訴因変更の要否についての最高裁平成13年決定

殺人、死体遺棄、現住建造物等放火、詐欺被告事件 太田369,380,385,390,391,396 司法試験予備試験平成24年

最高裁判所第3小法廷決定/平成11年(あ)第423号

平成13年4月11日

 

【判示事項】 一 殺害の日時・場所・方法の判示が概括的で実行行為者の判示が択一的であっても殺人罪の罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないとされた事例

       二 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することの適否

       三 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に訴因変更手続を経ることなく実行行為者が共犯者又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことに違法はないとされた事例

 

【参照条文】 刑法60

       刑法199

       刑事訴訟法256

       刑事訴訟法335

       刑事訴訟法312

 

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集55巻3号127頁

       裁判所時報1290号271頁

       判例タイムズ1060号175頁

       判例時報1748号175頁

 

【評釈論文】 現代刑事法4巻7号74頁

       ジュリスト1220号112頁

       ジュリスト臨時増刊1224号195頁

       法曹時報56巻7号237頁

 

       主   文

 

   本件上告を棄却する。

   当審における未決勾留日数中六〇〇日を本刑に算入する。

 

        理   由

 

   弁護人石田恒久、同石岡隆司の上告趣意のうち、憲法三八条違反をいう点は、被告人の自白調書の任意性を肯定した原判断は相当であるから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

  なお、所論にかんがみ、職権で判断する.

  本件のうち殺人事件についてみると、その公訴事実は、当初、「被告人は、Bと共謀の上、昭和六三年七月二四日ころ、青森市大字合子沢所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において、Aに対し、殺意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ、そのころ窒息死させて殺害した」というものであったが、被告人がBとの共謀の存在と実行行為への関与を否定して、無罪を主張したことから、その点に関する証拠調べが実施されたところ、検察官が第一審係属中に訴因変更を請求したことにより、「被告人は、Bと共謀の上、前同日午後八時ころから午後九時三〇分ころまでの間、青森市安方二丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Aの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した」旨の事実に変更された。この事実につき、第一審裁判所は、審理の結果、「被告人は、Bと共謀の上、前同日午後八時ころから翌二五日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、B又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でAを殺害した」旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。

  まず、以上のような判示が殺人罪に関する罪となるべき事実の判示として十分であるかについて検討する。上記判示は、殺害の日時・場所・方法が概括的なものであるほか、実行行為者が「B又は被告人あるいはその両名」という択一的なものであるにとどまるが、その事件が被告人とBの二名の共謀による犯行であるというのであるから、この程度の判示であっても、殺人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべきであって、罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないものと解される。

  次に、実行行為者につき第一審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。

 訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。

  そこで、本件について検討すると、記録によれば、次のことが認められる。第一審公判においては、当初から、被告人とBとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事前に成立していたか、両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争点となり、多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間、被告人は、Bとの共謀も実行行為への関与も否定したが、Bは、被告人との共謀を認めて被告人が実行行為を担当した旨証言し、被告人とBの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は、Bの証言及び被告人の自白調書の信用性等を争い、特に、Bの証言については、自己の責任を被告人に転嫁しようとするものであるなどと主張した。審理の結果、第一審裁判所は、被告人とBとの間で事前に共謀が成立していたと認め、その点では被告人の主張を排斥したものの、実行行為者については、被告人の主張を一部容れ、検察官の主張した被告人のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし、その結果、実行行為者がBのみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。

以上によれは、第一審判決の認定は、被告人に不意打ちを与えるものとはいえず、かつ、訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから、実行行為者につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって、更に訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない。

 したがって、罪となるべき事実の判示に理由不備の違法はなく、訴因変更を経ることなく実行行為者につき択一的認定をしたことに訴訟手続の法令違反はないとした原判決の判断は、いずれも正当である。

  また、本件のうち死体遺棄事件及びD方放火事件において、実行行為者の認定が択一的であることなどについても、殺人事件の場合と同様に考えられる。

  よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 元原利文 金谷利廣)

  弁護人石田恒一、同石岡隆司の上告趣意《略》

  被告人本人の上告趣意《略》