刑法65条1項に共同正犯 業務上横領は二重の身分犯として共犯の処理 最高裁昭和32年

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業務上横領被告事件

 

【事件番号】       最高裁判所第3小法廷判決/昭和30年(あ)第3640号

【判決日付】       昭和32年11月19日

【判示事項】       身分的共犯の処罰

【判決要旨】       村長、助役が収入役と共謀の上、収入役の保管にかかる新制中学校建設資金の寄付金を横領したときは、刑法第65条第1項により同法第253条に該当する共犯となるが、村長、助役は業務上物の占有者たる身分がないから、同法第252条第1項の刑を科すべきものである。

【参照条文】       刑法65

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集11巻12号3073頁

             最高裁判所裁判集刑事122号287頁

【評釈論文】       ジュリスト307の2号88頁

             別冊ジュリスト57号198頁

             別冊ジュリスト82号182頁

             別冊ジュリスト111号188頁

             法学42巻3号122頁

 

       主   文

 

 原判決及び第一審判決を破棄する。

 被告人Aを懲役六月、同Bを懲役四月に処する。

 被告人両名に対し本裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予する。

 第一審における訴訟費用中証人C、同Dに支給した分を除くその余は被告人両名の連帯負担とする。

 

       理   由

 

 弁護人鍛治利一、同浅野伊三郎の上告趣意第一点について。

 原審の是認した第一審判決の認定した判示第一事実は、被告人Aは元稲敷郡a村々長及び同村新制中学校建設工事委員会の工事委員長、同Bは元同村助役及び同工事委員会の工事副委員長として右Aを補佐していたものであるが、当時同村収入役として出納その他の会計事務を掌り、傍ら前示中学校建設委員会の委託を受け同校建設資金の寄附金の受領、保管その他の会計事務を管掌していたEと共謀の上、同人が昭和二四年四月一〇日頃から同年一〇月一一日頃までの間稲敷郡a村F外一九〇余名から学校建設資金として前記工事委員会又はa村に対する寄附金として合計金二三一、五五〇円目を受け取りこれを業務上保管中、該金員中から合計金八一、六四七円を別表記載の如く昭和二四年七月二三日頃から同年一二月頃までの間ほしいままに稲敷郡a村G方外一個所において、同人外一名から酒食等を買い入れてこれが代金として支払い、もつてこれを費消横領したというのであり、挙示の証拠によると、右Eのみが昭和二四年四月一〇日頃より同年八月三〇日までの間右中学校建設委員会の委託を受け同委員会のため、昭和二四年八月三一日より同年一二月頃までの間a村の収入役として同村のため右中学校建設資金の寄附金の受領、保管その他の会計事務に従事していたものであつて、被告人両名はかかる業務に従事していたことは認められないから、刑法六五条一項により同法二五三条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものである。しかし、同法二五三条は横領罪の犯人が業務上物を占有する場合において、とくに重い刑を科することを規定したものであるから、業務上物の占有者たる身分のない被告人両名に対しては同法六五条二項により同法二五二条一項の通常の横領罪の刑を科すべきものである。しかるに、第一審判決は被告人両名の判示第一の所為を単に同法二五三条に問擬しただけで、何等同法六〇条、六五条一項、二項、二五二条一項を適用しなかつたのは違法であり、この違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる(なお、原判決は、所論判例違反の点につき何ら判示をしていないこと判文上明らかであるから、論旨援用の判例と相反する判断をしたものということはできない。)。

 同第二点は、事実誤認の主張であり(かりに、所論の事実に誤認があるとしても、該事実は五五回にわたる総額八一、六四七円の費消横領の事実中の一事実にすぎないものであるから、判決に影響を及ぼさないことが明らかである。)、同第三点は、事実誤認、訴訟法違反の主張を出でないものであつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

 被告人A、同Bの各上告趣意は、いずれも事実誤認、訴訟法違反の主張に帰するものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、第一審判決が証拠に採用している被告人両名の検事に対する供述調書が、強要等にもとづく虚偽のものである旨の事実は、記録上これを認めるに足る事跡が存しない。)。

 職権により調査すると、原審の維持した第一審判決は、被告人Aの判示第二の所為に刑法二五三条を適用しているが、その判文において、同被告人がa村々長また同村新制中学校建設工事委員長として第一審判示金円を保管占有すべき何等かの業務を有していたかの点につき何ら判示するところがないから、通常の横領罪を認定したものと解するの外なく、かかる違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

 よつて刑訴四一一条により原判決及び第一審判決を破棄し、同法四一三条但書に従い被告事件について。更に判決をすることとし、第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人両名の判示第一の所為は、いずれも刑法二五三条、六〇条、六五条、二五二条一項に、被告人Aの判示第二の所為は同法二五二条一項にそれぞれ該当するところ、被告人Aの判示第一及一び第二の各所為は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条に則り犯情が重いと認める判示第一の罪の刑により、各その所定刑期範囲内で被告人Aを懲役六月、同Bを懲役四月に処し、刑の執行猶予につき刑法二五条、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条一項、一八二条を適用して裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

 検察官 稲川龍雄出席。

  昭和三二年一一月一九日

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    小   林   俊   三

            裁判官    島           保

            裁判官    河   村   又   介

            裁判官    垂   水   克   己