藤田宙靖裁判長名判決 NTTドコモ事件最高裁平成20年

法人税更正処分等取消請求事件

租税判例百選第6版 54事件 ケースブック5版 481頁

納税者勝訴

納税者にもっとも有利な取引単位にすることを明文化してほしい。

最高裁判所第3小法廷判決/平成18年(行ヒ)第234号

平成20年9月16日

 

【判示事項】 (1) 事実関係によれば、エントランス回線利用権は、C網依存型の方式を採用するPHS事業者が第1種電気通信事業者であるCに対してその事業用電気通信設備である特定のエントランス回線の設置に要する費用を負担し、当該回線を利用して当該PHS事業者の特定の基地局とCの特定のPHS接続装置との間を相互接続し、もって、当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し、CをしてPHS利用者に対しCのネットワークによる電気通信役務を提供させる権利であるが、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができるとされた事例

 

       (2) 減価償却資産は法人の事業に供され、その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるとされた事例

 

       (3) 事実関係によれば、一般に、被上告人会社のようなC網依存型PHS事業者が本件権利のようなエントランス回線利用権をそのPHS事業の用に供する場合、当該事業におけるエントランス回線利用権の用途に応じた本来の機能は、特定のエントランス回線を用いて当該事業者の設置する特定の基地局とCの特定のPHS接続装置との間を相互接続することによって、当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し、Cをして当該事業者の顧客であるPHS利用者に対しCのネットワークによる電気通信役務を提供させることにあるということができるとされた事例

 

       (4) 減価償却資産は法人の事業において収益を生み出す源泉として機能することをその本質的要素とするところ、本件権利一つでは被上告人会社のPHS事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができないとの課税庁の主張が、事実関係によれば、エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からCの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人会社のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができるとして排斥された事例

 

       (5) 本件権利については、エントランス回線1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみるのが相当であるから、法人税法施行令133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)の適用に当たっては、上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきであるとされた事例

 

       (6) 事実関係によれば、被上告人会社は、本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから、本件権利は、その一つ一つが法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に当たるというべきであるとされた事例

 

【判決要旨】 PHS事業者が事業用に大量に保有するいわゆるエントランス回線利用権につき,1回線に係る権利が,それぞれ一つの減価償却資産であり,法人税法施行令(平成16年政令第101号による改正前のもの)133条所定の少額減価償却資産に当たるとされた事例

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集62巻8号2089頁

 

       訟務月報55巻12号3490頁

 

       裁判所時報1468号333頁

 

       税務訴訟資料258号順号11032

 

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 別冊ジュリスト207号106頁

 

       法曹時報63巻10号2471頁

 

       主   文

 

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

        理   由

 

  上告代理人大竹たかしほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,被上告人の平成10年4月1日から同13年3月31日までの3事業年度の法人税に関し,その減価償却資産である電気通信施設利用権に当たるエントランス回線利用権が法人税法施行令(平成16年政令第101号による改正前のもの。特に断らない限り,以下同じ。)133条所定のいわゆる少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうかが争われている事案である。

  2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  (1) 被上告人は,平成10年12月1日,A社(以下「A社」という。)から簡易型携帯電話(以下「PHS」という。)事業の営業譲渡を受け,同事業を開始した。被上告人のPHS事業は,B1社(同社の事業のうち本件に関係する部分は,平成11年7月1日にB2社が承継した。以下,上記各社をいずれも「B社」という。)の設置するPHS接続装置,電話網等の機能及びデータベースを活用する方式(いわゆるB社網依存型の方式)によるものであり,この方式における通信経路をみると,例えばPHS事業者との契約により同事業による電気通信役務の提供を受ける利用者(以下「PHS利用者」という。)がB社の固定電話利用者,携帯電話利用者等と通話等をする場合,そのPHS端末から発信された音声等の情報は,無線電信により当該PHS事業者の設置する基地局において受信され,B社の設置するエントランス回線(基地局とB社の設置するPHS接続装置との間を接続する有線伝送路設備),PHS接続装置及び電話網等を介して,固定電話や携帯電話等に送信されるという経路をたどる(B社の固定電話や携帯電話等からPHS端末に向けて発信される情報は,上記と逆の経路をたどる。)。エントランス回線が1回線あれば,その回線が接続する基地局のエリア内のPHS端末とB社の固定電話又は携帯電話等との間で,以上にみたような双方向の通話等が可能になる(なお,PHS端末と他の基地局のエリア内のPHS端末との間で通話等が行われる場合は,PHS端末から発信された情報は,上記と同様に基地局,B社のエントランス回線,PHS接続装置を介して電話網に達した後,B社の設置する他のPHS接続装置及び他のエントランス回線を経て,当該PHS事業者の設置する他の基地局に到達し,同基地局から無線電信により他のPHS端末に送信されることになる。)。

