宮崎公男裁判長不当判決 税理士の暴走と過少申告課税 東京高裁平成19年

岡村ほか「租税法 3版」36頁 所得税更正処分等取消請求控訴事件

東京高等裁判所判決/平成19年(行コ)第212号

平成19年10月10日

【判示事項】       確定申告に当たり,同申告を税理士に依頼し,その税理士を信頼していたからといって,税務当局に確認をしなかったのは,正に主観的な事情にすぎず,客観的な事情が存在するとはいえないとした事例

【判決要旨】       (1) 我が国の租税法上、法人の所得は法人課税の対象となり、その出資者等である個人の課税所得の範囲には含まれない(所得税法7条(課税所得の範囲)、法人税法5条(内国法人の課税所得の範囲)、9条(外国法人の課税所得の範囲)等参照)。

             (2) 納税義務は、各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されていることから、租税法がそれらを課税要件規定の中に取り込むにあたって、私法上におけるものと同じ概念を用いている場合には、別の意義に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけるものと同じ意義に解するのが、法的安定に資することからすると、租税法上の法人は、民法、会社法といった私法上の概念を借用し、これと同義に解するのが相当である。

             (3) 我が国の租税法上、「法人」に該当するかどうかは、私法上、法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。

             (4) 外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては、基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当である。

             (5)~(9) 省略

             (10) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法65条4項(過少申告加算税)が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい、納税者の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りは、このような場合に当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成18年11月16日第一小法廷判決・裁判所時報1424号1頁参照)。

             (11)~(13) 省略

             (14) 所得税法上、配当所得とは、法人から受ける利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)等に係る所得等をいう(平成18年法律第10号による改正前の同法24条1項(配当所得)。そして、会社からの分配は、会社の正式な決算手続きに基づき利益が分配されたものでなくても、実質的にみてそれが出資者である地位に基づいて受ける利益の分配と見られる限りにおいて、配当所得となるものと解される(最高裁判所昭和43年11月13日大法廷判決・民集22巻12号2449頁参照)。

             (15)~(17) 省略

【掲載誌】        訟務月報54巻10号2516頁

             税務訴訟資料257号順号10798

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】       ジュリスト1361号196頁

             別冊ジュリスト207号44頁

 

       主   文

 

 1 本件各控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

  (1) 原判決を取り消す。

  (2) 被控訴人が控訴人の平成10年分の所得税について平成14年3月1日付けでした更正処分のうち総所得金額6247万4176円,納付すべき税額151万9700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成14年12月18日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

  (3) 被控訴人が控訴人の平成11年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額6670万0339円,納付すべき税額175万6800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  (4) 被控訴人が控訴人の平成12年分の所得税について平成14年3月14日付けでした更正処分のうち総所得金額7071万6993円,納付すべき税額311万3300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成17年4月13日付け減額更正により一部減額された後のもの)を取り消す。

  (5) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

 2 控訴の趣旨に対する答弁

   主文と同旨。

第2 事案の概要

  控訴人は,アメリカ合衆国ニューヨーク州のリミテッド・ライアビリティー・カンパニー法(Limited Liability Company Law。以下「NYLLC法」という。)に基づき組成されたP1・LLC(以下「本件LLC」という。)の行った不動産賃貸業に係る収支及び本件LLC名義の預金利息収入を控訴人の不動産所得及び雑所得として,平成10年分ないし平成12年分の所得税の各確定申告をした。

  これに対し,被控訴人は,本件LLCが行う不動産賃貸業により生じた損益は法人としての本件LLCに帰属するもので,控訴人の課税所得の範囲に含まれないとしてこれを是正し,また,本件LLCが平成10年ないし平成12年に控訴人に対して送金した分配金(以下「本件分配金」という。)は控訴人の配当所得に該当するなどとして,控訴人に対し,上記各年分の所得税に係る更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各加算税賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

