外国人の公務就任権に関する最高裁平成17年判決
憲法判例百選 6版 5事件 7版4事件 8版 4事件 精読憲法判例人権編6事件 佐藤幸治2版165頁
管理職選考受験資格確認等請求事件
最高裁判所大法廷判決/平成10年(行ツ)第93号
平成17年1月26日
【判示事項】 1 地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法3条,憲法14条1項
2 東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法3条,憲法14条1項に違反しないとされた事例
【判決要旨】 1 地方公共団体が,公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。
2 東京都が管理職に昇任すれば公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員に就任することがあることを当然の前提として任用管理を行う管理職の任用制度を設けていたなど判示の事情の下では,職員が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた東京都の措置は,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。
(1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)
【参照条文】 憲法14-1
労働基準法3
労働基準法112
地方公務員法(平10法112号改正前)58-3
地方公務員法13
地方公務員法17
地方公務員法19
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集59巻1号128頁
判例タイムズ1174号129頁
判例時報1885号3頁
労働判例887号5頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 関西大学法学論集55巻1号106頁
自治研究83巻2号124頁
地方自治職員研修38巻81号10頁
南山法学29巻1号97頁
白鴎法学25号271頁
広島法学29巻4号177頁
法学教室347号35頁
法学教室349号63頁
法学セミナー50巻6号116頁
法学セミナー50巻7号119頁
法学論叢(京都大)159巻6号90頁
法律時報77巻13号332頁
法律のひろば58巻11号70頁
法令解説資料総覧281号96頁
民商法雑誌135巻2号375頁
労働判例887号5頁
主 文
1 原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人金岡昭ほかの上告理由について
1 本件は,上告人に保健婦として採用された被上告人が,平成6年度及び同7年度に東京都人事委員会の実施した管理職選考を受験しようとしたが,日本の国籍を有しないことを理由に受験が認められなかったため,国家賠償法1条1項に基づき,上告人に対し,慰謝料の支払等を請求する事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,昭和25年に岩手県で出生した大韓民国籍の外国人であり,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者である。
(2)上告人は,昭和61年,保健婦の採用につき日本の国籍を有することを要件としないこととした。被上告人は,同63年4月,上告人に保健婦として採用された。
(3)後記の平成6年度及び同7年度の管理職選考が実施された当時,上告人における管理職としては,東京都知事の権限に属する事務に係る事案の決定権限を有する職員(本庁の局長,部長及び課長並びに本庁以外の機関における上級の一定の職員)のほか,直接には事案の決定権限を有しないが,事案の決定過程に関与する職員(本庁の次長,技監,理事(局長級),参事(部長級),副参事(課長級)等及び本庁以外の機関の一定の職員)があり,さらに,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い,事案の決定権限を有せず,事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在していた。上告人においては,管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理は行われておらず,例えば,医化学の分野で管理職選考に合格した職員であっても,管理職に任用されると,その職員は,その後の昇任に伴い,そのまま従来の医化学の分野にだけ従事するものとは限らず,担当がその他の分野の仕事に及ぶことがあり,いずれの分野においても管理的な職務に就くことがあることとされていた。
(4)東京都人事委員会が実施する管理職選考は,東京都知事,東京都議会議長,東京都の公営企業管理者,代表監査委員,教育委員会,選挙管理委員会,海区漁業調整委員会及び人事委員会が任命権を有する職員に対する課長級の職への第1次選考としてされるものである。管理職選考には,A,B及びCの選考種別とそれぞれについての事務系及び技術系の選考種別とがあり,被上告人が受験しようとした選考種別Aの技術系は土木,建築,機械,電気,生物及び医化学に区分される。管理職選考に合格した者は,任用候補者名簿に登載され,その数年後,最終的な任用選考を経て管理職に任用される。
