納税者の建物譲渡はないという主張を排斥した大阪高裁平成16年判決

 

 事例判断の参考になります。ただ重加算税までやろうとした場合は、この認定はおかしい、ということになるのかもしれません。租税がおかしくなることについて要素の錯誤とすべきという阿部泰隆先生の指摘によると本件判断は全面的に否定されるべきものであります。

 

督促処分取消、差押処分取消、通知処分取消請求控訴事件

 大阪高等裁判所判決/平成16年(行コ)第77号

 平成16年12月17日

【判示事項】 (1) 納税者は確定申告において、建物を原告会社に譲渡した旨の譲渡所得計算明細書を提出し、当該建物の賃料収入を計上しなくなったこと、原告会社が当該建物の賃料収入、経費、負債を原告会社に帰属させて会計処理し、確定申告したこと、納税者は原告会社を設立して法人成りし、不動産賃貸業を廃業した旨の予定納税減額申請書を提出していること、原告会社を設立したのは、納税者が所有する不動産を原告会社に譲渡して運用する方が、課税上有利であるとの勧めによるものであることなどの事情を考慮すれば、当該建物は納税者から原告会社に譲渡されたと強く推認されるとした事例(原審判決引用)

       (2) 所有権移転登記がされていないことを理由として建物の譲渡がないとする納税者らの主張が、登記自体は対抗要件にすぎず、また、当該建物の貸付先である訴外公社に当該建物の譲渡を覚知されることを恐れて原告会社への移転登記をしなかった可能性も十分考えられるとして排斥された事例(原審判決引用)

(3) 建物を譲渡することによって被る不利益を理解していたことから、譲渡することはあり得ないとする納税者の主張が、納税者が納税猶予の継続を申し出るために課税庁に提出した嘆願書案及び一連の確定申告書を作成した者の証言から、納税者自身も当該建物を法人成りした控訴人会社へ譲渡した場合、納税猶予が打ち切られることについての認識を欠いていたことが推認されるとして排斥された事例(原審判決引用)

 (4) 確定申告書作成者の独自の見解に基づく会計処理を理解できないままそれに従ったか又は確定申告書作成者が誤って建物を譲渡した旨の会計処理及び税務申告をしたことを見過ごしたことから、建物を譲渡したことを前提とした確定申告になったとの納税者の主張が、不自然な会計処理について納税者においても当然疑問を抱くのが通常であり、納税者及び原告会社の確定申告の状況からも不自然であるとして排斥された事例

       (5) 建物を譲渡するのに必要な社員総会の認許がないとの納税者らの主張が、実質的に原告会社は納税者の個人会社と推認されることや、少なくとも当該建物を除く譲渡申告不動産について社員総会の認許があったと解されることに照らせば、議事録等書類上の記載がないからといって、当該建物の譲渡について社員総会の認許がないということはできないとして排斥された事例(原審判決引用)

       (6) 建物の賃料収入が納税者名義の預金口座に振り込まれているとの納税者らの主張が、原告会社が同族会社であること、当該建物の貸付先である訴外公社に対しては譲渡の事実を明らかにしない方針を採っていた可能性が高いことから、譲渡後も納税者名義の口座に賃料収入が振り込まれていたとしても不自然ではないとされた事例(原審判決引用)

       (7) 譲渡していない土地についても、原告会社の益金、損金に計上されていることから、建物も譲渡していなかったとの納税者らの主張が、この土地は、相続税の原価算入の限度額の点から譲渡の対象にすることができなかったのに対し、建物は譲渡し得たのであり、土地と建物を同列に論じることはできず、また、原告会社の設立目的がすべての賃貸建物を原告会社に譲渡し、課税上有利に運用するためであったことからすれば同土地の収入・経費が原告会社に計上されているからといって、建物も譲渡がなかったとはいえないとして排斥された事例(原審判決引用)

       (8) 建物の譲渡は確定申告作成者の誤解と誤記によって作出されたものであるから、同譲渡が虚偽表示であるとの納税者の主張が、控訴人会社の設立目的、納税者が所有する不動産に関する譲渡申告の状況、建物に関する会計処理及び納税者の確定申告の内容によれば、建物は実質的に控訴人会社に譲渡されたというべきであるから、同譲渡は通謀虚偽表示に当たらないとして排斥されるとともに、納税者の通謀虚偽表示の主張が信義則に反するか否かという問題も生じないとして排斥された事例

