藤田宙靖裁判長不当判決 最高裁平成16年 加算税の正当理由否定

判例実務解説58事件 所得税更正処分取消等請求事件 渕497頁 その後の調整規定についてっ説明あり

国税犯則法の平成23年改正後や21世紀の人権基準からするとここまであいまいなものを放置していいのか疑問です。

 

最高裁判所第3小法廷判決/平成11年(行ヒ)第169号

 平成16年7月20日

 

【判示事項】 同族会社の出資者が同会社に対してした無利息貸付けに所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を適用されて所得税の増額更正を受けた場合において利息相当分を更正前の税額の計算の基礎としなかったことにつき国税通則法65条4号にいう正当な理由があるとは認められないとされた事例

 

【判決要旨】 法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)2条10号に規定する同族会社に当たる有限会社の代表者で出資持分の大半を有する社員が,同会社に対して3455億円を超える金員を無利息,無期限,無担保で貸し付けたことに所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定を通用され,利息相当分の雑所得があるとして所得税の増額更正を受けた場合において,上記貸付けは,不合理,不自然な経済活動であって,上記社員が経営責任を果たすために実行したとは認め難いものであること,税務当局に寄せられた相談事例及び職務執行の際に生じた疑義についての回答及び解説を国税局職員が編集又は監修をした解説書には,会社へ無利息貸付けをした代表者個人に所得税が課されることはない旨の記述があり,上記社員の顧問税理士等の税務担当者において税務当局が個人から法人への無利息貸付けに所得税を課さない旨の見解を採るものと解したため,前記利息相当分の雑所得はないとする申告がされたが,上記記述は,代表者の経営責任の観点から無利息貸付けに社会的,経済的に相当な理由があることを前提とするものであることなど判示の事情の下においては,前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があるとは認められない。

 

【参照条文】 国税通則法65-4

 

       所得税法(平13法6号改正前)157

 

       法人税法(平15法8号改正前)2

 

【掲載誌】  訟務月報51巻8号2126頁

       最高裁判所裁判集民事214号1071頁

       裁判所時報1368号327頁

       判例タイムズ1163号131頁

       判例時報1873号123頁

       税務訴訟資料254号順号9700

       LLI/DB 判例秘書登載

 

【評釈論文】 ジュリスト1292号185頁

       税務事例36巻10号1頁

       民商法雑誌132巻1号107頁

 

       主   文

 

  1 原判決中別紙処分目録1,2及び3記載の各賦課決定に関する部分を破棄する。

  2 前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。

  3 訴訟の総費用はこれを25分し,その1を上告人の,その余を被上告人の負担とする。

 

        理   由

 

 上告代理人山崎潮ほかの上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,その大半の出資持分を有する有限会社に無利息で金銭を貸し付けたところ,上告人から所得税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)157条の規定(以下「本件規定」という。)を適用され,利息相当分の雑所得があるとして平成元年分から同3年分までの所得税の増額更正及びこれらに係る過少申告加算税賦課決定を受けたため,利息相当分が上記更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があるなどと主張して,上記各賦課決定の取消しを求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1)有限会社A(以下「A」という。)は,昭和63年11月に設立された法人税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)2条10号に規定する同族会社であり,被上告人は,昭和63年12月末日において,その資本金の98%に相当する出資持分を有するとともに,平成4年8月のAの解散に至るまで,その代表者である取締役であった。

 (2)被上告人は,店頭売買登録銘柄である株式会社Bの発行済株式総数5888万株中4325万2000株を有していたが,平成元年3月10日,Aに対し,証券会社5社を介した場外取引により,そのうち3000万株(以下「本件株式」という。)を代金3450億円で売却した。

 (3)被上告人は,上記代金の精算日である同月15日,銀行4行から3455億2200万円を年利3.375%で借り入れて,Aに対し,うち3455億2177万5000円を,返済期限及び利息を定めず,担保を徴することもないまま貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。

 Aは,同日,前記各証券会社に対し,前記代金3450億円及び手数料5億2177万5000円を支払い,上記各社は,同日,被上告人に対し,同代金から手数料5億2106万2500円及び有価証券取引税18億9750万円を控除した残額3425億8143万7500円を支払った。

 被上告人は,同日,前記各銀行に対し,前記借入金3455億2200万円及びこれに対する利息3194万9149円を弁済した。

その結果,本件貸付けが無利息,無期限のままの状態で残存することとなった。

 (4)Aは,収益のほとんどが本件株式の配当収入であり,実質的な営業活動を行っていなかった。

 (5)被上告人の顧問税理士等の税務担当者は,税務当局が個人から法人への無利息貸付けに所得税を課さない旨の見解を採っていると解していたため,被上告人の平成元年分から同3年分までの所得税については,雑所得を0円とする申告がされたが,上告人は,同4年6月18日,本件規定を適用して,本件貸付けによって被上告人に利息相当分に係る雑所得が生じたと認定し,上記各年分の所得税の増額更正をするとともに,これらに係る過少申告加算税賦課決定をした。

 (6)前職及び現職の東京国税局税務相談室長が編集した「昭和58年版・税務相談事例集」には,会社が代表者から運転資金として無利息で金銭を借り受けたという設例について,所得税法上,別段の定め(同法59条等)のあるものを除き,担税力の増加を伴わないものについては課税の対象とならないとして,参照条文として同法36条1項を挙げた上で,代表者個人に所得税が課税されることはない旨の記述がある。また,東京国税局直税部長が監修し,同局法人税課長が編集した「回答事例による法人税質疑応答集」(昭和55年3月発行)及び「昭和59年版・回答事例による法人税質疑応答集」には,会社が業績悪化のため資金繰りに困って代表者から運転資金として500万円を無利息で借り入れたという設例について,所得税の課税の対象となる収入金額とは「収入すべき金額」(所得税法36条1項)とされており,無利息で金銭の貸付けをした代表者は,経済的利益を受けていないから所得税の申告をする必要がない旨の記述がある。