(5)東京都人事委員会の平成6年度管理職選考実施要綱は,上記(4)の職員に対する課長級の職への第1次選考について受験資格を定めており,明文の定めは置いていなかったものの,受験者が日本の国籍を有することを前提としていた。
(6)被上告人は,上記要綱に基づいて実施される管理職選考の選考種別Aの技術系の選考区分医化学を受験することとし,平成6年3月10日,所属していた東京都八王子保健所の副所長に申込書を提出しようとしたが,同副所長は,被上告人が日本の国籍を有しないことを理由に,申込書の受領を拒絶した。被上告人は,国籍の点以外は上記要綱が定める受験資格を備えていたが,上記のとおり申込書の受領を拒絶されたため,同年5月に実施された筆記考査を受けることができなかった。
(7)東京都人事委員会の平成7年度管理職選考実施要綱には,日本の国籍を有することが受験資格であることが明記されるに至った。被上告人は,日本の国籍を有しないために同管理職選考を受けることができなかった。
3 原審は,上記事実関係等の下において,上告人の職員が被上告人に平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験させなかったことは,被上告人が日本の国籍を有しないことを理由に被上告人から管理職選考の受験の機会を奪い,課長級の管理職への昇任のみちを閉ざすものであり,違法な措置であるとして,被上告人の慰謝料請求を一部認容した。
原審の上記判断の理由の概要は,次のとおりである。
(1)日本の国籍を有しない者は,憲法上,国又は地方公共団体の公務員に就任する権利を保障されているということはできない。
(2)地方公務員の中でも,管理職は,地方公共団体の公権力を行使し,又は公の意思の形成に参画するなど地方公共団体の行う統治作用にかかわる蓋然性の高い職であるから,地方公務員に採用された外国人が,日本の国籍を有する者と同様,当然に管理職に任用される権利を保障されているとすることは,国民主権の原理に照らして問題がある。しかしながら,管理職の職務は広範多岐に及び,地方公共団体の行う統治作用,特に公の意思の形成へのかかわり方,その程度は様々なものがあり得るのであり,公権力を行使することなく,また,公の意思の形成に参画する蓋然性が少なく,地方公共団体の行う統治作用にかかわる程度の弱い管理職も存在する。したがって,職務の内容,権限と統治作用とのかかわり方,その程度によって,外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを分別して考える必要がある。そして,後者の管理職については,我が国に在住する外国人をこれに任用することは,国民主権の原理に反するものではない。
(3)上告人の管理職には,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い,事案の決定権限を有せず,事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在している。このように,管理職に在る者が事案の決定過程に関与するといっても,そのかかわり方,その程度は様々であるから,上告人の管理職について一律に外国人の任用(昇任)を認めないとするのは相当でなく,その職務の内容,権限と事案の決定とのかかわり方,その程度によって,外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを区別して任用管理を行う必要がある。そして,後者の管理職への任用については,我が国に在住する外国人にも憲法22条1項,14条1項の各規定による保障が及ぶものというべきである。
(4)上告人の職員が課長級の職に昇任するためには,管理職選考を受験する必要があるところ,課長級の管理職の中にも外国籍の職員に昇任を許しても差し支えのないものも存在するというべきであるから,外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは,外国籍の職員の課長級の管理職への昇任のみちを閉ざすものであり,憲法22条1項,14条1項に違反する違法な措置である。被上告人は,上告人の職員の違法な措置のために平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験することができなかった。被上告人がこれにより被った精神的損害を慰謝するには各20万円が相当である。
4 しかしながら,前記事実関係等の下で被上告人の慰謝料請求を認容すべきものとした原審の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)地方公務員法は,一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本邦に在留する外国人(以下「在留外国人」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法19条1項参照),普通地方公共団体が,法による制限の下で,条例,人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではない。普通地方公共団体は,職員に採用した在留外国人について,国籍を理由として,給与,勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはならないものとされており(労働基準法3条,112条,地方公務員法58条3項),地方公務員法24条6項に基づく給与に関する条例で定められる昇格(給料表の上位の職務の級への変更)等も上記の勤務条件に含まれるものというべきである。しかし,上記の定めは,普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではない。また,そのような取扱いは,合理的な理由に基づくものである限り,憲法14条1項に違反するものでもない。
