推計課税の要件を満たすとした平成25年東京高裁判決

推計内容がやたら儲かった同業者を前提にしている点とか判決文はなんだか避けている引用です。。

 

法人税更正処分取消請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成24年(行コ)第19号

平成25年3月14日

【判示事項】 控訴人は,租特法66条の4第1項所定の国外関連者のA社との取引(パチスロメーカー向けモーターの購入)をし,該モーターをコインホッパーメーカー等に販売していたが,税務署長は,同条7項の推定課税により,法人税の更正処分及び加算税賦課決定処分をし,控訴人が,更正処分の一部及び賦課決定処分の取消しを求め,原審が,請求の全部を棄却したのに対し,控訴した事案。控訴審は,控訴人は,独立企業間価格算定に必要な帳簿書類等を遅滞なく提出していないから,法66条の4第7項の推定課税の要件を充たし,本件類似3法人の利益率の平均値を用いた推定は算定方法の要件も充たし,税務調査の手続きにも,処分の取消事由となるような違法は認められないとし,原判決を相当として,控訴を棄却した事例

 

【掲載誌】  税務訴訟資料263号順号12166

       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  1 本件控訴を棄却する。

  2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 山形税務署長(麹町税務署長がその権限を承継。以下同じ。)が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2185万7620円及び納付すべき税額751万2700円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  3 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成12年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額5697万5655円及び納付すべき税額1636万4500円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  4 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2388万5592円及び納付すべき税額646万6900円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  5 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成14年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)106万7445円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)6万5320円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  6 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)2619万5391円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)3万6187円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 第2 事案の概要

  1(1) 控訴人は,租特法66条の4(原判決3頁5行目,60頁2行目以下参照)第1項所定の国外関連者(原判決60頁4行目参照)に該当する香港法人のA社(原判決2頁26行目参照)との間で,平成11年12月28日以降,パチスロメーカー向けの本件モーター(原判決2頁末行参照)を購入する本件取引(原判決3頁初行参照)を行い,さらに,本件モーターをコインホッパーメーカー等(控訴人の関連会社を含む。)に販売していた。

   (2) 山形税務署長は,控訴人が,本件取引に関し,租特法66条の4第1項所定の独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出しなかったとして,同種の事業を営む事業規模等が類似した法人の利益率を基礎とする同条7項に基づき算定した価格を本件取引の独立企業間価格と推定して,平成11年12月期(原判決3頁9行目参照)ないし平成15年12月期の本件各事業年度(原判決3頁12行目参照)の控訴人の法人税について本件各更正処分(原判決3頁12行目参照)及び本件各賦課決定処分(原判決3頁13行目参照。以下,本件各更正処分と一括して「本件各更正処分等」という。)をした。

  2 本件は,控訴人が,①控訴人は独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を満たしていない(争点(1)。原判決14頁2行目,81頁4行目以下参照),②山形税務署長が推定した独立企業間価格は適法なものではなかったから,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たさない(争点(2)。原判決14頁5行目,97頁16行目以下参照),③控訴人が提示したB(原判決5頁6行目参照)とC社(原判決5頁10行目参照)との取引は独立企業間価格に基づくものであり,また,控訴人がその算定のために必要な書類を提出している以上,控訴人は,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したことになる(争点(3)。原判決14頁7行目,117頁14行目以下参照),④本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続において重大な違法があったから,この調査結果に基づく本件各更正処分等も違法である(争点(4)。原判決14頁9行目,121頁17行目以下参照)などと主張して,被控訴人に対して,山形税務署長による本件各更正処分等の取消しを求める事案である。

  3 原審は,①争点(1)及び(3)について,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を控訴人は遅滞なく提示又は提出していないから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を充足しており,また,控訴人の提示に係るBとC社との比較対象取引の取引価格を用いて適正な独立企業間価格を算定することはできず,本件取引における独立企業間価格の算定のために必要な書類を控訴人が提出したとはいえないから,本件取引について推定課税をする要件は満たされている(原判決28頁17行目以下),②争点(2)について,本件取引に係る独立企業間価格についての山形税務署長の推定は,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たす適法なものである(原判決38頁4行目以下),③争点(4)について,本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続に処分の取消事由となるほどの手続上の違法は認められず,本件各更正処分等はいずれも適法である(原判決55頁初行以下)などと判断して,控訴人の本訴請求をすべて棄却したので,控訴人が,これを不服として控訴した。

  4 本件における「関係法令の定め」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の2(3頁18行目以下及び60頁以下の別紙2)に,「前提事実」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の3(3頁25行目以下及び65頁以下の別紙3ないし7)に,「被控訴人が主張する本件各更正処分等の根拠」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の4(12頁23行目以下及び70頁以下の別紙8,9)に,「争点」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の5(14頁初行以下)にそれぞれ記載するとおりであるから,いずれもこれらを引用する。

    また,本件における「争点に関する当事者の主張の要旨」については,次項において,争点(2)に関する当審における控訴人の補充主張の要旨を付加する(その多くは原判決別紙10の97頁16行目以下の控訴人の主張と重複するものであるが,当審における控訴人の主張を踏まえて摘示するものである。)ほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の6(14頁10行目以下及び79頁以下の別紙10)に記載するとおりであるから,これを引用する。