これらの各解説書(以下「本件各解説書」という。)には,編者,推薦者及び監修者が官職名を付して表示され,各巻頭の「推薦のことば」,「監修のことば」等には,その内容が,東京国税局税務相談室その他の税務当局に寄せられた相談事例及び職務執行の際に生じた疑義について回答と解説を示すものである旨の記載がある。また,本件各解説書の各巻末には,その発行者である財団法人大蔵財務協会が大蔵省の唯一の総合外郭団体であり,財務,税務行政の改良,発達及びこれに関する知識の普及という使命に基づいて出版活動を続けている旨の記載がある。

 (7)会計ジャーナル昭和50年9月号には,株主の同族会社に対する無利息貸付けについて,所得税法上の収入金額の概念として利息収入の認定を考えるのは困難で,そのためにはおそらく本件規定の発動を要するであろうという大学教授,公認会計士,大蔵省主税局及び国税庁の職員等を構成員とする注解所得税法研究会の私的見解が記載されている。

 (8)裁判例としては,同族会社に対して主たる株主がした多額の金銭の無利息貸付けにつき,通常収受すべき利息債権の免除と同一の効果を上げたものであり,これを放置すれば同株主の所得税の負担を不当に減少させる結果となるとして,本件規定と同趣旨の旧所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)67条1項の規定を適用してされた更正処分を適法であると判断した東京地裁昭和47年(行ウ)第23号の1同55年10月22日判決・訟務月報27巻3号568頁があった。

 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,別紙処分目録1,2及び3記載の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)を取り消した。

 (1)本件貸付けは,多額の金員を無利息,無期限,無担保で貸し付けたものであり,独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間では通常行われない不合理,不自然な経済的活動であり,これによって被上告人の得べかりし利息相当分の収入の発生が抑制されることになる。営利法人であるAとしては,その資産の大半である本件株式を何らかの形で運用することが通常予想されるのであるから,被上告人がその経営責任を果たすために無利息貸付けを実行した等の特段の事情を認めることもできない。したがって,上告人が本件貸付けに本件規定を適用したことに違法はない。もっとも,平成2年分及び同3年分の所得税については,雑所得の算定に一部誤りがあり,別紙処分目録5①及び6①記載の各更正は違法であるが,同目録4,5②及び6②記載の各更正は適法であるから,これにより,被上告人の納付すべき所得税額が増加した。

 (2)しかし,本件各解説書の各巻頭の「推薦のことば」,「監修のことば」等の記載は,税務当局の業務ないし編者等の税務当局勤務者の職務と本件各解説書の内容との密接な関連性をうかがわせるものであるから,税務に携わる者がその編者等や発行者から判断して,その記載内容が税務当局の見解を反映したものと認識し,税務当局が個人から法人への無利息貸付けに所得税を課さない見解を採るものと解することは,無理からぬところである。そして,被上告人の顧問税理士等の税務担当者において,税務当局が上記見解を採るものと解したことをもって,単なる法解釈についての不知又は誤解であるということはできないから,前記得べかりし利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由がある。したがって,本件各決定は違法である。

 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

  本件規定は,同族会社において,これを支配する株主又は社員の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことにかんがみ,税負担の公平を維持するため,株主又は社員の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に,これを正常な行為又は計算に引き直して当該株主又は社員に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。このような規定の趣旨,内容からすれば,株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに本件規定の適用があるかどうかについては,当該貸付けの目的,金額,期間等の融資条件,無利息としたことの理由等を踏まえた個別,具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。そして,前記事実関係等によれば,本件貸付けは,3455億円を超える多額の金員を無利息,無期限,無担保で貸し付けるものであり,被上告人がその経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情も認め難いのであるから,不合理,不自然な経済的活動であるというほかはないのであって,税務に携わる者としては,本件規定の適用の有無については,上記の見地を踏まえた十分な検討をすべきであったといわなければならない。

  他方,本件各解説書は,その体裁等からすれば,税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面がある。しかしながら,その内容は,代表者個人から会社に対する運転資金の無利息貸付け一般について別段の定めのあるものを除きという留保を付した上で,又は業績悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという設例について,いずれも,代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨を解説するものであって,代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的,経済的に相当な理由があることを前提とする記述であるということができるから,不合理,不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである。そして,当時の裁判例等に照らせば,被上告人の顧問税理士等の税務担当者においても,本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったということができる。

  そうすると,前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があったとは認めることができない。

  以上によれば,本件各決定は適法であり,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中本件各決定に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分について請求を棄却した第1審判決は正当であるから,同部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。

  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三)

 

 (別紙)

  処分目録

 上告人が平成4年6月18日に被上告人に対してした次の各課税処分

 1 平成元年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定(審査裁決により一部取り消された後のもの)

 2 平成2年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定(平成16年5月18日付け変更決定による変更後のもの)

 3 平成3年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定(平成16年5月18日付け変更決定による変更後のもの)

 4 平成元年分所得税に係る更正(審査裁決により一部取り消された後のもの)

 5 平成2年分所得税に係る更正

① 同更正のうち税額84億8374万1900円を超える部分

② 同更正のうち税額84億8374万1900円以下の部分

 6 平成3年分所得税に係る更正

① 同更正のうち税額86億7608万4400円を超える部分

② 同更正のうち税額86億7608万4400円以下の部分