       (9) 建物の譲渡契約には要素の錯誤がある旨の納税者の主張が、納税者は建物を控訴人会社に譲渡した場合に納税猶予が打ち切られることについての認識を欠いており、譲渡に当たっても、納税猶予が打ち切られることはないとの考えを黙示的に表示していたから、要素の錯誤が認められるものの、税理士でもない確定申告書作成者に処理を委ね、納税猶予の打ち切りはないものと軽信したことについて、重大な過失があるから、錯誤による譲渡の無効は認められないとして排斥された事例

       (10) 国税通則法23条2項(更正の請求)の趣旨(原審判決引用)

       (11) 建物が納税者の所有に属することの確認を求める納税者が原告会社を被告として提起した訴訟の判決は利害が対立した当事者間で実質的な審理がされた結果による判決とはいえず、客観的、合理的根拠を欠く判決というべきであり、当該判決に基づく更正の請求は国税通則法23条2項1号(更正の請求)による更正の請求の要件を満たさないとされた事例(原審判決引用)

       (12) 納税者が原告会社に本件建物を譲渡したことが認められるから、原告会社の申告は国税通則法23条1項1号(更正の請求)に該当せず、原告会社に対する法人税はその損益に対して課税されるものであり、仮に建物の譲渡が錯誤により無効であったとしても直ちに影響するものではないとされた事例(原審判決引用)

【判決要旨】 (1)~(9) 省略

       (10) 国税通則法23条2項(更正の請求)の趣旨は、申告時には予知し得なかった事由が後発的に生じたことにより課税標準等及び税額等の計算の基礎に変更を生じ税額の減額をすべき場合にも更正の請求を認めないと、帰責事由のない納税者に酷な結果が生じる場合等があることから、例外的に、一定の場合に更正の請求を認めることによって納税者を救済することにある。

       (11)・(12) 省略

【掲載誌】  税務訴訟資料254号順号9866

       主   文

  1 本件各控訴をいずれも棄却する。

  2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

        事実及び理由

 第一 当事者の求めた裁判

  一 控訴人ら

  1 原判決を取り消す。

   2 被控訴人がした下記各処分をいずれも取り消す。

    (一) 控訴人甲に対し、平成12年6月14日付けでした相続税及びその利子税の督促処分

    (二) 控訴人甲に対し、平成12年6月19日付けでした原判決別紙物件目録記載の各土地に対する差押処分

    (三) 控訴人有限会社Aに対し、平成12年8月21日付けでした①平成8年12月26日から平成9年10月31日までの事業年度、②平成9年11月1日から平成10年10月31日までの事業年度、③平成10年11月1日から平成11年10月31日までの事業年度に係る各更正請求について、更正すべき理由がない旨の通知処分

   3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

  二 被控訴人

    主文と同旨

 第二 事案の概要

  一 控訴人甲(以下「控訴人甲」という。)は、特定市街化区域農地(三大都市圏の特定市の市街化区域内に所在する農地)を相続し、同農地につき相続税の納税猶予の特例の適用を受け、さらに、同農地上に所定の要件を満たす共同住宅(本件建物)を新築し、これをB公社(以下「公社」という。)に賃貸することによって、特定転用制度を利用して前記特例の適用を受け続けてきた。ところが、控訴人甲が被控訴人に対し、その後設立した控訴人有限会社A(以下「控訴人会社」という。)に上記共同住宅を譲渡したことを前提として確定申告等をしたところ、被控訴人から、上記共同住宅の貸付を行わなくなったのであるから、納税猶予が打ち切りになり、納税猶予期限が到来したとして、相続税等の督促処分及び土地の差押処分を受けた。そこで、控訴人甲が被控訴人に対し、督促処分の取消を求めたのが原審における甲事件、差押処分の取消を求めたのが原審における乙事件である。

