延滞税 納税者勝訴最高裁平成26年判決

1審2審の人権感覚のなさがきわだちます。責任主義の意識がない。

税務訴訟10号に判例評釈があります。
租税判例百選 第6版99事件 第7版には採用されず。

 

延滞税納付債務不存在確認等請求事件

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(行ヒ)第449号

【判決日付】 平成26年12月12日

【判示事項】 相続税につき減額更正がされた後に増額更正がされた場合において,上記増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について上記相続税の法定納期限の翌日からその新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税が発生しないとされた事例

【判決要旨】 相続税につき減額更正がされた後に増額更正がされた場合において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,上記増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について,上記相続税の法定納期限の翌日からその新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しない。

 

(1) 上記相続税については,法定の期限までに申告及び納付をした納税義務者による更正の請求に基づいて上記減額更正がされ,これにより減額された税額に係る部分につき過納金が還付された後,上記納付をした税額を超えない額に上記増額更正がされた。

 

(2) 上記減額更正は,相続財産である土地の評価の誤りを理由としてされ,上記増額更正は,上記減額更正における土地の評価の誤りを理由としてされた。

       (補足意見及び意見がある。)

【参照条文】 国税通則法24

       国税通則法26

       国税通則法60-1

       国税通則法60-2

       国税通則法61-1

【掲載誌】  最高裁判所裁判集民事248号165頁

       裁判所時報1618号5頁

       判例タイムズ1412号121頁

       判例時報2254号18頁

       税務訴訟資料(徴収関係判決)平成26年順号26-44

       LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】 ジュリスト1481号10頁

       ジュリスト1486号103頁

       ジュリスト1487号65頁

       租税訴訟10号418頁

       税研184号92頁

       税経通信70巻5号184頁

       判例時報2277号188頁

       民商法雑誌151巻1号105頁

 

       主   文

  1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

  2(1) 上告人X1の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万5800円の納付義務が存在しないことを確認する。

   (2) 上告人X2の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万6200円の納付義務が存在しないことを確認する。

  3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人井上清成,同衞藤正道,同尾籠真弥の上告受理申立て理由第3の3について

 1 本件は,亡Aの相続人である上告人らが,Aの相続について,それぞれ,法定申告期限内に相続税の申告及び納付をした後,その申告に係る相続税額が過大であるとして更正の請求をしたところ,所轄税務署長において,相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をするとともに還付加算金を加算して過納金を還付した後,再び相続財産の評価の誤りを理由に増額更正をし,これにより新たに納付すべきこととなった本税額につき,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「法」という。)60条1項2号,2項及び61条1項1号に基づき,法定納期限の翌日から完納の日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日から上記の増額更正に係る更正通知書が発せられた日までの期間を除く。)に係る延滞税の納付の催告をしたことから,上告人らが,被上告人を相手に,上記の延滞税は発生していないとして,その納付義務がないことの確認を求める事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

  (1) 上告人ら及びBは,いずれもAの子であり,Aの死亡により,その財産を相続した。Aの相続に係る各相続税(以下「本件各相続税」という。)の法定申告期限及び法定納期限は平成21年8月25日である。

  (2) 上告人ら及びBは,平成21年7月22日,市川税務署長に対し,それぞれ本件各相続税の申告をした。上告人X1は,同年8月21日,上記申告に係る納付すべき税額4185万1300円を納付し,上告人X2は,同月12日,上記申告に係る納付すべき税額4556万0600円を納付した(以下,これらの申告を「本件各申告」という。)。

  (3) 上告人らは,平成22年7月12日,市川税務署長に対し,本件各申告における相続財産である土地(以下「本件相続土地」という。)の評価額が時価よりも高いことを理由として,それぞれ更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。これに対し,市川税務署長は,同年12月21日,本件各申告における本件相続土地の評価に誤りがあったとして,本件各更正請求の一部を認め,上告人X1について納付すべき税額を3035万5500円とし,上告人X2について納付すべき税額を3353万7100円とする減額更正(以下「本件各減額更正」という。)をした。

