(1) まず,侵害的利用の蓋然性について,このソフト自体の有用性の反面としての侵害的利用の容易性,誘引性があることや,また提供行為の態様として対象が広汎,無限定であることについては,開発者として当然認識は有していると認められる。また,客観的な利用状況については,多数意見が理由4(3)で挙げる①開発宣言をしたスレッドへの侵害的利用をうかがわせる書き込み,②本件当時のWinnyの侵害的利用に関する雑誌記事などの情報への接触,③被告人自身の著作物ファイルのダウンロード状況などに照らせば,被告人において,もちろん当時として正確な利用状況の調査がなされていたわけではないので4割が侵害的利用などという数値的な利用実態の認識があったとはいえないにしても,Winnyがかなり広い範囲(およそ例外的とはいえない範囲)で侵害的に利用され,流通しつつあることについての認識があったと認めるべきであろう。

       多数意見の指摘する被告人の侵害的利用状況の認識・認容に関わる諸事情は,その蓋然性の認識の判断に当たり消極に働く事情として慎重に検討すべき点ではあろう。しかし,これらの事情を考慮し,また,被告人の研究開発者としての志向,すなわち有用性というプラス面の技術開発への傾倒,没頭と,一方で副作用ともいうべき侵害的利用というマイナス面への関心,配慮の薄さという面を考慮しても,侵害的利用についての高度の蓋然性の認識を否定するには至らないと思われる。そして,通常は,このような侵害的利用の高度の蓋然性に関する客観的な状況についての認識を持ちながら,なお提供行為を継続すれば,侵害的利用の高度の蓋然性についての認容もまた認めるべきと思われる。

     (2) 前述したとおり,本件のような技術提供行為が技術的有用性と法益侵害性を併せ持ち,また不特定多数の者への提供が行われる場合の幇助の故意の成立に,一般の故意の内容以上に,法益侵害性への積極的な意図や目的を有する場合に限定することは,やはり十分な根拠を得るものではなく,躊躇せざるを得ないところである。

       私も,多数意見と同様,検察官の主張するような,被告人がWinnyを利用した著作物の違法コピーのまん延を望んでいたとか,侵害的利用を主目的に開発・提供をしていた,などの積極的侵害意図を認めるものではない。被告人のソフト開発とその提供が,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするということを主目的としていたと認めるにやぶさかではない。

       多数意見は,被告人の幇助の故意を消極的,否定的に評価する事情として,開発スレッドへの書き込みに自らソフトの開発・提供の意図を書き込んでいたとか,著作権者側の利益が適正に保護されることを前提とした新たなビジネスモデルの出現を期待していたとか,侵害的利用についてこれをしないよう警告のメッセージを発していたという点を挙げるが,これらは被告人に法益侵害の積極的意図が無かったという事情としてはもっともであるにしても,これらの事情が必ずしも法益侵害の危険性の認識・認容と抵触し,これを否定することにはならないと考えられる。提供行為の法益侵害の危険性を認識しているからこそ,このような利用が自らの開発の目的や意図ではなく,本意ではないとして警告のメッセージとして発したものと考えられる。被告人は,このようなメッセージを発しながらも,侵害的利用の抑制への手立てを講ずることなく提供行為を継続していたのであって,侵害的利用の高度の蓋然性を認識,認容していたと認めざるを得ない。

    6 以上のとおり,私は,被告人に幇助犯としての構成要件該当性及びその故意を認め得ると考えるが,弁護人の主張に実質的な違法性阻却の主張が含まれているとも考えられるので,若干この点についての意見も付言しておく。

      既に述べたとおり,被告人のWinnyの開発・提供の主目的は,P2P方式によるファイル共有ソフトの効率性,匿名性をこれまで以上に高め,それ自体多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能にするという技術的有用性の追求にあったことが認められ,また不特定多数の者にこれを提供して意見を徴しながら開発を進めるという方法も,特段相当性を欠くとは認められないところである。

