博多駅取材フィルム事件 最高裁昭和44年決定

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取材フィルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

最高裁判所大法廷決定/昭和44年(し)第68号

昭和44年11月26日

【判示事項】       1、報道および取材の自由と憲法21条

             2、報道機関の取材フィルムに対する提出命令の許容される限度

【判決要旨】       1、報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

             2、報道機関の取材フィルムに対する提出命令の許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、これによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。

【参照条文】       憲法21

             刑事訴訟法99

             刑事訴訟法262

             刑事訴訟法265

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集23巻11号1490頁

             最高裁判所裁判集刑事174号77頁

             裁判所時報534号11頁

             判例タイムズ241号272頁

             判例時報574号11頁

【評釈論文】       警察研究43巻5号111頁

             研修261号7頁

             ジュリスト臨時増刊456号15頁

             別冊ジュリスト31号14頁

             別冊ジュリスト32号142頁

             別冊ジュリスト44号70頁

             別冊ジュリスト51号60頁

             別冊ジュリスト68号80頁

             別冊ジュリスト74号64頁

             別冊ジュリスト85号18頁

             別冊ジュリスト95号122頁

             別冊ジュリスト241号14頁

             捜査研究37巻12号65頁

             時の法令702号44頁

             南山法学17巻1号157頁

             判例タイムズ242号103頁

             別冊判例タイムズ9号84頁

             別冊判例タイムズ10号41頁

             判例評論132号23頁

             法学研究(慶応大)45巻10号147頁

             法曹時報22巻2号234頁

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 

       理   由

 

 本件抗告の趣意は、別紙記載のとおりである。

 抗告人本人らの抗告理由、抗告人代理人弁護士村田利雄の追加理由および抗告人代理人弁護士妹尾晃外二名り理由補充第一について。

 所論は、憲法二一条違反を主張する。すなわち、報道の自由は、憲法が標榜する民主主義社会の基盤をなすものとして、表現の自由を保障する憲法二一条においても、枢要な地位を占めるものである。報道の自由を全うするには、取材の自由もまた不可欠のものとして、憲法二一条によつて保障されなければならない。これまで報道機関に広く取材の自由が確保されて来たのは、報道機関が、取材にあたり、つねに報道のみを目的とし、取材した結果を報道以外の目的に供さないという信念と実績があり、国民の側にもこれに対する信頼があつたからである。然るに、本件のように、取材フイルムを刑事裁判の証拠に使う目的をもつてする提出命令が適法とされ、報道機関がこれに応ずる義務があるとされれば、国民の報道機関に対する信頼は失われてその協力は得られず、その結果、真実を報道する自由は妨げられ、ひいては、国民がその主権を行使するに際しての判断資料は不十分なものとなり、表現の自由と表裏一体をなす国民の「知る権利」に不当な影響をもたらさずにはいないであろう。結局、本件提出命令は、表現の自由を保障した憲法二一条に違反する、というのである。

 よつて判断するに、所論の指摘するように、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

 ところで、本件において、提出命令の対象とされたのは、すでに放映されたフイルムを含む放映のために準備された取材フイルムである。それは報道機関の取材活動の結果すでに得られたものであるから、その提出を命ずることは、右フイルムの取材活動そのものとは直接関係がない。もつとも、報道機関がその取材活動によつて得たフイルムは、報道機関が報道の目的に役立たせるためのものであつて、このような目的をもつて取材されたフイルムが、他の目的、すなわち、本件におけるように刑事裁判の証拠のために使用されるような場合には、報道機関の将来における取材活動の自由を妨げることになるおそれがないわけではない。

 しかし、取材の自由といつても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。

 本件では、まさに、公正な刑事裁判の実現のために、取材の自由に対する制約が許されるかどうかが問題となるのであるが、公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。

 以上の見地に立つて本件についてみるに、本件の付審判請求事件の審理の対象は、多数の機動隊等と学生との間の衝突に際して行なわれたとされる機動隊員等の公務員職権乱用罪、特別公務員暴行陵虐罪の成否にある。その審理は、現在において、被疑者および被害者の特定すら困難な状態であつて、事件発生後二年ちかくを経過した現在、第三者の新たな証言はもはや期待することができず、したがつて、当時、右の現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フイルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。他方、本件フイルムは、すでに放映されたものを含む放映のために準備されたものであり、それが証拠として使用されることによつて報道機関が蒙る不利益は、報道の自由そのものではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるというにとどまるものと解されるのであつて、付審判請求事件とはいえ、本件の刑事裁判が公正に行なわれることを期するためには、この程度の不利益は、報道機関の立場を十分尊重すべきものとの見地に立つても、なお忍受されなければならない程度のものというべきである。また、本件提出命令を発した福岡地方裁判所は、本件フイルムにつき、一たん押収した後においても、時機に応じた仮還付などの措置により、報道機関のフイルム使用に支障をきたさないよう配慮すべき旨を表明している。以上の諸点その他各般の事情をあわせ考慮するときは、本件フイルムを付審判請求事件の証拠として使用するために本件提出命令を発したことは、まことにやむを得ないものがあると認められるのである。

 前叙のように考えると、本件フイルムの提出命令は、憲法二一条に違反するものでないことはもちろん、その趣旨に牴触するものでもなく、これを正当として維持した原判断は相当であり、所論は理由がない。

 抗告人代理人弁護士妹尾晃外二名の理由補充第二について。

 所論は、憲法三二条違反をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張にすぎず、適法な特別抗告の理由にあたらない。

 よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  昭和四四年一一月二六日

    最高裁判所大法廷

        裁判長裁判官  石田和外

           裁判官  入江俊郎

           裁判官  草鹿浅之介

           裁判官  長部謹吾

           裁判官  城戸芳彦

           裁判官  田中二郎

           裁判官  松田二郎

           裁判官  岩田 誠

           裁判官  下村三郎

           裁判官  色川幸太郎

           裁判官  大隅健一郎

           裁判官  松本正雄

           裁判官  飯村義美

           裁判官  村上朝一

           裁判官  関根小郷