住居侵入罪の保護法益 最高裁昭和58年

刑法各論判例百選 4版 15事件 7版16事件 8版 16 松宮孝明『先端刑法各論 現代刑法の理論と実務』日本評論社・2021年5


最高裁判所第2小法廷判決/昭和55年(あ)第
906号

昭和58年4月8日

【判示事項】 1、刑法130条前段にいう「侵入」の意義

       2、建造物の管理権者が立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合と建造物侵入罪の成否

【判決要旨】 1 刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。

       2 建造物の管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、建造物侵入罪の成立を免れない。

 

【参照条文】 刑法130

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集37巻3号215頁

       最高裁判所裁判集刑事231号1頁

       裁判所時報864号2頁

       判例タイムズ497号112頁

       判例時報1078号153頁

       労働判例406号24頁

 

【評釈論文】 警察学論集36巻7号143頁

       警察研究56巻2号70頁

       警察時報38巻11号118頁

       ジュリスト臨時増刊815号160頁

       ジュリスト844号126頁

       別冊ジュリスト117号34頁

       地方公務員月報246号49頁

       中京法学21巻1号129頁

       同志社法学35巻5号199頁

       時の法令1181号44頁

       判例評論298号48頁

       法学新報91巻11~12号117頁

       法曹時報38巻7号181頁

 

       法律のひろば36巻8号50頁

       労働判例426号9頁

       労働法律旬報1071号39頁

 

       主   文

 

  原判決を破棄する。

  本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

 

        理   由

 

  一 検察官の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は、いずれも事案を異にして本件に適切でなく、同第二点は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

  二 しかしながら、所論にかんがみ職権により調査すると、原判決は、以下に述べる理由により破棄を免れない。

  刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。

  ところで、原判決は、被告人らが、全逓の春季闘争の一環として、多数のビラを貼付する目的で、大槌郵便局舎内に管権者であるA局長の事前の了解を受けることなく立ち入つたものであること、局舎等におけるビラ貼りは、郵政省庁管理規程によると、法令等に定めのある場合のほかは、管理権者が禁止すべき事項とされていること、被告人らは、夜、多人数で土足のまま局舎内に立ち入り、縦約二五糎、横約九糎大の西洋紙に「大巾賃上げ」「スト権奪還」などとガリ版印刷をしたビラ約一〇〇〇枚を局舎の各所に乱雑に貼付したものであり、被告人らの右ビラ貼りは、右庁舎管理規程に反し、前記A局長の許諾しないものであることが明らかであること、右ビラ貼りは、その規模等からみて外形上軽犯法違反に該当する程度の評価が可能であり、それが組合の闘争手段としてなされたものであるとはいえ、庁舎施設の管理権を害し、組合活動の正当性を超えた疑いがあるから、管理権者としては、このような目的による立入りを受忍する義務はなく、これを拒否できるものと考えられること、組合のビラ貼りについては、東北郵政局から警戒するよう指示されていたこともあつて、前記A局長は、当夜、B局長代理と交代で局舎に立ち寄り、局舎の外側からビラ貼りを警戒していたが、被告人らが局舎内に立ち入りビラ貼りをしているのを確認するや、右局長代理とともに局舎に入り被告人らに退去を求めたことなどを認定している。これらの事実によれば、記録上他に特段の事情の認められない本件においては、被告人らの本件局舎内への立入りは管理権者である右局長の意思に反するものであり、被告人らもこれを認識していたものと認定するのが合理的である。局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、右宿直員は管理権者ら右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。

  しかるに、原判決は、A局長が、被告人らのビラ貼り目的による局舎内への立入りを予測しながら、事前にこれを阻するための具体的措置をとらなかつたということなどから、本件においては、被告人らの立入りを拒否する管理権者の意思が外部に表明されていたとはいえないとし、被告人らの所為は、結局、管理権者の意思に反したといえないから、建造物侵入罪の構成要件に該当しないとしているのであつて、右は、ひつきよう、法令の解釈適用を誤つたか、重大な事実認をした疑いがあり、原判決の右違法は、判決に影響を及ぼし、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

  三 よつて、刑訴法四一一条一号、三号を適用して原判決を破棄し、同法四一三条本文により本件を原裁判所である仙台高判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  検察官増山登、同俵谷利幸 公判出席

   昭和五八年四月八日

     最高裁判所第二小法廷

         裁判長裁判官  木下忠良

            裁判官  鹽野宜慶

            裁判官  宮崎梧一

            裁判官  大橋 進

            裁判官  牧 圭次