管理職への昇任は,昇格等を伴うのが通例であるから,在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としない条件の下でのみ就任を認めることとする場合には,そのように取り扱うことにつき合理的な理由が存在することが必要である。
(2)地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については,次のように解するのが相当である。すなわち,公権力行使等地方公務員の職務の遂行は,住民の権利義務や法的地位の内容を定め,あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど,住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ,国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条,15条1項参照)に照らし,原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり,我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。
そして,普通地方公共団体が,公務員制度を構築するに当たって,公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも,その判断により行うことができるものというべきである。そうすると,普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり,上記の措置は,労働基準法3条にも,憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。そして,この理は,前記の特別永住者についても異なるものではない。
(3)これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,昭和63年4月に上告人に保健婦として採用された被上告人は,東京都人事委員会の実施する平成6年度及び同7年度の管理職選考(選考種別Aの技術系の選考区分医化学)を受験しようとしたが,東京都人事委員会が上記各年度の管理職選考において日本の国籍を有しない者には受験資格を認めていなかったため,いずれも受験することができなかったというのである。そして,当時,上告人においては,管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理を行っておらず,管理職に昇任すれば,いずれは公権力行使等地方公務員に就任することのあることが当然の前提とされていたということができるから,上告人は,公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職のほか,これに関連する職を包含する一体的な管理職の任用制度を設けているということができる。
そうすると,上告人において,上記の管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して,職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても,合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり,上記の措置は,労働基準法3条にも,憲法14条1項にも違反するものではない。原審がいうように,上告人の管理職のうちに,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行うにとどまり,公権力行使等地方公務員には当たらないものも若干存在していたとしても,上記判断を左右するものではない。また,被上告人のその余の違憲の主張はその前提を欠く。以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この趣旨をいう論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の慰謝料請求を棄却すべきものとした第1審判決は正当であるから,上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。
5 よって,裁判官滝井繁男,同泉徳治の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官藤田宙靖の補足意見,裁判官金谷利廣,同上田豊三の各意見がある。
裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛成するものであるが,本件被上告人が,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(以下「入管特例法」という。)に定める特別永住者であること等にかんがみ,多数意見に若干の補足をしておくこととしたい。
被上告人が,日本国で出生・成育し,日本社会で何の問題も無く生活を営んで来た者であり,また,我が国での永住を法律上認められている者であることを考慮するならば,本人が日本国籍を有しないとの一事をもって,地方公務員の管理職に就任する機会をおよそ与えないという措置が,果たしてそれ自体妥当と言えるかどうかには,確かに,疑問が抱かれないではない。しかし私は,最終的には,それは,各地方公共団体が採る人事政策の当不当の問題であって,本件において上告人が執った措置が,このことを理由として,我が国現行法上当然に違法と判断されるべきものとまでは言えないのではないかと考える。その理由は,以下のとおりである。
