西川知一郎裁判長名判決 大阪地裁平成20年 国税通則法67条1項但書

租税法判例実務解説60事件 納税者が55パーセント勝訴

谷原誠『税務のわかる弁護士が教える税務調査における重加算税回避ポイント』ぎょうせい・2019年226頁  

 



不納付加算税賦課決定処分取消請求事件

大阪地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第48号

【判決日付】 平成20年3月14日

【判示事項】 1 破産管財人が破産債権の配当に係る源泉所得税の徴収納付をしなかったことにつき国税通則法67条1項ただし書にいう「正当な理由」があるとされた事例

       2 破産管財人が破産管財人個人に対する報酬の支払に係る源泉所得税の徴収納付をしなかったことにつき国税通則法67条1項ただし書にいう「正当な理由」がないとされた事例

 

判決要旨】 (1)・(2) 省略

       (3) 所得税法が、一定の所得又は報酬、料金等について、その支払をする者に源泉徴収義務を課すこととした趣旨は、当該支払によって支払をする者から支払を受ける者に移転する経済的利益が課税の対象となるところ、支払をする者は、その支払によって経済的利益を移転する際に、所得税として、その利益の一部をいわば天引きしてこれを徴収し、国に納付することができ、かつ、当該税額の算定が容易であるからであると解され、そうであるとすれば、支払をする者とは、当該支払に係る経済的出捐の効果の帰属主体をいうと解すべきである。

 

       (4)~(12) 省略

 

       (13) 不納付加算税は、源泉所得税の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に徴収及び納付をした納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、源泉所得税の不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、源泉所得税の不納付があっても例外的に不納付加算税が課されない場合として国税通則法67条1項(不納付加算税)ただし書が定めた「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、不納付加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

       (14)~(16) 省略

 

【参照条文】 国税通則法67-1

【掲載誌】  判例タイムズ1276号109頁

       判例時報2030号3頁

       税務訴訟資料258号順号10920

 

       LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

  1 住吉税務署長が平成15年10月23日付けで破産者X建設株式会社に対してした同社の平成12年8月分の源泉徴収による所得税に係る不納付加算税賦課決定処分を取り消す。

  2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

  3 訴訟費用は,これを20分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 

        事実及び理由

 

 第1 請求

  住吉税務署長が平成15年10月23日付けで破産者X建設株式会社に対してした同社の平成12年7月分,同年8月分及び平成13年3月分の源泉徴収による所得税に係る各不納付加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

 第2 事案の概要

  本件は,原告が破産管財人に対する報酬を支払うとともに,X建設株式会社(破産宣告後の同社を含み,以下「X建設」という。)の元従業員らに対して退職金等を配当したものの,これらについて源泉徴収による所得税(以下「源泉所得税」という。)の徴収及び納付をしなかったところ,住吉税務署長が,平成15年10月23日付けで,X建設に対し,上記破産管財人に対する報酬及び退職金等について,源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をしたことから,原告が,破産者ないし破産管財人には源泉徴収義務はないなどと主張して,上記各不納付加算税賦課決定処分の各取消しを求めた取消訴訟である。

  1 法令の定め等

   (1) 所得税法等

  ア 所得税法6条は,同法28条1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他同法4編1章から6章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は,同法により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務があると規定する。

  イ 所得税法30条1項は,退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)に係る所得をいうと規定する。

  同法199条は,居住者に対し国内において同法30条1項(退職所得)に規定する退職手当等の支払をする者は,その支払の際,その退職手当等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない旨規定する。同法201条1項1号は,退職手当等の支払を受ける居住者が提出した退職所得の受給に関する申告書に,その支払うべきことが確定した年において支払うべきことが確定した他の退職手当等で既に支払がされたもの(同項2号において「支払済みの他の退職手当等」という。)がない旨の記載がある場合における同法199条(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,その支払う退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額(当該金額に1000円未満の端数があるとき,又は当該金額の全額が1000円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てた金額。同項2号において同じ。)を課税退職所得金額とみなして同法89条1項(税率)の規定を適用して計算した場合の税額とするとし,同項2号は,退職手当等の支払を受ける居住者が提出した退職所得の受給に関する申告書に,支払済みの他の退職手当等がある旨の記載がある場合における同法199条(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,その支払済みの他の退職手当等の金額とその支払う退職手当等の金額との合計額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額を課税退職所得金額とみなして同法89条1項の規定を適用して計算した場合の税額から,その支払済みの他の退職手当等につき同法199条の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額を控除した残額に相当する税額とする旨規定する。同法201条2項は,同条1項各号に規定する退職所得控除額は,同項の規定による所得税を徴収すべき退職手当等を支払うべきことが確定した時の状況における同法30条3項1号(退職所得控除額)に規定する勤続年数に準ずる勤続年数及び同条4項3号に掲げる場合に該当するかどうかに応ずる別表第6に掲げる退職所得控除額(同項1号に掲げる場合に該当するときは,同項の規定に準じて計算した金額)による旨規定する。なお,上記別表第6は,別紙1のとおりである。