  本件は,控訴人が,(1) 本件LLCは我が国の租税法上の法人に該当しないから,本件LLCを外国法人と認めて本件LLCの事業から生じる損益が本件LLCに帰属することを前提としてされた本件各更正処分等は違法である,(2) 仮に本件LLCが我が国租税法上の法人に該当するとしても,本件分配金の一部は出資金の払戻しであり配当所得には当たらないから,本件各更正処分等は違法である,(3) 控訴人には国税通則法(以下「通則法」という。)65条4項の「正当な理由」があるから,本件各加算税賦課決定処分は違法であるなどと主張して,その取消しを求めた事案である。

  原審は,(1)争点1(本件LLCは,我が国租税法上の外国法人に該当するか)について,外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては,基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当であるところ,本件LLCは,NYLLC法上,法人格を有する団体として規定されており,自然人とは異なる人格を認められた上で,実際,自己の名において契約をするなど,控訴人及び控訴人がパートナーシップ契約を結んでいたP2からは独立した法的実在として存在しているから,我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当であるとし,(2)争点2(本件分配金は,控訴人の配当所得に該当するか)について,本件分配金は,これを実質的にみると,本件LLCにおいて,賃貸ビルの市場価額が増加し含み益が生じたことや,不動産賃貸業による利益が計上されたことを背景に,剰余資金をその出資者である控訴人及びP2に利益の配分として分配したものと認めるのが相当であるから,平成10年分ないし平成12年分の本件分配金については,本件LLCが控訴人の出資者である地位に基づいて供与した経済的な利益であり,いずれも控訴人の配当所得に該当するとし,(3)争点3(通則法65条4項の「正当な理由」)について,控訴人において,本件分配金が配当所得に当たると認識し得る余地がなかったとはいえず,控訴人においてこれを所得税額の計算の根拠としなかったことなどについては,真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情があったとまではいえないから,上記「正当な理由」があったということはできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が不服を申し立てた。

  そのほかの事案の概要は,次のとおり訂正し,又は付加するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。

 1 原判決4頁2行目冒頭から同6行目末尾までを次のとおり改める。

  「24条1項(ただし,平成18年法律第10号による改正前のもの) 配当所得とは,法人から受ける利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。),基金利息並びに投資信託及び特定目的信託の収益の分配(以下「配当等」という。)に係る所得をいう。」

 2 原判決9頁1行目の「本格各更正処分等を不服として,」を「本件各更正処分等を不服として,」に改め,同14行目の「次のとおりであり,」の次に「上記計算により控訴人の各納付すべき税額は,」を加え,同17行目の「いずれも適用である。」を「いずれも適法である。」に改める。

 3 原判決18頁4行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「 NYLLC法は,上記のとおり,① 出資金に関する責任(502条),② 損益の分配(503条),③ 分配金の分配(504条),④ 構成員持分の譲渡(603条,604条)及び⑤ 構成員の退会(606条)など,内部関係を構成員間の自由な合意によって決めることができる組合(パートナーシップ)的規律を採用しているところ,原判決は,このようなNYLLC法の規定及び本件LLCのパートナーシップ的な実態を無視して,我が国の私法上の法人該当性の判断基準たる権利義務の帰属主体性を肯定する内容の規定(同法202条)のみを取り上げて,NYLLC法に基づく本件LLCが我が国租税法上の外国法人に該当するか否かを論じているにすぎず,本件LLCの本質は,広範な定款自治が認められ,その運営が構成員間のオペレーティング契約にゆだねられたパートナーシップ的な性格を有している上,パートナーシップ課税が選択されていることからすれば,有限責任とパートナーシップの長所を採用した複合形態と把握するのが妥当であり,本件LLCを我が国私法上(租税法上)の外国法人と認定することは相当でない。」

 4 原判決20頁15行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「 控訴人は,本件LLCがその内部関係の規律において組合的色彩を帯びた事業体である旨の原審での主張を繰り返しているが,外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定については,基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当であるところ,NYLLC法の規定及び本件LLCの実体から本件LLCの法人格性が肯定されるのであるから,控訴人の上記主張は失当である。

    また,本件LLCが設立準拠法であるNYLLC法において,権利,義務の主体となり得る法律上の資格,すなわち法人格が与えられているか否かという問題と,本件LLCが米国においてパートナーシップ課税を選択しているという問題とは,自ずと別個の事柄というべきであるから,控訴人の主張はこの点でも失当である。」