  (4) 市川税務署長は,本件各減額更正により上告人らの本件各相続税に係る納付すべき税額が減少したことから,平成23年1月26日,本件各申告に係る納付すべき税額から本件各減額更正に係る納付すべき税額を控除した金額(以下「本件各過納金」という。)に,法58条1項2号に基づき,本件各更正請求があった日の翌日から起算して3月を経過する日の翌日である同22年10月13日からの期間の日数についての租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)95条に基づく特例基準割合である年4.3%の割合による還付加算金を加算した金額につき支払決定をし,上告人らに対して上記の還付加算金を加算して本件各過納金を還付した。これによる各上告人に対する支払額の合計は,上告人X1に対しては1163万9200円(本件各過納金1149万5800円と還付加算金14万3400円の合計額),上告人X2に対しては1217万3600円(本件各過納金1202万3500円と還付加算金15万0100円の合計額)であった。

  (5) 上告人らは,平成23年2月1日,市川税務署長に対し,それぞれ,本件各減額更正について本件相続土地の評価額がなお時価より高いとしてその取消しを求める異議申立てをした。市川税務署長は,同年4月27日,その異議申立手続において本件相続土地の一部の評価額を見直して算出した上告人らの納付すべき税額の金額は,本件各減額更正において上告人らの納付すべき税額とされた金額を上回るので,結局,本件各減額更正はいずれも適法であるとして,上記各異議申立てをいずれも棄却する旨の各決定をした。

  (6) 市川税務署長は,平成23年5月31日,上記各決定における上記の評価額の見直しによれば,本件各減額更正における本件相続土地の評価額は時価よりも低かったとして,上告人X1について納付すべき税額を3071万5800円とし,上告人X2について納付すべき税額を3391万1700円とする増額更正(以下「本件各増額更正」という。)をした。

  本件各増額更正により新たに納付すべきこととなった本税額,すなわち本件各減額更正に係る納付すべき税額と本件各増額更正に係る納付すべき税額との差額(以下「本件各増差本税額」という。)は,上告人X1につき36万0300円,上告人X2につき37万4600円であり,その納期限は,その更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日(法35条2項2号)である平成23年6月30日であった。

  上告人らは,平成23年6月3日,本件各増差本税額をそれぞれ納付した。

  (7) 市川税務署長は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について,本件各相続税の法定納期限の翌日である平成21年8月26日から本件各増差本税額の納付日である同23年6月3日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日である平成22年8月26日から本件各増額更正に係る更正通知書が発せられた日である同23年5月31日までの期間を除く。以下「本件期間」という。)に係る延滞税として,上告人X1について1万5800円,上告人X2について1万6200円が発生していることを前提に,同年7月27日付けの催告書をそれぞれ送付し,その納付を催告した。

  3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しており,上告人らはその納付義務を負うものであるとして,上告人らの請求を棄却した。

  本件のように,国税の申告及び納付がされた後に減額更正がされると,減額された税額に係る部分の具体的な納税義務は遡及的に消滅するのであり,その後に増額更正がされた場合には,増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定することになるのであるから,新たに納税義務が確定した本件各増差本税額について,更正により納付すべき国税があるときに該当するものとして,法60条1項2号に基づき延滞税が発生するものというべきである。

  4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  前記事実関係等によれば,本件各増額更正がされた時点において,本件各相続税については,本件各増差本税額に相当する部分につき法的効果としては新たに納税義務が発生するとともに未納付の状態となっているが,本件各増額更正後の相続税額は本件各申告に係る相続税額を下回るものであることからすれば,本件各増差本税額に相当する部分は,本件各申告に基づいて一旦は納付されていたものである。これにつき再び未納付の状態が作出されたのは,所轄税務署長が,本件各減額更正をして,その減額された税額に係る部分について納付を要しないものとし,かつ,当該部分を含め,本件各申告に係る税額と本件各減額更正に係る税額との差額を過納金として還付したことによるものである。このように,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分については,それぞれ減額更正と過納金の還付という課税庁の処分等によって,納付を要しないものとされ,未納付の状態が作出されたのであるから,納税者としては,本件各増額更正がされる前においてこれにつき未納付の状態が発生し継続することを回避し得なかったものというべきである。

  他方,所轄税務署長は,本件各更正請求に係る税務調査に基づき,本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,上告人らの主張の一部を認めて本件各減額更正をしたにもかかわらず,本件各増額更正に当たっては,自らその処分の内容を覆し,再び本件各減額更正における本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,税額を増加させる判断の変更をしたものである。