  ウ 所得税法204条1項柱書は,居住者に対し国内において同項各号に掲げる報酬若しくは料金,契約金又は賞金の支払をする者は,その支払の際,その報酬若しくは料金,契約金又は賞金について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならないと規定し,同項2号は,弁護士(外国法事務弁護士を含む。),司法書士,土地家屋調査士,公認会計士,税理士,社会保険労務士,弁理士,海事代理士,測量士,建築士,不動産鑑定士,技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金を掲げる。同法205条柱書は,同法204条1項の規定により徴収すベき所得税の額は,次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とすると規定し,同法205条1号は,同法204条1項1号,2号,4号若しくは5号又は7号に掲げる報酬若しくは料金又は契約金(同法205条2号に掲げる報酬及び料金を除く。)につき,その金額に100分の10(同一人に対し1回に支払われる金額が100万円を超える場合には,その超える部分の金額については,100分の20)の税率を乗じて計算した金額とし,同法205条2号は,同法204条1項2号に掲げる司法書士,土地家屋調査士若しくは海事代理士の業務に関する報酬若しくは料金等につき,その金額から政令で定める金額を控除した残額に100分の10の税率を乗じて計算した金額と規定する。所得税法施行令322条は,所得税法205条2号(報酬又は料金等に係る徴収税額)に規定する政令で定める金額は,同法204条1項2号(報酬,料金等に係る源泉徴収義務)に掲げる司法書士,土地家屋調査士又は海事代理士の業務に関する報酬又は料金について,同一人に対し1回に支払われる金額につき1万円とする旨規定する。

  エ 所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)89条1項は,居住者に対して課する所得税の額は,その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ同項の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額と,その年分の課税山林所得金額の5分の1に相当する金額を同表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額に5を乗じて計算した金額との合計額とするとし,同項の表は,330万円以下の金額につき,100分の10とし,330万円を超え900万円以下の金額につき,100分の20と規定する。

  オ 国税通則法67条1項は,源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には,税務署長は,当該納税者から,同法36条1項2号(源泉徴収による国税の納税の告知)の規定による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収し,ただし,当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は,この限りでないと規定する。なお,国税通則法118条3項は,附帯税の額を計算する場合において,その計算の基礎となる税額に1万円未満の端数があるとき,又はその税額の全額が1万円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てる旨規定する。

   (2) 破産法(大正11年法律第71号。平成16年法律第75号により廃止される前のもの。以下同じ。)

  破産法6条1項は,破産者が破産宣告の時において有する一切の財産は,これを破産財団とする旨規定する。同法7条は,破産財団の管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属する旨規定し,同法166条は,破産管財人は,費用の前払及び報酬を受けることができ,その額は,裁判所が定める旨規定する。

  同法47条柱書は,同条各号に掲げる請求権は,これを財団債権とするとし,同条2号は,国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することができる請求権,ただし,破産宣告後の原因に基づく請求権は破産財団に関して生じたものに限る旨規定する。

   (3) 弁護士法等

  弁護士法3条1項は,弁護士は,当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって,訴訟事件,非訟事件及び審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする旨規定し,同法24条は,弁護士は,正当の理由がなければ,法令により官公署の委嘱した事項及び会則の定めるところにより所属弁護士会又は日本弁護士連合会の指定した事項を行うことを辞することができないと規定する。

  同法30条の5は,弁護士法人は,同法3条に規定する業務を行うほか,定款で定めるところにより,法令等に基づき弁護士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部を行うことができる旨規定し,弁護士法人の業務及び会計帳簿等に関する規則(平成13年法務省令第62号)1条1号は,弁護士法30条の5に規定する法務省令で定める業務として,当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により,管財人,管理人その他これらに類する地位に就き,他人の事業の経営,他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し,若しくは補助する業務を規定する。弁護士法30条の21は,同法24条等の規定は,弁護士法人について準用する旨規定する。