      このような点を踏まえると,本件において,行為の目的,手段の相当性,法益侵害の比較,あるいは政策的な配慮などを総合考慮し,社会通念上許容し得る場合,あるいは法秩序全体の見地から許容し得る場合に違法性を阻却するとする実質的違法性の問題についても検討の余地はあろう。

      確かに,本件で著作権侵害の違法行為を行ったのは正犯者であり,被告人のWinnyの提供行為はその一手段を提供したにすぎず,また,手段としてのファイル共有ソフトは何もWinnyに限られていたというわけではなく,P2P方式のものとしてもより汎用されていたWin‐MXなども存在していた。このように被告人のWinnyの提供行為は,著作権侵害・法益侵害への因果性は薄く,民事の不法行為責任は問い得ないとする見解もあり,その意味で微罪性を持つといえないわけではない。

      しかしながら,個々の侵害行為におけるソフトの果たす役割が大きくないにしても,前述のように,本件Winnyは,侵害的利用の容易性といったその性質,不特定多数の者への無限定の提供というその態様などから,大量の著作権侵害を発生させる素地を有しており,現にそのような侵害的な利用が前述のように多発もしていたのであって,法益侵害という観点からは社会的に見て看過し得ない危険性を持つという評価も成り立ち得よう。侵害される法益は,侵害に対しては懲役刑(本件当時長期3年以下の懲役)をもって保護される法益である。

      一方,被告人の開発・提供行為は,ネット社会においてその有用性について一定の評価がなされているが,このような分野での技術の開発はまさに日進月歩であり,開発中のソフトについて,その技術開発分野での十分な検証を踏まえて客観的な評価を得ることも甚だ困難を伴う。

      このような本件Winnyの持つ法益侵害性と有用性とは,「法益比較」といった相対比較にはなじまないともいえよう。本件Winnyの有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされているところであり,改めてこの点を考慮しての実質的違法性阻却を論ずるのは適当ではないように思われる。

      (なお,先に政策的な配慮という点を挙げたが,前述したとおり,被告人の開発,提供していたWinnyはインターネット上の情報の流通にとって技術的有用性を持ち,被告人がその有用性の追求を開発,提供の主目的としていたことも認められ,このような情報流通の分野での技術的有用性の促進,発展にとって,その効用の副作用ともいうべき他の法益侵害の危険性に対し直ちに刑罰をもって臨むことは,更なる技術の開発を過度に抑制し,技術の発展を阻害することになりかねず,ひいては他の分野におけるテクノロジーの開発への萎縮効果も生みかねないのであって,このような観点,配慮からは,正犯の法益侵害行為の手段にすぎない技術の提供行為に対し,幇助犯として刑罰を科すことは,慎重でありまた謙抑的であるべきと考えられる。多数意見の不可罰の結論の背景には,このような配慮もあると思われる。本件において,権利者等からの被告人への警告,社会一般のファイル共有ソフト提供者に対する表立った警鐘もない段階で,法執行機関が捜査に着手し,告訴を得て強制捜査に臨み,著作権侵害をまん延させる目的での提供という前提での起訴に当たったことは,いささかこの点への配慮に欠け,性急に過ぎたとの感を否めない。その他,被告人には営利の目的もなく,また法執行機関からの指摘を受けて,Winnyの公開のためのウェブサイトを直ちに閉じる措置を採るなど,有利な事情も認められる。

      一方で,一定の分野での技術の開発,提供が,その効用を追求する余り,効用の副作用として他の法益の侵害が問題となれば,社会に広く無限定に技術を提供する以上,この面への相応の配慮をしつつ開発を進めることも,社会的な責任を持つ開発者の姿勢として望まれるところであろう。私は,前記の1ないし5から,被告人に幇助犯としての犯罪の成立が認められ,上記のような被告人にとっての事情は,幇助犯として刑の減軽もある量刑面で十分考慮されるべきものと考える。)

    7 以上により,私は,原判決の破棄は免れないものと考える。

 (裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)