 5 原判決21頁26行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「エ 原判決は,米国におけるLLC及びその構成員の税務申告の実態や,NYLLC法及びこれに基づくオペレーティング契約の規定を無視し,あるいは立証責任の所在を誤って転換させ,本件分配金の法的性質を配当所得に当たると認定しているから,取消しを免れない。すなわち,① 原判決がその認定の根拠とした本件賃貸ビルの市場価額と本件借入金の差額130万ドルが分配可能であることや,本件分配金の分配以降,本件LLCに対し追加出資することがなかったことは,本件分配金の法的性質とは全く関連性がなく,本件分配金の法的性質及び出資金を追加拠出するか否かはオペレーティング契約に基づき構成員の合意によって決定されるものである,② 本件LLCの米国における税務申告書において,当該支出が法的に出資金の払戻しであることを明確にした記載がないのは,パス・スルー課税を採用している米国においては,LLCから構成員への分配金は配当所得とされる余地がなく,出資金の払戻しであることなどの分配金の法的性質まで記載することがそもそも要求されていないからである,③ 控訴人とP2が出資金の払戻しを受けたとしても,控訴人はマネジメント会社に本件LLCの日常的な管理をゆだねながらも,重要な意思決定は自ら行うなどして本件LLCの経営を担い,出資金に代わる労務を提供しているから,出資金払戻し後においても,控訴人が本件LLCに対して従前どおりの権利義務を有していると考えていたとしても,むしろ当然のことである,なお,NYLLC法によれば,オペレーティング契約に基づくものである限り,払戻しにより当該構成員の資本金勘定がマイナスとなっても許容され(503条),また,構成員の拠出義務不履行分からの制約は生じない(504条)ものとされている,④ P2の陳述書(甲6)や控訴人に対する質問調書(乙17)によれば,控訴人やP2は,本件賃貸ビル事業を始めるに当たって当初に出資した資金の回収を何よりも念頭に置いていたものであり,仮に控訴人やP2が本件LLCから本件分配金を取得する時点において,その法的性質について明確な認識がなかったとしても,税務申告の際に,出資金の払戻しとして処理することは何ら矛盾することではない,⑤ 原判決は,あたかも配当所得でないこと(出資の払戻しであること)の立証責任が控訴人にあるかのような判断をしており,立証責任の所在についての誤った見解の下に控訴人の主張を排斥している。」

 6 原判決22頁5行目から同6行目にかけての「最高裁昭和43年11月13日判決,」を「最高裁判所昭和43年11月13日大法廷判決・民集22巻12号2449頁,」に,同10行目から同11行目にかけての「最高裁昭和35年10月7日判決参照」を「最高裁判所昭和35年10月7日第二小法廷判決・民集14巻12号2420頁参照」にそれぞれ改める

 7 原判決23頁16行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「オ 控訴人は,本件賃貸ビルの市場価額と本件借入金の差額130万ドルが分配可能であることと分配金の法的性質は異なる旨主張するが,本件分配金は,原判決が認定したとおり,実質的にみると,本件LLCにおいて,本件賃貸ビルの市場価額が増加し含み益が生じたことや,不動産賃貸業による利益が計上されたことを背景に,剰余資金をその出資者である控訴人及びP2に利益の配分として分配したといえるものである。

     また,控訴人は,本件分配金の分配以降,本件LLCに対し追加出資することがなかったことも,本件分配金の法的性質と全く関連性がなく,本件分配金の法的性質及び出資金を追加拠出するか否かはオペレーティング契約に基づき構成員の合意によって決定される旨主張するが,そもそも控訴人は,審査請求時及び訴え提起の段階では,P2からの送金をP3からの融資金の一部の保管,運用を託されたにすぎないもので,P2からの要請があり次第,この金員は本件LLCに返還されるべきであると主張しており,当初から出資金の返還であるとは主張してはいなかったものである。そして,平成10年の分配金は出資金の返還部分とそれ以外の分に分けられていなかったことからすれば,本件分配金受領時にP2との間で同分配金が出資金の返還である旨の合意があったとは到底考えられない。