  5 当審における控訴人の補充主張の要旨

   (1) 推定課税は,移転価格税制の適正公平な執行のための制度であるから,その実施に当たっては,移転価格税制の中核となる独立企業原則,つまり,国外関連取引と同様な取引が比較可能な状況下において独立企業間で行われたとした場合に成立した取引価格によって独立企業間価格を算定するという原則に抵触しない解釈ないし運用が求められるところ,関連者間取引を行う法人を比較対照して独立企業間価格を算定するのは,この独立企業原則の本質に反することになり,推定課税制度の趣旨にも反するものである。本件において,A社と同種事業類似法人(原判決83頁25行目参照)に当たるとして山形税務署長が選定した本件類似3法人(原判決87頁13行目参照)であるa社,b社及びc社(原判決87頁14行目参照)は,いずれも主として関連者間取引を行っている法人であり,本件各更正処分等の推定課税は,比較対象としての適格性を有しない法人を用いた独立企業原則に反するものであるから,本件各更正処分等も違法である(原判決97頁17行目以下参照)。

   (2) 被控訴人は,比較対象する本件類似3法人(いわゆるシークレットコンパラブル)についての主張事実に関する客観的な証拠を一切提出しておらず,また,控訴人にも全く開示していない(原判決102頁9行目以下参照)。そして,本件類似3法人についてのモーター以外の事業の具体的な内容(事業内容,売上高の構成比,粗利益率等)が明らかにされておらず,被控訴人は,ごく概括的な情報を記載した調査報告書を提出しただけであり,また,風営法(原判決95頁24行目参照)の規制による影響についても,調査担当者の陳述書を提出しているだけである。そもそも被控訴人は,調査担当者の陳述書ないし調査報告書を開示したに過ぎないのであり,控訴人には防禦の機会が十分に与えられてはいない。

     すなわち,控訴人は,比較対象とされた本件類似3法人の事業内容や財務状況について客観的な証拠に基づく情報を入手できないため,事業の同種性及び事業内容の類似性に関する十分な検討や反論を行うことができないのである。これは,適正手続(憲法31条)の観点からも極めて重大な問題があるというべきであり,納税者が自己の立場を擁護し,司法による的確なコントロールのための十分な機会も与えられていないから,本件の推定課税は違法であり,また,少なくとも事業の同種性及び事業内容の類似性は立証されていないというべきである。

   (3)ア 租特法66条の4第7項の推定課税において選定する同種事業類似法人に関する同項所定の要件は,「事業の同種性」及び「事業内容の類似性」だけである。しかしながら,推定課税の制度は,移転価格税制の下に位置付けられており,推定課税規定が準用している再販売価格基準法及び原価基準法も,売上高総利益率(粗利益率)を比較するのであるから,「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」ないし「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」もその要件になると解するのが相当である。

    イ この観点からは,A社と本件類似3法人との事業規模が著しく相違していることを重視する必要がある。A社の移転価格調整後の各事業年度の売上高は2000万円から2億円程度(更正前の金額を基準としても3000万円から5億円)であるのに対して,a社の売上高は50億円を超えて60億円以下であったから,そこには200倍ないし300倍の相違がある。また,c社の売上高は10億円を超えて20億円以下であるから,A社の売上高(7000万円(平成14年度),1億2000万円(平成15年度))とも大きな相違がある。このように,A社と本件類似3法人との事業規模には極めて大きな差異があり,租特法66条の4第7項1号所定の「事業規模その他の事業の内容が類似するもの」との要件を充足しないというべきである。

    ウ 被控訴人が提出した調査報告書(乙121。以下「本件調査報告書」という。)では,「電気機械器具卸売業の全1172法人」,「販売管理費比率が17.55%以下の法人」,「販売管理費比率が14.15%以下の法人」及び「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に分類して,売上規模と粗利益率の関係を分析しているところ,販売管理費比率が粗利益率に重大な影響を及ぼすことが明らかになっており,売上規模が同一であっても,販売管理比率の高いものほど粗利益率も大きくなっている。

      本件類似3法人の販売管理費比率の平均は,上記の「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に属している(平均粗利益率5.37%)ところ,A社の平成13年から平成15年までの販売管理費比率は平均26%であるから,本件調査報告書に基づく両者の粗利益率には大きな差異がある。仮に,A社の取締役であるD(原判決9頁22行目参照)に対する報酬部分を控除したとしても,同社は,平成13年10月期及び平成15年10月期には「販売管理費比率が14.15%以下の法人」に,平成14年10月期には「電気機械器具卸売業の全1172社の法人」に属することになるから,いずれにしても粗利益率が大きく異なっていることは明らかである。

      また,A社は,本件類似3法人と異なり,納期管理,品質管理,発注,実質的な在庫管理に加えて,仕入先選定,得意先開拓,条件交渉,営業活動,製品選定などの事業活動も主体的に行っていたところ,このような機能面における相違は販売管理費比率に反映しているのであるから,この意味でも,A社と本件類似3法人との事業内容における類似性を認めることはできない。

   (4) A社と本件類似3法人との事業内容には,次のような粗利益率の相違を生じさせる具体的な事情が存する。

    ア 製品のモーターは,OA機器やカメラの用途,販売先によって価格が大きく異なるものであるところ,それらとも全く業態が異なるパチスロ向けに製造されているA社の製品価格はさらに大きく異なるのであり,このような価格の相違は粗利益率にも大きく反映する。

    イ モーターの販売価格は,市場の地理的な相違によって大きく異なる。A社と本件類似3法人とは,いずれも中国の製造業者からモーターを購入しているものの,販売市場は,A社が日本国内であるのに対して,a社は香港等,c社は東南アジア等であるから,粗利益率でもかなりの相違が生ずるものと見込まれる。

    ウ 本件モーターはパチスロ筐体用であり,風営法に基づく規制があり,保通協(原判決95頁26行目参照)の規格に適合することを要するという特殊性を重視する必要がある。パチンコやパチスロ用の部品は,粗利益率等の利益率が非常に高く,業界も寡占的なものである一方,一旦企画や品質基準に対応できず,当該部品を使用する機種の人気が低下すれば,発注も急減するというハイリスク・ハイリターンの構造があり,このような特殊性は粗利益率にも大きな影響を及ぼすものである。