1 入管特例法の定める特別永住者の制度は,それ自体としてはあくまでも,現行出入国管理制度の例外を設け,一定範囲の外国籍の者に,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)2条の2に定める在留資格を持たずして本邦に在留(永住)することのできる地位を付与する制度であるにとどまり,これらの者の本邦内における就労の可能性についても,上記の結果,法定の各在留資格に伴う制限(入管法19条及び同法別表第1参照)が及ばないこととなるものであるにすぎない。したがって例えば,特別永住者が,法務大臣の就労許可無くして一般に「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」(同法19条)を行うことができるのも,上記の結果生じる法的効果であるにすぎず,法律上,特別永住者に,他の外国籍の者と異なる,日本人に準じた何らかの特別な法的資格が与えられるからではない。また,現行法上の諸規定を見ると,許可制等の採られている事業ないし職業に関しては,各個の業法において,日本国籍を有することが許可等を受けるための資格要件とされることがあるが(公証人法12条1項1号,水先法5条1号,鉱業法17条本文,電波法5条1項1号,放送法52条の13第1項5号イ,等々),これらの規定で,特別永住者を他の外国人と区別し,日本国民と同様に扱うこととしたものは無い。他方,日本の国籍を有しない者の国家公務員試験受験資格を否定する人事院規則(人事院規則8―18)において,日本郵政公社職員への採用に関しては,特別永住者もまた郵政一般職採用試験を受験することができることとされるが,このことについては,特に明文の規定が置かれている(同規則8条1項3号括弧書)。以上に照らして見るならば,我が国現行法上,地方公務員への就任につき,特別永住者がそれ以外の外国籍の者から区別され,特に優遇さるべきものとされていると考えるべき根拠は無く,そのような明文の規定が無い限り,事は,外国籍の者一般の就任可能性の問題として考察されるべきものと考える。
2 ところで,外国籍の者の公務員就任可能性について,原審は,日本国憲法上,外国人には,公務員に就任する権利は保障されていない,との出発点に立ちながらも,憲法上の国民主権の原理に抵触しない範囲の職については,憲法22条,14条等により,外国籍の者もまた,日本国民と同様,当然にこれに就任する権利を,憲法上保障される,との考え方を採るものであるように見受けられる。しかし,例えば,①外国人に公務員への就任資格(以下「公務就任権」という。)が憲法上保障されていることを否定する理由として理論的に考え得るのは,必ずしも,原審のいう国民主権の原理のみに限られるわけではない(例えば,一定の職域について外国人の就労を禁じるのは,それ自体一国の主権に属する権能であろう。)こと,また,②「憲法上,外国人には,公務員の一定の職に就任することが禁じられている」ということは,必ずしも,理論的に当然に「こうした禁止の対象外の職については,外国人もまた,就任する権利を憲法上当然に有する」ということと同義ではないこと,更に,③職業選択の自由,平等原則等は,いずれも自由権としての性格を有するものであって,本来,もともと有している権利や自由をそれに対する制限から守るという機能を果たすにとどまり,もともと有していない権利を積極的に生み出すようなものではないこと,等にかんがみると,原審の上記の考え方には,幾つかの論理的飛躍があるように思われ,我が国憲法上,そもそも外国人に(一定範囲での)公務就任権が保障されているか否か,という問題は,それ自体としては,なお重大な問題として残されていると言わなければならない。しかしいずれにせよ,本件は,外国籍の者が新規に地方公務員として就任しようとするケースではなく,既に正規の職員として採用され勤務してきた外国人が管理職への昇任の機会を求めるケースであって,このような場合に,労働基準法3条の規定の適用が排除されると考える合理的な理由の無いことは,多数意見の言うとおりであるから,上記の問題の帰すうは,必ずしも,本件の解決に直接の影響を及ぼすものではない。
3 そこで,進んで,本件の場合に,労働基準法の同条の規定の存在にもかかわらず,外国籍の者を管理職に昇任させないとすることにつき,合理的な理由が認められるかどうかについて考える。記録を参照すると,上告人がこのような措置を執ったのは,「地方公務員の職のうち公権力の行使又は地方公共団体の意思の形成に携わるものについては,日本の国籍を有しない者を任用することができない」といういわゆる「公務員に関する当然の法理」に沿った判断をしたためであることがうかがわれる(参照,昭和48年5月28日自治公一第28号大阪府総務部長宛公務員第一課長回答)。しかし,一般に,「公権力の行使」あるいは「地方公共団体の意思の形成」という概念は,その外延のあまりにも広い概念であって,文字どおりにこの要件を満たす職のすべてに就任することが許されないというのでは,外国籍の者が地方公務員となる可能性は,皆無と言わないまでも少なくとも極めて少ないこととなり,また,そのことに合理的な理由があるとも考えられない。その意味においては,職務の内容,権限と統治作用とのかかわり方,その程度によって,外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを分別して考える必要がある,とする原審の説示にも,その限りにおいて傾聴に値するものがあることを否定できないし,また,多数意見の用いる「公権力行使等地方公務員」の概念も,この点についての周到な注意を払った上で定義されたものであることが,改めて確認されるべきである。