  以上によれば,本件の場合において,仮に本件各相続税について法定納期限の翌日から延滞税が発生することになるとすれば,法定の期限内に本件各増差本税額に相当する部分を含めて申告及び納付をした上告人らは,当初の減額更正における土地の評価の誤りを理由として税額を増額させる判断の変更をした課税庁の行為によって,当初から正しい土地の評価に基づく減額更正がされた場合と比べて税負担が増加するという回避し得ない不利益を被ることになるが,このような帰結は,法60条1項等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由が必要とされていないことや,課税庁は更正を繰り返し行うことができることを勘案しても,明らかに課税上の衡平に反するものといわざるを得ない。そして,延滞税は,納付の遅延に対する民事罰の性質を有し,期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものであるところ,上記の諸点に鑑みると,このような延滞税の趣旨及び目的に照らし,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件各増額更正によって改めて納付すべきものとされた本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法において想定されていないものとみるのが相当である。

  したがって,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。

  そして,本件において,本件各増差本税額の納期限は平成23年6月30日であるところ,上告人らは,これより前の同月3日に本件各増差本税額を納付しているから,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないものというべきである。

  5 以上と異なる見解に立って,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税が発生するとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記説示したところによれば,上告人らの請求は理由があるから,第1審判決を取り消し,上告人らの請求をいずれも認容すべきである。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見,裁判官小貫芳信の意見がある。

  裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

  私は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないとする多数意見の見解に関連して,次のとおり,私見を付加しておきたい。

  1 延滞税は,納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり(国税通則法15条3項6号),その発生要件は,法60条1項2号にいう「・・・35条2項の規定により納付すべき国税があるとき」である。

  ところで,本件では,課税庁が自ら行った減額更正により納税者に対し余分に税を還付したため,未納付状態が生じたのであり,納税者としては,いかに真摯に納付の努力をしても,このような未納付状態を回避し得ないのであって,延滞税を賦課することは,納税者に不当な不利益を与えるものである。また,更正処分は,制度上,所定の期限内であれば何度でも行い得るとしても,本件各減額更正は,いわゆる公定力を有する行政処分であり,課税庁がこれを行ったことは,課税庁自らが,他の事由がない限りそれ以上の納付を要しないとの規範を一度は明示しているのであって,納税者も,還付加算金まで付して過誤納金が還付されたのであるから,そのように信頼するであろう。

  本件には,このような特殊な事情があるので,多数意見が指摘する延滞税の目的に鑑みても,この未納付状態が民事罰を課すような債務不履行ではなく,延滞税を納付させることが納税者間の負担の公平に資することにもならず,期限内納付を促す効果も全く期待し得ないのであって,本件の未納付においては,実質的に見て,延滞税を生じさせる前提ないし理由は全く存在しないといえよう。

  2 法63条6項4号及びこれを受けた国税通則法施行令26条の2第2号は,人為による異常な災害等により納付行為等ができなくなった場合の免除を定め,平成13年6月22日付け徴管2-35ほか国税庁長官通達「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」によれば,いわゆる誤指導があり,納税者側に社会通念上なすべき行為を尽くしているときもこれに当たるとしている。これは,正に,延滞税の目的が上記のようなものであることを前提として,その趣旨等に背馳するような場合には納付を免除できることを定めたものである。もっとも,このような免除事由は,一義的に明らかなものではないため,その該当性や免除を行うかどうかについては課税庁の裁量によることになる。しかしながら,本件の場合は,本件各増差本税額に相当する部分につき,税務署職員の指導にとどまらず,減額更正や過納金の還付という課税庁の行為によって未納付状態が作出されたのである。このことは,延滞税の免除をすべきかどうかではなく,そもそも延滞税を発生させるべき実質的な根拠が全く存在せず,延滞税を生じさせることは制度の趣旨に完全に背馳し,不正義となることは明らかなのである。このような場合にまで延滞税を発生させることは法が全く想定していないことであろう。

  3 そうであれば,このような場合には,延滞税の納付を免除するのではなく,延滞税の発生自体を認めないとする法解釈を行うべきものであろう。この解釈は,法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もあるが,同号が当然に前提としていると思われる「納税者によって生じた延滞」と評価すべきではないことは明らかであるので,同号にいう「納付すべき国税があるとき」に当たらないとするものである。税法の解釈は,納税者側の信頼や衡平にかない課税実務の効率化や恣意の排除に資するため,本来一義的で明確であることが求められるところであるが,本件は,延滞税の趣旨・目的に照らし,これを発生させることが適当でないことが明らかな例外的な事案であり,これを否定する(限定)解釈を採ったとしても,個別の事案毎の判断が必要となり徴税実務が不安定になるといったおそれはないというべきである。