予見可能性をみとめた最高裁平成元年決定

刑法判例百選Ⅰ 第7版 52事件 8版 52事件 前田総論7版224頁

            業務上過失傷害、業務上過失致死被告事件

最高裁判所第2小法廷決定/昭和61年(あ)第193号

平成元年3月14日

【判示事項】      運転者が認識していない後部荷台の同乗者を被害者とする業務上過失致死罪が成立するとされた事例

【判決要旨】      貨物自動車の運転者が制限最高速度の二倍を超える高速度で走行中、ハンドル操作を誤り自車を信号柱に激突させて自車後部荷台の同乗者を死亡させた場合には、たとえ運転者において同乗の事実を認識していなかったとしても、業務上過失致死罪が成立する。

【参照条文】      刑法211

【掲載誌】       最高裁判所刑事判例集43巻3号262頁

            最高裁判所裁判集刑事251号363頁

            裁判所時報999号30頁

            判例タイムズ702号85頁

            判例時報1317号151頁

【評釈論文】      ジュリスト941号97頁

            ジュリスト臨時増刊957号148頁

            別冊ジュリスト111号112頁

            判例タイムズ724号75頁

            判例評論373号230頁

            法学教室107号92頁

            法曹時報43巻4号194頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人遠山泰夫の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

 所論にかんがみ職権で判断するに、一、二審判決の認定するところによると、被告人は、業務として普通貨物自動車(軽四輪)を運転中、制限速度を守り、ハンドル、ブレーキなどを的確に操作して進行すべき業務上の注意義務を怠り、最高速度が時速三〇キロメートルに指定されている道路を時速約六五キロメートルの高速度で進行し、対向してきた車両を認めて狼狽し、ハンドルを左に急転把した過失により、道路左側のガードレールに衝突しそうになり、あわてて右に急転把し、自車の走行の自由を失わせて暴走させ、道路左側に設置してある信号柱に自車左側後部荷台を激突させ、その衝撃により、後部荷台に同乗していたA及びBの両名を死亡するに至らせ、更に助手席に同乗していたCに対し全治約二週間の傷害を負わせたものであるが、被告人が自車の後部荷台に右両名が乗車している事実を認識していたとは認定できないというのである。しかし、被告人において、右のような無謀ともいうべき自動車運転をすれば人の死傷を伴ういかなる事故を惹起するかもしれないことは、当然認識しえたものというべきであるから、たとえ被告人が自車の後部荷台に前記両名が乗車している事実を認識していなかつたとしても、右両名に関する業務上過失致死罪の成立を妨げないと解すべきであり、これと同旨の原判断は正当である。

 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  平成元年三月一四日

    最高裁判所第二小法廷

        裁判長裁判官  藤島 昭

           裁判官  牧 圭次

           裁判官  島谷六郎

           裁判官  香川保一

           裁判官  奥野久之