ただ,その具体的な範囲をどう取るかは別として,いずれにせよ,少なくとも地方公共団体の枢要な意思決定にかかわる一定の職について,外国籍の者を就任させないこととしても,必ずしも違憲又は違法とはならないことについては,我が国において広く了解が存在するところであり,私もまた,そのこと自体に対し異を唱えるものではない。そして,本件の場合,上告人東京都は,一たび管理職に昇任させると,その職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理をするのではなく,したがってまた,外国人の任用が許されないとされる職務を担当させることになる可能性もあった,というのである。この点につき,原審は,管理職に在る者が事案の決定過程に関与すると言っても,そのかかわり方及びかかわりの程度は様々であるから,上告人東京都の管理職について一律に在留外国人の任用を認めないとするのは相当ではなく,上記の基準により,在留外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを区別して任用管理を行う必要がある,という。もとより,そのような任用管理を行うことは,人事政策として考え得る選択肢の一つではあろうが,他方でしかし,外国籍の者についてのみ常にそのような特別の人事的配慮をしなければならないとすれば,全体としての人事の流動性を著しく損なう結果となる可能性があるということもまた,否定することができない。こういったことを考慮して,上告人東京都が,一般的に管理職への就任資格として日本国籍を要求したことは,それが人事政策として最適のものであったか否かはさておくとして,なお,その行政組織権及び人事管理権の行使として許される範囲内にとどまるものであった,ということができよう。
もっともこの点,専ら,本件における被上告人の立場についてのみ考えるならば,本件において,被上告人を管理職に昇任させることが,現実に全体としての人事の流動性を著しく損なう結果となるおそれが大きかったか否かについては,原審において必ずしも十分な認定がなされているとは言い難く,したがって,この点について審理を尽くさせるために,原判決を破棄して本件を差し戻す,という選択をすることも,考えられないではない。しかし,いうまでも無く,在留外国人に管理職就任の道を制度として開くかどうかは,独り被上告人との関係のみでなく,在留外国人一般の問題として考えなければならないことであって(例えば,将来において被上告人と同様の希望を持つ在留外国人が多数出て来た場合には,そのすべてについて同様の扱いをしなければならないことになる),こういったことをも考慮するならば,上告人東京都が,本件当時において外国籍の者一般につき管理職選考の受験を拒否したことが,直ちに,法的に許された人事政策の範囲を超えることになるとは,必ずしも言えず,また,少なくともそこに過失を認めることはできないのではないか,と考える。
裁判官金谷利廣の意見は,次のとおりである。
私は,原判決が上告人において被上告人に対し平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験させなかった措置は憲法に違反する違法な措置であると判断したことについて,これを是認できないとする多数意見の結論には賛成するが,その理由付けの一部には同調できない。
1 憲法は,我が国の公務員に就任できる地位(以下「公務員就任権」という。)について,これを一般的に保障する規定を置いてはいないが,日本国民の公務員就任権については,憲法が当然の前提とするものとして,あるいは,国民主権の原理,14条等を根拠として,解釈上これを認めることができると考える。
しかし,公務員(地方公務員を含む。)制度をどのように構築するかは国の統治作用に重大な関係を有すること,公務員の種類は多種多様で,その中には,外国人が就任することが国民主権の原理からして憲法上許容されないと解されるもの(ただし,その範囲をどう考えるかは議論が分かれる難しい問題である。)や外国人の就任が不相当なものが少なくないこと,また,外国人にも就任を認めるのが妥当であるか否かは当該具体的職種の職務内容,人事運用の実態等により左右されること,さらには,これまでの内外の法制の歴史等にかんがみると,日本国民に対し解釈上認められる憲法上の公務員就任権の保障は,その権利の性質上,外国人に対しては及ばないものと解するのが相当である(国の基本法である憲法において公務員の職種を区別してその一部については外国人の公務員就任権を保障していると解することは,明文の規定がない以上,妥当であるとは思われない。)。憲法は,外国人に対しては,公務員就任権を保障するものではなく,憲法上の制限の範囲内において,外国人が公務員に就任することができることとするかどうかの決定を立法府の裁量にゆだねているものというべきである。
2 そこで,地方公務員に関する法制をみると,地方公務員法は,外国人を一般の地方公務員に就任させることができるかどうかについて規定を置いていないし,その就任を禁止する規定も置いていないから,地方公共団体は,外国人を当該地方公共団体の職員に採用できることとするか否かについて,裁量により決めることができるものといわなければならない。すなわち,我が国の現行法制上,外国人に地方公務員となり得るみちを開くか否かは,当該地方公共団体の条例,人事委員会規則等の定めるところにゆだねられているのである。
