強要罪と児童ポルノ処罰法の罪数関係を併合罪とした東京高裁平成28年

強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件

 

東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号

平成28年2月19日

 

【判示事項】 強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例

 

【参照条文】 刑法45前段

       刑法54-1前段

       刑法223-1

       児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3

 

【掲載誌】  東京高等裁判所判決時報刑事67巻1~12号1頁

       判例タイムズ1432号134頁

       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  本件控訴を棄却する。

 

        理   由

 

  弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りおよび量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。

  1 法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反の主張について

 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。

  (1) 強要罪が成立しないとの主張について

 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。

  すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。

  弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。

  しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。

  また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。

  そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。

  以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。

  (2) 公訴棄却にすべきとの主張について

 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。

  また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。

  以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。

  (3) 小括

  以上の次第で,法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。

  2 法令適用の誤りの主張について

 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。

  しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。

  法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。

  なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

  3 量刑不当の主張について

 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。

  そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこと,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。

  原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。

  弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の量刑を左右しないものである。

  また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。

  量刑不当をいう論旨は,理由がない。

  4 結論

  よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。

   平成28年2月19日

     東京高等裁判所第5刑事部

         裁判長裁判官  藤井敏明

            裁判官  福士利博

            裁判官  山田裕文