「相続させる」旨の遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合における当該遺言の効力は原則としてなくなるとした最高裁平成23年判決

寺田最高裁判事は親子で最高裁判事をしていますが、これはジュニアのほうです。

 

 最高裁判所第3小法廷判決/平成21年(受)第1260号

 平成23年2月22日

 

 

【判決要旨】 遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。

 

【参照条文】 民法887

 

       民法908

 

       民法985

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集65巻2号699頁

 

       家庭裁判月報63巻7号84頁

 

       裁判所時報1526号39頁

 

       判例タイムズ1344号115頁

 

       金融・商事判例1366号21頁

 

       判例時報2108号52頁

 

       金融法務事情1930号94頁

 

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 京都学園法学1号59頁

 

       金融・商事判例1367号8頁

 

       月報司法書士473号70頁

 

       ジュリスト1465号88頁

 

       東京都立大学法学会雑誌54巻1号621頁

 

       同志社法学63巻3号1667頁

 

       法学(東北大)78巻3号261頁

 

       法学協会雑誌131巻5号1070頁

 

       法学教室372号48頁

 

       法曹時報66巻4号927頁

 

       法律のひろば64巻9号50頁

 

       民商法雑誌146巻2号154頁

 

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人らの負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人岡田進,同中西祐一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  (1) B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。

  (2) Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。

  (3) Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。

  (4) Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。

  3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。

  4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。

  5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。

  したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

  前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。

  6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)