法人格なき社団の当事者能力を認めた最高裁昭和42年

民事訴訟法判例百選第5版 8事件 判例講義民事訴訟法 27事件
家屋明渡等請求事件

最高裁判所第1小法廷判決/昭和41年(オ)第40号

昭和42年10月19日

【判示事項】       法人格のない社団と認められた事例

【判決要旨】       普通地方公共団体の区域に属する特定地域の住民によつて構成される任意団体であつて、当該地方公共団体の下部行政区画でも、財産区でもなく、原判示のような規約に基づいて存続・活動しているもの(原判決理由参照)は、法人格のない社団に当たると解すべきである。

【参照条文】       民法33

             民事訴訟法46

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集21巻8号2078頁

             最高裁判所裁判集民事88号705頁

             判例タイムズ214号146頁

             判例時報500号26頁

【評釈論文】       別冊ジュリスト36号26頁

             別冊ジュリスト71号216頁

             別冊ジュリスト125号220頁

             法学協会雑誌85巻10号76頁

             法学研究(慶応大)41巻12号107頁

             法曹時報20巻1号188頁

             民商法雑誌58巻5号118頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人寺島祐一、家近正直の上告理由第一点について。

 法人格のない社団すなわち権利能力のない社団が成立するためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原理が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要することは、裁判所の判例とするところである(昭和三五年(オ)第一〇二九号、同三九年一〇月一五日第一小法廷判決、民集一八巻八号一六七一頁)。

 原判決の確定するところによれば、被上告人区は、古くより三田市a(市制施行前はa町)b番区通称cと称する地域に居住する住民により、その福祉のため各般の事業を営むことを目的として結成された任意団体であつて、同市aに属する最下部の行政区画でも、また財産区でもなく、区長、区長代理者(副区長)、評議員、組長等の役員の選出、役員会および区民総会の運営(その議決は多数決による)、財産の管理、事業の内容等につき規約を有し、これに基づいて存続・活動しているというのであるから、原審が以上の事実関係のもとにおいて、被上告人区をもつて権利能力のない社団としての実体を有するものと認め、これにつき民訴法四六条の適用を肯定した判断は、上記判例に明らして、正当として是認しうる。論旨は採用できない。

 同第二点について。

 原判決は、所論のように、「上告人先代Aが本件建物について所有権を取得したものではない」ということから、ただちに「Aおよび上告人に所有の意思がなかつた」旨を断定したものではなく、Aが本件建物部分を被上告人区より賃借し、上告人がこれを承継したことを認定したうえで、したがつてAや上告人に所有の意思がなかつたとしたものであることが、判文上、明らかである。よつて、原判決には所論のような違法はなく、論旨は採用できない。

 同第三点について。

 原判決がその認定した事実関係のもとにおいて、賃料の不払いによる賃貸借契約の解除を認めた判断は正当として是認しうる。本件は、上告人の主張自体によつて明らかなように、上告人が賃貸人たる被上告人の本件建物に対する所有権をも否認したものであつて、論旨引用の判例は本件に適切でない。原判決には所論のような違法はなく、論旨は採用できない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官  長部謹吾

            裁判官  入江俊郎

            裁判官  松田二郎

            裁判官  岩田 誠