真野裁判官反対意見つき職権証拠調義務に関する最高裁昭和33年

刑事訴訟法判例ノート掲載 刑事訴訟法判例百選は5版まで

実務的には真野反対意見で動いているような              自転車競技法違反被告事件

最高裁判所第1小法廷判決/昭和28年(あ)第2324号

昭和33年2月13日

【判示事項】       1、現行刑訴法上裁判所は職権で証拠調をしたり検察官に対して立証を促がしたりする義務があるか

             2、裁判所に検察官に対し証拠の提出を促がす義務があると認められる1場合

             3、審理不尽に基く理由の不備または事実の誤認があつて判決に影響を及ぼすことが明らかな事例

【判決要旨】       1、わが現行刑訴法上、裁判所は、原則として、職権で証拠調をしたり、または検察官に対して立証を促がしたりする義務はない。

             2、しかし、共犯または必要的共犯の関係に立つ者が多数あつて、これらの被告事件がしばしば併合または分離されつつ同一裁判所で審理されているうち、甲を除くその余の被告人等に対する関係では、同人等の検察官に対する供述調書が証拠として提出され、同被告人等に対しては有罪の判決を言い渡したが、残る被告人甲に対する関係では、検察官が不注意によつて右供述調書を証拠として提出することを遺脱していることの明らかなような場合には、裁判所は、少くとも、検察官に対し同供述調書の提出を促がす義務があるものと解するのが相当である。

             3、したがつて、右甲に対する被告事件につき、かかる立証を促がすことなく、直ちに公訴事実を認めるに足る証拠がないとして無罪を言い渡したときは、該判決は審理不尽に基く理由の不備または事実の誤認があつて、その不備または誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。(2、3につき少数意見がある。)

【参照条文】       刑事訴訟法298

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集12巻2号218頁

             最高裁判所裁判集刑事123号281頁

             判例時報142号32頁

【評釈論文】       別冊ジュリスト1号96頁

             別冊ジュリスト32号130頁

             別冊ジュリスト51号132頁

             別冊ジュリスト74号104頁

             別冊ジュリスト89号116頁

             捜査研究38巻10号108頁

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人桃井・次の上告趣意および上告受理申立理由について。

 わが刑事訴訟法上裁判所は、原則として、職権で証拠調をしなければならない義務又は検察官に対して立証を促がさなければならない義務があるものということはできない。しかし、原判決の説示するがごとく、本件のように被告事件と被告人の共犯者又は必要的共犯の関係に立つ他の共同被告人に対する事件とがしばしば併合又は分離されながら同一裁判所の審理を受けた上、他の事件につき有罪の判決を言い渡され、その有罪判決の証拠となつた判示多数の供述調書が他の被告事件の証拠として提出されたが、検察官の不注意によつて被告事件に対してはこれを証拠として提出することを遺脱したことが明白なような場合には、裁判所は少くとも検察官に対しその提出を促がす義務あるものと解するを相当とする。従つて、被告事件につきかかる立証を促がすことなく、直ちに公訴事実を認めるに足る十分な証拠がないとして無罪を言い渡したときは、審理不尽に基く理由の不備又は事実の誤認があつて、その不備又は誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとしなければならない。されば、原判決は、結局正当であつて、所論違憲の主張はその前提を欠き、その余の主張はその理由がなく、すべて、採ることができない。

 よつて、刑訴四一四条、三九六条に従い、主文のとおり判決する。

 この判決は、真野裁判官の反対意見を除くほか、他の裁判官の全員一致の意見によるものである。

 本件に対する裁判官真野毅の意見はつぎのとおりである。

 職権をもつて調査すると、原判決は、第一審における事件の繋属関係、事件の内容および審理の経過にかんがみるときは、なお検察官より提出あつて然るべき重要な証拠のあることが予想されるのに、第一審が進んで検察官に立証を促がすことなく、その証拠を取り調べないで、直ちに犯罪の証明がないとして、被告人に無罪の言渡をしたのは、刑訴法一条の精神を無視したもので、判決に影響を及ぼすべき審理不尽の違法があるとして、第一審判決を破棄したのである。

 現行刑訴法は、当事者主義を本体とし、これに職権主義を加味したものである。刑訴二九八条一項において、〃検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる〃と定めたのは、証拠調における当事者主義の本体を明らかにしたものであり、同二項において、〃裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる〃と定めたのは、証拠調において職権主義が補充的に加味され得ることを明らかにしたものであると解するを相当とする。すなわち、第二項の規定は、裁判所が必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる旨を定めたに過ぎないものであつて、職務として証拠調をしなければならない旨を定めたものと解することはできない(判例集九巻一〇号二一〇五頁参照)。そして、刑訴一条の規定が存在するからといつて、別異の解釈によらなければならぬというものではない。それ故、原判決が所論の事由に基き第一審判決に審理不尽の違法があるとしたのは、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるに帰着し、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるから、上告は理由あるに帰し刑訴四一一条一号を適用して原判決を破棄するを相当とする。そこで、訴訟記録および事実審において取り調べた証拠によつて、被告人が公訴事実の各共謀事実は、これを認めるに足る十分な証拠がないので、被告人に対しては刑訴三三六条により無罪の言渡をすべきである。

 検察官 稲川龍雄公判出席

  昭和三三年二月一三日

     最高裁判所第一小法廷

         裁判長裁判官    真   野       毅

            裁判官    斎   藤   悠   輔

            裁判官    入   江   俊   郎

            裁判官    下 飯 坂   潤   夫