そして,地方公共団体のこの裁量権は,オール・オア・ナッシングの裁量のみが認められるものではなく,一定の職種のみに限って外国人に公務員となる機会を与えることはもちろん,職務の内容と責任を考慮し昇任の上限を定めてその限度内で採用の機会を与えること,さらには,一定の職種のみに限り,かつ,一定の昇任の上限を定めてその限度内で採用の機会を与えることも許されると解されるのであって,その判断については,裁量権を逸脱し,あるいは濫用したと評価される場合を除き,違法の問題を生じることはないと解される(この点に関する詳細については,上田裁判官の意見を援用する。)。
労働基準法112条により地方公務員にも適用があるものとされる同法3条との関係についていうと,外国人に地方公務員に就任する門戸を開くか否かについては地方公共団体の判断にゆだねられていると考える私のような見解によると,外国人に対し一定の職種の地方公務員に就任するみちを全く開放しないこととしても,原則として違法の問題が生じないのに,その一部開放である昇任限度を定めた開放措置については裁量に関し制約が伴うこととなるのは,甚だ不合理なことであり,また,それでは外国人に対する公務員となるみちの門戸開放を不必要に慎重にさせるおそれもあると思われる。したがって,労働基準法3条は,門戸を開く裁量については適用がなく,開かれた門戸に係るその枠の中での運用において適用されるにとどまるものと解することになる。
3 本件においては,多数意見の4(3)の第1段に記述されているのと同様の理由により,上告人(東京都)において職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めていたことが,裁量権の逸脱・濫用として違法性を帯びることはなく,したがって,上告人が被上告人に対し平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験させなかった措置に違法はないと考える次第である。
4 なお,付言すると,公務員の職種の中には外国人が就任しても支障がないと認められるものがあり,国際化が進展する現代において,定住外国人に対しそれらの公務員となるみちの門戸を相当な範囲で開放してゆくことは,時代の流れに沿うものということができるし,また,被上告人のような特別永住者がその一層の門戸開放を強く主張すること自体については,よく理解できる。しかし,この問題は,私の見解からすると,基本的には,政治的ないしは政策的な選択の当否のレベルで議論されるべきことであって,違憲,違法の問題が生ずる事柄ではないということである。
裁判官上田豊三の意見は,次のとおりである。
私は,上告人が被上告人に対し平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験させなかった措置に違法はなく,これが違法であるとして被上告人の慰謝料請求を認容すべきものとした原審の判断は是認することができないとする多数意見に賛成するものであるが,その理由を異にする。
1 憲法は,在留外国人につき我が国の公務員に就任することができる地位を保障するものではなく,在留外国人が公務員に就任することができることとするかどうかの決定を立法府の裁量にゆだねているものと解するのが相当である。
ところで,地方公務員法は,在留外国人の地方公務員への就任につき,これを就任させなければならないとする規定も,逆にこれを就任させてはならないとする規定も置いていない。したがって,同法は,この問題につき,それぞれの地方公共団体が条例ないし人事委員会規則等において定め得るという立場(すなわち,当該地方公共団体の裁量にゆだねるという立場)に立っているものと解されるのである。
2 それぞれの地方公共団体は,在留外国人の地方公務員への就任の問題を定めるに当たり,ある職種について在留外国人の就任を認めるかどうかという裁量(便宜「横軸の裁量」という。)を有するのみならず,職務の内容と責任に応じた級についてどの程度・レベルのものにまでの就任(昇任)を認めるかどうかについての裁量(便宜「縦軸の裁量」という。)をも有するものと解すべきである。換言すれば,在留外国人の地方公務員への就任の問題をどのような制度として(横軸・縦軸の両面において)構築するかは,それぞれの地方公共団体の裁量にゆだねられていると解されるのである(民間事業の経営者がどのような種類の,またどのような規模の事業を経営するかは,その経営者の自由な選択にゆだねられており,たとえ在留外国人を雇用する予定であったとしても,その選択は労働基準法3条により制約されるものではなく,その事業に雇用された在留外国人は,その経営者の選択した事業の種類・規模の範囲において同条による保護を主張することができるにすぎない。すなわち,同条は,経営者による事業の種類・規模の選択に当たっては制約原理としては働かないのであり,同様に,地方公共団体が在留外国人の地方公務員制度を構築するに当たっても,同条は制約原理として働かないものと解すべきである。)。