  同法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができず,ただし,同法又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでないと規定する。

  2 前提事実

  以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠等によって容易に認定することができる。

   (1) X建設は,平成11年9月16日午後0時,大阪地方裁判所から破産宣告を受け(平成11年(フ)

 第5650号),原告がその唯一の破産管財人に選任された。

  (甲1)

   (2) 原告は,平成11年10月18日,丙山太郎(別紙2「本件退職金に係る源泉徴収税額計算表」記載294。以下「丙山」という。)に対し,解雇予告手当81万0342円を配当したが,これに係る源泉所得税の徴収及び納付はされていない。

  原告は,平成12年8月30日,X建設の元従業員ら270名(別紙2「本件退職金に係る源泉徴収税額計算表」記載1から269まで及び305。丙山と併せて,以下「本件元従業員ら」という。)に対し,退職金合計5億9415万2808円(丙山に対する上記解雇予告手当と併せて,以下「本件退職金」という。)を配当したが,本件退職金に係る源泉所得税の徴収及び納付はされていない。

  なお,本件元従業員らについて,各人の採用年月日,退職年月日及び勤続年数並びに各人が受け取った解雇予告手当,年金信託契約の解約による退職一時金,労働福祉事業団による未払賃金立替金及び本件退職金は,それぞれ別紙2の各人の①から⑦までの欄に記載のとおりである。

  (弁論の全趣旨)

   (3)ア 大阪地方裁判所は,平成12年6月29日,破産管財人の報酬を3000万円とする旨決定し,原告は,同年7月3日,中川泰夫に対し,上記金額を支払った。

  イ 原告は,同月13日,司法書士に対し,根抵当権抹消費用等として1万1210円の報酬(以下「本件司法書士報酬」という。)を支払った。

  ウ 大阪地方裁判所は,平成13年3月21日,破産管財人の報酬を5000万円とする旨決定し,原告は,同月28日,中川泰夫に対し,上記金額を支払った(上記各管財人報酬を併せて,以下「本件管財人報酬」という。)。

  エ 本件管財人報酬及び本件司法書士報酬に係る所得税につき源泉徴収はされていない。

  (弁論の全趣旨)

   (4) 住吉税務署長は,平成15年10月23日付けで,X建設に対し,以下の各処分をした。これらの各処分における納付すべき税額等は,別紙3のとおりである。

  ア 平成12年7月分の上記(3)ア記載の破産管財人の報酬及び同イ記載の本件司法書士報酬の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分

  イ 平成12年8月分の本件退職金の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分

  ウ 平成13年3月分の上記(3)ウ記載の破産管財人の報酬の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分

  なお,上記各納税告知処分を併せて,以下「本件各納税告知処分」といい,上記各不納付加算税賦課決定処分を併せて,以下「本件各処分」という。

  (甲2)

   (5) 住吉税務署長は,平成15年10月28日付けで,原告に対し,本件各処分に係る源泉所得税,不納付加算税及び延滞税につき交付要求をした。

  (甲3)

   (6)ア 原告は,平成15年12月19日,住吉税務署長に対し,上記(4)の各処分(ただし,上記(4)アの納税告知処分については,本税の額121円を超えない部分を除く。)について異議申立てをしたが,住吉税務署長は,平成16年3月18日付けで,これを棄却する旨の決定をした。

  イ 原告は,平成16年4月1日,国税不服審判所長に対し,上記異議決定につき,審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成17年9月8日付けでこれを棄却し,その裁決書は,同月21日に原告に送達された。

  ウ 原告は,平成18年3月17日,当庁に対し,本件訴えを提起した。

  なお,原告は,本件訴えの提起に先立つ平成16年10月,当庁に対し,本件各納税告知処分及び本件各処分に係る納税義務(ただし,上記(4)アの納税告知処分については,本税の額121円を超えない部分を除く。)が存在しないことの確認を求める訴え(実質的当事者訴訟)を提起した(当庁平成16年(行ウ)第146号)。当裁判所は,平成18年10月25日,原告の請求を棄却する旨の判決(以下「関連判決」という。)を言い渡したため,原告は,大阪高等裁判所に対して控訴を提起し,同事件については,現在なお審理中である。

  (甲4,乙6,弁論の全趣旨,顕著な事実)