     さらに,NYLLC法503条はLLCの損益の分配を,また,同法504条はLLCの現金又はその他の資産の分配を,オペレーティング契約がある場合にはそれに従ってそれぞれを配分する旨定め,オペレーティング契約がない場合には,その損益又は分配の配分につき,各構成員の出資金から拠出義務不履行を除いた価額に基づいて配分する旨を定めた規定であって,控訴人が主張するような出資金の払戻しがオペレーティング契約に基づくものである限り許容される旨を定めた規定ではない。また,本件オペレーティング契約には出資金の拠出,利益及び損失の分配を定めた規定はあるが,出資金の払戻しに関しての分配については何ら規定されていない。

     なお,控訴人は,本件LLCから分配金を取得する時点において,その法的性質について明確な認識がなかったとしても,本件LLCの米国における税務申告の際,出資金の払戻しとして処理することは矛盾がない旨主張するが,控訴人は,前記のとおり,本件LLCの米国における税務申告では,本件分配金を出資金の払戻しとして処理することを要しないとも主張しているから,控訴人の上記主張には矛盾があり失当である。

     被控訴人は,原審において,本件各更正処分等の根拠及び本件分配金が控訴人の配当所得になることを主張・立証したから,控訴人が,平成10年分の分配金25万ドル中,21万3847ドルが出資金の返還である旨主張するのであれば,当該主張に係る立証を控訴人が行うのは当然のことであり,原判決においては,控訴人の反証としての立証が足りずにその主張が排斥されたにすぎない。」

 8 原判決24頁18行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「 控訴人は,平成10年4月に本件賃貸ビルに係る共同事業の形態をパートナーシップから本件LLCへと変更した際も,チェック・ザ・ボックス規制の下,パス・スルー課税を選択したことによって,米国における課税状況はそれ以前と全く変更がなかったものであり,組織変更によって有限責任のメリットを享受したにすぎない控訴人が,税理士に納税申告の依頼をして納税についての指導に従うだけでは足りず,更に我が国の税務上何らかの変化があり得ることまで想定して税務当局に税務指導を求めることまで要求するのは酷に過ぎるというべきである。

    また,仮に控訴人が平成10年の時点で税務当局に税務指導を仰いでいたとしても,税務当局内部においては平成13年3月の時点でもLLCが我が国租税法上の外国法人に該当するとの認識が周知,徹底されていなかったと考えられることなどからすれば,税務当局が控訴人に対してLLCの我が国の税務上の取扱いに関して適正な税務指導をすることができたとは到底思えないから,本件においては,控訴人の責めに帰することができない客観的事情があったというべきである。」

 9 原判決25頁24行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

  「 税務当局は,本件各確定申告に当たり,控訴人の判断を誤らせるような公的見解又は納税指導などを行ったことはなく,控訴人の適正な申告を妨げるものはなかったから,控訴人において本件分配金が配当所得に当たると認識し得る余地がなかったということはできない。

    また,控訴人が本件各確定申告に当たり,同申告を税理士に依頼し,その税理士を信頼していたからといって,控訴人が税務当局に確認をしなかったのは,正に主観的な事情にすぎず,真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情が存在するとはいえない。

    なお,控訴人は,税務当局が控訴人に対し,LLCの我が国の税務上の取扱いに関し,適正な税務指導をすることができたとは到底思えないと主張するが,控訴人の推測に基づいたものであって,何ら根拠はなく失当である。

    控訴人は,過少申告とならない申告をする契機が与えられていたにもかかわらず,主観的な事情を基にした自らの解釈に基づき本件各確定申告をしたことが明らかである。」

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加し,又は訂正するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。

  (1) 原判決30頁13行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

   「 控訴人は,NYLLC法が,① 出資金に関する責任(502条),② 損益の分配(503条),③ 分配金の分配(504条),④ 構成員持分の譲渡(603条,604条)及び⑤ 構成員の退会(606条)など,内部関係を構成員間の自由な合意によって決めることができる組合(パートナーシップ)的規律を採用しているから,本件LLCを我が国私法上(租税法上)の外国法人と認定することは相当でない旨主張する。