    一方、控訴人会社は被控訴人に対し、上記共同住宅からの賃料収入を控訴人会社の益金として法人税の申告をしたのは誤りであったとして更正請求をしたところ、被控訴人から、更正すべき理由がない旨の通知処分を受けた。そこで、控訴人会社が被控訴人に対し、その取消を求めたのが原審における丙事件である。

  二 原審は、(1)控訴人甲の各請求につき、①控訴人甲が控訴人会社に上記共同住宅を譲渡したものと認められる、②同譲渡が通謀虚偽表示であるとは認められず、そうである以上通謀虚偽表示の主張が信義則に反するか否かを判断する必要はない、③控訴人甲に要素の錯誤があったとは認められず、仮に錯誤があったとしても、控訴人甲に重過失があったと認められる、④したがって、納税猶予制限が確定したとしてなされた上記督促処分及び差押処分は適法であるなどと判断して控訴人甲の各請求をいずれも棄却した。

    また、原審は、(2)控訴人会社の丙事件請求につき、①控訴人会社のした平成9年10月期及び平成10年10月期の更正請求は、控訴人甲と控訴人会社間で上記共同住宅が控訴人甲の所有に属するものとした本件確認判決が当事者間で実質的審理がなされた判決とはいえず、客観的、合理的根拠を欠く判決であるから、国税通則法23条2項1号の「判決」とはいえず、更正請求の要件を満たさないものである、②平成11年10月期の更正請求は、控訴人甲が控訴人会社に上記共同住宅を譲渡したのであるから、更正請求の要件を満たさない、③上記譲渡が錯誤により無効であるとしても、控訴人会社に対する法人税は、この譲渡を要件として課税されるものではなく、これによって控訴人会社に生じた損益に対して課されるものであるから、上記譲渡の無効が直ちに影響を及ぼさないなどとして、本件各通知処分をいずれも適法と判断し、控訴人会社の各請求をいずれも棄却した。

    これに対し、控訴人らが控訴したのが本件である。

  三 その他、本件事案の概要は、後記四のとおり控訴人らの当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」2以下に記載されたとおりであるから、これを引用する。

    ただし、原判決17頁15、16行目の「不利益を認識していた」を「不利益を被ることになるのであって、控訴人甲は、このことを認識していた」と改める。

  四 控訴人らの当審における補充主張の要旨

   1 控訴人甲は、本件建物を控訴人会社に譲渡していない。

    (一) 原判決は、C証言をもとに、控訴人甲は、平成9年当時、本件建物を譲渡すれば納税猶予が打ち切られることの認識を欠いていたと認定する。しかし、控訴人甲は、44番1の土地の相続税の申告書において、相続税の納税猶予の特例の適用を受ける旨を記載し、その適用を受けていた。そして、同土地は、甲57年6月15日、その相続税の担保として、大蔵省に抵当権が設定されており、控訴人甲は、このことを認識していた。この抵当権の被担保債権は、相続税額が5642万5600円、利子税額が7448万1000円であった。さらに、控訴人甲は、甲58年12月、相続税額を3889万9000円に修正する申告をした。これらの手続を通じ、控訴人Fは、44番1の土地について相続税の納税猶予の特例の適用があること、納税猶予の税額及び納税猶予期間中の利子税額についての認識があった。

    (二) 控訴人甲は、平成4年11月10日、44番1の土地(当時は、分筆・交換により44番1、4、43番2、3の土地となっていた。)上に本件建物を建築し、公社にその貸付をする見込みであるとして被控訴人に対し特定転用制度の承認を求める申請をし、同年12月3日、その承認を受けた。そして、同制度の承認を受けた者がその継続を希望する場合、3年ごとに被控訴人に対し継続届出書を提出する必要があるが、控訴人甲は、平成7年、平成10年に同届出書を提出している。この届出書には、転用した不動産の明細や納税猶予分の相続税額を記載する必要がある。したがって、控訴人甲は、平成9年当時、特定転用制度を利用していること及び納税猶予分の相続税額について認識していた。

    (三) 特定転用制度を利用するためには、利用者が公社など特定の法人に共同住宅を貸し付ける必要があり、その承認申請書や継続届出書において、特定法人の名称や貸付期間、貸付条件等を記載する必要がある。したがって、控訴人甲は、平成9年当時、特定転用制度の利用を続けるに当たり、本件建物を公社に貸し付け続ける必要があることを認識していた。