  エントランス回線利用権は,B社網依存型の方式を採用するPHS事業者(以下「B社網依存型PHS事業者」という。)が第1種電気通信事業者であるB社に対してその事業用電気通信設備である特定のエントランス回線の設置に要する費用を負担し,当該回線を利用して当該PHS事業者の特定の基地局とB社の特定のPHS接続装置との間を相互接続し,もって,当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し,B社をしてPHS利用者に対しB社のネットワークによる電気通信役務を提供させる権利である。

  (2) B社は,平成10年当時,その設置する電気通信設備につき電気通信事業法(平成11年法律第160号による改正前のもの)38条の2第1項による郵政大臣の指定を受けており,同条2項に基づき,上記の指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関して取得する接続料及び接続条件につき実施日を平成10年3月24日とする接続約款(以下「本件接続約款」という。)を定めて郵政大臣の認可を受けた。本件接続約款においては,これに基づいてB社との間でその指定電気通信設備との接続に関する協定を締結したB社網依存型PHS事業者は,B社に対しエントランス回線の設置の申込みをし,B社がこれを承諾したときは,B社に対し設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2800円を支払うこととされていた。

  被上告人は,上記(1)の営業譲渡に伴い,A社からエントランス回線利用権を1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で合計15万3178回線分譲り受け(その譲受価格の総額は111億5135万8400円である。),その後,本件接続約款に基づくB社の指定電気通信設備と被上告人の電気通信設備との接続に関する協定に従って,必要に応じて,1回線単位でエントランス回線の設置の申込みをし,B社がこれを承諾して設置工事をするごとに設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2800円を支払って,新設された回線に係るエントランス回線利用権を取得した。被上告人は,以上のとおり取得したエントランス回線利用権(以下「本件権利」という。)を,そのPHS事業の用に供した。

  3 前記事実関係によれば,エントランス回線利用権は,エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができる。上告人は,減価償却資産は法人の事業において収益を生み出す源泉として機能することをその本質的要素とするところ,本件権利一つでは被上告人のPHS事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができない旨主張する。しかしながら,減価償却資産は法人の事業に供され,その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解されるところ,前記事実関係によれば,一般に,被上告人のようなB社網依存型PHS事業者が本件権利のようなエントランス回線利用権をそのPHS事業の用に供する場合,当該事業におけるエントランス回線利用権の用途に応じた本来の機能は,特定のエントランス回線を用いて当該事業者の設置する特定の基地局とB社の特定のPHS接続装置との間を相互接続することによって,当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し,B社をして当該事業者の顧客であるPHS利用者に対しB社のネットワークによる電気通信役務を提供させることにあるということができる。そして,前記事実関係によれば,エントランス回線が1回線あれば,当該基地局のエリア内のPHS端末からB社の固定電話又は携帯電話への通話等,固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから,本件権利は,エントランス回線1回線に係る権利一つでもって,被上告人のPHS事業において,上記の機能を発揮することができ,収益の獲得に寄与するものということができる。

  そうすると,本件権利については,エントランス回線1回線に係る権利一つをもって,一つの減価償却資産とみるのが相当であるから(法人税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)2条24号,法人税法施行令13条8号ソ(平成12年政令第145号による改正前の法人税法施行令13条8号レ,平成10年政令第368号による改正前の法人税法施行令13条8号タ)),法人税法施行令133条の適用に当たっては,上記の権利一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきである。前記事実関係によれば,被上告人は,本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから,本件権利は,その一つ一つが同条所定の少額減価償却資産に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)