     確かに,NYLLC法には,その内部関係について,アグリーメント契約において別段の定めをすることができる旨の規定が存在しているものの,他方で,前記のとおり,NYLLC法に基づいて設立されるLLCは,その名において訴訟手続等の当事者となることができ(202条a項),不動産や動産を取得し(同条b項),その財産又は資産の全部又は一部を処分すること(同条c項)ができ,さらに,証券に係る取引,種々の契約の締結(同条d,e項)に加えて,同条f項ないしq項に規定される行為を行う広範な権能を有していることが認められ,NYLLC法に基づき設立された本件LLCの本件オペレーティング契約にも,その名において訴訟当事者になり,財産を取得,処分し,契約を締結する権能を有し,訴訟手続の当事者となることや財産を所有することを前提とした規定があり,本件LLCは,自然人とは異なる人格を認められた上で,実際にも,その名において,財産を所有,管理し,契約を締結するなど,控訴人及びP2からは独立した法的実在として存在しているのであるから,我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当であって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

     なお,控訴人は,本件LLCがパートナーシップ課税を選択していることをもって,本件LLCを我が国私法上(租税法上)の外国法人と認定することは相当でないとも主張するが,前記のとおり,米国においては平成9年にいわゆるチェック・ザ・ボックス規則が施行され,LLCは,法人としての課税を受けるか,パートナーシップとしての課税を受けるか否かを選択できるようになっていたのであるから,上記選択の結果自体によって,本件LLCがその設立準拠法であるNYLLC法において,権利,義務の主体となり得る法律上の資格,すなわち法人格が与えられているか否かの判断基準になるものとはいえないから,控訴人の上記主張も理由がない。」

  (2) 原判決32頁1行目の「本件LLCの構成員して,」を「本件LLCの構成員として,」に,同33頁17行目から同18行目にかけての「△109万4708円であった」を「△109万4708ドルであった」にそれぞれ改め,同19行目の「配当所得とは,」から同22行目の「(同法24条1項)。」までを「配当所得とは,法人から受ける利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。)等に係る所得をいう(平成18年法律第10号による改正前の同法24条1項)。」に改める。

  (3) 原判決35頁8行目冒頭から同15行目末尾までを次のとおり改める。

   「エ また,本件オペレーティング契約には出資金の拠出,利益及び損失の分配について定めた規定はあるが,出資金の払戻しに関しての分配については何ら規定がない上,本件記録上,控訴人がP2との間で,平成10年の分配時において,本件分配金のうち21万3847ドルが出資金の払戻しであることを明示的に合意したことを認めるに足りる的確な証拠はない。」

  (4) 原判決36頁9行目冒頭から同11行目の「12ないし14)。」までを「同勘定の動きを要約した部分(Partners’ Capital Account Summary)において,本件分配金は,払戻し(Withdrawals)として記載されていることが認められる(乙12ないし14の各1・2)。」に改める。

  (5) 原判決37頁10行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

   「 控訴人は,原判決がその認定の根拠とした本件賃貸ビルの市場価額と本件借入金の差額130万ドルが分配可能であることや,本件分配金の分配以降,本件LLCに対し追加出資することがなかったことは,本件分配金の法的性質とは全く関連性がなく,本件分配金の法的性質及び出資金を追加拠出するか否かはオペレーティング契約に基づき構成員の合意によって決定されるものであると主張する。

