大須賀欣一裁判長決定 任意同行と逮捕 富山地決昭和54年

刑事訴訟法判例百選 第10版5事件

勾留請求却下に対する準抗告事件

富山地方裁判所決定/昭和54年(む)第162号

昭和54年7月26日

【判示事項】       任意同行後の被疑者の取調べを、その時間、看視状況等から実質的逮捕と認め、所定時間内の勾留請求があつても勾留は許されないとして、勾留請求却下の原裁判を相当とした事例

【参照条文】       刑事訴訟法198

             刑事訴訟法199

             刑事訴訟法203

             刑事訴訟法205

             刑事訴訟法207

             刑事訴訟法60

             刑事訴訟法429

             警察官職務執行法2-2

【掲載誌】        判例タイムズ410号154頁

             判例時報946号137頁

             刑事裁判資料236号140頁

【評釈論文】       別冊ジュリスト74号12頁

             別冊ジュリスト89号14頁

             別冊ジュリスト119号14頁

             別冊判例タイムズ11号36頁

 

       主   文

 

 本件準抗告の申立を棄却する。

 

       理   由

 

第一 本件準抗告申立の趣旨及び理由

  〈省略〉

第二 当裁判所の判断

 一 一件記録によれば、つぎの事実が認められる。

  1 昭和五四年七月二三日午前七時一五分ころ、被疑者は出勤のため自家用車で自宅を出たところを警察官から停止を求められ、

 「事情を聴取したいことがあるので、とにかく同道されたい」旨同行を求められた。被疑者が自家用車でついていく気配をみせると、警察官が警察の車に同乗すること、被疑者の車は警察官が代わつて運転していく旨説明したので被疑者はいわれたとおり警察用自動車に同乗して同日午前七時四〇分ころ富山北警察署に到着した。

  2 同署刑事課第一取調室において、ただちに被疑者の取調が開始され、昼、夕食時に各一時間など数回の休憩をはさんで翌二四日午前零時すぎころまで断続的に続けられた。その間取調室には取調官のほかに立会人一名が配置され、休憩時あるいは取調官が所用のため退出した際にも同人が常に被疑者を看視し、被疑者は用便のときのほかは一度も取調室から外に出たことはなく、便所に行くときも立会人が同行した。

  3 他方、捜査官は同日午後一〇時四〇分富山地方裁判所裁判官に対し、通常逮捕状の請求をなし、その発布をえて、翌二四日午前零時二〇分ころこれを執行した。そして同日午後三時五〇分、右事件は富山地方検察庁検察官に送致され、同庁検察官は同日午後七時一五分富山地方裁判所裁判官に対し、勾留請求をなしたが、同月二五日同裁判所裁判官は、「先行する逮捕手続に重大な違法がある」との理由で右請求を却下する旨の裁判をなした。

 二 以上の事実によると、当初被疑者が自宅前から富山北警察署に同行される際、被疑者に対する物理的な強制が加えられたと認められる資料はない。しかしながら、同行後の警察署における取調は、昼、夕食時など数回の休憩時間を除き同日午前八時ころから翌二四日午前零時ころまでの長時間にわたり断続的に続けられ、しかも夕食時である午後七時ころからの取調は夜間にはいり、被疑者としては、通常は遅くとも夕食時には帰宅したいとの意向をもつと推察されるにもかかわらず、被疑者にその意思を確認したり、自由に退室したり外部に連絡をとつたりする機会を与えたと認めるに足りる資料はない。

 右のような事実上の看視付きの長時間の深夜にまで及ぶ取調は、仮に被疑者から帰宅ないし退室について明示の申出がなされなかつたとしても、任意の取調であるとする他の特段の事情の認められない限り、任意の取調とは認められないものというべきである。従つて、本件においては、少なくとも夕食時である午後七時以降の取調は実質的には逮捕状によらない違法な逮捕であつたというほかはない。

 三 本件においては逮捕状執行から勾留請求までの手続は速かになされており実質逮捕の時点から計算しても制限時間不遵守の問題は生じないけれども、約五時間にも及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義違反の違法は、それ自体重大な瑕疵であつて、制限時間遵守によりその違法性が治ゆされるものとは解されない、けだし、このようなことが容認されるとするならば、捜査側が令状なくして終日被疑者を事実上拘束状態におき、その罪証隠滅工作を防止しつつ、いわばフリーハンドで捜査を続行することが可能となり、令状主義の基本を害する結果となるからである。

第三 結論

 以上の事実によれば、本件逮捕は違法であつてその程度も重大であるから、これに基づく本件勾留請求も却下を免れないものというべきである。とすれば本件勾留請求を却下した原裁判は相当であり、本件準抗告の申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を各適用して、主文のとおり決定する。

 (大須賀欣一 福井欣也 杉森研二)