    (四) Cは、この点につき、平成9年当時、特定転用制度については聞いていなかったと証言する。しかし、Cは、同時に、公社との関係で譲渡しないでほしいと言われていたので、譲渡はしていないと答えている。これは、譲渡してはいけないという重要な点だけが強く記憶に残り、その理由の部分の記憶が年月の経過の中で失われたものである。

    (五) 控訴人甲が作成・提出した嘆願書案及び嘆願書には、納税猶予の打ち切りを予期していなかった旨の記載がある。しかし、これは、控訴人甲が競業避止義務についてのCの説明を信用して本件建物は譲渡していないという認識であったから、当然のことであって、控訴人甲が本件建物を譲渡すれば納税猶予が打ち切られる認識を有していたとの控訴人らの主張と矛盾するものではない。

    (六) 控訴人甲は、平成9年当時、公社との契約の関係でも、本件建物を譲渡してはいけないとの認識を有していた。

      原判決は、公社との関係につき、移転登記をしないことによって譲渡の事実を公社が覚知するのを避けようとした可能性も十分あるとする。しかし、控訴人甲は、譲渡の事実が覚知され、公社との契約が解除された場合、甚大な損害を被るのであって、このようなリスクを恐れて譲渡しない決定をしたと認定するのが合理的である。しかるに、原判決は、そのような合理的選択をしなかった理由を説明することなく上記のような認定をしたものであって、経験則に反する。

      公社との契約において、禁止されているのは当事者の地位の変更であって、本件建物の譲渡自体を禁じるものではないとの原判決の判示は、当事者の合理的意思解釈とはいえない。

    (七) Cも、当時、本件建物を譲渡してはいけないとの認識を有していた。原判決は、当時、特定転用制度のことは聞いていなかったとするCの証言の一部だけ採用し、その余の証言を無視しているが、不合理な事実認定である。

    (八) 本件建物の譲渡があったとする原判決の認定は、不合理である。

      原判決は、控訴人会社に譲渡していない土地の賃料収入を控訴人会社に計上することは、Cの見解に従った会計処理であると認定する。しかし、そうであれば、Cがどのような誤解をしていたかを推認し、Cが競業避止義務について独自の見解を有し、そのことによってC作成の決算書、申告書において譲渡していない不動産につき譲渡がなされたような誤った記載がなされたと推認すべきである。しかるに、原判決は、本件建物を控訴人会社に譲渡していないにもかかわらず、その賃料収入及び経費を控訴人会社の益金、損金に計上すること自体極めて不自然な会計処理であり、長年経理業務に携わってきたCがそのような会計処理をもって正しいとする見解を真に有していたかどうか疑問であるとする。これは、事実を無視し、原則論のみに基づいた不合理な事実認定である。

      控訴人らは、競業避止義務とは別にCが誤記をしたと主張し、Cがその旨の陳述・証言をしているのに、原判決がこれを無視しているのは、不当な事実認定である。

      平成9ないし11年度分の決算書及び確定申告書において、本件建物を譲渡したかのような記載がなされているのは、Cの誤解と誤記と、控訴人らがCから商法上の競業避止の規定からすればこうなると説明を受け、理解できないままCの勧めに従ったからである。

    (九) 控訴人らは、税務署のEから連絡を受けた当初から、本件建物を譲渡したものではないと説明しているのであって、原判決がこのような控訴人らと被控訴人との交渉の経過を無視しているのは、不当な事実認定である。

   2 仮に譲渡契約が成立しているとしても、その契約は無効である。

    (一) 虚偽表示

      原判決は、控訴人らの主張を節税目的で本件建物を譲渡したものと認定して虚偽表示の主張を排斥している。しかし、譲渡の外形が作出されたのは、Cの誤解と誤記によるものであって、節税目的の失敗にすぎないものではない。