     しかしながら,本件分配金は,前記認定のとおり,実質的にみると,本件LLCにおいて,本件賃貸ビルの市場価額が増加し本件借入金の借入れ時には230万ドル以上の含み益が生じたことや,平成10年ないし平成12年の間に不動産賃貸業による利益として合計20万5281ドルが計上されたことを背景に,剰余資金をその出資者である控訴人及びP2に利益の配分として分配(distribution)したといえるものである。そして,本件LLCの平成10年(1998年)の勘定科目一覧表(乙11)においては同年4月27日本件LLCから控訴人に対する分配(distribution)として25万ドルが支払われたこと,P2も,同年8月28日,控訴人に対して送信したファックスにおいて,3つの提案をする中で,控訴人に対する分配(distribution)として25万ドルを支払った旨記載していること(乙17の6枚目),この分配金について,出資金の返還部分とそれ以外の分に分けられた形跡もないこと,控訴人本人も,『1つ1つのものが,これがすべて出資金の返還に当たるとか,これが要するに現地で稼得した私のその年度分の収入であるとか,細かくは突き合わせてはおりません。』として,平成10年の分配金は出資金の返還部分とそれ以外の分に分けられていなかったことを認める供述をしていることからすれば,上記分配金受領時にP2と控訴人との間で同分配金が出資金の返還である旨の合意がされたものと認めることはできない。また,本件オペレーティング契約には出資金の拠出,利益及び損失の分配を定めた規定はあるが,出資金の払戻しに関しての分配については何ら規定されていない。なお,控訴人は,審査請求時及び訴え提起の段階においては,P2からの上記送金についてP3からの融資金の一部の保管,運用を託されたにすぎず,P2からの要請があり次第,この金員は本件LLCに返還されるべきであると主張しており,この段階では出資金の返還であると主張していなかったものであって,その主張は首尾一貫したものとはいえず,この点でも,P2との合意によって,出資金の返還がされたとの上記主張は根拠に乏しいものというほかない。

     また,控訴人は,控訴人とP2が出資金の払戻しを受けたとしても,同人らはマネジメント会社に本件LLCの日常的な管理をゆだねながらも,重要な意思決定は自ら行うなどして本件LLCの経営を担い,出資金に代わる労務を提供しているから,出資金払戻し後においても,控訴人が本件LLCに対して従前どおりの権利義務を有していると考えていたとしても,むしろ当然のことであると主張するが,本件オペレーティング契約には出資金の払戻しに関する規定がなく,本件において,控訴人が本件分配金を受領した当時,それが出資金の払戻しであることが合意されたものといえないことは前記のとおりであり,また,控訴人が本件LLCの経営を担い,出資金に代わる労務を提供していることを前提に,出資金の払戻しをすることが合意された形跡もないから,控訴人の上記主張は理由がない。

     なお,控訴人は,NYLLC法によれば,オペレーティング契約に基づくものである限り,払戻しにより当該構成員の資本金勘定がマイナスとなっても許容され(503条),また,構成員の拠出義務不履行分からの制約は生じない(504条)ものとされているとも主張するが,NYLLC法503条はLLCの損益の分配について,また,同法504条はLLCの現金又はその他の資産の分配について,オペレーティング契約がある場合にはそれに従ってそれぞれを配分する旨定め,オペレーティング契約がない場合にはその損益又は分配の配分につき,各構成員の出資金から拠出義務不履行を除いた価額に基づいて配分する旨を定めているものの,控訴人が主張するような出資金の払戻しがオペレーティング契約に基づくものである限り払戻しにより当該構成員の資本金勘定がマイナスとなっても許容されることなどを定めているということはできないから,控訴人の上記主張も理由がない。

     控訴人は,控訴人やP2は,本件賃貸ビル事業を始めるに当たって当初に出資した資金の回収を何よりも念頭に置いていたものであり,仮に控訴人やP2が本件LLCから本件分配金を取得する時点において,その法的性質について明確な認識がなかったとしても,税務申告の際に,出資金の払戻しとして処理することは何ら矛盾することではないと主張するが,控訴人は,前記のとおり,本件LLCの米国における税務申告書において当該支出が法的に出資金の払戻しであることを明確にした記載がないのは,出資金の払戻しであることなどの分配金の法的性質まで記載することがそもそも要求されていないからであるとも主張しており,この指摘には理由があると考えられるが,そうすると,税務申告の際に,出資金の払戻しとして処理したことを前提とする上記主張も理由がないものというほかない。そして,本件において,控訴人及びP2は分配金が利益の分配であるのか,出資金の払戻しであるのかをさほど意識することなく,本件LLCに資金の分配をさせていたことがうかがわれることは前記のとおりであって,P2の控訴人に対するファックス(乙10の1・2)において,『実質的にP2(控訴人)は,当初出資した42万7694ドルを全額回収し,netproceed として3万6153ドルを得たことになります。つまり,投資のリスクはゼロとなりました。』と記載しているのも,本件LLCから控訴人に対する分配がされたことによって,実質的に控訴人が当初投資した額を超える額の分配がされたことを述べたにすぎないと理解すべきものであるから,控訴人の上記主張も採用の限りでない。