3 この地方公共団体の裁量にも限界があり,裁量権を逸脱したり,濫用したと評価される場合には,違法性を帯びることになる。縦軸の裁量における限界については,私は,現在,次のように理解すべきものと考えている。すなわち,当該地方公共団体が縦軸の裁量として行使したところが,地方公務員法を中心とする地方公務員制度全体から見ておよそ許容することができないと思われる場合には,裁量の限界を超えていると解することになる。例えば,地方公務員のうち,地方公共団体の公権力の行使に当たる行為若しくは地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれに関与する者について,解釈上,その就任に日本国籍を有することを必要とするものがあるとされる場合に,地方公共団体がそのような地方公務員にも在留外国人の就任を認めることとしたとき(すなわち,在留外国人への門戸を開放しすぎた場合,換言すれば縦軸の裁量の行使が広すぎた場合)には,裁量の限界を超えていると解することになる。また,逆に,例えば,在留外国人については,その給与を特段の事情もないのに初任給程度に限定することとし,そのような級に相当する職務を専ら行うものと位置付けて地方公務員への就任を認めることとしたような場合(すなわち,門戸の開放が極端に狭い場合,換言すれば縦軸の裁量の行使があまりにも狭すぎる場合)には,在留外国人を蔑視し,在留外国人に苦痛のみを与える制度として,あるいは在留外国人の労働力を搾取する制度として構築したものとして地方公務員制度上のいわば公序良俗に反し,裁量の限界を超えていると解することになろう。
そして,在留外国人の地方公務員への採用につき当該地方公共団体の構築した制度が裁量の限界を超えていないと判断される場合には,在留外国人に対しその制度上許容される範囲を超えた取扱いをしなくても,違法の問題は起きないことになる。なお,その構築した制度の範囲内においては,労働基準法3条や地方公務員法13条の平等取扱いの原則の精神に基づき,在留外国人同士あるいは在留外国人と日本人との間において平等取扱い等の要請が働くことになる。
4 本件においては,上告人は保健婦(当時)について在留外国人の就任を認めることとしたが,課長級以上の管理職についてはこれを認めないこととしたというものであるところ,その制度は,上記に述べたような縦軸の裁量の限界を超えているものではなく,その裁量の範囲内にあるものとして,違法性を帯びることはないというべきである。
したがって,上告人が被上告人に対し平成6年度及び同7年度の管理職選考を受験させなかった措置に違法はないと解すべきである。
裁判官滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
1 私も,外国籍を有する者が我が国の公務員に就任するについては,国民主権の原理から一定の制約があるほか,一定の職に就任するにつき日本国籍を有することを要件と定めることも,法律においてこれを許容し,かつ,合理的な理由がある限り,認めるものである。しかしながら,上告人のように,多数の者が多様な仕事をしている地方公共団体において,その管理職に就く者が,その職務の性質にかかわらず,すべて日本国籍を有しなければならないものとすることには,その合理的根拠を見いだすことはできない。したがって,上告人が管理職選考において日本国籍を有することを受験資格とした措置は,在留外国人である職員に対し国籍のみによって昇任のみちを閉ざしたものであり,憲法14条に由来し,国籍を理由として差別することを禁じた労働基準法3条の規定に反する違法なものであると考える。以下,その理由を述べる。
2(1)国民主権の原理の下では,統治に参加することができるのはその国に帰属する者だけであって,参政権を保障されているのはその国民だけである。そして,国民は統治の担い手となる者を自由に選び得るのであるが,国の主体性の維持及び独立の見地から,統治権の重要な担い手になる者については外国人を排除すべきものとされているのである。
(2)憲法15条1項は,公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利であると定めているが,これは,国民主権の原理に基づいたものであって,権利の性質上この規定による保障は我が国に在留する外国人には及ばないものと解されているのである。
(3)憲法93条2項は,地方公共団体の長,その議会の議員及び法律の定める公務員についてもその地方公共団体の住民が直接選挙すると規定しているが,ここで権利を保障されているのも日本国民に限られている。
我が国実定法も,これに基づいて公務員の選定に関する規定を置いており,地方公共団体についていえば,地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権,被選挙権を国民に限定する(地方自治法11条,18条,19条)ほか,国民にのみ,議会解散請求権,議会の議員,長,副知事若しくは助役,出納長若しくは収入役,選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会委員並びに教育委員会委員の解職請求権などを認めているのである(同法13条)。
しかしながら,我が国憲法は,住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務についてはその地方の住民の意思に基づいて,地方公共団体で処理することを保障していることから,我が国に在留する外国人のうち,その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つ者については,その意思をその地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるため,法律によって,地方公共団体の長,その議員等に対する選挙権を付与することを禁止しているものではないのである(最高裁平成5年(行ツ)第163号同7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号639頁参照)。
コメント