    (二) 錯誤

      原判決は、控訴人甲は、本件建物の譲渡の際、本件建物について特定転用制度の適用があり、譲渡すれば納税猶予が打ち切られることについての認識を欠いていたとの認定を前提として、要素の錯誤とは認められないと認定する。しかし、控訴人甲は、本件建物の譲渡の際、本件建物につき特定転用制度の適用があり、譲渡すれば納税猶予が打ち切られることの認識を有していたのであるから、原判決は、その前提に誤りがある。控訴人甲が信頼したのは、平成9ないし11年度分の決算書及び確定申告書において、本件建物を譲渡しているかのような記載がなされていることについて、そのような記載をしても、譲渡したことにはならないということである。

   3 控訴人会社の更正請求について

   (一) 本件確認判決は、客観的、合理的根拠に基づく判決であり、国税通則法23条2項1号の「判決」に当たる。

    (二) 平成11年10月期の更正請求は、本件建物の譲渡がなく、原判決は、その前提に誤りがある。また、原判決が「仮に、本件建物の譲渡が錯誤により無効であるとしても」として述べるところは必ずしも明確ではないが、上記のとおり、控訴人甲に損益が生じたことは、事実自体としても一貫している。

 第三 当裁判所の判断

  一 当裁判所は、以下のように判断する。その理由は、二以下に述べるとおりである。

     (1) 控訴人甲が控訴人会社に上記共同住宅(本件建物)を真実譲渡したものであり、通謀虚偽表示とは認められない。そうである以上、通謀虚偽表示の主張が信義則に反するか否かを判断する必要はない。また、控訴人甲には要素の錯誤があったが、重過失が認められるから、譲渡が無効とはいえず、これによって納税猶予制限が確定したとしてなされた上記督促処分及び差押処分は適法であって、控訴人甲の本件各請求は、いずれもこれを棄却すべきものである。

     (2) 控訴人会社のした平成9年10月期及び平成10年10月期の更正請求は、控訴人甲と控訴人会社間で本件建物が控訴人甲の所有に属するものとした本件確認判決が当事者間で実質的審理がなされた判決とはいえず、客観的、合理的根拠を欠く判決であるから、国税通則法23条2項1号の「判決」とはいえず、更正請求の要件を満たさないものである。平成11年10月期の更正請求は、控訴人甲が控訴人会社に上記共同住宅を譲渡したのであるから、更正請求の要件を満たさない。また、上記譲渡が錯誤により無効であるとしても、控訴人会社に対する法人税は、この譲渡を要件として課税されるものではなく、これによって控訴人会社に生じた損益に対して課されるものであるから、上記譲渡の無効が直ちに影響を及ぼすものではなく、本件各通知処分はいずれも適法であって、控訴人会社の本件各請求は、いずれもこれを棄却すべきものである。

  二 争点についての判断の前提となる事実関係、争点(1)ないし(3)(控訴人甲が本件建物を控訴人会社に譲渡したか否か、譲渡が通謀虚偽表示に当たるか否か、控訴人らの通謀虚偽表示の主張が信義則に反するか否か)についての判断は、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1ないし3(25頁18行目から31頁17行目まで)に説示されたとおりであるから、これを引用する。

    ただし、原判決を以下のとおり補正する。

   1 原判決25頁19行目の「乙」の次に「3、」を、「11、」の次に「13、」を加える。

   2 同20行目の「以下の事実が認められる」の次に「(以下、甲19、20、28、66、75、Cの証言を合わせて「Cの供述」、甲65、76、91を合わせて「Fの供述」ということがある。)」を加える。

   3 同28頁24行目の「本件建物を譲渡すれば」を「本件建物を法人成りした控訴人会社に譲渡した場合にも」と改める。

   4 同29頁5行目の「と主張する」を「とか、本件建物についての会計処理及び税務申告は、控訴人甲から控訴人会社への譲渡を禁じられていたのに、Cが誤って譲渡した旨の会計処理及び税務申告をしたものであり、控訴人甲は、これを見過ごしたものであると主張し、C及びFの各供述中には、これに副う供述部分がある」と改める。

   5 同29頁6行目の「しかし、」の次に「そもそも、控訴人会社は、控訴人甲がCから課税上有利であると勧められてその所有不動産を譲渡する目的で設立したものであり、その所有不動産中で最も高額である本件建物及びその敷地である44番1の土地を控訴人会社に譲渡しないとすれば、控訴人会社を設立した目的からみて甚だ不徹底というべきものである。しかも、」を加える。