     控訴人は,原判決が,あたかも配当所得でないこと(出資の払戻しであること)の立証責任が控訴人にあるかのような判断をしており,立証責任の所在についての誤った見解の下に控訴人の主張を排斥していると主張するが,本件においては,被控訴人が,本件各更正処分等の根拠及び本件分配金が控訴人の配当所得になることについて主張・立証をしており,これに対し,控訴人が,平成10年分の分配金25万ドル中,21万3847ドルが出資金の返還であって,配当所得ではない旨主張したものの,配当所得ではないことについて反証が足りないため,控訴人の主張が排斥されたにすぎないものであるから,控訴人の上記主張を採用することはできない。」

  (6) 原判決39頁8行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。

   「 控訴人は,平成10年4月に本件賃貸ビルに係る共同事業の形態をパートナーシップから本件LLCへと変更した際も,チェック・ザ・ボックス規制の下,パス・スルー課税を選択したことによって,米国における課税状況はそれ以前と全く変更がなかったものであり,組織変更によって有限責任のメリットを享受したにすぎない控訴人が,税理士に納税申告の依頼をして納税についての指導に従うだけでは足りず,更に我が国の税務上何らかの変化があり得ることまで想定して税務当局に税務指導を求めることまで要求するのは酷に過ぎるというべきであると主張する。

     しかしながら,上記のとおり,控訴人及びP2は,本件パートナーシップを本件LLCに転換することによって,本件賃貸ビルに係る共同事業について,有限責任を享受できるようになるとともに,本件LLCに係る契約書等では,本件LLCが当事者となり,本件オペレーティング契約7条には,本件LLCが本件賃貸ビルを所有する旨の規定があることなどに照らすと,控訴人において,パートナーシップからLLCへ本件賃貸ビルに係る共同事業の形態を変更するに当たって,日本の税務上何らかの変化があり得ることを想定できなかったということはできないものであり,米国における課税についてパス・スルー課税の選択がされたからといって,我が国における課税が同様のものと信ずることに客観的な理由があるということはできない。確かに,控訴人は,前記のとおり,本件各更正処分等に係る税務調査にも極めて協力的であったことがうかがわれるところであるが,前記のとおり,過少申告加算税は,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であって,違反者の意図を問うことなく,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであるから,控訴人について過少申告による納税義務違反の事実があること自体を否定することができないことはもとより,控訴人が本件各確定申告に当たり,同申告を税理士に依頼し,その税理士を信頼していたからといって,控訴人が税務当局に確認をしなかったのは,正に主観的な事情にすぎず,真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情が存在するとはいえない。

     また,控訴人は,仮に控訴人が平成10年の時点で税務当局に税務指導を仰いでいたとしても,税務当局内部においては平成13年3月の時点でもLLCが我が国租税法上の外国法人に該当するとの認識が周知,徹底されていなかったと考えられることなどからすれば,税務当局が控訴人に対してLLCの我が国の税務上の取扱いに関して適正な税務指導をすることができたとは到底思えないから,本件においては,控訴人の責めに帰することができない客観的事情があったというべきであるとも主張する。

     しかしながら,国税庁は,平成13年,そのホームページ上で米国LLCを法人として取り扱う旨公表しており(乙9),それ以前においても,税務当局が米国のLLCを我が国の税務上法人として取り扱わない旨の公的見解を示した形跡はなく,控訴人に対し,そのような前提に基づいた納税指導が行われたこともうかがえない上,控訴人は,前記のとおり,本件各確定申告をするに当たり,LLCの我が国の税務上の取扱いについて,税務当局等に確認したことはないのであるから,税務当局がLLCの我が国の税務上の取扱いに関して適正な税務指導をすることができたとは到底思えないとの上記主張は,控訴人の推測に基づくものというほかないものであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。」

 2 以上のとおりであって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第20民事部

        裁判長裁判官  宮崎公男

           裁判官  山本 博

           裁判官  今泉秀和