  3 争点

   (1) 弁護士たる破産管財人に対する報酬が所得税法204条1項2号の弁護士の業務に関する報酬又は料金に当たるか

  (2) 原告が本件管財人報酬の支払及び本件退職金の配当について源泉所得税の徴収及び納付義務(単に,以下「源泉徴収義務」という。)を負うか

  (3) 原告が本件管財人報酬及び本件退職金に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められるか(国税通則法67条1項ただし書該当性)

   (4) 本件各処分における不納付加算税の額が適正か

 4 当事者の主張

   (1) 争点(1)(弁護士たる破産管財人に対する報酬が所得税法204条1項2号の弁護士の業務に関する報酬又は料金に当たるか)について

 (被告の主張)

  所得税法204条1項2号の弁護士の業務に関する報酬又は料金(単に,以下「弁護士の業務に関する報酬等」という。)は,おおむね,弁護料,監査料その他の通常の報酬又は料金のほか名義のいかんにかかわらず,その役務の提供に対する対価たる性質を有する一切のものが対象となり,広く,当事者,その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって行う法律事務に隣接,関連する役務の提供に対する対価を含むと解される。

  そして,破産管財人は,ほとんど例外なく弁護士から選任されている上,弁護士法30条の5が,弁護士法人は同法3条に規定する業務を行うほか,定款で定めるところにより,法令等に基づき弁護士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部を行うことができると規定し,弁護士法人の業務及び会計帳簿等に関する規則1条1号は,当事者その他の関係人の依頼又は官公署の委嘱により,管財人,管理人その他これらに類する地位に就き,他人の事業の経営,他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し,若しくは補助する業務と規定していることなどからすれば,破産管財人の事務が弁護士の業務に当たることは明らかである。

  したがって,弁護士たる破産管財人に対して支給される破産管財人の報酬は,弁護士の業務に関する報酬等に該当するというべきである。

  (原告の主張)

  ア ある給付が所得税法204条1項2号の「報酬又は料金」に当たり,源泉徴収の対象となるためには,支払者と受給者との間に委任契約又はこれに類する原因が存在し,これに基づいて支払われるものでなければならないと解すべきである。なぜなら,上記「報酬又は料金」は,源泉徴収の対象とするのに適したものに限定されるべきところ,支給者と受給者との間に上記の原因が存在しない場合には,支払者は自ら報酬等の支払をする立場になく,その原資(源泉)を有しないから,このような者に源泉徴収義務を課すのは不合理だからである。そして,委任契約又はこれに類する原因が存在するというためには,受給者の行う事務が支払者のためにされる性質のものでなければならないと解される。

  破産管財人は,裁判所の決定によって選任され(破産法142条1項,同法157条),その監督の下に職務を執行する(同法161条)。また,破産管財人は,破産法の規定に従って破産財団の管理処分を行い,破産債権者に対する配当等を行うのみであって,破産者の業務の執行には関与しない。すなわち,破産管財人は包括的執行手続たる破産手続の主宰者として,総債権者のためにその職務を行うのであり,破産者のためにその職務を行うものではない。したがって,破産者と破産管財人との間には,委任契約又はこれに類する原因が存在しないから,破産管財人の報酬は弁護士の業務に関する報酬等には当たらない。

  イ これに対し,関連判決は,源泉徴収制度は,租税徴収確保のための制度であって,特定の租税につき源泉徴収制度を採用する場合に源泉徴収の対象をどのように定めるかについては,立法府の政策的,技術的な裁量判断にゆだねられているところ,源泉徴収の対象を支払者と受給者との間に委任契約又はこれに類する原因が存在しこれに基づいて支払われるものに限定しなければならない合理的理由は見いだし難く,弁護士の業務に関する報酬等について原告の主張するように限定的に解すベき根拠も見いだせないなどと判示する。しかしながら,源泉徴収制度の解釈にあたって徴税の便宜のみを強調するのは誤りである。源泉徴収制度は,他人の所得に係る租税を第三者に徴収納付させる制度であり,しかもその義務を加算税や刑罰による制裁の下に課すものであるから,源泉徴収義務が課される第三者の範囲は,その者に過度の負担とならないように限定される必要がある。そのような視点を欠く関連判決は,不当というほかない。

   (2) 争点(2)(原告が本件管財人報酬の支払及び本件退職金の配当について源泉徴収義務を負うか)について

 (被告の主張)

  ア 所得税法199条,同法204条1項の「支払の際」の「支払」には,支払われた債務が消滅する一切の行為が含まれると解され,そうであるとすれば,支払をする者(上記各規定にいう支払をする者をいう。以下同じ。)とは,支払により債務消滅の効果が帰属する者をいうと考えられる。