   6 同29頁16行目の「Cの見解にそのまま従ったとする原告らの主張」を「Cの誤った見解と誤った会計処理・税務申告にそのまま従っただけであるとする控訴人らの主張及びこれに副うC及びFの各供述」と改める。

   7 同31頁10行目から15行目を次のとおり改める。

     「控訴人らは、本件建物の譲渡はCの誤解と誤記によって作出されたものであることを前提として、同譲渡が虚偽表示であると主張するが、本件建物の譲渡がCの誤解と誤記によって生じたものと認められないことは前記のとおりであるから、控訴人らの主張は採用できない。」

   8 同31頁16行目の「原告」を「控訴人ら」と改める。

  三 争点(4)(譲渡が錯誤により無効といえるか)について

  1 要素の錯誤の有無について

    控訴人甲が、平成9年当時、本件建物を控訴人会社に譲渡した場合でも、納税猶予が打ち切られることについての認識を欠いていたと推認されることは、原判決(第3の2の(4))を補正しつつ引用して説示したとおりであり、控訴人甲には、この点に錯誤があったものと認められる。

     そして、この錯誤は、納税猶予が打ち切られる結果、控訴人甲において、利子・借上料・助成金を除く相続税だけでも約2000万円もの負担を強いられるものであるから、通常一般人がこのような事情を知っていれば本件建物の譲渡はしなかったものと認められる。

     もっとも、この錯誤は、譲渡の意思表示の内容そのものについてのものではなく、譲渡によって控訴人甲が公社に対し本件建物の貸付を行わないことになったことによって納税猶予の打切りという結果が生じるということについてのものであるから、いわゆる動機の錯誤にすぎない。したがって、この動機が明示又は黙示に表示されていなければ、要素の錯誤に該当するものとはいえない。

     しかるところ、前記認定の会計処理及び所得税の申告状況とその内容、納税猶予が打ち切られた場合の不利益の内容・程度等に照らせば、控訴人甲は、本件建物を控訴人会社に譲渡しても、現実に納税猶予が打ち切られ、課税されることはないものと考え、これを当然の前提として上記譲渡をしたものであることは外形的にも明らかであり、譲渡に当たり、その旨を黙示的に表示していたものと認められる。

   2 重過失の有無について

    上記のとおり、①本件各譲渡申告不動産の譲渡は、税金対策を目的とするものであったこと、②本件建物を譲渡すれば、特定転用制度の適用が受けられなくなり、納税猶予が打ち切られること自体は、法令にも明記されており、控訴人甲も知っていたこと、③控訴人甲は、自ら本件建物を建築し、これを公社に賃貸することによって、約15年にわたり特定転用制度の適用を受けてきたこと、④平成7年及び平成10年には特定転用の継続届出書を提出しており、平成10年の届出書(甲5)には、関連条文が明記されていたこと、⑤公社との間の賃貸借契約書(甲8)には、公社の承諾なく当事者の地位の変更を禁ずる旨の定めがあったこと、⑥それにもかかわらず、税理士でもないCに処理を委ね、納税猶予の打切りはないものと軽信したことなどからすれば、控訴人甲が本件建物を譲渡しても納税猶予の打ち切りはないと考えたことについては、重大な過失があったものといわざるを得ない。

     したがって、錯誤による譲渡の無効は認められない。

   3 本件督促処分及び本件差押処分の適法性について

    以上のとおりであるから、本件建物は控訴人会社に譲渡されたものであり、これによって控訴人甲が公社への本件建物の貸付を行わないことになったとして、租税特別措置法の一部を改正する法律附則19条8項4号、租税特別措置法70条の6第7項により納税猶予期限が確定したものとしてなされた本件督促処分及びこれに基づく本件差押処分は適法である。

  四 争点(5)(6)(控訴人会社の法人税の更正請求の当否)について

   この点についての当裁判所の判断は、原判決の「第3 当裁判所の判断」6(33頁14行目から35頁10行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。