に該当しない農地を取得したとしても,「特例農地等」の所有権を第三者に移転する行為は,「特例農地等」を減少させるものであって,「特例農地等」の譲渡に当たると解するのが文理解釈にかなう。

      上記のように解した場合,「特例農地等」を喪失する代わりに,「特例農地等」とは異なる農地を取得し,実質的には,農業相続人の営農の実態に大きな変化がない場合であっても,納税猶予期限が確定する事態が生ずることとなるが,このような事態を防ぐために,買換え特例の制度が用意されているのであるから,農業相続人に大きな不利益が生ずるものではない。

      以上によれば,本件交換は「譲渡」に該当する。